原子力を巡る最近の国際的な動き
平成13年8月
遠藤哲也
(原子力委員長代理)
目次
欧州
(1) 欧州連合(EU)
(2) IEA(国際エネルギー機関)とOECD
(3) ドイツ
(4) 英国
(5) フランス
(6) フィンランド
東アジア(日本を除く)
(1) 韓国
(2) 北朝鮮
(3) 中国
(4) 台湾
(5) ヴィェトナム
はじめに
前回、同様の標題で筆を執ってから、早いもので1年半以上が過ぎ、事情がかなり変わってきている。結論を先に言えば、アジアでは状況はさして変わっていないものの、米国では明らかに薄日が差しかかっているし、欧州でも一頃の脱原発の政治的なムードに"一寸待てよ"といった原子力見直しのきざしが出始めている。これらの動きが本物になるか否かはこれからのことだが、このような欧米の状況が、日本へも良い影響を与えることを心から期待すると共に、むしろこのような動きをできる範囲で支援していきたいと考える。なお、本文で述べるところは、私の個人的な見解であることを断っておきたい。米国
米国には、現在103基の原子炉が稼働しており、原子力は総発電量の約20%を占める世界最大の原子力大国である。だが、1979年のTMI(スリーマイル島)事故以降、新たな原子炉の発注はなく、このままの状況が続くと2020年頃には原子力の占める割合は現在の半分に減じるのではないかと懸念されている。その最大の理由は、TMI事故とそれに続くチェルノブイリ事故に由来する反原発世論やそれを受けての原子力規制委員会(NRC)の安全規制の強化、更に電力自由化の進展に伴い初期に大きな投資が必要との経済上の理由があったと思われる。
だが、その間にあっても、軍事分野ではもちろんのこと、平和利用の分野においても世界のリーダーシップを維持したいとの観点から、米国はエネルギー省を中心に研究開発の面でいくつかの試みが続けられた。その一つが「原子力エネルギー研究イニシャティブ」(Nuclear Energy Research Initiative 通称NERI)であり、予算規模もそう大きいものではなかったが、細々と進められてきた。
ところが最近原子力を取り巻く状況にいくつかの前向きな変化が見られるようになった。それを整理すると次のようになる。その最たるものは、カリフォルニアの電力危機に見られたように、電力供給不足、安定供給への不安から発電施設増強の声が高まったことであり、第二に石油、天然ガスの価格の高騰である。第三は、環境の観点から原子力のメリットが公衆に認められるに至ったことが挙げられる。かくして原子力が再び見直されるようになったのである。
それと同時に、原子力界内部でも事情が変わってきた。その一つは、米国の原子力発電所は、1960年代、70年代に建設されたものが多く、そのために減価償却もすすみ、また近年設備利用率も、1986年では58%、1990年では66%、2000年では87%、と格段に良くなっており、最近は90%を越えるようになってきている。したがって発電コストも安くなり、石炭など他の電源と比べても十分太刀打ちできるようになってきている。今一つは、原子力発電所の売買、合併が進んで企業規模が大きくなり、資本力の小さい企業にとっては荷が重かった巨額の初期投資や長い建設期間にも何とか耐えていけるようになったことであり、また、合併により原発運転経験の共有化が進み、効率化が進んだことである。例えば、2000年10月、ユニコム社とペコエナジー社が対等合併し、設立されたエクセロン社は17基の原子力発電所を所有し、米国最大の原子力発電事業所となっている。また大手の投資・金融会社も原子力に参入しようとの動きも聞く。第三に発電用原子炉の寿命は従来40年とされていたのが、更に20年延びることが認可されるようになり、これも原子力発電の経済性の向上に役立つことになった。
