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メールマガジン
第306号 原子力委員会メールマガジン

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ No.306━━━━━
    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2020年12月15日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆

┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと
┣ 会議情報
┃  (12月8日) 
┃  ・美浜発電所3号炉・大飯発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置
┃   変更許可について(有毒ガス防護)(諮問)(原子力規制庁)
┣ 原子力関係行政情報
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━・・・━━ 委員からひとこと ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
退任にあたって、原子力委員会で考えたこと感じたこと
                              岡 芳明
2020年12月15日に原子力委員長を退任する。少し踏み込んで、考えたこと、感じたことを
述べる。

原発の再稼働が重要
東電福島原発事故からまもなく10年になる。原子力規制委員会や電力会社関係者の懸命な
努力にも関わらず、まだ多くの原子力発電所が停止したままである。これほど多くの
原発が再稼働に10年以上かかるとは思わなかった。

原発の停止を補うために、火力発電用燃料の輸入で、兆円の単位で、巨額の国富が毎年
流出している。電気料金上昇を通じて製造業の製品やサービス業の価格や料金のみならず、
国内でお金が回らないことによって、雇用等にも間接的に影響し、日本の経済活動全体の
低下と、地方の疲弊を加速させているはずである。

原子力発電所は長く使うのが良い
東電福島原発事故後、20年1回限りの延長しか認められていないことから、電力会社が
新規制基準対応の工事のための設備投資の回収が見込めず、多くの原発を廃止することを
選択したのは、国民経済的に大きいマイナスで残念である。国内に建設された50数基の
原発のうち20基を超える原発が、廃止あるいは運転継続を断念している。これらの原発は
比較的発電出力の小さいものが多かったが、100万キロワットクラスのものも含まれている。

原子力発電所は雇用のある水力発電所のようなものである。長く使うのが良い。機器を
取り換えることで長く使える。これは水力発電所も同じである。

水力発電所は建設に巨額の投資が必要だが、先進国でも新興国でも長期間、安定安価に
電力を供給している。例えば米国の発電コスト(建設投資を含まない発電コスト、電力
生産コストともいう)はEIA(U.S. Energy Information Administration)のHPで調べる
ことができる。2019年の発電コストは、水力発電所は1.1セント/kWh程度と極めて低い。
原子力発電は2.4セント/kWh程度である。ちなみに再生可能エネルギー(太陽光と風力)は
ガスタービン複合火力で出力変動を補うので、これらをまとめた平均発電コスト
(2.8セント/kWh、この10年間で約50%低下。理由はシェールガス革命による天然ガス価格
の低下)で示されている。平均発電コストで他と比較するのは合理的である。
参考Table 8.4. Average Power Plant Operating Expenses for Major U.S.
Investor-Owned Electric Utilities, 2009 through 2019 
https://www.eia.gov/electricity/annual/html/epa_08_04.html

米国では80年運転の許可を得た原発も出てきている。日本の原子力発電所は20年1回限り
の延長ではなく、80年運転も可能にするのがよい。停止期間をカウントするのは問題では
ないか。

安全規制に関する情報提供については、規制機関に任せるべき
東電福島事故の最大の教訓は、国連の委員会(UNSCEAR)の報告書が、放射線被ばくに
よる直接の健康被害は観測されないであろうと述べているのに、避難やその長期化に
よって多数の住民に健康被害が出たことである。放射線や放射性物質に対して心理的不安
を持つ国民も多い。

放射線被ばくリスクについては、原子力規制機関によって、国際的なガイドラインを参考
にして、規制値が決められている。この規制値に関連して、ことさらに原子力利用
(推進)側が、公衆に規制値以下の放射性物質濃度について話しても心理的不安を解消
できない。

国民の原子力安全を確保するのは、原子力規制委員会と原子力規制庁の役割である。規制
機関に対する国民の信頼が、原子力安全に対する信頼になる。安全規制についての情報
提供は、原子力推進側がことさらに公衆に発表するのではなく、独立な行政機関である
原子力規制機関に任せるべきである。

一方、観測結果は学術研究の場合は、ピアレビューを経て学術雑誌に発表すべきである。
地方自治体との協定で発表すると定められた観測結果は、地方自治体のHPで公開し、
国民が閲覧可能にするとよい。

