質問

○職 業    : 学生

○年 齢    : 20歳以下

○性 別    : 女性

○御質問の内容 :

 現在,放射線はどのように利用されているか?また、利用されていることで人体に影響は無いのか?

○回 答:
 レントゲン博士が1895年にX線を発見して以来、放射線は様々な分野で利用され、人類に役立ってきました。しかし、放射線や放射性物質*1は、その利用を開始することによって初めて生まれたものではありません。人類は、有史以前から様々な放射線や放射性物質の中で生活しており、放射線や放射性物質はその意味で私たちにとって極めて身近な存在と言えます。今日においても、我々の身の周りには日常的に放射線はたくさんあります。身の周りにある放射線とその発生源(放射性物質や放射線発生装置)を図1図2及び表1に紹介します。

 それでは、放射線がどのように利用されているかについて御説明いたします。放射線は、医療を始めとして農業、工業等の分野において幅広く利用されています。これまでに実用化された放射線利用の例を図3及び図4に示します。
 ところで、私たちにとって身近に感じられるのは、医療分野ではないかと思われます。例を挙げると、病気の医療検査では心臓の異常や肺を診断する「胸部X線(レントゲン)検査」、胃などを診断する「胃のX線検査」、身体を輪切り状に撮影するX線CTスキャン(X線コンピュータ断層撮影検査)等があります。
 工業分野ではX線やガンマ線の透過力を利用して大型タンカーやジェットエンジンの検査などに用いられています。この他に蛍光灯のグロー放電管や煙感知器にも放射線が使われています。
 農業分野においては、農作物の品種改良や、農薬を使わない害虫駆除などに用いられています。ジャガイモの保存のための発芽防止にも使われています。

 具体的な利用例について、こちらで御紹介いたします。

 さて次に、放射線が利用されていることで人体に影響はないのか、という御質問についてお答えします。まず、食品への放射線照射による発芽抑制や殺菌・殺虫等を例に御説明します。こうしたことについて皆さんが心配になるのは、食品中の成分がなんらかの影響を受け、それが人体の健康に何らかの影響を及ぼすのでは、という点ではないかと思います。この点に関しては、国連食糧農業機関FAO/国際原子力機関IAEA/世界保健機構WHOの合同の専門委員会が、1980年、「平均線量10キログレイ以下で照射した食品の毒性試験はこれ以上行う必要がない」との結論を出しています。さらに、単に毒性に関するだけではなく、10キログレイ以下の照射では、特別の栄養学的及び微生物学的な問題を生じないということについても結論を出しています。
 また別の例として、がんの治療を挙げます。放射線治療の利点は、外科手術と比べたとき、がんになった臓器の機能を保つことができることです。例えば、舌がんや喉頭がんの治療では食事や発声という機能を保つことができ、患者の社会復帰に大変有利です。しかし、放射線治療の欠点は正常組織に損傷を与えることもあることです。放射線治療は早期例ではもちろん、手術不能な進行期例でも十分その効果を発揮しますが、その適用は正常組織への影響を十分に検討した上で行われています。
 このように、放射線は取り扱いを誤れば危険な面がある反面、その危険性を正しく理解した上で、上手にコントロールすれば、安全に取り扱うことができ、非常に応用範囲の広い便利な道具です。そのために、放射線を安全に取り扱う技術の開発がなされており、また放射線防護*2の法規制が布かれています。

 なお、こうした放射線利用のあり方につきましては、
 原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(平成12年11月24日)
 http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/siryo/houkoku2/kettei.htm
 及び長期計画策定会議第五分科会[国民生活に貢献する放射線利用]報告書(平成12年6月5日)
 http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/tyoki/bunka5/houkoku1/houkoku-si01.htm
 で扱われております。現在は、原子力委員会放射線専門部会
 http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/housyasen/index.htm
 にて放射線利用の推進について必要な調査審議を行っております。
 また、放射線利用にかかる安全面につきましては、
 原子力安全委員会
 http://nsc.jst.go.jp/
 の、主に放射線障害防止基本専門部会及びその分科会
 http://nsc.jst.go.jp/senmon/shidai/senkai_f.htm
 にて、調査審議が行われております。詳しくはこれらの資料/ホームページを御参照いただければ、と存じます。

*1)放射性物質とは、放射線を出す性質を持つ核種(放射性核種)を含む物質のことです。なお、放射線、放射能、放射性物質、放射性核種等の言葉はなかなか区別がつきにくいかもしれません。これを電球にたとえてみますと、電球から出させる「放射線」、光を出す能力あるいは性質が「放射能」、電球全体が「放射性物質」、光を発する源であるフィラメントが「放射性核種」に相当します。放射性核種は、「放射性同位体」、「放射性同位元素」、「ラジオアイソトープ」、「RI」などとも呼ばれます。
*2) 人間とその環境を、放射線被ばくや放射性物質による汚染から防護し、放射線障害の発生を防止することを言います。