原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画の策定について

 

平成11年5月18日
原子力委員会決定

 

1.新たな長期計画策定の趣旨
 現行の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「長期計画」という。)の策定以来約5年が経過し、この間に、原子力をめぐる国内外の情勢は大きく変化してきている。このため、これまで8回にわたって策定されてきた長期計画が我が国の原子力研究開発利用において果たしてきた役割を踏まえ、21世紀社会に向けた新たな長期計画について検討を行うことが求められている。
 このような状況を踏まえ、21世紀を見通して我が国がとるべき原子力研究開発利用の基本方針及び推進方策を明らかにするため、新たな長期計画の策定を行うこととする。

2.検討事項
(1)21世紀社会に向けた長期計画の在り方
(2)原子力と国民・社会
(3)エネルギーの安定供給を支える軽水炉発電体系
(4)高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発
(5)未来を拓く先端的研究開発
(6)国民生活に貢献する放射線利用
(7)新しい視点に立った国際的展開
(8)その他

3.検討の進め方
(1)長期計画策定会議の設置
 新たな長期計画の策定に資するため、原子力委員会に長期計画策定会議(以下「策定会議」という。)を設置する。策定会議の審議事項等は次のとおりとする。
 ①審議事項
 長期計画の策定に必要な事項の調査審議を行い、新たな長期計画案を作成し、原子力委員会に報告する。
 ②構成
(イ)策定会議の構成員は別紙のとおりとする。
(ロ)調査審議を円滑に行うため、必要に応じ、策定会議に分科会等を設けることができるものとする。
分科会等の構成員は策定会議の座長が定める。
(ハ)原子力委員は、策定会議及び分科会等の調査審議に参加する。
 ③審議の進め方
(イ)策定会議及び分科会等の議事は、原則として公開とする。ただし、策定会議又は分科会等が議事を公開しないことが適当であると判断したときは、この限りでない。
(ロ)長期計画案を取りまとめるに当たり、その内容について、幅広く国民の意見を聴取するための措置を講ずるものとする。
(ハ)長期計画案について国際的な理解と協力が得られるよう、努力を払うものとする。
(ニ)策定会議及び分科会等は、相互に十分な連携を図るものとする。
(2)既設の専門部会等においては、新たな長期計画の取りまとめが円滑に行われるよう運営に配慮する。

長期計画策定会議構成員
(別紙)

秋元 勇巳  三菱マテリアル(株)社長
秋山  守  (財)エネルギー総合工学研究所理事長
石川  好  (株)社会基盤研究所会長
石橋 忠雄  弁護士
稲盛 和夫  京セラ(株)名誉会長
太田 宏次  中部電力(株)社長
長見 萬里野 (財)日本消費者協会理事
桂  直樹  農業生物資源研究所長
金井  務  (社)日本電機工業会会長
河瀬 一治  敦賀市長
神田 啓治  京都大学原子炉実験所教授
草間 朋子  大分県立看護科学大学学長
熊谷 信昭  大阪大学名誉教授
黒澤  満  大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
近藤 駿介  東京大学工学部教授
佐和 隆光  京都大学経済研究所教授
下山 俊次  日本原子力発電(株)最高顧問
鈴木 篤之  東京大学工学部教授
鷲見 禎彦  関西電力(株)副社長
澄田 信義  島根県知事
住田 裕子  弁護士
竹内 哲夫  日本原燃(株)社長
千野 境子  産経新聞論説委員
妻木 紀雄  全国電力関連産業労働組合総連合事務局長
都甲 泰正  核燃料サイクル開発機構理事長
鳥井 弘之  日本経済新聞社論説委員
長瀧 重信  (財)放射線影響研究所理事長
那須  翔  東京電力(株)会長
西澤 潤一  岩手県立大学長
橋田 壽賀子 脚本家
松浦 祥次郎 日本原子力研究所理事長
森嶌 昭夫  上智大学法学部教授
吉岡  斉  九州大学教授
                     (五十音順)

(参考:補足説明)
 原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画の策定に当たっての基本的考え方について

