(資料2)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第3号

日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合についての意見

(財)エネルギー総合工学研究所理事長
秋山 守

1.新法人の役割と使命と活動分野について
(1)役割と使命

1)中核使命
  • 国全体の関連の戦略的活動の中で、原子力長期計画等に照らしつつ、新法人としての役割と使命を確認し、これに則り合理的かつ着実に目標達成に向かうことを期待。
2)全使命
  • 原子力発電と燃料サイクル事業に資する研究開発ないし実証活動、及び各種の先進的研究事業を中核使命としつつ、併せてそれを支える力となり、また益をあまねく社会に拡げるとの視野に立つ全使命を達成していくことが必要。
  • 加えて、使命を自ら描き、自らに課すとの意気と力を内生しつつ、能動的に将来の事業を開拓し担っていくことを期待。
  • 全使命には、技術基盤と人材の確保、立地地域との共生、産業界との連携協力なども含まれる。
(2)期待される活動分野
使命に基づいて期待される活動分野を区分すれば、およそ次のように理解される。
1)原子力利用と核燃料サイクルに係る事業
  • リスクや投入資源規模が大きいプロジェクト型事業、基礎と実用をつなぐ基盤型事業など。
2)安全確保と危機管理に係る事業
  • 安全活動の理論的、基礎的支援など。
3)国際活動と社会交流に係る事業
  • アジア地域重点協力促進など。
4)ロジスティクス(知的シーズ、マネー、人材等)とインフラ(知的、制度的等)に係る事業
  • 研究炉利用や専門家研修などを通じての人材の育成など。

2.新法人の活動の具備すべき要件と活動の前提
(1)具備すべき要件
1)目的と趣旨に沿った、有益な知的・社会経済的な成果の確実な産出能力。
2)ベースラインとして、安全の徹底、創造性の発揮、透明性の確保、適正で効率的な運営、社会の信頼、などが必要。
(2)活動の前提
1)経営的に大きな問題となる歴史的債務の撤去。
2)計画達成に必要な財源、人員等の確保。
3)関係方面の理解と直接間接の協力・支援。


3.新法人の経営ならびに他との連携協力
(1)組織内の経営
  • 構成する各組織ごとに相応の権限と責任を付すこと。
  • 適切な期間ごとに、各組織ならびに個人の達成目標を合議し、これに照らして成果と課題を検証すること。
    ・組織運営と活動成果に照らした投資効率、ならびに組織内での特色や力の相乗効果最大化を目指すこと。
  • と共に、新法人としての創意に満ちたスタイルとカルチャーの発現に努めること。
  • これらを通じて組織全体の意欲と活力の向上を目指すこと。
(2)他との連携協力
1)基本的方向
  • 産学の関係組織との連携交流を密にし、同時に一段と開かれた組織運営としていくために、関係組織の代表から構成される強力な運営審議会を設置すること。
  • 新法人からも、独立行政法人化が予定される国立大学等に対して同様に強力に運営審議等に参画し基礎研究や人材教育に対して活力を付与すべく努めていくこと。
  • これらの運営審議に当たって必要に応じ拒否権をも含めていくこと。
2)連携協力の内容と考え方
(以下の点は、日本学術会議で取り纏めた大学等の研究者の意見を中心に、 関連の意見を加えたものであり、私も同感であることから、ここでも記載 した。)
  • 大学などの学者・研究者との交流、ならびに共同事業展開のコーディネーション機能を果すこと。
  • 技術的知識・経験のある国際政治専門家を採用し、内外専門家、関係組織等との情報交換や協力を踏まえながら、活動体制を整えていくこと。
  • 大学と新法人とは研究の進め方や研究対象が異なることに留意し、適切な役割分担と連携強化を進めること。
  • とくに原子力基礎基盤研究について、大学との強い連携協力を進めるための拠点の形成を目指した運営とすること。
  • 放射線、加速器利用等の分野の基礎基盤研究においても、大学との連携協力を強化する運営方式を構築すること。
  • 大学の原子力研究教育ならびに新法人の人材育成事業に関して、連携協力が必要。
  • 大学・産業界との連携協力を重要事業の一つと位置づけるとともに柔軟な対応を可能とすること。
  • 新法人の重点的研究施設・設備は国を挙げて維持管理し、有効且つ適切な利用を図ること。
  • 研究炉の使用済み燃料、臨界未満実験装置の燃料、実験で利用した核燃料物質、および大学研究機関等で発生した放射性廃棄物の処理処分については、国の責任において、新法人との関わりを含めて検討すること。
  • 燃料サイクル分野では産業界の活動と併せたグランドデザインの中で適切な役割を果たしていくこと。
3)人や情報の交流
  • 海外との人や情報の交流に努め、これを介して異文化混合による新たな発見や活力向上をもたらすこと。
  • 多方面から積極性ある人材を受け入れて、参加型事業を拡大していくのは如何であろうか。

