第11回原子力委員会定例会議議事録(案)

1.日時 2002年3月12日(火)15:00〜16:00
2.場所 中央合同庁舎第4号館7階 共用742会議室
3.出席者
藤家委員長、遠藤委員長代理、竹内委員
久保寺参与
内閣府
 浦嶋審議官
 榊原参事官(原子力担当)
経済産業省原子力安全・保安院核燃料サイクル規制課
 阿川統括安全審査官

4.議題
(1)核燃料サイクル開発機構人形峠環境技術センターにおける核燃料物質の加工の事業の変更許可について(一部補正)
(2)日本原燃株式会社濃縮・埋設事業所における核燃料物質の加工の事業の変更許可について(諮問)
(3)日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合について
(4)その他

5.配布資料
資料1 核燃料サイクル開発機構人形峠環境技術センターにおける核燃料物質の加工の事業の変更許可について(一部補正)
資料2−1 日本原燃株式会社濃縮・埋設事業所における核燃料物質の加工の事業の変更許可について(諮問)
資料2−2 日本原燃株式会社濃縮・埋設事業所加工施設の加工事業変更許可申請書の概要について(固体廃棄物の廃棄設備の変更等について)
資料3 日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合に関する参考意見
資料4−1 第9回原子力委員会臨時会議議事録(案)
資料4−2 第10回原子力委員会定例会議議事録(案)

6.審議事項
 (1)核燃料サイクル開発機構人形峠環境技術センターにおける核燃料物質の加工の事業の変更許可について(一部補正)
 標記の件について、阿川統括安全審査官より資料1に基づき説明があった。

 (2)日本原燃株式会社濃縮・埋設事業所における核燃料物質の加工の事業の変更許可について(諮問)
標記の件について、阿川統括安全審査官より資料2に基づき説明があった。

