1.施設とその運転に関する状況
(1)施設の核的制限値
以上を図解すると図V-1-2のようになる。
指針10 単一ユニットの臨界管理
再溶解工程については、許可申請書上、特に溶解工程と区別されておらず、その臨界管理については、溶解工程と同様に1バッチ最高取扱量以下で管理される。許可申請書には硝酸ウラニル溶液を製造することが記載され、それが再溶解を意味することの明確な記述はない。ただし、核燃料安全専門審査会第8部会の第2回会合に提出された説明用資料に、溶解装置を用いて再溶解し硝酸ウラニル溶液を貯蔵することが記載されている(第1回会合の資料には再溶解工程の記載がなかった。)。
均一化工程に関しては、前述のように、許可申請書に記載がない。
因みに、貯塔は溶媒抽出装置の一部であり、貯塔としての記載は許可申請書にないが、上記第8部会への説明用資料(参考資料V-1-2)に示されている。
複数ユニットの臨界管理に関しては、仕切壁の設置や機器・装置の適切な配置による旨が記載されている。
使用機器の容積と操業条件との関連は以下のようになっている。
沈殿工程では濃度45gU/gで操業するので、1バッチの容量は2.4kgU÷45gU/g≒53gである。これに対して沈殿槽の容積は約100gで、攪拌時の液面上昇等を考慮した余裕のある大きさであるとともに、その容積は結果としては二重装荷を防止できるものである。
溶解塔の容積は約42gで、これをはじめの溶解工程と再溶解工程で2回用いることになる。
はじめの溶解工程では濃度100gU/gで操業するので、1バッチの容量は2.4kgU÷100gU/g=24gである。
再溶解工程では濃度370gU/gで操業するので、1バッチの容量は2.4kgU÷370gU/g≒6.5gである。これを上記の溶解塔容積約42gと比べると、約6.5分の1でしかない。
貯塔の容積は約80gで、1ロット約40gの製品溶液を混合攪拌することができる。
なお、上記の溶液濃度及び均一化工程については許可申請書、設工認申請書のいずれにも記載はない。
保安規定の下部規定である臨界管理基準及び作業手順書(平成9年10月27日発行)と作業指示書、臨界管理リリースとの対応は表V-1-3に示すとおりであり、主な相違は以下の点である。
(b)操業記録にみられる実態
科学技術庁の調査によれば、第4次キャンペーン(昭和61、62年度)から、溶解から沈殿までで複数バッチの処理が並列して行われている。
一例を挙げると、第4次キャンペーンにおいて、昭和63年2月1日の午前にバッチ番号8801の溶解、同日午後に溶媒抽出が行われ、翌2月2日の午前に沈殿工程が実施されている。したがって、前述の「(a)溶解、溶媒抽出及び沈殿までの一連の工程を1バッチで質量管理する」を守れば、2日午前10時48分にこのバッチの沈殿工程が終了するまでは、他のバッチの処理を行わないはずのところ、この間バッチ番号8802、8803、8804の溶解及び8802、8803の溶媒抽出が行われている(参考資料Vー1ー4)。
(c)均一化工程の臨界安全
前述のように製品を均一化する工程は許可申請書、設工認申請書のいずれにも記載されておらず、発注者との契約に基づくものである。製品溶液約40gを混合し、濃度を均一化することとなっているが、濃度370gU/gの溶液40gのウラン量は14.8kgUで、6バッチ強に相当する。すなわち、この工程は6〜7バッチを同時に処理してはじめて成り立つものであり、1バッチずつの質量管理が可能な他の工程と比べて、際だった特色を有している。
均一化は発注者からの依頼により約40gを均一化することとなったため、当初は、クロスブレンディングにより、後に貯塔での攪拌混合によって行われた。
科学技術庁の聞き取り調査によれば、クロスブレンディングの場合は、臨界計算に基づいて製品容器の安全な配置を求め、それをマーカーで指示することで臨界管理をしていたという。
貯塔は臨界安全形状であるから、6〜7バッチ分を装荷しても臨界とはならない。作業手順書においては均一化処理に先立って配管の接続等を変更することとしている。そのことは許可申請書、設工認申請書のいずれにも記載されておらず、許認可を受けていない。また、それに伴う一部配管の追加等も科学技術庁による設計及び工事の方法についての認可、施設検査を受けていない。
JCOの報告によれば平成5年の常陽第6次キャンペーン以降今キャンペーンまで、転換試験棟の操業記録には職制による審査確認印がなく、現場作業について製造部の職制による日常的な作業の状況確認、把握が不十分であったとのことである。また、今回の操業記録によれば9月28日に2バッチの溶解を行ったことになっているが、実際には溶解作業は実施されなかった。また9月29日に2バッチの溶解を行ったことになっているが、実際は4バッチであったと思われるとのことである。このような現場の作業管理の基本となるべき生産の記録が事実に反して作成されていたことは、日々の作業において作業が標準に従って行われていたとは考えにくい。また、事故当時、転換試験棟の作業者3名がフィルムバッジを着用していなかったことが判明しており、これは放射線管理区域に入域する場合の基本的なルールが守られていなかったとのことである。
今回の事故は、製品の混合・均一化作業に、全く作業手順書に記述されていない本来使用されるはずもない沈殿槽が使用されたことで発生したものであるが、このような作業が行われた背景には上に述べたように現場の日常管理、現場の規律・統制がきわめてルーズであった状況があった。また、作業手順書や作業指示書の作成・承認の手続きが適正でなく、保安規定に関連する事項の実施についても必要な手続きを踏んでいなかった。