故障・トラブルを防ぐには、組織経営の中で安全性向上を図るのも、効果的である。これ
が大きい事故を防ぐことにもつながる。米国でも自主的安全性向上により、効果が上がって
いる。

米国では、Paul Slovicらによるリスク心理学研究や、全米研究協議会の
リスクコミュニケーション研究が1980年代に行われて、報告書がまとめられている。米国
NRCの効果的なリスクコミュニケーションと題するマニュアルもある。現場の経験に
基づいたこれらの研究の成果や報告書が、米国におけるこの分野の理解の基盤になって
いる。米国の産業界やNRCがリスクコミュニケーションを積極的に行っていないのは、
これらの知見を基にしているとも考えられる。

日本語では、Paul Slovicのところで研究されたこともある岡本浩一教授の
「リスク心理学入門」がある。全米研究協議会の「リスクコミュニケーションの改善」の
報告書は和約されて、化学工業日報社から出版されている。原子力安全や
コミュニケーションに興味がある原子力関係者はまずこれらの本を勉強してほしい。

安全目標は、米国では国民向けのコミュニケーションには用いられていない。非合理な
リスク認知を、合理的な方法である確率論的リスク評価法や、それを参考に決められる
安全目標で、なぜ解決できるのか。安全目標は規制側と原子力事業者との対話で用いると
よい。

原子力安全の技術専門家を集めて、安全目標の国民とのコミュニケーションが可能か
どうかを検討するのはおかしい。これに限らず、国際機関の報告書でも、参加する検討
委員の専門性が偏ると、結論も偏るので注意が必要である。米国の全米研究協会のリスク
コミュニケーション研究の委員は、ほとんど全員が社会科学系である。原子力安全技術の
専門家は入っていない。

欧米では書かれた論文や報告書などをもとに政策の検討が進められる。口頭のみの根拠の
よくわからない会合で意見の集約はなされない。日本の審議会はこの点で注意が必要では
ないか。

原子力規制委員会に対する国民の信頼が、国民の原子力安全に対する信頼になる。
原子力推進側から、原子力規制委員会に対する非難を聞くことがあるが、慎むべきである。
原子力利用にとって逆効果である。エビデンスをもとに、書いたものを作って公開すべき
である。
独立な行政機関は、戦略プランなどを作成させ、その活動をHPで公開させて、国民と議会
が監視する。これは米国の方法である。

国への依存の問題
1990年以降の日本の停滞と、日本の原子力発電利用の停滞が重なっている。官尊民卑との
表現があるように、日本停滞の原因は、企業や研究開発機関や調査機関等の国の予算と
制度への依存ではないか。他にもハードからソフトへの移行が遅れたためとか、日本の
半導体産業が国際競争力を失ったのは、1990年代に国内の競争環境が失われ、それに安住
したためであるなどの分析がある。

これらは、日本の原子力発電利用の停滞の原因と共通する。各国が輸出した最初の原子炉
の運転開始年をまとめた表を作成し、原子力白書に掲載した。この表から、国内で原子力
発電利用を大規模に展開した国で、輸出したことがないのは日本とインドだけであること
がわかった。日本が輸出を考えるべきだった時期は1970年代である。日本の原子力
エネルギー利用は、国内で国の予算と制度に依存した温室状態に生きてきたのではないか。

国に心情的に依存している国民が多いことが、このような状態が長く続く原因と考える
かもしれないが、国民の国への依存意識は韓国も同じではないか。しかし、韓国は1997年
の経済危機で、行政改革を断行し、よりスリムな競争社会に生まれ変わっている。この時
の危機意識が、その後の韓国が発展の原動力ではないか。

国の予算に頼る温室内ではなく、個人と組織が生き残りをかけて、国内外で必死に努力
する状態にすること、なることが必要ではないか。国際的に強い企業や組織や個人はこの
状態ではないか。本当のイノベーションもこのような状態から生まれるはずである。
予算を付けることが先ではない。米国に目が向きがちだが、韓国を見習うべきところも
多いのではないか。

ハード(モノ)からソフト(サービス)への移行が日本は30年遅れている。
原子力利用・研究開発も同様で、モノに予算を投じることで、企業や研究開発機関が温室
から出ず、必死に努力する状態を阻害しているのではないか。

