新しい公的原子力研究開発組織の整備についての基本的考え方


近藤駿介 東京大学大学院工学系研究科


本小論は、新しい公的原子力研究開発組織の整備に際して考慮すべきと考える点を、なぜ公共研究開発投資が必要か、なぜ原子力か、新組織は原子力のどのような課題の分担を使命とすべきか、新時代の研究開発組織に期待するところはなにか、の4点について思いつくところを記載したものである。

なお、小生も参加して取りまとめられた文部省学術審議会、経済産業省総合資源エネルギー調査会原子力部会、同原子力安全・保安部会等の最近の報告で述べられている原子力行政推進の観点からの原子力関係研究開発組織に対する期待は、新組織の設計・運用においても重要なこととして考慮されるべきと考えるが、ここでは紙幅の関係上、それらを再掲してはいない。文中において筆に任せて類似のことに言及しているとしても、それはそうでないところと区別して扱われるべきということではない。

1.今後とも国際的に市場経済の進展する中、我が国は、よりよい社会の実現を目指して、原子力を含むエネルギー分野の研究開発に、高い水準の公共投資を継続するべきである。

1) 米国において90年代に創出された雇用の50%以上は、政府等において長期間にわたって行われてきた科学技術研究開発活動の成果によっているといわれているように、社会の発展には技術シーズの供給が不可欠である。しかしながら、サローがその著書「資本主義の未来」で警告しているように、現在の市場経済の視野は短期的で、長期的な視点に立った研究開発投資に対する民間セクターのインセンティブは小さい。そこで、我が国がよりよい社会の実現を目指し、人類社会の発展に貢献するためには、他国では国防分野を含む科学技術分野で大規模な公的研究開発活動が行われていることも念頭におきつつ、科学技術分野において高い水準の公共研究開発投資を行っていく必要がある。
2) 上の役割に相応しい研究開発投資分野は基礎研究であるか応用研究開発であるかを問わない。国防研究を始め、宇宙、航空、原子力、情報その他の革新技術を実用化することを目標に遂行された応用研究開発の事例を検討すると、目標とした実用技術を想定された時期に生み出すと言う意味で成功を収めた割合は決して大きくはないため、こうした応用研究はしばしば費用対効果の観点から批判の対象になる。しかしながら、他方で、こうした技術開発活動は使命達成過程で思わぬ産業技術シーズを生み出すのみならず、如何に実用するかの強い探究心が必然的に基礎研究を促進することから、そうしたアプローチがとられる技術開発活動を支える研究活動は基礎研究に分類できるので、基礎・応用という区分は本質的ではないとする意見も有力であるからである(Stokes: Basic Science and Technological Innovation, Brookings Institution Press, 1997)。
3) 一方、公的研究開発投資をどのような分野に重点的に配分するべきかは、国家国民のビジョンに関わることで、十分な議論に基づく決定と絶えざる見直しが必要であるが、エネルギー供給の安定的確保は国民社会の存立に係る重要事項であり、将来においては先進国は二酸化炭素排出量を現在水準から90%削減することが人類社会の公平性の観点から妥当とする意見もある今日においては、経済性、環境保全、供給安定性の観点からよりよいエネルギー技術、特に非化石エネルギーである原子力や再生可能エネルギーを利用できるようにすることは、高効率エネルギー利用技術開発と併せて、我が国および人類の将来にとって最大の課題の一つとして重要であり、このことには単なる技術シーズを民間に提供することを超えて、外部経済、つまり公益がある。そこで、このことを実現できる可能性のある実用技術の候補を発掘し、開発・実証する科学技術活動は、重点分野として推進されるべきである。
4) 現在、我が国の公的エネルギー研究開発活動に原子力研究開発活動が占める割合は、国際社会の中で突出して大きい。そこで、原子力がエネルギー供給に占める割合の今後の動向予測を踏まえれば、この割合を変えるべきではないかとの指摘もなされている。しかしながら、この高い割合は、我が国のエネルギー供給における原子力の重要性や我が国が科学技術活動を通じて人類社会の将来に対して貢献するあり方の踏まえての選択の結果であること、この予算の中には、わが国の場合、放射線をプローブやプロセッシングエージェントとする科学や工学を含む基礎エネルギー科学、原子力研究開発をゆりかごとして急速に成長を遂げつつある計算科学などのいわゆる基礎・基盤科学が含まれる一方、米国側の統計には、原子力開発利用に大きな波及効果をもたらしてきた基礎エネルギー科学、計算科学などのいわゆる基礎・基盤科学への巨大な投資が考慮されておらず、さらに、原子力艦船の技術は最近次世代炉の一つの候補として取り上げられる長期間連続運転可能な小型炉の技術に共通するところがありながら、このための巨大な予算は慣性核融合技術開発予算とともに平和利用目的以外の部門に計上されていることに留意する必要がある。
非化石エネルギー技術の研究開発推進の上に述べた重要性に鑑みれば、100年の将来を見据えた多様な研究開発活動を、C. ChristensenがThe Innovator's Dilemma (HarperBusiness, 2000) で指摘するように正しいことを行っても大企業が失敗することがある技術社会の現実を踏まえてポートフォリオを適切に管理しながら、推進するべきであり、このことを踏まえて総合科学技術会議が、様々なエネルギー技術の研究開発の進展状況をモニターし、原子力委員会の意見を聞き、世界の原子力研究開発・実証活動の経緯と将来社会における原子力の役割についての注意深い検討をも踏まえつつ、原子力分野に対する公共研究開発投資の妥当なあり方について定期的に見直しをかけて決定し、その妥当性を国民に説明していくことは当然なされるべきである。しかしながら、総合科学技術会議における重点分野の推進戦略が決定されたばかりである現時点においては、原子力長期計画を踏まえて予定されているエネルギーとしての原子力技術の研究開発活動に対する公共投資は、ITER建設にコミットした段階には諸学の発展に影響を与えないため増加させる必要が生じる可能性は排除しないものの、現在水準で継続していくことを前提にすることが妥当であろう。

