第4回ITER特別作業部会の結果について

平成11年12月
核融合開発室

 本年3月のITER会合(於:仏)において、建設以降の段階(建設、運転、利用、運転終了)における主要事項(コスト分担、ホスト極・非ホスト極の義務、事業体組織・運営形態、発注方式、第3国の参加等)に関する具体的検討をノン・コミッタル・ベ−スで行う特別作業部会(SWG-P2)を設置し、これまで3回の検討を行ってきた。今回会合において報告書を取りまとめ、来年1月のITER理事会に同報告書を報告することとなった。また、併せて「非公式政府間協議(Explorations:EX)に対するSWG-P2の見解」を取りまとめた。

1.日 時   平成11年12月6〜9日

2.場 所   IAEA本部(ウィーン)

3.出席者
日本中村雅人科学技術庁核融合開発室長(日本メンバ−代表)
 岸本浩日本原子力研究所理事(共同議長)
 高津英幸  〃  ITER業務推進室調査役(コンタクトパ-ソン)
 長沼善太郎在ウィーン国際機関代表部二等書記官 他

EUE.カノビオEU第12総局顧問(EUメンバ−代表、コンタクトパ-ソン)
 K.ピンカウ前マックス・プランクプラズマ物理研究所長(共同議長)
 J.ワト-仏政府特命原子力最高顧問付科学顧問
 D.ドートウ゛ッチITERカナダ運営課長 他

ロシアV.コルツアビアン原子力省原子力科学局次長(ロシアメンバ-代表)
 O.フィラトフエフレモフ研究所科学技術センタ−長(ホ-ムチ-ムリ-ダ-)
 Y.コナシュコフ外務省 他

ITER R.エマ−ルITER共同中央チーム所長 他

4.報告書の概要

(1)SWG−P2報告書の構成

報告書は全8頁であり、以下の章立てで構成されている。
Chap.1 Introduction(序言)
Chap.2 Joint Implementation(共同実施としての基本的理念)
Chap.3 Benefits(利益)
Chap.4 Contributions(貢献)
Chap.5 Legal Framework(法的枠組み)
Chap.6 Siting,Licensing and Decommissioning(サイト選定、許認可、廃止措置)
Chap.7 Procurement(調達)
Chap.8 Staffing(要員)
Chap.9 Finance and Accounting(財務、決算)
Chap.10 Intellectual Property Rights(知的所有権)
Chap.11 Participation and Accession(第3国の参加等)
Chap.12 Conclusions(結論)

(2)SWG−P2報告書の骨子
 1)序言
a)世界の核融合計画は、科学的にも技術的にも、ITERという重要なステップに進み得る段階。
b)本報告書は、今後に拘束力を及ぼすものではない(non-binding basis)ことを前提に、EXを開始するためにまとめられたもの。

 2)共同実施としての基本的理念
a)世界で最も重要な民生R&Dの一つとして、世界の英知を結集すると共に、必要な資源を共有することにより、国際共同事業としてCOEDA(Construction,Operation,Exploitation and Decommissioning Activities)を実施。
b)EDA参加3極は、国際取極に基づいて、コストの分担、運営面での地位、貢献に応じた利益の分配を定め、安定な事業の実施を図る。

 3)利益
a)COEDAで得られる科学技術的な成果は、参加極が平等に享受。
b)科学技術的な提案、実験への参加機会、及び産業界との契約に関しては、貢献に応じた分配(fair returns)を確保。

 4)貢献
a)各極は、COEDA事業の実施に係る責任を共有し、必要なコストに対して,有意な(significant)貢献を行う。
b)建設に係る共通範囲のコスト(超伝導コイル等、各極が共通して技術的に貢献可能な機器のコスト。建設コストの約3/4と見込まれる)は、各極が可能な限り均衡(balanced)に分担。
c)ホスト極は、残りの建設コストを分担すると共に、「ITERサイト要件」を満たすサイト準備のためのコストを負担。
d)ホスト極は、許認可、廃止措置に必要な法的枠組みの整備を含め、プロジェクトの円滑な実施に必要な支援を行う。社会・文化インフラの整備に関しても、学校等の施設整備の責任を負う。非ホスト極は、自極が望む自国民の子弟の教育システムの提供等、必要な協力を行う。
e)運転コスト(建設コストの6〜7%と見込まれる)は、建設コストの分担と同様(compatible)の比率で、各極が分担。
f)協定締約時における各極の貢献の総和は、事業の所要経費の全額に対応するものとする。 g)国際取極には、然るべき通貨をベースに表した予算総額と各極の分担割合を定める。

