平成14年7月23日
文部科学省

基本報告(案)

< 検討の経緯 >
 日本原子力研究所(昭和31年6月15日設立)及び核燃料サイクル開発機構(昭和42年10月2日設立)(以下「原子力二法人」という。)は、原子力基本法(昭和30年法律第186号)に位置付けられた原子力の開発機関として、我が国の原子力研究開発において重要な役割を担ってきた特殊法人である。
 政府は、重要な国家機能を有効に遂行するにふさわしい、簡素・効率的・透明な政府を実現する行政の構造改革を推進する一環として、平成13年12月19日に「特殊法人等整理合理化計画」(参考1)を閣議決定した。同計画において、原子力二法人は、廃止した上で、「統合し、新たに原子力研究開発を総合的に実施する独立行政法人を設置する方向で、平成16年度までに法案を提出する」ものとされた。
 この決定を受けて、文部科学大臣は、平成14年1月29日、原子力二法人の「事業の重点化・効率化を念頭に置きつつ、新法人の役割・機能等について検討すること」を目的として、本原子力二法人統合準備会議(以下「本会議」という。)(参考2)の開催を決定した。
 本会議は、本年2月以来、9回にわたって検討を行い(参考3)、その間、原子力委員会、原子力安全委員会との意見交換を始め、日本学術会議、大学、産業界、立地自治体、原子力国際機関など各分野の有識者及び関係者から意見を聴取し、様々な角度から議論を重ね、原子力二法人の統合と新法人の設立に当たっての基本的考え方を取りまとめるに至った。

1.基本認識

( 原子力研究開発利用の必要性 )
 我が国が、自国において持続的かつ安定的なエネルギー供給体制を確立することは、第一次及び第二次の石油危機を経て、重要な国家的課題と認識されることとなったが、現在でも我が国のエネルギー供給構造は一次エネルギーの約8割を海外に依存する脆弱なものであり、今世紀においても、引き続き極めて重要な政策課題である。現在の主要なエネルギー源は石油や天然ガスなどであるが、将来にわたってこれらの化石燃料の消費量を増やし続けることは、その資源の有限性の観点のみならず地球温暖化問題等地球規模の環境保全の観点からも、もはや許されなくなりつつある。1997年(平成9年)に採択された京都議定書では、日本は、2008年(平成20年)から2012年(平成24年)の期間に対1990年(平成2年)比6%の温室効果ガス削減目標を達成する義務を負っており、エネルギー源の化石燃料からの転換は急務である。また、京都議定書を受けて我が国が制定した「地球温暖化対策の推進に関する法律」(平成10年法律第117号)に基づき定められた「地球温暖化対策に関する基本方針」(平成11年4月9日閣議決定)において、原子力の必要性が明確に位置付けられている。さらに、本年6月14日に施行された「エネルギー政策基本法」(平成14年法律第71号)においても、安定供給の確保、環境への適合、その2つの前提の上での市場原理の活用を基本方針としており、非化石エネルギーへの利用の転換を推進すべきものと位置づけている。このように、エネルギー・セキュリティの確保や地球環境の保全に取り組む観点から、非化石エネルギー源である原子力の開発利用を安全確保を徹底した上で着実に進めることが必要不可欠であり、それによって、我が国の安定的なエネルギー供給体制の確立に資することが極めて重要である。

( 原子力二法人の研究開発の実績と評価 )
 我が国における原子力平和利用への取組は、昭和30年代に、原子力基本法が制定されたことを契機にして多くの国民の期待と支持を受けつつ開始され、多数の優秀な人材をこの世界に招じ入れてきた。その結果、我が国は、原子力平和利用において、世界の先頭集団に属するとともに、原子力は、我が国の基幹電源として、電力供給量の3分の1を超える割合を占めるエネルギー源となるに至っている。また、医療、工業、農業等の広範な民生分野において放射線利用が普及し、定着している。原子力二法人はこのような我が国の原子力の研究開発利用の発展過程において大きな貢献をしてきた。具体的に述べれば次のとおりである。

