藤家原子力委員会委員長の海外出張報告について

平成14年5月21日

【米国】
1.第4回サンタフェエネルギーセミナー
(1)開催日: 平成14年4月29日(月)〜30日(火)

(2)出席者: 日米の原子力関係者 約140名
日本側出席者:
 藤家原子力委員会委員長、鈴木東京大学教授、神田京都大学名誉教授、都甲核燃料サイクル開発機構理事長、南電気事業連合会会長、藤関西電力社長、鷲見日本原子力発電社長、佐々木日本原燃社長 他

米国側出席者:
 マクナリ大統領特別補佐官(経済政策担当)、カード米国エネルギー省(DOE)次官、ドブリアンスキー米国国務省(DOS)次官(地球規模問題担当)、ストラトフォードDOS原子力部長、クーン・エジソン電気協会会長、ハワード米原子力協会副会長 他

(3)セミナーの趣旨
 日米間の原子力に関する相互理解を深めることを主目的に、Washington Policy Analysis社(米シンクタンク)とロスアラモス国立研究所が共催するセミナーに電気事業連合会ワシントン事務所が協力する形で1997年より開催。原子力エネルギー利用、原子力の直面している課題、日米間での研究協力可能分野等に関して日米の原子力関係者による意見交換を行うもの。

(4)結果概要
○第1日目(4月29日)
[セッション1: 新しい時代における原子力の展望]
1.基調講演
 藤家原子力委員会委員長より、「人類・文明・原子力」というテーマで、文明の発展に伴う科学技術の質的改良と量的拡大が、新しいリサイクル文明あるいは循環型社会を必要とするという認識の下、そのような社会を支える役割を担う総合科学技術である原子力の全体像とその将来像を提示した。また、日米協力の発展のため、原子力分野における包括的な協力に関して有識者による意見交換を行う、賢人会議のような場を設けることを提案した。一方、マクナリ大統領補佐官より、国家エネルギー戦略と原子力の現状に関する講演が行われた。


2.電力会社と国のエネルギー政策
 南電事連会長より日本の電力の現状及び地球温暖化問題への取組としての原子力の推進について講演が行われた。一方、クーン・エジソン電気協会会長より、米国の電力を巡る情勢について講演が行われた。

[セッション2: 原子力の拡大に向けた困難への挑戦]
3.新時代に向けた効果的なパブリックアクセプタンス戦略
 藤関西電力社長より、日本におけるパブリックアクセプタンスの取組について電力の生産地と消費地の対話等を例に講演が行われた。一方、ハワード米原子力協会副会長より、二酸化炭素排出減少への原子力の寄与の説明等を例にした米国のパブリックアクセプタンスの取組について講演が行われた。
4.規制緩和の現状と原子力発電の競争力の見通し
 兒島電気事業連合会副会長より、規制緩和の状況を説明し、長期的な視点から原子力発電を推進するための枠組みが必要である旨の講演が行われた。一方、クレイ・エクセロン副社長より、今後は新たな原子力発電所が建設される可能性がある旨の講演が行われた。
5.混合酸化物燃料(MOX)利用計画と核不拡散
 早瀬電気事業連合会理事より、原子力研究開発利用長期計画をベースとした日本のMOX利用の状況について講演が行われた。また、佐々木日本原燃社長より六ヶ所核燃料サイクル施設の状況について講演が行われた。一方、ポーネマン元大統領補佐官より、核不拡散のため新しいパートナーシップが必要である旨の講演が行われるとともに、ロングワースDOE長官補佐官からも、民生利用の方向性が核不拡散の方向性と整合がとれたものでなければならないことが強調されるとともに、新たな核拡散抵抗性のある核燃料サイクルの開発に関し、米国を含めた国際協力が可能である旨の講演が行われた。

○第2日目(4月30日)
 冒頭に、カードDOE次官よりエネルギー省の取組について講演が行われた

[セッション3: 日米研究開発協力イニシアチブ]
6.世界の原子力の将来に向けた全般的アプローチ
 イーガン・サンディア国立研究所副所長より、経済社会の動向を踏まえた、再処理を含む統合的な原子力システムの研究開発について講演が行われた。
7.小型革新原子炉
 神田京都大学名誉教授より、日本の中小型革新炉の研究開発状況について講演が行われた。一方、チョウ・ローレンスリヴァモア研究所副所長より、STAR(Secure Transportable Autonomous Reactor)に関する研究開発状況及び日本との協力について講演が行われた。
8.先進原子力システム
 可児核燃料サイクル開発機構システム技術開発部長より、日本の高速増殖炉研究開発の状況と日米協力の展望について講演が行われた。一方、チャン・アルゴンヌ国立研究所副所長より、高温化学法(金属電解法)による再処理の研究開発について講演が行われた。
9.加速器による原子核変換の展望
 早田日本原子力研究所理事より、放射性廃棄物の分離・変換のための加速器駆動核変換炉に関する研究開発とそれに関する日米協力について講演が行われた。一方、アーサー・ロスアラモス国立研究所上級プロジェクトリーダーにより、
AAA(Advanced Accelerator Application)に関する講演が行われた。

