教えてください。

○職 業   :学生

○年 齢   :20歳以下

○性 別   :女性

○御質問の内容:

原子炉のひび割れはどのようにして起こるのですか??またそれによって人間や環境にどのような影響がありますか??今後、100%防ぐ方法はありますか??


○回 答:

 最近報道されることが多い、沸騰水型軽水炉(BWR)の炉心シュラウドと再循環系配管のひび割れに関する御質問と解釈してお答えします。

 炉心シュラウドと再循環系配管のひび割れは、いずれもステンレス鋼の溶接部近傍に発生した応力腐食割れによるものです。
 応力腐食割れとは、製造時の溶接の際に材料に残る力(残留応力)や使用時にかかる力(外部応力)により材料に力(引張応力)がかかり、これと特定の環境の腐食作用によって材料にひび割れをもたらす現象のことであり、SCC(Stress Corrosion Cracking)とも呼ばれます。

1.炉心シュラウドについて
 炉心シュラウドとは、原子炉圧力容器の中にある燃料を取り囲む円筒状のステンレス製の機器のことです(図1)。炉心シュラウドの機能は、燃料により暖められた円筒の内側の冷却水(水蒸気)と、温度の低い円筒の外側の冷却水を分離することにより、炉心内の冷却水を効率よく循環させることです。
 一方、原子炉の安全のためには、放射性物質や高温高圧の冷却水を炉心内に閉じこめることが求められますが、炉心シュラウドについては、炉心シュラウドの損壊が生じない限りは、これらの閉じこめが損なわれることはありません。ここで、炉心シュラウドの健全性(機能を維持するために必要な構造強度)が維持されていれば、ひび割れ部分があっても、それが炉心シュラウドの損壊にはつながることはありません。
 そのため、ひび割れが存在する場合には、電力会社は継続的に健全性の確認を行うとともに、ひび割れが進展した場合は、健全性が維持されるよう補修を行うこととしています。


2.再循環系配管について
 再循環系配管は、原子炉圧力容器内の冷却水を循環させるためのポンプ(再循環ポンプ)につながる配管です(図1、図2、図3)。圧力容器内にある吹き出し口(ジェットポンプ)につながっており、燃料から熱を取り出すため炉心へ冷却水を送り込む役割を担っています。再循環系配管の中の冷却水は、圧力容器内と概ね同じような高温高圧になっており、再循環系配管は、これを外部に出さないという極めて重要な役割を持っております。そのため、主要部は40mmもの厚さを持つステンレス製の配管となっています。
 万一、再循環系配管のひび割れが原因となって配管から冷却水が漏れ出した場合には、漏えいを検知して原子炉を停止することになります。さらに、配管が破断した場合には炉心を流れる冷却水が失われることとなりますが、そのような場合には、非常用炉心冷却系が十分な量の水を供給し、原子炉を冷やす機能が維持することになっています。一方、炉心から漏れた放射性物質は、外部の環境に放出されないよう原子炉格納容器で封じ込められます。以上のような措置により、原子力発電所の外に被害が及ぶようなことはありません。
 再循環系配管のひび割れについては、使われているステンレス材料の特性などから、ひび割れの深さの測定において、炉心シュラウドとは異なって、比較的大きな誤差が生じうることが明らかとなりました。このため、今のところでは信頼性の高い健全性評価を行うことは困難であり、国(経済産業省原子力安全・保安院)は電力会社に対しひび割れの発生した配管の取替えや補修を求めることとしております。
 新しいステンレス材料(SUS316L)における「応力腐食割れ」と呼ばれるひび割れの発生、進展メカニズムは、完全に解明されているわけではありません。しかし、応力腐食割れがどのような要因がある場合に発生し、進展するかは十分に明らかになっており、その要因の一つである残留応力を取り除いたり、適切な頻度で確実に点検を行ったり、必要により補修することで、現状においても十分な対策がとれると考えております。


 最後に、御質問につきましては、既に経済産業省原子力安全・保安院において提供されるウエッブサイトのホームページにて、関連する情報が用意されていますので、こちらの方も御参照下さい。

経済産業省原子力安全・保安院のホームページ:
http://www.meti.go.jp/kohosys/committee/summary/0001430/0001.html
    (資料7-3「原子力発電設備の健全性評価について-中間とりまとめ-」)
http://www.meti.go.jp/kohosys/committee/summary/0001682/0001.html
    (参考8-5「柏崎市・刈羽村の皆様へ」および参考8?6「浜通り地域の皆様へ」)