日本原子力研究所は、原子力の総合的な研究開発機関として、各種の研究炉・試験炉の建設、運転を通じて、我が国初の原子炉の臨界達成、原子力発電の成功など、我が国の原子力エネルギー利用体制の確立に大きく貢献し、また、高速増殖炉や新型転換炉の基礎研究の成果等を動力炉・核燃料開発事業団に移転するとともに、安全性研究等により国内外の原子力安全の確保に寄与してきている。さらに、日本原子力船研究開発事業団を統合(昭和60年)後原子力船「むつ」の実験航海成功、核融合研究ではトカマク型臨界プラズマ実験装置(JT-60)による臨界プラズマ条件と世界最高のイオン温度達成、高温工学試験研究炉(HTTR)の建設、運転による電力以外への核熱利用の基礎的技術基盤の開発、放射線利用分野における幅広い研究領域の開拓及び産業利用への寄与など、様々な分野において世界的な研究成果を発信してきた。(参考4-1、4-2)
一方、動力炉・核燃料開発事業団は、高速増殖炉や新型転換炉の開発に取り組むとともに、ウラン探鉱、濃縮、燃料加工から再処理に至るまでの核燃料サイクルを支える幅広い技術開発を担ってきた。その後、同事業団は、「もんじゅ」事故などを契機とした動燃改革により、高速増殖炉開発、再処理技術開発、高レベル放射性廃棄物処理処分の研究など核燃料サイクルの完結に特化したプロジェクト型研究開発機関として核燃料サイクル開発機構に抜本的に改組(平成10年)され、業務の重点化、効率化が図られた。この間、高速実験炉「常陽」による高速炉技術基盤の確立、東海再処理施設により総量1000トンの再処理の達成などによる再処理の自主技術確立、新型転換炉「ふげん」による世界のトップクラスのMOX燃料利用実績、地層処分の技術的信頼性提示など国際的にも高く評価される枢要な成果を挙げるとともに、遠心法により確立したウラン濃縮技術をはじめとする核燃料サイクル技術の開発成果を民間に移転してきている。(参考4-3、4-4)

 このように、原子力二法人は、原子力委員会や原子力安全委員会の定める計画に沿って、原子力の基礎・基盤研究やプロジェクト研究開発を推進することにより、我が国の原子力研究開発利用の発展に大きく寄与してきたところであり、その実績は内外に認められている。
 また、このような原子力の研究開発は、長期にわたり公的資金や人材の投入を必要とするものであることから、これを官民の力を結集して推進するため、特殊法人の形態により実施されてきたという経緯がある。
しかしながら、この特殊法人による活動が結果として、事業の肥大化や非効率化、目的達成の遅延による費用の増大、路線の硬直化等のいわば負の側面をもたらした面があり、国民の批判を惹起してきた。

( 国民の原子力に対する意識の変化 )
 加えて、海外における米国スリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所事故や旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所事故にとどまらず、国内においても高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故、東海再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故、㈱ジェー・シー・オーウラン加工工場臨界事故などが相次いだことと、これらの事故に対する関係者の不適切な対応が、原子力の安全性や原子力に携わる関係者に対する国民の信頼感を大きく損なった。
 この結果、国民の原子力に対するかつての期待感は低下し、むしろ、原子力に対する不安感、不信感が国民意識の中に醸成され、その支持の基盤が損なわれているのが現状である。