[昼食会]
 ドブリアンスキーDOS次官より、気候変動と持続的開発に関する米国の取組について講演が行われた。

[セッション4: 原子力の将来への課題]
10.高レベル廃棄物処分技術とその安全性
 鈴木東大教授より、放射性廃棄物の処分に伴って生じる安全への懸念に対する取組に関する講演が行われた。一方、ノップマン核廃棄物技術評価会議委員より、放射性廃棄物処分場選定における同会議の役割について、また、ウィリアムズDOEシステムエンジニアリング・国際部長より、放射性廃棄物処分場計画についての講演が行われた。
11.核物質防護戦略
 鷲見日本原子力発電社長より、日本における核物質防護の現状とテロ対策について講演が行われた。一方、ストラッドフォードDOS原子力部長より、IAEAによる核物質防護条約改訂の取組に関する講演が行われた。また、ツィマーマン原子力規制委員会原子力安全・事故対応室長より、9月11日のテロへの同委員会の対応について講演が行われた
12.原子力発電所の運転の最適化
 青木中部電力副社長より、原子力発電の運転管理と浜岡事故を踏まえた国民の信頼回復への取組について講演が行われた。一方、ニューマン・ニュークリアマネジメントカンパニー副社長より、原子力発電の運営会社である同社の活動について講演が行われた。

(5)所感
 原子力利用については、日本側の官民のトップレベルの原子力関係者が、それぞれの立場から核燃料サイクルを含めた原子力の重要性と、その推進のための具体的取組について説明を行うことにより、原子力推進という方針が政府及び産業界を貫く明確なスタンスであることを、米国のオピニオンリーダーに示すことが出来たと考えられる。一方、米国側については、高い設備利用率がもたらす強い競争力、二酸化炭素を排出しないことによる地球環境問題への寄与といった原子力発電の効果とセキュリティー強化のための取組といったメッセージが繰り返し示され、国家エネルギー政策を受けた原子力の復権と昨年9月11日のテロの影響という2つの潮流が米国の原子力利用に大きな影響を及ぼしていることを認識した。
 研究開発については、日米とも共通の将来像を有していることが明らかとなるとともに、日本側においてより具体的な取組が発表されたことから、今後の日米協力において、日本側がリーダーシップを取っていく場面が多くなっていくと考えられる。


3.米国要人との会談
(1)カードDOE次官との会談[4月30日(火)]
 日本側よりITER計画の検討状況について説明するとともに、同計画への復帰を要請した。これに対して、米国側より復帰に向けて前向きな検討を行っている旨の説明があった。
 また、日米有識者により政策面での包括的な意見交換・対話を行う賢人会議の開催を提案したところ、先方より、自分(カード次官)や藤家委員長といったレベルでの対話が必要であると考えており、包括的な取組によって政策的インフラを形成してはどうかとの発言があった。

(2)オーバックDOE科学局長との会談[5月1日(水)]
 日本側よりITER計画の検討状況について説明するとともに、同計画への復帰を要請した。これに対して、米国側より、米国の決定にあたっては、日本、欧州の参加決定が助けになる旨の発言があった。

(3)マーカスDOE原子力科学技術局次長との会談[5月1日(水)]
 米国側より、米国家エネルギー政策における高速炉及び核燃料サイクルの位置づけについて、短期的にではないが、長期的課題として含まれていると考えていること、当面は軽水炉であるが、将来のための高速炉研究はあり得るとの見解が示された。

【仏国】
4.仏国要人との会談
(1)ペラ原子力庁(CEA)最高顧問との会談[5月2日(木)]
 日本側よりITER計画の検討状況について説明した。これに対して、仏側より、ITERを巡る最重要課題は、米国のITER参加を確かなものにすることであり、多数の国が参加するという国際圧力がITER計画をより確かなものにするため不可欠であるとの見解が示された。