JCOの報告において、「今回の作業について3人のグループのリーダーである副長は、事故発生前日の9月29日の昼休み時間に、職制上のラインの関係にない核燃料取扱主任者有資格者に、硝酸ウラニル溶液均一化作業を沈殿槽で行うことの可否を問い合わせてその了承を得て作業を行ったと考えられる。」と述べられている。核燃料取扱主任者有資格者当人はこれを認めているが、副長自身からはこれについて確認が取れていないとのことである。いずれにしろこのような作業変更が、十分な検討もされないままに計画され、しかもラインの管理責任者の許可を得ずして行われたことは、先に述べた現場作業の統率が十分でなかったのみならず、JCOに変更管理の概念、従ってその体制がなかったと断ぜざるを得ない。
(b)安全審査においては、加工事業の実施に伴う潜在的危険性の程度を正しく認識し、その上で潜在的危険性を顕在化させる要因である臨界、遮へい、閉じ込め、火災・爆発、地震等に係る安全対策が基本設計ないし基本的設計方針により確保されていることを確認することとなる。これらの事項については広範かつ専門的な事項が多いことから各分野での専門家を顧問として委嘱し、意見を聞きつつ審査が行われている。
(1)臨界状態の解析結果
| (注; | 十分な定量的検証にはなっていないが、反応度が3ドルを超えて投入された場合、暴走出力による発熱によって事故初期に硝酸ウラニル溶液中での大量の沸騰が生じることが計算上予測される。この場合、水の減少に伴う中性子束の洩れの増大が大きく反応度を補償することとなり、以降の半定常的な出力の継続(プラトー部)を量的に説明することが難しい。この様な判断も加わって、3ドル以下と推定した。 ドルとは原子炉の反応度を表す単位で、原子炉が即発臨界となるときの反応度が1ドルである。)
|
(1)直接的原因と対策
沈殿槽の臨界管理制限値は2.4kgU/バッチであった。この値は、理論上の最小臨界質量5.5kgUから安全係数2.3をみて決められていた。一方、事故時の臨界量は、2.4kgU×6バッチ=14.4kgU以上であった。
沈殿槽が臨界安全形状に設計されていなかった理由は、許可申請書にはっきりとは示されていないが、前述のとおり、製品のウラン粉末の特性が重ウラン酸アンモニウム結晶の生成状態に大きく影響されることから、攪拌、結晶生成速度等を考慮して形状を定める必要があったためと思われる。沈殿槽の容積については、精製工程における1バッチ当たりの液量(約53g)に対して約100gに設計されており、いわゆる二重装荷に関する臨界安全上の要件を満足する容積となっていた。
また、沈殿槽は精製U3O8を製造する過程で使用されるものであり、精製U3O8を再溶解して硝酸ウラニル溶液を製造する工程において用いることを目的としていなかった。
このような直接的原因への対策としては、次のような視点が重要である。すなわち、「臨界安全形状に設計されていない溶液系装置については、特に、その臨界管理を今回のように人的管理に依存するような場合は、ヒューマンファクター等への一層の配慮から、質量制限とともに濃度制限を併用するなどの方が適切と考えられる。ただし、制限値の設定に安全余裕を見込み過ぎたり必要以上に何重もの制限をかけないようにすることも大切である。」
質量制限値は定められていたが、濃度制限値が別に定められていなかったことが、処理容量に余裕のある沈殿槽を再溶解後の高濃度の均一化工程に使ってもよいのではないかとの錯覚を作業員に与えたおそれがある。なお、全濃度臨界安全形状(濃縮度20%以下)に設計された貯塔を過去に同じ目的に使用しており、その際に質量制限値を大幅に超えても臨界にならなかったことが今回の錯覚の背景にあるものと思われる。
制限値については、その設定に当たって合理的な安全余裕を見込むことは当然であるものの、それが過大である場合は、逆に、制限値を守ることに関する作業員の緊張感を減退させる可能性もあることを念頭においておくべきである。そのことは、臨界安全形状に装置を設計すべきかどうかの判断にも関連している。適正に安全余裕が見込まれた制限値であれば臨界安全形状に設計することがプロセス上可能であるのに対し、過度に余裕が見込まれた制限値の下ではそれが不可能になることが場合によってあり得ることを考慮すべきである。
さらに、全濃度臨界安全形状で容積的に二重装荷の臨界安全要件を満たすように設計された装置についても、なお質量制限を要求する場合には、その理由を明らかにしておくことが望ましい。いわゆる保守性の付加以外に理由がない場合には、その必要性に関する作業員の理解を得ることが難しくなる可能性がある。
再溶解に当たっては、質量制限値(2.4kgU)を基に溶解工程の製造上の条件であるウラン濃度(370gU/g)を考慮して1バッチ当たりの液量(約6.5g)が決定されているが、溶解塔の容積(約42g)に対して適量とはいい難い。ロット量は、1回の輸送量を考慮して約40g(7バッチ分)の量とすることが、発注者と受注者間の契約仕様書に記載されている。また、同仕様書には製品である硝酸ウラニル溶液の濃度は380gU/g以下という記載がある。