( 新法人設立の意義 )
 新法人の役割、機能等を検討するに当たっては、先ずは、このような原子力を取り巻く現実を直視することが何よりも重要であると考える。その上で、本会議としては、エネルギー・セキュリティと地球環境保全の観点から我が国における原子力研究開発利用の政策的必要性を明確にしたいと考える。その際、原子力研究開発利用の大前提として、原子力の平和利用という我が国の国是を再確認する必要がある。すなわち、原子力に係る我が国の特別の歴史的経緯や国民の感情を考慮すれば,我が国が原子力基本法の精神に立脚し原子力平和利用に徹することが、国民や国際社会の理解と支持を得た上で、我が国の原子力研究開発利用を推進するための必要不可欠な基礎である。そして新法人はそのための先導役を果たすことが期待される。
 今回の原子力二法人の統合は、簡素・効率的・透明な政府を実現する行政の構造改革の一環として推進された特殊法人等改革という我が国の重要な政策として決定されたものであるが、昭和42年の旧動力炉・核燃料開発事業団の設立以降、原子力二法人による研究開発体制は、昭和60年の原子力船研究開発事業団の日本原子力研究所への統合、平成9年から平成10年にかけて行った動燃改革等、いくつかの体制の変更はあったが、今回のような抜本的な見直しにつながる機会はなかなか訪れなかったのも事実である。
以上のような原子力を巡る諸状況を踏まえ、この機会に、本会議は、この原子力二法人の統合を、原子力研究開発利用を推進する上で必要不可欠な原子力に対する国民の信頼を回復する転換点とし、我が国の原子力研究開発を再活性化させ、新たな発展を目指す重要な機会と積極的に捉えるべきであると考える。実際、原子力二法人の統合によって、既存の研究開発事業の整理合理化や研究資源の有効活用が一層推し進められるとともに、基礎・基盤研究とプロジェクト研究開発の間の連携・融合・統合等の大きな効果が期待される。人材の交流やそれぞれの成果のフィードバックを行う等により研究開発の一層の効率化やスピードアップが期待されるだけでなく、今まで実現できなかった総合的な研究開発体制の実現による効率的な業務遂行が可能となろう。その意味で原子力二法人の統合は、我が国の原子力研究開発の再構築に建設的な意味をもたらすものでなければならない。今般の原子力二法人統合が、このような改革をなし得る絶好のそして最後の機会であるという不退転の決意をもってこれに臨むことを、関係者に強く期待する。


2.新法人設立の基本理念
 本会議は、以上のような基本認識に立って、新法人の設立の基本理念を以下のようにすることが適当であると考える。

 (1) 我が国の原子力研究開発の中核的拠点(Center of Excellence)たる総合的原子力研究開発機関としての地位の確立

 新法人は、原子力二法人の統合によって基礎・基盤研究からプロジェクト研究開発までを包含する総合的、かつ、先端的な、我が国で唯一の大規模な原子力研究開発機関となる。このような研究開発機関として、新法人は、二法人時代以上に、研究施設、人材、予算等の研究資源の効率的・有効活用を実現し、社会に対し、より広範かつ高度な研究開発の成果を効果的に生み出すことが求められる。
言い換えれば、新法人は、原子力基本法に定められる唯一の「原子力の開発機関」として、原子力委員会の策定する「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力長計」という。)等の計画に基づき我が国が着実に原子力の研究開発利用を推進する上で、研究開発の実施機関として中核的拠点の役割を担っていくことが求められる。
具体的に、新法人は、以下の点を中心に不断の取組みを行うことが必要である。
1) 原子力の基礎・基盤研究において世界をリードすること。さらに、放射線利用研究分野においても、先進的な取組みに努めること。
2) エネルギーの安定供給や環境問題といった経済社会のニーズに対応するために、核燃料サイクルの確立等を目指した原子力エネルギー研究開発を着実に推進すること。
3) 我が国全体の原子力研究開発利用を促進するため、国として必要であるが大学や産業界において保持が困難な基盤的又は先端的な原子力施設及び設備を整備し、その共用を促進するともに、その能力を活用して原子力人材の育成に貢献すること。
これらの取組によって、新法人は、国内にあっては、産業、大学、地域、行政における原子力に係る活動を支え、かつ、その発展に貢献することを目指すものとし、国際的には、原子力の平和利用に徹し、核兵器廃絶という国民の悲願を視野に入れて、核不拡散のための諸活動に対し、技術面、人材面において積極的に参加し、貢献することを目指すものとする。