<付記>
1.国全体として望まれること
1)国は新法人の事業の重要性に鑑み、改めて次のような考え方に立つことを強く期待。
2)尊厳の自覚に立ちつつ、安全と国益の確保、ならびに国際社会の中での諸活動の在り方を含めて構想されたグランド・ストラテジー(以下、大戦略)が、国民に提示され支持されること。
3)大戦略に整合する各種のストラテジー(以下、戦略)、例えばエネルギー戦略、環境戦略、知的活動戦略などが、国民に適切に提示され支持されること。
4)それら戦略の体系は、理念に始まりクレディビリティに亘る従来の体系を基盤としつつも、さらに新たな価値観や概念等も含めて高度化を目指すこと。
5)新法人の事業と関連活動について、何よりも目標を明確に見定めることが前提。
6)その背景として、一般に国際社会の中で我が国が占めるべき地位、ならびに担うに相応しい役割について、現状の抜本的反省に立ちつつ、目標と投資を絞り重点化することが賢明。
7)なお目標の対象は、平和面に限定して整理すると、エネルギーの確保、環境の保全、安全と快適の維持、知的且つ社会的な活力と水準の向上などか。
8)戦略の推進に当たっては、深層研究とロジスティックス確保、ならびに障害要因の排除が基本的前提となり、併せてパブリック・コミュニケーション、ネット・マネジメントなどに力を注ぐことが肝要。
2.米、仏の進め方の特徴(例)を国としても尚参考とすることを期待
(1)米国エネルギー省(DOE)
  • 全体的な四つの目標に照らし、傘下の各機関の使命をそれぞれ明確に定めている。
  • 運営について大学や産業界と極めて積極的な交流を図っている。
(2)仏国原子力庁(CEA)
  • 研究の内容、目的に従い重点的に区分された五つの研究所が独自性を保ちつつ、CEAの全体計画の中で有機的に活動している。
  • 外部評価も綿密に、且つ頻度高く実施している。

以上


(資料3)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第4号

平成14年6月13日

原子力二法人統合にあたっての提言

原子力二法人統合準備会委員
秋元 勇巳

1.Center of Excellence を目指した組織

 二法人の統合化により新法人は、国際的にトップレベルの人材・技術・施設を保有する原子力研究開発機関となる。新法人は、このポテンシャルを有効に活用して、原子力平和利用の高度化と核廃絶の推進に貢献する世界的なCenter of Excellence を目指すべきである。
 我が国原子力開発の太宗を占めることとなる新法人の運営は、明確な国としての戦略・ビジョンに基づき運営されるべきであり、原子力委員会の積極的なリーダーシップのもと、各省庁がその持ち場に応じ有機的連携をとりつつ推進すべきである。

特に、燃料サイクルシステムの完結なくして、原子力の社会定着はありえず、21世紀文明社会の持続的発展も不可能となること
新法人の保有する人的、技術的資源もこの分野に集中していること
から、
 「International Fuel Cycle Research Center of Excellence 」を組織することを提言したい。
 本COEは、二法人を核に、リサイクル研究の国際貢献を視野に入れて、国外・国内の研究者、技術者の教育にも貢献できる組織編成とし、国際的に開かれた仕組みのもとで透明性をもって原子力長計にそって運営されることが望ましい。