以上述べたような事情を反映してか、ブッシュ政権は去る5月17日に、国家エネルギー政策(National Energy Policy)を発表した。これは、エネルギー政策を政府の最優先課題とし、本年2月からのチェイニー副大統領を議長とするエネルギー政策タスクフォースが検討の結果、取りまとめたもので、原子力関連部分の骨子は、エネルギー安全保障と温室効果ガス削減の両面から「原子力発電の拡大」「使用済燃料再処理技術」と「再処理・燃料処理技術の開発のための国際協力」の三項目である。なお、使用済燃料再処理技術では、核不拡散抵抗性を高める燃料処理法の開発研究に関し、政策の再検討をするべき、また、米国は引き続き世界に分離プルトニウムが蓄積することは奨励しないと釘を刺している。その中核となる「原子力発電の拡大」では、既設の発電所に関し、稼働率の更なる向上、新技術の採用による高出力化、許認可の更新などを行うとともに、標準化された設計による発電所の新増設、高い固有の安全性を有する先進的な炉型の採用等により供給力を高めることができるとしている。これが原子力への強い支持表明であることは間違いない。
今一つは、世論の風向きがゆっくりとではあるが変わってきていることが指摘できる。TMI事故、チェルノブイリ事故で落ち込んだ原子力発電支持率も本年3月の原子力エネルギー協会(NEI)の世論調査でも6割台を回復しているし、(同様の調査で、2000年1月、51%、1999年10月、42%)特にカリフォルニアを含む西部地域では、その傾向が顕著である。もちろん、大きな反対無しで新規プラントの建設が可能だと結論できるわけではないが、原子力発電のメリットに対する世論の理解が戻って来つつあるとは言えよう。以上述べたように米国における原子力をめぐる状況は確かに好転しつつあるが、これが本物になるか否かはこれからの問題である。この関連で注目すべきいくつかの点を指摘しておきたい。
その一つは、原子力発電の受け皿は整ったものの、果たして事業者が実際に原子力発電所の新増設に着手するか否かである。つまり経済性であるが、この観点からは、まずNRCの審査期間が実際にどの位短くなるかが注目されるところである。金利水準の高い米国では審査期間の長短は建設コストに大きくはね返ってくるからである。また建設期間も短く、コストそのものも安い中小型炉の将来も注目されるところである。
今一つは、使用済み燃料最終処分について、見通しが開けるか否かであり、まずはネバダ州ユッカマウンテン計画の進捗である。
三番目に、米国政府は原子力の先端技術開発に意欲を見せているが、これに必要な予算を獲得できるか否か、また米国内で共和党、民主党を問わず根強い核不拡散勢力(アンチ・プルトニウム)を押さえ込むことができるか否かにかかっている。なかんずく、再処理に係わる研究開発計画は1970年代にカーター政権が核不拡散の観点からワンススルー路線に踏み切った政策を転換するのではないと見る向きが日本の一部であるようだが、米国の現政権として、ワンススルー路線を変えるつもりは全くない。現政権としては、この路線を継続しつつ廃棄物処理の観点から、如何にしてパイロプロセッシング(乾式再処理技術の一種で、再処理プロセス中で単体のプルトニウムを得ることが難しく、核拡散抵抗性が高いと言われている)や核種転換の技術を確立するかを考えているのであって、決してワンススルー路線と矛盾するものではない。また、今後は石油、天然ガス、価格の今後の推移も影響してくることを付け加えておきたい。(なお、アメリカの事情に関しては、前在米日本大使館岡谷書記官(原子力担当)の示唆によるところが多い。)
欧州
前回の論文で私は欧州の状況について次の四点、すなわち(1)冷戦の終焉によってエネルギー安全保障に対する欧州の危機感が減少して来たこと、(2)欧州統合とあわせて電力自由化が進展し、欧州の電力市場が単一化の方向に向かっていること、(3)社民系の政権の誕生と緑の党が政権の一翼に入ることによって脱原発のムードが出てきたこと、(4)地球温暖化問題に対しては基準年次が欧州にとって非常に好都合な1990年であること、などにより比較的リラックスした態度をとっていることなどを指摘した。このような底流は基本的には変わっていないが、昨今若干の変化がうかがわれるようになった。以下に欧州連合、独、英、仏、フィンランド等について簡単に触れることとするが、結論を先に述べれば、エネルギー安全保障と環境論の観点から原子力に薄日がさしかかったというべきであろうか。原子力を再び見なおすべしとの考えが少々出て来ていることが注目される。(1) 欧州連合(EU)
