平成9年度原子力開発利用基本計画(案)




原子力委員会




   I.総論


   II.各論
    1.安全確保対策の総合的強化
    2.情報公開と国民的合意形成に向けた取組
    3.原子力施設の立地の促進
    4.軽水炉体系による原子力発電の推進
    5.核燃料リサイクルの技術開発の着実な展開
    6.バックエンド対策の推進
    7.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
    8.核不拡散対応の強化
    9.国際協力の推進
    10. 人材の養成と確保


   III.予算総表
    1.平成9年度原子力関係予算政府原案総表
    2.平成9年度科学技術庁一般会計政府原案総表
    3.平成9年度各省庁(科学技術庁を除く)
      一般会計政府原案総表
    4.平成9年度電源開発促進対策特別会計
      原子力関係予算政府原案総表



I.総論
 ここ最近、原子力を巡る動向としては、平成7年12月に起きた高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故を契機とした、国の原子力政策に対する国民の不安感、不信感の高まりが見られることである。特に、原子力の問題を立地地域住民だけの問題として捉えるのではなく、国民全体の問題として捉え、国民的な議論を展開する必要性がクローズアップされてきている。このような状況を踏まえ、国民との対話を通じて国民的な合意を形成しつつ、原子力政策の展開を図っていくことが重要である。
 このため、原子力委員会は、昨年3月に原子力政策円卓会議を設置し、公開の下で11回の会議を重ねるなど、従来以上に、国民に開かれた体制で原子力政策の遂行に取り組んできている。このような努力は、一時的なもので終わらせるのではなく、今後とも地道に継続していくことが重要であり、その一環として、装いを新たにした「新円卓会議」を開催することとしている。
 また、「もんじゅ」事故は、国民の原子力安全に対する大きな不安感を与える結果ともなった。当該事故については、科学技術庁において本年2月に原因究明結果に関する報告書が取りまとめられ、引き続き「もんじゅ」の安全性を確認するための「もんじゅ安全性総点検」を着実に実施し、万全の安全対策を講じていくことが重要である。
 しかしながら、このように取り組んでいる矢先の本年3月11日に、動力炉・核燃料開発事業団再処理施設アスファルト固化処理施設において火災爆発事故が発生し、環境や健康に影響を与えるレベルではないが屋外に放射性物質が放出されるとともに、微量とはいえ従業員の体内に放射性物質が吸入されるという事態が起こったことは、極めて遺憾である。
 まず、事故原因の徹底的な究明と再発防止のための万全の対策が講じられるとともに、今回の事故において、的確な状況把握や迅速かつ正確な情報伝達など動力炉・核燃料開発事業団の事故対応に極めて不十分な点があったことを踏まえ、その改革を図っていくことが必要である。
 また、今回の事故に鑑み、安全確保と情報公開の重要性について原子力関係者一同原点に戻り、改めて肝に銘じ、国民の不安・不信を早期に解消するため最大限の努力を傾注していくことが必要である。

 一方、核燃料サイクルについては、六ヶ所再処理工場における使用済燃料貯蔵施設の操業開始が予定されていること、海外再処理によるプルトニウムの回収が進んでいること及び一部の発電所における使用済燃料の貯蔵能力の増強が必要とされていること等、重要な局面を迎えており、これらの状況を踏まえ、本年1月に「当面の核燃料サイクルの具体的な施策について」を原子力委員会決定するとともに、2月には、本主旨を改めて政府として明確にするため、「当面の核燃料サイクルの推進について」が閣議了解された。
 特に軽水炉でのプルトニウム利用(プルサーマル)は現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法であることから、早急に開始することが重要でり、その実施に当たっては、地元をはじめとする国民の理解を得るよう努力する必要がある。また「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速増殖炉開発の在り方については、原子力委員会に新たに設置した「高速増殖炉懇談会」において幅広く検討していく。

 また、原子力技術は、広範な学問領域に立脚する技術であり、巨大システム技術等幅広い技術が集大成されたものである。このような観点から、昨年7月に政府が定めた科学技術基本計画をも踏まえながら、国際熱核融合実験炉(ITER)計画、重粒子プロジェクト研究、大型放射光施設(SPring−8)の共同利用研究等その多様な展開を図る。