2.原子力科学と原子力エネルギー技術の公的研究開発活動は、今後も大学、民間に加えて、大規模な公的研究開発機関においてなされることが合理的である。

1) 公的研究開発は、研究開発の目的、方法、規模等に応じて、大学、民間に資金提供を行う方法(NSF型)、政府自ら行政機構の一部として研究組織を設置して行う方法(ナショナルラボ型)あるいはその組み合わせなど、最も効果的かつ効率的な方法により実施されるべきである。多方面にわたる専門家のチームと高度かつ先端的な研究装置や技術を備えている大規模な公的研究開発組織は、、多方面の学術の総合、大規模な情報の集積と活用、生産される情報の効率的な管理に適しており、単一の経営陣の下で先端的な研究開発を長期にわたって安定して遂行することが可能で、多方面にわたる活動を大規模な研究装置を建設・運転しつつ、総合的に推進することが必要な技術開発活動を効率的に推進する場として相応しい。
2) 原子力科学と原子力エネルギー技術の研究開発活動には、大規模あるいは高強度の放射線発生装置や放射性物質の取り扱い施設、研究炉や実験炉、エネルギー生産技術の開発・実証施設、それらを利用することにより発生する放射性廃棄物の管理施設など民間では整備し難い設備が必要である。また、これらを用いて行なわれる体系的な開発活動は、一つの組織において、多方面の専門家がチームを組んで有機的に連携して進められるのが、総合的な判断を可能にして効果的であり、これらの装置の特性もあって、集中のメリットを生かすことができて効率的である。さらに、技術開発活動は国際共同作業として行われると投資効率が増大するが、これが単一組織で行われている場合には共同作業を設計・遂行しやすい。したがって、この科学技術の研究開発は、研究費をめぐる競争的環境を生じせしめることにより効率的資源配分が行われる可能性が高いことを踏まえて大学、民間を効果的に活用することは大切であるが、その主要部は今後とも公的な大規模研究組織において実施することが合理的である。