EUはこれまで経済分野、共通外交および安全保障政策、司法協力などをその活動分野として来たが、統一エネルギー政策はこの経済分野の中に必ずしも明確に位置づけられていなかった。ところが、エネルギー自給率が低下傾向にあり、そのまま放置すると石油や天然ガスの域外からの輸入が増加し、現在の50%が20〜30年以内に30%にもなりかねないこと、原油や天然ガスの高騰、地球温暖化問題等により、EUとして統一的なエネルギー政策決定の必要性が認識されるようになった。「欧州のエネルギー安全保障の確立に向けて」と題するグリーン・ペーパー(Towards a European strategy for the security of energy supply)は2000年11月に欧州委員会が今後の議論のたたき台としてとりまとめたものである。
このグリーン・ペーパーは、原子力について、現在EUの総発電量の約35%を占めているものの、TMI事故、チェルノブイリ事故後は世論の風当たりが強く、EUの中で原子力発電を持っている8カ国のうち5カ国(スウェーデン、ベルギー、独、スペイン、オランダ)がモラトリアムを宣言し、仏、英、フィンランドにしてもここ数年間原子力発電所の新規建設の見通しがある国はフィンランドだけとしている。そして原子力の将来は、高レベル廃棄物の処理、経済性、安全性特に近い将来、EUに加盟が予想される諸国の安全性にかかっていて、不確かであるとしている。しかしながら、地球温暖化問題を考えた時、原子力の果たす役割を考慮すべきであるともしている。
EUは今後1年間、このペーパーについて議論し、エネルギー安全保障のための新たな措置を策定することが可能かどうか判断する。特にこのペーパーは原子力推進派として知られるデ・パラシオ副委員長(スペイン出身。運輸・エネルギー政策担当)の主導の下にとりまとめられたもので、EU加盟15カ国のうちには原子力推進に対する反発も根強く、議論のゆくえは予断を許さない。ただ、EUの中で原子力の役割がたたき台としてあれ、明示的にとりあげられたのは注目に値する。(2) IEA(国際エネルギー機関)とOECD
IEA第18回閣僚理事会は5月15〜16日、引き続いてOECD第20回閣僚理事会は5月16〜17日パリにおいて開かれた。IEA閣僚理事会最終コミュニケの原子力関連部分は次のとおりである。
「我々は、各国が、石油、天然ガス、石炭、原子力、あるいは再生可能エネルギーの、それぞれが最も適切と考える燃料ミックスを決定することを認識する。我々は、再生可能エネルギーがより一層の役割を演じることを意図し、欧州連合によるあらゆる形態のエネルギーの多様化及び効率化に向けて新しいはずみを与えるために一致した努力の下、協力するという欧州連合の勧誘を受け入れる。」
このコミュニケの作成にあたって、アイルランド、オーストリア、デンマーク、独から原子力と持続可能な開発との関連をコミュニケで言及することに難色が示されたが、他方、日本、米国、仏などから原子力の重要性を強調した結果、原子力が各国の燃料ミックスの選択肢として明記され、原子力の位置づけが確保された。なお、OECD閣僚理事会のコミュニケの方は、前日のIEAコミュニケをうけて「持続可能な未来のエネルギーについてのIEA閣僚理事会のコミュニケを歓迎する」としている。
ちなみに、IEAもOECDも欧州機関ではないが、加盟国に欧州諸国の数が圧倒的に多く、これら機関で原子力の位置づけがなされたことは控え目に言っても何かしの意味を持つ。(3) ドイツ
