高速増殖炉研究開発の在り方






平成9年12月1日

原子力委員会
高速増殖炉懇談会







目 次

                          
  1.
 はじめに
1
1.1 背景<>                             
1
1.2 本懇談会について                 
1
1.3 本報告書の構成                  
2
 
  2.
エネルギー情勢と原子力              
3
 
  3.
高速増殖炉研究開発の意義             
6
 
3.1 高速増殖炉の特性と内外の研究開発状況       
6
 (1)高速増殖炉の特性                 
6
 (2)我が国の高速増殖炉研究開発の現状         
7
 (3)海外における高速増殖炉研究開発の動向       
8
3.2 高速増殖炉研究開発の進め方             
9
 (1)エネルギー需要の見通しとウラン資源の有限性    
9
 (2)高速増殖炉実用化の技術的・経済的見通し      
10
 (3)高速増殖炉の安全性と核不拡散に与える影響     
11
 (4)まとめ                      
12
 
  4.
今後の課題                     
12
 (1)安全の確保                    
13
 (2)立地地元住民及び国民の理解促進と合意形成     
13
 (3)コスト意識の醸成と計画の柔軟性・社会性      
14
 (4)核不拡散の努力                  
15
 
  5.
「もんじゅ」による研究開発の実施          
15
 
  6.
実証炉以降の開発                  
17
 
  7.
おわりに                      
17
 
  <付記>
○少数意見                         
19
○補足意見                         
21
  <別紙>
○高速増殖炉懇談会の設置について              
22
○高速増殖炉懇談会審議経緯                 
24
  <参考資料>
○高速増殖炉技術について                  
26
○データ集
31




1.はじめに
1.1 背景
 平成7年12月8日、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)の高速増殖原型炉「もんじゅ」において2次系ナトリウム漏洩事故が発生しました。事故は放射線被ばくにはかかわらないものであったとはいえ、社会的には重大なものであり、動燃の対応が不適切であったため、地元住民、国民に多大の不安感、不信感を与えました。その結果、高速増殖炉研究開発を含む原子力政策全体に対する根本的な問いかけにまで問題は拡大しました。また、その後発生した動燃アスファルト固化処理施設の火災爆発事故は、国民の不安感、不信感をさらに大きなものにしました。
 ナトリウム漏洩事故後、平成8年4月から9月にかけて、原子力委員会が開催した「原子力政策円卓会議」においては、このことを反映して、我が国における原子力政策について幅広く議論されました。そして、同会議の席上、高速増殖炉の開発についての検討の場を設けるべきとの意見が、また、同年10月には同会議モデレータ(進行役)から高速増殖炉に関する懇談会設置の提言が出されました。こうした意見を受けて、原子力委員会は、平成9年1月末に本懇談会を設置することを決定しました。

1.2 本懇談会について
 本懇談会は、「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速増殖炉の開発の在り方について幅広い審議を行い、国民の意見を政策に的確に反映させることを目的として、広く我が国各界各層からの有識者を構成員として設置されました。このため、本懇談会は、審議に当たり、地方自治体の代表、エネルギー全般、原子炉安全の専門家、海外(英・仏・独)の高速増殖炉専門家を招いて意見を伺い、また、批判的な意見の方からも直接意見を伺いました。
 会合は平成9年2月21日から平成9年11月28日まで、合計12回開催されました。(委員の構成及び審議経緯については別紙参照。)
なお、本懇談会開催に当たっては、審議の経過を明らかにするために会合全体を公開の場で行い、議事要旨を含む、会合に提出された資料は、インターネット上に公開しました。さらに、報告書案の段階で一般の方々の意見を募集し、検討の上、報告書に反映しました。