わかっていても、全体がそのような構造になっているので、直すのは容易ではないが、
原子力委員会の「原子力利用に関する基本的考え方」と「技術開発・研究開発の考え方」
では、競争的視点及び国際的視点がより強く求められるようになるとし、政府は長期的な
ビジョンを示し、その基盤となる技術開発・研究開発のサポートをする役割を担うべきで
あること、研究開発機関には知識基盤構築の役割を果たすことを求めている。

核燃料サイクル
核燃料サイクルに限らず、政策の説明は、行政(担当省庁)の責任であり、ロバスト
(環境変化に対して強靭な)な原子力利用にとって必須である。これは、テーマは違うが、
東電事故の教訓でもある。日本は、情報の受け手と出す側の両方に課題があると思う。
原子力は地元問題が関係するのでさらに複雑である。欧米のように、エビデンスベースの
ロバストな原子力利用を進めるには、省庁による政策の説明を進めることと、国民の側の
冷静な理解が、ともに必須である。

高速炉は、日本もフランスも実用化時期を21世紀後半に延ばした。原子力白書で紹介
したが、日本は原子力関係閣僚会議でそのように決めている。フランスは多年度
エネルギー計画で、高速炉原型炉ASTRID計画を中止し、高速炉プロジェクトの再開を
少なくとも30年延期した。多年度エネルギー計画には、ほとんど高速炉の記述がなく、
最後の研究開発のところに少し触れられているだけである。

「もんじゅ」の廃止は、軽水炉燃料サイクルの廃止を意味しない。一方、六ケ所村の
再処理工場は建設済みで、再処理の試験運転も行っている。再処理量は再処理機構が認可
するが、運営は、再処理機構ができる前から電力会社が出資した民間企業である。再処理
工場を、竣工させ運転するのはこの民間企業の責任である。

「我が国におけるプルトニウム利用の基本的考え方」に従って、プルサーマルでの消費を
進め、再処理量をプルトニウム消費量とバランスを取って実施するのも電力会社の責任で
ある。再処理しない使用済燃料は貯蔵を進める必要がある。

再処理工場の竣工が遅延しているために、地元が心配するのはもっともである。長期的に
見れば、サイクル政策に限らず、エネルギー政策をめぐる環境変化に対応していくのが、
地元にとっても良いはずである。

高速炉の研究は行うことになっているが、日本の今後の研究開発においては、
「技術開発・研究開発の考え方」で述べたように、研究開発機関はまずは軽水炉利用の
知識基盤構築に注力する必要がある。

教科書の知識だけでは原子力利用はできない。日本は研究開発で得られた知識を俯瞰的に
取りまとめる作業や、それを計算コード等に体系化する作業が、諸外国に劣後している。
東電事故後、精力的に行われてきた事故炉の廃止措置にかかわる研究開発などで得られた
知見をまとめ、知識化、体系化するのは特に重要である。優秀な人材、組織的に仕事が
できる人材を高速炉研究で浪費しないようにしてもらいたい。

高速炉に限らないが、国が原子炉などを開発して民間が使うモデルは、とっくの昔に時代
遅れになっている。米国は冷戦終了後、クリントン政権時代にエネルギー省の国立研究所
の役割を見直した。韓国も2つの省庁が協力する体制を構築した。日本だけが改革が遅れ、
取り残されている。なお、大学は教員の責任において、何でも研究することができる。
ただし、その結果は、高速炉研究に限らないが、論文被引用件数や優秀な留学生獲得数で
などの指標で見える化でき、評価される。

フランスは、「再処理路線を、ラアーグ再処理工場更新が必要になる2040年まで維持する。
2040年以降に、燃料サイクルを閉じる政策とそのR&Dをどうするか検討する」と、多年度
エネルギー計画で述べている。

フランスの高速炉と燃料サイクル政策は、結果的に日本と同じである。なお再処理等
サイクル技術の実績やその知識基盤はフランスがはるかに進んでいる。フランスは、
2012年の会計検査院の「原子力発電のコスト」報告書の省庁のコメントや放射性廃棄物
処理機関ANDRAのホームページにあるように、「将来サイクル政策の政策変更がなされる
場合は、フランスの地層処分場は使用済燃料集合体そのものを処分することも可能である」
と述べている。フランスはロバストである。

