もんじゅナトリウム漏えい事故の調査状況について


      

平成9年1月24日
科学技術庁原子力安全局
                  原 子 炉 規 制 課



 もんじゅナトリウム漏えい事故の原因究明については、「もんじゅナトリウム漏えい事故調査・検討タスクフォース」(以下、タスクフォースという。)での検討を踏まえ、平成8年5月23日に報告書(以下、報告書という。)を取りまとめた。報告書は、事故の原因となった温度計の破損原因の究明について見通しが立ち、他の調査項目についても相当程度明らかになったことからまとめたものであり、事故の根幹は示されている。
 報告書のとりまとめ以降も調査を継続するとしていた主要な事項は、同一設計の温度計のうち、1本だけが破損した原因及びナトリウムと床ライナ等との反応についてである。このうち、後者については、平成8年6月に実施したナトリウム漏えい燃焼実験-IIにおいて、床ライナが損傷した結果を得たことから、同実験結果の解析と併せて検討を進めた。
 平成8年7月以降、6回のタスクフォース全体会合を開催し、継続調査事項について検討を進めてきたが、温度計が1本だけ破損した原因についての検討は終了しており、また、ナトリウムと床ライナ等との化学反応についても、もんじゅ事故時の反応と燃焼実験-IIの時の反応それぞれに関して反応機構を解明し、技術的な検討は終了した。


1. 2次系温度計が1本だけ破損した原因について
   2次系温度計は全体で48本設置されており、温度計を大きく主冷却系配管に設置されているもの(10本/ループ)、補助冷却系配管に設置されているもの(6本/ループ)に分け、更に、主冷却系配管ではホットレグ(中間熱交換器出口から過熱器入口まで)、ミドルレグ(過熱器出口から蒸発器入口まで)及びコールドレグ(蒸発器出口から中間熱交換器入口まで)に分けた。
  温度計の破損に関係すると思われる要素(流速、細管段付部の丸み、材料の結晶粒度、表面硬さ、振動の減衰特性、シース付熱電対の挿入状態等)を抽出して、各々について検討した。検討はA、B、C各ループ間に条件の大きな差はないと考えられるので、C-ループについて詳細に考察した。
  補助冷却系の温度計については、これまでのもんじゅの運転状態では、抗力方向の振動が発生する条件と考えている無次元流速が1以上という条件に至らないことから、破損が生じる可能性はなかったと判断した。
主冷却系の各温度計については、温度計さやの振動の減衰特性以外に大きな相違はなく、コールドレグ温度計さやの場合他のものより減衰が大きくなりさや細管部の振動振幅はもっとも小さくなった。
  ホットレグ及びミドルレグの温度計では、温度計さや中に挿入しているシース付熱電対(以下、シースという。)の状況を基に検討を進め、シースが曲がって挿入されていたことと、振動の減衰との関係を考察した。その結果、シースの先端から約150mmのところで曲がったシースが挿入されている場合には、振動の減衰が小さいことが判明した。同時にシース外表面に残されていた摺動痕とシースの曲がり方との関係を考察した。
  それらの結果から、破損した温度計では、シースが、振動の減衰が小さくなる曲がり方をして挿入されていたことが1本だけ破損した原因であるとの結論を得た。


2. ナトリウムと床ライナ等との反応について
  報告書において、換気空調ダクトとグレーチングが損傷した原因をナトリウム酸化物と鉄または鉄酸化物とが反応して複合酸化物を形成したことに起因すると推定した。動燃の大洗工学センターで、ナトリウム漏えい燃焼実験-IとIIが実施され、前者ではもんじゅ事故時と類似の堆積物が形成されたものの、換気系の目詰まりにより1時間30分程で実験を中止した。後者においては、3時間42分ナトリウムを漏えいさせたが、形成された堆積物は極めて薄く、堆積状態ももんじゅ事故時とは異なるものであり、かつ、床ライナが損傷した。
  両実験とも堆積物の分析において、ナトリウム・鉄の複合酸化物の形成が確認でき、換気空調ダクト、グレーチング及び床ライナとも熱により溶融する温度には至っていないことから、化学反応による鋼材の損傷が明確になった。
もんじゅ事故の場合と燃焼実験-IIとを比較すると、換気空調ダクト、グレーチング、床ライナの位置関係は合わせているが、実験装置の大きさ、観察のためのカメラ設置及びカメラ前面への空気の吹き込み、コンクリート壁の配置状態等において条件が相違していた。
  堆積物の成分分析により、燃焼実験-IIでは、水酸化ナトリウムが多量に存在したことが判明した他、鋼材の損傷部分の分析で選択的な腐食が認められるとともに、グレーチングの減肉形態がもんじゅ事故時と相違していた。
  これらの点に着目して反応の過程を考察した結果、
 1)もんじゅでナトリウム漏えいが発生した配管室と実験装置との大きさの違いにより、実験装置内部の温度の方が高くなり、コンクリート壁の温度も実験装置の方が高くなった。
 2)コンクリート壁からの水分放出及び換気空調系からの水分供給を合わせた水分量が燃焼実験-IIの方が多くなった。
 3)水分は、漏えいナトリウムのエアロゾル(酸化ナトリウム又は過酸化ナトリウム)と反応して水酸化ナトリウムとなるが、燃焼実験-IIではエアロゾルと反応しなかった余剰水分が生じ、その水分が堆積物に作用し水酸化ナトリウムが形成された。
 4)もんじゅ事故の場合は、酸化ナトリウムを含むナトリウムの溶融体が形成され、燃え尽きた酸化ナトリウムが下側に層をなし、そこに滴下した未燃焼ナトリウムが存在した状態で酸化ナトリウム層に浸み込みながら燃焼した。この環境下で、鉄が酸化ナトリウムと反応することで複合酸化物を形成し、軽微な腐食が生じた。
燃焼実験-IIの場合は、水酸化ナトリウムの溶融体が形成され、その上で未燃焼ナトリウムが滴下して燃焼し、酸化ナトリウム及び過酸化ナトリウムが水酸化ナトリウム溶融体中に溶け込んだ状態となった。この溶融体中で過酸化ナトリウムが解離することで発生する酸素イオンが鋼材を腐食させた。
 5)もんじゅ事故の場合、ライナに1mm強の部分腐食がみられ、一方、燃焼実験-IIでは、ライナに穴があいたが、それぞれの腐食機構は異なるものであった。ナトリウム中に酸化ナトリウムを溶け込ませた溶融体や水酸化ナトリウム中に過酸化ナトリウムを溶け込ませた溶融体を用いて実施した鋼材の腐食試験の結果から推定した腐食速度からみても、もんじゅ事故時の床ライナの減肉及び燃焼実験-IIでの床ライナ損傷が可能である。
 との結論を得た。