原子力工学研究連絡委員会

エネルギー・資源工学研究連絡委員会核工学専門委員会

核科学総合研究連絡委員会原子力基礎研究専門委員会

報告

 

日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合と
我が国における原子力研究体制について

 

 

平成14年5月20日

 

日本学術会議

原子力工学研究連絡委員会

エネルギー・資源工学研究連絡委員会核工学専門委員会

核科学総合研究連絡委員会原子力基礎研究専門委員会



 この報告は、第18期日本学術会議 原子力工学研究連絡委員会、エネルギー・資源工学研究連絡委員会核工学専門委員会、核科学総合研究連絡委員会原子力基礎研究専門委員会の審議結果を取りまとめて発表するものである。

原子力工学研究連絡委員会
 委員長木村逸郎日本学術会議第5部会員、(株)原子力安全システム研究所・技術システム研究所長、京都大学名誉教授
 幹事 今西信嗣京都大学大学院工学研究科教授
 幹事 田中 知東京大学大学院工学系研究科教授

エネルギー・資源工学研究連絡委員会 核工学専門委員会
 委員長木村逸郎日本学術会議第5部会員、(株)原子力安全システム研究所・技術システム研究所長、京都大学名誉教授
 幹事 木下智見九州大学大学院工学研究院教授
 幹事 藤井靖彦東京工業大学原子炉工学研究所所長
大澤孝明近畿大学理工学部教授
澤村晃子北海道大学大学院工学研究科教授
早田邦久日本原子力研究所理事
竹田敏一大阪大学大学院工学研究科教授
成合英樹筑波大学機能工学系元教授
大和愛司核燃料サイクル開発機構理事

核科学総合研究連絡委員会 原子力基礎研究専門委員会
 委員長田川精一大阪大学産業科学研究所教授
 幹事 柴田徳思日本学術会議第4部会員、高エネルギー加速器研究機構放射線科学センター長
 幹事 石井慶造東北大学大学院工学研究科教授
相沢乙彦武蔵工業大学工学部教授
井戸達雄東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター教授
大森正之東京大学大学院総合文化研究科教授
大橋弘士北海道大学名誉教授
岡嶋成晃日本原子力研究所東海研究所エネルギーシステム研究部主任研究員
岸本洋一郎核燃料サイクル開発機構理事・東海事業所所長
佐々木康人放射線医学総合研究所理事長
佐藤 純明治大学理工学部教授
代谷誠治京都大学原子炉実験所教授
都筑幹夫東京薬科大学生命科学部教授
中沢正治東京大学大学院工学系研究科教授
的場 優九州大学大学院工学研究院教授
松原純子内閣府原子力安全委員会委員長代理
山根義宏名古屋大学大学院工学研究科教授
吉川栄和京都大学大学院エネルギー科学研究科教授



報告書の要旨

1.報告書の名称
 第18期 日本学術会議 原子力工学研究連絡委員会 エネルギー・資源工学研究連絡委員会核工学専門委員会 核科学総合研究連絡委員会原子力基礎研究専門委員会 報告「日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合と我が国における原子力研究体制について」

2.内容
(1)作成の背景
 原子力利用の重要性、及び当該分野における学術の重要性については、日本学術会議の対外報告等で既に指摘しているところであるが、今般、日本原子力研究所(原研)と核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)が統合して、新たに原子力研究開発を総合的に実施する独立行政法人(新法人)を設置することが閣議決定された。
(2)現状及び問題点
 これまで、我が国の原子力研究開発を担って来た、設置目的の異なる主要な研究機関が統合されることは、我が国における原子力研究体制全体に大きく影響するとともに、原子力分野における学術的発展にも少なからざる影響を及ぼすものと考えられる。さらに、両機関の統合は、新法人の役割について、大学を含む国内の原子力研究開発、教育人材育成を俯瞰した広い観点を持って見直す絶好の機会であるとも考えられる。