 現行の原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(以下、「長期計画」という。)の策定以降、原子力をめぐる情勢は大きな変化を遂げている。旧動燃における一連の事故等による国民の不安感・不信感が高まる一方で、地球温暖化防止京都会議(COP3)における合意を受けた地球温暖化対策としての原子力の果たす役割が再認識されるとともに、原子力発電所の新増設や核燃料サイクル分野において、着実な進展が見られている。また、医療をはじめとする国民生活に身近な分野における放射線利用の広がりと、未来を拓く先端的な研究開発の展開に大きな期待が寄せられている。国外に目を転ずると、冷戦構造の崩壊に伴う核不拡散をめぐる国際情勢の変化や近年の国際的な経済社会情勢の変化に対応して、新しい視点に立った国際的展開が求められている。
 このような情勢を踏まえ、原子力委員会は、去る4月23日に「原子力研究開発利用長期計画の予備的検討に関する調査」の報告を受けたが、その内容をも参考にして、以下のとおり、長期計画の策定に当たっての基本的考え方をとりまとめた。これらの考え方が長期計画策定会議において十分に考慮されることを期待する。

1.21世紀の原子力研究開発利用に求められる理念について
 21世紀の原子力研究開発利用について検討を行うに当たって、以下のような視点から理念を明らかにすることが求められている。
(1)文明の中の原子力
 人類は、その発展の歴史において、自然からもたらされる恵みを最大限に活用し、人類の英知をもって経済社会活動の発展と地理的な制約の克服を可能とすることにより、今日の高度な文明を築き上げてきた。火の利用から始まり、18世紀の産業革命以降の化石燃料資源の利用を経て、物質に内在するエネルギーの開放・利用を目指す「量子の世界」への挑戦を通じて、新たな文明の段階に移行しようとしている。世界人口の飛躍的な増加に直面し、食料・環境・エネルギー問題の解決が人類の生存をも左右すると懸念される状況において、新たなシナリオと政策体系の構築が求められている。

(2)エネルギーとしての原子力
 人類が将来にわたって経済社会の健全な発展を図り、豊かな生活を実現していくためには、長期にわたるエネルギーの安定確保が不可欠である。自然が数億年もの歳月をかけて育んできた化石燃料資源は、貴重な天然資源として、本来それでなくては対応できない用途に向けられるべきであり、高々数百年の間に消費してしまうことなく、できる限り後世代に継承していくことが、現世代に生きる我々に課せられた責務である。このような中で、資源に恵まれない我が国にとって、中東諸国等からの輸入に頼らざるを得ない「他律的」なエネルギー源への依存を減少させ、自らが主体的にコントロールし得る「自律的」なエネルギー源を確保することは、エネルギー安全保障の観点から重要な意義を持つ。このような我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に向けて、それぞれの特性に応じて、供給源の最適な組み合わせを実現していくことが必要である。

(3)地球環境との調和を図る原子力
 太古の昔から自然との共生の下に営まれてきた人類の活動は、今や地球環境に甚大な影響を与える可能性があり、人類と地球の将来に深刻な危機をもたらす恐れがあることが懸念されている。とりわけ、地球温暖化問題は、人類の生存基盤に関わる最も重要な地球規模の環境問題であり、その解決に向け、社会を構成する全ての主体が多様な取組を行っていかなければならない。この問題を契機として、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会活動や生活様式の見直しが迫られ、新たなリサイクル文明の構築が求められている。このような状況の中で、エネルギー需要面の対応として省エネルギー型の社会構造に変革していく努力を払うとともに、エネルギー供給面の対応として二酸化炭素等の温室効果ガスの排出を極力抑制できるエネルギー源を開発し、普及させていくことが必要である。

(4)総合科学技術としての原子力
 科学技術の歴史において、原子核への理解の進展は、物質やエネルギーの根源に対する知識を人類にもたらし、新たな学問体系の形成を通じて、先端的な研究開発を牽引する先導的な役割を果たすとともに、健康の増進や生活の利便性の向上に大きな貢献を果たしてきた。現在、我が国は、科学技術創造立国を目指して、社会的・経済的ニーズに対応した研究開発を推進するとともに、人類の知的資産の創出につながる未踏の領域に挑戦し、新たな分野を開拓していくことが期待されている。原子力の分野において世界のフロントランナーとなった今日、我が国には、産学官及び国際的に開かれた研究開発体制を構築することにより、人類の未来を拓く夢と高い志を持つ研究者・技術者のポテンシャルを結集しつつ、研究開発の活性化を図り、世界に対して成果を発信していくことが求められる。