高速炉は第4世代炉と言われるが、第一世代炉である。米国海軍が開発した最初の原子力
潜水艦の動力はナトリウム冷却高速炉だったが、うまく動かず、半年で、加圧型軽水炉に
積み替えている。原潜開発の指揮を執ったリコーバー提督の、高速炉に関する言葉が
残っている。「もんじゅ」が苦労した内容とよく似ている。米国は初期の原子炉開発に
携わった方々の経験は本として残っている。知らない方が多いようであるが。

フランスは、高速炉の再処理を軽水炉の再処理より前に行っていた。ラアーグ再処理工場
に行くと、除染された高速炉再処理施設の建屋が残っている。2012年のフランス会計検査
院報告書「原子力発電のコスト」などでも、フランスの高速炉開発の歴史を知ることが
できる。

きちんと書かれたものをもとに考える、帰納的考える、実践的に研究する
日本は原子力分野に限らず、伝聞をもとに情報収集し判断することが多すぎるのでは
ないか。英語で検索して、欧米の知見も参考に考え、きちんと書かれた報告書をもとに
判断する必要がある。欧米先進国はこの状態である。こうあるべきと演繹的に考えるの
ではなく、帰納的に考える必要がある。社会科学の場合は実践的に研究する必要がある。
原子力関係者は、報告書を読んだら、背景まで理解してほしい。

政策の説明
米英の省庁は、HPで担当する政策を国民向けに分かりやすく説明している。詳しく
知りたい国民向けに根拠の報告書もリンクされている。政策の透明性の向上は、根拠の
情報整備とともに、ロバスト(環境変化に対して強靭)な原子力利用のために必須である。

根拠の情報の作成提供
英国は、原子力に限らず、科学に関係する情報の整備や利用が進んでいる
。BSE(海綿状脳症)の対応の政府失敗の教訓も生かして、東電事故の際の政府の一元的な
情報発信と危機管理は見事だった。英国民の理解には、整備された科学情報が役立った
はずである。

原子力委員会で、根拠の情報の作成提供を提案し、進めてきたが、多くの方々の協力と
努力にもかかわらず、課題が残っている。一つは、一般国民向けの情報と原子力分野の
専門的情報との乖離があること、もう一つは原子力分野の専門的情報が細分化されすぎて
いて、他分野や国民の理解に困難があることである。

課題の解決方法は今後の検討と工夫に待つが、提案をすると、前者は、一般の方や他分野
の方に理解していただけるきっかけが含まれていることが必要ではないか。たとえば、
原子力分野以外の専門家が、原子力についても述べた文章を収集整理し開示すること。
後者は、細分化された情報をまとめた解説や報告書を組織的に作成するのが良いのでは
ないか。これには、短く適切な要約が作成され最初に提示されていることも必須である。
後者は研究開発機関等の組織的作業によって進展することを期待したい。人材の能力向上
にもなるはずである。

原子力分野の魅力を、高校生や一般大学生に伝えるためのコンテンツ(パネル)作りは、
短い文章で、本質的で、彼らがそうと感じるものを作成する必要がある。広く深く原子核
科学や放射線利用分野を知った専門家との意見交換・ブレインストーミングが役に立つ
はずである。

これらの作業では、原子力のことは聞きたくもないと思っている方々もいることを念頭に
置く必要があるのではないか。

知識基盤の構築
教科書の知識だけでは原子力利用はできない。知識基盤とは、原子力利用のために
集積され体系化された知識、それらを習得し新たに作り出せる人材、研究開発のための
実験装置のことである。これまでの原子力発電では原子炉メーカの研究員がメーカの製品
とかかわる部分の知識基盤を担ってきたが、民間企業であり、今後は以前のような役割を
期待するのは無理がある。国の資金で運営される研究開発機関がこれを担う必要がある。
使える知識、知識基盤であるためには、軽水炉利用など当該分野を自らの仕事にする必要
がある。自分でやらないと使える知識にはならない。

