V.事故の原因とそれに関する状況

1.施設とその運転に関する状況

(1)施設の核的制限値

 本施設に係る「核燃料物質加工事業変更許可申請書」(昭和58年11月22日付申請、昭和59年1月31日付及び昭和59年4月2日付で一部補正、以下、これらを併せて「許可申請書」という。なお、参考のために、安全規制の手順を図V-1-1に示す。)によると、臨界事故を防止するため、以下の核的制限値を設けることとなっている。

 @質量制限
 濃縮度に応じて1バッチ最高取扱量を制限することとし、濃縮度16〜20%については2.4kgUとする。これは文献"Nuclear Safety Guide,TID-7016,Rev.1(1961)"に基づくもので、安全係数2.3を含んでいる。(最小臨界質量=2.4kgU×2.3≒5.5kgU)
なお、今回の事故では14.4kgU以上で臨界を超えたとみられている。

 A形状制限
濃縮度20%以下のウランに対して臨界とならない形状制限として
直径制限の場合:175mm
厚み制限の場合:69mm
容量制限の場合:9.5g
を採用している。これも上記の文献に基づくものである。

(2)製造工程と使用機器の状況
「常陽」取替燃料製造用硝酸ウラニル溶液の製造は、原料である粗八酸化三ウラン(以下「U3O8」という。)を溶解・精製して純度を高める工程(以下「精製工程」という。)を経た後、再溶解して製品の硝酸ウラニル溶液とするものである。不定期の受注生産(以下「キャンペーン」という。)であって、表Vー1ー1に示すように昭和61年度から平成11年度にかけて5キャンペーンが実施されている。
 科学技術庁の調査に基づいて、実際に行われた工程と使用機器を以下に示す。許認可の内容との対比は後にV.1.(3)で述べる。

 @溶解
 原料である粗U3O8に硝酸を加えて溶解する。第6次キャンペーン(平成5年度)までは溶解塔を用いていたが、第7次キャンペーン(平成7年度)以降はステンレス容器(10g)を用いるようになった。
 A溶媒抽出
 リン酸トリブチル(TBP)を用いた溶媒抽出により硝酸ウラニルを抽出する。抽出塔及び逆抽出塔を用いる。
 B沈殿
 硝酸ウラニル溶液にアンモニアガスを吹き込み、重ウラン酸アンモニウム(ADU)を沈殿させる。沈殿槽を用いる。
 C仮焼
 重ウラン酸アンモニウムの熱分解反応により精製U3O8を生成する。仮焼炉を用いる。
 D再溶解
 精製U3O8に硝酸を加えて再溶解し、製品である硝酸ウラニル溶液とする。再溶解の作業をはじめて実施する第4次キャンペーン(昭和61、62年度)においては溶解塔を用いていたが、第6次キャンペーン(平成4年度)以降はステンレス容器(10g)を用いるようになった(第5次キャンペーンでは硝酸ウラニル溶液は生産されなかった。)。
 E均一化
 硝酸ウラニル溶液製品1ロット(約40g)を混合し、濃度を均一化する。第6次キャンペーン(平成5年度)までは、4g入りの製品容器10個から、10分の1ずつ取り出して、他の10個の製品容器に配分するクロスブレンディングにより行っていた。第7次キャンペーン(平成7年度)以降は、貯塔に約40gを注入し、混合攪拌の上、製品容器に取り出す方法に変更した。
 この均一化工程については、申請時には許可申請書に記載していなかったが、発注者との契約上、約40gを1ロットとして均一化する必要が生じ、規制当局に申請することなく均一化する製造を開始したものである。
 今回の事故はこの工程で、形状制限としている貯塔の代わりに、質量制限としている(形状制限としていない)沈殿槽を用いて均一化しようとしたために発生したものである。

以上を図解すると図V-1-2のようになる。

(3)製造工程における臨界管理
 @安全審査指針
 核燃料施設の安全審査のための指針としては、「核燃料施設安全審査基本指針」(昭和55年2月7日原子力安全委員会決定、平成元年3月27日一部改訂、以下「基本指針」という。)が制定されている。これは同指針「まえがき」に核燃料施設に共通した安全審査の基本的考え方をとりまとめたものであると記されており、同指針に関する原子力安全委員会決定文には「本基本指針に基づき、各種核燃料施設について、その特質に応じた個別の安全審査指針を整備するものとする。」と記されている。
 ウラン加工施設については「ウラン加工施設安全審査指針」(昭和55年12月22日原子力安全委員会決定、平成元年3月27日一部改訂、以下「ウラン加工指針」という。)が制定されているが、これは濃縮度5%以下のウランを対象とするものであり、本施設のように濃縮度が5%を超えるウランを加工する施設については個別の安全審査指針が制定されていない。
 そのため、本施設の安全審査は、科学技術庁では基本指針に基づく他、ウラン加工指針を準用し、原子力安全委員会では基本指針を用い、ウラン加工指針を参考として行われた。
 基本指針のうち、臨界安全に係るものは指針10、11、12であり、それぞれ次のように規定されている。

指針10 単一ユニットの臨界管理

核燃料施設における単一ユニットは、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていること。
指針11 複数ユニットの臨界管理
核燃料施設内に単一ユニットが二つ以上存在する場合には、ユニット相互間の中性子相互干渉を考慮し、技術的にみて想定されるいかなる場合でも臨界を防止する対策が講じられていること。
指針12 臨界事故に対する考慮
誤操作等により臨界事故の発生するおそれのある核燃料施設においては、万一の臨界事故に対する適切な対策が講じられていること。

 ウラン加工指針における規定は参考資料V-1-1のとおりである。

 A許可申請書上の臨界管理
 許可申請書の本文によれば、溶解工程、溶媒抽出工程及び仮焼工程は形状制限により臨界管理を行い、沈殿工程は質量制限によることになっている。ただし、溶解工程は溶解塔を用いることが前提で、ステンレス容器(10g)の使用に関する記載はない。
 転換試験棟はUF6、スクラップ又はイエロ-ケ-キを原料とし、加熱、加水分解又は溶解、溶媒抽出、沈殿、仮焼、還元工程を経て、UO2を製造するためにも用いられるが、それに関して許可申請書添付書類三に単一ユニットの臨界管理に関し、以下の記述がある。
 「溶解工程及び沈殿工程は安全質量管理を行う。溶解工程では1バッチの溶解量を工程に入れる前に秤量することで、又沈殿工程では1バッチ(この場合、加水分解、溶媒抽出及び沈殿までの一連の工程を1バッチとする。)の取扱量を前々工程である加水分解工程において秤量することにより、安全質量以下であることを確認するので安全上問題はない。
 なお、念のため沈殿工程では工程に入れる前に前工程で得られた硝酸ウラニル液の濃度と液量を測定することで、安全質量以下であることを再度確認する。」
 硝酸ウラニル溶液製造工程に関して上記が準用されるものとすれば、沈殿工程は
(a)溶解、溶媒抽出及び沈殿までの一連の工程を1バッチで質量管理する
(b)1バッチの取扱量を前々工程である溶解工程において秤量する
(c)沈殿工程に入れる前に前工程で得られた硝酸ウラニル溶液の濃度と液量を測定することで、安全質量以下であることを再度確認する
 という3条件によって臨界管理されることになる。

 再溶解工程については、許可申請書上、特に溶解工程と区別されておらず、その臨界管理については、溶解工程と同様に1バッチ最高取扱量以下で管理される。許可申請書には硝酸ウラニル溶液を製造することが記載され、それが再溶解を意味することの明確な記述はない。ただし、核燃料安全専門審査会第8部会の第2回会合に提出された説明用資料に、溶解装置を用いて再溶解し硝酸ウラニル溶液を貯蔵することが記載されている(第1回会合の資料には再溶解工程の記載がなかった。)。
 均一化工程に関しては、前述のように、許可申請書に記載がない。
 因みに、貯塔は溶媒抽出装置の一部であり、貯塔としての記載は許可申請書にないが、上記第8部会への説明用資料(参考資料V-1-2)に示されている。
複数ユニットの臨界管理に関しては、仕切壁の設置や機器・装置の適切な配置による旨が記載されている。

 B使用機器の設計
 上記の方針に基づいて詳細設計が行われ、「核燃料物質の加工施設に関する設計及び工事の方法についての認可申請書」(昭和59年7月6日付、以下「設工認申請書」という。)に、機器の形状寸法、配管、ポンプ等を含むフローシート、機器・装置の配置図等が示されている。
 使用機器に関しては、溶解塔、抽出塔、逆抽出塔及び貯塔には直径制限が、仮焼炉のトレイには厚み制限がそれぞれ適用され、臨界安全形状である旨記載されている。また、沈殿槽には質量制限が適用される旨記載されている。
 科学技術庁の聞き取り調査によれば、沈殿槽が臨界安全形状に設計されなかった理由は、沈殿槽は、硝酸ウラニル溶液にアンモニアを反応させ、沈殿槽下部に重ウラン酸アンモニウムを沈殿させることを目的としたものであり、製品のウラン粉末の特性(平均の粒径、比表面積等)は、この重ウラン酸アンモニウム結晶の生成状態に大きく影響されることから、撹拌、結晶生成速度等を考慮して沈殿槽の形状を決める必要があったためという。

 使用機器の容積と操業条件との関連は以下のようになっている。
 沈殿工程では濃度45gU/gで操業するので、1バッチの容量は2.4kgU÷45gU/g≒53gである。これに対して沈殿槽の容積は約100gで、攪拌時の液面上昇等を考慮した余裕のある大きさであるとともに、その容積は結果としては二重装荷を防止できるものである。
 溶解塔の容積は約42gで、これをはじめの溶解工程と再溶解工程で2回用いることになる。
 はじめの溶解工程では濃度100gU/gで操業するので、1バッチの容量は2.4kgU÷100gU/g=24gである。
 再溶解工程では濃度370gU/gで操業するので、1バッチの容量は2.4kgU÷370gU/g≒6.5gである。これを上記の溶解塔容積約42gと比べると、約6.5分の1でしかない。
 貯塔の容積は約80gで、1ロット約40gの製品溶液を混合攪拌することができる。
なお、上記の溶液濃度及び均一化工程については許可申請書、設工認申請書のいずれにも記載はない。

