日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の廃止・統合と
独立行政法人化に向けての基本的な考え方
(案)

平成14年  月  日
原子力委員会決定

 日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構は、昭和30年に制定された原子力基本法にその根拠を有する組織であり、これまで累次にわたる「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下、「原子力長期計画」という。)の下で、我が国の原子力研究開発における中核的な役割を担ってきた特殊法人である。

 昨年12月19日に、中央省庁等改革に続く行政改革の一環として、「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、その中で、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構について、その廃止・統合及び独立行政法人化(以下「統合」という。)が決められた。
 原子力委員会としては、この旨の報告を受け、統合後の新法人が、今後の我が国の原子力研究開発においても、引き続き中核的な役割を果たすことを期待する旨表明すると同時に、新法人のあり方について、積極的に意見を述べていくとの意向を明らかにした。
その後、原子力委員の間において議論を重ねるとともに、5回にわたり、原子力委員会参与から意見を聴取した上で、今般、両法人の統合に向けての基本的な考え方をとりまとめることとした。

 今回の「基本的な考え方」は、特に原子力研究開発における両法人の重要性に鑑み、原子力委員会としての基本的な考え方をとりまとめたものであり、今後の関係行政機関を始めとする関係者による検討が、これに沿って行われることを強く希望するものである。
 両法人の統合については、上記閣議決定により、平成16年度中に関連法案を提出することとされており、それまでの間関係者による詳細な検討が行われることとなるが、その進捗状況を踏まえながら、今後とも、適時適切かつ臨機応変に、原子力委員会としての考え方を提示することが必要であると考えており、引き続き、積極的に両法人の統合に向けて取り組んでいきたい。


1.基本的な認識
(1)今後、我が国が科学技術創造立国を目指していく中で、原子力科学技術の重要性は増しこそすれ、いささかも減じるものではない。また、我が国のエネルギー供給構造が依然脆弱な一方、地球温暖化問題が日々深刻化する状況の下においては、原子力の研究開発利用のより一層効果的な推進が求められているものと考えている。
したがって、まず何よりも、引き続き、我が国の原子力研究開発利用の枠組みを定めた原子力長期計画(現行計画 平成12年11月24日原子力委員会決定。同28日閣議報告)の着実な推進を図っていくことが重要であり、同計画の下で中心的な役割を担ってきた両法人が、統合後も引き続き、同計画に沿って、我が国の原子力研究開発において中心的な役割を担っていくことが是非とも必要である。

(2)特に、統合後の新法人は、国が行うべき「基礎・基盤的な研究開発」から「プロジェクト型研究開発」までを全て包含する、まさしく我が国唯一の中核的な原子力研究開発機関と位置付けられるものである。
したがって、今回の統合が積極的な効果をもたらし、我が国の原子力研究開発の一層の発展に資するよう、「基礎・基盤的な研究開発」や「プロジェクト型研究開発」など、各々の研究開発の性質に応じて、適切な組織構成や運営が行われることが不可欠であるが、それにとどまらず、「先進性、一体性及び総合性」を備えた研究開発機関として、その役割を果たすことが強く求められる。
なお、その際、特殊法人改革の趣旨を踏まえて、業務の重点化・効率化を併せて図っていくことが重要であることは、言うまでもない。

2.新法人に求められるもの
(1)横断的課題
 1.組織運営

  • 新法人は、「基礎・基盤的な研究開発」から「プロジェクト型研究開発」までの部門から構成されることとなるが、原子力科学技術の発展と、我が国のエネルギーセキュリティの確保といった政策上の観点に立てば、まず安全確保を大前提として、全体のバランスのとれた運営が図られることが必要である。
  • もとより両部門は、「基礎・基盤的な研究開発」では研究者の個性と自由な発想を尊重することが要請され、組織のフラット化が有益である一方、「プロジェクト型研究開発」ではプロジェクトの目的の明確化とそれに沿った研究開発の実施が必要であるなど、研究開発の性質が大きく異なるため、具体的に組織や人事、また運営管理手法を検討する際には、その点について留意することが必要である。
     他方で、今般の統合を我が国の原子力研究開発の一層の発展のための重要な契機とするためには、新法人を単に両部門が併存するだけの組織とするのではなく、組織全体の活性化に努めつつ、シナジー効果の発揮される組織とすることが強く求められる。
     そのためには、内部の研究開発組織を硬直化させることなく、新法人内部での交流を活発化させるなど、言わば「組織横断的なマネージメント」を追求していくことが期待される。
  • また、併せて、両部門を含め、新法人全体の適切な運営に要する資金の確保がなされるべきであり、原子力委員会としても、関係府省を始めとする関係者とともに、これまで以上に努力していきたい。

 2.研究評価の充実

 原子力研究開発の重要性については、既に述べたとおりであるが、その重点化・効率化が重要であることも論をまたないところであり、その意味で、他の科学技術同様、新法人においても、①で述べたような研究開発の性質の多様性に着目しながら、これまで以上に厳正な研究評価が行われるよう、評価制度の充実を図っていくことが必要である。

 3.透明性の一層の向上
 原子力研究開発を円滑に推進していくために、国民から幅広い支持を得るとともに、立地地域の理解と協力が不可欠であることは、あらためて言うまでもないところである。
 したがって、新法人は、これまで以上に透明性の向上を図る観点から、これまでに実施してきた情報公開や外部評価の一層の充実、立地地域への理解促進活動に努めることが必要である。