1998年9月の総選挙で社会民主党(SPD)が第一党となり、90年連合・緑の党と組んで誕生した連立政権は、選挙公約に沿って脱原子力政策を打ち出して来た。1999年1月以降、電力会社との協議が始められ交渉は難航したが、2000年6月にようやく合意が成立し、去る2001年6月に連邦政府と電力会社代表との間で正式署名が行われた。
その概要は以下の通りである。
- すべての原子炉について平均寿命を32年間として計算される総発電量枠を決定する。そのため、ある原子力発電所から別の原子力発電所への計算上の残存発電量を転用することができる。その結果、旧型の発電所を早く廃炉し、その残存発電量を効率の良い原子力発電所に移すことができるので、実際に脱原子力を達成する時期は、運転開始から32年より後になる。
- 新規の原子力発電所の建設は行わない。
- 使用済み燃料の再処理は2005年7月で終わる。この時点までは、英仏の再処理工場への燃料輸送が認められ、その分の再処理が行われる。事実、使用済み燃料の輸送が再開されている。
- 事業者は、できる限り速やかに、遅くとも5年以内に発電所サイト内、または近傍に、いわゆる分散型の中間貯蔵施設を設置する。
ところで、この合意はどのように評価すべきであろうか。まず、第一に、これまでドイツの電力会社は核物質の輸送などで種々の政治的妨害に合ってきたが、これからは運転可能な期間は落ち着いて安定的に原子力を利用することができるようになったことが挙げられる。他方、電力会社にとってこの合意は、満足というものではない。合意に署名した電力会社の一社は「今回の署名は連邦政府による脱原子力政策を電力会社が認めたというより、商業的に合理性のある運転期間や妨害のない継続運転が認められたということで現実主義的な妥協に近い」との声明を出している。電力側は、この合意は政府からの圧力をうけての現実的な妥協であり仕方がなかった、ある意味での問題の先送りであるとしている。原子力推進派であり、最大野党であるキリスト教民主/社会同盟(SDU/CSU)は正式署名の翌6月11日、政権に復帰すれば直ちに連邦議会で段階的廃止案を覆し、これを無効にするつもりであると厳しく批判している。(総選挙は通常4年毎で、次回は2002年後半に予定されている)
さらにより、根本的な問題であるが、総発電量の約3割を占める原子力から脱却して、現実に省エネルギーと太陽光、風力などの再生可能エネルギー等の代替エネルギーでやっていけるのかとの点である。ドイツは風力発電が飛躍的に延びているのは事実だが、省エネルギーや再生可能エネルギーにあまりにも多くを期待しているように見られる。また、ドイツはCO2の排出の21%削減を表明しているが、この目標と脱原子力政策を如何にして両立させていくのかも大きな課題である。
このように、ドイツの原子力をめぐる状況は、とりあえず脱原子力ということになっているものの、本当は先送りということではないだろうか。(4) 英国
先の総選挙で圧勝し二期目に入ったブレア労働党政権は、今後50年先を見越した英国のエネルギー政策の検討に着手した。検討作業は、内閣府のPerformance and Innovation Unit が担当し、ウィルソン エネルギー相を長とする閣僚レベルの諮問委員会がこれを監督し、今年中に報告書を取りまとめることになっている。前述のとおり、米国においてもエネルギー政策の見直しが行われたが、英国においても偶々、時を同じくしてエネルギー政策の検討が行われることとなった。
この検討が行われることとなった背景は、一つは英国にとってエネルギー供給源の虎の子であった北海の石油・ガス田の産出量が2004年頃から低下しはじめ、2006−7年から英国は石油の純輸入国になると推測されるからである。こういったエネルギー安全保障上の懸念である。今一つは、地球温暖化防止対策上の考慮である。英国はCOP3の京都議定書の下で、温室効果ガスを12.5%削減することをEU内で約束しているし、そのうちの二酸化炭素を20%削減することを国内目標としている。これを如何にして実現するかに取り組んでいかねばならない。