 C社内規定上の臨界管理
 JCOの「核燃料物質の加工事業に係る保安規定」(昭和55年12月4日制定、以後20回改定されて、その都度、科学技術庁長官の認可を受けている。以下「保安規定」という。)において、臨界管理方法は次のように規定されている。
 「第19条各管理統括者は、核燃料物質を取扱う設備機器のうち核燃料物質の臨界安全上の制限値として寸法又は容積を制限することが困難な設備機器については工程等へ装荷する前に、核燃料物質の秤量・測定等を行い、別表2に掲げる核的制限値を超えないようにする。」
 転換試験棟の質量制限値は保安規定別表2-(6)に記載され、V.1.(1)@で前述した許可申請書の記載と同一である。V.1.(1)Aで述べた形状制限に関しては記載がない。 臨界管理の方法について保安規定に規定された内容は表V-1-2に示すとおりであり、V.1.(3)Aで述べた次の項目は規定されていない。
(a)溶解、溶媒抽出及び沈殿までの一連の工程を1バッチで質量管理する
(b)1バッチの取扱量を前々工程である溶解工程において秤量する
(c)沈殿工程に入れる前に前工程で得られた硝酸ウラニル溶液の濃度と液量を測定することで、安全質量以下であることを再度確認する

 保安規定の下部規定である臨界管理基準及び作業手順書(平成9年10月27日発行)と作業指示書、臨界管理リリースとの対応は表V-1-3に示すとおりであり、主な相違は以下の点である。

イ)上記(a)の管理方法は、臨界管理基準には規定されているが、作業手順書及び作業指示書には記載されていない。
ロ)許可申請書及び保安規定には認められていないステンレス容器(10g)を用いた溶解作業が作業手順書及び作業指示書に記載されている。
ハ)許可申請書には記載されていない6〜7バッチ分を貯塔に入れて攪拌混合する作業が作業手順書に記載されている。

 D許認可の内容と操業の実態
(a)JCO社内での転換試験棟の臨界管理方法の検討
 科学技術庁の調査によると、平成7年9月8日に開催された同社の安全専門委員会の内容について、次のような事実が得られた。
 なお、安全専門委員会は、保安規定に基づき、核燃料物質の加工に関する保安を確保するために設置されているもので、安全主管者(事業所所長)が任命する者を委員長とし、核燃料取扱主任者の他、安全主管者が任命する委員で構成されている。
イ)転換試験棟での臨界管理方法が、許可上の管理方法とどのように違うかを含めて、実態調査の結果が報告された。(参考資料V-1-3)
ロ)臨界管理方法についてステンレス容器(10g)の相互作用の解析も含めて「実操業の操作方法は加工事業許可に記載されている臨界管理の方法と異なるが単一ユニット及び複数ユニット的に臨界上問題にならないことが確認された。」と報告された。
ハ)安全専門委員会では「転換試験棟については、品質管理、臨界管理の方法、被ばく管理について製造部だけではなく社内的に取り組む必要がある。」とされた。
ニ)なお、同社は、当日この委員会の議事録を「安全専門委員会(社内用)」と「安全専門委員会」の2種類を作成し、後者には転換試験棟の臨界管理方法についての議題が削除されている。
 この参考資料V-1-3の「実態」には、許可申請書等に基づいてなされた許認可の要件からの以下のような逸脱がみられる。
 溶解工程の実態の1及び2は、前述のとおりステンレス容器(10g)の使用は許可申請書等に記載されておらず、明らかに許認可要件からの逸脱である。
 抽出工程の実態の2は前述の「(a)溶解、溶媒抽出及び沈殿までの一連の工程を1バッチで質量管理する」からの逸脱である。
 抽出工程の実態の3は、前述のとおり攪拌混合、均一化の工程が申請書に記載されておらず、許認可の範囲に含まれていない。
 沈殿工程の実態の1は、工程に入れる前に再度確認するのでなく、沈殿槽内で測定している点で、前述の「(c)沈殿工程に入れる前に前工程で得られた硝酸ウラニル溶液の濃度と液量を測定することで、安全質量以下であることを再度確認する」からの逸脱である。
 JCOはこれらの逸脱を認識していたわけである。
 なお、JCOは「ステンレス製容器を使用した溶解方法及び仮配管の設置は加工事業の許可あるいは設工認の内容に違反しているものと考えられる。」及び「精硝酸ウラニル貯塔での複数バッチの液混合は許可内容に違反していると考えられる。」としている(平成 11年12月3日付け、事故報告第2報)。

(b)操業記録にみられる実態
 科学技術庁の調査によれば、第4次キャンペーン(昭和61、62年度)から、溶解から沈殿までで複数バッチの処理が並列して行われている。
 一例を挙げると、第4次キャンペーンにおいて、昭和63年2月1日の午前にバッチ番号8801の溶解、同日午後に溶媒抽出が行われ、翌2月2日の午前に沈殿工程が実施されている。したがって、前述の「(a)溶解、溶媒抽出及び沈殿までの一連の工程を1バッチで質量管理する」を守れば、2日午前10時48分にこのバッチの沈殿工程が終了するまでは、他のバッチの処理を行わないはずのところ、この間バッチ番号8802、8803、8804の溶解及び8802、8803の溶媒抽出が行われている(参考資料Vー1ー4)。

(c)均一化工程の臨界安全
 前述のように製品を均一化する工程は許可申請書、設工認申請書のいずれにも記載されておらず、発注者との契約に基づくものである。製品溶液約40gを混合し、濃度を均一化することとなっているが、濃度370gU/gの溶液40gのウラン量は14.8kgUで、6バッチ強に相当する。すなわち、この工程は6〜7バッチを同時に処理してはじめて成り立つものであり、1バッチずつの質量管理が可能な他の工程と比べて、際だった特色を有している。
 均一化は発注者からの依頼により約40gを均一化することとなったため、当初は、クロスブレンディングにより、後に貯塔での攪拌混合によって行われた。
 科学技術庁の聞き取り調査によれば、クロスブレンディングの場合は、臨界計算に基づいて製品容器の安全な配置を求め、それをマーカーで指示することで臨界管理をしていたという。
 貯塔は臨界安全形状であるから、6〜7バッチ分を装荷しても臨界とはならない。作業手順書においては均一化処理に先立って配管の接続等を変更することとしている。そのことは許可申請書、設工認申請書のいずれにも記載されておらず、許認可を受けていない。また、それに伴う一部配管の追加等も科学技術庁による設計及び工事の方法についての認可、施設検査を受けていない。

(4)社内の臨界管理体制
 @組織
 許可申請書の添付書類三によれば、JCO社内の臨界に関する安全管理の組織は図V-1-3のとおりであり、臨界管理主任者の職務は「核燃料物質の臨界安全性を管理する。変換工程及び貯蔵の臨界管理が定められた管理方法通りに行われているか第三者的にチェックする。」となっている。昭和59年に改定された保安規定にも同様の規定がある。
 平成4年の保安規定の改定に際して、職務分掌の変更に伴い、図V-1-4のとおり組織変更がなされている。安全管理統括者をおいて「安全管理統括者は、加工施設の放射線管理、臨界管理に関する業務を指導管理する。」とし、臨界管理主任者は廃止された。この変更については、平成5年1月12日許可の加工事業変更許可申請書にも記載されている。

 A核燃料取扱主任者
 現在、JCO東海事業所には核燃料取扱主任者の免状を受けた者が7名おり、そのうち1名が原子炉等規制法に定める核燃料取扱主任者として選任されている。
 核燃料取扱主任者の職務は保安規定第7条に9項目が定められており、保安上重要な計画の作成に参画することになっているが、保安規定の下部規定である臨界管理基準、作業手順書、作業指示書等の策定に参画することは制度化されていない。

(5)社内の作業管理と技術管理
 JCOでは作業者に対する教育・訓練はOJT(On the job training)に重点をおいていたとのことである。OJTは作業現場で作業をやりながら教育を行うもので、一般の座学による教育よりも有効であることが多い。しかし、その欠点は教育の内容が一貫性を欠き易いことで、しっかりしたカリキュラムと教育指導のガイドのもとに行われない場合、担当者任せになり、教えなければならない事項が欠落する危険がある。
 JCOから科学技術庁に報告された資料(平成11年12月7日付け、事故報告第2報修正)(以下「JCOの報告」という。)によれば、臨界管理については、平成6年9月に部課室毎の教育(転換試験棟メンバー)で「転換工程の臨界管理について」教育が行われたが、それ以後の教育では行われていないとのことである。転換試験棟に新しく配属された作業者に対して教育は行われておらず、臨界安全管理に関する知識が従業員の間に十分に浸透していなかったものと思われる。

 JCOの報告によれば平成5年の常陽第6次キャンペーン以降今キャンペーンまで、転換試験棟の操業記録には職制による審査確認印がなく、現場作業について製造部の職制による日常的な作業の状況確認、把握が不十分であったとのことである。また、今回の操業記録によれば9月28日に2バッチの溶解を行ったことになっているが、実際には溶解作業は実施されなかった。また9月29日に2バッチの溶解を行ったことになっているが、実際は4バッチであったと思われるとのことである。このような現場の作業管理の基本となるべき生産の記録が事実に反して作成されていたことは、日々の作業において作業が標準に従って行われていたとは考えにくい。また、事故当時、転換試験棟の作業者3名がフィルムバッジを着用していなかったことが判明しており、これは放射線管理区域に入域する場合の基本的なルールが守られていなかったとのことである。
 今回の事故は、製品の混合・均一化作業に、全く作業手順書に記述されていない本来使用されるはずもない沈殿槽が使用されたことで発生したものであるが、このような作業が行われた背景には上に述べたように現場の日常管理、現場の規律・統制がきわめてルーズであった状況があった。また、作業手順書や作業指示書の作成・承認の手続きが適正でなく、保安規定に関連する事項の実施についても必要な手続きを踏んでいなかった。

 JCOの報告において、「今回の作業について3人のグループのリーダーである副長は、事故発生前日の9月29日の昼休み時間に、職制上のラインの関係にない核燃料取扱主任者有資格者に、硝酸ウラニル溶液均一化作業を沈殿槽で行うことの可否を問い合わせてその了承を得て作業を行ったと考えられる。」と述べられている。核燃料取扱主任者有資格者当人はこれを認めているが、副長自身からはこれについて確認が取れていないとのことである。いずれにしろこのような作業変更が、十分な検討もされないままに計画され、しかもラインの管理責任者の許可を得ずして行われたことは、先に述べた現場作業の統率が十分でなかったのみならず、JCOに変更管理の概念、従ってその体制がなかったと断ぜざるを得ない。

(6)加工施設に係る行政庁の安全規制
 @段階的安全規制
 核燃料物質の加工事業に関する原子炉等規制法における安全規制は、加工施設の設計から事業開始に至る過程を段階的に区分し、それぞれの段階に応じ、事業の許可、施設の設計及び工事の方法の認可、施設検査、保安規定の認可等の一連の規制手続きを通じて安全確保を図るという段階的な安全規制の体系下で行われている。

