資料(専)11-4


放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物処理処分の
検討状況について






平成9年7月25日



目  次



はじめに

1.審議対象廃棄物の発生状況

2.発生量と放射能濃度の推定
  2.1 推定のための前提条件
  2.2 発生量予測
  2.3 主要な放射性核種と放射能濃度

3.我が国の低レベル放射性廃棄物処分の考え方
  3.1 処分の基本的な考え方
  3.2 浅地中処分の安全確保の考え方

4.処分に関する調査研究状況
  4.1 我が国における調査研究状況
  4.2 海外の事例

5 処分方策の検討の方向性





はじめに

 平成8年6月、日本原子力発電㈱東海発電所が平成10年3月末を目途に運転を終了することが発表された。その後4~5年で使用済燃料を搬出し、系統除染の後、5~10年程度の安全貯蔵を経て解体撤去される計画であり、廃止措置に伴って炉内構造物等の放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物が発生する。また、運転中の原子力発電施設においても、制御棒等の同様の放射性廃棄物が発生しており、現在は施設内に保管されている。

 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち、このように放射能濃度の高いものの処理処分方策及び放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物の区分値(クリアランスレベル)については、現在、制度が確立されていないが、前者については原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会において、後者については原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会において、それぞれ検討を行っているところである。(表-1参照)

 放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物分科会(仮称)は、炉内構造物、制御棒等の放射能濃度の高い低レベル放射性廃棄物の処理処分に関する事項の審議に資するため、平成9年5月に原子力バックエンド対策専門部会の下に設置された。本資料は、今日まで3回開催された本分科会における検討状況について、取りまとめたものである。

1. 審議対象廃棄物の発生状況

商用原子力発電炉や試験研究炉等で発生する低レベル放射性廃棄物の中には、燃料の近傍に位置していたため、中性子照射による放射化の程度が大きくなるなど、βγ核種*1濃度が高くなったものがある。その主なものを以下に示す。
(図-1~6参照)

(1)商用原子力発電炉
 a.運転に伴い発生
    制御棒(BWR、PWR)
    チャンネルボックス(BWR)
    バーナブルポイズン(PWR)
    一次系の使用済樹脂の一部(BWR、PWR) 等

 b.解体等に伴い発生
    炉内構造物の一部(BWR、PWR、GCR)
    黒鉛(GCR)
    原子炉容器廻りのコンクリートの一部(PWR、GCR) 等

(2)試験研究炉
 a.運転に伴い発生
    制御棒 等

 b.解体等に伴い発生
    炉内構造物の一部 等

これらはほとんどが放射化された金属(ステンレス鋼等)であるが、原子炉冷却材の浄化に使用した一次系の使用済樹脂のように汚染によるものもある。
なお、いずれもβγ核種濃度は高いが、低レベル放射性廃棄物埋設施設において埋設処分を実施中または計画中のものと物理的・化学的性状に大きな差は見られない。


*1βγ核種:α線に比べ透過力の強いβ線、γ線を主に放出する核種であって、人体への影響の観点からは
      主に外部被ばくで問題となる。半滅期が短いものが多い。


2.発生量と放射能濃度の推定

2.1 推定のための前提条件

 発生量及び放射能濃度の推定にあたっての主な前提条件は、以下のとおり。

 1)商用原子力発電炉の2030年までの設備容量は、平成6年の原子力長期計画を基に設定した。
 2)商用原子力発電炉の運転年数は軽水炉40年、ガス炉30年と仮定した。
 3)試験研究炉については運転時間を一律に設定せず、現時点で解体した場合の制御棒及び炉内構造物の量をそのまま当該廃棄物の発生量とした。

2.2 発生量予測

商用原子力発電炉及び試験研究炉における審議対象廃棄物の発生量を、前項のような一定の前提条件で試算すると2030年時点では約2万m3となり、そのほとんどは商用原子力発電炉で発生するものと推定される。