原子力関係組織の連携
研究開発において、日本の縦割りを前向きに修正したいと考えて、軽水炉長期利用・安全、
過酷事故・防災、廃止措置・放射性廃棄物の分野で原子力関係組織の連携を提案した。
欧州共同体が、フレームワークプログラム、その後NUGENIA, 現在はSNETPを行っている
のが参考になると考えた。核燃料関係については電力中央研究所が、過酷事故については
日本原子力研究開発機構が中核的役割を担ってくれて、先日の定例会で発表を伺った。
いずれも大きい研究機関が関与してくれたので、まとめることができた。

今後の課題は、大学や学会などとの連係した情報交換活動や人材育成での成果物の活用、
過酷事故については、現象を含む過酷事故挙動に関する知見の充実ではないかと感じた。
なお廃止措置・放射性廃棄物は研究開発ではなく、根拠情報の作成提供の作業を行って
くれた。一般向けの情報とのつながりが課題であることはすでに述べた。
全体として、大学や原子力学会の活動とのリンクがあるとよいと感じる。さらなる展開を
期待したい。

日本原子力研究開発機構の役割の変化・変革
日本原子力研究開発機構(JAEA)は、約3,000人の職員を有し、国の資金によって運営
される原子力エネルギー関係の研究開発機関である。知識基盤構築や連携活動において、
組織的に仕事ができ、中核的役割を果たすことを期待している。学会活動や大学との協力
においても、JAEAの優秀な研究者が関与した場合は、優れた成果物が出ている。

JAEAは約半数の研究開発施設を廃止したので、その実施と予算の確保が課題である。
研究開発でも、JAEAはその優秀な人材を適材適所で育て生かすことが求められている。
内外の研究開発で得られた知識をまとめ、利用できる形にすることや、計算コードに
よって予測可能にすることなど、JAEAでないと果たせない重要な役割がある。組織的に
仕事ができる点はJAEAの特徴である。

高速炉のところで述べたが、JAEAの役割のうち時代に合わなくなった部分には対応する
必要があるのではないか。

原子力委員会はJAEAの中長期目標の諮問を受けたので、答申を出して対応を求めている。
今後は、JAEAの各部門から状況をヒアリングするとともに、米国や韓国の原子力研究開発
機関の改革や役割、管理と産業界との連携などの情報を収集し、グッドプラクテスと課題
をまとめる方策がある。海外の研究開発機関の情報は関係の財団等に問い合わせる方策が
あるのではないか。

大学における原子力教育
大学の原子力関係の専攻や学科は、優秀な国内外の人材を集め教育する重要な役割を
担っている。国内外の大学原子力教育と運営について定例会でヒアリングし、
グッドプラクテスと課題をまとめた。原子力白書の特集にまとめがある。今後は、
論文被引用件数や優秀留学生獲得数、教育の自己改善の仕組みの導入などの指標を
“見える化“するのが良いと考える。まず、そのためのデータを集めるとよい。

日本が行っているアジア原子力協力の取り組みを、アジアとの原子力関係の人材育成、
優秀人材の獲得と交流に生かしたいと考えた。インドネシア原子力庁(BATAN)の協力で
インドネシアの主要大学と日本の原子力関係の大学教員と研究開発機関研究員の発表から
構成されるWEBシンポジウムを11月に開催した。多数のインドネシアの学生が参加し
盛況であった。

12月2日にはBATANの創立記念シンポジウムにおいて、原子力委員会や原子力関係省庁、
大学教員が発表者として参加した。これも300人を超えるインドネシアの学生が参加し、
在インドネシア大使館による日本留学の説明も行われた。今後、インドネシアのみならず、
アジア各国との原子力人材育成の交流が行われることを期待したい。

大学原子力関係は、従来の原子力委員会の活動の範囲にはなかったが、加えることが
できた。これによって、研究開発機関にとっても優秀人材獲得の途が広がったと考える。

新規建設
原子力発電は、地球温暖化問題に対応するために、現在すぐ使える技術である。原子力
白書に記載したように、米国では、原子力発電が炭酸ガスを放出しない発電方式の中で、
最も大きい寄与をしている。原子力発電は、温暖化対策のみならず、安定安価な電源
として国民の経済や雇用に直接・間接に貢献できるので、日本においても将来的には
新規建設を進める必要があると思う。新規建設というと周辺自治体で反対があるかも
しれないが、原子力発電所は周辺自治体の住民の雇用にも貢献している。

