化石エネルギーについては、比較的豊富な石炭等により当面の枯渇は予測されないものの、有限な資源である点に変わりはなく、また、大気中の二酸化炭素濃度の上昇等に伴う地球温暖化問題を始めとした地球規模での環境問題への懸念が高まりつつある。別添1に示すように、IPCCが評価した様々な将来シナリオでは、今世紀末の地球平均気温上昇は1〜6℃になり得ると予測されている。
長期のエネルギー需給及びそれに伴う環境問題について、その未来を予測することは非常に難しいが、21世紀後半には相当な規模での非化石エネルギーの導入が必要であると指摘されている。
化石エネルギーに替わる新たなエネルギー源には、安定供給できることは言うまでもなく、世界規模でのエネルギー供給を満たし得る資源量があること、資源の地域的な偏在や社会的な導入の制約が少ないこと、我が国として自給性が高いこと等が求められる。さらには多様な形態でのエネルギー利用が可能であることも望まれる。
非化石エネルギーとしては、実績のあるものとして核分裂エネルギーと水力、風力、バイオマス、太陽光等の再生可能エネルギーが挙げられる。核分裂エネルギーの利用・開発、および再生可能エネルギーの研究開発を促進することが化石エネルギー依存から脱却するために必要であることは言を待たないが、その社会受容性、資源偏在性、供給安定性等を考慮すると、地球規模の視点から21世紀後半以降の環境とより調和した非化石エネルギー供給の拡大が望まれる。
したがって、より魅力ある非化石エネルギー源の開発を進めておくことは、将来における人類の選択肢を広げておくために、現世代の我々がなすべき責務であろう。
核融合エネルギー*4は、付録1に示すように資源量・供給安定性、安全性、環境適合性、核拡散抵抗性、放射性廃棄物の処理・処分等の観点で優れた可能性と社会受容性を有すると考えられており、恒久的な人類のエネルギー源として魅力的な候補である。
別添2に示す日本エネルギー経済研究所の評価では、省エネや再生可能エネルギーの利用に加えて、高い経済性を持つ核融合炉が早期に利用されれば、今世紀末のCO2削減に大きく貢献できる可能性が指摘されている。
このような可能性を持った核融合エネルギーを早期に実現させることは、今後深刻化するであろう地球規模での環境問題の解決への寄与とともに、エネルギー資源に乏しい我が国の自立性を高めてエネルギーセキュリティーを確保する観点からも重要である。
さらに資源偏在や社会的導入の制約が少ないことから、今後エネルギーの消費が伸びるであろうと予想される開発途上国への積極的な導入も期待できる。
日本は科学技術創造立国として世界の繁栄と国際協調の促進のために積極的に貢献すべき立場にあり、エネルギー・環境問題の解決に資する核融合エネルギーの早期実用化に向けて、リーダーシップをとるべきである。
1.2 原子力政策における核融合研究開発の意義・必要性
我が国の原子力政策は、原子力基本法に基づき、原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興を図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的として進められている。
原子力とは、原子核変換の過程において放出されるすべての種類のエネルギーをいう。核融合研究開発は、複数の原子核の融合によってエネルギーを発生する原子力エネルギーとして、軽水炉によりすでに実用に供されている核分裂と原理的に異なるエネルギーの実現を目指すものである。
我が国の原子力政策では、軽水炉発電及び核燃料サイクル研究開発は、エネルギーの安定供給を支えるものであり、高速増殖炉は将来の最も有望なエネルギーの選択肢として位置付けられており、核融合研究開発は未来のエネルギー選択肢の幅を広げるものとして位置付けられ研究開発が進められて来た。さらに、原子力の研究開発利用に関する基本的な考え方では、「エネルギー安定供給や産業の振興、国民の生活水準の向上に寄与し、今後も人類社会の持続可能な発展に貢献していくために、国は、短期、中期、長期の観点から創造性豊かな取組を合理的に組み合わせて並行して推進するべきである。また、原子力の社会に対する貢献や寄与を継続・拡大していくためには、国あるいは研究開発機関が、革新的な技術システムを実用化候補にまで発展させる段階までを中心に、他の科学技術分野に比べてより大きな役割を果たしていく必要がある。しかし、その場合であっても、国の活動は、公益の観点から期待される成果を明確にし、効果的かつ効率的に進めなければならないから、各取組について、一定期間のうちに予想される成果と課題、その実用化時期における環境条件予測を踏まえて実施される多面的な評価結果に基づく投資の費用対効果、研究開発の段階に応じた官民の役割分担と資源配分のあり方、国際協力の効果的活用の可能性等を総合的に評価・検討して、「選択と集中」の考え方に基づいて研究開発資源の効果的かつ効率的な配分を行っていくべきである。」としている。
我が国における核融合研究開発は、原子力委員会が昭和43年7月に核融合の研究開発を原子力特定総合研究に指定して基本計画(第一段階計画)を定めて以来、昭和50年に第二段階計画、平成4年には第三段階計画を定め、原子力政策における重要な研究開発分野として原子力委員会の下で着実な進歩をとげ、別添3に示すトカマク方式*5、ヘリカル方式*6、レーザー方式*7等で世界のトップレベルの実績を上げて来た。特に、トカマク方式においては、急速に進歩する閉じ込め性能で世界のトップに踊り出た。
地上において核融合エネルギーを取り出すには、太陽の中心温度(1500万度)より高い温度のプラズマ*8を生成・制御しなければならない。我が国の核融合研究開発は、臨界プラズマ試験装置JT-60*9(原研)による臨界プラズマ条件*10(ゼロ出力条件)の達成や核融合反応を起こすに十分な5.2億度のプラズマ温度の達成により、核融合の科学的実現性を示した。核融合実験炉は、このような超高温の炉心プラズマ*11における核融合反応の生成・制御により、核融合エネルギーの科学的・技術的実現性を示すことを目的とするものである。我が国は、核融合会議、ITER計画懇談会([4],[5],[6],[7])、原子力委員会、総合科学技術会議での審議を経て、これをITER計画として国際協力の下に進めている。このITER計画では約50万キロワットの核融合出力の制御が実証されることになる。
核融合エネルギー開発においては、地球環境問題の解決への早期貢献を目指し、ITERでその科学的・技術的実現性を着実に実証するとともに、原型炉に向けた研究開発を並行して推進することにより、21世紀中葉までに実用化の目処を得るべく研究開発を促進する必要がある。欧米でも同様な視点から核融合発電を早期に実現させるための方策が精力的に検討されている。
核融合研究分野は、これまでの経験と実績を基盤として、我が国が世界をリードできる科学技術分野という点で大きな意義がある。また、核融合発電の実用化に向けた努力を引き続き行うことにより、我が国は、核融合発電技術の世界標準の確立に向けて主導的役割を果たせる可能性がある。さらに、核融合研究は、理学および工学分野を中心とした学術研究*12への寄与、産業応用をはじめとした社会基盤技術への波及効果等も期待でき、人類未踏の領域への大いなるチャレンジという性格も有する。
我が国の核融合研究開発においては、ITERの建設が現実的となることを踏まえ、核融合エネルギーの実現を目指した開発研究*13については、トカマク方式による核融合研究開発を一層推進する必要がある。また、核融合エネルギーの選択肢を拡げる観点から、トカマク方式のみならず、ヘリカル、レーザー方式等についても、学術研究としてその科学的基礎の確立を目指す必要がある。開発研究と学術研究の相乗効果によって開発を加速する観点から、ITERを最大限活用しつつ実用化に向かって、開発研究と学術研究からなる総合的な研究開発を推進する必要がある。
平成4年以降約10年間の研究開発を経て、第三段階計画の主要課題に対する計画の進捗状況は以下のようにまとめることができる。
1)原子力委員会は、実験炉計画については国際協力によるITER計画で実現することが適当であるとした。実験炉ITERの建設に必要な炉心プラズマと炉工学*14のR&D(ITER物理R&D*15、ITER工学R&D*16)が国際協力により実施され、我が国は主要な役割を果たした。炉心プラズマ研究においては、別添4に示すような炉心条件を満たすイオン温度数億度の高温プラズマの制御保持に成功するとともに、炉工学分野においても、必要な試作開発が完了する等、ITERの建設開始に必要なデータベースを整えた。
それらの成果により、ITERの工学設計が確定した。
2) 実験炉の先を目指して必要となるトカマクプラズマの改良研究や原型炉に向けた炉工学研究等の研究開発が開始された。トカマクプラズマの定常化研究等に大きな進展が見られ、炉の経済性の見通しを得るためのトカマクの改良研究が今後の課題となった。また、増殖・発電ブランケット*17の開発や第一壁構造材料の開発等、炉工学の基礎の形成が進み、原型炉に向けた本格的な研究開発を進められる段階に達した。
3)トカマク以外の方式として、ヘリカル方式とレーザー方式(レーザーによる慣性閉じ込め)については、トカマク方式に次ぐ性能を実証しており(別添4)、LHD、FIREX計画で一層の高温プラズマ閉じ込めの実現を目指した研究を進める段階に達した。また、その他の方式を含めた研究も核融合炉心プラズマ研究に必要な知見を与えるだけでなく、幅広い学術研究基盤の構築に貢献してきた。
4)大学における教育・研究指導によって多くの研究者・技術者が育成されるとともに、原研等の研究機関等での大型実験装置を用いた国際的な研究や企業と共同で行う最先端機器の開発等においても、優秀な若手研究者・技術者が数多く輩出され、これらの人材は核融合以外の先端科学技術分野においても中心的な役割を担って活躍している。
5)これらの研究開発を進める中で、我が国は、実験炉計画を始めとして、炉心プラズマと炉工学の幅広い分野において世界をリードする研究成果をあげてきた。
これらを俯瞰すれば、トカマク方式については、核融合エネルギーの早期実現に向け、次段階につながる研究開発計画を具体化できる基盤ができたと判断することができる。以下の節においては、各主要課題分野での研究の進捗状況について、実験炉計画を遂行するのに必要な基盤の達成状況および実験炉の次段階に向けて達成されるべき課題の両方の観点から詳細に述べる。
2.2 実験炉計画
原子力委員会は、平成8年に国際協力によるITERを我が国の第三段階計画における実験炉と位置づけて開発することが適切であるとの見解を示し、ITER計画は我が国の核融合研究開発における実験炉計画となった。
2.2.1 ITER計画の進捗
ITER計画は、昭和63年から約3年間実施した概念設計活動(CDA)の成果を踏まえ、平成4年から、その建設着手を判断するために必要な詳細設計と技術的データの取得を目的とした工学設計活動(EDA)が、国際原子力機関(IAEA)の下での日本、米国、欧州、ロシアの国際共同プロジェクトとして開始された。
工学設計活動(平成4年〜13年)では、各極から派遣された研究者等がITER所長の下に共同中央チームを組織し国際共同作業を行い、設計案を平成13年7月に取りまとめた。一方、各参加極では国内チームが組織され、国内チームリーダーがITER所長と作業取り決めを結ぶことによって工学R&Dや設計作業を分担した。我が国では、原研が実施機関として指定され、産業界や、核融合研や大学等と協力して国内チームの役割を果たした。
