原子力試験研究の事前及び中間評価結果について

平成14年7月30日
原子力委員会
原子力試験研究検討会
1.評価対象課題
・事前評価-平成15年度開始予定の新規課題(41課題)
・中間評価-平成12年度開始(開始3年目)の継続課題(18課題)
計(59課題)

2.研究評価課題の分野別分類
1) 生体・環境影響基盤技術分野
  • 新規(事前) 20課題
  • 継続(中間)  7 課題
    (当該分野の新規課題については、応募総数20課題中、書類一次審査に合 格した13課題のみヒアリングを実施。)
2) 物質・材料基盤技術分野
  • 新規(事前) 12課題
  • 継続(中間)  9課題
3) 知的基盤技術分野
  • 新規(事前)  3課題
  • 継続(中間)  0課題
4) 防災・安全基盤技術分野
  • 新規(事前)  6課題
  • 継続(中間)  2課題

(参考:各分野の概要)
<生体・環境影響基盤技術分野>
 放射線による突然変異の検出・解析、環境中の核種移行など、生体・環境への影響を解明するための先端的技術の開発に関する研究。 放射線による品種改良、食品等の保存、滅菌、新たな診断・治療法、環境モニタリングなどに関する研究も含むが、RIや放射線の単なる利用・応用は除く。
<物質・材料基盤技術分野>
 原子炉等の安全に寄与する新材料の開発や物質・材料等の分析・計測技術の高度化を図るための基盤的技術(各種ビームの先端的利用等)の開発に関する研究。レーザー等による環境浄化の方法なども含むが、RIや放射線の単なる利用・応用は除く。
<知的基盤技術分野>
 原子力施設の運転・保守等の安全性の向上に資する知能システム技術及び計算科学技術の原子力分野への応用に関する研究。
<防災・安全基盤技術分野>
 原子力防災に資する耐震・防災技術及び放射性廃棄物の地層処分等、バックエンド対策に資する先端的技術の開発に関する研究。

3.評価の実施方法
 基本的な考え方及び評価基準(参考1)に基づき、研究計画、研究成果等を記載した書類審査(書類一次審査含む)およびヒアリング(説明15分、質疑8分)による評価(A,B,Cの3段階評価)を実施。各評価の段階は以下のとおり。
  • A評価:ほぼ計画どおり実施。
  • B評価:予算を含めた研究計画に修正が必要(不採択及び継続中止もあり得る)
  • C評価:不採択及び継続中止
4.評価結果
評価結果


<添付資料>

参考1 原子力試験研究における研究評価の基本的な考え方及び評価基準について
参考2 各分野における研究評価の実施状況について
参考3 A評価課題の研究概要について
参考4 評価結果一覧および各課題毎の総合所見(PDFファイル:290KB)
参考5 原子力試験研究検討会委員名簿


(参考1)

原子力試験研究における研究評価の基本的な考え方及び評価基準について


 原子力委員会が策定した「原子力試験研究に係る研究評価実施要領」(平成13年5月15日原子力試験研究検討会)に基づき、以下の方針にて研究評価を実施した。


1.基本的な考え方
 研究評価は、研究開発の効果的な推進のために実施するものであり、具体的には以下を目的として行う。
1)国際的な先導性の観点に立って、技術のブレークスルーや創造的技術の創出に繋がる優れた研究を創成し、実施する。
2)厳しい財政事情のもと、限られた財政資金の重点的、効率的配分を図る。
3)研究者の創造性が十分発揮されるような、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境を実現する。
4)国民に研究開発の実体を公開し、研究開発に対する国費の投入について、広く国民の支持と理解を得る。