新規建設においては、欧米で建設の遅延が発生しており、教訓を、今年9月に原子力学会
で発表した資料(原子力委員会HPの活動報告に掲載)にまとめてある。これらの教訓を
生かして、対策をいまから準備することが必要である。たとえば、日本がABWRを開発した
ときに、世界に先駆けて作り上げ、世界に広まった原子力発電所の計算機援用設計製作
保守システムに、建設遅延の対策を組み込むことが考えられる。

欧米では新規建設で、基盤の土木工事で地盤の鉄筋の結束のノウハウが失われていたとの
ことだが、最近は作業員にウエアラブル端末を装着させて、建設工事の鉄筋結束等の
ノウハウの継承の試みがなされていると、最近のビジネスジャーナルに書いてあった。
この30年間に人間に計算機が近づいた、進歩した情報技術を利用することなど対策を
工夫するとよいのではないか。ハードではなくソフトの工夫の時代である。これは新型炉
より、はるかに日本にとって重要である。

新型炉
原子炉概念の専門家なので、新型炉についても述べておきたい。新型炉というとこれまで
研究開発されなかった新しい炉とのイメージだが、米国は原子炉開発の初期に様々な炉型
を開発したことが忘れられている。様々な原子炉型の中で軽水炉が競争に勝った。それは
原子炉の理論から説明できる。原子力委員会のHPの活動報告に掲載した2018年の日本技術
士会での講演資料の最後に書いてある。新型炉の多くは第一世代炉かその変形である。

技術革新の歴史と考察をまとめたJ.M.Utterbackの“Innovation Dynamics”には、「市場
を支配した設計が確立すると、製造工程のイノベーションがおこる」、「市場を支配した
企業からは次のイノベーションは生まれない」とのまとめがある。前者は、原子力発電
技術では、軽水炉が市場を支配した設計で、製造工程のイノベーションは日本が世界に
先駆けて開発した計算機援用設計製造保守システムである。これはハード(原子炉
そのもの)ではなくソフトである。後者の例は、国内外の原子炉メーカのことである。

原子炉メーカは現在の製品から離れられない。経験のある製品でないと買ってもらえない
のである。設計図を新たに作り、その経験を蓄積するのは、コストがかかるだけではなく
大きいリスクである。超臨界圧軽水炉で、日本のあるBWRメーカが書いた図面に、原子炉
容器下部から挿入するBWR型の制御棒駆動機構が載っていたので驚いたことがある。水圧
駆動の制御棒挿入機構が必要で、原子炉容器の位置も高くなるので、決して良いとは
いえないのだが、メーカが現在の製品の経験から離れられない例である。

米国ではベンチャー企業に原子炉のイノベーションを託す富豪がいる。イノベーションの
法則から言えばこれは正しいが、過去の原子炉開発の教訓を、このベンチャー企業が
知っているかは疑問と感じる。過去の教訓はイノベーションダイナミクスだけでない。
過去の開発の経験となぜ軽水炉が市場を支配したかの教訓の両面からイノベーションに
挑む必要がある。市場の要求を含む課題と過去の教訓の認識がまず必要である

退任にあたって
2014年4月に着任して、6年9か月半、原子力委員長の任務にあたった。私自身の仕事が
研究開発から原子力政策に180度転換し、大げさに言えば24時間それだけを考えた。方法
は大学で研究していた時と同じで、主に英語でエビデンスを探しつつ考える方法である。
行政の中で仕事をするのは初めてだったので、今考えるとこうすればよかったのではない
かと考えることも多い。大学の研究室の運営のつもりでいたのは間違いだったと気が
付いたのは最近である。考えたことや書いたことが理解されない場合もあると気が付いた。
技術ではない課題を認識するためには自分の専門分野以外への強い関心を持つことが必要
である。原子力政策を考えるには、横に広く、原子力技術以外の見方や知識が必要である。
原子力委員会は司令塔ではないので、個別の技術をどうすればよいかを具体的に云々する
必要はない。

