藤家原子力委員長代理の海外出張報告について

平成11年12月3日

1.出張先
仏国、独国、英国

2.日 程
1999年11月17日(水)〜11月27日(土)

3.概 要
 仏・独・英の政府高官等と21世紀に向けた各国の原子力政策について意見交換を行うと共に、現在、日本で策定中の長期計画について概要を説明した。 また、欧州熱核融合ワークショップに出席し、ITER計画について欧州との意見交換を行った。

(1)仏国
 デスカタCEA長官、ローベルジョンCOGEMA会長、ペラ政府特命原子力最高顧問、ピエレ産業大臣との会談及び仏原子力安全防護研究所関係者との意見交換を行った。

 ○デスカタCEA長官
 原子力に関する科学技術は、発電プラントに限定されるものでなく、レーザー、加速器、原子炉、核融合、医療、バイオ等幅広い分野に視野を広げるという考えには同感。原子力を推進するためには、国民の前に政策、情報を開示していくことが必要不可欠。フランスと日本は、原子力政策について同じ過程を進んで行くものと認識。原子力の反対派の主張は、原子力は危険といった単純なものであり、わかり易い面があるが、推進する立場としては、原子力は専門性が高い故に、教育の充実を図ることが重要。
 フランスと日本の協力関係の発展は重要であると認識。また、同じような政策をとっている他の国々とも協調すべき。当面は、米国との新たな協力体制を構築し、日米仏の協力を新たに進めることが重要。ロシアとの関係においては、ロシアの原子炉の安全レベルの向上を要求していく。
多くの国を巻き込んだ原子力科学の開発が重要。ITER計画のようなものは1国だけでは、コストの問題等で対応しきれない。ITER以外の分野でも同じような協力関係が構築できることを期待。

 ○ローベルジョンCOGEMA会長
 MOX燃料搬入について、地元の方の理解を得る説明をすることは大変な苦労がいるものと承知。日本の再処理については、日本原燃料株式会社とも六ヶ所再処理工場の建設について協力を行っている。
 JCO事故について、日本の対応は組織的に行われたとの印象を持っている。仏ではJCO事故が騒がれたのは事故後1週間程度である。今後、この種の事故は許されないが、あくまで、特別な事例であり、国際的に大きな影響を与えるものではないと認識。ただし、このような事故は日本人のイメージからは想像できなかった。
 日仏の原子力の協力関係については、今後とも良好な関係の継続を期待。原子力に関する国民のコンセンサスについては、COGEMA社もホームページで広報を行うなど、国民の理解を得るための努力をしている。

 ○ペラ政府特命原子力最高顧問
 国際熱核融合実験炉(ITER)は、重要な国際プロジェクトであるが、多くを求めすぎると全てを失う結果となりかねない。エネルギーを目指したプラズマの実現というより、まず、バーニングプラズマの実現ということが、プラズマの理解という点からも重要。核融合によるエネルギーの実現には、材料など残されている課題も多い。

 ○ピエレ産業大臣
 原子力政策の透明性については、政策の過程を示すことが大切であり、隠してはいけない。また、世論は現実的であり、無理に考えを押し付けるべきではない。安全性など全てをオープンにしないと、不透明との印象を持たれ、反対の意見が増えることになる。
貴国で見直し中の長期計画につていは、仏国としても関心のあるところなので、できる限り協力したい。

 ○仏原子力安全防護研究所
 仏原子力安全防護研究所(IPSN)の主な活動内容は、原子力発電所の安全性に関する研究、安全解析プログラムの開発、放射性物質の環境への影響に関する研究及び放射能の人体への影響に関する研究である。IPSNの予算は1.5billion Francsであり、国からの予算が6割を占める。
 IPSNでは、仏国の原子力発電所とオンラインで結ばれており、万一、事故が発生した場合には、情報収集を行い政府に適切な助言を行う。また、地元の自治体にも情報提供を行う。
JCOの事故では、作業員が大量の被ばくを受けたが、想定被ばく量を考慮すると適切な医療が行われているとの印象を持っている。

(2)独国
 ケスラー原子炉安全委員会(RSK)元委員長及びビルクホーファ原子力安全協会(GRS)会長との会談を行った。
 また、欧州熱核融合ワークショップ出席し、関係者との意見交換を行った。