2.評価基準
 (1) 事前評価
 事前評価の実施に当たっては、
○研究開発の方向性・目的・目標等の決定
○着手すべき課題の決定
○研究資金等の研究開発資源の配分の決定
○期待される成果・波及効果の予測
○研究開発計画・研究開発手法の妥当性の判断
等を行うため、各WGが当該領域の性格等を考慮して、以下の評価基準により行った。
(a)研究内容は原子力試験研究費の基本方針にかなったものか。
(b)研究目標と研究計画が、最新の学術研究の成果と動向を充分に踏まえて設定され立案されているか。
(c)申請者の準備状況も含め、申請者に、設定された目標を期限内に達成できる能力があると認められるか。
(d)期間が限られたプロジェクトであることから、研究の目的・目標が絞り込まれ、実施の手順、方法が十分検討されているかどうか。
(e)現象の捉え方や手法に独創性があり、その成果が当該分野のみならず、他の分野にも大きな波及効果が期待できるかどうか。
(f)社会的要請が強い課題については、その緊急性に鑑み、研究組織を含めた研究計画全般を見直すことを視野に入れて、評価を行った。
(g)研究経費(案)は、費用対効果を充分に踏まえて立案されているか。
(h)使用または購入する機器や解析手法の開発における予算配分が妥当かどうか(外部委託の程度)。

 (2) 中間評価
 中間評価の実施に当たっては、
○研究開発の進捗状況の把握
○研究開発の目的・目標の見直し
○研究開発の進め方の見直し(継続、変更、中止等の決定)
○研究資金等の研究開発資源の再配分の決定
等を行うため、各WGが当該領域の性格等を考慮して、以下の評価基準により行った。
(a)これまでの研究が当該課題が採択された当初の研究目的に沿って進展してきたか
(b)研究課題、実施内容が本来の原子力試験研究として相応しいかどうか。
(c)今後の研究計画の展開が残された期間内に十分な成果が出せるものになっているかどうか。
(d)研究目標の達成度はどうか、達成度に問題がある場合にはその原因の認識と今後の対応策はあるか
(e)得られた研究成果がどのような形でどの程度公表されているか。
(f)研究者の能力および研究費は妥当であるかどうか。
(g)研究経費は、購入設備備品の有効使用も含め、効果的に使われているか。


(参考2)

各分野における研究評価の実施状況について


1.生体・環境影響基盤技術分野

本分野については、平成14年6月24日および翌25日の両日にわたり、事前・中間評価を実施した。事前評価については、平成15年度に向けて申請があった20課題のうち、書類一次審査をパスした13課題について、中間評価については7課題について、WG委員7名の出席のもと、ヒアリングを実施した。

1)事前評価における書類一次審査
 全委員(12名)へ全申請課題20件の関係書類を「書類審査結果票」と共に送付し、各課題について「ヒアリングを行うか否かの審査と、否の場合にはその理由の記入」を依頼した。その結果、7課題については、回答があった過半数の委員から、研究計画の内容から判断して、原子力試験研究課題候補としてヒアリングを行うのは適切ではない、との評価があった。それらの結果を主査が総合的に判断し、当該7課題については、今年はヒアリングを行わないこととし、その旨を事務局から申請者へ通知した。

2)事前評価における評価結果概要
 C評価となった2課題のうち、前4課題は、食物アレルゲンの「RI多重標識」を「原子力試験研究費」への申請の根拠としているが、そのねらい所に関する合理的な説明が、口頭説明でも得られなかったことと、研究の目的が多岐にわたりすぎていることが、当該評価結果となった。また、前18課題については、X線では致死効果が顕著である「ノリ」において変異株を作出するためにHIMACのイオンビームを利用しようとしているが、放射線生物学のこれまでの知識では、イオンビームはほとんどの生物指標(細胞死や突然変異の誘発、発がん等)に関して1以上のRBEを持つと理解されており、イオンビームに関する予備実験が皆無な状態で、当該課題を採択することは不適当であると判断した。
 一方、A評価課題は6件にのぼり、今回は質の高い申請課題が多かったとの印象が強かった。
 また、今回はB評価ではあるが、今後のきちんとした予備実験により放射線照射が有効であるとの見通しがつけば、世界に先駆けた放射線利用による高品質・低価格の再生医療材料の供給を目指した申請(前8課題)は、注目に値すると思われた。

