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第135号 原子力委員会メールマガジン 廃炉時代にむけて

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    @mieru(あっとみえる) 原子力委員会メールマガジン
             2013年9月27日号
   ☆★☆ めざせ! 信頼のプロフェッショナル!! ☆★☆
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┏ 目次 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┣ 委員からひとこと 廃炉時代にむけて
┣ 会議情報  (9月24日)
┃       ・ICRP対話集会「第6回ダイアログセミナー」の結果について
┃       ・原子力災害対策について
┃       ・J-PARCハドロン実験施設における放射性物質の漏えい事故
┃        に関する報告(第三報)等について
┃       ・近藤原子力委員会委員長の海外出張報告について
┣ 事務局だより 原子力事故コストに対する世界の感覚
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━・・・━ 委員からひとこと ━・・・━━・・・━━・・・━━・・・

廃炉時代にむけて
                             鈴木 達治郎

 9月19日、安倍首相が東京電力福島第一原子力発電所視察に際し、同サイト
の5号機、6号機を廃炉にするよう東京電力に要請いたしました。これは、
1〜4号機の廃炉措置、汚染水問題対応を最優先課題として取り組む政府の方
針に則ったものとされており、5,6号機は廃炉措置の研究開発用としても利用
される可能性が示唆されています。報道では、東京電力もこれを受け入れる方
針とされています。
 これまで、地元の福島県や市町村からは「5,6号機の廃炉を決定してほし
い」との要請が出ていたにもかかわらず、その決定が遅れていた背景の一つに
は、会計制度の問題があるとされています。現在は資産である原子力発電所が、
「廃炉決定」に伴い「負債」となること、これまでの引当金では廃炉費用が十
分ではないこと、等が影響していると言われています。経産省の試算によりま
すと、日本に現存する原子力発電所全50基が廃炉と決定された場合、日本全体
で4兆4千億円損失が発生し、東電をはじめ6社が債務超過になるとされていま
す。こういう状況を避けるため、経産省では専門家委員会を設置し、廃炉決定
後も10年間の猶予期間をもうけて電気料金で廃炉費用を回収できる制度の導入
を決定しています。
 このように、今後廃炉が現実化する時代を迎えている状況を考えると、これ
までのように新設・増設を前提としていた政策や制度、そして事業者の経営方
針、ひいては立地自治体の雇用や経済政策に至るまで、必要に応じた改革を進
めていく必要があります。特に重要な点として、個人的には以下のような課題
があるのではないか、と考えています。
 第一に、人材の確保とそのための体制づくりです。これまで主力と考えられ
ていた、原子力発電所の設計、建設、製造、そして新型炉や核燃料サイクルの
研究開発に必要な人材と、廃炉やそれに伴う廃棄物処理・処分に必要な人材と
は、大きく異なってくることが当然考えられます。3・11以前までは、原子力
発電所の新設・増設を継続していくことが前提で人材の確保や研究開発を続け
てきていました。今後は、原子力の将来がどうなろうと、廃炉や廃棄物処理・
処分の需要が増加・継続する事は明らかであり、そのための体制作りを早急に
構築しなければいけません。
 特に東京電力福島第一原子力発電所の廃炉措置は、世界でも経験のない多く
の挑戦的課題を長期にわたり克服していかねばなりません。思えば、1967年に
政府は高速増殖炉(FBR)・核燃料サイクル確立をめざして、動力炉・核燃料
開発事業団(動燃、現在は日本原子力研究開発機構に再編)を国家プロジェク
トとして設立いたしました。東京電力福島第一原発の廃炉は、当時のFBRや核
燃料サイクルと同様、国を挙げて、いや世界の叡智を集めて取り組むべき課題
であり、当事者である東京電力が賠償責任を負っている等の状況を考えますと、
当時以上に強力な組織・機関を立ち上げる事が必要ではないでしょうか。そう
いった意味で、最近設立された「国際廃炉研究開発機構」(IRID)への期待は
大きいですが、研究開発のみならず、廃止措置の長期にわたる円滑な実施のた
めにも、若くて優秀な人材にとって魅力的な体制作りが望まれます。
 第二に、立地自治体の新しい地域振興・雇用対策です。現在、立地自治体は、
原子力関連施設を受け入れることで、関連施設の固定資産税や立地交付金など
の収入を得ることができます。さらに、原子力関連企業が地元では最大の雇用
先となっていることが多いのが現状です。今後、そういった施設の廃止が決定
されますと、収入や雇用の確保が困難になることが予想されます。廃炉の時代
は事業者のみならず立地自治体にとっても深刻な財政的・社会的課題に繋がる
可能性が考えられます。したがって、こういった負の影響を最小限に抑え、新
たな時代にむけての地域振興・雇用対策を考えていく必要があります。具体的
にはいわゆる電源三法交付金制度の見直し、代替産業の誘致・振興策等を検討
していく必要があると思います。
 第三に、使用済燃料の処理・処分対策です。原子力の将来がどうなろうと、
使用済み燃料の安全な貯蔵容量の拡大は急務の課題です。今後、さらにその貯
蔵期間が長期化する可能性を考えても、核セキュリティ等の対策上も、より安
全な乾式貯蔵への移行を進めていく必要があります。これまでは再処理を優先
課題として取り組んできましたが、今後は使用済み燃料対策の最優先課題とし
て、オンサイト、またはオフサイトでの乾式貯蔵を推進するための体制作りが
望まれます。さらに、考えなければいけない事は、これまで使用済み燃料は資
源として考えられており、会計上も資産として計上されている事実です。廃炉
が決定しても、全量再処理して燃料をリサイクルする方針が継続されれば、そ
の取り扱いは変わりません。しかし、FBRや核燃料サイクルの将来が不確実な
現状を考えれば、使用済み燃料の直接処分を可能にする取り組みが必要と原子
力委員会は考えています。その場合、使用済み燃料は資源ではなく、廃棄物の
扱いとなり、廃炉と同様、事業者にとっては「負債」となる可能性があります。
そこで、事業者の負担を減少するためには、貯蔵期間中は「資産」として認め
る等、直接処分を導入する場合の会計制度の検討も必要と考えられます。
 今後のエネルギー政策の検討が進められていますが、その結果がどうなろう
と、「廃炉時代」の到来は不可避であることをまず認識する必要があると思い
ます。これは世界でも共通の課題です。70〜80年代に運転を開始した原子力発
電所が2010〜20年代に次々と廃炉措置に入ることが想定されます。
World Nuclear Industry Report2013年版
(http://www.worldnuclearreport.org/IMG/pdf/20130716msc-
worldnuclearreport2013-hr-v4.pdf)によりますと、2030年までに世界で260
基が廃炉措置の対象となると想定されています。こういった世界でも新たな廃
炉時代が訪れようとしている時、日本においても本格的に検討を始める時期で
はないでしょうか。