科学技術庁の聞き取り調査によれば、硝酸ウラニル溶液を製品化する作業を初めて行った昭和61年11月からの「常陽」第4次キャンペーンにおいては、許認可どおり溶解塔を用いて1バッチ当たりの質量制限値(2.4kgU)から求められた液量(約6.5g)の範囲で硝酸ウラニル溶液を作り、それを発注者との合意に基づき4g単位に10個の製品容器に分けた後、それぞれから0.4gづつ分取して比較的均一な40g分の硝酸ウラニル溶液(これも4gづつ10個の容器に分けた)を製造していた。その後、第5次キャンペーンでは硝酸ウラニル溶液の製品化は行われていないが、第6次キャンペーン(平成5年1月から)において、溶解塔を使用せず、ステンレス容器(10g)を用いて約6.5gづつ硝酸ウラニル溶液をつくり、同じく10個の製品容器で均一化の作業を行っていた。
さらに、第7次(平成7年10月から)及び第8次キャンペーン(平成8年8月から)において、均一化の作業を容積80gの貯塔を用い、6〜7バッチ分を一度に行った。貯塔は全濃度臨界安全形状(濃縮度20%以下)に設計されており、6〜7バッチ分の濃度約370gU/gの溶液の処理を一度に行っても、臨界事故には至らなかった。
今回の第9次キャンペーン(平成11年9月から)において、均一化のために貯塔を用いずに撹拌機の付いている沈殿槽をはじめて利用した。貯塔からの溶液取出口が床面から10cm程度しか離れていないため柄杓を用いる必要があり、また、14.5kgUを貯塔で均一化するのに約200分を要するなどの作業上の難点があったことが貯塔を用いなかった理由とされている。
以上のような作業工程上の原因への対策としては、「臨界安全管理を要する装置については、当該装置の作業性と安全性との関連に関しても予め評価しておくべきである」との視点が重要である。
再溶解に当たっては溶解塔の使用が想定されており、質量管理とともに形状管理が要求されていた。安全形状設計されている装置であるから非安全形状の装置に比べ質量管理の要求に関する厳密性はないにもかかわらず、質量制限値から定められる液量が1バッチ当たりの処理量の制限値となっていた。再溶解時のそれは約6.5g/バッチで溶解塔の容積(約42g)の約6.5分の1であるのに対して、最初の溶解時のそれは約24g/バッチで、作業性に明らかな差があるように見受けられ、このような作業性と臨界安全管理との関連についても安全評価に際して考慮されるべきである。
同様のことが均一化工程についても指摘できる。10個の製品容器を用いたクロスブレンディングによる均一化の作業は作業性に難点があることは明らかである。それ故に貯塔を用いた作業が行われていたと考えられ、さらにその貯塔による作業は臨界管理上の制限の逸脱であるばかりでなく作業性に適性があったとは見受けられない。
事業許可変更申請時に大量に(1バッチ以上)均一化する作業は対象外であったものを、装置の変更許可を取得することなく実施することに無理があったと言わざるを得ない
最も重視されるべき点は、沈殿槽を操業する場合の質量制限値である2.4kgU/バッチを超える作業を行ったことである。これは、申請内容からの逸脱であるとともに保安規定に違反する行為である。なお、沈殿槽に手作業で給液できるようなハンドホール(のぞき窓)が付いていたことが問題だったとの指摘があるが、付けてはいけないとは安全上の要件として定められていない。
第7次キャンペーンにおいて、貯塔を使って6〜7バッチを処理することが作業手順書に記載されていたが、これは、許認可を受けた1バッチ最高取扱量以下での取扱を逸脱する作業であった。
溶解に用いる設備については、許可申請書には、溶解装置1基、溶解工程は1バッチ最高取扱量以下で管理するとの記述のみで溶解工程の具体的設備は記載されていない。しかし、設工認申請書において、溶解装置として溶解塔及び溶解用フード(溶解塔の上に設置された粉末ウラン投入用のフード)が具体的に記載されている。ステンレス容器(10g)は、いわゆる1基の溶解装置とは見なし難く、また、施設検査も受けずにそれを用いてU3O8粉末の溶解を行うことは、申請内容からの逸脱と考えられる。
再溶解に関連して、許可申請書において、硝酸ウラニル溶液を製造することが記載され、使用施設時にはなかった溶解工程が追加されているが、それが再溶解を意味するかの明確な記述はない。ただし、核燃料安全専門審査会第8部会第2回会合において提出された資料に、溶解装置を用いて再溶解し硝酸ウラニル溶液を貯蔵することが記載されている(第1回会合の資料には再溶解工程の記載がなかった。)。
このような運転管理上の重大な過ちが生じないようにするためには、次のような点が考慮されるべきである。「溶液系装置の臨界管理質量制限については、容積制限による二重装荷の臨界安全要件を付加するなどの措置により物理的に安全を確保することが適切と考えられる。また、所定の装置以外の機器類の使用については運転管理上の禁止事項として定めておくなどの配慮が必要である。さらに、臨界管理方法を熟知させ、また核燃料物質の移動に係る承認手続きの徹底などにより、質量制限値が遵守される運転管理体制を構築することが重要である。」
臨界管理質量制限を必要とするのは、原則的に装置の形状管理が難しい場合であるが、その場合であっても二重装荷の臨界安全要件を満たすような容積制限を付加するなどの多重防護性への配慮が重要である。そのようなことがプロセス設計上困難な場合には、ハンドホールなどの容易に他の目的に利用できる開口部を設けることは認められるべきではない。
「物理的に安全を確保する」との考え方に従えば、ステンレス容器(10g)を便法として使用するようなことは認められない。ただし、そのような行為の可能性をすべて物理的に排除することは困難であり、運転管理上の禁止行為として定めるべきである。