2.上記COEを実現するために配慮すべき事項

(1)核廃絶に向けた国際貢献

 二法人の保有する卓越したプルトニウム関連技術を総合強化して、原子力平和利用のみならず、核廃絶に向けて国際貢献をはかることが望まれる。
特に、世界的課題となっている解体核から発生する余剰プルトニウムについては、その積極的な平和利用方策の実現に向けて、国際協力を進めるべきであり、そのための組織強化が必要である。 →(補足資料)

(2)これまでの二法人で開発、蓄積された技術の民間への積極的な移転・利用
 研究開発における、プロジェクト体制を含んだ運営方式の強化、および目標管理の徹底と、民間への技術移転を視野に入れた運営方式の確立を要望したい。
 このため民間の人材の経営・評価への参画、国レベルでは、文部科学省とともに
 経済産業省の積極関与が、特に重要である。

(3)二法人の抱える負の資産への対応と、新法人における今後の研究運営
 現在、二法人の抱える欠損金、廃棄物、廃止設備などの負の資産の処置については、除却、別組織、別会計処理等の処置を実施することにより、新法人の経営とは切り離し、今後の研究開発の効果的な運営を阻害しないよう措置することが望ましい。

(4)国の全体的廃棄物戦略と新法人の廃棄物研究および役割
 放射性廃棄物については、これまでの発生源別、規制官庁別などを再統合し、国としての全体的廃棄物戦略のもと、新法人の役割を明確にし、廃棄物処理処分の実施を推進することが望ましい。その際、廃棄物処理処分の研究と実務は明確に分離し、独立した運営とすることが必要である。

以上

上記提言の作成にあたっては、社団法人日本原子力産業会議 燃料・リサイクル委員会(委員長 秋元 勇巳)における議論や提言を極力集約して取り入れたが、あくまで原子力ニ法人統合準備会委員個人の責任において提出するものである。


(資料4)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第5号

原子力二法人統合に当たって

大学評価・学位授与機構
木村 孟

 原子力研究所と核燃料サイクル機構の統合に当たっては、次の三点を特に考慮すべきであると考える。
1) 新法人を若い研究者、技術者にとって魅力のある機関とすること
 我が国では、いまや、原子力に関する技術開発や研究は若者の注目を殆ど惹かない存在となってしまっている。このことは、5月22日の現地視察の際に意見交換を行った中堅研究者、技術者との懇談の場でも、将来に対する大きな懸念事項として挙げられた。
 何故そうなったのか、理由は様々であろうが、一つには、二法人が行う技術開発や研究があまりにもミッションオリエンテッドで、自由な発想の下に研究を行う雰囲気が薄いということがあるのではないか。統合後も、核燃料サイクルに関する部分は、この点に特化した事業を継続していかざるを得ないであろうが、原子力研究所が担当してきた部分については、研究テーマに関して柔軟な選択が可能となるような組織の再構築を考えることが出来るように思われる。この機会に、若者が自由な発想で仕事が出来る組織の構築を目指すべきである。
2) 全体組織の見直し
 統合後も同じ規模の予算が講じられるとすると、年間予算が2、000億円以上の超大型研究機関となるため、統合に際してはある程度の予算の減額は覚悟せざるを得ないであろう。そのような状況下で、現在抱えている設備をこれまで通り維持していく体制では、技術開発や研究に充当できる費用が逼迫し、新組織の存在意義が薄らいでしまう。統合を機会に、既設設備の抜本的な見直しを行い、設備に関しては徹底的なスリム化を図る必要があると考える。勿論、この見直しは、1)に述べた組織の再構築を視野に入れたものでなければならない。
3) 原子力に対する国民の理解を得るための組織作り
 統合準備会においても、原子力に対する国民の理解を増すためのシステム作りを新組織に期待する意見が、何人かの委員によって表明された。これまでも、原子力に対する国民の理解増進のために、様々な試みが行われてきたが、それほどの効果を挙げていない。それは、原子力に関わる問題に対する意思決定が専門家だけで行われてきたためで、人文科学、社会科学等の分野の専門家との連携が殆ど考慮されていなかったためであると考えられる。そのようなやり方に対する反省から、現在、原子力の専門家以外の様々な分野の研究者、学識経験者等を巻き込んだ器作りが試みられている。それはそれで評価すべきことではあるが、新組織は、そのような器を組織の中に作ることを考えるべきである。即ち、新しい組織の正式職員として、人文科学や社会科学の専門家を迎え入れ、原子力に対する国民の理解を如何に得るかを恒常的に考えるセクションを設けるべきであると考える。


