ITER計画に対する考え方
平 成 13 年 12 月 25 日
科 学 技 術 政 策 担 当 大 臣
総合科学技術会議有識者議員

 エネルギーは現代社会の基盤であり、エネルギーの長期安定的な確保は、我が国のみならず、世界の社会・経済の持続的発展のために最重要の課題である。今後、開発途上地域を中心とした人口増加や社会・経済の発展に伴い、エネルギー需要の拡大が見込まれており、この問題に対する長期的観点からの対応が必要である。加えて、温室効果ガスによると考えられる地球の温暖化が進んでおり、エネルギーシステムの脱炭素化を迅速に進めることが、地球環境への負荷を軽減する重要な方法と考えられる。こうしたエネルギー供給と地球環境問題の解決のためには、50年、100年先を見据えた長期ビジョンに立った研究開発への取組みが緊急の課題である。このような状況下において、集中型発電システムとしての核融合発電は、放射化物が発生する問題はあるものの、資源制約が少なく環境負荷が小さい将来の基幹エネルギー源として大きな期待が持たれているものであり、特にエネルギー資源の安定確保が安全保障上からも重要な我が国としては、これを重要な長期的研究開発課題と位置付けて、他国にも増して、これに取り組む必要がある。

 この様な認識に基づき、科学技術政策担当大臣と有識者議員は、本年6月の第7回本会議以降、科学技術政策上の観点から、我が国のITER計画への参加、さらにはITER計画を誘致することについて検討を行ってきた。この際、原子力委員会等での検討内容のレビューや、国内核融合研究施設や国内サイト候補地の視察、専門家ヒアリング等を実施し、論点を抽出し、調査・検討をすすめた。ITER計画の参加・誘致については、特に誘致することの是非をめぐり各様の意見が出されたが、この度、以下のような考え方をまとめるに至ったので報告する。今後、ITERに対する欧米等の最新情勢や来年1月に開催が予定される政府間協議の状況等を踏まえ、次回以降の総合科学技術会議でITER計画の参加・誘致に関する最終判断を得たい。

  1.  核融合発電の実用化には、まだかなりの時間を要すると見込まれるが、ITER計画は、核融合プラズマの自己燃焼状態の実現や炉工学技術の総合試験等、核融合発電の実現性を確かめる研究開発として、現時点で最も可能性の高い選択と考えられる。ITER計画が順調に進めば、将来の核融合発電に向けて多くの知見が得られるものと期待され、これを国際共同プロジェクトとして実施し、参加国間で経費を分担し、成果を共有する意義は大きいものと考えられる。

     ITER計画で我が国に蓄積される科学技術上の成果は、ITER計画に参加する場合には、研究成果の共有に加えて、機材の分担調達や研究員の派遣による技術の修得が期待される。さらにITER計画を誘致した場合には、核融合研究の世界的な拠点が国内に形成されることになり、参加のみの場合と比較して、より多くの技術が蓄積し人材が育成されることになる。これにより、我が国において、将来の核融合発電に向けた基盤形成が加速される。また、参加国中で最大の貢献を行うことで、エネルギー問題の解決に向けて取り組む我が国の真摯な姿勢が国内外に示されることにもなる。一方、誘致国は、参加のみの場合に比べてかなり多くの費用の負担と、安全の確保や放射化物処理などの責任を負うことになる。しかし、将来、我が国が核融合発電において主導的立場に立とうとするならば、誘致する効果は非常に大きいと考えられる。

     ITER計画に参加・誘致するための経費は、第二期科学技術基本計画に示された科学技術関係経費を拡充していく中で、原子力分野の範囲内で確保することが可能と見込まれる。ITER計画を担当する文部科学省は、他の重要分野に影響を及ぼさないよう、責任を持って予算を措置すべきものと考える。

     以上を勘案し、科学技術政策担当大臣と有識者議員は、我が国がITER計画に参加することが望ましく、さらにこれを誘致することの意義があるものと判断した。


  2.  政府は、以上の考え方を踏まえて、ITER計画の誘致も考慮に入れ、政府間協議に臨むことが適当である。政府間協議にあたっては、参加極間の費用負担や責任のバランスのとれた枠組みの形成に努め、国益を損なうことのないよう最善の努力を尽くすべきである。また、同時に、ITER計画の意義について国民の理解を得る努力を行う必要がある。政府は、このような総合的な観点に立って、参加ないし誘致を最終的に決定することが適当である。


     なお、ITER計画に参加ないしITER計画を誘致する場合は、政府は以下の項目に十分に配慮する必要がある。

    (ア)想定外の費用の増大や進捗の遅れが無いよう、厳密な計画管理と適切な評価を実施すること。
    (イ)国内核融合研究については、我が国の核融合研究全体とITER計画が有機的に連携する体制を構築すること。また、核融合研究開発を支える人材の育成に考慮すること。
    (ウ)将来的な発展を視野に入れ、トカマク以外のプラズマ閉じ込め方式の研究も推進するとともに、中性子による放射化の少ない材料等の開発にも配慮すること。
    (エ)ITER計画を誘致する場合には、安全性の確保と放射化物の処理について、周辺住民への説明も含め、十分な対応を行うこと。