 さらに、核兵器のない世界に向けた、国際的な核実験禁止の枠組みである包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に向けた努力及び条約批准のための国内制度の整備を推進する。
 以上示した事項はもとより、最近の諸情勢の動向、諸施策等の進捗状況を踏まえ、平成9年度に展開する具体的施策を取りまとめた。

II.各論


1.安全確保対策の総合的強化
 原子力の研究開発利用を進めるに当たっては、これまでも厳重な規制と管理を実施し、安全の確保に万全を期してきたところであるが、原子力発電所の高経年化が進みつつあること等を踏まえ、原子力の安全確保対策を充実し、安全性の一層の向上を図る。さらに、原子力発電所の建設・運転、再処理施設等核燃料サイクル施設の建設・運転、放射性廃棄物処理処分対策の推進、放射性物質の輸送の増大・多様化等今後の原子力研究開発利用の進展に対応し、万全の安全確保対策を講じていく必要がある。
 平成7年12月に発生した「もんじゅ」事故については、本年2月に、科学技術庁が原因究明結果に関する報告書を取りまとめた。今後は、「もんじゅ安全性総点検」を着実に実施していくとともに、運転管理の充実強化等事故の教訓を踏まえた対応及び改善策を実行していく。原子力安全委員会は、上記報告書の内容を踏まえ、2次系ナトリウムの漏えいに関する安全評価の調査審議を進めるとともに、科学技術庁等の安全性総点検等の検討状況を踏まえつつ再発防止対策等について調査審議を進める。その結果は広く国民に公表する。
本年3月11日に発生した動力炉・核燃料開発事業団東海事業所再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故については、科学技術庁に設置された事故調査委員会において、公開の下徹底した原因究明と再発防止対策の検討を進めるとともに、また、あわせて、事故時の情報伝達等の対応の問題も含めて、改善策を検討していく。原子力安全委員会は、事故調査委員会の検討状況について随時科学技術庁より報告を受けるとともに、検討結果について報告があった段階でその内容について調査審議を行う。今後とも、地元住民や国民の不安感・不信感の払拭に全力をあげて取り組んでいく。

(1)原子力安全規制行政の充実
 原子力の安全確保のため、行政庁において法令に基づき、従来から厳正な安全規制を行っているが、今後とも、安全審査、運転管理・監督体制等のより一層の充実・強化等を図る。

 原子力安全委員会においては、行政庁の行った設置許可等に係る安全審査についてダブルチェックを行うほか、設置許可等の後の各段階においても必要に応じ調査・審議等を実施し、それぞれの行政庁の行う安全規制の統一的評価を行い、原子力の安全確保に万全を期する。また、原子力の安全確保に係る意思決定過程を広く国民に公開し、意見を述べる機会を提供して透明性を高めることが、国民の信頼感を回復し、安心感を得るために不可欠であるとの認識の下、会議・資料の公開、国民からの意見募集、対話の推進等原子力安全委員会における情報公開を推進するための活動を強化する。
 また、放射性物質の輸送については、その増大・多様化に対処し、輸送の安全確保を図るため、放射性物質の輸送の安全評価等のための調査検討を進める。
 放射性同位元素等の利用については、その拡大を踏まえ、より一層の安全確保に努める。また、国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告については、放射線審議会において国内法令への取り入れについて調査・審議等を行う。

(2)原子力防災対策の充実・強化  原子力施設の万一の緊急時における防災対策を推進するため、緊急時連絡網、緊急時医療体制、防災活動資機材の整備、原子力防災に関する知識の普及等の充実を図るとともに、その充実強化策について検討を進める。また、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム及び緊急技術助言組織による助言の迅速・的確化等のための緊急技術助言対応システムの整備・高度化等原子力防災支援機能を強化する。

(3)安全研究の推進  安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し、各種安全審査指針・基準等の整備・充実及び原子力施設等の安全性の向上を図るため、原子力安全委員会の定めた安全研究年次計画(平成8年度〜12年度)に従い、原子炉施設、再処理施設等に関する原子力施設等安全研究、環境中における放射能の挙動及びその影響等に関する環境放射能安全研究及び放射性廃棄物の処分に関する放射性廃棄物安全研究を推進する。

(4)環境放射能調査の充実・強化  原子力発電施設等の周辺における環境放射能の監視等を引き続き実施するとともに、放射性降下物等の影響を調査するための環境放射能水準調査等を引き続き実施する。