核燃料物質については、核物質計量管理や核物質防護の面からの運転管理要件を満足する必要があり、それらの要件に関連する承認手続きも併わせ、質量管理の遵守の一層の徹底を図ることが重要である。
再溶解硝酸ウラニル溶液の均一化に沈殿槽を利用することの適否に関し、提案の段階でチェックするシステムが社内に存在していなかった。作業指示書と臨界管理リリースには、沈殿槽を利用するという記述はなく、作業手順書には貯塔を用いて硝酸ウラニル溶液の均一化を行うことになっており、この変更をしない上に、安全管理グループ長や核燃料取扱主任者の承認を経ないまま沈殿槽を使用したことは適切でない。作業手順書の改定や作成に当たっても、安全管理グループ長や核燃料取扱主任者の承認を必要としないのは適当でない。安全主管者と核燃料取扱主任者との関係が不明確で、核燃料取扱主任者について、保安規定に記載された事項が、社内的に適切に位置付けられていない。例えば、保安規定を遵守する上で重要な事項について核燃料取扱主任者の承認を求めていない。
このような技術管理上の問題点を生じさせないためには、「従業員教育、現場作業統率、安全管理等の面で品質管理の充実を図るとともに、ISO規準認証の取得を奨励するなど事業者の自己責任による自主保安の考え方を徹底する」との考え方が重要である。
臨界安全管理に関する知識が従業員の間に十分に浸透していなかったものと考えられる。OJTに重点をおいた教育が行われていたが、基礎から実践に至る教育の体系化が図られていなかった。
作業手順書や作業指示書の作成・承認の手続きが適正でなく、保安規定に関連する事項の実施についても必要な手続きを踏んでいなかった。指揮命令系統を明確化し、現場作業の統率が確実に行われるようにすることが重要である。特に、安全主管者、安全管理グループ長、核燃料取扱主任者等の安全管理上枢要な者については、その位置付けを明確化し、社内の自主保安体制の充実化を図るべきである。
製造現場のトラブルの多くは作業・作業者の変更によってもたらされることは、多くの製造現場で経験されていることである。職場の都合で行った作業変更が後工程で悪い影響をもたらした例は少なくない。今回もその事例のひとつと考えられる。変更管理については品質管理を徹底して現場で勝手に変更作業が行われないようにすべきである。
なお、企業においては自分の作業に対して絶えず改善提案をしていくことが求められている。改善提案については、むしろ奨励されるべきものであるが、特に原子力分野においては、許認可条件を逸脱していないかどうかについて、安全管理上の観点から社内的に審査する仕組みが重要である。
再溶解硝酸ウラニル溶液の製造キャンペーンは、昭和61年以来、14年間に今回分も含め計5回(契約上は6回になっている)、処理量は約800kgUである。許認可どおりの作業を行っていた「常陽」第4次取替燃料製造用硝酸ウラニル溶液の溶解作業は1日計1〜4バッチで、2.4kgU/バッチの質量制限値を考慮すると、キャンペーン当たりの操業に日数がかかる一方で、キャンペーンの回数は少ないという特徴があり、加工施設棟におけるUO2の製造業務とは経営管理上に大きな差があると考えられる。
JCO東海事業所の運転チーム編成は、UO2製造業務が中心に組まれているが、今回の作業については主に廃液処理を行うスペシャルクルーとよばれる特別作業チーム(5名)が当たっており、本作業に関する経験も知識も十分でなかった。臨界管理についても、濃縮度5%以下のウランを扱い、しかも再溶解工程が存在しないUO2製造の加工施設棟作業と濃縮度約20%のウランで再溶解工程を含む本作業とでは本質的な相違がある。
したがって、再発防止のためには、「特殊少量製品を非定常的に製造するプロセスにおいては、その経営管理上の特殊性に鑑み、安全管理上必要な配慮が特別に求められる」ことが欠かせない。
高速実験炉「常陽」の原料製造を目的として濃縮度20%、濃度380gU/g以下の硝酸ウラニル溶液を40g単位のロットで製品化する作業は、濃縮度20%のウラン粉末を製造することを主プロセスとする転換試験棟内においても特殊な作業であった。その特殊性に伴う操業上の困難を解決するためには相当額の費用負担を必要とする可能性があり、全社的経営管理上の判断を要することがあると思われる。そのような場合には、発注者と受注者との間で作業の安全管理に関し十分な検討が行われることが望ましい。
なお、高ウラン濃度硝酸ウラニル溶液は、米国からの核不拡散上の強い要請を踏まえ、動燃事業団(当時)が開発したMOX燃料製造のための「混合脱硝法」に使用するのが目的であり、特殊な作業であった。すなわち、臨界事故の危険性の高い高ウラン濃度硝酸ウラニル溶液を「常陽」用の燃料として安全に製造するための工程及び設備の利用には、特別な配慮を必要としていた。
許可申請書において、再溶解工程で用いる溶解塔は質量管理を基本とする上に形状管理を行うとされているが、その理由について明示されていない(指針10)。しかも、設工認申請書においては、そのときの形状管理制限値(直径175mm以下)が酸化ウラン-水均質系の直径160mm以下に変更されている。許可申請書の変更において、「一連の工程を1バッチで管理する」とされているのは、UF6を原料とする加水分解からの工程に関してであって、精製U3O8を原料とする再溶解工程については記述が見当たらない(指針10)。6〜7バッチ分を均一な1ロットとすることは、許可申請書と設工認申請書のいずれにも記載されていない。申請後に均一化工程を追加することになったとすれば、その時点で加工事業申請書の加工の方法の変更のための申請を行うべきであった。