(5)国際社会における原子力
 「核兵器の究極的廃絶」と「原子力の平和利用」は、国際社会が取り組むべき共通の課題であり、これらを両立させながら、人類の福祉に最大限役立てるという機軸で統合的な展開を図ることは、平和国家日本の使命である。東西の冷戦構造が崩壊した今日、我が国は、唯一の被爆国としての立場を踏まえ、原子力の平和利用を率先垂範している姿勢を貫くことにより、諸外国との信頼関係の強化と国際的な枠組みへの貢献を図るとともに、我が国の平和利用技術を国際的な核不拡散の強化のために役立て、世界平和の実現に決意を新たに取り組んでいかなければならない。さらに、世界経済のグローバル化の進展に伴い、我が国は、近隣アジア地域の一員として、技術的蓄積や経験を基に、地域の発展や相互協力の促進において中核的な役割を担うことが求められる。

2.新たな長期計画の在り方について
 これまで8回にわたって策定されてきた長期計画は、原子力の黎明期から一貫して、我が国における多様な原子力研究開発利用の計画的な遂行のための牽引役として、重要な役割を果たしてきたと考えられる。また、安全の確保、平和利用の堅持等、原子力研究開発利用に当たっての基本的な考え方を示し、その確実な履行を促してきたことについても、普遍性を持ったよりどころとしての役割を果たしてきたと考えられる。他方、原子力研究開発利用の多岐にわたる分野への広がりや経済社会環境の変化への対応も重要であり、新たな長期計画の在り方について、以下の点を踏まえることが必要である。
(1)新たな長期計画は、21世紀に向けての原子力研究開発利用の全体像と長期展望を提示するものとする。
(2)原子力関係者のための具体的な指針にとどまらず、国民や国際社会に向けたメッセージとしての役割を重視する。
(3)将来にわたって堅持し、着実に実施しなければならない理念や政策と、情勢の変化によって機動的に対応すべき事項とを区別し、後者については、具体的な課題解決のための様々な選択肢とその評価方法を示す。
(4)我が国全体として限られた資金・人材を最大限に活用する観点から、国と民間の果たすべき役割を踏まえ、両者の連携・協力を強化していく。
(5)現在既に相当規模で進展している軽水炉に係わる核燃料サイクル事業と、フロントランナーとして試行錯誤を行いながら進めるべき「将来の研究開発」については、それぞれの特性を踏まえて、両者のよりどころとなる理念を改めて明確化するとともに、全体として整合が図られるようにする。

3.検討すべき課題
 新たな長期計画においては、以下の課題についてより詳細に検討を行うことが必要である。
(1)原子力と国民・社会
 原子力に対する国民の理解と信頼を得るため、情報公開・提供、国民の意見の聴取、原子力に関する教育、立地地域との共生等に関し、内容面及び方法論における今後の課題について検討する。
(2)エネルギーの安定供給を支える軽水炉発電体系
 既に成熟した技術として実用化されている軽水炉発電を中心に、事業化が進む核燃料サイクル及び放射性廃棄物の処分を含め、軽水炉発電体系の在り方と今後の課題について検討する。
(3)高速増殖炉及び関連する核燃料サイクル技術の研究開発
 高速増殖炉懇談会報告書を踏まえ、高速増殖炉とこれに関連する核燃料サイクル技術の研究開発の方向性及び今後の課題について検討する。
(4)未来を拓く先端的研究開発
 加速器、レーザー、核融合、研究炉等の分野における先端的研究開発の将来展望と、世界に向けて優れた成果を発信し得る国全体としての研究開発体制の在り方について検討する。
(5)国民生活に貢献する放射線利用
 質の高い医療の実現、食料の安定供給といった、国民生活に身近な分野における放射線利用の方向性と今後の課題について検討する。
(6)新しい視点に立った国際的展開
 多様な政策手段を活用し、包括的・戦略的な政策の展開を目指し、原子力分野における国際協力の将来展望と、国際的な核不拡散の強化に向けた今後の課題について検討する。