現在、日本、欧州及び、ロシアに加え、一時工学設計活動から撤退していた米国、並びに、中国及び韓国を加えた6極でITERの建設、運転・利用、廃止措置に関わる共同実施協定の締結に向けて政府間交渉が進められている。
実験炉計画については、平成4年の時点では平成17年頃稼動開始と想定されていたが、国際協力上の合意形成、設計の適切な見直しとその実証等に長期間を要したために想定時期から大幅に遅れた。なお、実験炉ITERの建設開始の遅滞は研究開発機関や産業界における核融合関連技術の円滑な継承・発展に大きく影響しているとの指摘もある。
2.2.2 ITERの工学設計
当初設定した6年間の工学設計活動により完成したITERの工学設計は規模・コストの大きさから建設移行が困難と判断され、参加極はITERの技術目標の見直しを行った。
見直しにあたっては、別添5に示すITERの「計画目標」を守りつつ、我が国のリーダーシップの下、JT-60を始めとする炉心プラズマ研究、炉工学研究の最新の成果を取り入れ、間欠運転でない核融合炉(定常核融合炉*18)の開発に重点を置く新たな技術目標(別添5)を設定した。この技術目標を満たす装置の設計を行うために工学設計活動の期間を3年間延長して詳細設計を実施した。
新たな技術目標の下に設計されたITERは、主半径*196.2m、小半径*192m、プラズマ電流*1915MA、定格核融合出力50万kWのトカマク型装置である(別添5)。十分な裕度を持ってエネルギー増倍率*19Q≧10を達成できるとともに、核燃焼*20時間は制限されるもののQ〜無限大の達成の可性能も有している。これにより、アルファ粒子*21による自己加熱が主要な領域でのプラズマ閉じ込め研究が可能となる。このようなプラズマ性能を達成し得ることは、参加各極が保持しているトカマク型実験装置を用いたITER物理R&D活動により確認された。
また、ITER実機の製作が基本的に可能であることは、各参加極の協力で実施されたITER工学R&D(大型超伝導磁石*22、真空容器*23、プラズマ対向機器*24、遠隔保守機器*25等ITER装置本体を構成する主要な機器の実規模試作開発等)により確認され、建設段階への移行の準備が完了した。
2.3 炉心プラズマ研究
2.3.1 トカマク型装置
(1)実験炉の建設・運転に必要な研究開発
炉心プラズマ研究開発では、国際協力によるITER物理R&D活動により実験炉の設計・建設のために必要な種々の物理分野(エネルギー閉じ込め*26、プラズマの安定性*27、非誘導電流駆動*28、高エネルギー粒子挙動、熱・粒子制御*29)のデータベースの整備が進み、ITER工学設計の基礎となった。また、引き続き国際トカマク物理活動(ITPA)*30により、ITERの実験・運転のためのデータを整備している。この間、我が国のトカマク型装置による研究は、以下に挙げるような分野において重要な貢献を果たした(別添6)。
− | エネルギー閉じ込め:JT-60、JFT-2M*31(原研)を含む世界のトカマク装置の閉じ込めデータベースに基づきITERの標準運転モードであるHモード(高閉じ込めモード)*32のエネルギー閉じ込め時間*26に関する比例則*33を確立し、それに基づいたITER設計が行われた。 |
− | プラズマの安定性:ディスラプション*34の抑制緩和に関する研究や高いプラズマ圧力の実現を阻む不安定性の研究がJT-60を中心として進展し、それに基づいてITERの設計が行われた。 |
− | 非誘導電流駆動:将来の定常運転に欠かすことの出来ない、電磁誘導以外の方法による電流駆動の実験に関して、WT-3(京都大学)やJIPPT-IIU(核融合研)での高周波電流駆動の先駆的な研究がなされた。さらにJT-60では低域混成波*35電流駆動に加え、負イオン源*36中性粒子入射装置*37や電子サイクロトロン波入射装置*38による1億度を超えるプラズマ温度での非誘導電流駆動法の実証が進んだ。 |
− | 熱・粒子制御:JT-60でITERの燃焼灰*39というべきヘリウムが排気できるか否かの模擬実験が行われ、効率的にヘリウムが排気できることを実証する等の成果が得られ、ITERの設計に反映された。また、金属壁や炭素壁によるプラズマ・壁相互作用*40の研究が進められた。 |
我が国ではこれまでトリチウム(T)*41を用いたトカマク実験は行われていないが、欧州のJETトカマク*42と米国のTFTRトカマク*43では、トリチウムと重水素(D)の核融合反応により生成されたアルファ粒子が有効にプラズマを加熱することが確認され、それぞれ、16MW、10MWのDT核融合出力が得られた。
(2)トカマク方式の改良研究(先進的・補完的研究開発)
トカマク型装置JT-60、TRIAM-1M*44(九州大学)、JFT-2M、JIPPT-IIUにおいてトカマクの性能向上を目指し、閉じ込め性能、長時間放電、高効率定常運転法、第一壁構造材料との適合性等に関する研究が行われ、我が国は世界をリードする研究成果を達成した。一方で、プラズマ圧力を高める研究など重要な課題が残されている(別添7)。
− | エネルギー増倍率*45とプラズマ温度:トカマクの新しい運転法として提案された負磁気シア運転*46により、核融合で発生するエネルギーと加熱に必要なエネルギーとの比であるDT等価エネルギー増倍率QDT*47において世界最高の1.25を得た。また、電流分布と加熱分布を最適化してプラズマ中心部分の閉じ込め性能を改善し、ITERや発電炉の運転領域を十分カバーする世界最高の5.2億度というイオン温度を達成した。 |
− | 長時間放電と高効率定常運転法:TRIAM-1Mにおいて高周波(低域混成波)を外部から入射して非誘導電流駆動により5時間を超える長時間のプラズマ維持に成功した。さらに、この非誘導電流駆動に必要な電力の負担を軽減するための方法として、JT-60の負磁気シア運転において、外部電力を要しない自発電流*48の割合を70-80%に高め、残りを外部から粒子ビーム*49によって駆動した非誘導電流駆動プラズマの生成に成功した。このような高効率の定常運転方式の原理実証が行われたことから、実験炉において定常運転法(非誘導電流駆動のみによる電流維持法)による長時間運転の実現が見通せる段階に達した。 |
− | 高ベータ化*50研究:ベータ値は、磁場によって如何に高い温度・密度のプラズマを効率的に閉じ込められるかの指標であり、経済性に優れた核融合炉では高いベータ値の実現が求められる。DIII-Dトカマク(米国)で10%を上回るベータ値が得られている。 |
− | 第一壁*51構造材料適合性:第一壁構造材料の第一候補材料である低放射化フェライト鋼*52は強磁性体*53であるため、プラズマへの影響が懸念されていた。HT-2(日立製作所)とJFT-2Mの真空容器内壁の全面に低放射化フェライト鋼を装着して実験を行い、プラズマの立ち上げや制御に影響が無いことを確認した。さらにJFT-2Mでは比較的高いベータ値(規格化ベータ値*54で3以上)のプラズマを実現することができ、原型炉での使用に展望を拓いた。 |
2.3.2 ヘリカル型・レーザー型装置等
トカマク以外の研究については、大型ヘリカル装置LHD*55(核融合研)が実験を開始しトカマクに次ぐ良好な閉じ込め性能を実証した。またレーザー方式では新概念である高速点火方式*56による1千万度に達するプラズマ加熱に成功し、点火温度の実現を目指したFIREX-I計画*57(大阪大学)が開始された。その他の閉じ込め装置ではプラズマ閉じ込め制御に資する優れた学術成果をあげた。
(1)ヘリカル型装置
大型のヘリカル装置を建設中の欧州や、独自の小型ヘリカル装置の建設に着手した米国に先行して、世界最大の大型ヘリカル装置LHDが平成9年に完成し、その実験研究において、これまでに以下のような研究成果が得られた(別添8)。
小型、中型装置(CHS*58(核融合研)やヘリオトロンE(京都大学))での比較的温度の低いプラズマで得られたエネルギー閉じ込め時間の比例則が、大型装置(LHD)における炉心条件に近い高電子温度(1億度)のプラズマにおいても成り立つことが実験的に検証され、従来のエネルギー閉じ込め時間比例則の信頼性が大幅に向上した。また、その閉じ込め性能を保持した長時間運転が実証された。さらに、プラズマ高電位形成、層流シアによる乱流抑制と関連した輸送障壁の形成により、高電子温度プラズマがLHDで実現された。ヘリカル装置に特有の磁場リップル*59による高エネルギー粒子*60の軌道損失の抑制とMHD安定性の両立が難しいのではないかと指摘されていたが、磁場配位制御の研究がLHDで進められ、高エネルギー粒子の良好な閉じ込めが得られるとともに線形不安定な領域でも良好な閉じ込めが得られ、4%の高ベータプラズマが得られた。
LHDやヘリオトロン-J*61(京都大学)装置により、引き続き、磁場配位の最適化や、一層の閉じ込め改善とトロイダルプラズマの共通理解を目指す研究が進められている。
(2)レーザー型装置
慣性核融合*62のエネルギードライバーとしてレーザー、重イオンビーム、Zピンチを用いた方法があるが、我が国ではレーザー核融合*63を中心として研究が進められてきた。我が国のレーザー核融合研究は、平成元年に激光XII号レーザー*64(大阪大学)による爆縮*65実験で固体密度の600倍(密度600g/cc、太陽中心密度は150g/cc)の圧縮を達成する等、世界のレーザー核融合研究を牽引する役割を果たし(別添9)、これにより、世界の研究は点火・燃焼の実証に移行した。爆縮する燃料の圧力による仕事で燃料中心部を加熱する従来の「中心点火」*66方式で核融合炉に必要な点火・燃焼を実現するためには、メガジュールクラスのレーザー入力エネルギーが必要である。欧米では、このクラスのレーザーエネルギーを持ったNIF*67(米)とLMJ*68(仏)の建設が進んでおり2013年頃に核融合点火・燃焼の実証が期待されている。
一方、我が国のレーザー核融合研究では、点火・燃焼の実現に必要なレーザー入力エネルギーを一桁も大幅に低減することのできる「高速点火方式」を提唱・推進している。これは爆縮により生成した超高密度プラズマ*69を別の超短パルスレーザー*70で追加熱することにより点火を実現する方式であり、その原理実証実験の一環としてペタワットレーザー*71を用いた実験において爆縮プラズマを1千万度に加熱することに成功した。
これを受けて、「高速点火」方式による点火燃焼を目指したFIREX計画が提案され、その第1期(目標:5千万度〜1億度の実現)が開始された。
(3)その他の閉じ込め装置
逆磁場ピンチ*72プラズマ研究では、TPE-RX装置*73(産業技術総合研究所;以下、産総研)でポロイダル電流駆動*74を用いた電流分布制御により、数倍のエネルギー閉じ込め改善を得て、エネルギー閉じ込め時間として10ミリ秒にまで到達した。またREPUTE装置(東京大学)では、極低q(ULQ)領域の準安定な配位が実験的に見出され緩和現象に関する理解が進んだ。
ミラー閉じ込めプラズマ*75研究では、GAMMA-10装置*76(筑波大学)で、電位形成*77の物理機構、およびプラズマ閉じ込めへの電位の効果について実験研究が進展した。
コンパクトトーラス*78研究では、FIX装置(大阪大学)で高ベータプラズマ保持の研究が進んだ。また閉じこめ磁場構造形成に伴う磁気リコネクション*79現象に対する物理解明が進み、研究の拡がりとして磁気圏や宇宙・太陽プラズマとの関連研究が進展した。
球状トーラス*80研究では、TST-2*81(東京大学)、LATE*82(京都大学)でオーミックコイル無しの高周波による先駆的な電流立ち上げ研究が進み、TS-3/4装置*83(東京大学)ではプラズマ合体による球状トカマクの形成・加熱研究が推進された。