行政官は、いろいろな方々がいるが、全員、責任感の強い優秀な方々である。大変お世話
になった。当たり前だが、行政官は法令や決定文書に従って仕事をする方々である。その
責任感は見事なものである。優秀な行政官の中で、一人だけ名前を挙げるのを、異例だが
許してもらえるなら、川渕英雄企画官の名前を挙げたい。彼の類いまれな記憶力と行動力
がなければ、基本的考え方や、技術開発・研究開発の考え方や、プルトニウム利用の考え
方などを、短い期間にまとめられなかったと思う。

阿部信泰前原子力委員には核不拡散について、佐野利男原子力委員には核不拡散や保障
措置のみならず、行政の先輩として、ご意見を伺い、協力と指導を賜った。中西友子
原子力委員は、多忙な非常勤の原子力委員であるにもかかわらず、放射線利用を担当
くださった。もう少し放射線利用について、私が時間をさかないといけなかったのではと
反省している。

原子力委員会は事務局の上に委員会がある。この形態の組織の運営は、米国の原子力学会
の理事会で経験したことがあるが、米国流の議事運営規則(ロバーツ議事規則)で議事の
進め方は決まっている。原子力委員会でもその決定は委員の合議によると考えていたが、
原子力委員会では、意見の相違があれば、まずは徹底的に話し合うことにしていた。意思
決定で混乱したり揉めたりしなかったのは、原子力委員の先生方の見識のたまものであり
感謝したい。

原子力委員会の方々以外にも、多くの方に協力や助言を賜った。お名前を挙げるのは差し
控えるが、ご協力に感謝する。

メールマガジンは考えたことを伝える重要な手段として利用させていただいた。もっと
気楽な話を書くべきだったかもしれないが、ほかに良い方法が無かったのでご容赦賜れば
幸いです。堅苦しい話にお付き合いくださった読者に感謝する。

ありがとうございました。 

主な原子力委員会作成文書
原子力利用に関する基本的考え方(平成29年7月21日閣議尊重決定)、おおむね5年毎に
作成する。
技術開発・研究開発に対する考え方(平成30年6月12日)
我が国におけるプルトニウム利用の基本的考え方(平成30年7月31日)
高速炉開発について(見解)(平成30年12月18日、平成29年1月13日)
JAEAの中長期目標の変更について(平成31年2月27日答申)
原子力分野における人材育成について(見解)(平成30年2月27日)
軽水炉利用について(見解)(平成28年12月27日)
理解の深化 ~根拠に基づく情報体系の整備について~(見解)(平成28年12月1日)
今後の試験研究用原等子炉施設の在り方について(見解)(平成28年4月26日)
原子力白書(平成28年版より毎年度、翌年度夏頃公開)

原子力政策の根拠、エビデンスを説明した主な参考資料
原子力政策
原子力委員会メールマガジン、2020年9月18日、7月31日、6月12日、4月17日
原子力委員会HP活動報告:日本原子力学会2020年秋の大会オンライン発表、
2020年9月18日 :グランドチャレンジ:原子力政策と課題
リスクコミュニケーション
原子力委員会メールマガジン、2019年7月26日
核燃料サイクル、プルトニウム、高速炉、分離変換(有害度低減)
原子力委員会メールマガジン、2018年7月25日
原子力委員会HP活動報告、「日本の原子力利用の課題と人材育成」2018年6月15日、
日本技術士会原子力・放射線部会特別講演会「異論の例」以下
廃止措置と放射性廃棄物
原子力委員会メールマガジン、2020年3月6日、1月24日、2019年12月6日、10月25日

・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・

●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は霞ヶ関周辺で開催しており、
どなたでも傍聴できます。開催案内や配布資料は、
すべて原子力委員会ウェブサイト(以下URL)で御覧いただけます。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●12月8日(火)の会議の議題は以下の通りです。

【議題1】美浜発電所3号炉・大飯発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可
について(有毒ガス防護)(諮問)(原子力規制庁)

<主なやりとり等>
美浜,発電所3号炉・大飯発電所3号炉及び4号炉の発電用原子炉設置変更許可について
原子力規制庁より説明を行い、その後、委員との間で質疑を行った。

●次回の委員会開催については、以下の開催案内から御確認ください。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

━・・・━━ 原子力関係行政情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・

原子力関係の他の行政における委員会等のリンク情報は以下のとおりです。

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■首相官邸
┗原子力防災会議
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/)
┗原子力災害対策本部会議
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/)
┗原子力立地会議
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/index/gensiryoku/)

