「エネルギー政策における疑問点」に対する基本的な考え方
(案)

 

平成14年8月20日
原子力委員会


はじめに

原子力政策は国民の方々の支持を受けて進めるものであることは言うまでもありません。そのためには、原子力政策に責任を有する原子力委員会が、国民各界各層の意見を伺い、これを政策決定に反映するとともに、政策の考え方を説明する責務を有していると考えております。
以上の考えのもと、平成14年8月5日に原子力委員会は、佐藤福島県知事との意見交換を行いました。当日は、佐藤知事より原子力政策に対する様々な考えを直接伺うことができ、大変有意義な意見交換であったと認識しております。ただ残念ながら、提示された疑問点につきましては、会議の時間の制約から十分に説明することができませんでした。
このため、当委員会は福島県に対し、中間報告等をまとめる前に、当方の見解を議論する機会を設けるよう求めているところです。また、これを待たずに先の意見交換で佐藤知事が提示された14項目の疑問点に対して、原子力委員会としての基本的な考え方を明らかにすることに致しました。なお、電気事業制度のあり方などの項目については、関係行政機関としても説明責任を果たしたい旨の意向がありましたので、付言させていただきます。
本資料が、国民の皆様の原子力政策に対する理解の一助となれば幸いです。


平成14年8月20日
原子力委員会


Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて
(1)情報公開は十分におこなわれているのか。

  1. 原子力委員会では、原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(以下「長期計画」という)の審議、その他様々な部会・懇談会における検討等を公開のもとに実施するとともに、報告書等の取りまとめの際には広く一般の意見を公募するなどし、政策決定プロセスの透明化に努めています。

  2. 情報公開に関しては、平成8年9月25日「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」とする原子力委員会決定を行い、他の分野に先がけて原子力委員会の専門部会等の公開を実施し、また、議事録、会議等資料を速やかに提供しています。

  3. なお、福島県から指摘の発電コストに係る資料については、情報公開法に基づく情報公開審査会の審議結果に従い、追加的に開示すべきとされた情報も、既に開示されていると承知しております。この結果、審査会が単価内訳等その公表が企業活動に影響を与えることから不開示と判断したもののみが、不開示となっていると承知しております。よって本件は、情報公開法の手続きに則して、適切に行われていると考えます。

Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて

(2)政策に広く国民の声が十分に反映されているのか。

  1. 政策決定過程において原子力委員会が報告書をまとめる際には、報告書に対しパブリック・コメントの募集を広く行い、それらを報告書に反映しています。

  2. 例えば原子力政策の基本となる長期計画は、原子力政策円卓会議の議論及び提言、国民からの意見募集に対して寄せられた多数の意見、並びに東京都、青森県、福井県の3ヶ所で全面公開の下に開催した「ご意見をきく会」において直接伺った意見を踏まえて作成しております。

  3. また原子力委員会では、政策の策定プロセスにおける市民参加の拡大を通じて、国民との信頼関係を確立する方策を検討するために、昨年、市民参加懇談会を設置しました。これまで、新潟県刈羽村及び東京都において同懇談会を開催し、国民の原子力に対する考えについて広くご意見を伺ってきたところです。

Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて

(3)原子力政策の評価が適切になされているのか。

  1. 原子力政策の基本となる長期計画については、ほぼ5年ごとに施策の実施状況を評価し、内容の見直しを行っています。その際には、国民からの意見募集を含め国内外からの幅広い意見を踏まえています。

  2. 具体的な例を挙げると、高速増殖炉については、平成7年の高速増殖炉「もんじゅ」ナトリウム漏えい事故を踏まえ、平成9年に高速増殖炉懇談会を設置し、将来の高速増殖炉開発の在り方について幅広い審議を行ってきました。その結果高速増殖炉については、将来の原子力ひいては非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、実用化の可能性を技術的、社会的に追求するために、その研究開発を進めることが妥当としているが、実用化時期を含めた開発計画については柔軟に対応していくとの結論をとりまとめました。この結論が長期計画にも反映されています。