 A安全規制
 段階的安全規制の体系をとっていることから、核燃料物質の加工事業の許可に際しての加工施設についての安全審査は、加工施設の設計及び工事の方法の前提となる基本的事項(基本設計及び基本的設計方針)を確定し、一定の枠付けを与えるという観点からの審査である。その後、この枠付けを前提とした詳細設計、工事の方法について設計及び工事の方法の認可により審査し、工事が認可を受けた設計及び方法に従って行われているかについて施設検査を実施して、これに合格しなければ加工施設を使用してはならない(溶接検査も同様)こととなっている。さらに、事業の開始前に、加工事業者及び従事者が核燃料物質による災害を防止するために守らなくてはならない事項等を保安規定として定め、認可を受けることを義務づけている。

 B安全審査
(a)核燃料物質の加工事業の申請から許可に至る手続きは図V−1−1のとおりであり、原子炉等規制法14条1項3号の「加工施設の位置、構造及び設備が核燃料物質による災害の防止上支障がないもの」についての審査基準としては、原子力安全委員会により「基本指針」及び「ウラン加工指針」が定められており、科学技術庁においても当該指針を参考として用い、これに基づき審査を行っている。

(b)安全審査においては、加工事業の実施に伴う潜在的危険性の程度を正しく認識し、その上で潜在的危険性を顕在化させる要因である臨界、遮へい、閉じ込め、火災・爆発、地震等に係る安全対策が基本設計ないし基本的設計方針により確保されていることを確認することとなる。これらの事項については広範かつ専門的な事項が多いことから各分野での専門家を顧問として委嘱し、意見を聞きつつ審査が行われている。

 C行政庁による立入調査等
 加工事業者においては、原子力発電所等の原子炉設置者と異なり、原子炉等規制法上、定期的な検査が義務付けられていない。一方、施設の運転管理の状況調査については、科学技術庁は行政指導による任意の保安規定遵守状況調査を行ってきた。
 JCOに対しては、昭和59年3月15日、昭和60年4月9日、昭和62年1月21日、昭和63年6月2日、平成元年8月1日、平成2年7月16日、平成4年1月23日及び平成4年11月26日に実施され、保安上特に問題はなかったとしている。これ以降については、民間事業者による加工(濃縮)、再処理の事業の許可等に伴い、関連の許認可及び検査にかかる業務が急増し、これらの法令上必須の審査や検査が優先され、任意事項である保安規定遵守状況調査は人員的に実施しにくくなっていた。
 また、平成10年4月1日には、サイクル機構再処理事業所アスファルト固化処理施設の火災爆発事故を踏まえ、東海原子力施設運転管理専門官事務所が設置され、JCOについては毎月1回程度の運転管理専門官による巡視が実施されている。このうち転換試験棟については3回の巡視が行われているが、運転が不定期で、かつ、その機会も少なかったことから、これらの巡視の際には施設が運転されていなかった。

2 臨界事故の状況

(1)臨界状態の解析結果

 事故は、第7バッチの注入作業の後半において発生した。作業はステンレス容器(10g)中の硝酸ウラニル溶液約6.5gを2つに分け、ステンレス容器(5g)により漏斗を使って沈殿槽に注入していたが、作業員の証言によれば事故が起こったのはステンレス容器(5g)による第2回目の注入作業の時であったという。なお、ステンレス容器(5g)に残留していた硝酸ウラニル溶液中のウラン量は182.7gであった。
 操業記録から、作業に用いられたウラン量は約16.8kgであり、約16.6kgのウランを含む硝酸ウラニル溶液が沈殿槽に注入されたことになる。
 事故の状況を検討するための解析計算は、原研及びサイクル機構が科学技術庁事故対策本部の依頼を受けて実施した他、大学及び原子力産業界において独立して実施された。これらの解析結果は、数値的には比較的似通った範囲にあり、また、事象の推移についての見解にも特段の相違はなかった(12月15日に事故対策本部主催の「臨界事象の科学的検討のための意見交換会合」を開催)。原研において事故後に行われた化学分析、中性子線及びガンマ線の計測データと上記解析の結果を基にして、臨界時の事象は、以下のようなものであったと推定できる。
 なお、臨界状態のより詳細な解析が、事故を起こした沈殿槽と類似の沈殿槽を用いた模擬実験等をもとに進行中であり、ここに示すデータはその結果に基づいてさらに精緻になるものと期待される。ただし、本報告の目的に照らしてみて、以下の推定は妥当なものと判断できる。

 @投入反応度量
 事故条件下における臨界近傍での反応度量は、溶液1g当たり約1ドルであると見積もられている。この結果と注入作業が約6.5gの硝酸ウラニル溶液を2つに分けステンレス容器(5g)を使用したとの作業者の証言から、投入反応度量を3ドル以下と推定した。
 また、事故後に漏斗を使用した模擬実験からステンレス容器(5g)による溶液注入に要した時間が15秒であったことから、事故の発端となった反応度は、最大3ドルが15秒にわたって投入されたと推定した。
(注;十分な定量的検証にはなっていないが、反応度が3ドルを超えて投入された場合、暴走出力による発熱によって事故初期に硝酸ウラニル溶液中での大量の沸騰が生じることが計算上予測される。この場合、水の減少に伴う中性子束の洩れの増大が大きく反応度を補償することとなり、以降の半定常的な出力の継続(プラトー部)を量的に説明することが難しい。この様な判断も加わって、3ドル以下と推定した。
ドルとは原子炉の反応度を表す単位で、原子炉が即発臨界となるときの反応度が1ドルである。)

 A初期の出力暴走(バースト)についての解析
 最初の出力暴走は、注入された硝酸ウラニル溶液量が臨界量を1ドル程上回った時点で発生したことは疑いの余地はない。
 原研及びサイクル機構等の動特性解析によれば、最初の暴走出力最大7〜20MWに達し、その半値幅時間は約100ミリ秒(最短炉周期は30ミリ秒)であったと計算されている。言い換えれば、0.2秒程の短い時間中に最大7〜20MWに達するパルス状の出力発生があったと推定されるものである。なお、この最初の暴走出力による核分裂数は4〜10×1016個の範囲と推定される。
 事故後の解析計算及び原研燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)の実験等から判断して、暴走出力の発生は1回に限るものではなかったと推定される。少なくとも、5〜6回の出力暴走の存在を示唆する計算結果も示されているが、これまでの解析計算の結果を総合すれば、安定した半定常的な臨界状態に至ったと認められる午前11時までの事故後25分間に生じた核分裂数の総数は、約2〜4×1017個であったと推定される。なお、この推定は、最大3ドルとの投入反応度に関する仮定等に依存し、模擬実験などにより詳細な情報が得られればさらに精度の高い動特性解析による結果が得られるものと思われる。

 B総核分裂数とプラトー部出力
 種々のモデルによる解析計算の推定する総核分裂数は、2〜3×1018個の範囲である。一方、原研が沈殿槽内の硝酸ウラニル溶液のサンプルを採取して行った分析結果からは、総ウラン量を16.6kgとした場合、2.5×1018個であり、また、現場から1.8mの距離にあるステンレスネットの放射化分析の結果からは、2.3〜2.4×1018個であった。
 これらの結果の中で硝酸ウラニル溶液を採取して行った分析結果は、採取作業の困難さからサンプルの代表性等について十分に確認することはできなかったものの、現在のところ、最も信頼のおけるデータと考えられる。仮に2.5×1018個を総核分裂数とした場合、初期暴走出力(バースト)で生じた核分裂数に関する動特性解析からの推定値である2〜4×1017個を差し引くと、約19時間に亘って継続(プラトー)した臨界状態における総核分裂数は2.1〜2.3×1018個となる。これを仮に、9月30日午前11時より10月1日午前3時半頃まで続いた高い出力での臨界状態の継続時間(約17時間)で平均すれば、事故継続状態における出力は平均的に1kW強と推定できる。

 C臨界状態の総括
 ガンマ線エリアモニタ(第U章、図U−4−1)の指示値が示すように、今回の事故の出力状況は、事故直後から午前11時頃までの出力暴走状態と以降の穏やかに低下する半定常出力状態に分けて整理することができる。以下、便宜上、前者をバースト部、後者をプラトー部と呼ぶ。
 バースト部の出力挙動は、Aで述べたようにいくつかの暴走出力が発生した。この暴走出力によって硝酸ウラニル溶液の温度は上昇し、また水の放射線分解や沸騰による泡の発生によって、溶液は膨脹し、体系から洩れ出す中性子の量が増大することになる。逆に言えば、溶液の膨脹によって核分裂に寄与する中性子の割合が減少するので暴走出力が沈静化することになる。このような状態を幾度か繰り返した後、投入された反応度がある程度補償され即発臨界未満の状態(注:投入反応度量が臨界状態+1ドル未満になった状態)になると暴走出力の発生は停止する。
 今回の事故において、暴走出力の停止は約10秒から100秒後には成立していたのではないかと推測されるが、これまでに入手した状況証拠及び検討結果からだけでは結論付けられない。第一に投入反応度量についてのより正確な推定を必要とするが、このためにはプラトー部後半における溶液の発熱量と沈殿槽の放熱量についての正確な見積もりを必要とする。
 暴走出力の停止後、午前11時に至るまでの出力挙動は沈殿槽内液面の動揺やジャケットの冷却条件に依存することから、今後の解析が必要である。
 ただし、十分に温度が上昇した溶液では暴走出力が再発することは反応度的には考えられないことから、多少の出力変動はあっても、減衰する波のうねりのようなものであって平均的な出力を推定する上で大きな障害とはならない。
 プラトー部の出力変化は、午前11時から午後8時45分頃までの穏やかな出力減少の期間と午後8時45分以降翌朝3時30分頃までのほぼ一定出力の期間に分けられる。午前11時頃の溶液温度は、投入反応度の推定にもよるが、おそらく沸点近傍にあり、漏斗を差し込んだ開口部から湯気が流れる状態であったことが推定できる。このため、沈殿槽内の溶液は水の蒸発により徐々に減少していったことが予想できる。この体積減少もまた、投入反応度を補償する方向に働くので、溶液の減少とともに出力も徐々に低下し、それとともに溶液温度も低下し、午後9時頃になって出力と蒸発量も含めた冷却状態がバランスしたものと考えられる。このバランス点における沈殿槽からの放熱状態と出力の状況がある程度正確に捕捉できれば、遡ってプラトー部出発点における出力、温度状況が求まり、他方、動特性解析から得られる解との照合からバースト部についての解析条件が精度良く求められることとなる。
 なお、10月1日午前3時30分頃、ジャケットの水抜き作業によって一旦出力が低下し、午前6時頃になって再び出力が低下しているのは、午前3時30分頃の水抜き作業は冷却栓の閉鎖、ジャケット出口の配管の切断に成功し幾分かの水が流出したものの、ジャケット上部が真空状態になり下部の水が流出しなかったため、午前6時頃に配管切断部より細いチューブを挿入し、ジャケット上部にアルゴンガスを送り込むことで排水が完了したことによるものである。