3.新しい公的原子力研究開発組織の使命は、1)効率的で環境の劣化を招かず、今後実現するべき循環型社会のパラダイムと整合する革新的な原子力エネルギー技術を開発・実証するプロジェクトを進めること、2)そうしたプロジェクトの対象としてとりあげるべき有望技術の探索・原理の実証活動を行うこと、3)原子力エネルギーを開発利用し、維持・高度化を図る民間活動を誘導・規制する政策遂行に必要な基盤技術、人材、研究施設を国民の資産として維持すること、4)科学研究におけるプローブ、産業過程におけるプロセスエージェントとしての利用を含む放射線・放射能の多方面における活用技術を開発し、その利用を促進すること、5)大学の基礎研究活動や原子力以外の公的技術開発活動と交流を行い、国内外における関連諸学の発展に連携協力すること、6)国内外の要請に答えて原子力分野の人材の養成を行うこと、を含むべきである。

1) 原子力エネルギー利用は公益性を有するので、国はこれの利用を推進するべく研究開発を含む誘導政策を展開してきたが、21世紀末には極めて厳しい二酸化炭素排出抑制義務を受け入れなければならなくなるかもしれないことを念頭に、今後ともより優れた革新的な原子力エネルギー技術を生み出していくことが重要であり、上に述べたポートフォリオ管理の重要性に配慮しつつ、効率的で環境の劣化を招かず、今後実現するべき循環型社会のパラダイムと整合して社会が受け入れ易く、その持続可能な発展に貢献できる原子力エネルギー技術の開発・実証プロジェクトを実施するべきである。
2) 現在のところ、そうしたプロジェクトとしては、高速増殖炉及びその燃料サイクル、軽水炉使用済み燃料の再処理技術の高度化、高レベル放射性廃棄物の処理技術の高度化、高レベル放射性廃棄物処分施設の実現・安全評価技術、高温ガス炉、核融合炉等の研究開発が行われている。長計を踏まえれば、これらのうちのいくつかは、現在実施中の高速増殖炉実用化戦略調査研究や海外における類似の活動の成果も踏まえていずれ見直し、上に述べた性格を備えた原子炉及び燃料サイクル技術の実現を目指す新たなプロジェクトに統合することが検討されるものと考えられるが、新組織の発足までに若干の時間があることを考えると、この研究を加速させるなどして、この見直しを早急に行い、新しいプロジェクト課題設定とその達成のためのロードマップの作成を新組織の発足までに行うべきと考える。
 なお、この検討にあたっては、エネルギー市場が自由化により、多様なプレーヤーが参加する場となっていくことを踏まえ、真水の確保から将来においては深海、宇宙への展開を支えることも原子力技術の展開の視野に入れるべきとの意見もあることを踏まえつつ、人類社会の持続可能な発展に貢献できる多様なエネルギー技術市場の創成に原子力技術を活用する視点を忘れてはいけない。
3) 高輝度光やレーザーを含む放射線・放射性物質は、今後とも科学技術活動に優れたプローブとプロセシングエージェントを提供して学術の進展、エネルギー供給を含む産業社会の発展に寄与することが大いに期待される。これを利用する科学技術活動が円滑に推進されるためには、そのための先端的大型研究設備がその開発・運用能力のある組織に整備されることが重要である。