2.3 主要な放射性核種と放射能濃度

今回の審議対象廃棄物は、ほとんどが中性子照射により放射化したステンレス鋼等であるので、これに含まれる主要な核種としては、低レベル放射性廃棄物埋設施設において埋設処分を実施中または計画中の放射性廃棄物に含まれるものと同様、14C(半減期:5730年)、60Co(半減期:5.3年)、63Ni(半減期:100年)、90Sr(半減期:28.6年)、137Cs(半減期:30.1年)等である。
 原子力発電所や原研JPDRの運転状況等を考慮した放射化計算等を行い、平均放射能濃度とその経時変化を求めた試算例を図-7に示す。βγ核種については、その平均濃度は現行の政令濃度*2をおおよそ1桁上回るものと推定されるが、TRU核種を主体とするα核種*3については、現行の政令濃度を下回るものと推定される。また、放射能濃度は、現行の低レベル放射性廃棄物と同様に時間とともに減衰する結果が得られている。

*2政令濃度:現行の原子炉等規制法施行令第13条の9に定められ、容器に固型化した放射性廃棄物を埋
      設する時以外において超えないこととされている放射能濃度。コンクリートピットのよる
      浅地中埋設処分において適用されているもの。
*3α核種 :α線を主に放出する核種あって、人体への影響の観点からは主に内部被ばくで問題となる。
      半減期が長いものが多い。


3. 我が国の低レベル放射性廃棄物処分の考え方

3.1 処分の基本的な考え方

 低レベル放射性廃棄物の陸地処分については、「放射能が時間の経過に伴って減衰し、人間環境への影響が十分に軽減されるまでの間、固化体、ピット等の人工バリアと、土壌等の天然バリアを組み合わせ、放射能レベルに応じた管理を行うことによって、放射性廃棄物を安全に人間環境から隔離することを基本的考え方とする」(「放射性廃棄物処理処分方策について(中間報告)」、原子力委員会、昭和59年8月)とされている。

3.2 浅地中処分の安全確保の考え方

現在、我が国において実施されている低レベル放射性固体廃棄物(均質・均一固化体)の浅地中処分の安全確保については、昭和60年の原子力安全委員会報告「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基本的考え方について」を受け、昭和61年の原子力安全委員会の「低レベル放射性廃棄物の陸地処分の安全規制に関する基準値について(中間報告)」において、以下のとおり述べられている。

「(1)原子力発電所等において発生する低レベル放射性固体廃棄物の浅地中処分においては、放射性廃棄物に含まれる放射能が時間の経過に伴って減衰し、放射能レベルが被ばく管理の観点からは拘束することを考慮する必要がなくなるまでの間、廃棄体、ピット等の構築物、周辺土壌の特性等を組合せ、放射能レベルに応じた段階的管理を行うことによって、安全が確保される。
 従って、安全確保のために、廃棄体、ピット等に一定の要件が課せられるのと同時に、浅地中処分することができる放射性廃棄物の放射能レベル、すなわち、放射能濃度に上限が設けられる。

(2)この濃度上限値は、具体的な処分場所の自然条件のデータ(地質、水文、地勢、気候等について実測や観測で得られたデータ)、計画された処分方法、処分量、管理期間等を基に、一定の安全評価の考え方に従って、処分される放射性廃棄物の放射性核種に起因する被ばく線量を評価した上で個々の処分場ごとに決まるものである。
   すなわち、

1)管理が行われている期間中に対しては、それぞれの段階に想定される被ばく経路について、一般公衆の被ばく線量評価を行い、現行法令(当時)の周辺監視区域外の許容被ばく線量年間 500ミリレム(5ミリシーベルト)を超えないことは勿論のこと、ALARA*4の考え方に基づき、これを合理的に達成できる限り低減させること。

2)管理が行われる期間の経過後以降に対しては、放射性廃棄物の処分場としての管理を行わない場合に想定される被ばく経路について、処分された放射性廃棄物の放射能濃度の管理期間中における放射性崩壊による減衰等を考慮した上で被ばく線量評価を行い、一般公衆の受けるおそれのある被ばく線量が、被ばく管理の観点からは処分場を管理することを必要としない低い線量となることが有意に期待できること。