 (2) 原子力安全研究の着実な推進
 原子力安全の確保は、原子力研究開発利用の大前提である。この点から原子力安全研究は、原子力研究開発利用を支える中核的研究分野のひとつとして位置付けられるものであり、その成果を積極的に活用することは国民の原子力に対する信頼感を得るためにも極めて重要である。
新法人は、日本原子力研究所がこれまで原子力安全研究の分野で果たしてきた実績を踏まえれば、その活動と成果に立って我が国の原子力研究開発利用を安全面で支える中核的機関としての役割を果たすことが強く期待される。したがって、原子力安全委員会の策定する「安全研究年次計画」等に基づき、我が国の原子力安全規制や原子力防災を研究及び技術的対策の両面で支援することが強く求められる。

 (3) 行政改革の観点による整理合理化と活性化の推進
 原子力二法人の統合は、今般の特殊法人等改革の一環として、「特殊法人等整理合理化計画」に基づき実施されるものである。したがって、新法人の設立に当たっては、既に動燃改革検討委員会で示された旧動力炉・核燃料開発事業団の事業の整理を確実に進めるとともに、統合による原子力二法人の更なる事業の見直しや管理部門等の重複部分のスリム化を徹底して行い、研究施設や設備の相互有効利用や整理合理化、事業運営の変更に伴う人材の再配置や予算の重点配分による効率化を実施することが求められる。そして、このようなスリム化・効率化は、目に見えるものとして国民に理解されるものでなければならない。
これは、当然、現行の事業、予算、組織及び人員の規模の縮減を伴うものであるが、それが組織の能力や構成員の意欲の減退につながるようなことになってはならない。むしろ、原子力二法人に分散されていた優秀な人材等の研究資源の有機的連携や融合による相乗効果を発揮するという積極的意義を捉えて、民間企業等の例にあるように、事業の「選択」と限られた資源の「集中」投入、そして業務運営の効率化により、活力ある事業展開を実現していかなければならない。そのような事業展開の中で夢のある創造的な研究開発に取り組んでいくことが望まれる。

 (4) 効率的・効果的な経営・業務運営体制の構築
 原子力二法人の統合は、4,600人強の人員と2,500億円を超える事業規模(平成14年度当初認可予算による。)及び12の研究所・事業所を有する国内最大の研究開発機関を設立するものとなる。さらに、新法人では、異なる業務遂行方法が求められる複数の事業毎にその円滑な推進に努めながら、併せて、全体として相乗効果を発揮しつつ総合的・一体的に推進することが必要となる。このため、新法人においては、各種事業の異質性、類似性、共通性等を十分に把握した上で効率的・効果的な経営・業務運営体制を構築することにより、迅速な意思決定システムを確立し、経済社会の動向に応じ時宜を得た活動を展開できるようにすることが不可欠である。

 (5) 安全確保の徹底と立地地域との共生
 新法人は、原子力事業者として、従来以上に、その保有する施設及び事業に係る安全の確保について責任をもって業務運営の最優先事項として徹底していかなければならない。動燃改革に至る経緯を振り返れば、自らの原子力施設の安全確保の徹底なくして、地域や国民の理解、信頼、協力があり得ないことは言うまでもない。また、新法人の活動について、情報の公開及び公表を徹底して実施すること等が極めて重要であり、それらによって社会の信頼を得て、立地地域との共生に最善を尽くす必要がある。


3.新法人に求められる役割
 新法人は、2に述べたように、我が国の原子力研究開発利用全体を支える中核的な研究開発機関としての役割を担うべきものである。このため、以下の事項を新法人の主要なミッションとして明確に位置付けることが必要である。