この使命を新組織に付与することは、これらを用いた研究が上のプロジェクトにも貢献するところが少なくないこと、その開発・運用能力は上の技術開発プロジェクトに科学技術の知見を産み出し提供する使命を負うディシプリンとも重なるところが少なくないこと、これらの開発もまた、上に述べた技術開発プロジェクトとして計画される価値の高いものであること、これらに類似の設備を整備する組織として高エネルギー加速器機構や理研が存在するが、新組織も引き続きこのことを使命とすることは、これらとの協調と競争を生んで良質の科学技術活動を加速することが期待されること(米国においてエネルギー省傘下に10に近い国立研究所があり、そのいくつかにそれぞれに特徴のある放射線発生装置が設置されているが、財政事情が逼迫した時期においてもそれらの統合という方針は提起されていない)等から合理的である。ただし、新組織は、既存組織との過度の競合をさけるため、これらに係る研究装置を組織外の研究者の利用に開放されたユーザーファシリティとして運営するとともに、これらに係る組織固有の研究分野に関しては、原子力エネルギー研究開発と関係の深い基礎科学技術研究、環境研究、放射線影響の研究を総合するところに限定することを基本とするべきであろう。
4) 市場の自由化が一段と進む時代において、民間による公益性の高い原子力エネルギー技術の健全な利用を誘導・規制するためには、核データの整備・維持、核燃料物質および関連材料に関する材料科学と製造技術、伝熱流動・構造力学、故障物理、安全解析・評価、放射線計測、放射線安全、放射性物質の環境中における振舞い、核物質防護・核不拡散の検証等の技術基盤を国として維持することが必要である。これらの中には大学・民間に公的研究資金を提供することによっても維持できるものもあるが、多くは上に述べた開発・実証活動ならびにこれの対象とするべき革新技術シーズの探索研究に関連するので、この組織においてそうしたプロジェクト活動とディシプリン研究活動に係るマトリックスマネジメントを効果的に行うことにより、これらを高い活性レベルで維持することができるはずである。したがって、この維持もこの組織の使命とすることが合理的である。
5) ただし、こうした開発・実証活動ではカバーされないが上の観点から維持すべき基盤技術があり得るので、そうしたものについては、原子力活動において常に高い関心が払われるべき技術評価や安全評価、放射性廃棄物の管理、地層処分実施のために必要な工学技術の開発や自然科学的知見の集積、技術評価に係る社会科学的活動と併せて、持続可能な社会への移行に際して最も求められる知見を産み出すエネルギーと(放射線)環境管理のための科学技術活動として括り、この活動のセンターオブエクセレンスの維持も新組織の使命とするのがよいであろう。
6) 新組織がその維持する原子力エネルギー基盤技術と人材を通じて安全規制行政に対して技術支援活動を行うことは、合理的である。新組織が規制の対象となる原子炉等を有していながら規制活動を支援することは規制行政の信頼性確保の観点から妥当性を欠くおそれなしとしないとする意見がないわけではないと承知しているが、これからのネットワークの時代にあって研究開発組織を規制側とか推進側と色分けすることはあまりに単細胞的であるし、規制行政に専門家により提供される技術的知見は、それがある組織に属する専門家の意見であっても、そのような趣旨で依頼され、作成されるものを除いて組織の決定に係るものではなく、学界がピアレビュー可能な公開性、反証可能性が担保されるものであるべきである。今日の行政活動においては、そのような条件に対して適切な配慮がなされていると理解しているところ、今後もそのような運営を行うとすれば、このことを理由に規制支援のための技術維持組織を分立する必要は無い。
7) 人材養成については、内外の社会において放射線・放射能応用が人々の福祉の向上に寄与しており、今後もその貢献度は拡大していくことが期待されていることを踏まえて、国際原子力機関との連携して十分な成果をあげることができるように組織を整備するべきである。