3.改善策、提言の内容
 この報告書では以下の提言を行う。
(1)新法人の在り方の検討にあたっては、広く大学、産業界等を含む原子力関係者の意見、要望を踏まえること。
(2)原子力研究開発の目的研究開発、基礎基盤的研究において適切な役割分担をすること。また、原子力エネルギーと放射線・加速器利用等の基礎基盤的研究、教育・人材育成において大学と新法人相互の連携強化を進めること。
(3)原研とサイクル機構にある重要な研究施設、設備については国を挙げて維持管理し、有効かつ適切な利用を図ること。
(4)研究炉の使用済燃料、臨界未満実験装置の燃料、実験で使用した核燃料物質の処置、および大学研究機関等で発生した放射性廃棄物の処理処分は大きな問題となっており、国の責任において、これらの処置等について新法人との関わりを含めて検討すること。


日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合と
我が国における原子力研究体制について


 原子力の重要性および当該分野における学術の重要性については、エネルギー利用に関しては「21世紀に向けた原子力の研究開発について」(平成10年11月、日本学術会議対外報告)で既に指摘しているところであり、放射線利用、加速器利用に関しては日本学術会議原子力関連研究連絡委員会・専門委員会で現在審議中であるが、文部科学省、原子力委員会の報告にもあるように放射線利用の経済規模や国民生活への寄与は大きい。今般、日本原子力研究所(以下、「原研」という。)と核燃料サイクル開発機構(以下、「サイクル機構」という。)を廃止して統合し、新たに原子力研究開発を総合的に実施する独立行政法人(以下、「新法人」という。)を設置することが閣議決定され、その具体的な統合の在り方についての議論が様々なレベルで行われている。これまで、我が国の原子力研究開発を担って来た、設置目的の異なる主要な研究機関が廃止統合されることは、我が国における原子力研究体制全体に大きな影響を与え、原子力分野の学術的発展にも少なからざる影響を及ぼすものと考えられる。また、この統合は日本のエネルギーの将来に影響を与える重要なものでもある。従って、日本学術会議の原子力関係の研究連絡委員会および専門委員会としても、多大な関心を持ち、これに対する意見を取りまとめるべく審議を行ってきた。本報告書は、その審議の経過を踏まえて作成したものである。

 なお、現在、周知のように国立大学の独立行政法人化に向けての準備が着々と進められている。一方、文部科学省原子力二法人統合準備会議や原子力委員会では新法人と大学や産業界との連携・協力の重要性が指摘されており、新法人の在り方に関する検討の要点に連携・協力の在り方を含むことが議論されている。このような情勢の下で、大学における原子力研究、教育の在り方については現在、日本学術会議原子力工学研究連絡委員会で、原子力分野における加速器の研究開発、放射線利用を含む原子力の基礎基盤研究については日本学術会議核科学総合研究連絡委員会原子力基礎研究専門委員会で、研究炉に関しては上記原子力基礎研究専門委員会と原子力工学研究連絡委員会が合同で、別途検討中であるが、本報告書は、それらの審議経過も十分に踏まえて作成したものである。

 新法人の在り方の検討にあたっては、効率よく研究開発を進める機関とシステムを構築することが将来に向けて必要であることはいうまでもないが、そこでは、新法人と大学、産業界等がそれぞれの特徴・性格・機能を活かしつつ相互の連携を強め、原子力研究・教育の活力に満ちた展開が可能となる体制・組織づくりを目指す必要がある。原研およびサイクル機構は、我が国において原子力に係る研究と開発を行ってきた中心的な機関であり、合計5,000名近い定員を保有している。両者はまた原子力研究開発や核燃料サイクル技術開発等についての多くの研究施設を有している。これらは我が国が今後原子力研究開発を進めていく際、基盤的な研究施設として重要となる。両機関の統合は、新法人の役割について、大学を含む国内の原子力研究開発、教育・人材育成を、俯瞰した広い観点を持って見直す絶好の機会であるとも考えられる。両機関の統合は両機関のみでなく、我が国の原子力研究開発の将来とも密接に関連した重要な事項であり、大学における学術活動との関係も深い。このような背景から、以下のような点について提言する。

