第43回IAEA通常総会等について(結果概要)

平成11年10月
科学技術庁

1.日 程:
   9月25日(土) 成田発、ウィーン着
     26日(日) 総会前打合せ
     27日(月) IAEA総会出席
            政府代表演説、個別会談(稲葉政務次官)
     (稲葉政務次官:28日(火)ウィーン発、29日(水)成田着)
     28日(火)、29日(水)
            科学フォーラム出席(遠藤原子力委員)
     30日(木) ウィーン発、ブラッセル着
            ビュスカン欧州委員会委員との会談
            (遠藤原子力委員)
            ブラッセル発、ウィーン着
   10月1日(金) ウィーン発
      2日(土) 成田着

2.出張者:
稲葉科学技術政務次官(政府代表)
遠藤原子力委員会委員(政府代表顧問)
興原子力局長(政府代表代理)
中野国際協力・保障措置課長他
 (外務省からのIAEA総会出席者)
池田在ウィーン国際機関日本政府代表部大使(政府代表)
天野審議官(政府代表代理)他
 (通産省からのIAEA総会出席者)
桜田原子力発電安全企画官

3.結果概要:
(1)IAEA総会における政府代表演説
 総会においては、エルバラダイ事務局長の後、EU代表、スロバキア代表に引き続き、日本政府代表として、
  ①世界的な核不拡散体制の強化
  ②統合保障措置進展への期待
  ③原子力平和利用促進と原子力安全
  ④我が国の原子力政策
 等について演説。我が国の原子力政策としては、「核燃料サイクル」の確立を政策の基本とし、国内再処理及びプルサーマルを推進するとともに、長期的観点から、高速増殖炉の研究開発を推進していること、21世紀を見通した「原子力長期計画」の策定のための審議を行っている旨表明。(参考1)

(2)個別会談
 ①デスカタ仏原子力庁長官
 原子力分野で共通する部分の多い国同士として、核燃料サイクル、FBR開発等において、協力関係の維持発展の重要性を相互認識。
 (MOX燃料及びガラス固化体の輸送、兵器級プルトニウムの処分、プルサーマルとFBR利用)

 ②エルバラダイIAEA事務局長
 IAEA諸活動の効率的運営、適切な資源配分、核軍縮における日本の役割、IAEA諸活動に対する我が国の人的、財政的貢献、ITER計画について意見交換。

 ③徐(ジョ)韓国科学技術部長官
 北朝鮮の核開発、ミサイル問題が両国の最大の問題として認識。また、アジア原子力協力フォーラムにおける協力と科学技術協力の推進で合意。

 ④モニッツ米国エネルギー省次官
 日米はエネルギー政策、核不拡散政策の多くを共有しており、今後の日米間の積極的な協力と連携について合意。CTBT、ロシア解体核、バックエンド対策等、原子力を巡る国際情勢に関し意見交換。また、NERI等米国における新たな原子力科学技術の動向、ITER計画の協力について意見交換。

 ⑤ビュスカン欧州委員会委員
 第6次フレームワーク計画策定スケジュール、ITERの事業体、ITER立地の誘致、議員レベルの交流について意見交換。

(3)その他同時開催会合
 ①科学フォーラム(9月28日~29日)
 ②上級規制者会合(9月29日~30日)

 

(参考1)

第四十三回国際原子力機関通常総会政府代表演説

 

(冒頭挨拶)
議長
 私は日本政府を代表して、貴方が第四十三回国際原子力機関(IAEA)通常総会の議長に選出されたことに対し、心からお祝い申し上げます。貴方の豊富な経験と卓越した指導力によって本総会が実り多きものとなり、IAEAの目的である原子力平和利用の推進、原子力安全の確保及び核兵器の不拡散に向けて、国際協力が一層進展し、強化されるものと確信しております。
 また、ホンデュラスとアンゴラが新たにIAEAの加盟国になったことを心から歓迎致します。