3)中間評価における評価結果概要
 ヒアリングに先立ち、全委員へ関係書類を送付し、各課題について2名の委員が集中的に書類を事前に熟読し、予め問題点の整理を行った。今回の対象課題は全て事前評価を受けた課題であった。
 今回中間評価を行った7課題のうち、A評価は課題番号、中22、中23、中26の3課題であった。ちなみに、これらの課題に対する事前評価は、中22はA、中23はB、中26はA、であったので、これらの課題のもとでの研究は、当初の予定にほぼ従って順調に進捗しているといえる。
 一方、今回、C評価になった2課題のうち中21は、事前評価ではBであったが、研究計画の妥当性について、いくつものコメントが附されていた。今回の中間評価でも、事前評価に際して行われたのと同様のコメントが、事前評価には携わらなかった出席委員からあった。このことは、当該課題は、事前評価のコメントを勘案することなく、当初計画のままで実施に移され、結果的には事前評価での指摘事項が、マイナスの結果として顕在化したのではないかと推測される。
 中間評価でC評価になったいまひとつの課題は中24である。この課題に対する事前評価の結果は、当時の評価委員の間でかなり分散した模様であるが、総合的判断としてA評価となったことが書面からうかがえる。ただし、放射線生物学の専門家との連携の必要性等、いくつもの保留意見が附されており、それらの保留事項に対して適切な対応がなされれば、新規性があり原子力試験研究の主旨にも合致しているので、「有益な研究」と判断された。しかし、中間評価でのプレゼンテーションの内容には、放射線影響に関するデータが皆無で、かつ、研究が3つに分極しており、当初、課題名から期待された研究内容が実現されていない、と判断した。
 事前評価の結果を、どのようにして採択予定課題に反映するかを、至急検討する必要がある。また、不採択となった課題に対する「評価結果」の開示についても同様である。
 また、当初計画の内容を、比較的安易に変更した課題があった。研究の方向の修正は、必要とあれば断固実行すべきことは申すまでもないが、今回出くわした変更は、その範疇に入るとは考え難い。

2. 物質・材料基盤技術分野

 本分野については平成14年6月17日および18日に、17日については9名、18日については10名のWG委員出席のもと、事前・中間評価のヒアリングを実施した。

1)事前評価における評価結果概要
 12件の申請についてA評価2件、B評価5件、C評価5件であった。A評価として、前28はイオンビーム照射下における動的照射効果の測定とそれに基づく耐照射損傷材料の提案、前29はコロイドプロセスによる微構造制御した新しいセラミックス材料の可能性が高性能の原子力材料の開発につながると評価されたものである。その他B評価も含めて、原子力用材料の開発や評価により安全性に寄与する研究、放射線の新しい計測・応用を目指す研究課題など、全体に魅力的な計画が多いと考えられる。ただし、A・Bを含めてよりねらいを定量的で具体的に絞ることにより原子力試験研究として効率的に推進できると考えられる。
 C評価となったものは、前31については研究レベルは高いものの課題と対象が広すぎることなど、前34については電子材料開発の目標が必ずしも十分でないなど、前35についてはより事前準備が必要など、前37はこれまでの研究の延長の傾向が強いと考えられることなど、前39は計画の準備と説明資料の不足があることなどの理由によるものであり、内容というより原子力試験研究としての必要性あるいは準備が十分でないと判断した。なお、一部については説明資料がやや不足していたので、今後は資料を十分に準備するよう指示する必要がある。

2)中間評価における評価結果概要
 9件の課題についてA評価3件、B評価6件であった。A評価として、中42は原子力燃料材料で重要な不活性ガスの挙動についての析出物直接観察の成果、中46は生体物質構造変化の動的過程評価のための放射光利用技術開拓の可能性、中48は2段式反応焼結法によるセラミックス複合材料開発について評価された。その他のB評価も含めて、全体として原子力試験研究にふさわしい新しい材料開発と評価、レーザーやイオンビーム等の新しい放射線応用の研究、および高効率の逆磁場ピンチ方式磁場核融合の実験的・理論的研究が行われている。すべての課題について研究を継続するにあたっては、まとめのねらいをより具体的、定量的に設定するとともに、成果の発表を積極的かつ効果的に行うようにすることが必要と考えられる。

3. 知的基盤技術分野

 本分野については平成14年6月28日に、WG委員6名の出席のもと、ヒアリングを実施した。今回は中間評価の対象となる課題が無かったため、事前評価のみ3課題について実施した。2件は産業技術総合研究所、1件は海上技術安全研究所からのものであった。