内部導体装置*84での研究として、新たな緩和理論*85に基づいて立案されたProto-RT/Mini-RT*86(東京大学)が建設され、高ベータプラズマ保持を目指した研究が開始された。
また、CSTN-IV*87・HYBTOK-II(名古屋大学)では、高性能ダイバータの基礎研究、およびNAGDIS-II*88(名古屋大学)ではプラズマ壁相互作用(デタッチメント現象*89等)の研究が進められた。
2.4 炉工学研究
2.4.1 実験炉(ITER)に向けた研究開発
ITERに向けた炉工学研究開発に関しては、ITER各主要機器の製作技術を確立するとともに、ITERの要求性能、もしくはそれを上回る機器単体の性能を実証し、ITERの建設に向けた技術基盤の整備が進んだ(別添10)。
【炉心を構成する機器】
− | 超伝導磁石*90:ITERでは大型・高磁場超伝導磁石が必要になるが、要求される高い通電電流や磁場強度(各々、約40kA、13T)をニオブ・スズ*91の超伝導線材とそれを用いたコイルを開発して達成し、また、ITERの設計要求を上回る高い磁場変化速度(1.2T/s)の条件下でのパルス動作の健全性を実証した。 |
− | 炉構造、遠隔保守*92:内壁と外壁の二重壁構造を有する真空容器セクターを製作し、高い精度の製作技術を実証するとともに、重量約4トンのブランケット*93を遠隔保守するための炉内自走式保守システム*94を開発し、ブランケットの高精度な取り付け(設置精度±2mm以下)、取り外し、検査技術を実証した。 |
− | プラズマ対向機器:高性能な表面保護材、接合技術*95、冷却構造を開発し、高熱負荷(最大20MW/m2)に耐えるダイバータ板*96の開発に成功した。 |
− | 加熱・電流駆動機器:プラズマを加熱し、プラズマの中に電流を流すための負イオン・ビーム用いた中性粒子入射装置の高エネルギー化(1MeV)や電子サイクロトロン波入射装置等の高周波数化・高出力化(各々、170GHz、1MW)等の成果が得られ、その整備が着実に進展した。 |
− | トリチウム取扱い技術:トリチウムプロセス研究棟TPL*97(原研)での試験や日米協力による燃料循環模擬システム(トリチウムシステム試験施設TSTA:ITERの1/6規模)の開発・1ヶ月の連続試験により、トリチウム取扱いの基盤技術を確立した。また、ITER工学R&Dによりその高度化が図られた。 |
− | 計測・制御機器:ITERの基本計測系について、ITERの放射線環境と長時間運転への対応性能についてほぼ見通しが得られた。 |
− | システム統合技術*98:JT-60、LHD、TRIAM-1M等の建設、改造、運転を通して、磁場核融合装置のシステム統合化技術に関する重要な知見の蓄積が進展した。また、核融合中性子源施設FNS*99(原研)を用いた遮蔽実験等により、ITER運転時及び保守時の放射線環境の評価を行い、遮蔽設計の妥当性を実証した。 |
2.4.2 原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成
原型炉に向けた炉工学研究開発に関しては、核融合会議の下で核融合炉ブランケットの研究開発の進め方と中期的展望に立った核融合炉第一壁構造材料の開発の進め方が策定され([8],[9])、これに基づいてエネルギー変換とトリチウム生産を機能とする増殖・発電ブランケットや第一壁構造材料の研究開発が展開された(別添11)。
− | 増殖・発電ブランケット開発:リチウム化合物*100の固体微小球充填型固体増殖ブランケット*101の要素技術開発を進めることにより、設計概念の成立性を見通すための基盤技術が整備され、工学レベルでの研究開発を展開する準備がほぼ完了した。 |
− | 構造材料:大きな照射損傷量*102(100〜150dpa)に耐え、放射化*103の少ない構造材料の開発では、主要候補材料の低放射化フェライト鋼を中心に、原子炉等を用いた照射試験(20〜40dpaレベル)を進め、優れた耐久性を示す見通しが得られた。 |
− | 材料照射試験装置*104:核融合炉と類似の中性子*105環境下での材料照射データの蓄積を行う施設として、国際エネルギー機関(IEA)*106の国際協力の下で、国際核融合材料照射施設(IFMIF)*107の検討を進めた。これまでに実施された概念設計や要素技術のR&Dにより、工学設計段階に進み得る技術基盤の整備が完了した。 |
2.4.3 その他の炉工学の研究
(1)レーザー方式に関する技術開発
レーザー核融合装置開発の最も重要な課題は、電気からレーザー光へのエネルギー変換効率*109及び繰り返し動作頻度の高い高出力レーザーの開発である。炉用レーザーは小型のモジュールを多数組み合わせることにより実現されるので、その1モジュール(出力100J-1kJ、繰り返し率5-10Hz)とそれらを合成する技術を開発することが目標である。
これに関しては、レーザーダイオード励起固体レーザー(DPSSL)*110の研究開発が行われて出力10J、繰り返し率10HzのHALNAレーザー*111の開発(大阪大学)、出力20J・繰り返し率1Hzのエキシマ(KrF)レーザー*112の開発(Super-ASHURA(産総研))に成功する等、核融合炉用レーザー技術開発及び学術研究が着実に進展した。
(2)炉工学の基礎研究
中性子の照射効果*113も含めた核融合炉材料(構造材料・増殖材料・機能性材料)のデータベースの充実と先進材料開発、材料照射損傷モデリング*114の構築とその理論的・実験的取扱い、電磁熱構造解析*115手法の確立、中性子輸送*116計算手法やデータベースの拡充・プラズマ壁相互作用に関する理論的・実験的研究、安全取扱いや環境中挙動・生物影響も含めたトリチウム理工学等に大きな進展が見られた。特に、液体ブランケットや高温ガス冷却ブランケット等の先進ブランケットを実現するための基礎研究として、バナジウム合金製造の高度化やSiC系複合材料の技術開発、並びに酸化物分散強化鋼の開発、溶融塩や液体金属等の液体増殖材料の基礎科学、加速器を用いた構造材料に対する粒子照射シミュレーション実験、絶縁材料の放射線照射効果に対する研究等が進められた。これらの一部は、日米共同研究プロジェクト(FFTF-MOTA、JUPITER)を通して効果的に実施された。
2.5 核融合炉システムの設計
核融合炉システムの研究においては、トカマク型核融合炉の設計検討を中心に、経済性や環境適合性の改善等を目指した研究が進展した。1990年に設計が行われた核融合炉SSTR*117の改良設計や環境安全性評価が進むとともに、電力中央研究所においては高経済性炉CREST*118の設計が行われた(別添12)。これらを受けて、核融合会議開発戦略検討分科会において、トカマク型核融合炉と様々なエネルギー源とのシステム比較が行われた[5]。
また、各種関連データベースの拡充と核融合炉設計手法の確立に大きな進展が見られ、原型炉の概念設計ができるレベルに達した。
2.6 安全性研究[別添13]
安全性に関する研究では、放射性物質の閉じ込め機能の健全性に関する評価とトリチウムプラント機器の研究が進むとともに、トリチウム除去設備の開発が進んだ。
さらに、ITERを対象とし、トリチウム等放射性物質の分布状態と特性、その閉じ込めの確保と健全性等に関する種々の工学安全データの蓄積や解析・評価手法の整備が進み、ITERの国内建設に向けた安全確保に関わる基本的な考え方や必要な安全上の技術的基盤が整備された。
また、トリチウムの環境移行挙動研究やモニタリング技術、トリチウムの生物影響研究、JT-60等における真空容器内トリチウム計測・管理技術、トリチウム機器の除染・保守を含む安全取扱い経験の蓄積等が進められた。
文部科学省や原子力安全委員会においては、これらを踏まえ、ITERの安全に係る論点を整理・検討し、ITERの安全確保や安全規制のあり方についての考え方を示している。[10],[11],[12]
2.7 学術研究としての成果
2.7.1 プラズマ閉じ込めに関する学術研究としての成果
プラズマ閉じ込めに関する学術研究はプラズマ物理学を中心とする基礎科学の発展に貢献している。種々の磁場閉じ込めプラズマの研究において、プラズマ輸送現象、プラズマ乱流の振舞い、構造形成や遷移現象*119等が共通するプラズマの物理として理解され、他分野との関連も含め普遍化を通じて学術研究基盤が充実してきた。
例えば、層流の空間勾配(シア)が乱流を引き起こす現象は流体において一般に見られるが、層流のシアが乱流を抑制する現象はプラズマにおいて初めて観測された。乱流抑制の原因となる層流が乱流の波長変換を通じて駆動されるため、輸送における強い非線形性とプラズマの自律的な空間構造形成をもたらす。閉じ込めプラズマにおける乱流と輸送の研究は、流体力学における非線形性と自己構造形成に関する新たな知見をもたらした。
また、プラズマ状態の遷移現象に関する研究がトカマク、ヘリカル、ミラー型等の装置で進められ、リミットサイクル*120(遷移、逆遷移の繰り返し)が観測された。リミットサイクルは生命体を始め開放系非平衡状態物質で見られる自己安定状態である。強い非線形性をもつプラズマにおける自己安定状態の研究は、開放系非平衡物理の分野の進展に貢献した。
トカマク、ヘリカル、ピンチプラズマ等の磁場核融合プラズマで研究されている磁気リコネクションの研究は太陽の黒点等においても観測されている現象に深く関連しており、宇宙プラズマ物理と共通の基礎科学としてのプラズマ物理学の発展に寄与した。
一方、レーザー核融合研究における爆縮実験においては、これまで星の内部でしか存在しなかった極限状態を作り出すことが可能になり、実験室天体物理やレーザー核物理*121に代表される高エネルギー密度科学*122と呼ぶべき新しい学術領域を創出してきた。
中小規模の装置を用いて、計測技術の開発が行われた。核融合科学の学術基盤の強化を目指し、新しい熱制御・粒子制御方法が開発された。また原子分子過程を含むプラズマ基礎過程等の研究も行われた。
2.7.2 核融合プラズマの理論・シミュレーション研究
核融合プラズマ理論の分野においては、計算科学手法の進展によって第一原理*123に基づく理論・シミュレーション研究や非線形プラズマ理論の分野において進歩が得られた。
トカマクの分野では、大規模シミュレーションによる輸送、電磁流体安定性*124、電流駆動、ダイバータ分野の理解が進んだ。特に、1億個程度の粒子軌道と静電揺動*125を自己無撞着に解くジャイロ運動論*126線形・非線形乱流輸送コード群が発展した。
これまでの古典的な理論モデルでは説明できない特異な構造を伴った磁気リコネクション過程等、高性能プラズマの性能向上を制限する様々なプラズマのMHD非線形ダイナミックス*127が明らかとなり、内部輸送障壁*128等の構造を有する高性能プラズマの制御・保持に関する理解が進展した。
物理モデルの提案、計算コードの開発、実験との系統的な比較に基づき、実験を定量的に説明するモデリングの開発が進められてきた。核燃焼プラズマのシミュレーションを目的として核燃焼プラズマ統合コード*129に必要な理論モデル、解析コード、実験データベースが整備されてきた。
一方、レーザー核融合分野では、超高圧かつ超高密度のプラズマに関し、状態方程式やX線エネルギー輸送の理論を含む高エネルギー密度プラズマ物理の理論の体系化が進み、爆縮プラズマや天体内部等の超高密度プラズマの振舞いのシミュレーション・理論予測が可能になっている。
2.8 産業界への波及効果[別添14]