(2)臨界事故現象による放射線の影響

 今回の臨界事故は、核分裂反応に伴って発生した希ガスとヨウ素の一部が環境に漏れたものの、放射線影響という観点からは、転換試験棟から直接、外部に放射された中性子線とガンマ線が、環境への影響の大部分を占めたことが特徴である。

 @臨界事故に伴う放射線発生の時間変化
 臨界事故の発生から事故の終息まで、沈殿槽での核分裂反応に伴い中性子線とガンマ線が発生し、転換試験棟から外部に放射された。この間に放射された中性子線とガンマ線の変化は、第U章の図U−4−3に示す原研那珂研究所の中性子モニタ(減速材付He-3比例計数管)とガンマ線の環境モニタ(電離箱)及び第U章の図U−4−1に示すJCOの第1加工施設棟のガンマ線エリアモニタ(電離箱)の測定データから推測できる。
 那珂研究所の中性子モニタは、事故現場から約1.7kmと遠方に位置しているため測定値が小さく、統計的な観点からの評価が必要であるが、事故発生時にパルス状の線量率上昇を記録し、その後はバックグラウンドレベルを上下しながらも全体としてバックグランドを僅かに上回る値を示している。一方、ガンマ線の環境モニタについては、事故発生時に中性子と同様のパルス状の線量率上昇を記録した後、数回にわたって線量率の上昇を示している。事故発生時のパルス状のピーク値以外は転換試験棟から環境に放出された希ガスが風向きによりモニタ付近まで達したことによるものである。図V−2−1は、全体的な中性子発生の状況を把握するために、中性子モニタの計測値を統計処理した結果であり、事故発生時に急激な中性子の発生があり、その後緩やかな変化をしながら全体として減少していることを示している。
 図V−2−2は、JCOの第1加工施設棟内のガンマ線エリアモニタ3台の測定記録である。第U章の図U−4−1は、その中の粉末貯蔵室のモニタの指示値の推移である。本モニタは、事故現場から近距離にあり十分な線量率を記録しているが、検出器の特性として事故発生から約1分間の急激な線量変化に対する応答は追随できないが、その後の線量は追随していることが原研等による追加実験により確認されている。さらに、臨界状態中のガンマ線量は、核分裂反応の数にほぼ比例することが計算により評価されており、本モニタの測定記録は臨界状態の時間変化をほぼ反映していると考えられる。記録によれば午前10時35分の事故の発生から午前11時頃までは出力が大きく変化し(バースト部)、その後比較的なだらかに核分裂反応が減少して(プラトー部)、10月1日の午前3時半頃に沈殿槽の冷却水の循環ポンプが停止したことにより、さらに核分裂反応が低下し、午前6時15分に停止したことを示している。

 A敷地内及び敷地周辺の線量データ
 9月30日の午後5時頃以降は、敷地内外の広範な地域において環境モニタリングとして、環境中の中性子線とガンマ線の線量データが測定された。また、臨界事故が終息した後、JCOの敷地内については、第1、第2加工施設棟内の6台のガンマ線エリアモニタの記録、個人が着用し、またラック等に保管されていたフィルムバッジによるガンマ線量の測定データ、敷地外については、複数のモニタリングステーションと熱蛍光線量計(TLD)によるガンマ線量データ等が回収された。この他、47名については、ホールボディ・カウンタにより被ばく線量が測定されている。
 これらのデータは、敷地内外の個人の被ばく線量を評価する際の基本となる測定データとして利用される。

 B周辺環境の線量推定
 周辺環境の線量(実効線量当量)は、事故発生後に環境中で測定された中性子線とガンマ線の環境モニタリングデータを基本として推定された。その際、沈殿槽からの中性子線とガンマ線の放射線量は、事故発生から約1分間を除いて第U章の図U−4−1に示した第1加工施設棟粉末貯蔵室のガンマ線エリアモニタに示された時間変化に従うものとした。  午前11時から臨界終息までのプラトー部の周辺環境の線量は実測値に基づいて、ガンマ線エリアモニタに示された時間変化を考慮して推定したものである。一方、事故発生から午前11時までのバースト部については、評価に利用できる環境での線量測定データはないため、図V−2−1に示した那珂研究所の中性子モニタの測定データからバースト部とプラトー部の中性子数の比を算出し、周辺環境の線量は、これに比例するものとしてプラトー部での周辺環境の実測値からバースト部の線量を推定したものである。こうして推定したバースト部、プラトー部の積算線量の比率は、全積算線量に対して、それぞれ11(±2)%、89(±2)%である。
 第U章の表U−4−2は、前述の方法に基づいて事故発生からの時間と沈殿槽からの距離をパラメータとして評価した周辺環境の線量分布である。この値は、表に示した距離に、事故発生時から示された時刻まで屋外に滞在した時に受ける積算線量を示すものである。なお、これらの値には、環境モニタリングによる測定データのフィッティングにおける誤差±40%、線量計が最大30%程度過大になる応答特性を有していることによる誤差、バースト部の線量評価などの誤差が含まれている。
 今後、個人の被ばく線量は第U章の表U−4−2の線量と事故時における個人の行動、建物等による遮へい効果等を考慮して評価されることとなる。

 C個人の被ばく量
 (a)事故時に転換試験棟で作業をしていた3人のJCO従業員
 高線量の被ばくを受けた3人のJCO従業員については、放医研で血液中のNa-24濃度、末梢リンパ球の減少により評価され、それぞれ被ばく線量は16〜20GyEq以上、6.0〜10GyEq、1.0〜4.5GyEqと推定されている。

 (b)事故時に敷地内で被ばくした従業員等
 敷地内で被ばくした従業員は、フィルムバッジを着用していた者と着用していない者に分類され、さらに、ホールボディ・カウンタにより体内のNa-24が測定されている者と全く測定値がない者に分けられる。このためフィルムバッジやホールボディ・カウンタによる測定値がある者については、測定値を用いて評価した。一方、測定値の全くない者については、今後、個々人の行動調査、測定値のある者との比較、及び敷地内及び建屋内の線量分布を計算により評価し、これらを総合的に利用して個人の線量が推定される予定である。
 これまでのところ、ホールボディ・カウンタにより確認された36名のJCO従業員の被ばく線量は中性子線、ガンマ線合わせて0.6〜64mSvである。また、事故時に現場で救急活動を行った東海村消防署員3名の被ばく線量は、ホールボディ・カウンタにより6.2〜13mSvである。
 ホールボディ・カウンタは中性子線の被ばく線量推定にのみ適用されるので、ガンマ線による被ばく線量については、計算により中性子の線量の約10%と推定した。
なお、フィルムバッジを着装していたJCO従業員については、その測定値からガンマ線量を推定することができるが、中性子の線量の寄与については空間線量率のモニタリングデータなどにより推定する必要がある。

 (c)水抜き等の臨界停止作業のための計画被ばく者
 臨界継続中に水抜き作業をした従業員は18名、臨界停止後にホウ酸水注入作業をした従業員は6名であった。
 これらの計画被ばく者については、各個人が着装していた中性子線とガンマ線の電子線量計の測定値に基づき、それを作業現場での中性子線スペクトルなどを考慮して校正することにより被ばく線量を評価することができるが、現在その評価が進められており、評価値は確定されていない。

 (d)敷地外の住民
 一般住民の中で、事故時に敷地に隣接する西隣に居合わせた7名については、ホールボディ・カウンタによりNa-24が検出されており、被ばく線量は6.4〜15mSvと推定されている。
 一般住民で、事故時に被ばくしたと想定される一般住民については、JCOの敷地外の第U章の表U−4−2に示した周辺線量データと個々人の行動調査に基づき、家屋等による遮へい効果等を加味して評価することとしている。事故時に避難した350m以内の居住者については、既に行動調査は終了しており、今後、家屋等による遮へい効果等を加味した個人の被ばく線量評価が行われる。
 なお、被ばくによる個人の健康影響と管理については、原子力安全委員会の健康管理検討委員会で基本方針が検討されている。

 D臨界終息後のガンマ線による影響
 臨界終息後には、沈殿槽内に蓄積された核分裂生成物からガンマ線が放射された。これらのガンマ線の線量は、時間の経過とともに減少するが、10月2日朝になっても敷地境界で最大でバックグランドのレベルの10倍程度の線量率があり、転換試験棟の周囲に応急的な遮へいが行われ、その後、住民の退避措置が解除された。
 臨界終息後のガンマ線による周辺の影響は、0.1mSv以下と推定される。

 E大気中に放出された放射性物質による影響
 今回の事故では、転換試験棟から放出されたと想定される希ガスとヨウ素の放射性物質が周辺環境において検出されている。希ガスは、外部被ばく、ヨウ素は甲状腺の被ばくに寄与することから、周辺の環境モニタリングポスト等による測定データを基に高度化SPEEDIと呼ばれる評価モデルを用いて、それぞれの線量評価が行われた。この結果、周辺環境の中でも最も大きな線量となる地点の実効線量当量は、0.1mSv程度である。

3.事故発生の原因と再発防止対策

(1)直接的原因と対策

 事故の直接的原因は、「そもそも使用目的が異なり、また臨界安全形状に設計されていない沈殿槽に、臨界量以上のウラン(16.8kgU-0.2kgU=16.6kgU)を含む硝酸ウラニル溶液を注入したこと」にあった。

 沈殿槽の臨界管理制限値は2.4kgU/バッチであった。この値は、理論上の最小臨界質量5.5kgUから安全係数2.3をみて決められていた。一方、事故時の臨界量は、2.4kgU×6バッチ=14.4kgU以上であった。

 沈殿槽が臨界安全形状に設計されていなかった理由は、許可申請書にはっきりとは示されていないが、前述のとおり、製品のウラン粉末の特性が重ウラン酸アンモニウム結晶の生成状態に大きく影響されることから、攪拌、結晶生成速度等を考慮して形状を定める必要があったためと思われる。沈殿槽の容積については、精製工程における1バッチ当たりの液量(約53g)に対して約100gに設計されており、いわゆる二重装荷に関する臨界安全上の要件を満足する容積となっていた。
 また、沈殿槽は精製U3O8を製造する過程で使用されるものであり、精製U3O8を再溶解して硝酸ウラニル溶液を製造する工程において用いることを目的としていなかった。