1.3 本報告書の構成
 本報告書は7章から構成されており、第2章では、高速増殖炉の研究開発の前提条件となる、21世紀のエネルギー供給系において原子力を維持発展させるべきか、または、脱原子力を図るかという選択に関する検討結果を述べます。
 次いで、第3章では、第2章の検討結果を踏まえて、我が国における高速増殖炉研究開発の今後の在り方についての検討結果を述べます。
 第4章以下では、上記検討過程で指摘され、議論された、研究開発遂行上の課題(留意点)について述べます。第4章ではそのうち共通的な事項について、第5章では原型炉「もんじゅ」の取扱いに関する検討結果について、第6章では「もんじゅ」に次ぐ実証炉以降の高速増殖炉の実用化に至る研究開発に関して述べます。
第2章以下については、異論をもつ委員の意見を「少数意見」として、また、補足を必要とする委員の意見を「補足意見」として文末の付記に添付します。本報告書の参考となる高速増殖炉技術について参考資料1として、関連するデータを参考資料2として添付します。

2.エネルギー情勢と原子力
 高速増殖炉の研究開発は、高速増殖炉を将来の原子力によるエネルギー供給の一部として利用することを目指してなされるものです。そこで、我が国における高速増殖炉研究開発の今後の在り方を検討するためには、そもそも我が国は、21世紀のエネルギー供給系の構成要素として原子力技術を維持発展させるべきか、あるいは原子力を含まないエネルギー供給系を構想すべきかを検討する必要があります。この点についての検討結果は、次のとおりです。

 世界のエネルギー需要は、今後少なくとも21世紀中は、人口の増加が続くことから、増大を続けるとの予測が報告されています。また、我が国のエネルギー需要も今後とも増えると考えられています。さらに、近年の中国、東南アジア諸国などにおける急激な経済成長により、エネルギー需要も同様な増加傾向を示しており、今後省エネルギー努力が相当あったとしても、世界のエネルギー需要は将来ひっ迫することが予想されます。また、現在においても東南アジア50%、日本75%ときわめて高い石油輸入における中東依存度が、今後とも続くことも考えられます。さらに、化石燃料の使用量の増加を抑制していかない限り、地球環境問題がますます深刻になると予想されます。
このような資源的、環境的制約を考慮すれば、今後、日本をはじめとした先進国は、水力資源など従来の非化石エネルギーの有効活用や利用促進、省エネルギー技術開発に一層の努力を払うとともに、太陽光発電、風力発電、廃棄物発電などの新エネルギー、原子力などといった非化石エネルギー技術を開発利用していくことが重要であります。このうち、新エネルギーについては、我が国としても「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」などを通じての開発努力を続けているところですが、現在のところ、経済性やその利用可能性の点でこれらを信頼性の高い大規模な供給力とするには制約があります。
このため、資源の乏しい我が国としては、既に原子力が石油代替エネルギーとして果たしている役割と経験から考えて、これを今後ともエネルギー供給の一部として持ち続けることが妥当であるという意見が多く提出されました。原子力の利用は化石燃料の節約、使用の抑制につながり、地球環境の悪化を少しでも食い止める効果があり、環境面の問題の対処策の一つとして有用と考えられます。
さらに、原子力という選択肢を残し、エネルギー供給系を複数にしておくことは、将来のエネルギー供給の不確実さに備える観点からも望ましいという意見も多くありました。こうした新たなエネルギー源の開発には相当長期間を要しますから、今原子力の利用を断念することによって将来の世代にとっての選択の幅をせばめることは適切ではない、むしろ積極的な開発利用により課題を明らかにし、その解決に向けて努力してみるのが現世代の我々の責務であると考えるからです。
他方反対意見としては、エネルギー需要の伸びを前提にして、これに応じるためにあらゆるエネルギー供給手段を尽くしてひたすらその供給量を増強することのみにまい進することは、資源の有限性、環境上の制約などからみて問題の解決にならないこと、原子力については、何よりも高レベル放射性廃棄物処分という重大な課題があり、それに加え新規立地が進まないという重大な課題があり、さらに、万一原子炉で大きな事故が発生するとその被害はきわめて大きく、その大きさは社会の受け入れられるところではないこと、あるいは、潜在供給力がきわめて大きい太陽エネルギー、未開発大規模水力資源などの利用が進まないのは、その利用に技術的・経済的制約などが多いとしてわずかな研究開発投資しか行っていないことに問題があるからであって、エネルギーの効率的利用や省エネルギーを実現できるライフスタイルの追求とあわせて、今後新エネルギーなどの開発・利用を積極的に行っていけば、原子力を構成要素としないエネルギー供給系で十分快適な生活を実現できるとして、これを追求するべきであるという意見もありました。
これに対しては、省エネルギー対策を講じても量的限界があり、新エネルギーの供給についても前記のとおりの限界が考えられること、何より複数の選択肢を将来世代のために維持するべく努力を続けるのが我々の責任であるとする意見が多数でした。
 懇談会はこれらの意見を巡って議論を行った結果、我が国としては、原子力を21世紀のエネルギー供給の一部として引き続き維持発展させることが妥当と判断しました。ただし、原子力がその役割を果たし得るためには、原子力基本法の精神を踏まえて、平和の目的に限り、安全確保、情報公開、その他について関係者が努力を重ね、国民に信頼されることが重要です。特に安全確保については、関連従事者一人一人の責任感の徹底を図ることは当然のことです。また、この選択は、我が国が、今後エネルギーの効率的利用や省エネルギーを実現できるライフスタイルを追求することや、新エネルギーなどの開発・利用を積極的に進めることの重要性を、いささかも否定するものではありません。