核融合炉工学技術は、様々な工学分野での未踏革新技術の成果の上に進展を遂げてきており、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス、情報・通信、環境分野を始め、多くの産業分野に波及効果をもたらしてきている。
核融合プラズマ加熱用に開発された正イオンビーム技術は、ハード・ディスクや大型液晶ディスプレイの製造等に適用され、製造技術の飛躍的な向上に寄与している。また、負イオンビーム技術も、次世代半導体基板製造技術等への適用が検討されている。
核融合分野で培われた真空技術は、超高真空・大容量排気の特徴を活かし、ナノテクノロジーや半導体製造の基盤となる超高真空環境の作成に応用されている。また、表面加工技術は機械加工用超硬工具に幅広く適用されている。
環境分野では、核融合の選択排気技術*130が半導体製造過程で使用される地球温暖化ガスの一種である全フッ素化化合物(PFC)ガスの分離・回収技術に適用され、その実用化が計画されている。
超伝導技術においても、線材の高性能化や製造基盤の整備等、核融合分野が大きく牽引役を果たし、磁気共鳴画像(MRI)による医療診断や核磁気共鳴(NMR)を用いたタンパク質の構造解析等の分野の超伝導応用の進展に貢献した。
さらに、プラズマ加熱用に開発された高周波技術は、セラミック焼結技術として応用が進められている。
レーザー核融合研究で開発された原子過程のシミュレーション・コードや診断技術、ペレット技術*131を利用して、次世代半導体のための極端紫外光源開発*132が進むと共に、そのためのレーザー技術開発が行われている。
2.9 人材育成
若い優秀な人材を育成するには、魅力あるチャレンジングな場を提供することが重要である。全国の大学や総合研究大学院大学における大学院学生の教育・研究指導によって多くの研究者・技術者が育成された。これまでの核融合研究においては、大学での中小規模の実験装置での萌芽的・革新的研究が、このような若手研究者・技術者の育成には大変有効に機能した。また、大学共同利用機関である核融合研を中心とした共同研究や日米科学技術協力事業等の国際協力等も、若手研究者・技術者の活躍の舞台として有意義であった。さらに、原研等の研究機関等での大型実験装置を用いた国際的研究や企業と共同で行う最先端機器の開発等でも、優秀な若手研究者・技術者を数多く輩出するのに大いに貢献してきた。このための制度として、連携大学院制度の活用や、日本学術振興会(以下、学振)特別研究員、原研博士研究員の増員等は、若手研究者・技術者の活躍の場を確保する上で、有効に機能した。
しかし、産業界では、核融合に関する受注の減少から、技術者の大部分が核融合分野から他の分野へ移動しており、技術の維持・継承が難しくなっている。
2.10 国際協力
核融合においては、研究開発規模の拡大に伴う人材や資金の増大に対処して、効果的・効率的な研究開発を進めるために、国際協力は極めて有効である。我が国が進めた国際協力を別添15に示す。
国際エネルギー機関(IEA)の下のOECD/IEA協力では、大型トカマク協力計画、ステラレータ研究協力計画、逆磁場ピンチ研究開発計画や核融合炉工学における核融合材料研究開発計画(IFMIF計画を含む)や世界最高レベルの試験施設である核融合炉物理用中性子源(FNS、原研)、高熱負荷試験装置(JEBIS、原研)、ブランケット試験装置(原研)等における国際共同試験、核融合の環境・安全性・経済性研究計画等の幅広い研究協力を行った。
国際原子力機関(IAEA)における協力では、多国間協力として核融合エネルギー会議や専門家会議、実験炉ITER計画を進めた。特にITER計画では、平成4年から9年間に亘って実施された工学R&Dの中で最も重要な課題であった中心ソレノイドモデルコイル試験計画に関し、日本(原研)が幹事極となって試験設備を提供し、関係各極の研究者と協力して試験計画を完遂し、建設に向けた技術基盤の構築に大きく貢献した。
二国間協力は、米国、欧州、カナダ、豪州、ロシア、中国、韓国等との間で進められた。特に日米間においては、エネルギー研究開発等に関する日米協力協定の下で、核融合調整委員会が設置され、交流計画、共同計画、共同プロジェクト、データリンク協力計画、および核融合理論共同研究の5つの形態で広範に進められた。
我が国から外国への研究参加としては、米国内のトカマク装置DIII-Dを用いた先進的なプラズマ閉じ込めの研究、原子炉FFTFやHFIRでの材料照射共同実験、トリチウムシステム試験施設TSTAを用いた燃料循環システム及びトリチウム安全工学共同試験、データリンク協力等が実施された。またIEAの核融合環境・安全性・経済性実施協力、日加協力の一環として行われたカナダにおけるトリチウム環境放出実験やTFTRやJETでのDT実験参加は国際協力によってのみなし得た成果である。これらの国際協力には原研、産総研等の研究開発機関、核融合研および各大学の研究者、および産業界からの数多くの技術者が参加した。
外国から我が国への研究参加としてはIEA大型トカマク協力の枠組で、定常化研究や負イオンNBI装置等で世界の先端を行くJT-60装置に多くの外国人研究者が参加した。また、ITER工学R&Dで我が国が主要な役割をした中心ソレノイドコイルの試験等に米国、欧州、ロシアの研究者が参加した。また、世界最大の超伝導大型ヘリカル装置であるLHD、超伝導トカマクTRIAMや高性能のGEKKOレーザー/高速点火用ペタワットレーザー実験に、IEA協力協定、日米協力事業を通じて世界各国の多くの研究者が参加した。さらに、LHD国際共同研究計画(LIME)により、LHD装置を中心として欧州(特に独、西)、米国、豪、ロシア、ウクライナ、等の世界のヘリカル研究グループとプラズマ閉じ込め及び、炉工学分野の共同研究が活発に行われた。
3.1 核融合エネルギー早期実現のための開発戦略
核融合発電を実用に供するには、発電システムとして技術的に成立させるとともに、数多くあるエネルギー源に対して経済的な競争力を持つことが必要である。このため、今後核融合エネルギーの実用化を検討する大前提としては、経済性の見通しを持つことと、安全性、運転信頼性を実証することが必要である。
実験炉であるITER計画が今や建設段階に移行しつつあること、トカマク方式における定常運転方式の原理実証が行われたこと、発電に向けた炉工学の基礎が進展したことを踏まえ、トカマク方式において、一定の経済性を念頭においた原型炉に向けての開発研究をITERと並行して進めることが妥当である。
トカマク型核融合炉の運転方式としては、電磁誘導を用いた間欠運転方式*133と非誘導の定常運転方式があるが、経済性や熱疲労等の技術的観点から定常運転方式の核融合炉を実現することが望まれる。
核融合エネルギーの実用化に向かって最も合理的な計画を作成するため、必要な技術開発の中でITERのような統合装置でしか実現し得ない課題と、要素技術開発によって実現し得るものを精選し、統合装置の数を絞ることが重要である。
そこで、早期実現に向けて平成4年の第三段階計画付属文書「核融合研究開発の推進について」をこれまでの研究の進歩を踏まえて見直し、原型炉の技術仕様の明確化と、原型炉の開発を念頭においた実験炉段階での施策の明確化を行った。
3.1.1 開発段階の考え方
平成4年の「核融合研究開発の推進について」では、実験炉段階及びそれ以降の開発段階として(1)自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成、(2)定常炉心プラズマ*134の実現及びプラント規模での発電の技術的実証、(3)発電プラントとしての経済性の実証の3段階をとり、そのための中核装置として、実験炉、原型炉及び実証炉の各段階が必要とされている。また、長期的観点から、実験炉段階から核融合炉の中性子照射に耐える構造材料の開発を行うとしている。
第2章に述べたトカマク方式の研究進展により、ITERでの定常運転の実現が見通せる段階に達したことを踏まえると、原型炉段階の定常炉心プラズマの実現については、高いエネルギー増倍率(Q〜30程度以上)との同時実現性を除けば実験炉段階への組み込みが可能と判断できる。それを踏まえ、原型炉段階のプラント規模での発電の技術的実証がITERで前倒しして可能かどうかの検討も行った。その結果、原理的には可能であるが大幅な設計変更や安全に関わる考え方の見直し、国際合意の形成等が必要であり、当面は発電ブランケット試験体による機能実証と小規模発電を目指すことが適当と結論した。
一方、(3)の経済性の実証に関わる技術課題については、発電単価の低減を目指すには、総建設費を抑制すること、すなわちITER程度の炉心寸法で高い出力密度を得ることが最も重要で、そのためにはプラズマ圧力と磁場圧力の比であるベータ値を高めることや周辺プラズマ制御による熱流低減が有効であり、原型炉段階において経済性実証に係るこれら技術課題を組む込むことが可能であると判断できること、発電プラントの中性子照射に耐える材料の開発やその他の経済性に関わる技術開発は要素技術開発として実施可能と予想されることが認識された。
以上のように、統合装置で実施することと要素技術開発で実施することの整理ができたことを踏まえ、核融合エネルギーの早期実現の観点から、原型炉段階において高いエネルギー増倍率を持つ定常炉心を実現し、同時にプラント規模での発電実証を一定の経済性を念頭において実現することを目標とすることが妥当であるとの結論を得た。そこで、実験炉段階においては、この目標を実現するために必要となる研究開発を実施することとする。なお、原型炉段階の後については民間主導で実用化を進めることが望ましいが、その時点での推進の方策については、ITER計画を始めとする研究の進捗や原型炉計画の具体化をもって、今後さらに検討することとする。
3.1.2 段階の移行と実用化にむけて
ITER計画では、核融合燃焼プラズマ制御技術の確立を中心とした技術目標を掲げており、ITER最終設計報告書によれば、最短ではITER運転開始後約7年程度(2020年代初頭)で主要な基本性能の達成が期待される。核融合エネルギーの早期実現のためにはITERでの基本性能の達成を受けて原型炉の建設を進めることが望ましい。
このためトカマク方式においては、ITERの主要な基本性能が達成される時期までに原型炉段階への移行の可否を判断するため、トカマク方式による原型炉建設に必要な研究開発を総合的に進める必要がある。2020年代初頭に原型炉段階への移行を行い、速やかに原型炉の建設を進めることができれば、2030年代から連続的な発電、安全性と経済性、運転信頼性の見通しを得ることを目的として原型炉による試験研究と改良を進めることが可能となり、今世紀中葉までに実用化の見通しを得ることも視野に入れることが可能と判断される。
3.1.3 トカマク型原型炉
トカマク型の原型炉は、ITER程度の炉心寸法と百万kWレベルの発電能力を持つことが想定される。この原型炉は、1年程度の連続運転が可能であるとともに、高いプラント効率*135や送電端での高い出力安定性、及び1を超える総合的なトリチウム増殖率(TBR)*136が必要と考えられる。このような原型炉に要求される技術仕様を以下に示す。
炉心プラズマについては、3-4百万kWレベルの熱出力を実現するために、核融合出力密度をITERより数倍高める高プラズマ圧力運転を実現すること、ITERの標準運転を大幅に越える年レベルの連続運転を可能とする非誘導の定常運転と熱・粒子の制御を実現することが目標となる。
低放射化フェライト鋼等が有力と考えられるブランケット第一壁構造材は、最終的には、高出力密度運転で3-6年程度の中性子(中性子フルエンス*137で10-20MW年/m2程度)と熱流束*138(1MW/m2程度)に耐えることが要求される。
