高温工学試験研究炉(HTTR)の最大熱出力30MW達成について
日本原子力研究所
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1.経 緯
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日本原子力研究所(原研)は、原子力熱エネルギーの多様な利用を目指して昭和44年から、多目的高温ガス炉の設計を中心とする研究開発を行ってきた(図1)。
その後、昭和62年の原子力開発利用長期計画(原子力長計)では、「高温工学試験研究を、次世代の原子力利用を開拓する先導的・基盤的研究として、これまでに蓄積した技術及び人材を有効に活用しながら、日本原子力研究所を中核機関として、大学、国立試験研究機関及び民間との連携の下に、総合的・効率的に進めることとする。」とされ、また、「高温工学試験研究を行なうための中核となる施設として、・・・(中略)・・・高温工学試験研究炉を建設し、・・・(後略)」とされた。
これを受けて、高温工学試験研究炉(HTTR ;High Temperature Engineering Test Reactor)の建設に向けて技術開発を実施し、この成果を基に平成3年から9年にかけてHTTRが建設され、平成10年11月10日に初臨界を達成した。その後、出力上昇試験を行ない、平成13年12月7日に最大熱出力30 MW、原子炉出口温度850℃を達成した(図2)。
今後は、最高温度950℃の達成を目指すとともに、安全性実証試験、燃料照射試験、水素製造試験などHTTRを用いた原子力エネルギーに関する試験を実施する予定である。なお、高温ガス炉は、平成12年の原子力長計で「次世代軽水炉とともに、高い経済性と安全性をもち熱利用等の多様なエネルギー供給や原子炉利用の普及に適した革新的な原子炉」として期待される炉の一つと位置付けられている。
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2.HTTRの概要
(1)目 的
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HTTRの目的は、HTTRの設計、建設、運転をとおして、高温ガス炉の運転性能を把握し、固有の安全性を実証し、高温ガス炉技術を確立すること、また、原子炉から供給される高温ガスの熱を利用して水素製造システムの可能性を実証し、熱利用技術を確立することである(図3)。
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(2)原子炉の構成
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原子炉の熱出力は30MW、被覆粒子燃料を使用し、冷却材としてヘリウムガスを使用している。原子炉入口では、冷却材の温度は395℃、最高原子炉出口温度は950℃、圧力は40気圧である。なお、原子炉からの高温のガスを利用するための、高温二重管と中間熱交換器が設置されている。主な仕様を表1に示す。
- 燃 料
直径0.6mmで平均濃縮度6%の二酸化ウランの燃料核を、低密度及び高密度の熱分解炭素、炭化珪素で多重に被覆した被覆燃料粒子を、さらに直径26 mm,内径8mm,高さ39 mmの円筒状に成型した燃料コンパクトを黒鉛スリーブの中に収納し、黒鉛ブロック中に挿入して使用する。
- 中間熱交換器、高温二重管
高温二重管や中間熱交換器には、原研が開発した耐熱材料であるハステロイXRを使用している。
- 中間熱交換器、加圧水冷却器の並列負荷
温度変化の大きい試験を実施できるように、1次冷却系に中間熱交換器と加圧水冷却器を並列に設置し、中間熱交換器を使用する運転と使用しない運転の2種類の運転が可能である。
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(3)主要な技術開発の成果(図4、5)
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- 被覆粒子燃料製造技術の開発
世界最高の低破損率、照射安定性を備えた被覆粒子燃料製造技術を開発した。
- 高品位黒鉛の開発
引張強度、耐食性、照射安定性のバランスが、世界最高の微粒等方性黒鉛を開発した。
- 耐熱金属材料の開発
原子炉用金属材料としては、世界で最高温度(1000℃)に耐える金属材料であるハステロイXRを開発した。
- 高温機器の設計方針の確立
世界で最高温度(1000℃)までの範囲についての原子炉冷却材圧力境界用の高温構造設計方針及び世界で初めて原子炉用黒鉛の構造設計方針を確立した。
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(4)HTTR熱利用系統
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HTTRでは、高温ガスを利用するために中間熱交換器が設置され、中間熱交換器を介して原子炉からの熱は2次ヘリウムガスに伝え、2次ヘリウムガスを直接または間接に利用する構成としている(図6)。
この中で、中間熱交換器は、世界で最高の温度(955℃)で使用する原子炉用熱交換器である。また、高温二重管は、世界で初めて1000℃程度の高温ガスを導く高温配管である。
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3.世界の高温ガス炉開発の現状
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現在、世界で運転中の高温ガス炉は、HTTRと中国清華大学のHTR―10であるが、南アフリカでは、ペブル型燃料を用いたモジュラー型高温ガス炉(PBMR)、米国、ロシアではブロック型燃料を用いたモジュラー型高温ガス炉(GT−MHR)の計画が進められている(図7、8)。
- 中 国
蒸気タービン発電を目指して、熱出力10MWのペブルベッド型高温ガス実験炉HTR―10を開発し、2000年12月に初臨界を達成し、現在、出力上昇試験の準備中である。
- 南アフリカ
ペブルベッド型の発電用商用炉 PBMR を計画している。116 MWeのガスタービン発電を目指して、2002年に建設開始を予定している。
- 米国とロシア
ブロック型の燃料を利用する発電用商用炉を計画している。ロシアの解体核のプルトニウムを燃料に使用する計画で、285 MWe のガスタービン発電を行なう計画である。
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4.今後の計画
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HTTR試験計画は、HTTRの運転と利用研究から構成されている(図9)。HTTRの運転では、平成15年度に原子炉出口温度最高950℃、全出力運転を達成し、その後、安全性実証試験、燃料照射試験などを行う予定である。また、HTTRを利用する研究では、水素製造に関する1/30規模の模擬試験を平成13年度から実施し、HTTR水素製造システム接続試験設備の設計、製作を平成15年度以降に計画している。
(1)安全性実証試験及び燃料照射試験(図10)
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HTTRの固有の安全性を実証するため、反応度添加事故を模擬した「制御棒引き抜き試験」、1次冷却材喪失事故を模擬した「1次系流量低下試験」として、「ガス循環機停止試験」及び「流量部分喪失試験」等を実施する。
HTTRの高温照射機能、大型試料照射機能等を利用して、高温ガス炉用改良燃料、球状燃料の照射試験、新素材開発等の各種の照射試験を実施する。
(2)水素製造実証試験(図11)
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HTTRへの水素製造システムを接続するための技術開発を行なうため、1/30規模の模擬試験を実施し、水素製造システムの静的及び動的挙動解明、運転制御技術の開発を行ない、将来の中間熱交換器の2次ヘリウムガス(最高905℃)を用いた水素製造実証試験のための技術を確立する。
(3)HTTR試験計画(図12)
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HTTRによる各試験と並行して、発電用実証プラントの概念設計及び熱利用実証プラントの概念設計を産業界と協力して実施する。
以 上
添付資料 図表一式
添付資料
高温工学試験研究炉(HTTR)の最大熱出力30MW達成について