このような観点から、これまでのエネルギー政策を見直して、環境とエネルギー政策を調和させた長期的な政策を策定することがねらいである。英国のマスコミは、6月26日付けで、今回の見直しを「Blair opens a way for a nuclear comeback.」(インディペンデント)とか「Energy review to consider building nuclear plants」(タイムズ)「Energy review will revive nuclear power」(デイリーテレグラフ)等と評している。だが、これはいささか先走りというもので、今回の検討は原子力発電所の新設ありきではなく、長期的タームを念頭に置いたエネルギー選択肢の検討であり、原子力はその一つである。自由化で競争が激しくなっている電力業界が初期投資の大きな原子力発電所の新設にすぐ飛びつくか否かは疑問であり、長期的なマーケットやPublic Acceptance を見据えて原子力発電が経営上魅力的だと判断するかどうかにかかっている。ただ、今回の検討がこれまでややもすれば、(原子力は英国の総発電量の約25%を占めているが、今のままでいくと大きく減っていくのは必死である。なぜならば、英国原子力発電の約3分の1を占めるマグノックス炉は寿命が終わり、これから10年弱で、次第に閉鎖されることになっており、新規の発電所の建設は行われていない。)先細りの感があった原子力発電を今後の検討対象として、はっきり取り上げたことは前向きの動きとして評価されるところである。(5) フランス
この間で特筆すべきは仏原子力産業再編の動きである。(2001年末時点に完了の予定)再編の柱は、フランス政府(主にCEA(仏原子力庁))が持ち株会社TOPCO(トプコ、仮称)を設立し、TOPCOの下に原子力産業部門と電気通信・電子産業部門とに事業を集約する点である。TOPCO株式の78%をCEAが保有し、4%を市場に放出、残り18%はEDF(仏電力公社)、石油関連企業などの少数株主が保有することになる。これによって、これまで政府・民間資本が複雑に入り組んでいた資本関係を簡素化して、意志決定の迅速化・透明性を高める体制となる。(図1)
原子力産業部門には、COGEMA及びフラマトムANP社(2000年12月5日に欧州委員会より合弁を承認されたフラマトムと独シーメンスの原子力部門の合弁会社)が含まれる。一方電気通信・電子産業部門にはSTマイクロエレクトロニクス社及び現在フラマトムの100%子会社であるフラマトム・コネクターズ・インターナショナル(FCI)が含まれる。なお、新会社フラマトムANPは世界の原子炉市場の2割、欧州の核燃料市場の約8割、従業員1万3,000名を擁する。
この新体制により、仏原子力産業は巨大な資本力を備えると共に、CEAの研究開発部門の成果を直接に利用し得ることになり、以前にも増して仏原子力産業の欧州市場はもとより世界市場への進出を有利にするものと予想される。
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(6) フィンランド
フィンランドは2つの理由で特筆に値する。一つは、原子力発電所の新設である。フィンランドには、現在4基の発電用原子炉が稼働しており、総発電量の約32%をまかなっているが、最近(2000年11月)新規原子力発電所立地申し入れが政府に対してなされた。フィンランドの原子力法によれば、原子力発電所の運転許認可手続きは政府の承認、議会の承認、新規発電所の建設許可の申請等と、ステップに分かれていて、すべてが完了するのに通常数年かかるといわれており、今回の申し入れはその最初のステップに過ぎないが、それでも'Good Start'とは言えよう。なかんずく、近年欧州でも政治的理由にせよ、経済的理由にせよ、原子力発電所の新設が無かっただけに今後の進展が大いに注目される。