(5)国際的な原子力安全の確保
 原子力の安全確保については、国際的な連携・協調の下に安全性を維持・向上させていくことが重要であることから、昨年開催された「アジア原子力安全東京会議」のフォローアップを行っていくとともに、民生用原子力発電所についての国際的な安全確保を目的とした「原子力の安全に関する条約」の円滑な実施のために必要な措置を講ずる。
 また、各国との協議の場を通じて原子力施設の安全の情報を収集し、国際協力のための意見交換を行うとともに、二国間や多国間の協力の枠組みを通じた協力を実施する。

2.情報公開と国民的合意形成に向けた取組
 原子力開発利用を円滑に進めていくためには、まず国、原子力事業者に対する国民の信頼感、安心感を得ることが必要である。原子力委員会は、昨年3月に原子力政策円卓会議を設置し、公開の下で、11回の会議を重ね、国民各界各層からの意見を伺い、今後の原子力政策に的確に反映していくよう具体的施策を実施・検討している。今後とも、情報の公開、原子力政策決定過程への国民参加を充実していく。


(1)情報の公開
 情報公開については、核不拡散、核物質防護、財産権の保護に関する情報など慎重に取扱わざるを得ないものを除き原則公開していくことが重要である。このため、原子力委員会、原子力安全委員会及び放射線審議会の専門部会等の議事を原則公開しているところであるが、さらに、情報公開請求に対しても迅速かつ適切に対応できるよう体制整備を進める。特に、トラブル情報等国民に関係の深い安全問題については、国民の関心も極めて高いので、迅速さ、分かり易さに配慮する必要がある。また、インターネットを活用して、議事録、会議資料等の迅速な提供とともに、原子力公開資料センターを通じて原子力関連の各種資料の提供を図るなど情報提供の整備を進める。

(2)国民の理解増進
 勉強会への講師派遣等の「草の根」的な広報、簡易放射線測定器の貸出等の体験型の広報など実効性のある事業を体系的に実施し、国民ひとりひとりを対象とした施策の展開を図る。また、未来科学技術情報館などの設置・充実、原子力広報の全国展開を図るためマスメディアを通じた広報や原子力に関する科学技術に関連した行事を開催するなど、原子力についての正確な知識の普及を図る。
 また、当面の課題であるプルサーマルを始めとした核燃料サイクルの展開についての更なる国民的な合意の形成に向け、政府一体となって新円卓会議等の様々な場を活用した国民各界各層との対話を一層促進する。
 さらに、国内外な理解の促進するため、諸外国における原子力施設等の安全性等に関する調査、諸外国との密接な情報交換等を行うとともに、国際原子力機関(IAEA)と協力しつつ実施しているパブリック・アクセプタンス(国民の理解の向上)に関する事業を引き続き実施する。

(3)政策決定過程への国民参加の促進
 「国民とともにある原子力」の実現に向けて、政策の決定過程において広く国民の意見を反映していくことが必要である。この考えを具現化するため、政策策定において重要な役割を果たしている原子力委員会、原子力安全委員会及び放射性審議会の専門部会等の報告書を作成する過程において、報告書案を一定期間公開し、これに対する国民の意見を広く募集する。それらについては、専門部会等で検討し、反映すべき意見は採用し、不採用とした意見については理由を付して報告書と併せて公開するなど、国民の意見に適切に応えていくことを通して、政策決定過程への国民参加の促進を図っていく。

3.原子力施設の立地の促進
 原子力施設等の立地等に当たっては、施設の安全性、信頼性を高めることはもちろん のこと、立地地域住民の理解を深め、立地にかかる不安の解消に努めるとともに、立地 地域の振興を図っていくことが重要である。このため、発電用施設周辺地域整備法等の 電源三法制度を活用し、既設地域を含めた立地地域がその特性に応じた自立的・長期的 な発展を図っていくこととなるよう、立地地域及び事業者の取組にに対する施策を充実 ・強化し、施設の立地の一層の推進を図る。