3.高速増殖炉研究開発の意義
 第二の検討課題は、原子力を我が国のエネルギー供給の一部として維持発展させるとして、高速増殖炉の研究開発を今後どう進めるかです。この検討には、高速増殖炉の特性や、参考とすべき内外の研究開発状況についての知見が必要です。そこで、本懇談会は専門家などから説明を聴取しました。その概要を3.1に示します。そして、上記の検討課題について検討した結果を3.2に示します。

3.1 高速増殖炉の特性と内外の研究開発状況
(1)高速増殖炉の特性
高速増殖炉は、核分裂当たりの中性子発生数が多いため燃料の増殖が可能です。また、炉心の中性子エネルギーが高いため軽水炉では燃えにくい高次プルトニウムを含むアクチニドも核分裂させやすいことなどの特性を有しています。
このように高速増殖炉は、燃料の複数回のリサイクルによって、ウランの利用効率を軽水炉と比べて極めて高くできる可能性がある上、廃棄物についても軽水炉方式と比較してその負荷を減少できる可能性がある点に大きな特長があります。このことから、世界各国で、原子力開発利用の初期から、高速増殖炉の研究開発が進められてきました。高速増殖炉技術について参考資料1に示します。
原子炉を開発する際の一般的な流れとしては、まずその設計原理を試験的規模で確認し、燃料・材料照射データを蓄積するための「実験炉」が造られます。次いで、発電プラントとしての性能を確認し、大型化への技術的可能性を評価するための「原型炉」が建てられます。そして、経済性の見通しを明らかにするための「実証炉」と続き、実用化に向けて段階を踏んで進められます。この観点から整理した高速増殖炉研究開発の内外の現状は次のとおりです。

(2)我が国の高速増殖炉研究開発の現状
 我が国においては、実験炉「常陽」が、動燃により茨城県大洗町に建設され、昭和52年に初臨界を達成し、実験炉としての当初の目的である、高速増殖炉として安全かつ安定的に運転をすることが実証されました。「常陽」は、昭和57年に高速中性子炉としての特徴をいかした照射用炉心に改造され、燃料・材料の照射データを蓄積しながら、現在まで順調に運転されています。
 次に原型炉「もんじゅ」が、動燃により福井県敦賀市に建設され、平成6年に初臨界を、平成7年には初送電を行いました。その後、発電プラントとしての性能を確認し、大型化の可能性を技術的に評価していくことにしていましたが、前述のとおり、平成7年12月にナトリウム漏洩事故を起こしたため、現在、運転を停止し、原因究明及び安全総点検を実施中です。
また、電気事業者が中心となって、高速増殖炉の実用化が2030年頃までに可能となるよう、現在、実証炉(電気出力約66万kW)の設計研究及び関連技術開発が進められているところです。
こうした研究開発に当たっては、各国との国際協力も行ってきました。