多数のモジュールで構成される増殖・発電ブランケットはプラント内でトリチウム燃料を自己生産し燃料の自給性を実現するという本質的な機能を果たすため、ディスラプションに対する耐性を確保しつつ高い信頼性でトリチウムの増殖・回収を実現する必要がある。
高温プラズマから出てくる熱の除去と粒子の排出を行うダイバータ機器は、ブランケット第一壁より高い熱流束や粒子束に晒されることから、数年レベルの中性子照射への耐性と耐粒子束性能を持った高熱流束機器*138である必要がある。
また、数年に一度の定期交換が予定される第一壁やダイバータ板の保守期間は、プラントの稼動率を低下させないよう十分短い必要がある。さらに、加熱・電流駆動機器の連続運転信頼性も年程度に向上させる必要がある。
なお、核融合エネルギーの実用化に繋がる開発計画の経済合理性に留意する観点から、その建設費については将来の実用化を視野に入れて許容できる範囲に抑制することが必要である。
3.1.4 実験炉段階での開発研究
核融合エネルギーの早期実現を目指すため、実験炉段階において、原型炉実現に必要となる開発研究を総合的に実施する。
その研究開発として、1)自己加熱が支配的な燃焼プラズマ制御技術*139の確立、2)定常炉心プラズマの実現、3)システムの統合化技術の確立と発電ブランケットの試験、4)経済性見通しを得るための高ベータ定常運転法の確立、5)原型炉に関わる材料・炉工学技術開発、6)原型炉の概念設計が必要である。また、7)理論・シミュレーション研究、8)社会・環境安全性の研究を進めることが重要である。
実験炉段階で上記の開発研究を進めるには、統合装置であるITERを最大限に有効利用することが重要であるが、ITERでの実施が困難なものや、ITERへの適用の前に原理実証を必要とするものについて、燃焼を伴わず機動性を有するJT-60施設を活用することは意義がある。原型炉の設計は、それ以外の開発研究成果の反映と技術的整合性に留意しつつ進める必要がある。材料・炉工学技術開発については、要素技術開発として試験装置の整備を行いつつ、前述5)を行うとともに、着実に開発研究を進めるものとする。
(1)ITERによる研究開発
燃焼プラズマ制御技術の確立
トカマク型の原型炉では30程度以上のエネルギー増倍率が必要であるが、ITERにおいてアルファ粒子による自己加熱が主要になる自己点火領域(エネルギー増倍率20程度以上)の燃焼プラズマを実現してその物理的理解を進め、燃焼プラズマ制御の見通しを得ることが必要である。
定常炉心プラズマの実現
トカマクではプラズマ電流を流してプラズマを閉じ込めているため、非誘導の定常運転法をITERで確立し定常核燃焼を実現する必要がある。そのときのエネルギー増倍率Qとしては5以上を達成する。またその有効性を実証するに必要なプラズマ継続時間としては、電流拡散時間*140等の物理時定数を上回る1000秒程度以上が求められる。
一方で、連続運転時間が1年程度にも及ぶ原型炉に向けて、ダイバータプラズマ熱流束低減法や低スパッタリング*141・低トリチウム吸蔵プラズマ対向機器の開発についてITER等を用いて実施する。
システムの統合化技術の確立と発電ブランケットの試験
ITERの建設・運転を通じて超伝導磁石技術や核工学技術を含めたシステム統合技術の確立を図るとともに、核融合燃焼を行う装置としてのITERの安全性実証を行う。また、原則的に各極独自の活動として、試験体等によるトリチウム増殖・発電ブランケット機能実証を進め、発電ブランケットに関わる基本的な技術を獲得する必要がある。
(2)高ベータ定常運転法の原理実証
トカマク型原型炉では、核融合発電の経済性見通しを得るために、ITER程度の炉心寸法でプラズマ圧力をITERの2-3倍に増加させ高出力密度を実現する必要がある。このためには、プラズマ圧力と磁気圧の比、ベータ値を高めた定常運転を実現すること(高ベータ定常運転)が最も有効である。
トカマクの到達可能なベータ値はアスペクト比*142、プラズマ形状*143、帰還制御*144に依存することが知られており、この原型炉に向けたトカマクの改良研究として、核融合炉に近いプラズマ条件を実現できるJT-60等の施設を活用することは意義がある。
その成果は、可能な限りITERに反映することが重要である。一方で、ITERの除熱能力やアスペクト比、プラズマ形状は概ね定まっていることから、改良研究のいくつかの結果は原型炉の設計に直接反映することが求められる。
(3)原型炉に向けた材料・炉工学技術開発
原型炉のための要素技術開発として着実に進めるべき材料・炉工学技術開発には、1)増殖・発電ブランケットの開発、2)構造材料開発、3)核融合材料照射施設を用いた材料試験、4)超伝導磁石・加熱技術の高度化、及び、5)トリチウムおよび工学安全性に関する技術開発が挙げられる。
増殖・発電ブランケットの開発は、原型炉における燃料自給性*145、発電実証に不可欠な技術開発であり、また経済性見通しに関わる重要な研究開発課題である。
構造材料開発については、原型炉で予想される高い中性子束と熱流束に耐える構造材料の開発を進める必要がある。
原子炉照射では、核融合炉レベルでの材料照射損傷量(dpa)についての試験は実施できるが、核融合炉で発生する高いエネルギー(14MeV)を持つ中性子特有の作用である水素やヘリウムといった気体状核変換生成物の効果を模擬することはできない。このため、核融合炉の中性子照射環境と類似した中性子場を作り、核融合炉材料の特性変化を把握し、増殖・発電ブランケットへの使用可能条件を明らかにするための材料試験が必要である。
超伝導磁石技術開発については、原型炉の高出力密度化に関して高ベータ化と相乗する高磁場化(16T程度以上)によって経済性向上を目指す観点からその高度化が必要である。加熱・電流駆動装置については、原型炉における設計仕様を踏まえつつ、その信頼性と経済性の向上を進める。
また、ITERにおいて燃焼プラズマ装置およびトリチウムプラントの安全性の実証が行われる一方、原型炉ではじめて本格的な増殖ブランケットと発電プラントが設備されることを踏まえ、特有の安全性課題の解決を目指すトリチウムおよび工学安全性研究を行う必要がある。
(4)原型炉の概念設計
トカマク型原型炉の実現に必要となる研究開発を総合的に実施する観点から、3.1.3に示された原型炉の概念を一層明確にすることが求められる。このため、実用炉につながる経済性見通しと安全性・環境適合性を高め、廃止措置まで考慮したトカマク型原型炉の概念設計研究を進める必要がある。また、概念設計を行う際には、実用プラントを視野において民間事業者の参画を得ることが必要である。
(5)トカマク理論・シミュレーション研究
上記の研究開発に当たっては、ITER燃焼プラズマや定常高ベータプラズマの乱流輸送、プラズマ安定性、高エネルギー粒子の挙動、加熱・電流駆動特性、ダイバータ特性の理解を進めることにより、原型炉のプラズマ性能に関する予測性を高めることが必要となる。そのために、トカマク理論・シミュレーション研究を進めることが重要である。
(6)社会・環境安全性の研究
原型炉は許認可や社会的な受容を含め、核融合エネルギーの安全性を社会システムの中で確立するものであり、安全性はこれまでの核融合研究の枠を広げて社会的・環境的適合性を確保する必要がある。そのためには、核融合に特有の安全性を「より公衆にわかりやすく」、「より社会が扱いやすい安全技術」、とするために社会、環境の中で評価するとともに、放射性廃棄物等の処分方法について検討し、社会的に認知されるための広い視野での安全性研究の展開を行う必要がある。
3.2 核融合に関する学術研究の意義・位置づけ
これまでの大学等における核融合研究は、独創的アイデアを生かし、大学等において多様な閉じ込め方式の研究に挑戦し、成果を上げて来た。
今後の核融合研究は、科学技術・学術審議会学術分科会基本問題特別委員会核融合研究ワーキング・グループ(以下、核融合研究WG)*146の提言[13]にあるように、JT-60、LHD、GEKKO-XIIを中心として研究の効率化・重点化を図る。
ヘリカル方式とレーザー方式はトカマクに次ぐ閉じ込め性能を持つとともにトカマクに無い特徴を持ち核融合炉の選択肢を拡げる観点から、引き続き大学等において学術研究に重点をおいて研究を進める。核融合に関する学術研究においては、ITER、及び、トカマク、ヘリカル、レーザー、炉工学における研究や、独創的な発意に基づく新たな可能性の探求を通じて新たな知見を蓄積しつつ、体系化された学理の構築が求められる。また、これらを通じてITERへの貢献や人材育成に努めることが求められる。また、原型炉の設計には、これらの研究成果を適宜反映する必要がある。
3.2.1 トカマク方式以外の重点化計画
ヘリカル方式:磁場閉じ込め方式でトカマクに次ぐ閉じ込め性能を実証したヘリカル方式の閉じ込め比例則が概ね確立され、それに基づくトカマクとの達成可能な閉じ込め性能(エネルギー増倍率等)の比較から、ヘリカル方式がトカマク方式を上回る閉じ込めを得るためには、一層の閉じ込め改善が必要であることが明らかになった(別添4)。ヘリカル方式は、その3次元構造に起因した磁場配位の多様性に鑑み、さらなる最適化の余地がある。LHDによる研究を中心として、ヘリカルプラズマの性能向上と磁場配位の最適化研究を世界のヘリカル研究と連携しつつ推進し、多様なヘリカル磁場配位の中からヘリカル型核融合炉心プラズマの方向性を明らかにするとともに、トカマクとの異同の理解を通じてトーラスプラズマの総合理解に向けた研究を進めることが必要である。
レーザー方式:レーザー方式は、磁場閉じ込め方式とは原理的に異なった核融合の研究開発として意義がある。高速点火レーザー方式では、高密度に圧縮された燃料の一部をレーザーで加熱することにより核融合点火を起こし、点火領域から発生するアルファ粒子が燃料を順次加熱して、燃料全体を燃焼させることにより、最終的なレーザー核融合炉で必要となる100以上の高いエネルギー増倍率の目処を得ることを目標とする。高速点火方式の実証については、(1)比較的小規模の装置を用いて燃料を点火温度まで加熱することを実証し、(2)大規模の装置を用いてアルファ粒子の飛程より大きな燃料を加熱して点火・燃焼を実証するように段階を追って進めることが必要である。
以上、トカマク方式とそれ以外の方式の評価と推進状況の変化を踏まえると、トカマク以外の方式については、トカマク方式による研究とは独立に、その方式に適した研究推進を図ることが必要である。
現在進められているLHD計画とFIREX計画は、引き続き、大学等において学術研究に重点をおいて研究を進め、その進捗を踏まえ適切な時期に核融合炉としての可能性に関する評価を実施し、その後の計画の進め方を検討する。
3.2.2 核融合基盤研究の充実
核融合に関する学術研究は、多様な拡がりをもつ研究を展開し、その成果の体系化、普遍化によって進展する。ITERやトカマク、ヘリカル、レーザー等の大型装置による研究を通じて、新たな知見を獲得することが重要であることは言うまでもないが、大型装置では得られないプラズマ領域を実現できる斬新なアイデアに基づく中小規模のプラズマ実験装置を用いた研究、例えば、球状トーラスや新型式の内部導体等の研究や、新規の計測器類の開発、プラズマ・熱粒子制御の研究など大学等における核融合プラズマ科学の基礎実験に関し、今後も研究を進めて行く必要がある。
また、大規模シミュレーション技術や情報技術を駆使する理論・シミュレーション研究を推進し、核融合プラズマの基礎科学の充実を図ることが必要である。