複数の製品容器を用いて均一化の操作を行うに当たっては複数ユニットの臨界安全について十分に評価する必要があるが、その点に関する記述は見当たらない(指針11)。
UO2粉末を製品化する工程に関する限り、臨界事故に対する考慮(指針12)に関する審査結果は妥当だったと判断されるが、再溶解工程については、関連する資料に十分な記載がない。
したがって、次のような点が再発防止策として求められている。
「安全審査において施設・設備・機器の基本設計に関する臨界安全上の妥当性を評価するに当たっては、その評価の前提としたそれらの使用条件について明記する。その使用条件を逸脱して使用される場合の可能性については、当該施設の潜在的危険性に照らして誤操作等に対する安全設計を課すとともに、必要であれば、最大想定事故のひとつとしてその影響の評価を行うことが適切である。ただし、安全審査においては基本設計を審査の基礎としており、個々の使用条件は直接的な審査事項ではない。
また、設工認審査において加工事業申請書及び安全審査結果を踏まえて施設・設備・機器の設計及び工事の方法の妥当性を評価するに当たっても、その評価の前提とした使用条件について明記する。ただし、設工認審査においても個々の使用条件は直接的審査事項ではない。個々の使用条件は保安規定に定められるものである。」
核燃料施設の場合、原子炉施設と違って、使用条件を特定することは難しいことが多い。しかし、通常の商業用施設であれば、定常的な製造工程を想定することによって使用条件を特定できると考えられる。
問題は今回のように特殊な製造工程についてである。特に同一の装置を使って精製するための溶解と再溶解を行うような場合には、装置の臨界安全評価上の使用条件を明らかにしておくことが重要である。臨界安全評価上の使用条件の変更を要する場合には、臨界管理上問題のないことを十分に検討し、変更申請を行うなどの所定の手続きを経る必要がある。
さらに、硝酸ウラニル溶液を製品化するに当たっての均一化工程に関する装置の使用条件については、複数ユニットの臨界安全に留意する必要があり、安全審査及び設工認審査に際しての重要検討事項でもある。また、臨界事故の可能性についても、20%の濃縮度で370gU/gの硝酸ウラニル溶液を扱うような特殊な工程の場合には、特別な配慮が必要であると思われる。
他方、許認可手続きの期間についても検討を要する。設備変更をするにしても許認可に時間がかかることから、できるだけ許認可なしに変更等を行いたいという事情が申請者側にあるおそれがある。
科学技術庁は、行政指導による保安規定遵守状況調査や運転管理専門官による巡視を行ってきたが、同施設の運転操業が不定期であったこともあり、同施設が操業されていない時期に行われる結果となるなど、有効なものとは言い難い。
したがって、「国の検査機能を強化し、@加工事業に係る規制項目の追加と定期検査等の義務付け、A保安規定の遵守状況に係る効率的な検査制度の導入、B抜き打ち検査の効率的な実施などを図る」といった対策が求められている。
事故が発生した転換試験棟は、定常的に操業する加工事業に直接関係するところではなかったが、今回の事故を教訓として加工事業全般に対する規制の強化を図る必要がある。
保安規定が守られていなかったことに鑑み、これまでの行政指導の範囲を超えてその遵守状況について効率的に検査することが必要である。
検査の有効性の観点からいわゆる抜き打ち検査を実施することも必要である。ただし、今回のように操業が非定常的な場合には、その有効性を過大視しないようにすることも重要である。
規制強化による規制当局と事業者との健全な緊張関係を維持することと併せて、両者の間の信頼関係の再構築が重要である。この点から、安全確保の基本は事業者に第一義的な責任があることであり、それを関係者は改めて認識すべきであり、事業者の自主的安全確保を支援するものが規制であることを忘れるべきでない。
(1)事故発生に関する対応
対外的連絡までに約40分間を要した理由をはっきり特定することは難しいが、次のような事由がそれに関連しているものと考えられる。
大切なことは、臨界状態が継続している場合の重大性に鑑み、確定はできなくとも、必要と判断された場合にはそれを想定した対策を的確かつ迅速に講じることである。そのような判断は、本来、規制官庁である科学技術庁によって行われるべきであるが、今回は発生状況の特殊性により高度に専門的な知識を要したことから原子力安全委員会の助言を必要としていた。その際、必要な情報を収集し、それを原子力安全委員会に提供する責任は第一義的には科学技術庁にあった。しかし、臨界状態の継続性に関する認識の遅れをみると、今回の事故においては、その点で、科学技術庁と原子力安全委員会との間の連携が十分とはいえなかった。その理由には、技術関連の情報が適切に収集され分析されたか否かという技術的側面と、科学技術庁及び原子力安全委員会の組織としての関係が十分であったか否かという制度的側面とがあるものと考えられるが、ここでは、技術的側面について述べる。
第一に、ガンマ線の線量率は通常の値を継続して上回っており臨界状態が終息していない可能性があった。敷地周辺の線量率データがJCOから科学技術庁に報告されたのは、第1回が午前11時55分(最大0.68mSv/h)、第2回が午前12時29分(最大0.84mSv/h)である。ただし、線量率に関する値は大局的には徐々に減少気味の傾向を示していた。
