付録Ⅰ


エネルギー源の将来見通し



 将来のエネルギー需給見通しに関しては、2010年頃程度までの短中期的な見通しについては、これまでの統計データに基づき、比較的詳細な見通しがなされていると言えるが、核融合がエネルギー源として需要に供することになるであろう頃までの中長期的な見通しについては、不確定性を多分に含むことなどから、ほとんど見通し的なものが出されていないというのが現状である。この点を踏まえた上で、ここでは、当懇談会において説明がなされた資料を前提とした見通しを紹介する。

 エネルギーの需要は、今後の人口の増加に影響するところが大きい。ある統計によれば、世界人口が約53億人であった1990年度の一次エネルギー消費量は、世界全体で約0.4ゼータ・ジュール(エネルギー量の単位で、10の21乗ジュールを意味する。)であった。仮に、将来、現在の発展途上国の人々が現在の先進国の一人当たりのエネルギー消費量と同じ量のエネルギーを消費し、また将来の世界人口が現在の2倍程度の100億人になると仮定すれば、将来において世界全体で必要とされるエネルギー量は、1.0~2.0ゼータ・ジュール程度になると推定される。以降は、これを前提とした見通しとする。  以降のデータについては、懇談会で委員から説明があった資料に基づくものである。なお、確認埋蔵量とは、実際に資源が存在することが確認されており、技術的・経済的に地表に掘り出すことが出来る量であり、究極埋蔵量とは、未調査・未確認地域を含めて全世界に存在し、かつ採取可能であると考えられる資源量の総量のことである。また、総埋蔵量とは、確認埋蔵量に追加可能埋蔵量(経済性を無視すれば採取可能であると考えられる資源量)を加えた量のことである。

1.化石燃料
 (1)総論
 石油を始めとした化石燃料は、エネルギー革命以来、基幹エネルギー源として人類に対して非常に大きな恩恵をもたらしてきたものの、燃焼過程において生成する炭酸ガスによる温暖化等の地球環境への影響が最も大きいと懸念され ている。

 (2)固体燃料(石炭等)
 固体燃料は、中国、米国、ロシアといったごく限られた地域に偏在する資源であるが、確認埋蔵量は非常に多く、約1.03兆トン(エネルギー換算で約25.7ゼータ・ジュール)となる。また、究極埋蔵量は、約12.1兆トン(エネルギー換算で約355ゼータ・ジュール)と推定されており、埋蔵量の観点からいえば、化石燃料の中では優位であるが、環境負荷が大きいという点が指摘されている。

 (3)石油
 石油は、これまで基幹エネルギー源として重要な役割を果たしてきた。確認埋蔵量は0.14兆トン(エネルギー換算で約5.9ゼータ・ジュール)、究極埋蔵量は0.27兆トン(エネルギー換算で約11.3ゼータ・ジュール)と推定されている。また、化石燃料の中では 環境負荷が大きく、中東地域に偏在しているといった地域偏在性があげられているが、エネルギー源としての方法以外の付加価値の大きい利用法があるといった特徴を有する。

 (4)天然ガス
天然ガスは、化石燃料の中では最も環境負荷が小さく、他の化石燃料に比べて発電効率を高く設定できるという優れた特徴を有している。確認埋蔵量は約150兆立方メートル(エネルギー換算で約5.07ゼータ・ジュール)、究極埋蔵量は約400兆立方メートル(エネルギー換算で約14.4ゼータ・ジュー ル)と推定されている。なお、イランとロシアに圧倒的に多い量が存在しているといった地域偏在性があること、ガス田が氷海、深海等の厳しい自然条件に 存在すること等の特徴を有する。また、欧米諸国のインフラの整備状況は、アジア太平洋地域等と比較して非常に進んでいるという状況がある。

 (5)頁岩油等
 頁岩油は、油母頁岩を乾留して精製した油であり、石油に近い性質を持っている。埋蔵地域としては、オーストラリアに頁岩油の約4分の1が、ナイジェリアにタール・サンドの油の約8割が存在しており、確認埋蔵量は約178億トン(エネルギー換算で0.75ゼータ・ジュール)、推定される総埋蔵量は約 0.393兆トン(エネルギー換算で16.5ゼータ・ジュール)である。

2.原子力
軽水炉は、供給安定性に優れていること、発電の過程で二酸化炭素の発生がないことから環境負荷が小さいことといった優位性を持っている反面、放射性物質を扱うことから、核不拡散や放射性廃棄物(特に、高レベル放射性廃棄物)の処分も含め安全の確保対策が必要となるといった特徴を有する。
 資源量に関しては、核分裂炉の燃料となるウラン資源については、東側諸国の状況がきちんと把握されていないため不確実さが残るものの、その確認埋蔵量は約478万トン(エネルギー換算で約2.6ゼータ・ジュール)と推定され、これにその他の資源量を加えた総埋蔵量は約1500万トン(エネルギー換算で約8.2ゼータ・ジュール)と推定されている。
 また、天然ウランを増殖炉で燃焼することにより、もしその6割が有効に活用できるとすれば、現在の軽水炉に比べて確認埋蔵量ベースで約100倍にあたる約233ゼータ・ジュールのエネルギーを確保することができ(総埋蔵量ベースで考えると、約722ゼータ・ジュール)、また、海水中のウランを増殖炉で燃焼することが可能となれば、約40,000倍にあたる約23万ゼータ・ジュールという膨大なエネルギーが得られることになる。