1)事前評価における評価結果概要
 前49の課題は、構造物表面に光ファイバー・PZTトランスデューサを発信回路とともに埋め込んだセンサを張り付け、原子炉コンクリート構造物の余寿命評価を目的としたものであり、申請者のセンサ開発に関する能力は高いものと評価できるが、原子炉構造体のなかのどの対象に有効であるかについて、このセンサの放射線耐性の問題も含めて、原子力関係者と協議の上大幅な企画の再検討が必要である。このため計画の大幅な練り直しが必要と判断し、Cと評価した。
 前50の課題は、原子力ロボットに実環境技能蓄積機能を持たせ、スイッチ操作、バルブ操作、盤扉の開閉などの操作を可能にすることを目的としているが、研究の目標、手法の妥当性、技術的課題が不明確であり、電力会社、プラントメーカなどとの技術者や研究者との交流が望まれる。また、5年計画とはいえ、3年後の目標を具体的に設定し、そこまでに開発すべき技術内容を明確にして推進すべきであり、中間評価において厳しくその達成度を評価し、継続の可否を審査することが妥当であると判断した。Bと評価した。
 前51の課題は、提案者らが開発した確率論的安全評価手法を原子力プラントの経年劣化に適用しようとするものであるが、実プラントの評価に当たっては膨大な機器故障データの収集・分析が鍵であり、本提案者のみで実施するには体制が不十分と考えられる。また、提案者はすでに、本原子力試験研究の予算により、別の課題(防災・安全基盤技術分野、平成15年度終了予定)に従事中であり、研究グループとしての実施キャパシティを越えている恐れがある。以上の判断から本提案はC(不採択)と評価した。
 以上の3提案はいずれも原子力の研究を直接の目的としない研究機関から出されているが、この場合、申請前における各機関の内部評価が提案者と同じ視点で行なわれ、原子力試験研究としての側面が必ずしも十分に評価されていないのではないかとの指摘がなされた。

4. 防災・安全基盤技術分野

 本分野については、平成14年6月27日に、岩田原子力委員会専門委員及びWG委員7名の出席のもと、ヒアリングを実施した。(欠席の澤田主査に代わって、岩田専門委員が主査代行として参加。)事前評価6課題及び中間評価2課題の計8課題について実施した。
 事前評価課題については、地層処分に関連した課題3件と事故時の評価・対応(モニタリングを含む)に関連した課題3件であった。
 なお、今回の新規課題については、研究の目的と具体的目標との関係・道筋が不明確なものがあり、原子力試験研究としての位置付けを確認することに評価の重点を置いた。

1) 事前評価における評価結果概要

 事前評価6課題に対する評価を行った結果は、A評価3件、B評価1件及びC評価2件であった。
 C評価となった2課題のうち、前52課題は、軽量γ線検出器の開発という点では意義がある。しかし、環境放射線モニタリングシステムとしての適用性に問題がある。農地での平常時モニタリングの可能性、事故時モニタリングとしての利便性などが十分検討されていない。また、γ線検出器のエネルギー弁別の見通しが立っていないこと、気球の操作性等についても不明確であること、
 原子力施設からの影響が正確に計測できない等の指摘があった。以上から研究としての問題設定が不十分であると判断した。
 また、前54課題については、地盤変動や火山・地震による地殻変動を詳細に分析できる技術、手法の開発が期待できるが、地殻変動の少ない強固な地盤上に立地することが義務付けられている原子力発電関連施設への適用はその研究実施の妥当性を欠いていると判断した。地殻変動モニタリング技術の開発は、その波及効果も期待でき、ぜひ他の研究費によって実行していただきたい。
 一方、A評価課題は、3件あり、いずれも原子力試験研究として重要な課題である。
 B評価の前57課題については、放射性物質輸送時の放射線漏洩の事故を想定した原子力災害対策のための研究課題であるとともに、原子力に対する国民の安心感、信頼感を得る上でも系統的に行うべき課題でもあるが、緊急性は少ない。事故シナリオの設定と研究の位置付けを明確にして進める必要がある。また、大線量下での線量測定・遮蔽設置においては、機器開発のみでなく、ハンドリングなどのソフト面での研究も必要である。