のふたつの条件を満たす必要があり、個々の処分場において浅地中処分することのできる放射性廃棄物の放射能濃度は、これらの条件によってその上限値が設定されることとなる。 」


 このような考え方に基づき、現行の低レベル放射性廃棄物の浅地中処分では、操業中についてはスカイシャインγ線、管理期間経過後については、処分場への住居建設、処分場での人間の居住、地下水による放射性核種の地中移行に伴う被ばくをそれぞれ想定し、これらの評価シナリオに基づき、具体的な濃度上限値が設定されている(図ー8)。

*4ALARA:ICRPの1997年勧告において述べられている、放射線被ばくに関する考え方で、
       as low as reasonably achievable(合理的に達成できる限り低く)の略。

4 処分に関する調査研究状況

4.1 我が国における調査研究状況

 国及び関係機関は、今回の審議対象廃棄物の処理処分を安全かつ合理的に実施する上で必要な調査研究を実施し、当該廃棄物の処分概念を検討している。現行の低レベル放射性廃棄物浅地中処分の評価シナリオを参考にして検討したところでは、天然バリアによる放射性核種の移行抑制と当該廃棄物への人間接近の可能性の低減とが期待できるやや深い地下に処分を行うことにより、一定の管理期間を経過した後は公衆の被ばく線量を管理することを必要としない低い線量とすることができる見通しが得られている。

4.2 海外での処分事例

(1) 処分場について
 海外で操業中または計画中の処分場のうち、今回の審議対象廃棄物に相当する放射性廃棄物を処分する施設の形態は、主にトンネル型かサイロ型である。また、処分深度としては60mから1000m程度までの幅広い分布になっているが、これは再処理等により発生するTRU核種を含む放射性廃棄物を同じ施設に処分したり、既存の廃坑を利用していること等による。このうち、現在既に操業中で発電所廃棄物を主に処分する施設としてはスウェーデンのSFRやフィンランドのVLJがあるが、これらの深度は60~100m程度である。(表-2参照)
 ドイツは、基本的に廃坑を利用したものであり、MORSLEBEN(岩塩採掘坑を利用した処分場)もかなり深くなっているが非発熱性のTRU核種を含む廃棄物等も対象とした処分場である。(表-1参照)  なお、計画中ではあるが英国のNIREXやドイツのKONRADは再処理工場から発生するTRU核種を含む放射性廃棄物も処分対象としており、廃棄物の放射能の核種組成を考え、処分深度が1000m前後となっている。

(2)廃棄物処分容器について
 現在、我が国の低レベル放射性廃棄物埋設施設で使用されている処分容器と同様の200リットルドラム缶のほか、大型の角型容器に固型化した事例も多い。

5 処分方策の検討の方向性

 今回の審議対象廃棄物は、βγ核種濃度は高いもののα核種濃度は低いものであり、含まれる放射能は時間の経過に伴って減衰する。従って、昭和59年の原子力委員会報告、昭和60年及び昭和61年の原子力安全委員会報告において示されている、現行の低レベル放射性廃棄物処分の考え方、

1)人工バリアと天然バリアを組み合わせ、放射性廃棄物に含まれる放射能の減衰に応じた段階的な管理を行う。

2)このため、安全確保のためにピット等に一定の要件が課せられると同時に、処分可能な放射性廃棄物の放射能濃度に上限値が設定される。

3)最終的には、一般公衆の受けるおそれのある被ばく線量が、被ばく管理の観点からは処分場を管理することを必要としない低い線量となる。

を踏まえつつ、今後、検討を進めるものとする。

 具体的な検討の方向性としては、我が国におけるこれまでの調査研究の成果や諸外国での処分場の事例を踏まえ、天然バリアによる放射性核種の移行抑制等についても考慮して、やや深い地下への処分概念について検討を進めることとし、安全性及び成立性等について必要な検討を行った上で、処分方策の具体化を図る。