1.新法人の在り方の検討にあたっての視点に関する提言

 大学における原子力研究・教育の在り方については、日本学術会議において、これまで数次にわたる報告書をとりまとめるとともに、現在も最近の原子力を巡る状況の変化を踏まえ、新たな視点で検討中である。新法人の設置にあたっては、単に両機関の統合という視点だけでなく、我が国における原子力の研究開発、教育・人材育成について俯瞰的に見直す観点から、広く大学、産業界等を含む原子力関係者の意見、要望を踏まえることが必要である。

2.適切な役割分担と連携強化に関する提言

2−1.研究の進め方や研究対象が大学と新法人で異なっていることへの留意

 原子力研究開発には、目的研究開発と基礎基盤的研究という、研究の進め方や目的による分類と、原子力エネルギー研究、放射線利用研究、加速器利用研究開発等という、研究対象による分類の2つの座標軸による見方があることに留意する必要がある。新法人と大学あるいは産業界の原子力研究に関する取り組みについて、この2つの座標軸で見た時に相違が生じるのは当然であり、我が国における原子力研究・教育と開発を総合的に推進して行くためには、適切な役割分担の下に相互の特徴を活かしつつ連携を強化することが必要である。また、新法人は2つの座標軸で見た複数の研究の進め方や目的、研究対象を一つの組織に内包するので、各々の特徴を十分に活かしつつ、全体としては統一ある組織運営を行うことが必要である。(原研、サイクル機構と大学との連携の現状について簡単に注1に示した。)

2−2.原子力エネルギーの研究開発の重要性と連携・協力

 新法人は引き続き、原子力エネルギーの研究開発に関わる中心的役割を果たす必要があると考える。すなわち、革新的原子炉の研究開発、原子力安全に関する研究開発、高速炉システムに関する研究開発、核融合炉研究開発、核燃料サイクルに関する研究開発、および放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の、目的研究開発と基礎基盤的研究の推進である。この中で、原子力エネルギーに関係する基礎基盤的研究については、広い分野での大学研究者との連携・協力を図ることが重要と考える。一方、大学には原子力エネルギーの基礎的、萌芽的、先駆的研究を引き続き行うことが求められようが、このような原子力エネルギーに関連する基礎研究を大学独自に行うことには、研究炉の維持管理を含め、限界がある。従って、大学における原子力エネルギーに関連する基礎研究は、人材の交流をも含めて、積極的に新法人における原子力エネルギーの基礎基盤的研究と連携しつつ、それぞれの特徴を活かした形で進めることが重要である。また、より強い連携を進めるために、拠点の形成を視野に入れた運営方式を考えることが必要である。

2−3.放射線、加速器利用等の基礎基盤的研究における連携・協力

 現在、原研で実施中あるいは計画中の放射線利用研究、加速器利用等の基礎基盤的研究については、長期的視野を持った研究を新法人が関連する研究機関との密接な連携・協力の下に行うべきである。一方、大学においては、原子力エネルギーに関する基礎研究とともに、放射線利用研究、加速器利用研究等の基礎研究に重点をおいた研究が行われている。従って、このような基礎基盤的研究の推進にあたっては、大学を含む研究者コミュニティーの意見が反映される形での連携・協力の形態が検討されるべきである。このような基礎基盤的研究における連携・協力の推進には、目的研究を進める場合とは異なった運営形態が必要である。例えば、大学、研究所や新法人という互いに独立した組織での検討をもとに、連携・協力する研究者を含む運営委員会等の運営の下で、新法人等が有する施設・設備を用いた研究の実施等が考えられる。また、より強い連携を進めるために、エネルギー研究と同様に、拠点の形成を視野に入れた運営方式を考えることが必要である。

