原子力発電は他の発電よりCO2排出量は本当に少ないのですか?

○職 業   :公務員

○年 齢   :41歳〜45歳

○性 別   :男性

○御質問の内容:

平成10年の「地球温暖化問題と原子力」のページを見ていたら太陽光発電風力発電よりも発電電力あたりのCO2排出量は少ないという記載がありました。
前者はいつの段階でCO2を出すのですか?その根拠となる具体的データーを教えてください。


○回 答:

  1.  考え方は共通しますので、分かり易さのために、まず火力発電の例で説明させて頂きます。
    火力発電は、石炭、石油、天然ガスを燃料としてボイラーで燃焼させ、発生した蒸気をタービン発電機に供給し、発電するもので、発電時に化石燃料の燃焼により二酸化炭素を排出します。
    しかしながら、火力発電を利用するに当たり、環境へ排出される二酸化炭素による負荷を考えるためには、火力発電の利用に係る全ての側面で排出される二酸化炭素に着目する必要があります。

  2.  例えば、建物の建設に使われるセメント、鉄筋などの資材を原料から製造するためにエネルギーが使用され、それに応じて発生する二酸化炭素を考慮することが必要です。同様に、発電所で使用されるボイラー、タービン、発電機等の機器の製造のために、材料の製造、加工にエネルギーが使用され、それに応じた二酸化炭素が排出されます。さらに、発電所の建設のための土木工事、建設工事のための掘削、建設機械の使用等においてもエネルギーが使用され、二酸化炭素が排出されます。
    運転段階に入っても燃料は基本的に海外から輸入することとなるため、タンカーにより輸送されることとなりますが、この輸送にもエネルギーが使用され、応じた二酸化炭素が排出されます。さらに、そもそも燃料の石炭や石油などの採掘にもエネルギーが使用され、二酸化炭素が排出されます。
    運転を終えた発電所は解体され、廃棄物は処分されることになりますが、この過程においても解体のための重機の利用、廃棄物処理、処分場への輸送などのプロセスがあり、それぞれの過程において、エネルギーの使用があり、それに応じた二酸化炭素の排出が生じます。
    注) ここで「エネルギー」とくくっているものは、重油、電気、ガソリンなどが該当します。

  3.  このように、発電システムを利用するに当たって、その環境への二酸化炭素排出量は、資源の採取から、製造、使用、廃棄に至るすべてのプロセスを踏まえて、評価することが必要であり、この方法は、“ライフサイクルアプローチ”と呼ばれています。
    お示しした発電電力量当たりの二酸化炭素排出量は、このように発電システムの一生涯を通して発生する二酸化炭素量を求め、その間の総発電電力量から算出したものです。
    このような視点で、生活に使用する様々な物について、ライフサイクル二酸化炭素発生量を評価すると、例えば建築物によっても大きく異なることが分かり、今後の地球温暖化問題対策を考える上で、トータルに考えていくことが重要であることが分かります。ちなみに、身近なところでは、家庭の水道水1立方メートルの使用に二酸化炭素0.16kg、ごみ1kgの処分に0.24kgが発生します(国土交通省調べ)。
    あらゆるものにおいてその利用のためには、エネルギーの使用が行われており、二酸化炭素の排出が伴っていることに御留意いただきたいと思います。

  4.  御質問の原子力発電の二酸化炭素排出量につきましては、御承知のように、発電過程においては二酸化炭素を排出しません。しかしながら、前述の火力発電同様、燃料であるウランのの採掘、精製、濃縮、加工から発電所等の設備の製造・建設・解体、さらには放射性廃棄物の処理・輸送・処分などライフサイクル全てを考慮したものです。なお、原子力発電における二酸化炭素排出量は、現状では、ガス拡散分離法により原子燃料である濃縮ウランを製造するプロセスにおいて発生するものが過半を占めていますが、我が国で開発された遠心分離法を用いれば、排出量を大幅に低減することが可能です。
    また、自然エネルギーによる発電については、大陽光発電の場合、太陽電池製造のための材料シリコンの製造・精製、半導体太陽電池の加工、太陽電池パネルの製造、交直変換装置の製造、蓄電池の製造、発電所設置工事などの過程で、それぞれエネルギーの使用に伴い、二酸化炭素が排出されます。水力、太陽光、風力発電などの自然エネルギーによる発電は、概ね設備の建設に伴う二酸化炭素排出量が全体の8割を占めています。なお、水力は立地場所などによりその建設のためのエネルギー投下量が大きく異なるため、その評価量は幅を持ったものとなっています。また、太陽光発電や風力発電については、利用規模が拡大し製造規模が拡大すれば、設備製造時の二酸化炭素排出量が相対的に低減するため、大幅に排出量が低下することが見込まれています。
    このように、二酸化炭素排出量が少ない自然エネルギー源についても、ライフサイクルアプローチによる評価を行うと、生み出すエネルギー量が希薄なために、発電電力量当たりに割り戻しますと原子力発電に比べて大きな二酸化炭素排出量となっているものです。

  5.  お尋ねの、これらの諸量につきましては、膨大となるため、産業関連表や原典の論文にお当たりいただければ幸いです。論文に関しましては、(財)電力中央研究所ホームページ(アドレス http://ge-rd-info.denken.or.jp/ )に案内がございます。関連する論文としましては、「Y99009」、「Y01006」が御参考になるかと思います。

  6.  最後になりまして恐縮ですが、お問い合わせの平成10年版原子力白書について、大蔵省印刷局製造版(カラー版)の第2章第2節「地球温暖化問題と原子力」の図2−2−2に間違いがありました。次のように訂正をさせていただきますとともに、お詫びいたします。
     (訂正内容)
    火力を除く、自然エネルギー関係発電及び原子力発電について、図中の紫色をピンクに反転。
     (訂正理由)
    燃焼に係る二酸化炭素発生量と、運用・設備建設に係る二酸化炭素発生量の表示が、取り違っていたため。