3.再生可能エネルギー
 (1)総論
 再生可能エネルギーは、基本的には燃料を必要としない、環境負荷がかなり小さいといった優位性を持っている反面、地域偏在性が大きく供給が不安定であるフロー型のエネルギーであるため基幹エネルギーとなりにくく、他のエネルギーに比べるとエネルギーの生産規模が小さい。現時点では、まだ設備費が比較的高いなどの点があげられるが、再生可能エネルギーは、環境負荷の観点で非常に優れており、着実な研究開発とエネルギー効率の向上を目指した取り組みが行われている。

 (2)太陽光
 太陽光は、地球に降り注ぐ非常に膨大な太陽光エネルギーを利用するには、大量のエネルギーを集中的に採取する際に膨大な敷地と巨大な蓄電池が必要となるなどの点も指摘されているが、光-電気変換効率の向上等の研究開発が進められており、一般家庭への太陽光発電設備の導入促進が図られている。
 資源量の観点からは、地球に降り注ぐ太陽光のエネルギーの総量は、年間で約4030ゼータ・ジュールであり、そのうちの3割にあたる約1180ゼータ・ジュールが陸地に注がれていることになる。しかしながら、我が国の戸建て総数約2330万戸に対して、1戸平均15m 、総合効率20%の高性能太陽電池を南向きに設置し(国土の総面積の0.09%を占める)、稼働率を年 間平均12%と仮定すると、年間発電量は約730億kWhとなり、1995年の我が国の総発電量の約8.4%に相当する。また、仮に、陸地に降り注ぐ太陽エネルギーの0.1%を利用できたとすれば、年間約1.0ゼータ・ジュールのエネルギー量に相当することになる。

 (3)風力
 風力は、地球全体のエネルギー総量としては膨大な量(約0.3ゼータ・ワット)であり、その3割程度が陸上で吹いていると考えられる。このうち、利用可能最大量をすべてエネルギー変換することが出来れば、年間のエネルギー総量は、約0.72ゼータ・ジュールとなる。しかしながら、地域偏在性が強いといった特徴をもつ。

 (4)地熱
 地熱は、地球内部の室温以上のエネルギー総量約4.0ギガ・ゼータ・ジュール(ギガは10の9乗を意味する。)のうち、地球全表面から年間に約1ゼータ・ジュール程度放出されていると推定される。地殻の熱エネルギーとしては、地殻中の温水を利用する方法が既に実用化されているが、さらに現在、地殻の高温岩石の熱を利用する技術開発が日米において行われている。

 (5)水力
 水力は、技術的に開発可能な水力発電の最大エネルギーが、年間約0.05ゼータ・ジュールと推定されており、実際に利用されているエネルギーは、年間約0.00823ゼータ・ジュール程度と約16%が開発されている。しかしながら、先進国においては、開発可能量のうち既に半数以上の開発が終了しており、今後の大きなエネルギー源としての期待はほとんどないとみられる。

 (6)潮汐力
 全世界の潮汐力によるエネルギー総量は年間約0.079ゼータ・ジュールであり、そのうち経済的に利用可能であると見積もられているのが約1%であるため、エネルギーとしては約0.00074ゼータ・ジュールとなる。現在、実際に稼働している発電所もあるが、風力と同様に地域偏在性が非常に強いといった特徴をもつ。

 (7)波力
 全世界の波力によるエネルギー総量は年間約0.085ゼータ・ジュールであり、そのうち経済的に利用可能であると見積もられているのが約0.1%であるため、エネルギーとしては約0.000085ゼータ・ジュールとなる。
 しかしながら、風力と同様に地域偏在性が非常に強いといった特徴をもつ。

 (8)海流温度差
 海流温度差は、海面の水温と深海の水温との温度差を利用して発電しようというものである。海流温度差による全エネルギー量のうち、これらによって発電が可能な量は年間約10ゼータ・ジュール程度であると考えられている。しかし、実際に利用可能なエネルギーは、最大で全体の1%程度であろうと見積もられており、年間約0.1ゼータ・ジュールのエネルギー量となる。

 (9)バイオマス
 バイオマスとは、植物に起因するエネルギー源を指すが、薪炭、家畜の乾燥糞、植物性の廃棄物といった農工業残さを利用するものと、土地を利用して生産から手がけるプランテーションタイプのものがある。現在、これらによる世界の全エネルギー量は、約0.051ゼータ・ジュールと推計されているが、  将来利用可能なエネルギー量の最大値は、陸上の有機物の純生産量の10分の1程度とした場合、年間約0.2ゼータ・ジュールと見積もられる。

4.人工燃料
 水素、人工化石燃料、リサイクル燃料などに代表される人工燃料は、前述した種々のエネルギー源と異なり、エネルギーを効率的かつ効果的に使用することを目的とした燃料である。すなわち、前述した種々のエネルギー源から得られたエネルギーを人工燃料というより使いやすい形態に変換し、効果的なエネ ルギーの利用を図るものである。
 これら人工燃料は、21世紀の新しいエネルギー形態として注目されており、現在、製造技術開発等が進められている。