 このような直接的原因への対策としては、次のような視点が重要である。すなわち、「臨界安全形状に設計されていない溶液系装置については、特に、その臨界管理を今回のように人的管理に依存するような場合は、ヒューマンファクター等への一層の配慮から、質量制限とともに濃度制限を併用するなどの方が適切と考えられる。ただし、制限値の設定に安全余裕を見込み過ぎたり必要以上に何重もの制限をかけないようにすることも大切である。」

 質量制限値は定められていたが、濃度制限値が別に定められていなかったことが、処理容量に余裕のある沈殿槽を再溶解後の高濃度の均一化工程に使ってもよいのではないかとの錯覚を作業員に与えたおそれがある。なお、全濃度臨界安全形状(濃縮度20%以下)に設計された貯塔を過去に同じ目的に使用しており、その際に質量制限値を大幅に超えても臨界にならなかったことが今回の錯覚の背景にあるものと思われる。

 制限値については、その設定に当たって合理的な安全余裕を見込むことは当然であるものの、それが過大である場合は、逆に、制限値を守ることに関する作業員の緊張感を減退させる可能性もあることを念頭においておくべきである。そのことは、臨界安全形状に装置を設計すべきかどうかの判断にも関連している。適正に安全余裕が見込まれた制限値であれば臨界安全形状に設計することがプロセス上可能であるのに対し、過度に余裕が見込まれた制限値の下ではそれが不可能になることが場合によってあり得ることを考慮すべきである。

 さらに、全濃度臨界安全形状で容積的に二重装荷の臨界安全要件を満たすように設計された装置についても、なお質量制限を要求する場合には、その理由を明らかにしておくことが望ましい。いわゆる保守性の付加以外に理由がない場合には、その必要性に関する作業員の理解を得ることが難しくなる可能性がある。

(2)作業工程上の問題点と対策
 上記の直接的原因を招来した要因として、「精製U3O8を再溶解し、さらにその硝酸ウラニル溶液を1ロット(約40g・14.5kgU)毎に均一化する作業工程が適切でなかった」という作業工程上の問題点も指摘されなければならない。

 再溶解に当たっては、質量制限値(2.4kgU)を基に溶解工程の製造上の条件であるウラン濃度(370gU/g)を考慮して1バッチ当たりの液量(約6.5g)が決定されているが、溶解塔の容積(約42g)に対して適量とはいい難い。ロット量は、1回の輸送量を考慮して約40g(7バッチ分)の量とすることが、発注者と受注者間の契約仕様書に記載されている。また、同仕様書には製品である硝酸ウラニル溶液の濃度は380gU/g以下という記載がある。

 科学技術庁の聞き取り調査によれば、硝酸ウラニル溶液を製品化する作業を初めて行った昭和61年11月からの「常陽」第4次キャンペーンにおいては、許認可どおり溶解塔を用いて1バッチ当たりの質量制限値(2.4kgU)から求められた液量(約6.5g)の範囲で硝酸ウラニル溶液を作り、それを発注者との合意に基づき4g単位に10個の製品容器に分けた後、それぞれから0.4gづつ分取して比較的均一な40g分の硝酸ウラニル溶液(これも4gづつ10個の容器に分けた)を製造していた。その後、第5次キャンペーンでは硝酸ウラニル溶液の製品化は行われていないが、第6次キャンペーン(平成5年1月から)において、溶解塔を使用せず、ステンレス容器(10g)を用いて約6.5gづつ硝酸ウラニル溶液をつくり、同じく10個の製品容器で均一化の作業を行っていた。

 さらに、第7次(平成7年10月から)及び第8次キャンペーン(平成8年8月から)において、均一化の作業を容積80gの貯塔を用い、6〜7バッチ分を一度に行った。貯塔は全濃度臨界安全形状(濃縮度20%以下)に設計されており、6〜7バッチ分の濃度約370gU/gの溶液の処理を一度に行っても、臨界事故には至らなかった。
 今回の第9次キャンペーン(平成11年9月から)において、均一化のために貯塔を用いずに撹拌機の付いている沈殿槽をはじめて利用した。貯塔からの溶液取出口が床面から10cm程度しか離れていないため柄杓を用いる必要があり、また、14.5kgUを貯塔で均一化するのに約200分を要するなどの作業上の難点があったことが貯塔を用いなかった理由とされている。

 以上のような作業工程上の原因への対策としては、「臨界安全管理を要する装置については、当該装置の作業性と安全性との関連に関しても予め評価しておくべきである」との視点が重要である。

 再溶解に当たっては溶解塔の使用が想定されており、質量管理とともに形状管理が要求されていた。安全形状設計されている装置であるから非安全形状の装置に比べ質量管理の要求に関する厳密性はないにもかかわらず、質量制限値から定められる液量が1バッチ当たりの処理量の制限値となっていた。再溶解時のそれは約6.5g/バッチで溶解塔の容積(約42g)の約6.5分の1であるのに対して、最初の溶解時のそれは約24g/バッチで、作業性に明らかな差があるように見受けられ、このような作業性と臨界安全管理との関連についても安全評価に際して考慮されるべきである。

 同様のことが均一化工程についても指摘できる。10個の製品容器を用いたクロスブレンディングによる均一化の作業は作業性に難点があることは明らかである。それ故に貯塔を用いた作業が行われていたと考えられ、さらにその貯塔による作業は臨界管理上の制限の逸脱であるばかりでなく作業性に適性があったとは見受けられない。
 事業許可変更申請時に大量に(1バッチ以上)均一化する作業は対象外であったものを、装置の変更許可を取得することなく実施することに無理があったと言わざるを得ない

(3)運転管理上の問題点と対策
 ここで、個々の作業工程を管理する運転管理上の原因、すなわち、「安全運転の要件であった1バッチ当たり2.4kgUという臨界管理上の質量制限値を超える作業を行ったこと」について言及しなければならない。

 最も重視されるべき点は、沈殿槽を操業する場合の質量制限値である2.4kgU/バッチを超える作業を行ったことである。これは、申請内容からの逸脱であるとともに保安規定に違反する行為である。なお、沈殿槽に手作業で給液できるようなハンドホール(のぞき窓)が付いていたことが問題だったとの指摘があるが、付けてはいけないとは安全上の要件として定められていない。

 第7次キャンペーンにおいて、貯塔を使って6〜7バッチを処理することが作業手順書に記載されていたが、これは、許認可を受けた1バッチ最高取扱量以下での取扱を逸脱する作業であった。

 溶解に用いる設備については、許可申請書には、溶解装置1基、溶解工程は1バッチ最高取扱量以下で管理するとの記述のみで溶解工程の具体的設備は記載されていない。しかし、設工認申請書において、溶解装置として溶解塔及び溶解用フード(溶解塔の上に設置された粉末ウラン投入用のフード)が具体的に記載されている。ステンレス容器(10g)は、いわゆる1基の溶解装置とは見なし難く、また、施設検査も受けずにそれを用いてU3O8粉末の溶解を行うことは、申請内容からの逸脱と考えられる。

 再溶解に関連して、許可申請書において、硝酸ウラニル溶液を製造することが記載され、使用施設時にはなかった溶解工程が追加されているが、それが再溶解を意味するかの明確な記述はない。ただし、核燃料安全専門審査会第8部会第2回会合において提出された資料に、溶解装置を用いて再溶解し硝酸ウラニル溶液を貯蔵することが記載されている(第1回会合の資料には再溶解工程の記載がなかった。)。

 このような運転管理上の重大な過ちが生じないようにするためには、次のような点が考慮されるべきである。「溶液系装置の臨界管理質量制限については、容積制限による二重装荷の臨界安全要件を付加するなどの措置により物理的に安全を確保することが適切と考えられる。また、所定の装置以外の機器類の使用については運転管理上の禁止事項として定めておくなどの配慮が必要である。さらに、臨界管理方法を熟知させ、また核燃料物質の移動に係る承認手続きの徹底などにより、質量制限値が遵守される運転管理体制を構築することが重要である。」

 臨界管理質量制限を必要とするのは、原則的に装置の形状管理が難しい場合であるが、その場合であっても二重装荷の臨界安全要件を満たすような容積制限を付加するなどの多重防護性への配慮が重要である。そのようなことがプロセス設計上困難な場合には、ハンドホールなどの容易に他の目的に利用できる開口部を設けることは認められるべきではない。

 「物理的に安全を確保する」との考え方に従えば、ステンレス容器(10g)を便法として使用するようなことは認められない。ただし、そのような行為の可能性をすべて物理的に排除することは困難であり、運転管理上の禁止行為として定めるべきである。

 核燃料物質については、核物質計量管理や核物質防護の面からの運転管理要件を満足する必要があり、それらの要件に関連する承認手続きも併わせ、質量管理の遵守の一層の徹底を図ることが重要である。

(4)技術管理上の問題点と対策
 さらに、「作業手順書と作業指示書の作成や改定に当たっては、安全管理グループ長や核燃料取扱主任者の承認を得るなどの技術管理上の適正な手続きが定められていなかった」という技術管理上の問題点がある。

 再溶解硝酸ウラニル溶液の均一化に沈殿槽を利用することの適否に関し、提案の段階でチェックするシステムが社内に存在していなかった。作業指示書と臨界管理リリースには、沈殿槽を利用するという記述はなく、作業手順書には貯塔を用いて硝酸ウラニル溶液の均一化を行うことになっており、この変更をしない上に、安全管理グループ長や核燃料取扱主任者の承認を経ないまま沈殿槽を使用したことは適切でない。作業手順書の改定や作成に当たっても、安全管理グループ長や核燃料取扱主任者の承認を必要としないのは適当でない。安全主管者と核燃料取扱主任者との関係が不明確で、核燃料取扱主任者について、保安規定に記載された事項が、社内的に適切に位置付けられていない。例えば、保安規定を遵守する上で重要な事項について核燃料取扱主任者の承認を求めていない。

 このような技術管理上の問題点を生じさせないためには、「従業員教育、現場作業統率、安全管理等の面で品質管理の充実を図るとともに、ISO規準認証の取得を奨励するなど事業者の自己責任による自主保安の考え方を徹底する」との考え方が重要である。

 臨界安全管理に関する知識が従業員の間に十分に浸透していなかったものと考えられる。OJTに重点をおいた教育が行われていたが、基礎から実践に至る教育の体系化が図られていなかった。
 作業手順書や作業指示書の作成・承認の手続きが適正でなく、保安規定に関連する事項の実施についても必要な手続きを踏んでいなかった。指揮命令系統を明確化し、現場作業の統率が確実に行われるようにすることが重要である。特に、安全主管者、安全管理グループ長、核燃料取扱主任者等の安全管理上枢要な者については、その位置付けを明確化し、社内の自主保安体制の充実化を図るべきである。