 (1) 原子力の基礎・基盤研究等を総合的に推進すること
原子力研究開発を総合的・一体的に実施する先端的な研究開発機関として、科学技術の水準の向上を図りつつ、原子力利用の高度化及び多様化の推進に資する。このため、経済社会のニーズや動向等を踏まえつつ、原子力の可能性の開拓を目指して、総合的に基礎・基盤研究を推進する。
また、近年、放射線利用の分野において新産業の創成への期待など拡がりがでてきており、新法人の業務としてふさわしい範囲で放射線利用研究を推進する。

 (2) 核燃料サイクルの確立を目指した研究開発を実施すること
我が国のエネルギー政策上の重要課題である核燃料サイクルの確立を目指した研究開発を、産業界との密接な連携・協力の下、高速増殖炉等の将来の実用化を目指しつつ推進する。特に、実用化の目途をつける上で重要な要素となる、安全性及び経済性の向上、環境負荷の低減、放射性廃棄物の処理処分技術の確立等の諸点において、高い研究開発目標の達成を目指す。

 (3) 原子力安全研究を実施するとともに、緊急時対応等への支援を行うこと
我が国全体の原子力安全の確保に係る活動に貢献するために、
1) 原子力安全委員会の策定する「安全研究年次計画」を踏まえて安全研究を確実に実施し、科学的データの蓄積及び提供を行うこと等により、原子力安全委員会や関係府省を支援すること
2) 原子力施設の事故等に際し、国及び地方公共団体の行う緊急時対応や原因究明等の作業を技術面から迅速に支援すること
3) 研修や訓練を行うことにより、国の安全規制や民間事業者の安全部門を支える人材の育成に貢献すること
などの点において中核的な役割を担う。

 (4) 産学との連携・協力の推進及び原子力研究開発基盤の確立
1) 大学との連携・協力を充実・強化すること
 我が国の原子力に関する科学技術水準の向上を図るため、新法人は、原子力エネルギー利用、放射線利用、加速器利用等の分野において基礎・基盤研究を推進するに当たっては、広範な基礎科学的基盤を有する大学との連携・協力を促進する。その際、新法人と大学とは、その位置付け、研究の実施方法等が異なることに留意しつつ、両者間の適切な役割分担の下、相互の特徴を活かしつつ連携の強化を図ることが必要である。このような関係においては、大学における自由な発想に基づく研究の成果が新法人における目的指向の研究に引き継がれ、発展していくような有機的な関係が構築されることが期待される。
 なお、原子力研究開発利用を推進するには、専門的な人材の育成が極めて重要な課題であるが、この面における大学の役割は重要である。新法人においては、連携大学院制度等をより一層活用する中で、大学側に対し、その保有する施設・設備の活用の機会を提供することなどにより、大学における原子力研究の実施に協力するとともに、人材育成面においても大学との連携・協力を一層強化し、貢献することが期待される。
2) 産業界との連携・協力を充実・強化すること
 産業界に対しては、実用化に近い核燃料サイクル分野における連携・協力の充実・強化のため、その技術及び人材の円滑な移転を推進するだけではなく、基礎・基盤研究の分野においてもその研究計画や研究内容を広く情報開示し、研究への参加や共同研究の実施を求めることが適当である。このことによって、産業界における研究能力の涵養、技術基盤の維持等に資することが可能となろう。また、放射線利用分野においては研究開発成果の産業化が進みつつあるものもあり、今後とも放射線利用研究についても産業界との連携・協力に積極的に取り組む必要がある。
3) 研究施設及び設備の共用を促進すること
 新法人は、総合的な原子力の研究開発の中核的拠点(COE)の役割の一つとして、我が国の原子力研究開発の基盤として必要不可欠な施設及び設備であって、大学や民間企業などの新法人以外の機関には保有、維持が困難なものを整備し、その効率的・効果的な活用によって原子力利用の高度化・多様化に資する研究開発を実施するとともに、これらの施設及び設備を大学及び産業界にこれまで以上に積極的に開放することによりその共用を促進し、大学及び産業界における原子力研究開発の進展に大いに寄与すべきである。