以上

●次号は秋庭委員からのひとことです!

━・・・━━ 会議情報 ━━・・・━━・・・━━・・・━━・・・━━・
●原子力委員会の会議を傍聴にいらっしゃいませんか。会議は原則として霞ヶ
関にある合同庁舎4号館で開催しており、どなたでも傍聴できます。開催案内
や配布資料は、すべて原子力委員会ウェブサイトで御覧いただけます。

●9月24日(火)の会議の概要は以下のとおりでした。詳しくはウェブサイトに
掲載される議事録を御覧ください。

【議題1】ICRP対話集会「第6回ダイアログセミナー」の結果について
<主なやりとり等>
 事務局より、第32回原子力委員会臨時会議「福島県におけるリスクコミュニ
ケーションの課題について」において、福島県在住の方々から伺った意見につ
いて、報告を行いました。
 福島県立医科大学特命教授 丹羽氏より、ICRP福島ダイアログセミナーにお
いて学んだこと、被災地域において、個人の実効線量の測定と管理といった、
放射線が統御できることを確認するプロセスが必要であること、被災地域と外
の地域との価値共有のための、双方向の交流が必要であること等について説明
がありました。
 委員からは、住民の方と共に決定する仕組みの必要性等について質問があり、
丹羽氏からは、地域のコミュニティの中で十分に議論を行って決めることが必
要であること等について回答がありました。

【議題2】原子力災害対策について
<主なやりとり等>
 金子原子力規制庁原子力防災課長(併:内閣府大臣官房原子力災害対策担当
室参事官)より、原子力災害対策の制度枠組み等について説明がありました。
 委員からは、災害時を想定した訓練、現場との情報共有の仕組み等について
質問がありました。

【議題3】J−PARCハドロン実験施設における放射性物質の漏えい事故に関する
報告(第三報)等について
<主なやりとり等>
 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構理事 住吉氏より、J−
PARCハドロン実験施設における放射性物質の漏えい事故に関する報告(第三
報)等について説明がありました。
 委員からは、多種多様な利用者がいる施設であるために、単一組織とは異
なった管理体制、情報共有が必要である事等の意見がありました。

【議題4】近藤原子力委員会委員長の海外出張報告について
<主なやりとり等>
 近藤原子力委員会委員長より、9月15日から22日のオーストリア共和国
ウィーンに出張して、国際原子力機関(IAEA)第57 回年次総会に出席し、会
議のマージンで関係国、機関の代表者等と内外の原子力政策における重要課題
について意見交換を行ったことについて報告がありました。

※資料等は以下のURLで御覧いただけます。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/index.htm

●次回は10月1日(火)に会議を開催する予定です。詳しくは、以下の開催案内
を御覧ください。
 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/topic/kaisai.htm

+-+-+-+-+-+-+ 事務局だより +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+

原子力事故コストに対する世界の感覚

 経済協力開発機構の原子力機関では、東京電力福島第一原子力発電所事故以
降の原子力発電に係る経済分析を行うため、様々な調査研究を行っている。こ
の5月、調査研究の一つである原子力事故コストのワークショップに参加する
機会を得た。その中で、原子力事故コストに対する海外と日本の考え方の違い
を感じたことが何点かあった。
 アメリカでは、TMI事故以降34年間、新たな原子力発電所が建設されな
かった。このために生じた企業倒産や経済的な機会損失もまた、原子力事故コ
ストだと言う。発表者の私見との断りはあるが、TMI事故による電力会社の資
産損失や政府支出等も含めると損害・賠償の費用は200〜800億ドルに上るとい
う。また、フランスでは、代替電源に係る費用、すなわち需要を満たすために
運転を余儀なくされた火力の燃料費も原子力事故コストと考えている。原子力
発電への依存度が高いフランスで、その影響は1,000億ドル規模に上るという。
出席者からは「そんなに高いのか?」と質問があったが、「既に日本は年間3
兆円(300億ドル)も損失している」との回答。
 一方、大方の出席者は、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う被ばくの
急性障害・死亡が皆無であり、将来の健康被害の発現は予想し得ないという理
解のもと、原子力事故リスクコストは、物的損害(資産の価値減少や損失等)
や賠償(避難や風評被害等)といった経済の問題であると認識しているようで
ある。
 国情や国民性もあろうが、考え方は様々である。なお、当該ワークショップ
の資料は経済協力開発機構の原子力機関のホームページで公開されている。
(長沖)

●次号配信は、平成25年10月11日(金)午後の予定です。

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発行者:内閣府原子力政策担当室(原子力委員会事務局)
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