一方、中性子検出器を用いて中性子線の線量率も異常(4mSv/h)であることを検知することにより臨界状態の継続を確認したのは午後5時頃であった。ただし、サイクル機構が測定を開始したのは午後4時30分である。
溶液系の臨界事故現象は、場合によって、長時間にわたり継続する可能性があることは過去の事故例により明らかである。また、濃縮度20%近くのウランを扱っていることはその可能性を高める理由のひとつになり得る。しかし、現実には、臨界事故の発生した場所(機器)や状況(運転)について正確な情報を把握するのに相当の時間を要している。(注:科学技術庁に送信されたJCO東海事業所発信の事故・軽微事象発生連絡票の第5報(午後1時42分)に「約16kgUを沈殿槽に移入しているとき青い光が出た。」と記載。また、「ハンドホールからウラン溶液を注入しているときに起きた」との情報が原子力安全委員会緊急技術助言組織に知らされたのは午後10時頃であった。)
さらに、沈殿槽に冷却ジャケットが付いており冷却水がまわっていたことが臨界状態の継続に大いに関連していたが、そのような事実が判明するまでに相当の時間を要した。(注:現地対策本部がそのような情報を得たのは午後6時20分頃である。)
また、断片的情報に基づき、「周辺地域でのモニタリングポストの測定値が正常値に戻った模様」との誤解を与えやすい報道が、比較的早期になされているという事実も正確な情報の把握が適切に行われていなかったことを暗示している。
これらのことから、次のようなことが教訓として指摘できる。
午後4時頃から、現地対策本部において、原研の臨界及び遮蔽関係の専門家により臨界状態を終息させるための技術的検討が開始された。また、原子力安全委員会緊急技術助言組織(午後3時30分招集決定、午後6時会合開始)の助言もあり、検討と並行して多量のホウ酸水の準備が進められた。
現地対策本部では、JCO従業員からの沈殿槽の構造等の情報をもとに臨界計算が行われ、作業者被ばくを極力抑制するとの方針のもと、冷却水ジャケットから水を抜くことにより未臨界を達成できるとの見通しが確認されるとともに、ホウ酸水を注入する具体的方法についても検討が行われた。この結果、まず、沈殿槽の冷却水を抜くこととし、転換試験棟の外に設置されているクーリングタワーの配管から水抜きを行うこととなった。
原子力安全委員会、原研及びサイクル機構の助言と協力により、翌10月1日午前2時30分頃からJCO従業員による直接的な作業が開始され、午前6時15分頃に中性子線量率が検出限界以下に低下したことが確認された。続いて、未臨界の状態を確実にするため、沈殿槽にホウ酸水が注入された。この結果、午前9時20分に至り、臨界状態については終息をみたとの原子力安全委員長の判断が示された。
これらの一連の対応は、関係機関の緊密な連携と支援による綿密な計画のもとに実施された。一方、施設の詳細を把握しているJCOからは現地対策本部に対して当初より具体的な提案はなされていない。また、午後8時40分頃になるまで施設の構造等に関する情報の提供がなされてなかったことは臨界状態の終息を遅らせることとなった。また、臨界終息のための水抜き作業を行うに当たっては、直接作業に当たる従業員の自発的意志をJCOが予め確認するとの方法によっている。
以上のことから、次のことが指摘できる。
また、周辺環境への放射性物質の放出の可能性について、環境調査が事故当日の午後から実施されている。これまでの結果によれば、例えば、土壌中のCs-137の濃度は1.4×10-3〜2.6×10-2Bq/gで、東海・大洗地区での通常の値の変動範囲(1.0×10-3〜3.7×10-2Bq/g)内であった。
さらに、臨界終息後の10月8日において、通常は検出されないはずのT-131が排気口で検出されたことから、T-131の漏洩防止対策がとられた。排気口での濃度は2.1×10-5Bq/cm3であったが、敷地境界での濃度(4.4×10-8Bq/cm3)はその約500分の1で、敷地境界での濃度限度(1×10-5Bq/cm3)を大幅に下回っており、漏洩防止対策は念のためにとられた措置であった。
周辺環境への事故による放射線の影響を総合的に評価するため、敷地内外における放射線の空間線量率に関する測定値について解析を行っている。その結果、臨界状態が終息した10月1日午前6時15分までの実効線量当量の評価値が示された。それによれば、事故発生点から80mの地点(敷地境界にほぼ相当)で92mSv、350mの地点で1.2mSv、1kmの地点で6.5×10-3mSvであった。
以上の事実から次のことが指摘できる。
第一に、転換試験棟における事業は、その内容をみると、通常の加工事業とは程遠く、非定常的な小規模の製造事業であった。安全審査においては、加工事業の変更許可申請が出され、それに基づき、通常の加工施設の一つとして審査されているが、濃縮度20%のウランを溶液系で扱うという事業内容の特殊性を考えると、加工施設ではあっても、むしろ使用施設的な特別な施設として審査することもありえた。使用施設の場合は科学技術庁の審査のみであるのに対して、通常の加工施設と同様に取り扱えば原子力安全委員会の審査とのいわゆるダブルチェックが行われ、より確実に審査できると考えられたが、そのことは、しかし、事業の特殊性を重点的に審査することを必ずしも意味していない。今回の事故を教訓に、規制行政庁と原子力安全委員会のダブルチェック機能の実効性ある運用を含め、多重補完的安全審査のあり方について改めて検討すべきことを提言する。