 (5) 原子力平和利用に徹する原子力国際協力及び国際核不拡散の強化に寄与すること
新法人の有する研究開発能力や人材を有効に活用して、国際的な原子力平和利用の高度化と核不拡散の強化に技術的観点から積極的に貢献する。なかでも、核兵器廃絶に向けて、確実な核軍縮の促進に寄与する観点から、解体核兵器から発生する余剰プルトニウムの平和利用方策を実現するための国際協力に参加する。さらに、アジア地域においては、原子力人材の育成に対する支援等により同地域の原子力研究開発を先導しつつ、同地域の原子力平和利用の推進と安全の確保に寄与する。

4.新法人に求められる組織・運営の在り方
 新法人には、これまでに述べてきた基本理念を具現化させつつ、果たすべき役割を効率的、効果的に遂行することが求められる。
 そのために必要な新法人の組織・運営の在り方を以下の通り明らかにする。

 (1) 独立行政法人制度の趣旨を踏まえた組織・運営体制の確立
 新法人は、「特殊法人等整理合理化計画」の定めるところに従い、「独立行政法人」として設立されるものである。したがって、新法人の組織・運営体制は、独立行政法人通則法等に定められた独立行政法人制度の趣旨に則って構築されなければならない。とりわけ、その検討に当たっては、以下の諸点に留意することが必要である。
1) 業務運営に当たっては、法人の自主性及び自律性が確保されなければならないこと。新法人の業務運営は、主務大臣が、原子力長計等との整合性を担保しつつ策定する中期目標と、これを受けて新法人が主務大臣の認可を受けて作成する中期計画に基づいて行われるものであって、その他の業務運営に対する国の関与は限定されることとなること。さらに、法人の内部組織の決定、変更又は改廃さらには業務運営上必要な職員数等の決定についても、法人の長の裁量に委ねられること。
2) 法人の活動状況が絶えず国民の目に見える透明な組織・運営の確立が求められており、情報の公開はもとより、法人自らが国民に積極的に情報を提供することが必要とされていること。
3) 責任と権威ある第三者評価機関である「独立行政法人評価委員会」が国により設置され、業務運営の定期的評価の実施が義務付けられていること。

 (2) 経営の基本的考え方
1)  新法人にあっては、原子力二法人がそれぞれ実施してきた異なる経営・業務運営を必要とする複数の事業を統一的、一体的に遂行することが必要となり、それに相応しい経営体制の構築が求められる。
 旧動力炉・核燃料開発事業団については、動燃改革において、異なった複数の事業を実施するにあたり、「組織全体を合目的的に動機付ける俯瞰的な視点の欠如」、すなわち「経営の不在」の問題が指摘された。その結果、核燃料サイクル開発機構への改組の際、明確な事業目標の設定、裁量権の拡大等により経営の強化が図られるとともに、旧動燃の基礎的研究部門と商用化段階の開発部門は整理事業として切り離されることとなり、核燃料サイクル開発機構は実用化研究開発のみに特化された法人となった。
 このような経緯に鑑みれば、新法人は、日本原子力研究所が担ってきた基礎・基盤研究等の幅広い事業領域と核燃料サイクル開発機構の実用化研究開発事業との統合となるため、その経営は、強力なリーダーシップの下、各事業の明確な目標の設定、業務遂行方法の明確化及び柔軟性の確保、迅速な意思決定と行動、適切な現場の裁量権の確立等に十分に配慮した上で、法人全体の経営の統一性をいかに確保するのかという困難な課題に対応できる強い経営が必要不可欠である。このような経営の実現によってのみ、新法人は、基礎・基盤研究、プロジェクト研究開発等といった異なる経営・業務運営を必要とする複数の事業を円滑に実施しつつ、同時に法人の経営の統一性と一体性を確保して統合による相乗効果を発揮し、基本理念にいう、総合的で中核的な原子力研究開発機関の役割を果たすことができる。
2)  新法人は国民や社会、更には国際社会からも信頼と協力を得られることが非常に重要である。このためその業務運営に当たっては、透明性を確保するとともに、情報を積極的に国民に対して発信することが必要である。この一環として、新法人の活動について第三者による評価を定期的に実施し、その結果を広く公表することが必要である。国の独立行政法人評価委員会による評価の範囲にもよるが、新法人の事業の評価については、法人全体の全般的評価だけでなく各事業単位の詳細な費用対効果の評価も実施するなど重層的な評価が不可欠であり、新法人は必要に応じてこのような評価の仕組みを導入することを検討すべきである。また、新法人は、①に示した経営を実現するためにも大学、産業界等第三者からの意見を適切に経営に反映する必要があり、これら外部の関係者との十分な協力の下に経営が行える適切な経営体制を検討する必要がある。