(3)海外における高速増殖炉研究開発の動向
 英国は、実験炉、原型炉の運転を通じて高速増殖炉技術を蓄積してきましたが、豊富な国内石油資源の開発に成功したことを背景に、原型炉を閉鎖するとともに経済性の観点から、実証炉以降については独自に開発することを取りやめ、ドイツ、フランスとともに欧州全体の高速増殖炉研究開発計画に参加しています。
 ドイツは、実験炉の運転に続き、原型炉の建設を目指しましたが、立地している州政府の安全性を理由とした反対による建設計画の遅延に伴い、プロジェクト費用の負担が困難となり、完成間近で建設を放棄しました。
 フランスは、最近の政権交代に伴い、経済的理由から実証炉(スーパーフェニックス)放棄の方針を決定しましたが、原型炉及び高速増殖炉研究開発は継続しています。
 米国は、実験炉の30年にわたる発電及び大型実験炉の13年にわたる運転により、高い技術レベルを有しているものの、核不拡散、経済性などの観点から高速増殖炉研究開発を中断しており、プルトニウムの商業利用は行わないとしています。
 ロシアは、二つの実験炉やカザフスタンにある発電海水脱塩二重目的炉を20年以上にわたり運転し、原型炉も15年にわたって運転してきており、豊富な運転経験を有しています。実証炉についても建設を開始したところですが、財政事情の悪化のためその建設は中断しています。
 以上から、海外の高速増殖炉研究開発は、おおむね実証炉による開発段階への移行期にまで到達していますが、最近に至り、主に各国の原型炉などの性能実績、エネルギー需要動向と原子力発電規模の展望、政治経済事情などを背景として停滞状況にあると判断されます。

3.2 高速増殖炉研究開発の進め方
懇談会は、我が国の当面する課題と、以上のような高速増殖炉の特性及び内外の研究開発状況に対する認識を念頭に、我が国は高速増殖炉の研究開発を今後どのように進めるべきかを検討しました。検討においては、様々な観点・立場からの意見が提出されましたが、それらを要約すると、次のとおりです。

(1)エネルギー需要の見通しとウラン資源の有限性
そもそも高速増殖炉について考えるためには、ウラン資源の有限性について考慮する必要があります。国際機関の評価によれば、世界で現在までに存在が知られているウランの量は約451万トンであり、軽水炉からの使用済燃料を処理することなくウランを使った場合、現在、世界で毎年使われているウラン量(約6.2万トン)からみて約73年分です。もちろん、今後新たに利用可能なウラン資源が開発されることも想定されますが、他方でエネルギー需要の伸びや地球温暖化問題の顕在化を考えた場合、世界の原子力発電を含む非化石エネルギーに対する需要は、中・長期的には増大すると考えて対策を講じるべきです。このためには使用済燃料を再処理して、その中にあるまだ使えるウランやプルトニウムを利用してウランの利用率を高めることは重要です。
将来のエネルギー需要とウラン資源量に関する見通しについては 、世界の原子力発電設備容量は過去に言われたほど増大せず、横ばい傾向にあること、歴史的に見てウラン資源量の推定は困難であり、かつ過小評価の場合の多いことが明らかであること、地球温暖化問題はエネルギー選択の一つの基準でしかないことから、これを根拠として現在の高速増殖炉研究開発計画を正当化することはできないという反対意見がありました。一方、既に技術の確立している軽水炉でのプルトニウム利用(プルサーマル)と併せて、高速増殖炉の研究開発を進めることは、長期エネルギー確保の観点からエネルギー多消費国である我が国にとって重要であり、また我が国社会の人類に対する義務であるとする意見があり、これが多数を占めました。