 立地地域と発電所等との共生をより実質的なものとするため、発電用施設周辺地域整備法等の電源三法制度を活用し、原子力発電施設等の周辺地域の住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備、住民、企業等に対する給付金の交付、企業立地促進策の推進、原子力関係者の研修の実施等を図ることにより、既設地域を含めた立地地域が、その特性に応じた自立的・長期的な発展を図っていくこととなるよう、立地地域及び事業者の取組に対する支援施策を充実・強化する。特に、平成9年度においては、立地地域住民の福祉向上等をより一層支援するため、原子力発電施設等立地地域長期発展対策交付金を創設し、既設地域を含めた立地地域の長期的な発展に対する支援施策を充実・強化するとともに、リサイクル研究開発施設の円滑な立地を図ることを目的としたリサイクル研究開発促進交付金を創設する。
 また、環境放射能の的確な監視体制の整備、立地地域における地震に対する不安解消のための地震観測システムの整備等を推進するとともに、従事者等の追跡健康調査、温排水の影響調査、再処理施設放射能影響調査、防災対策、原子力発電施設等の安全性・信頼性実証試験等を推進する。
 さらに、立地地域における放射線の利用、原子力基盤技術開発の推進を通じた、原子力に対する理解の増進を図るための施策を充実・強化する。


4.軽水炉体系による原子力発電の推進
 エネルギーセキュリティーの確保と地球環境問題への対応の観点から、原子力発電は 今後とも有力なエネルギー源であり、安全確保と平和利用の堅持を大前提に、着実に開 発利用を進めることが必要である。特に、今後とも相当長期にわたり軽水炉が主流を担 うと予想されることから、安全性、信頼性の向上を図っていく。また、安定的にウラン 資源を確保していくため、ウラン濃縮技術開発等を進める。


(1)軽水炉の高度化
 軽水炉については、信頼性及び稼働率の向上、作業員の被ばく低減化等の観点から、原子力発電検査技術の高度化を行う。軽水炉の安全性・信頼性を実証するため、耐震等の原子力発電施設に係る各種安全性実証試験を実施するとともに、高機能炉心に関する技術調査、高燃焼度燃料確証試験等を引き続き実施し、また、安全性、経済性等の側面から、受動的安全性の概念等を取り入れた将来型軽水炉等についての調査等を進める。さらに、軽水炉の長寿命化のための技術、実用原子力発電所のヒューマンファクター関連技術等の開発を実施する。

(2)ウラン資源の確保と利用
1)ウラン資源確保策の推進  動力炉・核燃料開発事業団によるウラン調査探鉱活動については、合理化を図りつつ実施するとともに、金属鉱業事業団の出融資制度等により、民間企業による海外ウラン探鉱開発活動を助成する。

2)ウラン濃縮国産化対策の推進
 ウラン濃縮については、動力炉・核燃料開発事業団においてウラン濃縮原型プラントの運転試験を継続するとともに、民間によるウラン濃縮商業プラントの円滑な操業を推進する。
 さらに、今後のウラン濃縮の経済性向上のため、新素材高性能遠心分離機の高度化機の開発等を実施するとともに、レーザー法ウラン濃縮技術の研究開発については、1998年頃にその成果に対する評価・検討を行うこととする。

3)回収ウランの利用
 再処理により回収されたウランの利用技術の確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団において、六フッ化ウラン(UF)転換及び再濃縮に関する技術開発を進める。


5.核燃料リサイクルの技術開発の着実な展開
 原子力委員会は、平成9年1月31日付け「当面の核燃料サイクルの具体的施策につ いて」において、我が国のおかれている資源的な制約や環境保護の観点から、原子力発 電を長期に安定的に進めていく上で、核燃料サイクルを円滑に展開していくことは不可 欠であることを改めて確認するとともに、プルサーマル、使用済燃料の管理などについ て考え方を取りまとめた。また、政府においては、さらにその主旨を改めて政府として 明確にするため、平成9年2月4日、閣議了解が行われた。
 それらを踏まえ、以下の諸施策により核燃料サイクル計画の具体化、将来の核燃料リ サイクル体系の確立に向けた技術開発等を行う。なお、その展開に当たっては、地元を 始めとする国民の理解が十分図られるよう努める。


(1)核燃料リサイクル計画の具体化
1)使用済燃料再処理
 動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設については、本年3月11日に発生したアスファルト固化処理施設の火災爆発事故の徹底した原因究明等を行う。また、平成15年の操業開始を目指して進められている六ヶ所再処理工場の建設を引き続き推進する。さらに、プルサーマルの具体化等を勘案しつつ、使用済混合酸化物(MOX)燃料再処理技術の研究開発を進める。

