燃料サイクル事業費の試算方法について

○職 業   :−

○年 齢   :−

○性 別   :男性

○御意見の内容:

核燃料サイクル事業費の試算見直し作業にあたって、次の点を配慮されたい。

  1. 総事業費の算定
     事業費算定にあたっては、その費用の発生時点により、経費を現在価値換算して算出すべきである。即ち、至近年度に支出される再処理費やMOX加工費と処分費や再処理工場の解体費を同じ貨幣価値で算出すべきではない。後者は現在価値換算して1/2〜1/3の金額を積立金として積むことになる。
  2. 直接処分費及びTRU処分費
     再処理に伴うTRU及びよう素除去フィルターの処分及び使用済燃料の直接処分費については、処理(またはコンディショニング)方法及び処分概念を明確にした上で、掘削費、オーバーパックの成型加工費、ベントナイト費用、定置費用などをガラス固化体処分の積立金算定の際に行ったのと同様に、出来るだけ、客観的かつ正確に内訳を明確にした見積もりを行うべきである。直接処分費については、試算結果をスウェーデンのSKBの試算結果と内訳を対比して示すべきである。わが国の場合、掘削費は高いが、処理量が多くスケール・メリットがある。
  3. 中間貯蔵された使用済燃料
     40〜50年間、中間貯蔵された使用済燃料は第2再処理工場を作って再処理するのか、直接処分するのかの選択が問われる。前者の場合には、事業費としては、第2再処理工場はその後も使えるので、建設費ではなく、
     (使用済燃料)(ton)×{再処理費+処分費−〔回収プルトニウム及びウランの価値〕} (円/tonHM)とすべきである。
     この中、回収ウランの価値は、放射線レベルが高く、ウラン価格が安い間は、使用することが出来ず、貯蔵せざるをえないのでゼロとする。

    回収プルトニウムの価値は、〔LEU燃料費−MOX燃料加工費〕
      LEU燃料費=ウラン精鉱費+転換費+濃縮費+ウラン燃料成型加工費

     計算方法はハーバード大学の報告書を参照されたい。勿論、現在価値換算した数字を採用すべきである。使用済燃料を直接処分する場合の処分費も現在価値換算すべきである。
  4. MOX燃料の使用済燃料
     プルサーマルの場合に発生するMOX使用済燃料の取り扱いが問題となる。これを再処理する場合には、回収されるプルトニウム及びウランの価値が低くなる上に、再処理費及び成型加工費はウラン使用済燃料に比して割高となる。一方、これを直接処分する場合には、発熱量が2,200watt/Tと高く、アクチニド元素の含有量も多くなるので、処分費は割高となる。これらを考慮の上で事業費を算定すべきである。
  5. 再処理工場解体費
     六ヶ所再処理工場の解体費用の見積もり1.6兆円は高すぎると考える。放射性残滓の除去が必要な機器、装置は、溶解槽、ガラス固化装置及び高レベル廃液貯蔵タンクであるが、今後溶解液の選択、ロボットなどの解体技術の進歩を考慮すれば、建設費の3〜4割に収まると考えられる。然し、仮に、1.6兆円としても、現在価値換算すれば、0.5兆円程度であり、再処理工場の運転期間40年、稼働率を800トン/年の8割として、再処理費に対する影響は2000万円/ton程度に過ぎない。従って、解体費が、1.6兆円と高額なので、再処理工場の稼動は当面見合わせるべきであるという議論は適当でない。
  6. 中間貯蔵施設の立地
     六ヶ所再処理工場を稼動しない場合、中間貯蔵施設の立地は従来の経緯からも思うように進展せず、当面、十分な容量の中間貯蔵施設の確保は容易ではないと考えられる。その場合、多くの原子力発電所が停止に追い込まれることになるがその経済的損失をどう推定するか検討すべきである。
     上述のように、総事業費の推定には問題点も多く、また、このような検討が、どのような意味を持つかもはっきりしない。私としては、OECD/NEAの経済計算手法により、わが国の現状の核燃料サイクルの構成要素のコストによる試算を並行して行われることを提案する。私の行った試算結果を第1表に示す。なお、第1表のケース2は、ウラン燃料世代の原価であってMOX燃料世代の原価は、再処理費及びMOX燃料加工費がさらに割高になるだけ高くなる。