「エネルギー政策における疑問点」に
対しての基本的な考え方

 

平成14年8月22日
原子力委員会


はじめに

 原子力政策は、国民の方々の支持を受けて進めるものであることは言うまでもありません。そのためには、原子力政策に責任を有する原子力委員会が、国民各界各層の意見を伺い、これを政策に反映するとともに、政策の考え方を説明する責務を有していると考えております。

 以上の考えのもと、平成14年8月5日に原子力委員会は、佐藤福島県知事との意見交換を行いました。当日は、佐藤知事より原子力政策に対する様々なお考えを直接伺うことができ、大変有意義な意見交換であったと認識しております。ただ残念ながら、提示されました疑問点につきましては、会議時間の制約があり、十分にご説明することができませんでした。

 このため、当委員会は福島県に対しまして、中間報告等をまとめられる前に、当方の見解を述べさせていただき、議論を交わすことのできる機会を設けていただけるよう求めているところです。
 また、これを待つことなく、先の意見交換の場で佐藤知事が提示されました14項目の疑問点に対して、原子力委員会としてお答え申し上げるべく、基本的な考え方を明らかにすることに致しました。詳細につきましては、直接お目にかかって、お話し合いをさせていただきたいと考えております。
 本資料が、福島県知事をはじめ、国民の皆様の原子力政策に対するご理解と、皆様とのお話し合いに向けての一助となればと思い、公表しました。


平成14年8月22日
原子力委員会


Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて
(1)情報公開は十分におこなわれているのか。

  1. 原子力委員会では、「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「長期計画」という)の策定会議、それに伴う各分科会の審議、その他原子力政策に関わる様々な部会および懇談会等における審議・検討を公開のもとに実施するとともに、報告書等の取りまとめの際には広く一般のご意見を公募することとし、政策決定プロセスの透明化に努めております。

  2. 情報公開に関しては、平成8年9月25日「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」とする原子力委員会決定を行いまして、他の分野に先がけて原子力委員会の専門部会等の公開を実施いたしました。
    また、議事録、会議等の資料を速やかに提供しております。

  3. なお、福島県からご指摘の発電コストに係る資料につきましては、情報公開法に基づく情報公開審査会の審議結果に従い、追加的に開示すべきとされました情報も、既に開示されていると理解いたしております。
    この結果、情報公開審査会が、単価の内訳等その公表が企業活動に影響を与えると判断し、不開示としたもののみが、不開示とされていると承知いたしております。従いまして、お尋ねいただいたこの件は、情報公開法の手続きに則して、適切に行われていると考えております。

Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて

(2)政策に広く国民の声が十分に反映されているのか。

  1. 政策決定のプロセスにおきまして、原子力委員会が報告書をまとめる際には、この報告書に対してのパブリック・コメントの募集を広く行い、それらを報告書に反映させるべく努力をいたしております。

  2. 例えば、原子力政策の基本となる長期計画においては、原子力政策円卓会議のご議論及びご提言、また意見募集に対して国民の方々から寄せられた多数のご意見、並びに東京都、青森県、福井県の3ヶ所で、全て公開の下に開催いたしました「ご意見をきく会」において、直接伺わせていただいたご意見等を踏まえて作成したと考えております。

  3. また原子力委員会では、政策の策定プロセスにおいて、まず「広聴」を旨とし、市民参加の拡大をはかり、国民の方々との信頼関係を確立する方策を市民参加のもとで検討するために、昨年、「市民参加懇談会」を設置いたしました。
    これまで、新潟県刈羽村及び東京都において同懇談会を開催し、原子力政策はもとより、日本のエネルギー政策、需要・供給のあり方、ひいては、日本の生き方に対するお考えについても、広くご意見を伺ってまいりました。今後もできるだけ多くの地域でご意見を伺ってまいります。

  4. なお、随時、原子力委員会に寄せられるご意見・ご質問については、責任を持って対応させていただき、出来る限り政策の策定プロセスに反映出来るよう、努力してまいります。

Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて

(3)原子力政策の評価が適切になされているのか。

  1. 原子力政策の基本となる長期計画につきましては、ほぼ5年ごとに施策の実施状況を評価し、内容の見直しを行っております。その際には、国民の方々からのご意見の募集を含め、国内外からの幅広いご意見を踏まえて評価を行っております。

  2. 具体的な例を挙げますと、高速増殖炉については、平成7年の高速増殖炉「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故を踏まえ、平成9年に「高速増殖炉懇談会」を設置し、将来の高速増殖炉開発の在り方について幅広い審議を行ってまいりました。
    その結果として、高速増殖炉については、将来の原子力、ひいては非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢とし、実用化の可能性を技術的、社会的に追求するためには、その研究開発を進めることが妥当とされました。しかし、実用化時期を含めた開発計画については、柔軟に対応していくとの結論がなされております。この結論が長期計画にも反映されました。