  3. また、原子力委員会では、昨年、総合企画・評価部会を設置し、原子力政策全般の進捗状況について評価等を行っています。

Ⅰ.原子力政策の決定プロセスについて

(4)どこで原子力政策が決定されるのか。

  1. 我が国の原子力政策の責任者は原子力委員会であり、原子力政策の企画・審議・決定を行う責任を有しています。

  2. 原子力委員会の決定を尊重し、関係行政機関は、主務大臣の責任において、国会による必要な法律の制定や予算の承認に基づき個々の政策を推進するということが国の原子力政策の基本的枠組みとなっております。

Ⅱ.エネルギー政策における原子力発電の位置付けについて

(1)原子力推進の理由は国民に対して説得力をもつのか。

  1. 我が国のエネルギー政策においては、環境保全を図りつつ、いかにエネルギーを将来にわたって安定的に確保していくかが重要な課題です。その際、我が国は送電線やパイプラインによって近隣諸国とエネルギーを融通し合える状況にない島国であること、国内にエネルギー資源が乏しく、そのほとんどを海外に依存しているという地理的・資源的条件を考慮することが必要です。

  2. ここで、原子力発電は、他のエネルギー源に比べて供給安定性に優れており、備蓄が容易であること、また発電過程において二酸化炭素を発生しないという特徴を有していることから、上記の課題を達成するために原子力発電を最大限に利用していくことが合理的であると考えます。

  3. このように、エネルギーセキュリティ、地球温暖化対策等を総合的に勘案した上で、安全の確保を大前提に原子力発電を推進することを国として判断しているものです。

Ⅱ.エネルギー政策における原子力発電の位置付けについて

(2)電力自由化の中で原子力発電をどのように位置付けていくのか。

  1. 電気事業制度のあり方については、現在、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会で検討がなされているところであり、結論には至っていないと承知しております。

  2. 同分科会において、原子力発電は、エネルギーセキュリティや環境性に優れ、エネルギー政策の観点からも引き続き基幹電源に位置づけられる等との認識が示されていると理解しております。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(1)資源の節約、ひいては安定供給につながるのか。

  1. 中国をはじめとするアジア経済の躍進等により将来的なエネルギー需給見通しに予断が許されない状況において、過去の石油危機などの経験を踏まえれば、エネルギー自給率の低い我が国は、エネルギー供給確保を技術的に可能とする手段である核燃料サイクルの確立を図っていくことが必要不可欠です。

  2. 核燃料サイクルは、原子炉の中で生じるプルトニウムを回収し燃料として利用するものです。全量輸入であるウラン資源の消費を節約できることで、我が国のエネルギー自給率を向上させ、安定供給にすぐれているという原子力発電の特性をさらに向上することができます。

  3. また、現在研究開発が進められている、高速増殖炉とそれに関連する核燃料サイクル技術が実現すれば、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高め、技術によりエネルギー自給への道を開くことも可能となります。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(2)経済性に問題はないのか。

 一次エネルギー資源の乏しい我が国にとって、核燃料サイクルは将来的なエネルギー供給確保策の技術的手段として、資源の有効活用を通した循環型社会の実現に寄与するものです。リサイクルに一定のコストがかかるのは、他の資源と同じですが、リサイクルのコストを含めても、原子力発電の経済性は他の電源との比較において遜色がないとの試算結果が得られています。



Ⅲ.核燃料サイクルについて

(3)プルトニウムバランスはとられているのか。

  1. 我が国のプルトニウム利用については、従来より利用目的のない余剰プルトニウムは持たないということを大原則としております。

  2. 平成17年に運転開始が予定されている六ヶ所再処理工場によって分離されるプルトニウムについては、引き続き厳格な保障措置体制の下で管理を行うことに加え、より一層の利用の透明性の向上を図るとの観点から、原子力委員会としては、プルトニウム利用計画を明らかにした上で再処理を実施していく必要があると考えております。

  3. 具体的には、使用済燃料の再処理量、プルトニウムの利用者、利用施設等の利用用途について公表すべく検討を行っているところであり、今後ともこの対応について責任をもって取り組んでいきます。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(4)高速増殖炉の実現可能性はどうなのか。