2) 中間評価における評価結果概要
 中間評価を行った2課題は、いずれもB評価となった。
 中58については、多数の五価有機リン化合物やケトチオアミド系化合物を合成し、高レベル放射性廃液中に含まれるアクチニドと類似した化学条件で希土類金属イオンに対する抽出性能を調べ、高い抽出性能を見出している。今後の計画として抽出剤の合成と評価が平行して行われており、概ね妥当であるものの、本課題は、アクチニドに適用して初めて意味を持つものであることを十分認識して研究を進めるべきである。耐放射線性、溶解性、第三相の形成、廃液の減容性などについて検討するとともに、再処理関連の原研、JNC等の専門家との研究交流を十分に行い研究内容を深めることが重要である。なお、関連機関との交流の必要性は事前評価でも指摘されていた。
 中59については、目的と目標との間隔があまりにも大きい。中間段階で目標の成形爆薬の開発はほぼ成功しているが、堅固な生体遮蔽コンクリートを解体する場合の他の工法との比較は、定性的なものであり、具体的なデータを示すことが重要。本課題の目標達成後の目的(被ばく低減)との関連の道筋・手順等は明示すべきである。そのためにも、解体を実施する関係機関との研究交流が必要である。


(参考3)

A評価課題の研究概要について

<生体・環境影響基盤技術分野>

No.1 γ線照射を利用したナノキャビティをもつハイドロゲルの調製とタンパク質製剤への応用に関する研究(国立医薬品食品衛生研究所)(新規)
 タンパク質は有用な薬理効果を有するにもかかわらず、不安定であるため、医薬品として用いるためには不安定性を克服しなければならない。
 これまでの研究において、γ線照射によるハイドロゲル化(親水性のゲル形成)が穏やかかつ均一に進行すること、ならびに、タンパク質と同等のサイズをもつナノキャビティ(ナノサイズの細孔)を形成できることを明らかにしてきた。本研究では、ナノキャビティの中にタンパク質を1分子ずつとじ込めることによって、タンパク質を安定化する手法の確立を目指し研究を進めている。  
γ線照射を利用した本手法の確立により、不安定なタンパク質を新規な医薬品として活用できるようになることが期待される。

No.3 細胞治療・再生医療における放射線照射ストローマ細胞の有用性確保に関する研究(国立医薬品食品衛生研究所)(新規)
細胞治療・再生医療への利用が期待されている幹細胞等の増幅や分化機能誘導にはストローマ細胞(幹細胞等の増幅や分化機能誘導を支持する間質細胞)を用いることが有用な場合が多い。
本研究ではストローマ細胞の有用性確保を目的として、ストローマ細胞の増幅や分化機能誘導支持能を担う分子の探索と、探索した分子を高発現するヒト由来ストローマ細胞の樹立、さらに増幅・分化機能誘導支持能を最大限に発揮するための放射線処理条件の最適化を行う。本研究の成果は、細胞治療・再生医療に大きく貢献できるものと期待され、バイオ産業の創生の面からも非常に有用性が高いと期待される。

No.5 超低線量放射線により誘発されるDNA2本鎖切断モデル細胞の構築と、それを用いたDNA修復の研究(国立医薬品食品衛生研究所)(新規)
 ほ乳類ゲノム中に発生する少数のDNA2本鎖切断の運命を定性、定量的に解析することにより、低線量放射線の遺伝的リスク評価に利用することが本研究の目的である。DNA2本鎖切断モデルとして、制限酵素認識部位(I-SceI)をゲノム中に有するヒト細胞を構築し、この制限酵素の導入により、ゲノム中の目的部位に確実に2本鎖切断を発生させる。その2本鎖切断の修復過程、およびその結末(突然変異、染色体異常、細胞死等)を、分子生物学的、細胞遺伝学的手法を用いて明らかにする。

No.11 放射性同位体元素を用いた異常プリオン蛋白質の動物体内侵入機構及び体内動態の解明に関する研究(独立行政法人農業技術研究機構)(新規)
2001年に日本国内で確認された牛海綿状脳症(BSE)はその感染経路及び病態に未解明の部分が多く、ヒトへの感染の危険性も指摘されていることから、消費者に大きな不安を与えると共に、畜産業、食品産業に多大の損害を与えている。本研究では、未解明のまま残されている、動物消化管からの異常プリオン蛋白質の侵入及び蓄積臓器への移送及び新規に生成する異常プリオン蛋白質の体内動態をアイソトープで目印をつけた(RI標識した)プリオン病原体をマウスに接種することによって解析する。また、正常型プリオン蛋白質が異常型プリオン蛋白質に変換される効率が動物種によって異なるという現象がある。試験管内実験では、正常及び異常プリオン蛋白質を共存させ、新たにタンパク分解酵素抵抗性プリオン蛋白質を生成させる手法が異常化の解析モデルとなっている。この解析系ではRI標識した正常プリオン蛋白質を用い、異種動物間及び同種動物間における異常化変換効率の違いを明らかにし、さらに正常から異常化への構造変化を解析する。
本研究により、異常プリオン蛋白質の検出方法の高度化及びプリオン病発症メカニズムの解明が期待される。