 製造現場のトラブルの多くは作業・作業者の変更によってもたらされることは、多くの製造現場で経験されていることである。職場の都合で行った作業変更が後工程で悪い影響をもたらした例は少なくない。今回もその事例のひとつと考えられる。変更管理については品質管理を徹底して現場で勝手に変更作業が行われないようにすべきである。

 なお、企業においては自分の作業に対して絶えず改善提案をしていくことが求められている。改善提案については、むしろ奨励されるべきものであるが、特に原子力分野においては、許認可条件を逸脱していないかどうかについて、安全管理上の観点から社内的に審査する仕組みが重要である。

(5)経営管理上の問題点と対策
 次に、「転換試験棟における仕事は、主たる業務である加工施設棟における仕事に比べて小規模かつ非定常的で特殊でもあったにもかかわらず、その特殊性に関する配慮が十分でなかった」という経営管理上の問題点がある。

 再溶解硝酸ウラニル溶液の製造キャンペーンは、昭和61年以来、14年間に今回分も含め計5回(契約上は6回になっている)、処理量は約800kgUである。許認可どおりの作業を行っていた「常陽」第4次取替燃料製造用硝酸ウラニル溶液の溶解作業は1日計1〜4バッチで、2.4kgU/バッチの質量制限値を考慮すると、キャンペーン当たりの操業に日数がかかる一方で、キャンペーンの回数は少ないという特徴があり、加工施設棟におけるUO2の製造業務とは経営管理上に大きな差があると考えられる。

 JCO東海事業所の運転チーム編成は、UO2製造業務が中心に組まれているが、今回の作業については主に廃液処理を行うスペシャルクルーとよばれる特別作業チーム(5名)が当たっており、本作業に関する経験も知識も十分でなかった。臨界管理についても、濃縮度5%以下のウランを扱い、しかも再溶解工程が存在しないUO2製造の加工施設棟作業と濃縮度約20%のウランで再溶解工程を含む本作業とでは本質的な相違がある。

 したがって、再発防止のためには、「特殊少量製品を非定常的に製造するプロセスにおいては、その経営管理上の特殊性に鑑み、安全管理上必要な配慮が特別に求められる」ことが欠かせない。

品質管理・安全管理の立場からは、
@定常的に流れない、間欠的に行われる製品の生産
A作業者や工程などが変わってこれまでの作業経験が期待できない作業
B品質・安全に特に配慮が必要な作業
については、特別な管理が行われなければならないとされている。今回の作業は正にその例であった。

 高速実験炉「常陽」の原料製造を目的として濃縮度20%、濃度380gU/g以下の硝酸ウラニル溶液を40g単位のロットで製品化する作業は、濃縮度20%のウラン粉末を製造することを主プロセスとする転換試験棟内においても特殊な作業であった。その特殊性に伴う操業上の困難を解決するためには相当額の費用負担を必要とする可能性があり、全社的経営管理上の判断を要することがあると思われる。そのような場合には、発注者と受注者との間で作業の安全管理に関し十分な検討が行われることが望ましい。
 なお、高ウラン濃度硝酸ウラニル溶液は、米国からの核不拡散上の強い要請を踏まえ、動燃事業団(当時)が開発したMOX燃料製造のための「混合脱硝法」に使用するのが目的であり、特殊な作業であった。すなわち、臨界事故の危険性の高い高ウラン濃度硝酸ウラニル溶液を「常陽」用の燃料として安全に製造するための工程及び設備の利用には、特別な配慮を必要としていた。

(6)許認可上の問題点と対策
 許認可上の問題点として、「安全審査及び設工認審査において再溶解工程に関する記述が必ずしも十分とはいえない」点を指摘しておく必要がある。その主な理由は、安全審査や設工認審査の主眼が設備や機器の設計の安全上の妥当性におかれ、その運転工程上の詳細を審査の対象としていないことにあるものと思われる。

 許可申請書において、再溶解工程で用いる溶解塔は質量管理を基本とする上に形状管理を行うとされているが、その理由について明示されていない(指針10)。しかも、設工認申請書においては、そのときの形状管理制限値(直径175mm以下)が酸化ウラン-水均質系の直径160mm以下に変更されている。許可申請書の変更において、「一連の工程を1バッチで管理する」とされているのは、UF6を原料とする加水分解からの工程に関してであって、精製U3O8を原料とする再溶解工程については記述が見当たらない(指針10)。6〜7バッチ分を均一な1ロットとすることは、許可申請書と設工認申請書のいずれにも記載されていない。申請後に均一化工程を追加することになったとすれば、その時点で加工事業申請書の加工の方法の変更のための申請を行うべきであった。

 複数の製品容器を用いて均一化の操作を行うに当たっては複数ユニットの臨界安全について十分に評価する必要があるが、その点に関する記述は見当たらない(指針11)。

 UO2粉末を製品化する工程に関する限り、臨界事故に対する考慮(指針12)に関する審査結果は妥当だったと判断されるが、再溶解工程については、関連する資料に十分な記載がない。

 したがって、次のような点が再発防止策として求められている。
 「安全審査において施設・設備・機器の基本設計に関する臨界安全上の妥当性を評価するに当たっては、その評価の前提としたそれらの使用条件について明記する。その使用条件を逸脱して使用される場合の可能性については、当該施設の潜在的危険性に照らして誤操作等に対する安全設計を課すとともに、必要であれば、最大想定事故のひとつとしてその影響の評価を行うことが適切である。ただし、安全審査においては基本設計を審査の基礎としており、個々の使用条件は直接的な審査事項ではない。
 また、設工認審査において加工事業申請書及び安全審査結果を踏まえて施設・設備・機器の設計及び工事の方法の妥当性を評価するに当たっても、その評価の前提とした使用条件について明記する。ただし、設工認審査においても個々の使用条件は直接的審査事項ではない。個々の使用条件は保安規定に定められるものである。」

 核燃料施設の場合、原子炉施設と違って、使用条件を特定することは難しいことが多い。しかし、通常の商業用施設であれば、定常的な製造工程を想定することによって使用条件を特定できると考えられる。

 問題は今回のように特殊な製造工程についてである。特に同一の装置を使って精製するための溶解と再溶解を行うような場合には、装置の臨界安全評価上の使用条件を明らかにしておくことが重要である。臨界安全評価上の使用条件の変更を要する場合には、臨界管理上問題のないことを十分に検討し、変更申請を行うなどの所定の手続きを経る必要がある。  さらに、硝酸ウラニル溶液を製品化するに当たっての均一化工程に関する装置の使用条件については、複数ユニットの臨界安全に留意する必要があり、安全審査及び設工認審査に際しての重要検討事項でもある。また、臨界事故の可能性についても、20%の濃縮度で370gU/gの硝酸ウラニル溶液を扱うような特殊な工程の場合には、特別な配慮が必要であると思われる。
 他方、許認可手続きの期間についても検討を要する。設備変更をするにしても許認可に時間がかかることから、できるだけ許認可なしに変更等を行いたいという事情が申請者側にあるおそれがある。

(7)安全規制上の問題点と対策
 最後に、安全規制上の問題として「保安規定の遵守状況などのチェックのために行う規制当局の点検が有効でなかった」点を指摘しておきたい。

 科学技術庁は、行政指導による保安規定遵守状況調査や運転管理専門官による巡視を行ってきたが、同施設の運転操業が不定期であったこともあり、同施設が操業されていない時期に行われる結果となるなど、有効なものとは言い難い。

 したがって、「国の検査機能を強化し、@加工事業に係る規制項目の追加と定期検査等の義務付け、A保安規定の遵守状況に係る効率的な検査制度の導入、B抜き打ち検査の効率的な実施などを図る」といった対策が求められている。
 事故が発生した転換試験棟は、定常的に操業する加工事業に直接関係するところではなかったが、今回の事故を教訓として加工事業全般に対する規制の強化を図る必要がある。
 保安規定が守られていなかったことに鑑み、これまでの行政指導の範囲を超えてその遵守状況について効率的に検査することが必要である。
 検査の有効性の観点からいわゆる抜き打ち検査を実施することも必要である。ただし、今回のように操業が非定常的な場合には、その有効性を過大視しないようにすることも重要である。

 規制強化による規制当局と事業者との健全な緊張関係を維持することと併せて、両者の間の信頼関係の再構築が重要である。この点から、安全確保の基本は事業者に第一義的な責任があることであり、それを関係者は改めて認識すべきであり、事業者の自主的安全確保を支援するものが規制であることを忘れるべきでない。

4.事故時の技術的対応

(1)事故発生に関する対応

 9月30日午前10時35分頃にガンマ線エリアモニタの警報が吹鳴し工場内従業員の緊急避難が行われた段階では、臨界事故が発生したとの明確な認識には至っていない。工場責任者がそのような認識に至ったのは、その約10分後とされているが、科学技術庁にその旨、連絡が入ったのは午前11時19分である。(JCO東海事業所発信の事故・軽微事象発生連絡票の第1報(午前11時15分作成)に「臨界事故の可能性あり」と記載。)

 対外的連絡までに約40分間を要した理由をはっきり特定することは難しいが、次のような事由がそれに関連しているものと考えられる。

@臨界事故が起きることがそもそも想定されていなかったことから、事業所では緊急避難訓練時に「臨界等で100μSv/h以上になったときにエリアモニタが吹鳴する」と説明されていても、事故が実際に起きたことを従業員はにわかには信じがたかった。
A第1加工施設棟及び第2加工施設棟のエリアモニタも発報(設定値100μSv/h)していたため、事実確認に時間がかかった。

 これらの事由から、次のような対策が検討されるべきである。すなわち、「濃縮度約20%ものウランを溶液状で扱うような施設においては、臨界事故の可能性を想定し必要な対策が講じられていること。その場合に必要な対策は当該施設の潜在的危険性を考慮して決められるべきである。」
 なお、転換試験棟における臨界管理対策は人的操作による質量管理を基本としていたが、「人的管理による安全確保は、ヒューマンファクターやフェイルセイフの観点から、安全上の重要度に応じて、機械による安全と同等又はそれ以上であるべき」ことに留意すべきである。

(2)臨界状態の継続性に関する対応
 臨界状態が継続しているか否かの判断に時間を要したことが今回の事故の影響を大きくした。関係者の判断は提供される情報に著しく依存しており、臨界の継続性について、断片的で限られた情報の下で断定することは難しい。関係者は情報量の集積とともに臨界継続の認識に徐々に至ったというのが実状である。