(資料5)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第6号

新法人に期待するもの

原子力二法人統合準備会議
熊谷 信昭

  1. 新法人は原子力の平和利用全般に関する先導的・先駆的な研究開発を総合的に行う世界最高の国際的研究開発拠点として、我が国の発展に寄与するとともに、世界・人類に貢献するという高い志と確固たる理念を持たなければならない。従って、予算や人員の規模等についても、はじめに枠を設定して、その制限された枠内で議論するようなことは望ましくない。必要に応じて弾力的な運営が可能となるような、自由度の高い研究開発組織にしなければならない。
    国には、そのような、世界を先導する研究開発機構を実現するために、長期的な視点に立って、必要な資金の投入をはじめとする適切な支援を行うことが求められる。また、新法人の最高責任者には、旧原研と旧サイクル機構がそれぞれ担当していた比較的自由度の高い基礎研究から各種の規制の多い開発・運転部門までを適切に統合・調和させて運営することのできる高い識見と強いリーダーシップを持った人物が期待される。

  2. 新法人がその基本的理念に沿って設立の目的を達成していくためには、すべての研究課題について最終の目標が明確に認識されていなければならない。その意味では、基礎的・基盤的な研究も含めて、すべての研究は結局ミッションオリエンテッドな研究でなければならない。具体的な実用化や改良を目指したミッションオリエンテッドな開発研究でも、これを徹底的に追求していけば、結局基礎研究にまで行きつくことが多い。また、研究の過程で全く予想もしなかった新しい現象や、当初の目的とは関連のない問題に遭遇することもしばしば生ずる。研究管理者には、研究者がこれらを解明するために基礎的研究の領域にまで進んでいくことを許容する賢明な判断力と勇気ある雅量が求められる。その結果、最初の目的とは無関係な成果が副次的に得られ、それがノーベル賞をはじめ学術的な賞の授賞対象となるような純学術的な成果となったとしても、それはそれで世界・人類への貢献として評価され、また実利的にも、新法人が若い勝れた人材を集める上で最高のリクルート効果をもつものであると解すべきである。

  3. 新法人は世界のセンターオブエクセレンスとして日本の大学や大学院と連携するのみならず、世界の大学・大学院と連携大学院等を構成し、学位授与の道も開いて、海外からの学生や研究員・研修生などを積極的に受け入れる努力をすべきである。発展途上国をはじめ、世界の原子力分野にmade in Japanの指導的人材を数多く送り込むようになることを国策としても期待したい。


(資料6)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第7号

原子力2法人統合にあたっての意見

小林 庄一郎

○ 日本の原子力エネルギー利用においては、エネルギーセキュリティおよび地球環境問題の観点や、核不拡散を担保し原子力の平和利用を推進するとの視点から、21世紀のリサイクル社会とも方向性の合致するウラン資源の有効利用、即ち燃料サイクルに基づくプルトニウム利用が究極の目標である。
 プルトニウムは計画的に利用していくことが必要であり、当面はMOX燃料に加工し軽水炉で利用していくが、将来的には高速増殖炉で利用することが基本である。
 このため、高速増殖炉とその燃料サイクルの確立を原子力エネルギー利用における長期的開発課題と位置づけ、これを新法人の最高のミッションの一つとするとともに、国としてもこれを着実に推進することが必要である。

○ この長期的目標を達成していく第一歩である軽水炉での燃料サイクル実現のため、現在、電気事業者は、青森県六ヶ所村の再処理工場の操業開始と原子力発電所におけるプルサーマルの実現を目指し、最大限の努力を行っているところである。
 これらを円滑に推進するため、新法人においては必要な技術と人を民間に移転するとともに、関連する技術を技術基盤として維持していくことを期待している。