No.14 高等生物(昆虫)の放射線耐性機構の解明(独立行政法人農業生物資源研究所)(新規)
アフリカ半乾燥地帯原産のユスリカの1種であるネムリユスリカの幼虫は、岩盤の窪みにできた水たまりの中に生息しており、乾季に水たまりが干上がると幼虫も完全に脱水し、次の雨季が来るまで休眠する。一旦幼虫が乾燥休眠に入ると、100℃の高温やー270℃の低温に対しても耐性を持っているとともに、7kGyの放射線照射後にも幼虫は蘇生したという研究結果がある。本研究では、ネムリユスリカが乾燥休眠に伴って放射線耐性を高めていく生理・生化学的機構を明らかにする。最終的な目標は、ネムリユスリカの放射線耐性関連因子を特定した後、放射線耐性を持たない他の生物に導入し、放射線耐性を誘導することである。本研究により得られた情報が放射線治療技術へ利用されることが期待される。

No.19 DNAマイクロアレイ技術を利用した放射線及び放射性物質の影響評価に関する研究 (独立行政法人産業技術総合研究所)(新規)
近年、数千から数万の遺伝子を高密度にチップ上に配列させる(DNAマイクロアレイ)ことが可能になり、生体の生理的変化を数千から数万種類の遺伝子を対象にして、どの遺伝子がどの程度活性化されているかというレベルで網羅的に解析することが可能になってきた。これまでの研究において、化学物質や物理的因子によって誘導または抑制される遺伝子情報や、遺伝子発現プロファイルからの影響因子分類系統樹(統計解析)作成等を行ってきた。当然ながら、放射線や放射性物質も生体に影響を与えると考えられることから、遺伝子発現プロファイルの蓄積を行えば、化学物質・物理的因子・放射線・放射性物質の生体影響に関する基盤情報(生体影響因子基盤情報)として整備できると考えられる。そこで、本研究においては、α線放出核種であるウラン、トリウム、実験等に使用される放射性同位元素により細胞が被爆した際の影響情報や重粒子線、γ線、β線、X線、中性子線による照射の影響情報を蓄積し、生体影響因子基盤情報として確立する。これにより、原子力の生物科学的理解を深め、癌等の放射線治療の有効性に関する基礎的な知見、放射線治療と化学療法との有効な組み合わせに関する指針等の情報提供が可能となる。

No.22 新しい小線源による前立腺癌の放射線治療に関する臨床的研究(国立病院東京医療センター)(継続)
 I-125(ヨード)シード線源を前立腺に永久刺入する組織内照射は、欧米では前立腺癌の標準治療である。日本はこの線源の導入許可が遅れている。われわれは、一時装着線源であるIr-192(イリジウム)ワイアを用い、I-125線源で使われている最新技術を修得・応用し、周辺機器の開発を行っている。I-125線源の物理的基礎研究も行い、I-125線源をわが国に導入し、安全に普及させる指針を作成する臨床的研究を進めている。

No.23 悪性脳腫瘍に対する中性子捕捉療法(BNCT)-加速器の開発と新たな治療法への展開-(国立療養所香川小児病院)(継続)
 悪性脳腫瘍の生存期間は最も悪性のものでは2年生存率が10%前後であり、生存期間中央値はわずか12ヶ月にすぎない。一方、悪性脳腫瘍に対する中性子捕捉療法(BNCT)は 1968年以来わが国において継続して行われ、1994年以降米国、ヨーロッパでも相次いで開始された。本治療法は原子炉より得られる中性子を用いざるを得ないため様々な制約が存在し、医療専用原子炉を持たない我が国では スムーズに研究を進める妨げとなっている。このためBNCTをより安全かつ効果的な治療法に発展させるためには国立病院、大学病院等の医療施設においてBNCTが行える状況が必要である。本研究では、原子炉に替わる、中性子捕捉療法に必要な中性子が取り出せ、かつ医療施設に設置可能な小型加速器の開発にむけた基礎的な研究を行っている。

