核融合実験炉 ITER の招致について

○職 業   :会社員

○年 齢   :56歳〜60歳

○性 別   :男性

○御質問の内容:

1.現在世界で4箇所の立候補と招致活動中と聞きますが、何時頃までに決定され、その後どのように建設・実験が勧められる予定なのですか?

2.我が国では6ヶ所村が有力候補とされているようですが、我が国に招致される可能性はどの程度あるのでしょうか?

3.ブランケットの材料等相当難しい技術開発が必要と聞いていますが、解決の可能性と核融合の実用化の見通しはどれ位と見ておられるか?(我が国、世界) 以上


○回 答:


1.今後の予定

 2002年12月に開催された政府間協議において設定されたスケジュールでは、サイト候補地に係るサイト共同評価を2003年はじめに終え、サイトや費用分担を決定して共同実施協定案を2003年中頃に完成させることになっています。

 その後は、協定に関する各参加国における批准等の国内手続きを待ってITER事業体を設立する予定です。最終設計報告書によれば、ITER事業体が発足後、2年以内に着工し、約8年間で建設を完了して運転を開始する予定となっています。その後、約20年間の実験期間が予定されています。


2.我が国に招致される可能性

 サイトをどこにするかについては現在関係国と協議中です。サイト共同評価では各候補地の特性を技術的な観点から評価し、2月の政府間協議の場に提示することになっており、その後さらに協議が進められる予定です。4つの候補地(←リンク先参照)は、それぞれITERの立地に必要な要件を備えていますが、青森県六ヶ所村は、

1)隣接する「むつ小川原港」は5000トンの船舶の接岸及び1000トンの機器の陸揚げが可能
2)港からサイト候補地まで既存の道路で大型構造重量物を搬入することが可能
3)将来的なITERの長時間定常運転にも対応可能な給排水の確保が可能

などの優れた特性を有しています。


3.ブランケット材料等の技術開発と実用化の見通し

 ブランケット*1)の材料は、高いエネルギーを有する中性子の照射を受けるなど、厳しい環境で使用されます。また、中性子の照射を受けてブランケットの材料は放射化*2)しますが、その放射化の程度が低く、環境への負荷をできるだけ与えない材料であることも期待されています。御指摘の通り、これらの材料の開発には多くの難しい技術開発が必要ですが、これまでの研究開発により、実用化への見通しのある材料の開発が着実に進展してきています。

 「核融合エネルギーの技術的実現性、計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」(平成12年5月17日、核融合会議開発戦略検討分科会)によれば、現在、我が国で開発を進めているブランケットでは、構造材として低放射化フェライト鋼を使用しますが、これまで、原子炉などを使った試験により、これらの材料は、実用化レベルの1/3程度の中性子照射を受けても期待される特性が保たれることが分かってきており、材料科学や材料工学の知見から、実用化レベルでも大きな問題がないと予測しています。

 もちろん、核融合の実用化までには、実用化レベルまでの材料照射試験を行い、材料の限界性能を調べることが必要ですし、実際の核融合環境においてブランケット全体としての機能が十分に発揮されるのかという試験も必要です。このため、前者のためには、原子炉を用いた材料試験を続けると共に、核融合反応で発生する中性子を模擬した材料照射試験設備の準備を進めています。また、後者のためには、ITERを用いて、ブランケット全体としての機能試験を行うことを計画しています。また、ブランケット以外についても、核融合炉を構成するコンポーネントに関する技術的課題の多くは、ITER計画を通して解決されると考えています。

 我が国を含め、核融合の開発を進める各国は、今世紀後半のエネルギー需要を満たすための有力なオプションとして核融合を位置付けており、遅くとも今世紀中頃には核融合エネルギーが実用化されることを期待しています。最近では、二酸化炭素の排出による地球温暖化問題が世界規模で厳しさを増していることもあり、この点からもクリーンな核融合発電の実用化を早めるべきであるという議論が、我が国、ヨーロッパ、米国で盛んに行われており、「核融合専門部会・技術ワーキンググループにおける『核融合開発の加速促進』の検討状況について」(平成14年12月6日、核融合専門部会)によれば、技術的には、今後30〜35年程度で核融合発電によって電力系統に電気を供給することが可能であるという検討結果が示されています。


*1)ブランケット:核融合炉の構成機器の一つで、核融合反応で生じた中性子のエネルギーの熱エネルギーへの変換とその取出し、プラズマから出る放射線の遮蔽、リチウムと中性子との核反応を利用したトリチウム(燃料の一つ)の生産等を行う。なお、ITERでは遮蔽ブランケットのみで実験を開始し、一部ポート等を利用したテストブランケットモジュール試験により発電機能及びトリチウム生産機能を実証する計画となっている。
*2)放射化:金属などの材料が中性子を吸収することによって放射性元素に変わること。

以 上