2)MOX燃料利用
 再処理によって得られるプルトニウムは、ウラン資源の節約と有効利用の観点から、核燃料として利用していくことを基本とし、現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法であるプルサーマルを、早急に開始することが必要である。このため、プルサーマルの実施に対する所要の準備等を促進するとともに、地元自治体への説明、シンポジウムやフォーラム等の場での説明など、地元はもとより国民の理解を得るよう政府一体となった積極的な対応を行っていく。
 また、青森県大間町に建設が予定されている全炉心MOX−ABWR施設の技術を確立するために必要な開発等を進める。さらに、「ふげん」については、プルトニウム利用技術開発を目的として多様な燃料の調査研究を行う。
 一方、軽水炉用MOX燃料の加工については、国内事業化を促進するため所要の技術開発等を推進するとともに、民間において事業主体の確定に向けた検討を進める。

3)使用済燃料の管理
 使用済燃料については、全量再処理との基本の上に立ち、いくつかの発電所における当面の対策としての貯蔵能力の増強について、地元の理解を得られるように努めていく。さらに、今後、長期的に貯蔵量が増大するとの見通しを踏まえ、発電所敷地外の施設における貯蔵についても関係省庁、事業者からなる検討会において検討を進める。
 また、使用済燃料の乾式貯蔵や臨界安全管理等に関する技術開発を進める。

4)核燃料物質等の輸送
 核燃料サイクルを円滑に展開していくために必要な核燃料物質等の輸送が今後とも実施されることとなるが、輸送の安全性、必要性等に係る情報提供や広報活動を適切に実施していくことにより、国内外な理解と協力が得られるよう努める。


(2)将来の核燃料リサイクル体系の確立に向けた技術開発
1)高速増殖炉技術の開発
 動力炉・核燃料開発事業団の高速実験炉「常陽」において、燃料、材料の照射試験等を実施するとともに、照射炉心の高性能化を図るため、「常陽」の高度化改造を進める。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」については、平成7年12月に発生したナトリウム漏えい事故を踏まえ、引き続き安全性総点検等を行い、安全確保に努める。「もんじゅ」の扱いを含めた今後の高速増殖炉開発の在り方について、原子力委員会に設置した「高速増殖炉懇談会」において幅広く検討する。

2)再処理技術及び燃料加工技術の開発
 高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、動力炉・核燃料開発事業団においてリサイクル機器試験施設(RETF)の建設を進めるとともに、所要の研究開発を進める。また、プルトニウム燃料第三開発室等において、引き続き「常陽」等に使用するMOX燃料を製造する。

3)先進的核燃料リサイクル技術の研究開発
 経済性の一層の向上とともに、環境への負荷の低減、核不拡散性への配慮等の観点から期待される先進的核燃料リサイクル技術の研究開発については、動力炉・核燃料開発事業団において、アクチニドを含む燃料の設計及び炉心設計等各種研究開発を進める。また、金属燃料リサイクルシステムの研究開発、窒化物燃料に関する研究開発等を進める。


6.バックエンド対策の推進
 放射性廃棄物の処理処分及び原子力施設の廃止措置(バックエンド対策)を適切に実 施するための方策を確立することは、整合性のある原子力発電体系という観点から残さ れた最も重要な課題であり、原子力発電による便益を享受する現世代の責務でもある。
 特に、高レベル放射性廃棄物の処分については、研究開発を推進するととにもに、処 分の円滑な実施に向けて処分対策の全体像を明らかにする。
 また今後見込まれる原子力発電施設の廃止措置が適切に行われるよう、所要の制度整│ 備を進める。



(1)放射性廃棄物の処理処分対策
1)低レベル放射性廃棄物の処理処分対策
 原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物については、青森県六ヶ所村において民間により実施されている埋設処分を安全かつ円滑に推進するとともに、安全性実証試験等を引き続き実施する。