(2)ケスラー経済協力開発機構(OECD)/原子力機関(NEA)総括次長との会談
  [5月2日(木)]
 先方より、Generation-IV(第4世代原子力システム)に関して日本が強力なリーダーシップを発揮することにより、重要な役割を果たすことを期待している旨の発言があった。

5.フランス核燃料公社(COGEMA)ラ・アーグ再処理工場訪問・訓練状況
 視察[5月3日(金)]
(1)視察結果
 本工場は、UP−2及びUP−3の2つの再処理工場から構成されるが、この内のUP−3は、日本原燃六ヶ所再処理工場のモデルとなっている。COGEMAは、2001年から2004年の期間に日本原燃の職員をUP−3に受け入れ、運転員等の訓練を実施している。
 今回の視察では、ACC施設(使用済み燃料の構造部材等を減容化する施設)の運転状況を視察するとともに、運転・管理、メンテナンス及び放射線管理の訓練実施状況を視察した。また、訓練生との意見交換を実施した。

(2)所感
 日本原燃職員に対する訓練は、シミュレータを使うのではなく、UP−3を訓練用計画に基づいて運転し、工場全体を訓練の場として使用する大規模なものであり、この訓練に対するCOGEMAと日本原燃の熱意が感じられた。
 この訓練は、再処理技術の導入に伴ういわばノウハウの移転として行われているものであるが、これまでOJTによって運転員、補修員を養成してきたCOGEMAにとっても初めての試みであり、試行錯誤によって教習マニュアルの更新が随時行われている。日本でもセクター間の技術移転が話題になっている中で、移転を実際にどのように行っていくか検討していく際に、今回の訓練をケーススタディーとして活用することが可能ではないかと考えられる。
 また、今回の訓練は、フランスと日本という異なる文化を背景にして行われているものであり、これらの訓練を契機として、科学技術面だけではなく文化面において両国の交流がこれまで以上に発展していくことを期待したい。

【独国】
6.21世紀の核燃料サイクルシステムに関するワークショップ
(1)開催日: 平成14年5月6日(月)〜8日(水)

(2)出席者: 日、EU、独、仏、英、米、露及び韓国の原子力関係者 約50名
[各国の主な出席者]

日本: 藤家原子力委員会委員長、中神核燃料サイクル機構副理事長
EU: シェンケルEU超ウラン元素研究所所長
独: ケスラー元カールスルーエ研究所中性子物理・原子炉工学研究所所長
仏: ブシャール原子力庁原子力局長
米: グランダー・アルゴンヌ研究所所長
英: エルスデン英国原子燃料公社職員
露: ズロドニコフ物理エネルギー研究所所長
韓: パク韓国原子力研究所副理事長

(3)ワークショップの趣旨
 (社)日本原子力産業会議主催、(財)電力中央研究所及びEU超ウラン研究所共催で21世紀における原子力サイクルシステムのあり方について、主要国の専門家が集まって意見交換を行うもの。今回の会合のテーマは、以下の通り。
 1.20世紀の原子力利用と核燃料サイクル
 2.21世紀の原子力システムが求められる要件
 3.21世紀の革新炉とそのサイクルシステム
 4.核燃料サイクルの残された課題

(4)結果概要
 第1日目に藤家委員長より、原子力サイクルシステムの現在の課題及び将来の方向性について基調講演が行われた。また、ワークショップの最後には、全体総括が行われるとともに、高速炉サイクル技術に関する研究開発の重要性を述べた声明(別添資料参照)をとりまとめた。
 本会合の議事次第は以下の通り。

○第1日目(5月6日)
[基調講演]

[20世紀における原子力利用とプルトニウム利用]

○第2日目(5月7日)
[21世紀における原子力システムの選択基準のあり方]
[21世紀における革新的原子炉と関連する燃料サイクルのあり方]
○第3日目(5月8日)
[核燃料サイクルの残された課題]
(5)所感
 日本は原子力研究開発利用長期計画で示されているとおり、高速増殖炉を含めた革新炉とそれに関連するサイクル技術の開発を目指して研究開発を進めているが、今回のワークショップにおける議論を通じて、この路線を国際的なベースにおいても明確にすることが出来た。また、この分野における各国の目標がほぼ同じであることが確認でき、今後の国際協力を進めるための共通認識が形成されたものと考えられる。



Workshop on Nuclear Cycle System for the 21st Century Workshop on Nuclear Cycle System for the 21st Century


仮訳 仮訳