炉工学分野においても、材料開発を目指した国際共同研究計画等に沿った研究を進めるとともに、特徴ある中小規模の工学研究装置を用いた斬新なアイデアに基づく材料・炉工学の基礎研究は今後も重要であり、その充実を図る必要がある。
3.2.3 学術としての普遍化
多様な要素が複雑に統合された核融合炉開発研究では、研究成果を要素還元して学術として体系化・普遍化することが重要である。また要素還元された基盤学術の複合により新たな学問領域の創成も期待される。
具体的には、ITER、及び、トカマク、ヘリカル、レーザーの共同研究重点化装置、独創的な中小規模のプラズマ装置、大規模シミュレーション等による理論研究、材料・炉工学の開発研究と基礎研究がもたらす様々な研究成果は、核融合研究の体系化された学理の構築を通じて、プラズマ物理学、宇宙・天体プラズマ物理学、プラズマ応用学、計算科学、材料科学、原子力工学、電気工学、極限状態の高エネルギー密度科学や最先端の超高強度レーザー技術等の多くの領域の科学技術と学術研究に貢献できる。また、核融合プラズマが示す複雑系としての特性の理解は、近年その重要性が高まっている複雑性科学*147への重要な貢献をする可能性がある。このような体系化された学理の構築に向けた大学等における学術研究を一層促進する必要がある。
3.3 人材育成と核融合基盤技術の持続的な発展
3.3.1 人材育成
実現まで長期間を要する核融合研究において、ITER計画のような国際的大型プロジェクトを成功させ、かつ我が国が主導的役割を担うためには、高度な専門教育と世界の先端を担う研究環境での不断の人材育成が必須である。
平成15年1月の核融合研究WG報告書に謳われているように、人材育成において、多様かつ魅力ある研究の機会を若い優秀な研究者に提供することが必要であり、共同利用・共同研究を積極的に活用し、研究および研究者の積極的な交流・流動化を可能とする組織・制度設計を行う必要がある。大学等にあっては、双方向性を有する共同研究の一層の拡充を、大学以外の研究機関にあっては、高度専門性養成への努力に鑑み、大学等との連携・協力の強化に基づく人材育成の枠組みの検討が必要である。
またさらには、産業界を中心とした基盤技術の育成を支える人材確保の方策等を模索しつつ、広い視野に立ち科学技術創造立国を支える優秀な人材を核融合界から輩出することが必要である。
3.3.2 核融合基盤技術の持続的な発展
核融合エネルギー技術は、将来実用化されれば、我が国の基幹産業の一つと成り得る。特に、産業界に蓄積された技術の継承と発展を図ることが重要であるが、このためには、先端的な技術開発を必要とする実験装置の継続的な設計・製作が行われることが不可欠である。さらには、核融合研究で開発された先端技術の他分野への活用を積極的に進める必要がある。
3.4 国際協力の推進
今後の核融合研究開発においては、国際貢献の観点や、開発リスクおよびコストの低減の観点から、これまで進めてきたIEA、IAEA等の多国間協力や日米等の二国間協力を一層積極的に推進することが重要である。科学技術分野における我が国のリーダーシップが要請されていることからも、核融合の研究開発ポテンシャルを有効に活用した、主体的な国際協力推進が望まれているところである。特に、ITERへの参加はもとより、ITERを物理面で支援する国際トカマク物理活動(ITPA)等に積極的に参加し、ITER計画の支援研究への主導的貢献を目指す。
さらに、超伝導トカマクKSTARやEASTの建設を進め近年核融合分野で進歩の著しい韓国、中国等との国際協力をアジアの一員として強化することが重要である。
3.5 研究開発のバランスとチェック・アンド・レビュー
3.5.1 計画実施のバランス
3.1.4に述べたように、第三段階計画では、中核装置としてのITER計画を含む幅広い計画をバランス良く実施する必要がある。計画の推進にあたっては、「選択と集中」の考え方に基づいて研究開発資源の効果的かつ効率的な配分を行っていくべきであるとともに、以下のような点に配慮する必要がある。
第三段階基本計画の中核装置であるITERの運転開始は2015年頃、その技術目標の達成は2020年代初頭に期待されるが、その着実な目標の達成のために、我が国が分担する責務を果たす必要がある。
核融合エネルギーの実現を図る観点から、実験炉の技術目標の達成が期待される時期までに原型炉の概念設計、原型炉の開発に向けた炉心プラズマ・材料・炉工学の開発研究、社会・環境安全性の研究、理論・シミュレーション研究を並行して実施することとし、適切な資源配分を行うことが必要である。
学術研究と開発研究の異なる階層間の連携を充分に図り、早期実現を目指す開発研究と核融合研究の重要な柱である学術研究の間で、研究資源の適切な配分を行うことが重要である。
3.5.2 チェック・アンド・レビュー
核融合研究開発全体の進捗状況についての総合的なチェック・アンド・レビューは、エネルギー、環境、原子力等の他分野、および民間事業者からの参画を得て、概ね5年毎に実施することとする。
核融合エネルギーの早期実現を目指した開発研究については、所要の開発研究の進捗のチェック・アンド・レビューを踏まえ、原子力委員会は第三段階終了以前に原型炉段階への移行の可否を判断する必要がある。この原型炉段階への移行の可否の判断に当たっては、他の方式を含む核融合研究開発の総合的な進捗状況を踏まえるとともに、実用化を見据えることや民間事業者の参画を得ることも重要である。
核融合に関する学術研究については、その重点化計画であるヘリカル方式とレーザー方式を中心としてチェック・アンド・レビューを行い、適切な時期に研究の展開の方向を定めるものとする。
これらの多岐に亘る研究開発を有機的・効果的に進めるため、総合的なチェック・アンド・レビューとは別に、科学技術・学術審議会における提言や学会等の幅広い科学者、一般国民、産業界の意見を踏まえ、進捗状況を十分に把握して適切な対応策の検討を適宜行う必要がある。
4.1 トカマク方式による開発研究
トカマク型原型炉に向けた技術基盤を形成するために、実験炉ITERによる開発研究、トカマク改良研究、炉工学研究、核融合炉システム研究、トカマク理論・シミュレーション研究、社会・環境安全性の研究を進める。
4.1.1 ITERによる開発研究
ITER計画への参加を通じて核融合燃焼プラズマ制御と炉工学技術開発を進め、以下に述べる技術開発目標を達成する。また、ITERが核融合エネルギーシステムとして高度の機能を有することを考慮し、ITER設備の有効利用により原型炉の実現に向けた炉心・炉工学技術基盤形成のための研究開発を進める。
(1)核融合燃焼プラズマ制御
核融合燃焼プラズマ制御として下記目標の実現を目指す。この目標を達成するため、ITER燃焼プラズマの閉じ込め、安定性、電流駆動、ダイバータ熱粒子制御等の物理過程の理解を進める。これらの研究開発を進めるため、プラズマ計測の高度化とそれを用いた帰還制御技術の開発を行う。また、それを踏まえ原型炉のための燃焼制御や熱粒子制御技術に関わる研究を進める。
自己点火領域での燃焼制御:ITERを用いて、自己点火領域に相当するエネルギー増倍率20程度以上を維持し、核融合燃焼の制御性を実証することを目標とする。その際の核融合出力としては50万kW程度以下、誘導運転方式による維持時間としては数100秒程度以上とする。
長時間定常燃焼制御:原型炉で想定されている連続燃焼の基礎を確立するために、燃焼プラズマを、自発電流と非誘導電流駆動を組み合わせた定常運転法により長時間(1000秒程度以上)維持する。核融合出力50万kW程度以下でエネルギー増倍率5以上を目標とする。
(2)炉工学技術開発
要素技術:実験炉(ITER)の機器製作を分担実施することにより、主要構成機器・システムの製作技術基盤を確立する。また、ITERの運転に向けて、加熱電流駆動システム・基幹計測システムの総合性能の実証及び高度計測系の開発を実施する。
システム統合技術:ITERの建設・運転を通して、i)プラズマ放電や放射線環境下での超伝導コイルの性能実証、ii)放射線環境や運転履歴を受けた機器に対応する遠隔保守技術の確立とその高度化、iii)トリチウム燃料の処理技術・安全取扱い技術の実証、iv)プラズマ運転と整合した本体機器・プラントシステムの運転制御技術、v)熱・粒子・電磁力負荷と整合した炉内機器、燃料注入・排気・除熱システムの性能実証等、総合システムとしての性能を段階的に確認・実証し、安全性と信頼性を含め、核融合炉に不可欠な技術基盤を確立する。
小規模発電技術実証:ITERにおける発電ブランケットの試験が原則的に各極独自の活動であることに鑑み、我が国の提案等に基づき、発電ブランケット試験体を設置しトリチウムの生成・回収試験、増殖材、増倍材、構造材料の試験、高温熱の取り出しを行うとともに、小規模の発電実証実験の実現を、ITER参加極との協力の下で目指す。
(3)ITER計画への取り組み
国際協力で進められるITER計画を我が国の実験炉計画と位置付けて研究開発を進めるにあたって、国際合意に基づく実施体制と国内の支援体制を確立する。
ITER計画の実施体制:現在関係国の間で協議中であるが、次のように考えられている。
共同実施協定の下に設立される事業体は法人格を持つ国際機関(仮称:ITER国際核融合エネルギー機構*148(ITER機構))であり、建設に約10年、運転と利用研究に20年、運転終了後5年間の放射性物質の除去を実施する。その後、ITER施設はITER立地国の機関に移管され、解体・処分・保管作業が実施される。ITER機構は、参加極の代表者からなる最高議決機関としての理事会、理事会を支援するために設置される複数の諮問委員会と監事、理事会の下ITER計画の実施に責任を持つ機構長、機構長の指揮下に入る機構職員によって構成される。参加各極には極内機関が設けられ、当該極に割り当てられた機器を物納する。また、極内機関を通してITER機構へ職員を派遣する。
我が国は、ITER計画の実施主体であるITER機構の参加極として、ITERを通して我が国の実験炉計画の技術目標を実現することになる。ITERの建設期においては、我が国の極内機関を中心としてITER機構に機器を物納する。さらに、機構への職員派遣を通じて、ITER建設に貢献するとともに、システム統合技術の獲得を図る。さらに、実験・運転期においては、最大限の成果が国内へ還元・蓄積されるよう国内研究者の参加の機会を確保する。
ITERと国内研究の連携:国際協力であるITER計画を成功に導くとともに、その成果を我が国の核融合研究開発に最大限に生かすために、以下に示す国内の核融合研究と有機的に連携する体制を確立する。
ITER計画の推進にあたっては、極内機関、大学等、ならびに産業界の間の相互連携の下、建設と実験運転を進めるとともに、核融合フォーラム*149等を充実発展させITER計画及び核融合研究への幅広い科学者、一般国民の理解を促進し、協力・支援を得る。
また、国内における研究成果がITER計画に適切に反映するようITERの運営に努めるとともに、大学等の研究者がITER計画に参加する仕組みを構築する。
ITERで活躍し、ITERを支援する若手人材を継続的に生み出すための研究環境は国内研究施設の重点化によって整備されてきており、これらを用いて先進的な研究成果を上げることにより、国際トカマク物理活動(ITPA)等の国際活動やITER研究の先導に努める。これらの共同企画・共同研究に供される施設でのITER支援研究が、原子力機構や大学等の人材の流動化によって、より効果的に行われるよう配慮する。
4.1.2 トカマク改良研究
核融合エネルギーの早期実現に向けて、トカマク方式の改良を我が国独自に進めるとともにITER計画に貢献することを目指し、高ベータ定常運転法の開発とITER支援研究を行うトカマク国内重点化装置計画を進め、原型炉の建設判断に必要な炉心プラズマ技術基盤を確立する(別添16)。