(2)高速増殖炉実用化の技術的・経済的見通し
内外におけるこれまでの長年にわたる高速増殖炉研究開発努力にもかかわらず、未だ経済性などの点から実用化の見通しが得られていないということは、この高速増殖炉には本質的に解決できない困難が存在していると考えるべきであり、したがってこれ以上開発を続けるべきでないという反対意見が出されました。
これに対しては、「常陽」が一応の成果を収め、「もんじゅ」も建設されており、研究は進展していたこと、一般に技術開発においては、原型段階から実証段階は費用と時間が掛かるものの、この段階で実用化への課題とその解決可能性をより確度高く見極めることができるのであり、我が国の高速増殖炉研究開発においては実用規模のプラントの設計研究を通じて解決すべき課題が明らかにされており、前記の批判は当を得ていないこと、何よりエネルギー資源に乏しい我が国としては、海外の経験を参考にしつつも原型炉を用いた研究開発を中心に高速増殖炉技術の実用化の可能性を探求し、その結果を基に解決すべき課題を明らかにして、これを着実に解決していくべきであるという意見が提出されました。また、これまでの研究開発の結果、各種の試験研究設備と創造力と勇気をもって必要な技術開発に挑戦する意欲ある人材が育っていることもあり、少なくともこの作業の結果を得てから、進退を判断すべきで、現段階でこの作業を中止するべきではないという意見も出され、これが大勢を占めました。

(3)高速増殖炉の安全性と核不拡散に与える影響
 その他の反対意見としては、ナトリウムを冷却材に使用している高速増殖炉は、その炉心特性から見て軽水炉と同等の安全性が確保できないし、また、毒性が強いプルトニウムを燃料として用いていることから、前述の「もんじゅ」ナトリウム漏洩事故時の人々の反応から推察できるように、周辺住民に与える不安感が大なので、事実上エネルギー供給を担うに足るだけの立地は不可能であろうし、また、ブランケット燃料で兵器級プルトニウムを生産することから、周辺諸国に核開発疑惑を招くなど国際社会の懸念を増大するのではないか、といった意見が出されました。
これに対しては、安全性や核不拡散に係わる課題については、実験炉や原型炉の建設・運転経験を踏まえれば、技術的には解決できる見込みが十分あること、ただし、技術は安全性、信頼性、経済性のみならず、社会に広範な受け入れ可能な条件を満足しなければ実用的存在とは言えないことから、そのためにもこれらの建設・運転を通じて原子炉ならびに関連燃料サイクル施設について、実用化のための技術的・社会的課題の発見に努め、それらの解決を図っていくのであり、その過程を経ないで問題解決が困難と断定すべきではないとの意見が出されました。また、軽水炉に基づく現在の原子力エネルギー供給系に高速増殖炉を加えることにより、軽水炉で生成したプルトニウムなどを燃焼して資源の効率的利用を図るとともに放射性廃棄物の負荷を低減することは、リサイクルを基盤とする21世紀社会の技術の有るべき姿を実現することを意味し、望ましきエネルギー供給系を実現するという観点から、高速増殖炉の研究開発を継続すべきという意見も出されました。なお、これに関連して、高速増殖炉は軽水炉で生成したプルトニウムなどを燃焼するといった観点からもその開発意義を有するとの理由から、従来の「高速増殖炉」という呼び名をより広く「高速炉」と変えるべきではないかとの意見が出されました。

(4)まとめ
 これらの意見を踏まえて、本懇談会は、将来の原子力ひいては非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を技術的、社会的に追求するために、その研究開発を進めることが妥当と考えました。