○ また、新法人が存分に力を発揮し、期待される役割を果たすためには、現在の原子力2法人が抱え、原子力開発についての国民の理解を得る上で予め解決しておくべき課題、例えば、放射性廃棄物の処理処分や施設の廃止措置の見通し及び必要な財源の確保や欠損金の問題など、負債とも言える課題について、国が責任をもって解決することが必要であると考えている。
 英国政府は、英国原子燃料会社(BNFL)の民営化を進めるため、原子力債務管理局(LMA:Liabilities Management Authority)を設立し、BNFLおよび英国原子力公社(UKAEA)の債務や資産を移管する考えであり、また、米国エネルギー省は、傘下の国立研究所の放射性廃棄物を環境管理計画に従って処理・処分するため、年間60億ドル規模の支出をしている。これらは、新法人の体制、運営を検討する上で参考となるのではないか。

○ なお、核燃料サイクル開発機構は、動燃改革検討委員会報告書に基づき事業を整理統合し、外部有識者による運営審議会を設け、指摘事項の反映状況を継続してフォローアップするなど、改革の実績を積んできた。新法人の統合においても、本準備会議での議論や原子力委員会、原子力安全委員会等からの提言を尊重し、業務の重点化、効率化を図るとともに、新法人の運営について外部有識者による評価機関を設置し、定期的にチェックする仕組みを作り込むことが重要である。

以上


(資料7)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第8号

原子力研究開発関連二法人統合に関する私見

住田 健二

1.一般論

 二法人統合によって生まれる新機関の役割は、かなり明確であると思われる。新機関は国の財政的な支持によって運営され、日本における核燃料サイクルの自立と広義の放射線利用の発展を目指す総合的な目的研究・開発機関である事が要請される。また新機関はその規模において世界有数の大組織となるので、国際的にも大きな指導力を発揮しうる存在であることが期待される。こうした機関であればその対象となる範囲が基礎から応用までのかなりの広がりを持つのは当然であるが、大組織であるが故に寄生する分野までを養うだけのゆとりはない。
 既存の両機関がわが国の原子力開発に寄与した大きな業績は、内外ともに認められてきた所である。しかし、設立以来かなりの年月を経ており、効果的な運営という面からは、単純に両者の既存の活動を継承するのではなく、思い切った対応が望まれる。既に近い過去に他者の目からみた批判による大きな見直しを行っているサイクル機構とその種の外部批判に頼らず、自主的な判断による改革を進めてきた原研との間にはかなりの意識差も感じられるのであるが、とにかく、この機会に共通の目標に向かって、二つの縦割管理を温存したような形式的なものではない、実質的な統合を実現して欲しい。この点については既に、両機関が自主的に協力して、具体的な統合への作業を進めて居られると聴いており、近くその報告があるとの事であるから、その協力作業の成果を期待している。
 他方、原子力研究・開発においては、初期はとにかくとして、最近ではこのような大きな組織的見直しの機会はなかなか訪れ無かった。これまで必要だと考えられながら、なかなか取り上げられる機会が無かった分野を新しく立ち上げるには絶好の機会である。たとえば人材や機材が原研とサイクル機構の諸処に薄く分散しているため、これまで見送られてきた新型炉、将来炉と呼ばれる一群の炉型の組織的な検討やそれへの開発計画の立案担当グループの設置はこの機会を逃しては当分無理であろうし、高レベル廃棄物処分やFP消滅への各種の研究も組織 的な検討を必要としている筈である。こうしたいくつかの緊急度の高い問題点への対応は、併合の実現前の今からでも始めて欲しい。もし、思い切った既存の業務の整理によって作り出された人員や予算が、一律的な統合による経費・人員削減の対象として財政的に吸い上げられ、こうした、未来の利用へ向けた新しい仕事を立ち上げる事ができなければ、今回の統合は構成員に積極的な意欲を与えることができず、原子力斜陽化の大きな段階としてのみ受けとめられてしまう事を憂える。
 なお、これまで両機関は大学や民間との共同研究や設備共同利用によって、官学・民の共同的な各種の連携に大きな努力を払ってきた所ではあるが、目的研究所であるゆえに法的な規制があり(特にサイクル機構)、 必ずしも関係者の努力が報いられなかった所があった。新法人の設置にあたっての新しい立法措置がなされる際には、是非こうした将来の制約となる可能性を配慮した慎重な法案を準備していただきたいと期待している。