  3. また、原子力委員会では、昨年、総合企画・評価部会を設置し、原子力政策全般の進捗状況について評価等を行っております。

Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて

(4)どこで原子力政策が決定されるのか。

  1. 我が国の原子力政策の責任者は原子力委員会であり、原子力政策の企画・審議・決定を行う責任を有しています。

  2. 関係行政機関の長は、この原子力委員会の決定を尊重し、その責任において、国会による必要な法律の制定や、予算の承認に基づいて、個々の政策を推進するということが、国の原子力政策の基本的枠組みとなっております。

Ⅱ.エネルギー政策における原子力発電の位置付けについて

(1)原子力推進の理由は国民に対して説得力をもつのか。

  1. 我が国のエネルギー政策におきましては、環境保全を図りつつ、いかにエネルギーを将来にわたって安定的に確保していくかが重要な課題です。本年6月に成立したエネルギー政策基本法でも、同様な認識が示されております。

  2. この課題の検討に当たっては、我が国は送電線やパイプラインによって、近隣諸国とエネルギーを融通し合える状況にない島国であること、国内にエネルギー資源が乏しく、そのほとんどを海外に依存しているという地理的・資源的条件を考慮することが必要だと考えております。

  3. 原子力発電は、他のエネルギー源に比べますと供給安定性に優れており、備蓄が容易であること、また発電の過程において二酸化炭素を発生しないという特長を有しております。上記の課題を達成するために、安全を最優先として、原子力発電を最大限に利用していくことが合理的であると考えます。

  4. このように、エネルギーセキュリティ、地球温暖化対策等を総合的に勘案した上で、安全の確保を大前提に原子力発電を推進することを国として判断し、国民の方々のご理解をいただく努力を重ねております。

Ⅱ.エネルギー政策における原子力発電の位置付けについて

(2)電力自由化の中で原子力発電をどのように位置付けていくのか。

  1. 電力自由化をふくむ電気事業制度のあり方については、現在、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会で検討がなされております。しかし、結論にはいまだ至っておりません。

  2. 同分科会におきましては、原子力発電は、エネルギーセキュリティや環境性に優れ、エネルギー政策の観点からも、引き続き重要な基幹電源として位置づけられるなどの認識が示されていると理解しております。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(1)資源の節約、ひいては安定供給につながるのか。

  1. 世界の現状を眺めますと、中国をはじめとするアジア経済の躍進等により、将来的なエネルギー需給見通しに予断が許されない状況にあります。過去の石油危機などの経験を踏まえれば、エネルギー自給率のきわめて低い我が国は、エネルギー供給の確保を技術的に可能とする手段として、核燃料サイクルの確立を図っていくことが必要不可欠と考えております。

  2. 核燃料サイクルとは、原子炉の中で生じるプルトニウムを回収し、再び燃料として利用するものです。このように、全量輸入であるウラン資源を有効に利用し、その消費を節約できることで、我が国のエネルギー自給率を向上させることになります。このことは、安定供給にすぐれているという原子力発電の特性を、さらに向上することができると考えます。
    一回限りしか利用できない石油や石炭といった化石燃料では、このような資源の節約はできません。

  3. また、現在研究開発が進められている、高速増殖炉とそれに関連する核燃料サイクル技術が実現すれば、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、技術により安定供給・エネルギー自給への道を開くことも可能と言えます。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(2)経済性に問題はないのか。

  1. 核燃料サイクルは、一次エネルギー資源の乏しい我が国にとり、将来的なエネルギー供給確保の技術的手段として、資源の有効活用の観点から循環型社会の実現に寄与するものと考えます。リサイクルに一定のコストがかかるのは、他の資源と同じです。しかし、原子力発電の経済性は、リサイクルのコストを含めても、他の電源との比較において遜色がないとの試算結果が得られております。

  2. なお、核燃料サイクルを確立することは、将来、石油や石炭などの化石資源の需給が逼迫化してきたときに、原子力発電の優位性を高めるものと考えます。


我が国の原子力発電及び各種電源の運転期間発電原価



Ⅲ.核燃料サイクルについて

(3)プルトニウムバランスはとられているのか。

  1. 我が国のプルトニウム利用については、従来より利用目的のない余剰プルトニウムは持たないということを大原則としております。

  2. 我が国では、海外再処理及び国内再処理で回収されるプルトニウムは、当面、高速増殖炉等の研究開発や、軽水炉によるプルサーマルで利用していく予定ですが、プルトニウムの需要は、プルサーマル等の導入の進展により変動する可能性があります。

  3. 平成17年に運転開始が予定されている六ヶ所再処理工場によって分離されるプルトニウムについては、引き続き厳格な保障措置体制の下で管理を行うこととしております。加えて、より一層の利用の透明性の向上を図るとの観点から、原子力委員会としては、プルトニウム利用計画を明らかにした上で、再処理を実施していく必要があると考えております。