2)高レベル放射性廃棄物の処理処分対策
 使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物については、ガラスにより安定な形態に固化し、30年から50年程度の間冷却のための貯蔵をした後、地下深い地層中に処分(地層処分)することを基本方針としている。このため、原子力委員会に設置した「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」及び「原子力バックエンド対策専門部会」において、処分の社会的・経済的側面、技術的側面に関する審議を公開の下で進めており、処分の円滑な実施に向けた処分対策の全体像をできる限り速やかに明らかにするべく、一層の努力を傾注する。
 地層処分等に係る研究開発については、2000年までに技術的信頼性を明らかにするため、動力炉・核燃料開発事業団を中核として、関係機関の協力の下、地層処分システムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究等を推進する。
 また、地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を行うための超深地層研究所計画を推進するとともに、深地層研究をはじめとする研究開発と廃棄物の貯蔵を行う貯蔵工学センター計画については、地元との対話を通した理解に努める。

3)超ウラン核種を含む放射性廃棄物の処理処分対策
 超ウラン(TRU)核種を含む放射性廃棄物については、1990年代末を目途に、具体的な処分概念の見通しを得るため、動力炉・核燃料開発事業団等において技術的検討を進める。

4)RI廃棄物の処理処分対策
 放射性同位元素等の使用施設等から発生する放射性廃棄物(RI廃棄物)及び研究所等廃棄物については、処理処分に関わる技術的、制度的事項に関する検討を着実に進める。

(2)原子力施設の廃止措置
 廃止措置に係る技術開発については、平成8年3月に終了した日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)の解体実地試験において得られた成果を踏まえ、人的負担軽減が環境負荷の低減の観点から、原子炉解体技術の一層の高度化のための研究開発に取り組むとともに、信頼性を確かめるための確証試験等を実施する。
 廃止措置に伴い生じる廃棄物については、その大部分が放射性廃棄物ではないが、発生する低レベル放射性廃棄物のうち比較的放射性物質濃度の高いもの及びいわゆるクリアランスレベル等に関して、早ければ平成13年にも予定される原子力発電所の廃止措置の手続が開始されるまでに整備制度を進めることが重要であり、このための検討を進めるとともに、合理的処分に係る安全性実証試験等を進める。


7.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 原子力は、総合的な科学技術として新たなブレークスルーをもたらす基礎的な研究で あり、その強化とともに多様な分野への展開が期待される。
 このため、各研究機関の連携の下に基礎研究や基盤技術の開発に取り組んでいく。ま た、高温工学試験研究炉等、原子力エネルギーの生産や原子力利用分野の拡大に関する 研究開発を行うとともに、各研究機関の特性を生かし、各種加速器を利用して放射線に 関する研究開発を行う。さらに、実用化された場合には人類の恒久的なエネルギー源と して期待される核融合に関し、国際協力の下に研究開発を推進する。


(1)基礎研究及び基盤技術開発
 日本原子力研究所においては、先端基礎研究センターを中核として独創的な研究を推進するとともに、大学等との連携強化を図りつつ、X線レーザーの開発等を目標とした光量子科学研究、中性子科学研究、ポジトロン科学研究等の基礎研究を推進する。このほか、理化学研究所、国立試験研究機関においても幅広い分野で国内外の優れた研究者との交流を図りつつ基礎研究を実施する。
 日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、理化学研究所及び国立試験研究機関の連携の下、我が国独自の革新技術の創出につながる可能性のある基盤技術開発を推進する。対象分野として、引き続き放射線生物影響分野、ビーム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学技術分野の5技術分野に係る研究課題を重点的に推進する。


(2)原子力エネルギーの生産と原子力利用分野の拡大に関する研究開発
 日本原子力研究所において、受動的安全性を高めた原子炉等新しい概念の原子炉の研究開発、廃棄物の低減化を目指す湿式再処理法の高度化に関する研究や高温化学法による乾式再処理法に関する研究開発等を進める。また、高温工学試験研究炉(HTTR)の建設については、平成9年中の臨界達成を目指すとともに、高温工学に関する先端的基礎研究の予備試験を進め、核熱エネルギーを利用した水素製造等のための研究開発を行う。  また、原子力船「むつ」で得られた成果を活用し舶用炉の改良研究を引き続き行う。

