- T.原子力とは
第1回(昭和31年)原子力長期計画
- アイソトープや放射線の利用という言葉はあるが加速器という言葉はない。しかし当時既に阪大、京大のサイクロトロンはできていた。これはサイクロトロンによる核物理研究などはいわゆる原子力とは区別していたことのあらわれである。
- 平成12年原子力長期計画
- 大強度陽子加速器計画、RIビーム加速器、ITER計画ついては記述があるが、研究用原子炉が燃料問題で2006年に止まるかもしれないことについての記述はない。研究用原子炉の役割が減少したという認識のあらわれか?
- 原子力とは核(分裂)エネルギーと考えている人が多いはず。高エネルギー物理学、がん治療、ナノテクノロジー等の手段としての加速器を原子力研究用の加速器という位置づけにすることには疑問がある。
例えば将来予想される高エネルギー物理のリニアコライダーなどは高エネルギー加速器機構がアジアのCERNのようなものを目指すということで、国民に理解を得るべきもので、原子力予算として議論するようなものではないように思う。一方エネルギーとしての原子力は、放射線の利用の利益を説いて国民を説得するのではなく、エネルギーとしての必要性と内容を説明して理解を得るべきもので、他に予算を回せるのであれば原子力予算を減らして良いのではないか。U.日本の加速器
1933年頃台北帝大の荒勝文策研究室においてコッククロフトワルトン型加速器が作られアジアで初めての原子核人工変換の実験がなされた。数ヶ月後、阪大の菊池正士研究室でも同様の実験がなされた。さらに理研の仁科芳雄研究室、阪大の菊池研究室、台北から京大に移った荒勝研究室で相次いでサイクロトロンが建設された。またバンデグラフ型加速器も作られた。我が国の加速器の草創期である。
戦後占領軍によってサイクロトロンが全て破壊撤去され、原子核の研究ができなくなった時期を経て、理研、阪大、京大、そして共同利用研究所として東大の原子核研究所のサイクロトロンが作られた。戦後の復興期である。
原子核や高エネルギー研究用の加速器は次々と大型化して、一大学では持てなくなって、原子核将来計画が昭和30年代の後半に立てられ、文部省直轄の大学共同利用機関として高エネルギー研究所ができた。また核物理研究用には全国共同利用の阪大核物理研究センターができた。この時期に一大学で全国共同利用並みに頑張ったのは東北大学で300MeVの電子線形加速器を建設した。全国共同利用の規模でない加速器の例としては東大、京大などが普及機レベルのタンデム加速器を建設した。他のいくつかの大学でもヴァンデグラーフや小型の電子線形加速器などを購入した。多くは原子核物理研究者が建設したが、原子力の研究者は中性子発生装置としてコッククロフトワルトンや電子線形加速器を購入した。
核現象の研究目的ではない、放射線源としての加速器利用も次第に増えてきた。核研のシンクロトロンによる放射光利用の物性研究と、東北大電子線形加速器で発生するパルス中性子による物性研究がその代表的なものであった。
法律的には放射線発生装置に入らない低エネルギーの加速器での照射やイオン注入なども増えてきた。これらは大学の研究段階から次第に民間企業の実用機になっていった。
大学の加速器の議論とはややずれるが、中小型加速器の産業・医療への応用はかなり進んでおり、電線やタイヤの製造、滅菌殺菌など産業に使われる加速器の関わる産業規模は、日本での調査でもアメリカでの調査でも数兆円ないし10兆円規模になっているといわれている。現在、法律的に放射線発生装置として監督官庁が把握している加速器は日本アイソトープ協会の統計表によると200年3月現在で1100台を越えている。その8割近くは医療用である。特に放射線治療用の小型の電子線形加速器が700台を越えている。また最近ではPET用のRIを作る小型のサイクロトロンが数十台になってきていることも注目すべき点である。教育機関の加速器は58台、研究機関の加速器は163台となっている。大学の加速器はこの統計では教育機関にも研究機関(大学附置研究所・センター等)にも含まれているので大学の加速器の台数だけをみることはこの表からは難しいが数十台といったところであろう。