 (3) 業務運営の在り方
1) 競争的な研究環境の醸成と流動的な人事システムの構築
 新法人の研究開発業務においては、高い資質と意欲、目的意識を持った研究者及び技術者が中心的な担い手となるので、新法人は、そのような研究者等、特に若手の職員にとって魅力に富んだチャレンジングな事業目標や研究内容を設定するとともに、有為な人材の積極的な登用を可能とする競争的な研究環境や人事システムを構築することが必要である。同時に、大学をはじめとする内外の関係機関との積極的な人事交流を促進するなど人材の流動性を向上させることが必要である。
 このような競争的研究環境の醸成や人事システムの構築は、特に基礎・基盤研究の分野において重要である。新法人内の研究者等の間の競争が高まることにより、新法人においてより活力の高い研究開発活動が展開されるものと考えられる。一方、プロジェクト研究開発については、明確な目標の下で一定のスケジュール内でチームを組織して実施されるが、新たな発想等を柔軟に取り入れながら、より効率的、かつ、円滑な実施を目指す観点から、プロジェクトの構成等に基礎・基盤研究部門の研究者等の積極的な参加を検討すべきである。
2) 原子力安全研究の実施に係る「中立性」と「独立性」への配慮
 規制行政庁、原子力安全委員会等が行う安全規制に関する活動に対する国民の信頼確保のためには、当該活動が原子力の推進活動から適切に分離独立していることが必要である。このような観点から、規制行政庁等が必要とする科学的データの蓄積及びその提供や原子力事故の原因究明に関わる安全研究についても、「中立性」や「独立性」の確保が求められてきた。
 従来、このような観点においては、日本原子力研究所が実施する安全性研究が、その要請に応えてきたものと評価されているが、新法人においても、このような経緯を踏まえ、「中立性」、「独立性」の確保の要請に配意した安全研究実施のための組織及び運営に配慮する必要がある。
3) 人文社会科学の専門家の活用
 多様な原子力の国際課題に適切に対応するため、国際対応業務にあっては、技術的知識や経験を有する国際政治に関する専門家等を積極的に活用することや関係国際機関との情報交流等の連携の強化を図ることが重要である。また、国民理解増進の観点から、原子力の幅広い社会的側面を考慮すると、広報業務にあっては人文・社会科学者等の専門家の活用を図ることなどが効果的である。今後、原子力を社会の中に一層定着させていくため、国際面や社会的受容の面においては、原子力技術の専門家による対応だけでは限界があり、今後は、業務運営に当たっては、内外の人文社会科学系を含む広範な分野の有識者との連携及びその活用が可能な体制の構築が必要である。
4) 原子力施設及び設備の共用の促進
 新法人の保有する我が国の原子力研究開発の基盤となる施設及び設備については、国にとって重要な公的資産として最大限に活用されることが望ましく、新法人が自ら利用するだけではなく、大学及び産業界などの利用者の要望を適切に反映した、一層の共用の促進を実現できる体制を確立することが必要である。
5) 原子力施設の安全確保の徹底と核物質防護体制の確立等
 新法人は、原子力事業者として、その保有する原子力施設や核物質等について、厳格な安全確保及び核物質防護に係る体制を確立・維持するとともに、新法人に対する保障措置等の核不拡散に係る活動に適切に対応することが必要である。
6) 立地地域との共生
 新法人は、立地地域においては、原子力事業者として安全確保並びに情報公開及び公表の徹底等によって信頼を確保するとともに、そのポテンシャルを有効に活用して、立地地域の大学等との連携強化による科学技術の振興や、地元中小企業への技術移転や技術指導等により、立地地域の経済社会の発展に対して人的・技術的に支援していくことが必要である。