 4.安全確保への貢献
 今般統合される両法人については、これまでの長年にわたる研究の実施を通じて、先進的な研究開発の一部としての安全研究、安全確保のための科学的・技術的基盤の構築を含む、安全規制・防災対策への支援につながる安全研究の両面において、相当の貢献を行ってきている。
 したがって、統合後の新法人が、引き続き、客観性・透明性を堅持しつつ、こうした役割を担っていくことが、安全確保を大前提とした、我が国における原子力研究開発利用の一層の発展のためには必要不可欠である。

 5.産学官の連携強化
  • 近年、経済のグローバル化などにより、国際的競争が激化する中、科学技術における産学官の連携の重要性は、年々高まっている。
    そもそも原子力分野は、エネルギー供給にとどまらず、放射線利用なども含む、極めて広がりの大きい分野であり、原子力研究開発においても、産学官の連携強化を図っていくことは、我が国の産業競争力の強化という観点からも、強く求められるところである。
     このため、核燃料サイクル分野における民間への技術移転はもちろんのこと、原子力研究開発全体において産学官の連携強化を図る中で、新法人がその重要な一翼を担うことが必要である。
  • 原子力科学技術の発展には、広汎な基礎科学的基盤を有する大学との連携が不可欠であることは言うまでもないことであり、それにより、新法人における革新的な研究開発の発展が期待される。
  • また、産学官の連携強化を図るに当たって、円滑な技術移転や研究開発成果の迅速な産業化は、人材の移動が円滑に行われるか否かに左右されるケースが多いことを踏まえ、今後の検討において、人材の流動化に配慮することが望まれる。

 6.大学との人材育成面での連携強化

 今後の原子力研究開発の発展のみならず、我が国における原子力の一層効果的な推進にとって、専門的な人材の育成は極めて重要な課題であり、統合後は我が国唯一の中核的な原子力研究開発機関となる新法人に対しては、こうした面での役割も強く期待されるところである。
 こうした観点から、人材育成面においても、大学との連携強化が最も重要な課題の一つであり、特に近年、大学教育における施設や設備の取扱いの機会の減少が指摘されていることを踏まえ、専門的人材の養成において、新法人の施設・設備の活用を図ることも有益であると考えられる。

 7.国際協力・核不拡散への貢献
  • これまで長年にわたり一貫して原子力研究開発に取り組み、いわば「原子力先進国」の地位を占める我が国としては、原子力分野における国際協力、特に今後エネルギー需要の高い伸びが見込まれるとともに、放射線利用の拡大が予想されるアジア地域において、専門的な人材の育成を含む協力を進めることが極めて重要である。
     統合後は世界で屈指の規模を有する原子力研究開発機関となる新法人が、研究員の受入れ、要員教育、各種技術協力の面で、統合を契機として、より開かれた運用を図っていくことが肝要である。
  • また、核燃料サイクルについて豊富な研究実績を有する機関として、国際的に主導的役割を発揮することが重要であることは言うまでもない。
  • 我が国は、これまで一貫して原子力を平和利用に限ることを国是としてきており、原子力研究開発を進めるに当たっても、常に平和利用を念頭に置いて実施してきたところである。
     新法人についても、そうした面での蓄積を有することを踏まえ、これまで以上にプルトニウム管理等の核不拡散に対する研究開発面での貢献を行い、二国間、IAEAを始めとする多国間ベースで、我が国が期待される国際的な付託に応えていくことが期待される。

 8.廃棄物処理・処分方策の確立

 新法人が、将来に向けて、原子力研究開発を推進していくためには、放射性廃棄物の処理・処分や廃止措置が、新法人の運営に過度の負担とならないことが必要不可欠である。
 こうした課題については、既に関係行政機関を始めとする関係者によって検討が進められているところであるが、この解決を新法人のみに委ねることのないよう、引き続き国が責任を持って検討を行い、その方策の確立を目指していくことが必要である。

(2)個別的分野における課題
 1.核分裂分野(核燃料サイクルを含む)
 核分裂分野は、今回の統合による積極的効果が最も期待される分野であり、両法人のこれまでの研究成果を生かし、将来に向けた革新的原子力技術の研究開発などを積極的に実施していくべきである。
 核燃料サイクルについては、我が国にとっての重要性に鑑み、核燃料サイクルの完結及びその高度化のため、高速増殖炉及び関連する燃料サイクル技術、軽水炉使用済燃料の再処理技術の高度化、高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術の研究開発について、現行原子力長期計画の方向性を踏まえ、引き続き積極的に実施していくべきである。

 2.核融合分野
 国際熱核融合実験炉(ITER)計画の進捗を踏まえ、我が国が果たすべき役割の中での新法人の役割を検討し、相応しい体制を構築していくべきである。

 3.加速器分野
 加速器装置自体は、様々な科学技術分野の原理原則を解明するための手段であり、また、物質の創製、構造解明などの幅広い研究分野の基盤を成す技術である。
 新法人は、放射線研究の蓄積など、原子力の中核的研究開発機関としての役割を十分に認識し、加速器開発を実施している諸機関との間の役割分担を踏まえながら、我が国全体における加速器開発の総合化・効率化を図る中での重要な役割を担うことが期待される。

 4.放射線利用分野
 放射線利用分野においても、将来にわたる我が国の産業創生の一つの柱として、産業界との連携が期待されるとともに、多岐にわたる分野での利用の普及を図る上での新法人の役割を検討していく必要がある。