(1)高ベータ定常運転法の開発
高出力密度が必要とされる原型炉の基盤を確立するため、高ベータ(βN=3.5-5.5)プラズマの長時間安定維持の研究開発を重点的に進める。その課題は、プラズマ形状・帰還制御・分布制御による高ベータ・定常運転制御とダイバータ熱・粒子制御等である。また、運転信頼性向上を目指してディスラプション緩和・回避をしつつ高ベータ定常運転の長時間安定維持を実証する。
(2)ITER支援研究
ITER性能の一層の向上と運転裕度の拡大を目指し、ITERに関わる国際的な物理活動に貢献する。具体的には、種々の物理時定数を上回る長時間領域で、プラズマ閉じ込め、プラズマ安定性、電流駆動と定常運転法、ダイバータ熱・粒子制御、高エネルギー粒子閉じ込めに関わる研究を進める。
(3)トカマク国内重点化装置計画
JT-60を用いて(1)、(2)の準備研究を進めるとともに、JT-60を以下のトカマク国内重点化装置へ転換して核融合エネルギーの早期実現に貢献する。
トカマク国内重点化装置は、臨界プラズマ条件クラスのプラズマ性能をもった超伝導装置とし、プラズマアスペクト比、断面形状制御性、帰還制御性において、機動性と自由度を最大限確保できるものとし、原型炉の後半に必要となる出力上昇や炉の運転信頼性の基盤技術の確立を目指す。具体的には、原型炉の後半で必要な高ベータ(規格化ベータ値:βN=3.5-5.5)非誘導電流駆動プラズマを100秒程度以上保持することを目標とする。また、炉の運転信頼性の基盤の確立のため、加熱・電流駆動装置等の改良を進め、高ベータ定常プラズマの数時間程度以上の安定運転を目指す。
4.1.3 原型炉に向けた炉工学技術開発
原型炉に向けた技術開発としては、増殖・発電ブランケット技術開発、構造材料開発、国際核融合材料照射施設計画、超伝導・加熱機器等の高性能化、安全性研究を進め、原型炉の建設判断に必要な工学技術基盤を確立する。
(1)増殖・発電ブランケット技術開発
発電ブランケットに関しては、ITERで実施する機能試験を重要なマイルストンと位置付け、ITERの運転初期段階からの機能試験が可能となるよう、原子炉でのインパイル試験*150・炉外での工学試験を展開すると共に、ブランケット材料の照射試験、ニュートロニクス試験*151、トリチウム回収・処理技術等の開発を進める。ITERでの低フルエンスDT実験段階において、トリチウム増殖・回収機能や除熱・発電機能を実証することにより、原型炉の建設判断に資する工学データを獲得する。また、より高効率の発電ブランケットを目指した研究開発を着実に進める。
(2)構造材料開発
構造材料の開発に関しては、引き続き、主要候補材料である低放射化フェライト鋼の開発を進め、原子炉等を用いた照射試験により重照射データ*152(照射影響の傾向が把握でき、また、原型炉において2年程度の寿命が見通しうるレベルとして、照射損傷〜80dpa程度以上)を取得し、高エネルギー中性子照射施設での照射試験に供する材料を確定する。また、先進構造材料の開発を、発電ブランケットの高性能化開発と整合を取って、着実に進める。
核融合と類似の中性子照射環境を容易に実現しうる中性子源としては、d-Liストリッピング反応*153を用いた加速器型中性子源が最適と判断され、国際核融合材料照射施設(IFMIF)(別添17)は、高エネルギー中性子照射施設としてこの方式に基づくものである。国際核融合材料照射施設の工学設計活動については、他の主体により本体施設の建設が行われる十分な見通しがあり、かつ、我が国が工学設計活動に貢献することにより国際核融合材料照射施設本体での照射試験に一定の参加ができることが確保されるのであれば、国際協力の下で着手し、その技術基盤の整備に貢献する。
(3)超伝導・加熱機器等の高性能化
原型炉を目指して、超伝導コイルの高磁界化、加熱電流駆動システムの高度化(中性粒子入射システムの高エネルギー化、電子サイクロトロン波高周波加熱システムの高周波数化)等を進める。
(4)安全性に関する技術開発研究
原型炉は、増殖ブランケットによってトリチウム燃料の自給を行うとともに、高温高圧のトリチウム含有媒体を駆動するシステムであり、大量媒体を対象とするトリチウムプロセス*154開発、プラント内外でのトリチウム安全管理技術*155、計量技術の高度化等、今後の技術開発課題を多く含んでいる。一方この安全確保は工学的安全技術の開発とともに、技術基準や健全性確保のための検査システムの標準化等の工学的技術基盤の確立を必要とする。これらに向けて、トリチウム・工学安全性研究の技術基盤の整備を進める。
(5)放射性廃棄物低減・処理に係わる技術開発
核融合炉では高レベル放射性廃棄物が発生しないものの、交換部品や廃炉に伴って発生する放射化物が比較的多いので、原型炉やそれ以降を目指して、炉本体から発生する低レベルの放射化物(真空容器、遮蔽体、超伝導コイル等)を低減化する方策の検討やそのための技術開発を進める。また、リチウム等の再利用を含むブランケット材料の再処理技術、除染技術、各種材料の再利用技術、解体技術、放射性廃棄物やその処分コストの低減等、核融合エネルギーシステムの資源有効利用や解体廃棄物処分にかかる技術開発も今後着実に進める。
4.1.4 核融合炉システム研究
(1)原型炉の概念設計
核融合エネルギーの実用化につながる経済性見通しと安全性・環境適合性を高めたトカマク型原型炉の概念検討を進め、炉心・炉工学技術開発計画に反映するとともに、炉心・炉工学技術開発の進捗を踏まえた概念設計を行う。
原型炉の概念検討においては、プラントの全体目標性能(建設費、出力規模、運転特性、稼動率、安全特性、燃料増殖性能、廃棄物処理等)の検討を行うとともに、それを実現するために、安全機器、建設工程、保全技術、廃棄物処理・処分も考慮したプラント全体の概念設計を行う。また、概念設計を行うに際しては、その他の研究開発で得られる成果を適宜反映するとともに、実用プラントを視野において民間事業者の参画を得る。
(2)核融合エネルギーシステムの総合評価
核融合エネルギーの地球規模でのエネルギー環境問題への寄与を最大化する観点から、より魅力的で市場性のある商用炉とそのエネルギーシステムの概念を構築し、原型炉段階での研究開発に反映して核融合エネルギーの実用化につなげる必要がある。このためには、より広い視野での社会・エネルギーシステムへの核融合の適合性評価とそれに基づいた核融合プラントとエネルギーシステム概念の設計検討を進め、設計評価方法論を開発する。この一環として、エネルギーの多目的利用等に関するシステム研究を進める。
4.1.5 トカマク理論・シミュレーション研究
多階層かつ複雑・複合系としての特性を有するITERにおける燃焼プラズマや、構造形成を伴う高ベータ高自発電流プラズマの動特性の理解とその制御のために、最先端の計算科学手法に基づくシミュレーション手法の開発と非線形・開放系プラズマ*156に関する理論研究を進める。
ITER及びその支援装置の実験データを総合してトカマク型原型炉の炉心プラズマ設計を行うためのツールとして、統合シミュレーションコードの開発を進める。さらに、その基礎となる第一原理手法に基づく数値トカマク実験*157の実現を可能にする研究開発を中心にすえたトカマク理論・シミュレーション研究を推進する。
4.1.6 社会・環境安全性の研究
環境・社会および市民の視点に立ち、我が国における原型炉の設置の場合に備え、核融合エネルギーの安全性、環境および社会への適合性を確保するために必要な基盤的研究を行う。具体的には、核融合プラントの製作、検査における技術基準、および安全の確保と評価のための方法論とデータベースの確立を進める。一方、核融合の持つ潜在的リスクの公衆への説明、核融合エネルギーを社会が受け入れ、扱うための社会システムの検討を並行して進める。また、核融合プラントからのトリチウムの環境および生態系での動態、生物影響、医学疫学研究等、従来の核融合研究者のみでなく、より広範な原子力、エネルギー、環境、生物、医学、社会等の多分野の協力を得て総合的な核融合安全性研究の展開をはかる。また、放射性廃棄物等の処分方法について検討し、ライフサイクルを包含した総合的な安全確保システムの概念の構築を図る。
4.2 核融合に関する学術研究
核融合に関する学術研究については、重点化された大型計画研究を進めるとともに、プラズマ実験、理論、炉工学分野での先駆的・萌芽的研究に基づく多様な研究を確保することで核融合基盤研究の充実を図る。また、核融合理工学としての学問体系化を図る。
4.2.1 ヘリカル型装置による研究
LHDにおいて核融合炉への展望と乱流輸送や閉じ込め改善等に関しての普遍的知見の取得を目的とした研究を推進する。また、高ベータプラズマの定常維持に必要な知見を得ると共に、ダイバータに関する研究を進め定常運転の実証を行う。ヘリカル炉心プラズマや炉工学の知見についてはトカマクと共通する部分も多い。従って、トカマクとの異同の理解を体系的に進める。
プラズマ中の電場・磁場構造を外部から制御できるというヘリカルプラズマの特長を生かし、電場・磁場構造と輸送・MHD安定性の関係を詳細に研究し、炉心プラズマの閉じ込めに関する学術基盤を築く。
3次元構造であることによる磁場配位の多様性を踏まえ、国内外のヘリカル装置との比較を通じて、閉じ込め、MHD安定性、定常維持の観点から、ヘリカル磁場配位の最適化に関する研究を進める。
また、ヘリカル方式の核融合炉への展望を明らかにするために、ヘリカル型定常核融合炉の設計研究を進める。
科学技術・学術審議会等におけるこれらの研究成果等の評価を踏まえて、ヘリカル型装置による研究の展開の方向を定める。
4.2.2 レーザー型装置による研究
レーザー核融合方式による点火、及び燃焼プラズマの実現を目指した研究を進める。このために、大阪大学を中心とするFIREX第1期計画を進める。これは既設装置であるGEKKO-XII号レーザーにより圧縮した核融合燃料を新たに整備する超高強度短パルスレーザーにより5千万度から1億度の核融合点火温度へ加熱するものである。第1期では、この点火温度を達成するために高効率の加熱を行えるかどうかが課題である(別添18)。
その成果により、点火・燃焼の実現を目指す第2期計画に発展させるか否かの判断を、科学技術・学術審議会等における評価を踏まえて行う。第2期では、アルファ粒子の飛程以上の大きさの燃料において、点火・燃焼を実証するとともに、レーザー核融合炉で必要となる高いエネルギー増倍率の実現の見通しを得ることが課題である。FIREX計画は核融合研との連携を強化しつつ推進する。
また、高速点火方式によるレーザー核融合炉への展望を明らかにするために、高速点火型レーザー核融合炉の概念検討を進める。
4.2.3 核融合基盤研究
(1)核融合プラズマ科学の基礎実験
これまで進めて来た中小の閉じ込め装置を活用・改良しつつ、閉じ込め方式に共通の要素研究であるプラズマ安定性、輸送物理、波と粒子の相互作用、プラズマ壁相互作用、原子分子過程の研究、相対論的・量子論的プラズマ物理等の高エネルギー密度科学の研究等を推進する。
また、体系化された学理の構築を促進する観点から、独創的な発意に基づく新たな可能性を探求する中小規模のプラズマ装置による核融合科学の基盤研究の強化を図る。また、プラズマ計測に関わる基礎研究の推進を図る。
(2)理論・シミュレーション研究
