高速増殖炉の開発

○職 業   :主婦

○年 齢   :31歳~35歳

○性 別   :女性

○御質問の内容:

 高速増殖炉の開発のための原子炉は、現在、原型炉もんじゅと実験炉の常陽があります。現状では、もんじゅは運転再開には至っていませんが、日本の高速増殖炉の開発は、先ず最優先として「もんじゅ」の運転再開、定格運転実証であり、それがないと何もかも進みません。高速原子炉は常陽は止めて「もんじゅ」に限定し、集中的に実行できる体制を整えた方がよいと思います。国の予算状況からもその方が有効であり、安全のための費用が確保しやすくなります。実験炉常陽は、昨年火災事故もありましたし、また事故があった場合は高速炉に対する風当たりが大きくなり、もんじゅへも影響を与えかねないと思います。いかがでしょうか。

(*)事務局注:平成13年10月31日に、「常陽」の原子炉付属建家の隣にあるメンテナンス建家(「常陽」を構成する、ナトリウム及び放射性物質を含有する設備機器について、必要に応じ安全に補修、洗浄等を行うための設備)で発生した火災のことです。なお、この火災による環境への影響はありませんでした。


○回 答:


 原子炉の開発は、原子炉のコンセプトを確定した後、基本的な要素技術を開発し、技術的経験を得る目的で実験炉と呼ばれる原子炉が開発されます。次に、発電設備としての技術的成立性を確証する目的で原型炉が開発され、商業使用も想定した大型の発電施設としての 技術を実証し、経済的成立性を確認する目的で実証炉の開発へと進んでいきます。我が国の高速増殖炉の開発において、「常陽」は実験炉、「もんじゅ」は原型炉に相当します。
 「常陽」は、我が国初のナトリウム冷却型高速炉として、その設計・建設・運転を通じ、高速増殖炉(FBR)炉心及びプラント特性に係わる実炉データを取得して、原型炉「もんじゅ」の設計、建設への成果の反映をはじめ、FBRの実用化に向けた研究開発を行っています。
 現在、「常陽」は、炉心の照射性能(照射スペースや照射中性子の数など)を高めた熱出力140MWのMK-Ⅲ炉心に改造中で2004年度に運転を開始する予定です。運転再開後、「常陽」はFBRサイクルの実用化に向けた開発を担う施設として、主に次の研究開発を実施することとなっております。
 一つは、高性能のFBR燃料や材料の開発です。これらの開発にあたっては、まず幅広い条件で中性子を照射して材料や燃料の性能がどのように変わるかを調査する基礎的な照射試験(*1)(具体的には、燃料や材料などの過渡照射(*2)や、燃料ピン単位での限界照射(*3)など)を数多く実施する必要があります。「常陽」は、照射後試験施設を併設するなど、照射試験施設として機動性のある照射環境を有しています。
 もう一つは、新型燃料の開発を進めることです。例えば、アメリシウム、ネプツニウムなどの超ウラン元素(TRU)燃料が原子炉の中でどのように燃えるかを調べ、取り出してそれらの燃料の化学処理をして炉心で再度照射する等の試験を行います。
 一方、「もんじゅ」は、運転を再開すれば、増殖性能の確認、高燃焼度燃料の実証、供用期間中検査技術の改善等発電プラントとしての信頼性の実証のための研究開発を行うとともに、蒸気発生器等の大型ナトリウム機器の性能及び信頼性の実証、ナトリウム中の放射性腐食性生物に関するデータ取得等ナトリウム取扱い技術の確立を目指した研究開発を進めます。さらに長期的には、「常陽」で得られた成果を元に設定した条件で、集合体規模での定常照射を行うこととしています。

 このように、FBRサイクルの実用化に向けて、「常陽」で新しい材料や燃料の研究開発のためのパラメータを幅広く取り数多くの回数を必要とする機動的な照射試験を行い、「もんじゅ」で発電プラントとしての信頼性の実証等を行い、互いにその役割を分担しながら、効率的に進めていくことが重要と考えます。

 本回答については、文部科学省等の協力を得て作成いたしております。

*1)照射試験:原子炉材料や核燃料を各種条件下(照射時間、照射量等)において照射して試験を行うことをいいます。なお照射とは、原子炉や照射装置によって材料をガンマ線や中性子線などにさらすことをいいます。
*2)過渡照射:原子炉は、通常、一定の出力で運転されていますが、実際の運用の中で起こりうる異常事象の発生に起因して過渡的に出力が変わることがあります。過渡変化が燃料に及ぼす影響に着目し、過渡出力変化を模擬し、燃料の特性を調べる試験をいいます。
*3)限界照射:最大出力の運転状態でも燃料のペレットの中心を溶かさないという設計がなされています。実際、燃料は中心が多少溶けても壊れることはないので、どのくらいまで溶けても燃料が大丈夫かを調べ、データを取得する試験をいいます。
 このような試験を実施するに当たっては、被覆管の破損にそなえ、破損に伴って放出されるFPによるプラント汚染の拡がりを抑止するため、発生時点及びその規模をいち早く検知し、破損した燃料集合体の位置を知り、かつ、核分裂生成物を除去回収するための設備を設置しています。