(3)放射線に関する研究開発
 放射線利用については、各種のビームを利用した加速器を用いること等により、医療分野、工業分野、農林水産分野等、広範な分野での放射線に関する研究開発を推進する。
 放射線医学総合研究所においては、重粒子線がん治療の情報化及び高度化のための重粒子線高度がん治療推進センターの運用を開始するなど、重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いたがん治療臨床試行を着実に進める。また、放射線を利用した高度画像診断技術の研究開発を推進する。また、人体に対する低線量放射線の影響等を明らかにするための研究開発を引き続き行う。  日本原子力研究所においては、耐放射線性極限環境材料、機能材料の研究開発やライフサイエンス等の分野における画期的な新材料の開発等のため、イオン照射研究施設(TIARA)等での放射線高度利用研究等を推進する。
 理化学研究所においては、物質科学のフロンティアを目指して、重イオン科学用加速器を用いて、幅広い分野にわたる重イオン科学総合研究を推進する。さらに次世代のRI科学技術の開拓を目指し、RIビームファクトリーの整備に着手する。
 また、日本原子力研究所と理化学研究所においては、大型放射光施設(SPring−8)の加速器機器及び建屋の整備を進めるとともに、放射光ビームラインの整備を進め、本年秋の供用開始を目指す。

(4)核融合研究開発
 日、米、EU、露の四極の国際協力により進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、工学設計活動に主体的に参加し、必要な工学及び物理研究開発を着実に進めるとともに、四極によるITERの建設、運転、利用等に向けた準備的な国際協議等に参加する。また、ITERの立地環境に関する予備的な調査、安全性確証試験等を行うとともに、原子力委員会のITER計画懇談会において、今後のITER計画の進め方について幅広い検討を行う。
 また、日本原子力研究所においては、臨界プラズマ試験装置(JT−60)を用いたプラズマ性能等の高度化実験、さらに高性能トカマク開発試験装置(JFT−2M)を用いた先進材料の研究を推進するとともに、炉工学技術及びトリチウム取扱技術を始めとする研究開発を進める。また核融合科学研究所においては、平成9年度末の運転開始に向け、大型ヘリカル装置の建設を着実に進める。この他、大学・国立試験研究機関においては、各種閉じ込め方式による基礎的研究、炉工学技術等の研究を推進する。


8.核不拡散対応の強化
 原子力の平和利用を確保し、国際的な核不拡散体制に貢献していくことは、原子力の 利用を進めていく上での基本である。特に、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に 基づく国際的責務を誠実に履行するとともに、同条約に関する再検討会議に向けた準備 委員会会合が本年から開始されることを踏まえ、我が国としても、再検討プロセスに積 極的に参加していく。
 また、昨年、核兵器のない世界に向けた歴史的な一歩となる包括的核実験禁止条約( CTBT)が国連総会において採択され、我が国も署名したところである。今後、同条 約による国際的な核実験禁止の枠組みが早期かつ円滑に実現するよう努力していくとと もに、我が国としても、その批准のための国内制度の整備を図る。


(1)保障措置の充実・強化
 未申告の核物質や原子力活動の探知能力の向上を目指したIAEA保障措置の強化・効 率化方策について、既に合意した一部の施策の実施を順次進めていくとともに、現在IA EAで協議中の残りの施策の検討に積極的に参加する。近年の国際動向を踏 まえ、査察 等の効果的・効率的実施を目的とした新たな保障措置手法や技術の開発、機器整備等を進 め、国内保障措置体制の維持・強化を図る。この一環として、青森県六ヶ所村において建 設中の再処理施設について、保障措置の有効性向上のための技術開発及び保障措置の実施 に必要な体制整備を図る。
 また、今後とも、核物質防護の着実な実施を図ることとしており、六ヶ所再処理工場に おける核物質防護システムの開発等を行う。

(2)我が国の不拡散努力
 プルトニウム利用に関する透明性の向上を図るため、最近の国際動向を踏まえ、国際枠 組みの検討に積極的に参加するとともに、我が国の分離プルトニウムの管理状況の公表等 を行うほか、核物質等の新たな国籍管理の効率化システムの開発等を行う。
 北朝鮮への軽水炉供給については、平成7年末の朝鮮半島エネルギー開発機構(KED O)と北朝鮮との間での軽水炉供給取極の締結、KEDOによる現地視察の実施などによ り、着実な進展を見せているとことである。我が国としても、KEDOへの積極的な貢献 を通じて、今後とも北朝鮮が、平成6年の米朝合意に沿い誠実に行動し、IAEA保障措 置協定を完全に履行すること等を注視していく。