 (4) 経営基盤の確立
1) 累積欠損金の適切な処理
 新法人の設立に当たっては、出資者との調整を踏まえて累積欠損金問題の適切な処理を図るなどにより、新法人発足前に独立行政法人として健全な運営を確保し得る財務体質と財政基盤を確立することが必要である。なお、その際、累積欠損金は全て減資されることが最も望ましいと考えられる。
2) 原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分
 新法人においては、保有する原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分について、長期的観点から、計画的かつ安全に実施する必要がある。このためには、技術的に多くの課題を克服するだけではなく、地域をはじめとする国民的な理解を得ることが必要不可欠である。したがって、新法人においては、原子力施設の廃止措置等に対して、その研究能力、技術力、人材等を結集して取り組む必要がある。さらに、研究開発事業を着実に推進しながら、このような容易ではない事業を進めていくためには、これらの事業を法人として実施するための適切な業務運営の枠組みを確立することが必要である。
 このため、新法人の設立前に、原子力二法人において、それぞれが保有する原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分に係るコスト、スケジュールなどを可能な限り明らかにするとともに、原子力二法人が連携・協力して前述の枠組みを具体化しておくことが必要である。
 なお、本件に関連して、現在、文部科学省において、RI・研究所等廃棄物の処理処分事業の在り方について検討が進められていることから、その推移も注視しつつ、更にこの問題についての検討を深めることが必要である。


5.原子力二法人統合準備会議の今後の検討事項
 以上、本会議は、本報告において新法人設立の理念、新法人に求められる役割や組織・運営の在り方について基本的考え方を述べたが、今後は更に以下の点に留意しつつ、より具体的な検討を進めることとしたい。

(1) 既存事業について、個別事業ごとの実績及び評価を踏まえ、見直すべき事業内容を明確にした上で、事業の効率化、重点化、整理合理化を図るとともに、新法人として新たに取り組むべきものがあれば検討を行う。なお、核融合分野については、国際熱核融合実験炉(ITER)計画を、本年5月31日の閣議了解及び5月29日の総合科学技術会議の結論に基づいて、第二期科学技術基本計画を踏まえつつ、国内誘致を視野に入れて、推進することとなっている。今後同計画の進捗及びそれに伴う我が国の核融合研究体制の見直しの動向を踏まえつつ、新法人の果たすべき役割を検討する。

(2) 現在の原子力二法人の個別事業の見直しを踏まえて、各研究開発事業所毎のミッションを明確化し、人員の再配置を含めて、最適な資源配分を実現する組織体制の構築を目指す。

(3) 新法人の組織運営における、迅速な意思決定のシステム、効率的・効果的な経営・業務運営の実現のため、経営体制、事業組織、その業務運営の具体的な姿を明確化する。

 以上のような基本的考え方の下で、原子力二法人の統合が、研究資源の融合及び事業の「選択」と「集中」を通じて、相乗効果をもたらし、このことが我が国の原子力研究開発の新たな発展をもたらすことを強く期待する。また、当事者である原子力二法人は、新法人の設立を待つことなく今から、現行の事業の整理合理化や、原子力二法人の協力事業の開始、大幅な人事交流の実施等の連携・協力を強化し、統合を実質的に進めていくことを併せて期待する。