 ○ケスラー原子炉安全委員会(RSK)元委員長
 ドイツの電力会社は使用済燃料の再処理は直接処分よりも経済的に不利と考えているが、個人的には、直接処分より十分安くなり得るものと考えている。また、プルトニウムは、燃焼させるのが最も良い。電力会社はコストダウンの努力を積極的に続けているところもある。
原子力に対する国民的コンセンサスの問題では、結局、大衆は理性ではなく、感情論による所が大きい。
 いずれにしても、現在のシュレーダー政権の下では、新規の原子力発電所の立地はなく、運転中の発電所に対しても、早期に運転を停止させる方向で検討されている。

 ○ビルクホーファ原子力安全協会(GRS)会長
 JCOの事故については、日本は高度な技術国であるので非常に驚いた。この種の事故については、専門家同士のネットワークが必要。また、国際原子力事象評価尺度(INES:International Nuclear Event Scale)は、今のところ、発電所と同じ分類にしているが、核燃料サイクル施設用の評価尺度が必要だと思う。

 ○欧州熱核融合ワークショップ
 本ワークショップは、EU各国の主な核融合研究者を始め、政策担当者、ジャーナリスト・マスコミ・プレス等を招待し、最近の核融合研究の動向を紹介すると共に、広く意見を聴衆することを目的とする会合。
 ワークッショプは、ホスト役のブラッドショウマックスプランク・プラズマ物理研究所長の挨拶に始まり、初日は、エネルギー供給の見通し(テンホッフ、ジーメンス)及びEUにおける核融合研究開発計画(フィンチ、欧州委員会第12総局核融合部長)の講演があり、2日目は、核融合研究の現状(ロビンソン、カラム研究所長)、JETでの研究のハイライト(ジャッキーノ、JET所長)、ITER計画の現状(エマール、ITER所長)、核融合研究における産業界の役割(バリー、フラマトム)及びITER実現に向けた政治的及び法的な境界条件(ピンカウ、SWG−P2共同議長)と題する講演が行われた。
 本ワークショップの期間中、欧州の核融合関係者と会談を行った。

 ○フィンチ欧州委員会第12総局核融合部長、ワトー仏政府特命原子力最高顧問付科学顧問
 EUにおけるITER計画の位置付けは、炉指向(Reactor-oriented)とのことであるが、仏では、燃焼プラズマ装置(Burning-machine)という見方もあり、どのように考えているのかという日本からの質問に対し、EUは第5次フレームワーク・プログラムの中で、Reactor-orientedな開発計画を謳っており、ITERはその中核装置との発言があった。

 ○ピンカウ前マックスプランク・プラズマ物理研究所(IPP)所長、エマールITER所長
 ITER参加各極の利益とコストが正統化されることが重要であり、参加極間でレベルに違いはなく、共同実施という認識が重要。
長期にわたる大プロジェクトを多国間の協力の元で行う場合には、多国間の協力の安定性(Stability)が重要であり、その点でEUとしての意見が集約されているのかという日本からの質問に対し、核融合に関する限りEUは一つであるとの意見があった。

(3)英国
 BNFL社のMOX燃料加工工場及び再処理工場において、BNFL関係者との会談を行うとともに、ウォーカー英国貿易産業省(DTI)エネルギー局長及びアレン王立環境保護委員会委員との会談を行った。

 ○BNFL社テーラー社長、ラフリンマグノックス統括役員
 セラフィールドの工場では、懸案だった放射性物質の新放出基準認可を取得した。現在、BNFL社は、PPP(民営化:Public Private Partnership)に向けて準備中。100%民営化するつもりはなく、51%を政府が所有する計画。また、三菱マテリアル、COGEMA、GE、BNFLで原子燃料分野でのWANOのような国際アプローチについて検討している。MOX燃料のデータ改ざんの件では、日本の原子力業界にご迷惑をかけている。

 ○ウォーカー英国貿易産業省(DTI)エネルギー局長、マグロッホラン駐日大使館原子力担当参事官
 JCO事故については、非常に残念な事故と考えているが、MOX燃料の導入等、日本とBNFL社との関係に対する今後の影響についても懸念している。
BNFL社のMOX燃料データ改ざんの問題については、DTIとしても心配しているところであり、政府間でできることがあれば真剣に協力したい。

 ○アレン王立環境保護委員会委員
 王立委員会は、12名からなり各分野の専門家、政府関係者等で構成されている。行政には拘束されず自由に研究を行える環境にあり、女王陛下に報告を行う。2050年に化石燃料が無くなるという仮定でのエネルギー問題に関する報告書については、当初年内にまとめる予定であったが遅れており、来年にずれ込む見通し。
 英国における原子力利用について、現在、発電所の新規建設はないが、20年後まで原子力なしに進めるのは難しいことから、王立委員会では、訓練された人員の不足が今後の問題と考えている。