今一つは、使用済み核燃料の地下処分場の建設である。フィンランド議会は去る2001年5月に首都ヘルシンキの北西約200キロのオルキルオルトに地下処分場を建設するとの案を159対3という圧倒的多数で可決した。オルキルオルトは原子力発電所が2基稼働している場所であり、地元住民との関係も良く、地元自治体は2000年1月に最終処分場建設を承認している。計画によれば地下500メートルの花崗岩層に使用済み燃料を埋設するもので、事業主体は電力会社が出資するPosiva社という放射性廃棄物管理会社である。今後、調査研究を経て、2010年頃に建設を開始し、2020年頃から操業を開始する手はずになっているが、使用済み燃料であれ、ガラス固化体であれ、高レベル廃棄物の処分には各国とも四苦八苦しているところ、今度のフィンランドの決定が、これもまた、'Good Start'となることが期待される。
東アジア(日本を除く)
以上述べてきたように、欧米においても前向きの動きが見られるものの今のところは「今後期待」の状況である。だがアジア、特に東アジアでは、目に見える形の動きがある。東アジアといっても多岐多様で、地理的条件、資源の賦在状況、経済成長などから一概には言えないし、今後も緩急はあろうが、原子力開発は進み今世紀中頃には、日本、インド、パキスタンなどを含めたアジアは、北米、欧州と肩を並べる原子力発電の世界の三極の一つになるものと思われる。(表1)
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(1) 韓国
現在、韓国では原子力発電所が16基運転中で、総発電量に占める原子力の割合は約40%であり、加えて4基が建設中であり、押しも押されもしない世界の原子力大国である。今後の原子力開発にも非常に意欲的で、去る7月13日に決定をみた第二次原子力振興総合計画(日本の長期計画に似たようなもので、第一次計画は1997年に策定され、その後5年毎に改訂されることになっている)は、目標を短期と中期に分け、前者の2002−2006年の5年間については、具体的な推進計画を立て、後者の2007−2015年は方向を提示している。この計画によれば2006年には原子力発電所は20基となり(その時点で建設中のものは6基)、原子力の発電占有率は37.8%を予測している。
また、第二次振興総合計画は、原子力産業の育成・振興の観点から韓国標準型炉の推進を打ち出している。ちなみに韓国標準型炉とは、通称KSNP (Korean Standard Nuclear Power Plant)と呼ばれ米国ABB-CE(当時)が設計したシステム80型をベースに韓国が独自に開発した100万kWの国産PWRで、国内での既に6基に採用されており、2006年までに更に4基の建設が完了し、合計10基になる計画である。更に韓国では130万kW級のPWRである韓国次世代炉 KNGR (Korean Next Generation Reactor)の開発にも取り組んでいる。このように韓国の原子力開発は国内に目が注がれているばかりでなく、設備や技術の輸出、更に長期的にはプラント単位の輸出をも志向していることを付け加えておきたい。
韓国がこのように非常に意欲的に原子力開発を推進し、かつこれからも振興しようとするのは、原子力が国策国営によるところも多かったと思うが、今後韓国電力の民営化の動きと共にどうなっていくかが注目される。また、韓国の今後の原子力開発にとって泣き所は放射性廃棄物の処理・処分問題である。韓国では低・中レベル廃棄物と使用済み燃料は原子力発電所敷地内に貯蔵管理し、低・中レベルについては2008年までに管理施設を、使用済み燃料については2016年までに中間貯蔵施設を完工する予定としている。だが、低・中レベル廃棄物をとっても、地方自治体に対して候補地の公募を行ったが応答が無く、NGOの反対が強く難航しているのが現状である。(2) 北朝鮮
米朝枠組み合意(1994年)に基づいてKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)は現在北朝鮮の琴湖(クムホ)に100万kWの韓国型標準炉(KSNP)2基を建設中である。整地作業は終わり、近く掘削工事が始まろうとしているが、KEDOの行く手には乗り越えなければならぬいくつかの大きなハードルがある。