■内閣官房
┗原子力関係閣僚会議
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/)
┗最終処分関係閣僚会議
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisyu_syobun_kaigi/)
┗原子力損害賠償制度の見直しに関する副大臣等会議
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_songaibaisho/index.html)
┗「もんじゅ」廃止措置推進チーム
(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/monju/index.html)


■経済産業省
┣高速炉開発会議
(http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html)
┣エネルギー情勢懇談会
┣高速炉開発会議戦略ワーキンググループ
(http://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/kosokuro_kaihatsu/kosokuro_kaihatsu_wg/index.html)

■資源エネルギー庁
┣総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会
(http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html)
┗原子力小委員会
(http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/index.html)
┣自主的安全性向上・技術・人材WG
┣放射性廃棄物WG
┣地層処分技術WG
┗原子力事業環境整備検討専門WG
┗電力基本政策小委員会
┣総合資源エネルギー調査会基本政策分科会
(http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/)
┣長期エネルギー需給見通し小委員会
┣発電コスト検証WG
┗電力需給検証小委員会
(http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/18.html#denryoku_jukyu)
┗電力システム改革貫徹のための政策小委員会
(http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/kihonseisaku/denryoku_system_kaikaku/001_haifu.html)
┗エネルギー情勢懇談会
(http://www.enecho.meti.go.jp/committee/studygroup/#ene_situation)
┗使用済燃料対策推進会議
(http://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/shiyozumi_nenryo/index.html)

■原子力規制委員会
(https://www.nsr.go.jp/)
┗原子力規制委員会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/index.html)
┣原子炉安全専門審査会・核燃料安全専門審査会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/roanshin_kakunen/index.html)
┣放射線審議会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/houshasen/index.html)
┣国立研究開発法人審議会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/nrda/nrda/index.html)
┣量子科学技術研究開発機構部会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/nrda/nirs/index.html)
┣日本原子力研究開発機構部会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/nrda/jaea/index.html)
┣原子力規制委員会政策評価懇談会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/seihyou_kondan/index.html)
┗原子力規制委員会行政事業レビューに係る外部有識者会合・公開プロセス
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/gyousei_gaibu/index.html)
┗原子炉安全専門審査会 原子炉火山部会
(https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/roanshin_kazan/00000002.html)

■文部科学省
┗原子力科学技術委員会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/055/index.htm)
┣原子力人材育成作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/079/index.htm)
┣原子力研究開発・基盤・人材作業部会
(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/099/index.htm)
┣核融合研究作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/056/index.htm)
┣核不拡散・核セキュリティ作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/076/index.htm)
┣原子力バックエンド作業部会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/099/index.htm)
┗核融合科学技術委員会
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/074/index.htm)
┗原型炉開発総合戦略タスクフォース
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/078/index.htm)
┗調査研究協力者会議等(研究開発)
┗「もんじゅ」廃止措置評価専門家会合
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/022/index.htm)

■復興庁
┣福島12市町村の将来像に関する有識者検討会
(http://www.reconstruction.go.jp/topics/main-cat1/sub-cat1-4/20141226184251.html)
┗原子力災害からの福島復興再生協議会
(http://www.reconstruction.go.jp/topics/000818.html)

■環境省
┗東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関す る専門家会議
(https://www.env.go.jp/chemi/rhm/conf/conf01.html)

■厚生労働省
┗薬事・食品衛生審議会(食品衛生分科会放射性物質対策部会)
(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji.html?tid=127896)


●次号配信は、2021年1月15日(金)午後の予定です。
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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
原子力委員会:岡 芳明委員長、佐野 利男委員、中西 友子委員
○メルマガへの御意見・御感想はこちらへ(お寄せいただいた御意見に対しては、
原則として回答致しませんが、今後の原子力委員会の業務の参考とさせていただきます。)
https://form.cao.go.jp/aec/opinion-0017.html
○配信希望、アドレス変更、配信停止などはこちらへ
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/melmaga/index.htm
○原子力委員会ホームページ  http://www.aec.go.jp/
○このメールアドレスは発信専用のため、御返信いただけません。
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