4.新組織は、原子力技術の特徴と制約を踏まえつつも、新しい時代の研究組織のあり方を積極的に追求するべきである。

1) 新組織は必然的に多目的研究組織となるが、それにしても、社会的ニーズに駆動される複雑な技術開発プロジェクトの推進をコアに持つべきである。それが人を育て、この分野に人をひきつけるし、その遂行によって培われる高度のシステム統合能力こそ、他の方法では得がたい、国民の資産としての技術革新を実現していくための核心的能力となるからである。ただし、そうした研究開発活動の推進にあたっては、基礎研究と同様の創造性、柔軟性を重視し、世界的な水準で競合性を求め、世界水準の知的資産の形成度合いを含む国際的視点を主要評価軸とすることを原則とし、ナショナルプロジェクトの名のもとに孤塁に閉じこもり、探求において妥協し、評価において偏向することは極力排除しなければならない。
2) 技術革新は多様な関係者のネットワークを資源とし、これを通じてのLearning by doing, learning by using, learning from advances in science and technology, learning from spillovers, and learning by interaction (R. Rycroft: Innovation Policy for Complex Technology, Issues in Science and Technology, XVI-1, 1999)等によって正しい道を加速されて歩み、最も肝心なプロセス及びプロダクトの革新に至りつく確率が高まるとされる。そこで新研究組織は、上に述べた様々な学習機会を確保していく観点から、基盤技術分野の全般にわたって国内外の研究コミュニティとのネットワークを形成していくこと、実用段階の利害関係者とのネットワークを整備して、製造・利用の現場の声を技術開発活動の早い段階から反映すること、開発成果を最終ユーザーに効果的に移転するため、実証施設等の建設運転経験に係る知見を属人的ないわゆる暗黙知も含めて拡散することを可能とすることが重要である。
3) 新組織は原子力廃棄物管理に関しては世界のセンターオブエクセレンスを目指すべきであり、民間に対して模範的な活動を先進的に行うべきであり、施設の設置にあたってはライフサイクル分析に基づき計画的に経営資源を確保するべきである。
4) 大学と原研等の関係については、文部省学術審議会特定領域推進部会原子力部会の平成11年4月の「原子力関係機関等における今後の連携・協力の在り方について」と題する報告において、わが国財政事情に鑑みれば、大学等と研究開発機関は連携・協力、特に大型研究施設の共同利用研究及び共同研究の強化・拡大を図る必要があるとし、その際、学術研究の推進という使命を有している大学等及び原子力技術の応用を目的とする研究開発の推進という使命を有している研究開発機関は、それぞれその使命の達成に当たって、連携・協力を有力な手段として認識し、これを増進させる可能性を常に追求する姿勢を持ち、努力することが必要であるとした。このことを踏まえて、新組織は、既に述べたように、現在より進んだ形で、我が国の原子力基礎研究の主要設備を共同利用施設として整備するとともに、その使命達成の目的で設置する主要研究設備についてもマシンタイムのある割合を大学や民間の研究者に開放するべきと考える。このことにより組織の構成員が背景・使命を異にする大学等等の基礎研究者や技術シーズを探索している意欲ある民間の人々と交流する機会が増大し、組織に利益をもたらすのみならず、人類の知的資産の増大に貢献できるからである。また、様々な分野で連携・協力体制の確立に向けて積極的な検討が行われるべきところ、この間の議論では、付録に示す諸点が課題として指摘され、今後の解決にゆだねられている。新組織の設計にあたっては、このことが考慮されることが望まれる。
5) 米国においては冷戦後の科学技術研究体制のあり方について多くの議論が行なわれた。そこでは省庁が有する研究組織の活動は当該省庁の行政使命・ニーズに直接関係するものに限るべきであるとする強い意見が提起された。その結果として例えばエネルギー省傘下の研究所においては他省庁から受託して行なう研究は運営費の10%を超えないこと、民間が研究を行なっている分野では研究を行なわないことといったルールが議論され、適用されてきている。
 わが国では、このことについてのルールがどのようになっているか詳らかにしないが、これらを妥当なルールと考えつつも、他方、行政省庁時代が共同して効率的に行政使命を達成することを目指している行政改革のこころを踏まえれば、関連行政庁の連携・協力もまた効率的かつ効果的な行政資源の活用の観点から重要ではないかと考える。このあたりについては、総合科学技術会議ならびに原子力委員会が内閣府としての考え方を整理して、新組織の制度設計に反映されることを期待したい。
6) また、新しい時代にあっては行政活動は国民のためにあるのだから、その成果は国民の享受するところとならなければならない。科学技術活動の成果のなかには直接国民が享受するのは困難なもの、成果として見えにくいものもあるが、新組織は様々な手段を用意してこの責任を果たさなければならない。こうした活動は、IT技術を利用するなどして効率的に行なわれるべきは当然としても、心の通うものとなるように適切な行政資源の配分が行なわれるべきである。

5.終わりに

 この統合作業で最も重要なことは、これを国民の理解を得つつ進めることであろう。そのためには、原子力の研究開発に対しては、わが国の公的研究資金の少なからざる割合が投じられてきたのであるから、その成果を明快に説明し、既に成果をあげているにも関わらず、新組織を発足させて引き続き大きな投資を求める理由を明確にしなければならない。本小論は、後者についてこれが地球温暖化問題に象徴される人類の持続的発展を支え、21世紀のわが国の存立を掛けた技術開発活動の拠点整備の作業であることの認識を定性的に述べたものであるが、原子力委員会におかれては、学界をはじめ、その成果を享受してきた関係者の協力をえて、この説明を明確化していく努力に速やかに着手することを期待したい。