4.今後の課題
 以上の審議を通じて得られた、今後研究開発を遂行していくに当たって留意すべき事項は、前章に適宜述べているところですが、基本的事項と考えられる4点について、以下に述べます。

(1)安全の確保
高速増殖炉の研究を担う機関は、当然のことながら、安全確保を最優先にできる体制であることが必要です。一方、個々の研究者などにあっては、まず一人一人の責任感の徹底を図るとともに、研究開発の途上にある技術に対しては、事故は起こらないという態度で臨むのではなく、事故はいつでも思わぬところから起こりうるものであるから、その発生を未然に防止するための注意を持続しつつ万全の対策を講じるとともに、仮に起きたとしても人体・環境への影響を与えないようにするという、謙虚かつ懸命な姿勢が必要です。

(2)立地地元住民及び国民の理解促進と合意形成
 「もんじゅ」事故をはじめとする動燃の一連の事故、不祥事で、立地地元住民の信頼を裏切ったことは遺憾なことです。これにより生じた地元住民の方々の不安感、不信感は強いものがあります。したがって、国及び動燃は、関係者の意識改革を実行し、動燃改革を着実に進めるとともに、さらに実効性のある安全管理策を立てて、それを着実、誠実に実行することはもちろん、そのことに対する地元住民の方々の理解を得るための努力を進めることが必要です。
 また、高速増殖炉の研究開発を推進するに当たっては、その意義及び進め方についての国民レベルでの合意形成なくしては、立地地域社会の理解を得ることは難しいと考えられますが、これまで国民、特に地元地域社会に対して十分な説明がされてこなかったと判断されるため、今後、説明会、シンポジウムなど様々な機会を通じた情報交流や対話により、十分な理解が得られるよう努力を重ねていくことが重要です。

(3)コスト意識の醸成と計画の柔軟性・社会性
我が国の財政事情はきわめてひっ迫した状況です。そのため、財政構造改革が重要な政治課題となっている中、原子力開発を含め科学技術の大型プロジェクトについても必要性、緊急性を問われています。したがって、研究開発自体の経済性、すなわち研究開発投資とその効果について定期的に評価して、研究開発計画を逐次見直すことが必要です。
また、高速増殖炉の実用化にあたっては、プラント建設費などの徹底したコストダウンが必要であり、これを安全性を確保しつつ実現するのが研究開発の重要な目標の一つです。
さらに、高速増殖炉は、燃料製造や再処理などの燃料サイクル技術を通じてウランの飛躍的な有効利用を図ることができるため、燃料サイクル技術開発は原子炉の開発と同様に重要であり、炉とサイクルの整合性のとれた研究開発が重要です。
研究課題の世界性、つまり、内外の研究動向に照らして真に努力を傾注する価値のある課題であることを確認しつつ進めること、大学などにおける関連分野の基礎・基盤研究の充実により新しいアイデアの提案や展開を促進し、将来においてこの研究開発を担う人材を確保していくことも重要と考えます。これらの観点からも計画を随時見直していくことが必要です。
 上記の見直しを通じて、高速増殖炉の研究開発計画に重大な問題が発見された場合には、直ちに同計画の抜本的な再検討を行わなければなりません。そのためには計画自体を柔軟な対応が可能な計画とするとともに、たとえ事故や変更の必要が考えられなくても、定期的な外部評価を受け、適切に軌道修正を行える仕組みを制度化する必要があります。

(4)核不拡散の努力
原子力基本法では、我が国の原子力の研究・開発及び利用は、平和の目的に限っています。核不拡散については、我が国は国際原子力機関(IAEA)の厳しい監視(保障措置)を受け入れ、余剰プルトニウムを持たないことを世界的に宣言しています。また、プルトニウムなどが盗まれないようにする核物質防護については、核物質防護条約に加盟し、世界の国々と協力して対策を採っています。
なお、高速増殖炉における「増殖」とは、燃えた燃料以上に燃えないウランからプルトニウムを生産することです。一方、高速増殖炉はプルトニウムを燃料として燃焼させて消費することもでき、これらプルトニウムの生産と消費のバランスをとることにより、余剰のプルトニウムを発生させないようにする必要があります。
 高速増殖炉によるプルトニウム利用に当たっては、適切な保障措置、核物質防護技術を開発・利用することにより、今後とも各国からの疑念を招かないように努力することが必要です。