(核不拡散体制の強化と保障措置)
議長
 我が国は、他の諸国と協力して世界的な核不拡散体制の強化に向けて努力を結集してきております。
 核不拡散体制がしばしば重大な挑戦を受けIAEAの保障措置が果たす役割が一層重要となっている今日、我が国は率先して保障措置強化のための法的枠組みである追加議定書に署名し、本年7月国会の承認を得て、現在、締結のために本年6月に公布された改正国内法の施行の準備を行っております。この追加議定書は、これまでの保障措置制度の実効性を強化し及びその効率性を改善するため、IAEAに提供する情報の拡充、IAEAに対する補完的なアクセスの提供等について規定するものであり、したがってより多くの国が締結することが核不拡散体制の強化につながることになります。
 我が国は、明年の核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議の成功に向けて好ましい環境が醸成されることを重視しており、その観点からも、包括的保障措置を受け入れていないNPT締約国の包括的保障措置受け入れと、すべてのIAEA加盟国の追加議定書の締結を強く希望します。
 また、NPTの下で核兵器国が引き続きIAEAの保障措置を受け入れてゆくとの姿勢を堅持していることを評価します。
我が国はまた、南アジアにおける核実験を契機に、世界の核不拡散・核軍縮に関する有識者による「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」の開催を提唱しました。同会議は、本年7月、その最終会合において十七の主要提言をまとめました。この提言には、具体的な戦略核兵器の削減目標、信頼醸成のための戦略核兵器の警戒態勢解除等が含まれております。我が国は、各国がこれらの提言を真摯に受け止め、検討されることを希望します。
 核不拡散と核軍縮のための重要な多数国間の取組みのひとつとして、兵器用核分裂性物質の生産を禁止する条約(FMCT)の作成がありますが、まだ交渉が開始されていない状況にあり、ジュネーヴ軍縮会議が本件交渉に真剣に取り組むことを期待します。また、検証体制の検討が進められていく際には、IAEAが有している知見が活用されることが重要と考えます。等しく重要な多数国間の枠組みである包括的核実験禁止条約(CTBT)については、今次IAEA通常総会に引き続き開催が予定されている発効促進会議において、我が国は議長として条約の発効促進に貢献してゆく所存であります。
 また、核軍縮と核不拡散のためには、核兵器を解体した結果取り出されるプルトニウムが軍事目的に再転用されないことを確保しつつ、安全かつ極力迅速に処分されることが極めて重要であります。我が国は、このような観点から、国防上不要とされたプルトニウムをIAEAの検認対象とするための米、露、及びIAEA間の協議の一層の進展を期待します。これらのプルトニウムの管理及び処分については、各核兵器国が主要な責任を負うべきものですが、核軍縮と核不拡散が国際的な安全保障の向上に資するとの観点から、国際社会としても可能な支援を行うことが適当と考えます。このため、小渕総理は、本年のケルン・サミットにおいて旧ソ連諸国の非核化支援のために約2億ドル相当のプロジェクトに支援を行うことを表明しました。これらの資金により、我が国は退役原子力潜水艦の解体をはじめ、解体核兵器に由来するプルトニウムの管理、処分のためにロシアの高速炉BNー600でこれらのプルトニウムをMOX燃料として燃焼させるための技術協力等を行ってゆく所存です。
 我が国はまた、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が実施する軽水炉プロジェクトへの貢献を通じ、北朝鮮の核兵器開発問題の解決に向けて努力して参りました。関係国の努力により、このプロジェクトの本格工事の着工に向けた助走が最終段階を迎えていると承知しています。しかし、その目的の実現に際しては、北朝鮮がIAEAの保障措置を完全に履行することが不可欠であることを改めて想起します。我が国は引き続きその関連でのIAEAの活動を全面的に支持し、協力を行ってゆく所存であります。

(統合保障措置)
議長
 IAEAの保障措置制度は、その発足以来、一方で核不拡散を維持・強化しつつ他方で原子力の平和利用を促進する上で極めて重要な役割を果たしてきました。今日現行の保障措置とこれを強化するための追加議定書による保障措置を統合するための努力がなされていると承知しております。我が国は、現下の厳しい保障措置予算の下で、拡大する原子力平和利用活動に対する適切な保障措置の適用を維持するために、保障措置統合のための作業が従来の保障措置と追加議定書の措置の統合にとどまらず、合理的に保障措置を効率化しその予算の拡大を抑止することに資することを強く希望します。このために、IAEAにおいて早急に統合保障措置のあり方が議論され、統合保障措置の作業が早期且つ具体的に進展することが重要と考えます。

(原子力平和利用促進と原子力安全)
議長
 原子力の平和利用に当たっては、安全の確保が不可欠の前提であり、このために各国が協調して原子力安全の向上に向けた取組みを強化することが重要であります。
 本年四月当地で開催された「原子力の安全に関する条約」の第一回検討会合において各国の安全に関するピアレヴューが行われましたが、このような継続的な学習と改善プロセスを通じて、世界的な原子力の安全性が向上することを高く評価するものであります。
我が国はまた、運転員の研修受け入れ、チェルノブイリ原子力発電所の石棺計画に対する支援等を通じ、旧ソ連・中東欧諸国を中心とする各国の原子力発電所の安全性向上支援に積極的に貢献しており、今後もこのような支援を継続してゆく所存であります。
 我が国は、開発途上国に対する技術協力の重要性を認識すると共に、その過程において安全文化の醸成が重要であると考えております。アジア地域における健全な原子力開発利用の発展のため、我が国は「原子力科学技術に関する研究・開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」への支援を行うと共に、我が国の原子力委員会が主催する「アジア原子力協力フォーラム(FNCA)」を新たに開催することとしている等各種の協力活動を展開すると共に、「技術協力基金」等を通じ他の開発途上国に対しても安全性を重視した原子力平和利用促進のための人的・財政的貢献を行って参りましたが、今後とも、この分野で出来る限りの貢献を行ってゆく所存です。