9.国際協力の推進
 旧ソ連における核兵器の削減に伴う非核化、保障措置制度の強化・効率化、包括的核 実験禁止条約の成立、旧ソ連型原子力炉の安全性問題等、国際的に協力して取り組むべ き課題が顕著になってきている。このため、二国間、多国間を通じた政策対話が一層求 められている。我が国は、平和利用先進国として、平和目的に限った原子力利用を図り 、各国の原子力開発利用の安全性の向上に貢献することを基本に、主体的に国際協力を 進める。


(1)先進諸国との国際協力
 先進国との協力については、核燃料サイクル関連技術、放射性廃棄物の処理処分等の研究開発の各分野に関し、米国、フランス等の先進国との二国間及びOECD等における多国間協力を進める。また、原子力施設の規制の充実に資するため、規制情報交換を進める。さらに、IAEA、OECD/NEA等の国際機関の活動に積極的に貢献するとともに、我が国の原子力活動に対する国際社会の理解の増進を図る。
 この他、核不拡散の観点から、旧ソ連の核兵器の解体に伴い発生するプルトニウム等の貯蔵・管理、平和利用等に関する国際的な検討に積極的に参加する。また、核兵器開発技術者の流出防止等のために設立された国際科学技術センターに対しての協力も引き続き行う。

(2)近隣アジア諸国との協力
 近隣アジア地域におけるRI利用・原子力研究等の進展に鑑み、アジア地域原子力協力国際会議をはじめとした協力国間での協議等を通じて適切な協力方策を検討していく。さらに、近隣アジア地域における最近の原子力発電の導入の気運の高まりを踏まえ、同地域内の対話を行っていくことにより、原子力発電の安全性確保等の重要性に関する地域全体の意識の醸成等が重要である。このため、「アジア原子力安全東京会議」のフォローアップとして規制情報の交換等、安全確保・安全規制面での体制整備のための協力の充実を図る。また、放射線・研究炉利用、安全確保対策、放射性廃棄物管理等の共通課題解決のため地域協力を進めるとともに、各種研修の実施や専門家派遣を通じ人材養成協力を推進する。


10.人材の養成と確保
 原子力開発利用の安全確保の一層の充実や関連する先端的技術開発の着実な推進を図 るためには、その担い手となる優秀な人材の養成と確保に努めることが不可欠である。
 このため、青少年を対象として公開実験教室など科学技術に親しむ機会を積極的に設 けるなど、原子力を含む科学技術への関心を高めるよう努める。また、科学技術基本計 画をも踏まえ、若手研究者の養成、研究開発システムの整備など、研究者の研究環境整 備を図る。


(1)青少年の原子力に関する学習機会の確保等
 原子力関連科学技術の理解の促進に資するため、未来科学技術情報館等の設置・充実や、地域の科学館の指導員の研修などにより原子力関連展示の充実を図る。
 また、原子力関連科学技術に関する実験を含んだセミナー等を展開するほか、学校向け副読本の作成等を行う。さらに、学校教育においては、現行学習指導要領の趣旨を踏まえ、原子力エネルギーに関する教育の一層の充実が望まれる。

(2)ポストドクター等若手研究者の支援・活用と研究開発機関間の連携の確保
 創造性豊かなポストドクター(博士課程修了者)等若手研究者が活躍できる研究環境の充実・強化を図る。また、大学等の研究者や学生が政府関係研究開発機関の研究設備・機 器等を利用する機会の増大・強化を図るなど人材養成面における関係機関の連携の推進を図る。

(3)原子力関連研究者・技術者等への研修の実施
 原子力発電施設等の安全確保業務に従事する者に対する都道府県等が行う研修事業について補助を行う。また、地方公共団体の職員等に対し、防災対策の充実強化、環境放射能分析に関する技術的能力の維持向上、大型再処理施設等の安全対策に関する能力向上、保障措置等の平和利用の前提となる核不拡散の担保措置の知識向上及び地震、耐震性に関する知識向上を図るための研修を実施する。また、日本原子力研究所国際原子力総合技術センター、放射線医学総合研究所等において養成訓練を引き続き実施する。さらに、原子力発電所等の運転員の長期養成計画、資格制度等の運用により運転員の資質向上を図る。
 また、原子力研究開発の国際化に鑑み、原子力先進国として、諸外国の研究者、技術者等の受け入れを行うほか、国際的な人材の養成に努める。





予  算  表