 5)法的枠組み
a)各極の高いレベルの関与やプロジェクトの安定性を確保するため、ITER建設の決定は国際取極に基づくべき。
b)国際取極において、事業の実施に責任を有する事業体組織(ITERLegalEntity:ILE)の設立を規定。ILEは、ホスト極の国内法(公法、民法)に基づく法人又は国際組織とし、ホスト国の適用法規等に従うものの、組織的な独立性(institutional independence)に配慮が必要。
c)誘致極のサイト支援については、ILEと誘致極間のサイト支援取極において定められるものとする。
d)プロジェクトの推進、指示、監督を行う評議員会(Council)とILEの実施責任者である所長(Director-General)を置く。所長はプロジェクトの実施最高責任者であり、かつILEの法的代表者として、評議員会に対して事業の成功の責任を負う。
e)運営面における各極の地位のバランスは、主に評議員会での意思決定過程における議決権の配分として反映。個別の議決方法は、コンセンサスによる事項、ホスト極の同意を必要とする事項、貢献に応じた加重投票による事項(但し、1極単独の決定は不可)を考慮して決定。
f)事業の科学的な側面における意思決定に際しては、科学的な議論に基づくことを原則としつつ、各極の貢献の割合も考慮。
g)特権免除等の便益付与に係る事項は、今後の政府間交渉で協議。

 6)サイト選定、許認可、運転終了
a)サイト誘致に関心のある極は、政府間正式協議開始前、もしくは開始後十分に早い段階に、正式の(単一)サイト提案を行う。サイト提案では、「ITERサイト要件」を満たすこと、及び「設計仮定条件」を満たし得るレベルについて表明する。
b)サイト提案の段階までに、誘致を希望する極は、許認可のために取るべき手続きを明らかすると共に、担当規制当局を通して、ITERの許認可に大きな障害が予見されないことを示すべき。
c)ITERの安全性に係る原則や基準について極間の共通認識を構築し、協定締結までに主要な技術事項を解決することを目指して、規制当局との非公式対話を確立すべき。
d)協定採択時までに、想定されるホスト国内においてITERが立地可能であることを確認すべき。国際取極は、許認可過程で起こり得る結果に対処し得るべき。
e)廃止措置に関しては、除染(de-activation)までがILEの責任であり、それ以降はホスト極が対処。但し、廃棄物の長期保管及び最終処分を含む、廃止処置に必要なコストは、運転期間中の供託資金により、各極が共同負担。
f)各極がITERに持ち込んだ機器で、廃止時に所有権を留保したままのものは、当該極が持ち帰る。但し、当該極は、合意に基づき、所有権をILEに移譲することも可能とし、その際の条件は今後の政府間協議で議論。

 7)調達
a)プロジェクトの成功のため、調達は、性能・品質・コスト・納期が第1原則であり、調達過程や製作性能に関しては、ILEが直接管理すべき。
b)具体的な調達方式として、拠出金(funded)方式と物納(in-kind)方式の両方が可能。物納方式に伴うリスクは基本的に当該極が負うのに対し、拠出金方式のリスクは、一義的にはILEの責任であるが、拠出金に伴う条件によっては、当該極も分担。
c)システム統合に係る作業を効率よく行うため、各極の貢献の内、少なくともある割合(some part)は拠出金方式によるべき。
d)調達の形態に寄らず、所長は調達に係る全ての技術的観点に中心的役割を果たすべき。また、各極内に調達等の支援を行う極内機関を設置。
e)コスト分担割合及び初期の調達分担を速やかに決定し、国際取極採択時に規定すべき。