5.「もんじゅ」による研究開発の実施
動燃の「もんじゅ」事故については、初歩的な設計管理上のミスに起因するものである上、事故後の対応の不適切さが動燃に対する社会的信頼を失わせました。また、その後のアスファルト固化処理施設における事故の対応にもその反省はいかされませんでした。これらは動燃の体質の問題であり、抜本的な改革が必要であると考えますが、動燃改革検討委員会においてその基本的方向がまとめられ、現在その具体化作業が行われています。

 そこで本懇談会は、「もんじゅ」の取扱いについて、次のように考えることとしました。 「もんじゅ」はこれまで約5900億円の建設費と12年の建設期間をかけ、設計・建設段階で数多くの知見を蓄積してきました。高速増殖炉の研究開発を進めるに当たって、これまでの蓄積に加え、「もんじゅ」の運転データを加えることはきわめて重要であり、これにより、発電プラントとしての性能を確認し、大型化への技術的可能性を評価する「原型炉」本来の目的を達成することができます。この目的を達成しないまま、当面の困難について、その原因を反省し合理的な解決策を探求してこれを乗り越える努力をせず「もんじゅ」の研究開発を中断すること自体、これまでの成果とともに今後の可能性をも無にすることに等しく、大きな損失と言えます。さらに中断の後、将来必要なときに再び研究開発を始めようとしても人材の面からもかなりな困難が予想される上、費用の面からもかなりの金額になり、大きな損失といえます。原子力のような大型技術の開発においては、研究開始後、十分吟味した信頼のおける技術的可能性を得るまでには莫大な研究とそのためのかなりの時間が必要であり、若干のゆとりをもって結論を得られるようにしておく必要があります。したがって、「もんじゅ」を使い、研究開発を続けることは必要なことと考えます。
しかし、この議論に沿って研究開発を進めるためには、動燃改革や安全総点検を通じて「もんじゅ」の安全性向上の状況などについて地元地域社会の理解を得ることが必要です。本懇談会としては、動燃の改革が確実に実現され、研究開発段階にある原子炉であることを認識した慎重な運転管理が行われることを前提に、「もんじゅ」での研究開発が実施されることを望みます。
「もんじゅ」における研究開発に当たっては、増殖特性の確認を含む燃料・炉心特性の確認、ナトリウム取扱い技術や高燃焼度燃料開発など原型炉としてのデータを着実に蓄積するとともに、マイナーアクチニド燃焼など新たな分野の研究開発に資するデータを幅広く蓄積すべきです。
また、「もんじゅ」を高速増殖炉研究開発の場として、内外の研究者に対して広く開放していくことも重要と考えます。

6.実証炉以降の開発
 実証炉の具体的計画については、「もんじゅ」の運転経験を反映することが必要であり、また「もんじゅ」で得られる種々の研究開発の成果及び電気事業者が中心となって進めている設計研究の成果などを十分に評価した上で、その決定が行われるべきものと考えます。
 また、高速増殖炉の実用化にあたっては、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ、将来のエネルギー状況を見ながら、柔軟に対応していくことが必要です。

7.おわりに
 本懇談会は、将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を追求するために、その研究開発を進めることが妥当と考えます。その際、原子力関係者以外の人々を含め広く国民の意見を反映した、定期的な評価と見直し作業を行うなど、柔軟な計画の下に、進められることが必要です。原型炉「もんじゅ」は、この研究開発の場の一つとして位置付けられます。したがって、高速増殖炉研究開発の意義や進め方について、広く国民と対話し、理解を得る努力をすることが何より重要です。