2.いくつかの問題点への具体的私見

 1)原子力安全研究関連について

 安全研究関連の大型施設や研究部門を独立させて研究所、場合によっては原子力安全委員会の直轄の研究機関化して強化すべきとの提言もあるが、賛成できない。安全上の問題は特化された技術的問題点として表面に出てくることが多いが、実体としては非常に拡がった問題を解決すべき事が多い。もし、現在の原研の安全研究が大きな成果を上げてきた事を高く評価するのならば、特別な大型施設での特殊な実験成果を提供した事ばかりではなく、それをより広い場で検討しうる体制をもっていた事が大きく寄与したと考える。孤立した、大型装置中心の安全試験センターとなっては、縦割りとなり実効性は上がらない。
 現在の原子力安全委員会の事務局には、こうした実務機関を統轄・運営する機能は与えられて居らず、その点でも十分な世話が出来ない可能性が多い。したが って、原子力安全委員会は実務を直接担当するよりは、自らが設定した安全研究年次計画の推進の指導・推進を行う役割を自覚して、単に原研の安全研究のみではなく、民間を含む国全体としての安全研究を総括する立場をより強化すべきであろう。安全研究に於いて、中立性を強く求める声がある。これは研究成果の公開原則によって担保できるが、むしろ大型施設では限られた予算と実験枠の配分優先度決定において、事実上の恣意的な偏りが生じうることを制約するためにも、安全委員会の適切な指導が重要性を持つ。

2)大型原子力開発、研究施設の地区的偏在について

 地方の立場から見ると、原子力に限らず国が支援する科学技術面での大型開発、研究施設は極端に関東地区に偏在している。大学等の教育機関での分散度とはかなりの差違があろう。原子力についても、この傾向は例外ではない。したがって、両方人の統合によって、管理体制が強化されるにつれ、この傾向が促進される事を憂える声は強い。すでに、既存の原研やサイクル機構の活動が、どちれかといえば特定の地方に偏って居たことが、国民全体の原子力への支持を弱めて居なかっただろうか。分散による非能率化への考慮は必要であるが、設備の集中ばかりが研究の重点化、効率化ではない。

3)低線量被曝の人体影響研究を総括する研究機関は不要なのか

 今回の二法人の併合によって、新しく生まれる新組織に、低線量被曝の人体影響を総括する機能を期待することには無理があることは承知している。従って、この提言は、別途の実現を期待してのものであるが、あえてこの場を借りて、再度の発言をしておきたい。この問題の重要性は多くの立場から認識され、すでに既存研究機関が精力的に研究を展開している事もよく知られている。しかし問題の大きさ、意味の深さを考えるとき、国としての長期的な総合研究計画の不在とその中心的な推進機関が依然として不在であるように思える。エネルギー利用のハードウェアー面では、今回の二法人統合によって大きな飛躍も期待できる体制が生まれるとすれば、それと対をなすべきこの問題については、旧態依然として分散した各個機関の努力に頼る方式で、国としては担当省庁すら不明確なまま放置れれているのは納得し難い。米国における議員立法でのこの分野の研究推進等も是非参照されるべきであろう。

4)人材獲得の面から見たアジア地区センターとしての寄与

 これまでも、原研が主に担当してきた開発途上国への援助や電力関係でのトレイニング、大学への留学生受け入れ等は特にアジア地区での原子力利用の普及に多くの寄与をしてきた。しかし、人材養成という面では、どちらかというと各国の原子力関連中堅幹部要員の訓練に主力があり、それらの人たちは自国へ帰って活躍する事が期待されているが、日本での就職の機会を与える配慮は乏しかった感がある。しかし、将来において原子力関連の人材の不足を憂える声が多いのならば、センターとしての機能の中には、このチャンネルを通じたアジア地区からの人材確保が含まれても良いのではないか。優秀な人材が日本を通り抜けて米国や欧州へ流れるのを黙視しているのは何故か。

(2002年6月10日)