V.大学の加速器
最近学術会議の核科学総合研連のワーキンググループで原子力基礎研究関係者が大学等の加速器の調査をした。これによると、大学の加速器は約60台である。この調査は未完成で大学病院のリニアックやPET用サイクロトロンは含まれていないようであるのに、筑波大学の治療用陽子シンクロトロンは含まれていたりするなど若干の不統一もみられるが、一応の参考になる。大まかなくくり方で整理すると、使われ方は以下の表のようになる。
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従来のいわゆる原子力系の加速器は中性子発生に分類されているコッククロフトワルトン型加速器や電子線形加速器である。コッククロフトワルトン型の場合、D?T反応による中性子発生を利用するが、これは核融合反応であるために、核融合炉の材料試験等にも使われる。またユニークな例としては、原子炉の炉心設計と人材育成のために作られた京都大学原子炉実験所の臨界集合体に付設されている小型のD?T中性子発生器は、燃料集合体に中性子を注入する形のいわゆる加速器駆動未臨界炉の基礎的な研究をするためにも使われている。まさしく狭い意味の原子力(核分裂エネルギー)研究用の加速器の使い方といえる。
核物理は原子力の基礎研究という位置づけは可能かもしれないが、阪大の核物理研究センターや東北大学の加速器などが含まれているものの、数は多くない。一般の大学で持てる小型加速器ではもはや核物理の先端研究はなされていないことを意味している。核物理の研究は大学共同利用機関や一部の全国共同利用の大学附置センター等でなされている。
多いのは物性というくくり方をしているもので、材料研究やフェント秒解析などを初めとする様々な利用をまとめた部分である。この部分は狭い意味での原子力研究とはいえない。元素分析や加速器質量分析(AMS)のような分析装置としての加速器の使い方も以前からあるが、当初大学での核物理研究用に作られたものが分析用の装置として目的を変えていったものも多い。
加速器開発がやや多いように見えるが、これは東京工大原子炉工学研究所と、京都大学の化学研究所附属原子核科学研究施設の特定の研究者が頑張っている試作的な小規模のものがあるためで、研究室が多いわけではない。
ただし最近、広島大学、立命館大学、日本大学、東京理科大学などで放射光(SOR)や自由電子レーザー(FEL)用の加速器が建設され、この分類表ではSOR・FELにしているが、その周辺では加速開発研究としても有意義な活動がみられる。同様なことは東大、阪大のフェント秒解析用その他電子加速器周辺でも行われていて、上述の東工大、京大化研とともにいわゆるビーム物理というジャンルが開かれつつある。
これらの活動グループは東大の原子核研究所がなくなった今では、最先端の大型加速器をもつ大学共同利用機関や特殊法人等の加速器研究者とともに我が国の加速器科学、ビーム物理学の中核をなすグループである。加速器関係の人材育成面を考えると大学におけるこれらの拠点に対する支援が望ましい。上述の学術会議のワーキンググループでは「原子力分野における加速器の研究開発について」という報告書をまとめつつある。来年3月に最終報告が出る予定であり、現在入手しているものは中間報告である。これは狭い意味の原子力研究にとどまらず、ここに紹介したように広い範囲を網羅した報告となっている。そこでは我が国の中小型加速器の関係する産業が数兆円産業の規模になっていることから、その基礎となる大学の中小型加速器でのユニークかつ多様な研究の推進、高等教育の実施、京大原子炉実験所の役割、学際分野、地域、社会との交流などの重要性が、大型研究機関の大型加速器を利用する大学関係者の先端的共同利用研究の必要性とともに強調されている。
参考資料
1.昭和31年第1回長期計画(原子力委員会)抜粋
2.平成12年第9回長期計画(原子力委員会)抜粋
3.APAC招待講演(井上)
4.放射線利用統計(日本アイソトープ協会)
5.学術会議ワーキンググループ加速器調査
6.学術会議ワーキンググループ中間報告