 (3)日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合について
 標記の件について、久保寺参与より資料3に基づき意見が述べられた後、以下の質疑応答及び意見交換がなされた。
(竹内委員)  実例を踏まえていろいろお話しいただいたが、久保寺参与のお話は、日本原子力研究所が現在実施している部分についてということか。
(久保寺参与)  放射線主体で意見を申し上げたが、エネルギー関係の研究も非常に重要であると思う。エネルギー関係の基盤的なものは、核燃料サイクル開発機構からも出てくると期待している。過去の事例として、超遠心分離で開発された軸受けなどは非常に優れたものであり、オーディオ装置に転用されている、ということも聞いている。
 レーザーに関しても、いろいろと研究されているが、その用途はウランの分離だけではなく、例えば、病院での血液検査をレーザーによる検査にシフトすると、従来の方法では1週間かかるものが、リアルタイムで検査できるようになる可能性がある。過去に直腸や唇でレーザーによる検査を試みたことがあったが、挫折してしまった。これは、端子と血管の間に介在する要素のさまざまな厚みを積算し補正することができるソフトがなかったことが原因であった。今は、そういったソフトを作成しようとすれば、両法人の中に作成できる人がいると思う。このレーザーによる検査は、使い捨てになっている注射器が不要になるばかりでなく、感染症を防ぐことができる、患者に痛みを与えない、リアルタイムな情報を得ることができる、といったメリットがある。核燃料サイクル開発機構でやっている基礎研究の中に、このような萌芽的な技術要素を、いろいろと含んでいるのではないかと思う。
 放射線利用を主体に意見を申し上げたが、二法人の中で融和・融合した人材の中から、何か大きなものを作ることができるのではないかと考えている。
(竹内委員)  これまでヒアリングさせていただいた参与の方々も、両法人が統合されることによるシナジー効果を期待されているご意見が多かった。
 他方、中性子やレーザー、放射光の分野など、利用分野が原子力に限られない分野で、次から次へと新しいものが作られているようであり、新しいものを早く人類に役立てるという仕組みを、我々は期待している。そういった観点で、もっとこうあってほしいということはあるか。
(久保寺参与)  今日あたりも、食品安全庁を設立しようという話があることを聞いたが、これまでもO−157などの問題があった。これからは、食の安全が重要だと思っている。日本は、水際での食の安全の防御が薄いと感じているが、放射線照射は、O−157のような細菌だけでなく、ウイルスに対しても有効であり、今後新しい大きな産業になりうると思う。しかしながら、この可能性に対し、担当行政庁は、「民意を反映して」という言葉で回答する。この言葉からは、放射線照射について民意が反対であるからできない、というニュアンスが伝わってくる。しかし、「放射線照射の食品を食べると危ない」といった誤った考えが存在したりすることもあるように、民意が正しくないこともある。これに対し、正しい情報を知らしめる努力が必要であるが、誰がそれをするのかが明確でない。このようなものの成果はとても見えにくいものだが、システマティックに理解を深め民意を正しくするために、縦糸・横糸をどのように組み上げていけば良いのか、抜本的に見直すことが必要だと思う。
(竹内委員)  それは、両法人だけの問題ではなく、原子力全体の大きな課題と受け止めたい。
(久保寺参与)  困難であるにせよ、民意が誤っているとしたら、行政庁は、その誤りを修正し、国民の健康や安全に資するための行政をやらなければならない立場であると思う。やはり、民意を変えていくという大きな課題が横たわっていると思う。
(竹内委員)  久保寺参与ご自身も、O−157について深く携わっているとうかがっているが、具体的な課題が何かうかがいたい。
(久保寺参与)  米国では、以前多くの方がO−157で亡くなった。それで、今では、オーストラリア産の牛肉ですら、きちんと放射線照射したものしか輸入しないようになっている。
(竹内委員)  米国ではそのようだが、我が国では、放射線照射をした肉を輸入できるのか。
(久保寺参与)  日本では認められていない。スパイスにしても、賞味期限の過ぎたものだとは思うが、七味唐辛子のふたを空けたら蛾がでてきた、ということがあったと聞いている。要するに、スパイスの中に卵があったということである。特にスパイスは加熱することもなく使用されることが多く、将来再び寄生虫なども問題となってくるかもしれない。島国である日本は、ウイルスに対しても何に対しても、やろうと思えば規制により水際で上陸を防ぐことができると思うが、現状では、検疫上問題があるものが自由に出入りしているような感じがしている。食品照射については、是非、民意を変えていく必要があると思う。
(竹内委員)  食品照射については、先進18カ国の中では日本が最小で、ジャガイモの発芽防止のみとのことだが。
(久保寺参与)  お恥ずかしい現状である。日本では、照射されていないジャガイモの方が良いというスーパーマーケットもあると聞いているが、米国では、スーパーでも照射品かどうか明記されており、消費者も照射品の方を選んで買っていく、と聞いている。
(藤家委員長)  久保寺参与は、HIVウイルスに放射線を照射する特許を取得されているが、それは実際にどのように照射するのか。