第二に、今回の事故が運転管理規則の逸脱に起因している点に注目する必要がある。誤操作等の運転員の人的ミスについても考慮した上で設備や機器を設計することが安全設計の基本であり、そのことに関するより一層の配慮が必要であることを、今回の事故から学ぶ必要があるが、同時に、安全審査においては、第一義的には設備や装置の安全設計上の妥当性を評価するものであって、その運転管理の詳細は審査対象になっていないことに留意する必要がある。原子力発電所や再処理施設及び通常の加工施設のように、運転管理に伴う安全性についても基本的に設備対応が可能である場合には、現在の安全審査は十分にその目的を果たしていると考えられるが、今回のように運転管理の方法そのものが問題になるような施設においては、必ずしも十分とはいい難い面がある。当該施設のように安全上の重要度が高くかつ運転管理をより重視する必要がある施設については、その安全審査及び安全規制のあり方に関し、管理体制や作業工程及び検査並びに確認の方法までを視野にいれた専門的検討の緊要性を指摘しておきたい。
第三の視点は、原子力安全委員会の役割についてである。原子力安全委員会は本来、安全審査及びその指針類の策定などの安全行政の基本に係わる事項を所掌するとともに、行政庁の安全規制の妥当性を監視する役割を担っている。そして、当然のことながら、関連する技術の進歩や安全に対する社会的要請の変化などに適確に対応しつつ、その任務を遂行する責を負っている。原子力安全の取り組みに関する世界の動向は、1979年のTMI事故及び1986年のチェルノブイリ事故などを契機に大きく変化してきている。しかしながら、これらの進展は主として原子力発電所に関連した分野であったため、核燃料サイクル関連の分野には必ずしも十分に浸透していないところがある。それは、原子力発電所の数に比べて対象とすべき核燃料サイクル施設の数が少なく経験の程度に大きな差がある上に、原子力発電所の規制は通商産業省であるのに対して核燃料サイクル関連の規制は科学技術庁という、我が国独特の規制の二元性に関連しているとも考えられる。2001年の省庁再編によって、産業部門の原子力安全行政は経済産業省に一元化される予定であるが、原子力安全委員会は、原子炉と核燃料サイクルを全体的に俯瞰しつつ変動する時代や社会の要請に応えて、規制行政庁とは独立した立場から安全行政を監視し指導することが求められており、事務局の抜本的強化と専門的助言者集団を充実化すべきことを提言する。
第一に、作業性を考慮し製品の製造に適した設備の安全設計と製作を行うことが大切であることを改めて認識すべきである。今回の事故は、製品の仕様に合致した製品を製造するのに適した設備ではなく既存の設備を流用したために作業性に無理があり、作業の効率化を求めて次第に許認可を受けていないステンレス容器や別の目的で設置されている沈殿槽を使用するようになった結果、発生した。このことにより、核燃料物質の取扱いに際しては、作業性を考慮しつつ安全な設備を設計し製作することの重要性を認識する必要がある。
第二に、工程管理及び作業管理による安全確保の徹底を図るシステムの確立が求められる。すなわち、今回の事故は、作業日程の面から出来るだけ早く作業を終了させようとしたことも一因と考えられることから、核燃料物質の取扱いを伴う作業工程においては、製品量、品質、納期等の製品の仕様に直接的に関連する項目とともに、使用する設備、担当する作業者、事業所内において同時に進行する他の作業工程等を考慮して余裕のある作業計画を策定し、その作業計画に基づいた工程管理を実施することが大切である。また、品質管理とともに、臨界管理、被ばく管理、汚染管理等の安全管理のために必要となる項目を作業標準や作業手順書等に明記し、安全主管者や核燃料取扱主任者等の確認を受け、それらの指示にしたがって作業が正しく実施されることを確認するシステムを確立することが重要である。
第三に、安全の向上と技術の継承を図るシステムをそれぞれの事業所において確立することが求められる。すなわち、今回の事故に関連した従業員は臨界管理に関する知識が十分でなかったことを考慮し、核燃料物質の取扱いに従事する者に対して、臨界管理、被ばく管理、汚染管理等の核燃料物質の取扱いに関して必要となる安全管理の内容について定期的に教育を行い、核燃料物質の取扱いに必要な安全知識の風化を防止するとともに、核燃料物質の加工に必要な知識についても階層別の教育により技術の継承に努め、社内認定制度や資格制度等によって能力を認定するとなど、作業者の意欲の向上を図るシステムを確立することが是非とも必要である。また、経営者や生産管理者についても「安全」への一層の理解が求められており、そのための教育も必要である。
第一に、事故発生後の非常時においては、地域住民及び一般公衆に対し、正確で、かつ、わかり易い情報がタイムリーに提供されなければならない。そのため、情報源を出来るだけ一元化し、情報の混乱を最小限にとどめるべきである。報道機関への情報提供者は、その情報源と直結し、とくに指名された者が当たるべきである。また、災害弱者に対する対応を含めて、外国人居住者及び海外の報道機関への情報伝達にも配慮すべきである。
第二に、災害防止や事故の終息に向けた迅速かつ的確な判断を可能にするためには、提供される情報を専門的に分析する作業を必要としており、それらの作業は、適切な場で特別にその任に当たる者によって遂行されるべきである。情報の提供が優先されるあまり正確かつ迅速な判断が遅れるようなことがあってはならない。この点に関しては、報道機関の節度ある取材活動による協力が不可欠である。