2−4.原子力分野の教育、人材育成における連携・協力

 原子力に関係する教育と人材育成は枢要であり、この面で大学が果たすべき役割は極めて重要である。原子力関係の教育・研究を行っている各大学においては真摯な議論と対応がなされているところであり、日本学術会議においても、これまでの報告に加え現在も主要な検討課題としているところである。大学は引き続き学部、大学院において工学一般および原子力工学に関する基礎教育と、原子力・放射線利用の高度化および原子力安全の向上を目指した先端的学術基礎研究を遂行し、それらを通して原子力分野の教育と人材育成を行うことを使命とする。このとき、将来、研究を指導できる優秀な研究者を大学院博士課程において養成することも、大学が今後とも果たすべき重要な役割である。大学における原子力の研究教育においては、新法人との連携が効果的である分野も少なくないことから、人材育成面を考慮した連携・協力の姿についても探る必要がある。新法人においては、その特徴を生かした人材育成方策について今後検討するものと考えるが、原子力エネルギーの基礎研究、放射線利用研究、加速器利用研究等の分野での大学との連携・協力は当然視野に入るべきであろう。また、大学としても積極的に協力することが必要と考える。

2−5.新法人の大学、産業界との連携・協力の必要性

 新法人は原子力に係る研究開発を行う唯一の大規模な研究機関であり、かつ特色のある研究施設と、優れた経験を持った優秀な研究者、技術者を擁する。今後の我が国における原子力平和利用の推進、あるいは原子力研究開発の推進においては、新法人、大学、産業界の連携・協力が必須となることは明白である。特に、原子力基礎基盤的研究においては、このような大学、産業界との連携・協力体制の確立を新法人の業務において重要な目標にすべきである。連携・協力の具体的な方法については、できる限り柔軟な対応が可能となるようにすることが必要である。
3.研究施設、設備の有効利用に関する提言

 原研およびサイクル機構には多くの特徴ある研究施設、設備がある。それらは原子力の研究開発に重要な役割を果たすものであり、大学や民間において保有、維持することは殆ど不可能な施設も多い。さらにそれらの多くは、放射性物質や核燃料物質が使用できるものであり、現在、大学や民間においてはこのようなホット設備の保有、維持は極めて困難な状況になりつつある。原子力工学の発展と原子力安全研究の向上のためにも、このような重要施設については国を挙げて維持管理するとともに、その有効かつ適切な利用を図ることが極めて重要である。

4.燃料、放射性廃棄物の処置に関する提言

 我が国における研究炉の使用済燃料の処置、臨界未満実験装置(注2)の燃料や実験で使用した核燃料物質の処置、および、大学、研究機関等で発生した放射性廃棄物の処理処分等については、大学、研究機関等だけでの対応には限界があり、未解決の問題として残されている。これらは、大学等における健全な原子力研究教育、及び研究開発の遂行上、大きな障害となりつつある事実を考慮する必要がある。これらの問題の解決には法規制の整備とそれに基づく具体的な対応が必要となる。従って国の責任において、これらの処置等について新法人との関わりを含めて検討すべきである。(運転中の試験研究用炉及び研究開発段階にある原子炉施設を表1に、運転中の臨界実験装置を表2に示す。)


注1:原研、サイクル機構と大学との連携の現状

 現在、原研と大学との間で、人材育成制度については、特別研究生制度、夏期休暇実習生、学生実習生、連携大学院方式があり、研究協力制度については、協力研究、共同研究、プロジェクト共同研究、委託研究/委託調査、受託研究/受託調査がある。また、サイクル機構と大学との間では、人材育成制度では、実習生、連携大学院方式があり、研究協力制度では、協力研究(客員研究員)、共同研究、プロジェクト共同研究、委託研究、受託研究がある。
これらにより、これまで多くの成果を出してきたところであるが、研究開発の分野によっては連携が不十分なところも少なくない。


注2:臨界未満実験装置

 原子炉の炉心を模擬した燃料と減速材等の組成と配置で、核分裂連鎖反応が起こる(臨界となる)に至らない大きさとした集合体の実験装置。未臨界実験装置、指数実験装置ともいう。外部中性子源を用いて、集合体内の中性子束分布などを測定することにより、その炉心の臨界質量などの特性を求めることが可能である。原子炉物理の学生実験用としても用いられる。我が国の大学では、北海道大学、東北大学、東京大学、東京工業大学、京都大学、大阪大学、九州大学が保有しているが、解体しているところが多い。最近加速器中性子源と組合せたシステムが注目され、研究が始まっている。


表1 運転中の試験研究用炉及び研究開発段階にある原子炉一覧表


表2 運転中の臨海実験装置一覧表