 大切なことは、臨界状態が継続している場合の重大性に鑑み、確定はできなくとも、必要と判断された場合にはそれを想定した対策を的確かつ迅速に講じることである。そのような判断は、本来、規制官庁である科学技術庁によって行われるべきであるが、今回は発生状況の特殊性により高度に専門的な知識を要したことから原子力安全委員会の助言を必要としていた。その際、必要な情報を収集し、それを原子力安全委員会に提供する責任は第一義的には科学技術庁にあった。しかし、臨界状態の継続性に関する認識の遅れをみると、今回の事故においては、その点で、科学技術庁と原子力安全委員会との間の連携が十分とはいえなかった。その理由には、技術関連の情報が適切に収集され分析されたか否かという技術的側面と、科学技術庁及び原子力安全委員会の組織としての関係が十分であったか否かという制度的側面とがあるものと考えられるが、ここでは、技術的側面について述べる。

 第一に、ガンマ線の線量率は通常の値を継続して上回っており臨界状態が終息していない可能性があった。敷地周辺の線量率データがJCOから科学技術庁に報告されたのは、第1回が午前11時55分(最大0.68mSv/h)、第2回が午前12時29分(最大0.84mSv/h)である。ただし、線量率に関する値は大局的には徐々に減少気味の傾向を示していた。
 一方、中性子検出器を用いて中性子線の線量率も異常(4mSv/h)であることを検知することにより臨界状態の継続を確認したのは午後5時頃であった。ただし、サイクル機構が測定を開始したのは午後4時30分である。

 溶液系の臨界事故現象は、場合によって、長時間にわたり継続する可能性があることは過去の事故例により明らかである。また、濃縮度20%近くのウランを扱っていることはその可能性を高める理由のひとつになり得る。しかし、現実には、臨界事故の発生した場所(機器)や状況(運転)について正確な情報を把握するのに相当の時間を要している。(注:科学技術庁に送信されたJCO東海事業所発信の事故・軽微事象発生連絡票の第5報(午後1時42分)に「約16kgUを沈殿槽に移入しているとき青い光が出た。」と記載。また、「ハンドホールからウラン溶液を注入しているときに起きた」との情報が原子力安全委員会緊急技術助言組織に知らされたのは午後10時頃であった。)
 さらに、沈殿槽に冷却ジャケットが付いており冷却水がまわっていたことが臨界状態の継続に大いに関連していたが、そのような事実が判明するまでに相当の時間を要した。(注:現地対策本部がそのような情報を得たのは午後6時20分頃である。)

 また、断片的情報に基づき、「周辺地域でのモニタリングポストの測定値が正常値に戻った模様」との誤解を与えやすい報道が、比較的早期になされているという事実も正確な情報の把握が適切に行われていなかったことを暗示している。

 これらのことから、次のようなことが教訓として指摘できる。

@中性子検出器のように臨界状態の継続性を直接的に検知できる装置を設置しておく方が適切と考えられる。
A濃縮度20%のウランを溶液系で扱うような施設がある場合には臨界事故を想定しておく方が適切と考えられる。
B継続性の判断を下すに当たっては、正確かつ必要な情報が速やかに提供されなければならない。同時に、それらの情報が適切に収集され適切な場で専門的に検討されなければならない。
Cこのことは、情報の一般公衆への提供のあり方にも関連している。まず第一に、すべての情報は公開され、適切なタイミングで提供されるべきである。と同時に、情報源を一元化し、情報の混乱を最小限にとどめる体制を考えるべきである。
D海外への正確な情報の速やかな伝達にも留意すべきである。

(3)事故の終息に向けた対応
 臨界事故が想定されていなかったことから臨界状態を終息させることを目的とした装置が備え付けられていなかったため、臨界状態の終息に向けて緊急に特別の対策をとる必要が生じ、その対応に時間を要した。

 午後4時頃から、現地対策本部において、原研の臨界及び遮蔽関係の専門家により臨界状態を終息させるための技術的検討が開始された。また、原子力安全委員会緊急技術助言組織(午後3時30分招集決定、午後6時会合開始)の助言もあり、検討と並行して多量のホウ酸水の準備が進められた。

 現地対策本部では、JCO従業員からの沈殿槽の構造等の情報をもとに臨界計算が行われ、作業者被ばくを極力抑制するとの方針のもと、冷却水ジャケットから水を抜くことにより未臨界を達成できるとの見通しが確認されるとともに、ホウ酸水を注入する具体的方法についても検討が行われた。この結果、まず、沈殿槽の冷却水を抜くこととし、転換試験棟の外に設置されているクーリングタワーの配管から水抜きを行うこととなった。

 原子力安全委員会、原研及びサイクル機構の助言と協力により、翌10月1日午前2時30分頃からJCO従業員による直接的な作業が開始され、午前6時15分頃に中性子線量率が検出限界以下に低下したことが確認された。続いて、未臨界の状態を確実にするため、沈殿槽にホウ酸水が注入された。この結果、午前9時20分に至り、臨界状態については終息をみたとの原子力安全委員長の判断が示された。

 これらの一連の対応は、関係機関の緊密な連携と支援による綿密な計画のもとに実施された。一方、施設の詳細を把握しているJCOからは現地対策本部に対して当初より具体的な提案はなされていない。また、午後8時40分頃になるまで施設の構造等に関する情報の提供がなされてなかったことは臨界状態の終息を遅らせることとなった。また、臨界終息のための水抜き作業を行うに当たっては、直接作業に当たる従業員の自発的意志をJCOが予め確認するとの方法によっている。

 以上のことから、次のことが指摘できる。

@たまたま、東海村で事故が起きたため、原研やサイクル機構などの専門家の組織的支援が得られた。臨界終息に当たっては、それらの専門家が自主的にいち早く支援に立ち上がり、かつ指導的役割を担った点を忘れるべきではない。専門家の支援体制について検討しておく必要がある。
A今回のように、事故の終息に向けて特別の放射線作業を要するような場合は、その責任や法的根拠が関係者の間により明確に周知されなければならない。

(4)放射線の外部への影響に関する対応
 臨界終息後の、核分裂生成物からのガンマ線による敷地周辺境界の放射線レベルは、10月1日午後4時頃で局所的ではあったが最大4.1μSv/hであり、350m圏内の住民の避難措置を解除するには高い値であることから、放射線を遮へいするための作業が行われた。遮へい材として、JCOは袋詰めフッ化アルミニウムを配置するほか、コンクリートブロックの提供を受けるとともに土のうを作製して施設周辺に積み上げ、その結果、ガンマ線の自然減衰と遮へい効果により、安全上問題のない放射線レベルであることが確認された。また、放射能汚染の確認のため、土壌、井戸水、窓ガラス等の測定の結果、有意な汚染がないことが確認された。これらにより、10月2日午後6時30分に避難措置が解除された。  なお、作業、測定は、原研、サイクル機構、日本原子力発電株式会社をはじめとする電力会社などの多くの者の協力を得て実施された。

 また、周辺環境への放射性物質の放出の可能性について、環境調査が事故当日の午後から実施されている。これまでの結果によれば、例えば、土壌中のCs-137の濃度は1.4×10-3〜2.6×10-2Bq/gで、東海・大洗地区での通常の値の変動範囲(1.0×10-3〜3.7×10-2Bq/g)内であった。

 さらに、臨界終息後の10月8日において、通常は検出されないはずのT-131が排気口で検出されたことから、T-131の漏洩防止対策がとられた。排気口での濃度は2.1×10-5Bq/cm3であったが、敷地境界での濃度(4.4×10-8Bq/cm3)はその約500分の1で、敷地境界での濃度限度(1×10-5Bq/cm3)を大幅に下回っており、漏洩防止対策は念のためにとられた措置であった。

 周辺環境への事故による放射線の影響を総合的に評価するため、敷地内外における放射線の空間線量率に関する測定値について解析を行っている。その結果、臨界状態が終息した10月1日午前6時15分までの実効線量当量の評価値が示された。それによれば、事故発生点から80mの地点(敷地境界にほぼ相当)で92mSv、350mの地点で1.2mSv、1kmの地点で6.5×10-3mSvであった。

 以上の事実から次のことが指摘できる。

@今回の事故の特徴は敷地境界における放射線レベルが通常の値の範囲を超えている時間が長かったこと。その主な原因は、臨界状態の終息に至るまでに時間を要したことである。
A地域住民が受けた放射線量の推定は、放出放射線量及び距離と時間などを基礎に行われる。この点については、本報告書作成後も、出来るだけ詳細に評価する必要があるが、仮に有意な放射線量が認められない場合でも、精神的負担などを考慮した心身のケアを図るなどのフォローアップを行うことが肝要である。
B他方、放射性物質の放出は住民の健康及び環境に影響を及ぼすものではなかったと判断される。
C放出放射線による線量率と距離との関係は、おおよそ次のとおりであった。
 ・350m地点で、敷地境界の値の約80分の1
 ・1km地点で、同じく敷地境界の値の約1万4千分の1

5.提言

(1)安全審査・安全規制の見直しと体系化
 まず最初に安全審査・安全規制の体系の改善の必要性について指摘しておきたい。

 第一に、転換試験棟における事業は、その内容をみると、通常の加工事業とは程遠く、非定常的な小規模の製造事業であった。安全審査においては、加工事業の変更許可申請が出され、それに基づき、通常の加工施設の一つとして審査されているが、濃縮度20%のウランを溶液系で扱うという事業内容の特殊性を考えると、加工施設ではあっても、むしろ使用施設的な特別な施設として審査することもありえた。使用施設の場合は科学技術庁の審査のみであるのに対して、通常の加工施設と同様に取り扱えば原子力安全委員会の審査とのいわゆるダブルチェックが行われ、より確実に審査できると考えられたが、そのことは、しかし、事業の特殊性を重点的に審査することを必ずしも意味していない。今回の事故を教訓に、規制行政庁と原子力安全委員会のダブルチェック機能の実効性ある運用を含め、多重補完的安全審査のあり方について改めて検討すべきことを提言する。

 第二に、今回の事故が運転管理規則の逸脱に起因している点に注目する必要がある。誤操作等の運転員の人的ミスについても考慮した上で設備や機器を設計することが安全設計の基本であり、そのことに関するより一層の配慮が必要であることを、今回の事故から学ぶ必要があるが、同時に、安全審査においては、第一義的には設備や装置の安全設計上の妥当性を評価するものであって、その運転管理の詳細は審査対象になっていないことに留意する必要がある。原子力発電所や再処理施設及び通常の加工施設のように、運転管理に伴う安全性についても基本的に設備対応が可能である場合には、現在の安全審査は十分にその目的を果たしていると考えられるが、今回のように運転管理の方法そのものが問題になるような施設においては、必ずしも十分とはいい難い面がある。当該施設のように安全上の重要度が高くかつ運転管理をより重視する必要がある施設については、その安全審査及び安全規制のあり方に関し、管理体制や作業工程及び検査並びに確認の方法までを視野にいれた専門的検討の緊要性を指摘しておきたい。