No.26 ガス交換能を有する肺胞モデルの開発と健康影響評価への応用(独立行政法人国立環境研究所)(継続)
本研究では、ガス交換能を有する人工肺胞構造体を細胞培養系に構築する。
肺胞におけるガス交換は、気相側のⅠ型肺胞上皮細胞と血液側の血管内皮細胞が基底膜と呼ばれる細胞外基質を挟んで隣接する厚さサブミクロンの構造(呼吸膜)を介して行われる。この呼吸膜を細胞培養系に構築するため、ミクロン厚さのコラーゲン薄膜基質を作製するとともに、この薄膜基質の両側に、肺胞上皮組織および血管内皮組織の構築を行う。これまで、肺胞上皮組織及び血管内皮組織を、直下の基底膜構造体を含めてそれぞれ単独に細胞培養系で構築した。今後は、両組織を融合してガス交換能を発現する人工肺胞組織に発展させ、そのガス交換性能をRIで計測する手法を確立する予定である。将来、この人工組織を健康影響評価に応用することにより、環境汚染物質の毒性を迅速簡便に計測できることが期待される。


<物質・材料基盤技術分野>

No.28 複合的微細組織材料における動的照射効果の研究(独立行政法人物質・材料研究機構)(新規)
 原子炉中では、高エネルギー粒子の照射によって材料中に点欠陥が次々と形成されて動きまわり、激しい変形や破壊挙動の変化を引き起こす。この様な「動的」照射損傷について、母相(材料の主な部分)と結晶構造の異なる相や全く異質な相を含む複合的微細組織の効果を照射下での実験ならびに計算科学的手法によって詳細に研究する。これにより、ほぼ均一な組織を持つこれまでの原子力材料よりも耐照射性が飛躍的に優れた炉心部締結部材(ボルト、バネなど)や核融合炉第一壁用の次世代材料開発への寄与が期待できる。

No.29 コロイドプロセスの高度化による高次構造耐環境セラミックスの作製に関する研究(独立行政法人物質・材料研究機構)(新規)
セラミックス材料の種々の特性発現やその向上において、微構造制御は極めて重要である。本研究では、溶液中に微粒子を分散し成形するコロイドプロセスという手法の高度化により、高次構造制御された原子力用材料の開発を目標とする。具体的には、微粒子の分散・凝集制御技術の高度化により、結晶粒が微細で大きな伸びを示す超塑性体、および成形中に電界や強磁界を印加する技術の高度化を図り、結晶方位や組織を制御した構造体を作製し、原子力環境で優れた特性を有するセラミックスの開発を目指す。

No.42 材料照射により生成する不活性ガス析出物の原子レベル解析と安定性評価に関する研究(独立行政法人物質・材料研究機構)(継続)
放射線環境下で使用される原子力材料では、照射により照射誘起析出物が生成する。これらのうち不活性ガス析出物は、材料中に蓄積されることで多くの障害を発生させるため材料の寿命を決定する重要な因子と考えられているが、原子レベルでの構造、析出挙動の統一的な理解は得られていない。本研究では、不活性ガス注入下での原子力材料の原子レベル構造変化を調べ、不活性ガス析出物の挙動についての評価を行い、照射に起因する材料の変化を原子レベルから解明する。

No.46 挿入光源を利用した動的過程の高度評価法に関する研究(独立行政法人産業技術総合研究所)(継続)
 挿入光源からの放射は電子加速器から得られる放射光の一種で、光強度が強い、偏光を自在に変えることが出きる、パルス発光であるなどの特徴を有する。これらの特徴を活用した新たな計測技術を開発し、動的過程評価法に向けた放射光利用技術の開拓を行う。挿入光源の能力を最大限に発揮させるための電子ビーム及び放射光モニター、挿入光源制御、分光計測系制御技術の開発を行い、電子加速器、挿入光源、ビームライン計測系を系統的に制御するシステムの構築に成功した。これにより偏光変調分光法を実現し、さらに光電子放出顕微鏡、ポンプ・プローブX線分光法(X線とレーザー光を組合わせた高度なX線分光法)などの計測技術開発を推進中である。これらの計測技術は、材料や生体物質の構造変化における動的過程の研究など、新分野の開拓、新しい物質・材料の創生にも発展する。