(資料8)
第6回原子力二法人統合準備会議
資料第9号

原子力2法人統合に当たっての意見

弁護士 住田 裕子

1 これまでのヒアリング・議論の集約に際して
 本年2月の第1回開催から,これまで,多くの関係者からのヒアリングを受け,議論を重ねてきた。そこで収斂してきたものを私なりに書き直すと・・・・・・新法人は,1)原子力を平和目的のみに利用するという我が国の国是,その精神等を諸外国とも連携してさらに徹底し,核廃絶に向けて国際的に貢献すること,2)厳しい財政事情の下で決定された「特殊法人等整理合理化計画」の精神に基づき,コスト意識を常に持ち,種々の政策評価に耐え得る効率的な事業運営をすること,3)2法人統合のシナジー効果により,さらなる成果を挙げること,4)科学技術立国としての我が国の将来を担える新規技術等を研究・開発・育成・推進し,さまざまな事業化への道筋をつけること,この方面におけるフロントランナーとしての地歩を固め,さらに邁進すること・・・・・・・などであろうか。
 他の原子力関係の専門委員の方々からは,特に,専門的・技術的側面からのご意見があろう。それらについては,異論のないところと思われる。

2 原子力関係事業・技術開発等を取り巻く現実…国民の眼など
 しかしながら,原子力関係事業等を取り巻く状況,とりわけ,国民の眼には厳しいものがある。
 地球規模の環境保全の動きの中で,我が国においては去る5月に,地球温暖化防止条約・京都議定書が批准承認された。これにより,温暖化ガスの排出量の削減は国際公約となり,省エネのさらなる推進,太陽光,風力等のクリーンエネルギーの利用開発の促進など,さまざまな取組みが強化されつつある。そのための現実的な選択肢として最大のものは,原子力発電の新設であるはずなのだが,なぜか大きな声とはならない。立地等の問題からか,当初の20基目標から最大でも13基までなどとトーンダウンした。厳しい現実がある。
 戦後のある時期まで,平和利用目的の原子力技術は,新たな科学技術開発の希望の星として,多くの期待を寄せられてき,今やその技術は,先進国の中でもトップ集団に入っている。その過程で,優秀な人材を多数この世界に招じ入れてきたはずである。
 しかしながら,むつ・もんじゅ・JCOに至るまでのさまざまな事故により,また,  その事故対応の拙劣さにより,安全性や関係者に対する信頼性が大きく損なわれ,不信感が国民意識の中に醸成されてしまった。
 環境保全を志向する政治的勢力は,将来の原子力に対しては否定的であり,原発増設に対する忌避感は強い。国際的にも,ドイツしかり,スウェーデンしかり。

 今まさに開始しようとしていた新たな展開のプルサーマルには暗雲が漂う。ましてや,高速増殖炉については,行方が見え難い。これらは,我が国の経済状況と同様の閉塞感の中にあるように見える。

3 2法人統合は,現状打破と国民の支持に向けたものに
 2法人は,単なる看板の「かけかえ」では許されない。前記1にあるとおり,効率性,成果等が問われ,絶えざる評価にさらされる存在となろう。これをもって,萎縮してしまうか,逆にその存在感を発揮する好機とするか,まさに真価が問われる。当事者ひとり一人が、ある意味では危機感を持って、統合のシナジー効果を最大限あげるべく、事業の見直し、人材・予算の効率的重点的配分、そして傾注すべき事業へ邁進することが求められる。
 その過程では,手にした成果のみならず,目標に向かう途上としての現状の経過説明などを怠らず,絶えず国民の眼に見えやすい透明な組織運営とする必要がある。どこかの合併体のように,主導権争いなどする暇はないはずである。情報公開・情報提供は相応のコストがかかる。しかし,民主主義における当然の要請としてこれに応じ,かつ,その技術も磨くべきである。もちろん,当事者においては,今でも十分に説明をしているとの自負(歯痒さ?)はあろうが,なおいっそう国民に向けて発信する努力が求められる。それだけの可能性のある人材は有しているはずであるし、それをさらに育成する必要はあろう。
 国民の支持,支援がなければ,大規模な技術開発は不可能であること肝に銘じ,この統合を転換期とされることを希望する。