(久保寺参与)  放射線を照射するとウイルスは失活する、ということは周知の事実だが、血液は体の中を循環しているので、放射線を全身に照射するといろいろな障害が出てしまう。そこで、人工透析と同じ要領で外に血液を回し、管理区域の設定が小さくて済むベータ線で照射するというものである。しかし、実験をするには、日本では、生ウイルスを持ち込める場所が国立感染症研究所だけに限られている。しかし、国立感染症研究所は、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」の許可がなく、実験が行えない。今は、海外協力により実験することを考えている。プライバシー保護のため、同意を得ずに血液中のHIVウイルスの濃度の測定を行うことができないが、HIVウイルス感染者は、暗黙のうちに、非常に増えてきているのが実状だと聞いている。個人的には、アフリカや東南アジアでお役に立ちたいと思っている。
(竹内委員)  これは含蓄のある話であり、法人統合というより、もっと原点の、大きな問題だと思う。
 ところで、私は放射線専門部会も担当しているが、部会の運営を、今後は、放射線利用の分野と低線量の分野に分けた方が良いだろうか。
(久保寺参与)  低線量の分野に関しては、すでにプロジェクトがスタートしているので、その部分だけでも走っていけると思う。
(竹内委員)  放射線利用の方は如何か。
(久保寺参与)  誤った民意に対して軌道を修正しつつ、食の保全に向け積極的に取り組む必要があると思う。そういったことの実現に向けて活用できる技術はすでにあると思うが、そのようなものが実働していないのが現状である。
 また、医療分野では、陽子線を利用したガン治療が、かなりのスピードで普及しつつあり、各地から医療用加速器を設置してほしいという要望がある。しかし、日本には、実働している加速器が4ヶ所、間もなく実働する加速器が2ヶ所と、まだ6ヶ所しかない。もっとコンパクトで安い医療用加速器の開発を進めることができるのは、この新法人なのかなと思っている。
 小型原子炉も、中性子を利用し、生命機構の解明につながるデータを得る上で役に立っている。研究者の使い勝手が良く、さらにコンパクトな研究用原子炉を考えるのも、新法人ではないかと思う。
 加速器なども、普及すると経済効果が大きいと思う。
 医療や健康について、放射線や原子力が担える分野はたくさんあり、新産業が創生されてしかるべきだと思う。
(竹内委員)  話を戻して恐縮だが、テクネチウム99を生成するためには、ニュートロン・ガンマ反応であるため、原子炉が必要ということなのか。
(久保寺参与)  その通り。
 今は、モリブテン99として100%輸入している。ただ、モリブテン99は、半減期が60時間ぐらいであるため、週2回空輸して病院に運んでおり、メーカー側の大きな負担になっている。小型原子炉で生成できれば良いのだが、国際規制物質である高濃縮ウランが必要なため、日本では生産できない。モリブテン98を空輸し、それからモリブテン99を生成する方法もあるが、残っているモリブテン98を分離することができない。これを分離し、比放射能の高い状態でモリブテン99を得ることができれば、これは1つの大きな産業にすることができる。半減期が60時間程度であるモリブテン99を空輸することは、大量の鉛遮へいも必要であり、大きなロスとなる。急いで運んだとしても、着いた時には、モリブテン99は4分の3ぐらいに減ってしまっており、経済的にも大きなロスである。
(藤家委員長)  我が国では、RI(放射性同位元素)生産用の原子炉については、正面から取り上げていない。これから、これが世界的に大事になってくることをどこまで明確にしていくか。そうなれば、当然その話も進むはずである。
(遠藤委員長代理)  我が国で、なぜ高濃縮ウランを作らないのか。高濃縮ウランを使ってはいけないというわけではない。
(久保寺参与)  その通りであり、それを使っていける環境が整えば、ということである。
(藤家委員長)  実際にRI製造用の原子炉の設置を考えれば、当然答が出てくるだろうと思う。
(遠藤委員長代理)  高濃縮ウランは自由に使用できないが、米国の許可をとれば、使うことが可能である。なぜ、許可をとらないのか。
(久保寺参与)  今の原子炉は多目的に使っているので、それをテクネチウム生産のために使う、といった柔軟性がないのだと思う。医療用や医薬品製造用の原子炉ができれば、許可がとれて、日本での供給が非常にスムーズにいくと思う。
 テクネチウム99mは娘核種であり、半減期が6時間しかない。メーカーが標識して出荷できるのは、日本では東京近郊と関西地区しかない。それ以外の地域では、ジェネレーターというミルキングのできるカラムに吸着させて、遠いところには送り、現場でテクネチウム99mを作ってもらっている。このような特殊性を解決できれば、1つの大きな産業になりうると思っている。
(遠藤委員長代理)  久保寺参与のご意見の中にあった「対外発信」については、放射線利用の分野が最も重要であると思う。具体的にはどのように進めれば良いか、お考えをうかがいたい。
(久保寺参与)  基礎研究については、雑誌「ネイチャー」に載るぐらいの研究であれば、世界的に評価されることになり、すばらしいと思う。ただし、発表すると特許が取れなくなることがあるため、実用化・産業化につながる成果が発表されなくなり、実用化された時にやっと世の中に出てくることになるのではないかと思う。このように、そういったものをどのように発信するのか、というのはいろいろな利害が絡むため難しいことであるが、利害を別にした場合は、その成果を原子力学会などのホームページからインターネットを通じて発信していくのも良いと思う。こうして、「今こういう研究が進捗している」、「海外からも協力できる方を募集している」といった具合に発信していけば、かなりたくさんの方に見ていただけると思う。