核融合プラズマは、非線形・遠非平衡媒質*158として様々な複雑現象を起こす。例えば、自律的な構造形成*159は、様々な時空間スケールの乱流に起こった散逸の非線形・遠非平衡過程によって引き起こされるものである。同様の物理過程が本質的役割を果たす宇宙・天体分野、物性物理分野、生命科学等の学術分野との密接な連携を図りつつ、核融合プラズマに関わる理論及び先端の計算科学手法に基づくシミュレーション手法の開発を進めプラズマ物理学の発展を推進する。基礎学理から産業応用まで含めたプラズマが本質的な役割を果たす21世紀の物質科学をリードする積極的役割を果たす。
(3)レーザー方式の炉工学研究
レーザー核融合が実現されるためには、FIREX計画で実施される炉心プラズマ物理の確立に加えて、炉用レーザーの要素技術の確立と、炉設計が成立していることが必要である。炉用レーザーについては、その1モジュールのレーザー出力に近い大出力の半導体励起固体レーザーを開発するとともに多数のモジュールを統合するための光波面の合成技術を開発する。またレーザー核融合炉設計については、磁場核融合や炉工学研究者の協力により実施する。
(4)材料・炉工学の基礎研究
大学等における炉工学の先進的・基礎的研究においては、先進的な耐中性子照射構造材料・プラズマ対向材料・高機能トリチウム増殖材料・各種高性能機能性材料の研究開発や、ヘリカル方式等に固有の炉工学技術開発、先進的な核融合炉システムの概念設計やシステム研究、そのための要素工学的研究を含む幅広い炉工学の基礎研究を包括的・総合的に推進する。また、核融合炉設計のためのデータベースの拡充や設計手法の体系化、新しい核融合炉ブランケット概念に対する研究開発課題の検討を行うとともに、これらの研究成果の一般化や普遍化を進める。
4.3 核融合研究開発の分担
原子力委員会:我が国の核融合研究開発は、原子力政策の一環として、原子力委員会の基本方針(第三段階核融合研究開発基本計画)の下に進められている。原子力委員会は、第四段階への移行等の基本方針の改訂や、文部科学省等において実施されたチェック・アンド・レビューの確認等、核融合研究開発に関する基本方針の調査審議を引き続き行う。
文部科学省:文部科学省は、原子力委員会の基本方針に基づき、核融合研究開発に関する政策・施策の企画・実施等を行うとともに、科学技術・学術審議会等において核融合研究開発のチェック・アンド・レビューを実施する。
日本原子力研究開発機構:独立行政法人日本原子力研究開発機構においては、トカマク方式による開発研究の中核的機関としての役割が求められる。具体的には、ITER計画に積極的に協力するとともに国内におけるトカマク方式の炉心プラズマ・炉工学・理論・シミュレーション、原型炉の概念設計・要素技術開発を大学等、産業界との連携のもとに推進する等の中核的機関としての役割を果たす。また、研究施設を大学等の研究者との共同企画・共同研究に供する役割が求められる。
核融合科学研究所:大学共同利用機関法人自然科学研究機構の一機関である核融合研においては、核融合プラズマの学理とその応用の研究を図りLHDを用いた学術研究、理論・シミュレーション研究、大阪大学を中心とするレーザー高速点火計画との連携、大学の炉工学研究の取りまとめの役割を果たすことが期待される。
大学他:大学については、法人化以後も学術研究の推進と学生の教育が大きな柱と位置付けられ、中小規模の装置を用いた多様な学術研究基盤の構築を大学の自主性・自律性の下で進めることが期待される。また、核融合研、原研との連携を強め共同研究重点化装置を用いた研究への積極的参画、トカマクを含む幅広い核融合炉システムの検討・評価や炉工学の基礎研究を通じて核融合理工学の学術研究基盤の強化と学生教育を行い核融合研究開発に寄与することが期待される。なお、大学等において行われる幅広い核融合炉システムの評価の中で原型炉の概念設計への貢献が期待される。その他の研究開発法人においては核融合の基盤的研究開発への貢献が期待される。
産業界:産業界においては、原型炉に向けた製造技術の確立と経済合理性の追求のため、ITERを中心とした核融合機器の製造技術の蓄積・向上に務めることが期待される。今後の研究開発における産業界の知見と技術の活用と維持・発展の重要性に鑑み、長期的な研究開発計画の下で産業界の積極的参加が得られるよう配慮して研究開発を進める必要がある。原型炉の設計や核融合炉の実用化の検討については、産業界関連機関、製造業、電力業界の参画が期待される。
国際協力:上記の研究開発における役割分担は我が国における活動を想定して述べられているが、国際協力が必要かつ重要であることはいうまでもなく、今後も引き続き、多国間協力や二国間協力等を推進するためのプログラムを積極的に立ち上げ、これらを有効に活用してゆくことが重要である。
共同利用・共同研究と連携協力:大学、研究所、研究機関、産業界等を中心として、それぞれの役割分担を踏まえて推進されている核融合研究開発では、相互の連携・協力が不可欠であり、そのためにも今までにも増して共同利用・共同研究を強化することが必要である。大学等においては、大学等の研究者が比較的自由に大学等の装置での共同研究や研究者交流が出来る新しい形態の双方向性を有した共同研究が、大学共同利用機関である核融合研を中心として整備されてきた。今後もこのような双方向の共同研究を一層拡充する必要がある。
一方、原子力機構等の研究機関において、共同企画・共同研究の枠組みの整備も踏まえた新たな連携・協力の促進が強く求められる。
さらには、ITERや原型炉へ向けた研究では、産業界も含めた全日本的な協力体制が必要であり、そのような全体を俯瞰した連携・協力の在り方も考える必要がある。
4.4 人材育成の方策と社会への発信
過去20年において核融合研究者人口は徐々に増えてきていたが、最近は減少傾向が始まってきている。また大学院学生の数も増えてはいるが、核融合分野への定着率が下がってきている(別添19に例示)。
将来の核融合研究開発を担うためのバランスのとれた人材の育成が急務であり、そのために、大学等の教育機関における研究教育の他、研究所や産業界における実地教育がきわめて重要である。このため、我が国の核融合研究体制の中に、これを実現するための仕組みを作ることが必要である。
研究人員の充実:ITER計画のような国際的大型プロジェクトを成功させ、かつ我が国が主導的役割を担うためには、国際的なリーダーシップを取れる優秀な若手研究者の不断の育成が必須である。近年特に学振特別研究員、原子力機構博士研究員等の制度が整備・充実されてきており、数多くの若手研究者の活躍の場を確保する上で有効に機能してきた。今後も益々このような枠組みを拡充することが求められる。ただし一方で、引き続き核融合界で活躍できるような場が十分確保されているとは言えず、継続的な研究を可能とする場の確保が必要である。
研究環境の整備:高度な専門教育に基づいた人材育成を推進するには、リーダーシップを取れる若手研究者が最先端の研究の場に身を置けるような環境整備が必要である。具体的には、国際規模の大型実験装置への直接的関与、及び大学等の得意とする機動的な小規模装置での萌芽的・独創的研究への参加等を挙げることができる。人材育成においては、この様な多様な研究の機会を若い優秀な研究者に提供することが重要である。
共同利用・共同研究の効率的な活用:今後の人材育成においては、共同利用・共同研究の効率的な活用を踏まえ、研究および教育が最適化されるような適正な競争的環境の設定、研究および研究者の積極的な交流・流動化を可能とする組織・制度作りが必要となる。また、原子力機構等の研究機関において行われている高度専門研究を用いて人材育成を進めるために、連携大学院制度の拡大や客員研究員等の充実が必要である。
社会への発信:核融合研究開発の継続的な発展を図るためには、核融合エネルギーの意義や安全性等に対する社会の理解を得ることが重要である。また後継者育成においては、核融合分野を将来にわたって継続的に学生から受け入れられる魅力ある分野にすることが必要であり、また、今後少子化や理科離れの問題への対応も必要不可欠である。そのための努力を核融合関係者は怠ってはならない。核融合フォーラム等において、ITER計画及び核融合研究への幅広い科学者・一般国民の参加を促進することも、長期に亘る核融合研究に対する理解の促進の観点から重要である。
4.5 研究開発の全体像と実用化への道
以上に挙げた核融合エネルギーの科学的・技術的実現性を目指す第三段階計画の内容を、核融合の科学的実現性を目指した第二段階と原型炉による核融合エネルギーの実用性の実証を目指す第四段階の研究開発との関わりで示す開発戦略図を別添20に示す。
4.6 チェック・アンド・レビュー項目と次段階への移行条件
原型炉段階への移行条件は、3.1節をまとめると、1)実験炉による自己加熱領域での燃焼制御の実証、2)実験炉によるQ=5以上の非誘導定常運転の実現、3)実験炉による統合化技術の確立、4)経済性見通しを得るための高ベータ定常運転法の確立、5)原型炉に関わる材料・炉工学技術開発、6)原型炉の概念設計、が完了していることである。また、原型炉段階への移行の可否の判断に当っては、他の方式を含む核融合研究開発の総合的な進捗状況を踏まえるとともに、実用化を見据えることや民間事業者の参画を得ることも重要である。
核融合エネルギーの早期実現を図るためには、実験炉計画に並行して炉心、炉工学、炉設計の研究開発を進める必要がある。別添21に早期実現を目指して、中間段階(約10年後)での達成目標と最終的な次段階(原型炉段階)への技術上の移行条件(案)を示す。計画の推進に当たっては、本表を目安として政策を実施することが望まれる。なおその場合、「選択と集中」の考え方に基づき効果的かつ効率的な資源配分を行うことが必要不可欠である。
資源量・供給安定性:重水素・トリチウム核融合反応の原・燃料となる重水素とリチウムについては、海水中に豊富に存在し、重水素については同位体交換法を用いた年間数百トンレベルの生産設備が存在すること、リチウムについても海水からの回収技術が開発されていることから、海に囲まれた我が国のエネルギー源として安定供給できる。また、核融合炉を構成するニオブ、ベリリウム等の材料についても十分な資源量が確保でき、かつ遍在性もないと見込まれている。また、再生可能エネルギーと異なり立地制約や出力安定性の課題が少なく、供給安定性にも優れている。
環境適合性:核融合炉は、核分裂発電と同様、発電の過程において地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題の原因物質と言われる二酸化炭素、窒素酸化物等を排出しないことから、地球環境の保護の面からも重要な役割を果たすと期待される。
安全性:核融合炉では、反応領域に存在する燃料の総量は極めてわずかであり、異常が発生した場合においても、燃料の供給を停止することにより、核融合反応を速やかに停止することができる。また、制御が不可能となるような反応促進の機構が存在しないことから、核融合炉は原理上高い固有の安全性を有していると言える。また、潜在的放射線リスク指数(系内に存在する可動性放射性物質量を法定濃度限度で割った量)は、分裂炉に比べて千分の1程度と低いという特徴を持つ。
核拡散抵抗性:核兵器の拡散を起こし難い性質。核融合炉では、ウラン/プルトニウムを用いないためこれらの核兵器原料の拡散を引き起こす機会がまったくない。また、核融合反応には数億度の温度が必要で簡単には起こせないことから重水素やトリチウムがあっても、それだけで核融合反応を起こすことはできない。
放射性廃棄物の処理・処分:核融合反応生成物は、中性子とヘリウムであることから、核分裂炉のように高レベル廃棄物を発生しないという特徴がある。材料と高エネルギー中性子の反応で発生する低レベル放射性廃棄物については、その長期的な放射線リスク指数は石炭火力灰以下になる。