 8)要員
a)ILE要員は、直接雇用、派遣、契約要員で構成されるものとし、全ての要員は、所長の指揮命令に従い、所長のみに報告。
b)ILE要員は、人数を必要最小限とし、プロジェクトの遂行上必要な範囲に留めることし、原則として、その任期に制限を設けることにより、各極の国内計画とILE間の人材移動にも配慮。
c)大学等からの幅広い参加を求めるため、理事会で然るべき規則を策定。

 9)財務、決算
a)財務規則等は、プロジェクトの開始時に定められ、そこには、拠出、ILEの決算、物納等に係る実施規定を含めること。
b)各極からの物納に関しては、国際取極における関連規定に従う範囲で、各極の財務規則に基づく。

 10)知的所有権(IPR)
a)IPRは、利益の一部であり、各極が指名した専門家により、EDAで設立された一般原則を参照しつつ、IPRの条項が検討されるものとする。
b)ILEは法人として、国際取極で規定する条項に従い、IPRを保有する能力を有する。
c)各極は、核融合研究開発のため、無償のIPR使用権を保有。

 11)第三国の参加等
a)本国際取極に参加する極は現行のEDA参加3極とし、その他の国が政府間協議(Explorations/Negotiations)への参加意図表明を行う場合には、それまでの協議の進展を踏まえた上で、ケースバイケースで取り扱う。
b)本国際取極への第三国の参加は、理事会での全会一致を条件に認められるべきであるとし、その参加条件として、有意な(significant)貢献を行う場合には参加極(Party)として、より低いレベルでの貢献の場合には準参加極(Associate)として取り扱う。

 12)結論
a)SWG−P2への参加メンバーは、ITER計画の目的や実現へのアプローチについての認識を共有し、ITER計画の技術的、社会的重要性を認識すると共に、国際協力を通してITERを建設するという共通の意思を再確認する。
b)各極は、ITER計画を実施するための国際的な法的枠組みを設立するため、政府を含めた関係極間の協議を開始する時期が来たものと認識。
c)これらを踏まえて、SWG−P2は、ITER理事会に対し、2000年の早い段階で非公式政府間協議(Explorations)を開始し、2000年夏に予定されている共同評価(Joint Assessment)において、ITER計画の開始の決定に至る所要ステップについての共通理解を構築することを提案。
d)今後想定されるマイルストーンとして、以下を示唆。
   EXの開始    :2000年の早い段階
   EXの中間報告  :共同評価の時期
   EXの終了    :2000年中
   公式政府間協議開始:2001年7月まで

5.EXに対するSWG−P2の見解の概要

(1)EXの定義

公式政府間協議(Negotiations)を可能とするために、関心がある極間の、ノン・コミッタルな事前準備協議。

(2)開始
各極は、ロシアのアダモフ大臣から、1999年11月29日付で、EX開始を呼びかける書簡を受け取ったところ。各極は、外交分野の者の支援の下に、研究計画者に対し、EXを開始する任務を与えるものとする。
当初の参加極としては、現行EDA参加3極とし、第3国から参加したい旨要請があった際には、ケースバイケースで対処。

(3)タスク
a)COEDA協定の採択に向けた可能な段取り(step)
b)ILE
c)法的事項(知的所有権、責任等)
d)コスト及び利益の分担
e)ホスト・非ホスト極の責務
f)調達
g)その他

(4)作業予定
各極の国内事情を考慮した上で、可能な限り2000年の早い段階で開始し、2000年夏頃予定されている共同評価(Join Assessment)の時期に、中間報告を取り纏め、2000年中に協議を終了。

(5)作業体制
EXのメンバーは、各極4人程度とし、各極代表者はITER理事会メンバーレベル。また、メンバーを支援するため、各極4〜5人のメンバーからなるサブ・グループを設置。所長は、EXを支援。

(6)成果
EXは、公式政府間協議を開始するに十分な共通理解(協定草案)が得られれば終了。

以上