付 録

(1) 大学の研究者が、いわゆる自由な発想に基づく学術研究を日本原子力研究所、核燃料サイクル機構等の原子炉等を利用して行う場合、受け入れ者側の安全管理責任や経営責任に基づく施設運営に係る制度が研究テーマの境界条件を決めてしまうことが多い。このことは理解に難くないが、世界の最先端を歩む研究を行うためには、コストを掛けてこの条件を緩和する努力も行う価値がある場合もある。そこで、関係者が一層の相互理解を深め、このような課題について随時協議できる環境を醸成することが望まれる。このことは、特に、核燃料サイクル開発機構の「常陽」やアクチニド取り扱い施設等を利用した共同研究等の効果的推進を図るために重要なことである。
(2) 現在、原研の共同利用施設を大学側がユーザーズファシリティとして使用する際には使用料金が必要であり、その料金は東大原子力研究総合センターが管理している原研共同利用経費の内から支払っている。しかしながら、新しいビーム孔への装置の新設等はこの経費の予算枠の増大と直接リンクしていないため、新しい学術研究の展開に支障を生じている。そこで、原研設備使用料金問題を含む施設共同利用体制の抜本的な見直しを行い、必要に応じて新しい仕組みを作ることが検討されるべきである。
(3) 原研が共同利用施設として指定していない研究施設を大学の研究者が利用する場合、「協力研究」および「大学・原研プロジェクト共同研究」のいずれかの制度を利用する道が開かれている。しかし現在までのところ、これらいずれについても大学の研究者に関わる経費が予算化されたことがない。連携・協力が追求されようとしている今、これを必要な経費をもって支援することが必要である。この問題も、前項で述べた原研施設利用体勢の抜本的な見直しの中で検討されることが望ましい。
(4) 現在大学における研究用原子炉及び関連研究施設が直面しようとしている燃料サイクルおよびバックエンドの問題は、研究開発機関の有する研究用原子炉にも共通する問題である。したがって、大学等と研究開発機関はわが国の学術研究の推進に資する研究用原子炉が当面するこれらの問題の解決の方針並びにそれを踏まえたわが国研究用原子炉全体の管理運営の在り方について、具体的な協議を行い、恒久的な解決を図る必要がある。その際、核燃料サイクル開発機構の核燃料サイクル対応能力(核燃料供給、使用済み燃料取り扱い、アクチニド取り扱い、放射性廃棄物管理、核物質管理等)を活用していく可能性も視野に入れることが適切である。
(5) 原研においては、大学等と原研との間で統合計画の検討が進められ、原子力関連の基礎研究を支援すべく「黎明研究」、「原子力基礎研究」など大学の研究者が原研の施設を使わなくても良い公募型研究制度が整備されてきている。また、タンク型臨界集合体「TCA」を学生実験等教育訓練の場として提供してもきている。一方、高速炉を含む先進的な核燃料リサイクルに係る研究開発、放射性廃棄物処理・処分研究開発等を推進する使命を有する核燃料サイクル機構は、基礎に立ち返った研究の充実を図る観点から「核燃料サイクル研究推進制度」を設け、大学との連携協力を推進してきている。特に平成11年度から公募型研究協力制度を新たに設け、サイクル機構の施設・設備を利用した先見的、独創的研究テーマを公募し、公募者が主体的に研究に取り組めるようにしてきている。さらに、日本唯一の重水系臨界装置「DCA」を学生実験等教育訓練の場として提供し、世界的に数少ない安定・定常的高速中性子照射の場を提供できる原子炉である高速実験炉「常陽」についても、現在進められている、照射領域拡大のためと中性子束増大のための「Mk−3」炉心への移行が完成後は、より積極的に大学等の研究者の利用に供することが検討されている。このような取組は大学研究者にとって極めて有意義であって、今後も継続・発展されることが望ましい。