順不同で言うと一つは建設資金の問題である。建設資金は46億ドルと見積もられ、そのうち70%が韓国、日本が10億ドルを負担することになっているが、そもそも当初から若干の不足があったし、工期の遅れから資金の上方修正が必至で、これらの不足分をどうまかなうかは頭の痛い問題である。第二は、IAEAの保障措置適用の問題である。米朝枠組み合意によれば、主要資機材の搬入前までに北朝鮮はIAEAの満足する保障措置を受け、NPTの正常な加盟国に戻ることが期待されている。北朝鮮は、これまでにNPTやIAEAとの協定を恣意的に解釈してトラブルを起こして来ただけに決して今後の成り行きは楽観視できないし、それはともかくそのためには事務的、技術的に時間のかかる作業が必要なので時間の余裕がない。第三は、北朝鮮における原子力損害賠償制度の確立である。このためには、まず北朝鮮で国内法制度がきちんと整備されることと、更にこれを確保するために改正ウィーン条約なり補完基金条約なりの国際条約に加入することが必要である。北朝鮮にとってこのような法制度なり法概念はこれまでなじみの無かったものだけに大変なことと思う。
北朝鮮はこれまでKEDOに対して実務レベルでは、総じて言えばいわゆるビジネス・ライクに対応して来たが、これから物事が核心に近づくにつれ政治レベルの関与と決断が必要となって来るが、その鍵は何といっても今後の米朝関係にある。KEDOはこれまでにも幾多の紆余屈折を経ながらも何とかやって来た、英語で言えば 'muddle through' して来たし、これからも時折難関にぶつかろうが何とかなるであろうと慎重ながらも楽観視している。(3) 中国
現在、浙江省泰山に1基、広東省大亜湾に2基の合計3基の原子炉が運転中であり、原子力発電は中国の総発電量の1%強に過ぎない、未だ微々たるものである。1996−2000年の第9次5カ年計画で建設中のものは4サイト各々2基の合計8基で、その炉型は次の通り多岐にわたっているが、いずれにせよすべて2005年までには発電を開始する予定である。
このように第9次5カ年計画下で原子力発電所が相次いで着工されたので、一時は2001年から始まる次期5カ年計画においては、更に積極的な原子力発電所の建設が行われるのではないかとの見方が有力であった。しかしその方針は大幅に修正されそうである。去る3月12日に第9次全人代で承認された第10次5カ年計画では、当初の12基との予想に反し、具体的な数値は盛り込まれず「原子力発電を適度に発展させる。・・・」とのみ記されており、そこには積極的なニュアンスは感じられない。
- 泰山原子力発電所(U期):PWR ("自主") 2基 浙江省
- 泰山原子力発電所(V期):CANDU (カナダ) 2基 浙江省
- 嶺澳原子力発電所:フラマトム型PWR (フランス) 2基 広東省
- 田湾原子力発電所:VVER-1000 PWR (ロシア) 2基 江蘇省
このような、政策方針が打ち出された背景には、当面は中国において原子力発電所の発電単価は石炭火力発電所と比較して依然として割高であるとの評価がある。また第10次5カ年計画の目玉とも言える「西部大開発」の主要プロジェクトとして、西部地区での大規模な水力発電開発が盛り込まれ、これらの発電電力を主要な需要地である東部沿岸地域に送電する「西電東送」プロジェクトの推進がうたわれ、すくなくとも現時点では、原子力発電開発にとって更なる逆風となっている。すなわち、電力の大消費地であり、今後高い電力需要の伸びが見込まれ、さらには石炭火力発電の増設による環境汚染を避けなければならない東部沿岸地域において、需要地近接立地により電力需要をまかなうべき電源と位置付けられていた原子力発電が、西部の水力発電に取って代わられたと見ることができる。したがって第10次5カ年計画での原子力発電開発の位置づけは、主要な電力供給源としてではなくなり、国産化による国内の原子力及び重電プラント産業の技術力向上といった間接的かつマイナーなものに変わってきていると見られる。しかもこの沿海地域でも、ここ当分の間は、幸いにして電力の需給関係が緩んでいて一息つける余裕があることも指摘できる。このため第10次5カ年計画中に建設される原子力発電所としては、広東省・浙江省の2つのサイト4基ぐらいではないかと予想されている。(4) 台湾