  1. 高速増殖炉(FBR)とそれに関連する核燃料サイクル技術(以下「FBRサイクル技術」という)は、ウランの利用効率を飛躍的に高めることができ、我が国のエネルギーセキュリティを確かなものにする可能性や、高レベル放射性廃棄物中に残留する放射能を少なくして環境負荷を更に低減させる可能性を有するものです。このため、FBRサイクル技術は、将来のエネルギー問題を解決する技術的選択肢の中でも潜在的可能性が最も大きいもののひとつであると考えております。

  2. 高速増殖原型炉「もんじゅ」についてはこのFBRサイクル技術の研究開発の場の中核施設であり、実用化に向けた研究開発を行うため、早期の運転再開を目指すことが重要であると考えています。現在、事故の原因究明等の結果を踏まえた安全対策を実施するため、昨年提出された原子炉設置変更許可申請についての二次審査が行われているところであり、安全審査終了後、早期の運転再開が期待されるところです。

  3. また、FBRサイクル技術として適切な実用化像とその研究開発計画を提示することを目的とした実用化戦略調査研究を実施しており、高速増殖炉の実用化に向けた研究開発を着実に進展させております。

Ⅲ.核燃料サイクルについて
(5)再処理は、放射性廃棄物の量を大幅に削減できるのか。

  1. 再処理することにより、ウラン、プルトニウムといった有用物質が回収されるため、廃棄体に含まれる放射性物質の量は大幅に減少し環境負荷の低減に寄与することとなります。

  2. 再処理に伴い低レベル廃棄物が発生しますので、廃棄体の総量は少なくなりませんが、高レベル廃棄物の体積は使用済燃料の体積に比べて半分程度になると考えます。

Ⅲ.核燃料サイクルについて

(6)使用済みMOX燃料の処理はどうするのか。

  1. 使用済MOX燃料の再処理については、六ヶ所再処理工場に続く再処理工場において、使用済MOX燃料の再処理を行うことが適当であると考えており、現在実施されている核燃料サイクル開発機構における研究開発等の成果を踏まえ、具体的な進め方について検討していくこととなると考えます。

  2. なお再処理されるまでの間の貯蔵については、使用済ウラン燃料と同様、発電所又は中間貯蔵施設において適切に貯蔵されることになります。

Ⅳ.電源地域の将来について

(1)廃炉にする場合のプロセスの明確化が必要ではないか。

 現行制度では廃炉を行う場合、原子炉等規制法、電気事業法に基づく届出が規制上必要となっています。
廃炉にあたっては、原子炉設置者がその責任において、地域との共生の観点からも事前に立地地域の関係する方々へ十分説明する等地域社会の理解と支援を得つつ進めることが重要と考えます。

Ⅳ.電源地域の将来について

(2)自律的な地域への円滑な移行ができるのか。

  1. 原子力発電所とその立地地域が共存を図っていくことは当然であると認識していますが、地域振興に関しては、基本的には、立地地域が自らの発展のビジョンを主体的に構築することが重要と考えます。

  2. 立地地域は、関係行政機関が地域の自助努力を支援する形で講じている種々の施策を最大限活用しつつ、それぞれの地域において、振興方策を着実に具体化していくことが望まれます。

おわりに

 原子力委員会といたしましては、核燃料サイクルに関しては、我が国の現在、そして将来を見通した原子力政策の選択肢として、エネルギーセキュリティ等の観点から最も合理性を有するものと判断しております。
 また、政策の実施に当たっては、地域行政との調和を図りつつ、我が国全体としての整合性を確保することが望ましいと考えます。しかしながら、佐藤知事が示唆されたように、現時点でプルサーマルを凍結した場合、現実的問題として使用済燃料の再処理が原子力発電所における使用済燃料対策をも同時に担っていることから、福島県のみならず他の原子力発電立地県において、使用済燃料対策問題を惹起し、原子力発電の運用に支障をもたらすのではないかと考えます。
 原子力委員会といたしましては、このような問題について具体的な政策手段に基づいた責任ある政策論が必要であると考えており、佐藤知事の具体的なお考えをお聞かせいただくことにより、今後の原子力政策の議論に反映したいと考えております。