 第三の視点は、原子力安全委員会の役割についてである。原子力安全委員会は本来、安全審査及びその指針類の策定などの安全行政の基本に係わる事項を所掌するとともに、行政庁の安全規制の妥当性を監視する役割を担っている。そして、当然のことながら、関連する技術の進歩や安全に対する社会的要請の変化などに適確に対応しつつ、その任務を遂行する責を負っている。原子力安全の取り組みに関する世界の動向は、1979年のTMI事故及び1986年のチェルノブイリ事故などを契機に大きく変化してきている。しかしながら、これらの進展は主として原子力発電所に関連した分野であったため、核燃料サイクル関連の分野には必ずしも十分に浸透していないところがある。それは、原子力発電所の数に比べて対象とすべき核燃料サイクル施設の数が少なく経験の程度に大きな差がある上に、原子力発電所の規制は通商産業省であるのに対して核燃料サイクル関連の規制は科学技術庁という、我が国独特の規制の二元性に関連しているとも考えられる。2001年の省庁再編によって、産業部門の原子力安全行政は経済産業省に一元化される予定であるが、原子力安全委員会は、原子炉と核燃料サイクルを全体的に俯瞰しつつ変動する時代や社会の要請に応えて、規制行政庁とは独立した立場から安全行政を監視し指導することが求められており、事務局の抜本的強化と専門的助言者集団を充実化すべきことを提言する。

(2)事故発生原因を除去する具体的方法
 次に、事故の発生原因を除去するための具体的方法についてここにまとめて提言しておきたい。

 第一に、作業性を考慮し製品の製造に適した設備の安全設計と製作を行うことが大切であることを改めて認識すべきである。今回の事故は、製品の仕様に合致した製品を製造するのに適した設備ではなく既存の設備を流用したために作業性に無理があり、作業の効率化を求めて次第に許認可を受けていないステンレス容器や別の目的で設置されている沈殿槽を使用するようになった結果、発生した。このことにより、核燃料物質の取扱いに際しては、作業性を考慮しつつ安全な設備を設計し製作することの重要性を認識する必要がある。

 第二に、工程管理及び作業管理による安全確保の徹底を図るシステムの確立が求められる。すなわち、今回の事故は、作業日程の面から出来るだけ早く作業を終了させようとしたことも一因と考えられることから、核燃料物質の取扱いを伴う作業工程においては、製品量、品質、納期等の製品の仕様に直接的に関連する項目とともに、使用する設備、担当する作業者、事業所内において同時に進行する他の作業工程等を考慮して余裕のある作業計画を策定し、その作業計画に基づいた工程管理を実施することが大切である。また、品質管理とともに、臨界管理、被ばく管理、汚染管理等の安全管理のために必要となる項目を作業標準や作業手順書等に明記し、安全主管者や核燃料取扱主任者等の確認を受け、それらの指示にしたがって作業が正しく実施されることを確認するシステムを確立することが重要である。

 第三に、安全の向上と技術の継承を図るシステムをそれぞれの事業所において確立することが求められる。すなわち、今回の事故に関連した従業員は臨界管理に関する知識が十分でなかったことを考慮し、核燃料物質の取扱いに従事する者に対して、臨界管理、被ばく管理、汚染管理等の核燃料物質の取扱いに関して必要となる安全管理の内容について定期的に教育を行い、核燃料物質の取扱いに必要な安全知識の風化を防止するとともに、核燃料物質の加工に必要な知識についても階層別の教育により技術の継承に努め、社内認定制度や資格制度等によって能力を認定するとなど、作業者の意欲の向上を図るシステムを確立することが是非とも必要である。また、経営者や生産管理者についても「安全」への一層の理解が求められており、そのための教育も必要である。

(3)危機管理下における情報の適正な管理
 今回の事故においても、危機管理下における情報管理の不備が改めて指摘された。臨界状態の継続性及びその終息に向けた対応に関しては、冷静かつ専門的な情報の分析を必要としており、地域住民及び一般公衆への情報提供のあり方とともに、適切な情報管理体制を整備する必要がある。そのような情報管理体制とは次のような条件を満足すべきである。

 第一に、事故発生後の非常時においては、地域住民及び一般公衆に対し、正確で、かつ、わかり易い情報がタイムリーに提供されなければならない。そのため、情報源を出来るだけ一元化し、情報の混乱を最小限にとどめるべきである。報道機関への情報提供者は、その情報源と直結し、とくに指名された者が当たるべきである。また、災害弱者に対する対応を含めて、外国人居住者及び海外の報道機関への情報伝達にも配慮すべきである。

 第二に、災害防止や事故の終息に向けた迅速かつ的確な判断を可能にするためには、提供される情報を専門的に分析する作業を必要としており、それらの作業は、適切な場で特別にその任に当たる者によって遂行されるべきである。情報の提供が優先されるあまり正確かつ迅速な判断が遅れるようなことがあってはならない。この点に関しては、報道機関の節度ある取材活動による協力が不可欠である。

(4)安全管理情報の統合化とシステム化
 今回の事故が衝撃的だった理由のひとつは、臨界事故という原子力特有の事故が、運転規則の逸脱といういわば単純な行為によっていとも簡単に起きてしまったという事実にある。しかも、濃縮度20%のウランという核物質管理上は特に留意を要する核燃料物質を取扱っているときに起きたことは、国際的信頼も損なうこととなった。このような事故の再発を防止するため、次のような安全管理情報の統合化とシステム化を図ることを提言する。

 第一に、臨界事故の原因には、必ず核燃料物質の取扱いを伴うことから、核燃料物質の管理をより徹底することである。核燃料物質の所在や移動についてリアルタイムでその情報を管理するシステムが構築されれば、この種の事故の防止に極めて有効である。原子力発電所や通常の加工施設のような施設にまでそれを求めるべきか否かは専門的検討を要しようが、人的管理に依存し易い今回の施設のような場合には、そのような核物質管理情報のシステム化が検討されるべきである。

 第二に、核物質管理上特に機微な核燃料物質を取扱う施設においては、核物質防護上のセキュリティ対応もより重要になる。その点からの情報の統合化とシステム化も検討されるべきである。我が国では、核物質管理や核物質防護については原子力安全委員会ではなく原子力委員会が所掌している。核物質管理や核物質防護の観点からの技術的手段が今回のような事故を未然に防ぐという効果を潜在的に持ち得ることに着目し、原子力委員会においても国の広義の意味での安全行政として核燃料物質の安全管理体制の充実化を図るべきである。

(5)自己責任による安全確保の向上を不断に目指す社会システムの構築
 今回の事故に限らず安全確保の基本は自己責任にある。このことが、国際的原子力安全条約にも謳われている。今回の事故を契機に、そのことがより広く再認識され、かつ新たな取り組みによってより一層徹底されることが強く望まれる。

 第一に、いわゆる原子力の「安全神話」や観念的な「絶対安全」という標語は捨てられなければならない。確率は低くとも事故は起こり得るものと考えるべきであり、大切なことは、それが大きな被害をもたらさないように予め技術的手段が講じられていたり、事後的であっても必要な災害防止策が準備されているかであることが、関係者の間はもとより、国民的にも理解される必要がある。このことは「絶対安全」から「リスクを基準とする安全の評価」への意識の転回を求めている。「リスクを基準とする安全の評価」とは、事故の確率とその被害の程度を予め評価し、それに基づいて必要な災害防止策をたてておくことにより、安全のリスクを総合的に最小化しておくことを意味する。リスク評価の思考は欧米諸国において既に定着しつつあるが、我が国においても、そのことに関する理解の促進が望まれる。

 第二に、規制する側とされる側との間に健全な緊張関係があってはじめて自己責任の安全原則が効力を発揮するという点である。一方的規制強化は、場合によって、事業者の自主的保全努力や新たな安全に関する提案権を奪うものになりかねず、また、際限なき規制緩和が安全規律の劣化を招き易いことは過去の例により明らかである。規制する側とされる側との間の健全な緊張関係が含意するところは、申請・報告と審査・検査という行為を通して状況が常に改善され進化していくという循環的関係であることを認識すべきである。

 第三に、いわゆるプロジェクト型の技術開発のあり方について言及しなければならない。今回の事故を生んだ作業自体は技術的に単純なものであったが、それが高速実験炉である「常陽」用の燃料の製造過程であったという意味で技術開発の一部と見ることができる。ここで、原子力技術のように事故による社会的インパクトが大きな技術に関して、国民の負託に応えてその開発を行っていく上では、開発の計画は、外部に対し常に開かれその内容を説明する責任を負っているとともに、開発のリスクを最少化するプログラムを自律的に備えていなければならない、という点を指摘しておきたい。リスクがあるからこそ技術開発を必要としている点について、まず広く理解されなければならないのは当然であるが、逆に、その理解を助けるためには事故の確率とその影響の程度を最少限に抑制する仕組みが常に開発プロジェクトにプログラム化されていることが求められており、そのようなプログラムはまた、常に進化しなければならないという宿命を負っている。すなわち、今回の事故に端的に表れているように、プロジェクトを構成する個々のサブプロジェクトがそれぞれに自律化しその過程を通して全体が進化していくように管理運営されている必要がある。このことは自律分散型のプロジェクト管理システムを新たに開発することの必要性を提起するもので、発生する事故の原因を自発的に除去し、また、止むを得ず発生するかも知れない事故の影響を予知しそれを最少化するリスク管理システムの開発と併せて、新たな研究開発テーマとして取り組んでいくべきことを提言したい。

 最後に、人材の養成について触れておかなければならない。自己責任によって安全確保の向上を不断に目指す社会システムの構築に当たっては、専門的知識を有し、かつ、社会への適用性に優れていて安全意識の高い技術者集団の参加を必要としており、特に、それらの集団のリーダーとなる人材の育成が不可欠である。原子力開発の歴史はすでに半世紀近くに及んでいるが、開発の初期は、欧米特に米国がそのような人材を世界的に育成し供給する役割を担って来た。我が国におけるこれまでの原子力指導者は海外での経験を通して原子力を学んだ人が多い。半世紀という年月を経過した今日、そのような役割をなお他国に求めることは許されない。我が国自らがそのような人材の育成に新たに取り組むとともに、同様の課題を共有する他国との協調によって国際的に人材の養成を図っていくことも重要な課題であり、そのような国際的教育プログラムを我が国のリーダーシップの下に推進すべきことを提言しておきたい。
 また、実用化を迎えている原子力業界において、定常的に供給する必要のある現場作業者の技能レベルを維持し、向上を図るための教育も重要な課題である。リーダーのみならず、各分野における現場作業者の育成も重要な課題であることを指摘しておきたい。