No.48 2段式反応焼結による繊維強化炭化ケイ素複合材 (独立行政法人産業技術総合研究所)(継続)
本研究においては、核融合炉の第一壁材として、耐熱性、高熱伝導性、耐熱衝撃性、耐放射線特性に優れた繊維強化炭化ケイ素複合材の研究開発を行っている。緻密な複合材を得ることができるシリコン溶融含浸法は、作製期間が短いが、繊維に高価で且つ核変換で問題のあるBN(窒化ホウ素)等のコーティングをしなければ繊維と溶融シリコンが反応する。本研究では、反応焼結法(シリコンと炭素の反応で炭化ケイ素が生じる)と溶融含浸法を用いた新たな二段反応焼結法で、繊維にBN等のコーティングをしないで緻密な繊維強化炭化ケイ素複合材を短期間に作製する方法の確立をめざして研究を進めている。本手法の確立により、高価なBN等の繊維へのコーティングが不要になり、経済性の向上が期待される。


<防災・安全基盤技術分野>

No.53 TRU廃棄物処理におけるヨウ素ガス固定化技術の開発と長期安定性に関する評価 (独立行政法人産業技術総合研究所)(新規)
高レベル放射性廃棄物処理に関する固化技術が確立されつつある一方で、TRU廃棄物、特にヨウ素の固定化技術に関してはまだ多くの課題が残されている。
本研究は、気体として発生するヨウ素ガスを高温状態でゼオライト(ハイドロソーダライト)などの鉱物中に直接取りこみ、天然に存在する安定な鉱物として固定化する技術の開発を行う。これまでの方法は、ヨウ素ガスを廃銀吸着剤に取り込み、さらに廃銀吸着剤中のヨウ素を安定な固化体中に封じ込める2段階方式であったが、ここで開発する方法はヨウ素ガスを直接安定な固化体に取り込む1段階方式である。これによりヨウ素固定化における安全性の向上および固定化処理短縮化による経済性の向上が期待される。

No.55 地層処分場岩盤特性評価のための高分解能物理探査イメージング技術に関する研究 (独立行政法人産業技術総合研究所)(新規)
高レベル放射性廃棄物地層処分場の適地選定や建設においては、深度2km程度までの 地質構造、亀裂分布、地下水流動などに関連する3次元物性構造を事前に把握しておくことが不可欠である。本研究では、地表及び限られた数のボーリング孔からの物理探査によって、水や亀裂分布と強い相関を有する比抵抗及び地震波速度の3次元分布を高分解能に求めることのできる測定装置及び解析技術を開発する。具体的には、比抵抗構造を求める電磁探査法については、人工信号源を用いる手法の新たな測定システム及び3次元解析法を開発する。地震波速度構造を求める地震探査法については、地表震源を用いる測定(反射法等)によって地層境界及び亀裂密集部を3次元的に高分解能でイメージングできる解析法を開発する。これらの技術開発により、地層処分場建設に係る概要調査、精密調査等における標準的な探査手法を提供する。

No.56 シビアアクシデント時の気泡急成長による水撃力に関する研究
 その2 水撃力緩和法の研究 (独立行政法人海上技術安全研究所)(新規)
 本研究では、シビアアクシデント(設計基準を超えて、原子炉の炉心が重大な損傷を受ける事象)時における水・溶融金属反応に伴う気泡成長による水撃力に関する研究について、実際の原子炉を念頭に置いた幅広体系水撃実験、および凝縮性気体の水塊運動に与える影響を考慮した水撃実験、並びにそれらの実験データを対象とした数値解析を通じ、これまでの研究において開発してきた水撃力評価法の実炉体系における適用性を明らかにするとともに、凝縮性気体の影響を手法に取り入れる。また、本評価手法を応用することにより、水蒸気爆発(低温の水と高温の液体(溶融金属)が接触した際に起こる瞬間的な蒸発反応で高い衝撃力が発生する現象)が生じても、格納容器等の健全性が保てる機器配置設計に活かせるような水撃力緩和法を最終的に確立する。



原子力試験研究検討会委員名簿