第一に、臨界事故の原因には、必ず核燃料物質の取扱いを伴うことから、核燃料物質の管理をより徹底することである。核燃料物質の所在や移動についてリアルタイムでその情報を管理するシステムが構築されれば、この種の事故の防止に極めて有効である。原子力発電所や通常の加工施設のような施設にまでそれを求めるべきか否かは専門的検討を要しようが、人的管理に依存し易い今回の施設のような場合には、そのような核物質管理情報のシステム化が検討されるべきである。
第二に、核物質管理上特に機微な核燃料物質を取扱う施設においては、核物質防護上のセキュリティ対応もより重要になる。その点からの情報の統合化とシステム化も検討されるべきである。我が国では、核物質管理や核物質防護については原子力安全委員会ではなく原子力委員会が所掌している。核物質管理や核物質防護の観点からの技術的手段が今回のような事故を未然に防ぐという効果を潜在的に持ち得ることに着目し、原子力委員会においても国の広義の意味での安全行政として核燃料物質の安全管理体制の充実化を図るべきである。
第一に、いわゆる原子力の「安全神話」や観念的な「絶対安全」という標語は捨てられなければならない。確率は低くとも事故は起こり得るものと考えるべきであり、大切なことは、それが大きな被害をもたらさないように予め技術的手段が講じられていたり、事後的であっても必要な災害防止策が準備されているかであることが、関係者の間はもとより、国民的にも理解される必要がある。このことは「絶対安全」から「リスクを基準とする安全の評価」への意識の転回を求めている。「リスクを基準とする安全の評価」とは、事故の確率とその被害の程度を予め評価し、それに基づいて必要な災害防止策をたてておくことにより、安全のリスクを総合的に最小化しておくことを意味する。リスク評価の思考は欧米諸国において既に定着しつつあるが、我が国においても、そのことに関する理解の促進が望まれる。
第二に、規制する側とされる側との間に健全な緊張関係があってはじめて自己責任の安全原則が効力を発揮するという点である。一方的規制強化は、場合によって、事業者の自主的保全努力や新たな安全に関する提案権を奪うものになりかねず、また、際限なき規制緩和が安全規律の劣化を招き易いことは過去の例により明らかである。規制する側とされる側との間の健全な緊張関係が含意するところは、申請・報告と審査・検査という行為を通して状況が常に改善され進化していくという循環的関係であることを認識すべきである。
第三に、いわゆるプロジェクト型の技術開発のあり方について言及しなければならない。今回の事故を生んだ作業自体は技術的に単純なものであったが、それが高速実験炉である「常陽」用の燃料の製造過程であったという意味で技術開発の一部と見ることができる。ここで、原子力技術のように事故による社会的インパクトが大きな技術に関して、国民の負託に応えてその開発を行っていく上では、開発の計画は、外部に対し常に開かれその内容を説明する責任を負っているとともに、開発のリスクを最少化するプログラムを自律的に備えていなければならない、という点を指摘しておきたい。リスクがあるからこそ技術開発を必要としている点について、まず広く理解されなければならないのは当然であるが、逆に、その理解を助けるためには事故の確率とその影響の程度を最少限に抑制する仕組みが常に開発プロジェクトにプログラム化されていることが求められており、そのようなプログラムはまた、常に進化しなければならないという宿命を負っている。すなわち、今回の事故に端的に表れているように、プロジェクトを構成する個々のサブプロジェクトがそれぞれに自律化しその過程を通して全体が進化していくように管理運営されている必要がある。このことは自律分散型のプロジェクト管理システムを新たに開発することの必要性を提起するもので、発生する事故の原因を自発的に除去し、また、止むを得ず発生するかも知れない事故の影響を予知しそれを最少化するリスク管理システムの開発と併せて、新たな研究開発テーマとして取り組んでいくべきことを提言したい。
最後に、人材の養成について触れておかなければならない。自己責任によって安全確保の向上を不断に目指す社会システムの構築に当たっては、専門的知識を有し、かつ、社会への適用性に優れていて安全意識の高い技術者集団の参加を必要としており、特に、それらの集団のリーダーとなる人材の育成が不可欠である。原子力開発の歴史はすでに半世紀近くに及んでいるが、開発の初期は、欧米特に米国がそのような人材を世界的に育成し供給する役割を担って来た。我が国におけるこれまでの原子力指導者は海外での経験を通して原子力を学んだ人が多い。半世紀という年月を経過した今日、そのような役割をなお他国に求めることは許されない。我が国自らがそのような人材の育成に新たに取り組むとともに、同様の課題を共有する他国との協調によって国際的に人材の養成を図っていくことも重要な課題であり、そのような国際的教育プログラムを我が国のリーダーシップの下に推進すべきことを提言しておきたい。
また、実用化を迎えている原子力業界において、定常的に供給する必要のある現場作業者の技能レベルを維持し、向上を図るための教育も重要な課題である。リーダーのみならず、各分野における現場作業者の育成も重要な課題であることを指摘しておきたい。













