核融合研究開発の加速促進について(技術WGにおける検討状況)

玉野輝男

 WGでは、次回の核融合専門部会での議論を有意義で効率的に行なうための論点を提供する観点から、かなり自由な視点で意見をいただきているところであり、現時点では、特にWG全体としての共通認識を確認する努力は行っていない。したがって、今回は同様の観点から、私なりに理解した要点と思われる事柄を報告し、見落とした点、誤った理解をしている点については各WG委員からご指摘をいただき、議論の発端とすることを意図していることを予めお断りしておく。

[これまでに行われた議論]
 このテーマに関してはこれまでにもかなり議論されている。
 核融合会議開発戦略検討分科会(平成10年6月〜平成12年5月)および日本学術会議核科学総合研究連絡委員会・核融合専門委員会・核融合研究の新しいあり方検討小委員会(平成13年4月〜)での議論の要約を松田委員より報告していただいた。核融合会議での議論は現在わが国の核融合研究開発の基本となっているものであり、核融合専門委員会での検討はこれをかなり異なるメンバーで再検討した形となるが、技術的に特に大きな新しい視点は見いだされていない。戦略的にももう少し新しい視点が盛り込めないか再検討中とのことである。この点に関して本WG委員のご意見を頂いたが、後述の二三のコメントはあったものの、やはり研究開発推進方策を大きく変えうる視点でのコメントはなかった。
 要約すると、研究開発推進方策として、実験炉段階ではITER計画を推進し、とくにITER計画そのものを加速促進するのが有効と考える強い意見はなかった。むしろ現実的にはITER計画の期間を大幅に短縮することはかなり困難であり、また仮に短縮したとしても次の段階への必要な準備が間に合わない可能性が高い。したがって、核融合実用化の加速促進のためには、ITER計画は固定してしっかりと遂行し、同時に次の段階のために必要な準備を必要に応じて加速促進すること、また、原型炉以降実用炉まで2段階必要であるかどうかをもっと検討して整合性のある計画をたてることが肝要と考えられる。

[核融合研究開発の加速案の要件]
 発電ブランケットおよび材料開発とIFMIFを中心にした核融合開発加速計画について日本原子力研究所の関核融合工学部長による技術的考察を参考に、今後必要な要件について検討を行なった。
 次段階までの準備として必要な主要件として、(i)中性子照射試験に基づいた材料開発(ii)ブランケット総合工学の研究開発(iii)定常運転技術の確立、が指摘されている。とくに中性子照射試験に基づいた材料開発においては、核融合炉での条件に近いフルエンスでのテストが重要であり、現存あるいは現在計画遂行中の中性子源(加速器やITERを含む)では1桁以上不足である。したがって、IFMIFの様な強力中性子源の実現が非常に大切となる。現在日本の材料研究者から提案されている材料開発計画によると、IFMIFの設計・建設が急務であり、ITER計画と整合する核融合開発計画のタイムスケールを定める鍵となる。特に、IFMIF計画の6年くらいの前倒しと段階的照射計画の圧縮が核融合開発加速促進にとって必要となる。この論理は正しいと考えられるが、具体的な中性子源の強度や材料開発に必要な量的フルエンスが想定されており、この辺ををどう判断するかに依存する面もある。例えばより強力な中性子源を開発する道がないか十分検討する必要があるのではないか。また、原型炉以降を1段階とするか2段階とするかでITERの後に建設する炉の設計にとって必要な準備も異なってくることも考慮する必要があると思われる。
 ブランケット総合工学の研究開発については、ITER計画に組み込まれているモジュール試験をできるだけ活用するように努力することが大切である。ただ、中性子フラックス量の限界が存在することは致し方もないので、ここでも強力中性子源の確保が重要となる。ITERにおける試験は、技術的観点以外に実際の核融合による発電のデモンストレーションという広報効果も存在するので、核融合促進の手助けとなる。
 技術的観点ではここ10年以上同じシナリオであり、大きく抜けている要素は存在しないように思われる。また、以上の中性子源に基づく材料開発とブランケット総合工学の研究開発は、どの核融合方式にも共通の必要課題である。定常運転技術の確立は主にトカマク炉に特有の課題であるが、原型炉を含めた将来の炉の経済性を考慮したときに高ベータ定常運転の確立は核融合開発が開発促進に向けての原動力を得られるかどうかに関わってくるので、疎かにできない要件となる。
 このほかプラズマ対向機器の高フルエンス下での試験とかプラズマ制御といった課題もITERを含めた今後の研究開発の加速促進にとってクリティカルな要素とならないように十分注意を払っておく必要がある。注目した課題だけ促進しても結果的に他の事柄が促進の足を引っ張らないようにプラズマシミュレーション等も活用して十分留意すべきである。また、強力中性子源は材料開発が進行していることを確認する手段であって新しい良い材料そのものを生み出してくれる道具ではないので、良い材料を生みだす方策もしっかりと研究していくことが肝要であり、それを犠牲にしてまでの強力中性子源加速促進とならないように留意しなければならない。

[ファーストトラックの考え方について]
 エネルギー政策として日本においてファーストトラックが必要とされているのかどうか、必要であるとするとどのようなファーストトラックが適切であるのかに言及する意見もいくつかあった。一つの位置付けとしては環境問題があるが、日本においては核分裂炉との関連も考慮しなければならない。もう一つは、非トカマク方式を含めた核融合研究開発を全体像としてどう促進するのかについてである。
 非トカマク方式に関しては、ITERとトカマク原型炉への貢献、および、先進炉への重要な貢献が考えられるので、核融合実用炉実現促進の全体像からみて非トカマク方式との関連を十分に考慮して計画を検討することが大切である。しかしながら、その方式でいきなり原型炉を建設することは考えにくいので、先進炉への進み方をどう導入するかも考慮して核融合実用炉実現促進の全体像を考える必要がある。一方、非トカマク方式の研究開発全てが核融合実現促進に貢献するとは考えにくく、その辺も十分検討整理する必要があると思われる。特にそれぞれの方式のプラズマとしての利点が炉という観点で見たときに本当に生かされるのかを明らかにすることが大切と思われる。
 原型炉以降は総合試験炉としては1段階で行い、後はコンポーネントの改良というシナリオで進めるのではないか。その場合、次期総合試験炉の経済性や安全性・社会環境も重要な要素となる可能性が考えられる。この点を考慮して核融合開発の加速促進を検討する必要があるのではないか。
 また技術的に新しい状況が生まれてきていないという結論になれば、加速促進案というのは並行にやるとか、分担してやるとかの方法論の議論になるのではなかろうか。

[WGの任務について]
 このWGの任務については、具体的に何時までに結論を出さなければいけないという時限が与えられているわけではないが、核融合研究開発の加速促進の可能性については、既に多くの重要な会議等で話題となっており、ITERの交渉がはっきりしてくるにつれて私たち専門家の意見が問われる可能性も高いと思われる。勿論専門家だけで決められない要素もあるが、他人任せにできる問題とは思われないので、予め私たちの考えを整理しておく必要があるのではないか。