(行財政問題)
議長
 現在の厳しい財政状況下において、IAEAの崇高な目的を達成するためその効率的かつ健全な運営を維持すべく、エルバラダイ事務局長以下事務局関係者が払ってきた努力を多とするものであります。我が国は、IAEAのそれぞれの活動分野において真に必要な事業に資金が効率的に振り向けられるよう今後一層の検討がなされ、名目ゼロ成長予算を達成するよう出来る限りの努力が払われるべきであると考えます。併せて、各加盟国が分担金の支払いを完全に実行し、また、技術協力基金への拠出目標額の支払いに従来にも増して努力することを強く希望します。
 さらに、長年の懸案であるIAEA憲章第六条の改正は、各国の努力によりコンセンサスを得る環境が整いつつあり、今次総会で決着をはかることが重要と考えます。

(我が国の原子力政策)
議長
 最後に我が国の原子力政策の理念を申し述べて結びと致します。
 近年、地球温暖化が深刻な問題となっております。この問題の解決のためには、各国毎の努力と共に地球規模の取組みが不可欠です。我が国は、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出削減目標を盛り込んだ「京都議定書」の目標を達成するために、原子力が適切な役割を果たすいわゆるベストミックスのエネルギー分担の考え方を導入してゆく所存であります。今後、地球環境問題が討議される場において、地球温暖化防止に果たす原子力の役割、重要性について国際的な議論が深められることを期待するとともに、IAEAの場においてもこの分野で今後とも同様の議論がなされることを期待しております。
 エネルギー資源の太宗を輸入に依存する我が国は、長期的なエネルギーの安定供給確保、放射性廃棄物の適切な処理処分の観点から、使用済燃料を再処理して得られるプルトニウム等を再利用する「核燃料サイクル」の確立を政策の基本としております。このため、安全確保を大前提として国内民間再処理事業及び現時点で最も確実なプルトニウム利用方法である軽水炉でのMOX燃料の利用を推進するとともに、長期的な観点から、高速増殖炉の研究開発を推進しております。また、国内の再処理能力を上回る使用済燃料については、再処理するまでの間適切に貯蔵管理することとし、本年6月に発電所外の施設における貯蔵、即ち「中間貯蔵」を可能にするための法改正を終えたところであり、国内での中間貯蔵の実現に向けた努力を行って参ります。
 我が国は非核三原則を堅持し、このような原子力開発利用の実施に当たりこれを厳に平和目的に限って行うこととしております。とくにプルトニウム利用については、合理的かつ整合性のある平和利用計画の遂行に必要な量以上のプルトニウムを保有しないとの原則の下にこれを推進しており、プルトニウム利用の透明性の向上に務めるべく、毎年のプルトニウムの管理状況を公表するとともに、「国際プルトニウム指針」に基づきプルトニウム保有量を報告・公表しております。
 このような理念を踏まえ、我が国では、現在21世紀を見通した「原子力長期計画」の策定のための審議を行っているところであります。

(結び)
議長
 IAEAは、原子力に関する包括的な性格を有する唯一の国際機関として、原子力の平和利用の促進と、安全の確保及び核不拡散体制の強化の面で重要な役割を担っております。我が国としても、優秀な人材の派遣等を通じ、今後ともIAEAの場において積極的な役割を果たしてゆく決意であることを申し上げるとともに、各国が同様の努力を払われることを希望します。


(参考2)

IAEA総会における主要議題審議結果等について

 

(1)憲章6条改正
全ての加盟国が含まれた地域グループリストが総会で合意された場合には、理事会議席を8増し、43議席とすることとなった。

(2)IAEA加盟国
ホンデユラスとアンゴラが新たに加わり、加盟国数は131ヶ国となった。

(3)代替核物質(ネプツニウム及びアメリシウム)に関する規制
今回の総会前の理事会において、ネプツニウムについては国際移転及び分離活動を監視することとし、また、アメリシウムについては実質上拡散リスクはないと考えるものの、入手可能性等について事務局長が理事会に対し報告することとした議長文書が核兵器国を含め合意に至り、総会にてその旨報告された。

(4)JCO臨界事故関連
JCOウラン加工施設での臨界事故に対しては、参加各国等の関心が非常に高く、総会の場でエルバラダイ事務局長が事故の状況、我が国への専門家派遣のオファー等に言及。