2000年3月に行われた総統選挙で、反原子力発電をかかげた民進党の陳水扁が勝利を収めた。民進党は選挙公約として建設中の第4原子力発電所(龍門1,2号機 ABWR 135万kW)の計画中止と運転中の6基の段階的な閉鎖をかかげていたため、先ずは2000年末で既に工事進捗率が30%を超えていた龍門原子力発電所の建設続行の是非が大きな政治問題となった。その後政治的な紆余曲折の末、2001年2月に行政院(日本の内閣に相当)は、やっと現実的かつ政治的な妥協を行い、エネルギーが不足しないことを前提に、将来的には脱原子力を達成するとの条件で、建設再開を正式に発表した。
かくして難局は切り抜けたものの、台湾における原子力の将来は必ずしも明るくはない。一つはむしろ政策合意の一つである段階的な脱原子力発電方針もさることながら、政争の背景にあるかなり強い反原子力発電感情である。今一つは高レベルどころか低レベル放射性廃棄物の処分問題で、処分場の立地活動は難航しており、島内とあわせて中国本土及び国際協力による海外での処分方法もあわせて検討している。(5) ヴィェトナム
ヴィェトナムの電力事情は、当面、主に石炭と水力に依存し、今後の電源は、とりあえずは水力の更なる開発と天然ガスの新規開発で対応しようとしているが、経済成長が予測どおり7%台で推移するとなると電力需要は年率11〜12%増となる。そうすると2020年頃には電力不足が顕著となり、その対策の一つとして200万ないし400万kWくらいは原子力発電に頼らざるを得なくなるとされている。
このような事情を背景にヴィェトナム政府は科学技術環境省、その傘下にある原子力委員会、エネルギー政策担当の工業省、電力公社などで原子力発電導入を検討してきた。本年4月に開かれた5年毎のヴィェトナム共産党第9回党大会で2001−2010年の社会・経済発展計画が採択され、その中で「原子力発電利用の可能性を研究する」旨が明記され、ヴィェトナムの公式文書で原子力発電が始めて位置付けられた。このことは、ヴィェトナムが共産主義国家であり、中央集権の計画経済を基本としている国だけに重要な意味を持つ。その最初のステップとして工業省を主管として原子力発電のプレフィジビリティスタディを2001年末までにまとめることになったが、このようなスケジュールはやや無理と思われ、実際には2002年末までかかるのではないだろうか。いずれにせよ、ヴィェトナム(共産党および政府)の原子力発電導入にかける意欲は満々で、おそらく東南アジアでの最初の原子力発電導入国になるのではないかと思われる。
終わりに
以上、米国、欧州と東アジアの原子力をめぐる動向を概観して来た。頁数の制約もあって、ロシア、東欧、南アジアのインド、パキスタンなどの動きには触れなかったが、総じて言えることは、世界を通じて、三大陸を通じて「動意」がみられること、少なくとも同じ方向が志向されていることである。いずれもエネルギーの安全保障、安価なエネルギーの供給、気候変動への対応、あるいはそのうちのいずれかを求めてである。だが、この動きが本物となり、原子力ルネッサンスなり第二の原子力時代の到来が期待されるのだろうか。
そのためには次のようないくつかの課題を克服しなければならない。
1.低・中レベル及び高レベル放射性廃棄物の処理・処分
2.初期コストも含めての経済性の向上
3.安全運転
4.核不拡散
いずれにせよ、このような世界の動きが我が国の原子力開発に影響を与えることは必至であるが、我が国としては手を拱いているのではなく、むしろこのような動向を助長するようこれら諸国との協力を強化して行くのが大切と思われる。
以上