 総合科学技術会議では、大きな予算と陣容を備えており、発信していく力を持っている。今はどうか分からないが、初期の頃は、総合科学技術会議の中に原子力や放射線の専門家がいなかった。この会議にも、原子力委員会から人を出していただき、それを拠点として世界に向けて発信することも考えられるのではないか。
(竹内委員)  総合科学技術会議で扱っているナノテクノロジーやゲノムなどの科学分野でも、放射線を利用しており、原子力を利用する分野の一部である。
(久保寺参与)  ナノテクノロジーも大きなプロジェクトが走っているが、それも含めて発信ルートがもう1つあってもいいのではないか。そういった中で、安全研究分野などで、日本発のグローバルスタンダードを発信できるのではないかと思う。
(藤家委員長)  今日は、いろいろな観点から放射線関連についてご意見をいただくことができた。先生が言われた通り、今の段階で放射線をどのように活かしていくのか、という大局観が必要だと思う。
 大局観とは何かということについて、先生のご意見を私なりに理解すると、1つ目は先進性の部分を明確にすること、2つ目は広がりがあることを明確に示すこと、3つ目はお互いのインタラクションを含めた総合性が大事であること、かと思う。今までの放射線のとらえ方はあまりにも種々雑多で、統一見解がないものであり、大局観を持って見られないというところに全体像を示し得ないという問題があった。
 簡単に考えれば、放射線利用では、物質とのインタラクションの結果、何が生まれるかについて考えれば良いのではないかと思う。それを生体の部分で見ると、マイナスをゼロに近づける努力が、医療分野での放射線利用ととらえることができる。例えば、がん細胞に放射線を当てて、マイナスのものであるがん細胞をなくす、また、先程のHIVにしても、HIVのウイルスにぶつけて失活させる、というのがこれに当たる。環境科学についても同様であり、排ガスに放射線をぶつけて、より無害の物質に変えてしまうということが挙げられる。もう少し別の分野で見ると、例えば、タイヤでは、物質をより固いものにするといった技術がある。竹内委員からも意見があったが、このような流れで放射線を全体として見ながら、放射線専門部会をどのように活かしてしていくのかが重要である。あまり雑多に見ていては、一体となって進むことができないと考えている。この点について是非ご意見をうかがいたい。
 放射線利用の世界は、グローバルで大きなものかもしれないが、一方でなかなかうまく動いていない。このあたりを全体的にとらえることが大事ではないかと思う。
 日本原子力研究所は、中性子治療についても実際に炉を使用して行っており、放射線利用に関しては、高崎研究所を中心にいろいろなことをやってきているが、総体としてどのように把握するかが見えてきていない。放射線医学総合研究所や放射線影響研究所とこれらが、どのように連携していくかということも重要である。大局観というのは、このようなものを全体としてどのようにとらえていくかが問われていることだと思う。
(久保寺参与)  聞いた話なので正確でないかもしれないが、先般、WHO(世界保健機関)で放射線の安全に関わる重要な会議があったが、日本政府からは誰も出席しなかったと聞いた。それで、「放射線影響研究所から出てこい」ということになり、前理事長が出席したということである。そういうことですら一本化していないのではないか。これには、省庁間のいろいろな障壁があるからなのかもしれない。WHOの会議の件については、外務省を通せば良いのか、担当省庁あるいは放射線審議会を通せば良いのか、といった具合に、窓口が整理・統合されていないところがあると思う。
 今度の放射線専門部会では、ある程度、放射線照射食品や育種など分野ごとに区別した中で論議し、その上で構築しないと成り立たないのではないかと思っている。
 また、放射線利用はいろいろな省庁が担当しており、ある1つのことに対し2省庁以上が関与していることがある。その場合、「あっちのことだ、こっちのことだ」とうまく集約できないことがある。原子力委員会は、そういったものを一つにできるよう、省庁間の連絡でイニシアチブをとり、大きな力を発揮していただきたい。原子力委員会はただ意見具申をするということではなく、そのあり方を法制上でもきちんと検討し直していただけたら良いのではないか、と考えている。
(竹内委員)  久保寺参与のご意見も重く受け止め、いろいろ検討していきたい。今後とも、いろいろな面でご相談させていただきたい。

(竹内委員)  これまで参与からいろいろとご意見をうかがい、ある線が見えてきたように思う。これらを参考としつつ、原子力委員会としての意見という形で発信したい。
(遠藤委員長代理)  意見を発信するタイミングは、なるべく早い方が良いと思う。3月中に意見を発信できれば、と考えている。ただし、最初にして最後の意見である必要はなく、今後は必要に応じて発信していけば良いと思う。例えば、とりあえずの議論を次回行い、それに基づいて、次々回あたりに議論をまとめてはどうか。
(藤家委員長)  いずれにしても、何度もやっていかなければならないことだと思うが、まとまったところで随時メッセージを出していくことが大事だと思う。次回は、そのあたりのまとめも含めた議論をしたい。

 (4)その他
  • 事務局作成の資料4−1の第9回原子力委員会臨時会議議事録(案)及び資料4−2の第10回原子力委員会定例会議議事録(案)が了承された。
  • 事務局より、3月19日(火)の次回定例会議の議題は、原子力損害賠償制度検討会の報告等を中心に調整中である旨、発言があった。