  4. 具体的には、使用済燃料の再処理の量、プルトニウムの利用者、利用施設等の利用用途についても公表することを前提に、現在検討を行っているところです。今後とも、この対応について責任をもって取り組んでまいります。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(4)高速増殖炉の実現可能性はどうなのか。

  1. 高速増殖炉(FBR)とそれに関連する核燃料サイクル技術(以下「FBRサイクル技術」という)は、ウランの利用効率を飛躍的に高めることができ、我が国のエネルギーセキュリティを確かなものにする可能性や、高レベル放射性廃棄物中に残留する放射能を少なくし、環境負荷を更に低減させる可能性を有するものと考えております。 このため、FBRサイクル技術は、将来のエネルギー問題を解決する技術的選択肢の中でも、潜在的可能性が最も大きいもののひとつであると考えます。

  2. 高速増殖原型炉「もんじゅ」については、このFBRサイクル技術研究開発の場の中核施設であり、実用化に向けた研究開発を行うため、早期の運転再開を目指すことが重要であると考えます。
     現在、事故の原因究明等の結果を踏まえた安全対策を実施するため、昨年提出された原子炉設置変更許可申請についての二次審査を行っておりまして、安全審査終了後、早期の運転再開を期待しております。

  3. また、FBRサイクル技術としての適切な実用化像と、その研究開発計画の提示を目的とした実用化戦略調査研究を、核燃料サイクル開発機構と電力会社等が協力し実施しておりまして、高速増殖炉の実用化に向けた研究開発を着実に進展させる努力をいたしております。

Ⅲ.核燃料サイクルについて
(5)再処理は、放射性廃棄物の量を大幅に削減できるのか。

  1. 再処理することにより、ウラン、プルトニウムといった有用物質が回収されます。そのため、廃棄体に含まれる放射性物質の量は大幅に減少し、環境負荷の低減に寄与することとなります。

  2. 再処理に伴い低レベル廃棄物が発生しますので、廃棄体の総量は少なくなりませんが、高レベル廃棄物の体積は使用済燃料の体積に比べて半分程度になると考えております。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(6)使用済みMOX燃料の処理はどうするのか。

  1. 使用済MOX燃料の再処理については、現在核燃料サイクル開発機構において進められている、使用済MOX燃料再処理技術開発の研究開発成果等を踏まえて、今後、具体的な対応について検討していくことになると考えます。

  2. なお、再処理されるまでの間の貯蔵については、使用済ウラン燃料と同様、発電所又は中間貯蔵施設において適切に貯蔵されると考えております。

Ⅳ.電源地域の将来について

(1)廃炉にする場合のプロセスの明確化が必要ではないか。

 現行制度では、廃炉を行う場合、原子炉等規制法、電気事業法に基づく届出が規制上必要となっております。 廃炉する場合は、地域との共生の観点からも、また、そのプロセスを明確にするためにも、原子炉設置者がその責任において、事前に立地地域の関係する方々へ十分な説明を行い、地域社会の理解と支援をいただいて、誠意を持って施策を進めることが重要と考えております。

Ⅳ.電源地域の将来について

(2)自律的な地域への円滑な移行ができるのか。

  1. 原子力発電所とその立地地域が、常に共存を図っていくことは当然であると認識しておりますが、地域振興に関しては、基本的には、立地地域が自らの発展のビジョンを主体的に描き、構築していくことが重要と考えます。

  2. 立地地域では、関係行政機関が、地域の自助努力を支援する形で講じております種々の施策を、有効に、かつ、最大限活用されつつ、それぞれの地域においての振興方策を、着実に具体化されていくことを望みます。

おわりに


 今回、佐藤福島県知事からご提示をいただいた14項目の疑問点に対して、原子力委員会としてお答えをする形で、基本的な考えを述べさせていただきました。

 既に、8月5日の意見交換の中でお示ししましたように、原子力委員会といたしましては、我が国の現在、そして将来を見通した原子力政策の選択肢として、核燃料サイクルに関しては、エネルギーセキュリティ等の観点から、最も合理性を有するものと判断いたしております。

 この政策の実施に当たりましては、地域行政との調和を図りながら、我が国全体としての整合性を確保することが必要であり、また望ましいと考えております。
 しかしながら、現実的問題として、使用済燃料の再処理を行うという事業が、原子力発電所における使用済燃料対策をも同時に担っていることから、現時点でプルサーマルを凍結した場合、原子力発電立地県におきまして、使用済燃料対策問題を惹起し、原子力発電の運用に支障をきたすのではないかと懸念しております。

 原子力委員会といたしましては、このような問題について具体的な政策手段に基づいた責任ある政策論が必要であると考えておりまして、佐藤知事とのお話し合いの中で、原子力政策の議論を深め、今後の日本の原子力政策を確認し合いたいと考えております。
 また、多くの国民の皆様の原子力についてのお考えも、ぜひ、お聞かせいただきたいと願っております。