(案)

核燃料サイクルのエネルギー政策上の必要性
エネルギーに支えられている私たちの暮らしの将来の安心のために

平成13年11月20日
資源エネルギー庁

 現在、私たちが使うエネルギーの約4割は電気の形で供給されています。様々な電化製品を使って暮らしが便利になるのに伴い、電気の形で供給されるエネルギーの消費量や比率は増えています。このように私たちの便利な暮らしは電気に支えられています。
 しかし、日本は、国内のエネルギー資源に恵まれていません。また、海に囲まれているため、欧米諸国のように送電網を使い電気を輸入することは困難です。しかも、電気は多く貯めておくことが困難です。
 振り返ってみると、かつて私たちは、1970年代以降、二度の石油ショックを経験しましたが、その記憶も薄れています。また、ここしばらくの間、阪神淡路大震災の時を除いて大きな停電を経験していません。現在では、電気は安定して供給されているため、スイッチを入れるといつでも使えるものと思いがちです。
 私たちは、将来にわたって十分にエネルギーを利用していけるよう、日頃から備える努力が必要であることを忘れてはいけません。以下、そのことについてお話しします。


1.将来にわたるエネルギー資源の不確実性・不安定性

(1) 私たちが将来に向けてエネルギーの安定供給の確保を考える際には、次のような課題があります。

現在、一次エネルギー供給の大部分を担っている化石燃料資源には限りがあり、いつまでも採掘し続けることはできません。
化石燃料からエネルギーを取出す際には温室効果ガスであるCO(二酸化炭素)が大量に排出されます。このため、人類にとって大きな問題である地球温暖化を防止するためには、化石燃料をふんだんに使うことは許されません。

(2) 世界の人口は、50年前には約25億人でしたが、現在は約60億人です。今後ともアジアを中心に増加し、2050年には約90億人になると予測されています。こうした世界の人口増加に加えて、アジア地域などの経済発展によって一人当たりのエネルギー消費量も増加していくと考えられることから、世界のエネルギ-消費は今後ともアジア地域を中心に増加していくと予測されています。この増加するエネルギー消費を化石燃料で賄うとすれば、限りある化石燃料資源の消費が一層加速されるだけではなく、地球温暖化も一層進行することになります。

(3) これまで私たちは、石油、石炭などの化石燃料資源を大量に消費して経済発展を遂げてきました。現在も一次エネルギー供給の約8割を化石燃料資源に依存しています。

 しかしながら、石油の埋蔵量は有限であり、世界の石油消費量が今後とも増加すると、次第に投資コストが高い石油に依存せざるを得なくなります。市場価格が上がれば、これに見合った技術を使うことによって採掘できる確認埋蔵量も増加していきます。しかし、個々の油田が有していた資源量の半分程度を採掘してしまうと、たとえなお多くの埋蔵量が残っていても、生産能力の低下に伴い生産量が減少に転じる可能性があります。このため、世界全体の良質な石油の生産量は、可採年数(確認埋蔵量を現在の生産量で割った年数。石油については約40年と言われています。)よりも早い時期に減少に転じ、需要に応じた生産量が維持できるかどうかの不確実性が高まることになります。つまり、価格が高騰したり、必要量を確保できるかどうか不確かであるといった心配があります。
 また、世界の石油資源の3分の2が中東に偏在しており、その時々の国際情勢に影響されるおそれがあるということも念頭に置かなければなりません。
 天然ガス資源は、石油資源に比べて、近隣のアジア地域などで採れることや、可採年数が長いことなどの利点がありますが、確認されている埋蔵量の7割近くが中東と旧ソ連に存在することも事実であり、やはり国際情勢に影響されるおそれがあります。
 石炭はなお多くの資源が存在しています。しかし、エネルギー発生量当たりのCOの排出量が他の化石燃料に比べて大きいことから、その利用に当たっては地球温暖化防止への配慮が必要です。

(4) これまで、日本のエネルギーは、その資源のほとんどを輸入に頼り、しかも、主力である石油の大半を中東に依存しており、脆弱な供給構造となっています。石油ショックを経験して以降、石油依存度を下げて供給安定性を高めるため、原子力をはじめとする石油に代替する資源の利用に努め、エネルギー供給源の多様化を図ってきました。それでも、現在なおエネルギー供給の半分を石油に依存している状況であり、更なる努力が必要です。
 日本の国産のエネルギーの比率は、水力、地熱やわずかに産出する化石燃料によって4%、供給安定性に優れる原子力をこれに加えても20%でしかありません。このようにエネルギー自給率が低いという現実を踏まえると、いずれ訪れるエネルギー資源の逼迫や枯渇に対して十分に対応できる備えをしておくべきです。

(5) つまり、

 ① 世界のエネルギー資源に不確実性・不安定性があること。
 ② エネルギー自給率が低く、しかも、海に囲まれているため、欧米諸国のように国境を越えて送電網などを築くことが困難であること。
 などを踏まえて、日本としては、将来の私たちの生活を守るために、独自の「資源」と言うべき私たちの知恵と技術を最大限に活用して、地球温暖化問題という人類共通の課題に的確に対応しつつ、できる限りの手段を講じて、将来のエネルギーの安定した供給に努力していく必要があります。
 もちろん、地球温暖化防止や将来のエネルギー安定供給の確保は、一国だけで解決できる問題ではありませんが、これまで化石燃料資源を大量に消費し、しかもCOを排出している先進国の一つという立場からも、日本はこうした課題の解決に率先して取組む必要があります。


2.将来のエネルギー確保に向けた努力

(1) 地球温暖化問題にも対応しつつ、エネルギー供給の安定性を確保するために最も大切な取組みは省エネルギーです。すなわちエネルギー利用効率の向上を図り、消費するエネルギー量を減らすことです。この省エネルギーについて、日本は世界的に見ても高い実績を有していますが、今後とも一層努力する必要があります。
 日本のエネルギー消費の半分を占める産業部門においては、消費量は概ね石油ショック当時の水準に留まっています。それでもなお一層の省エネルギーを進めるために、産業界に対して一層の効率向上の努力を求めています。
 一方、自家用車などの運輸部門、家庭やオフィスといった民生部門ではエネルギー消費が増加しています。なぜなら、個々の自家用車や電化製品のエネルギー利用効率が向上しているにも関わらず、私たちが複数の自家用車を持ったり、各部屋にエアコンを設置したりと、より快適な暮らしを求めて消費を増やしているからです。
 省エネルギーを更に進めるに当たっては、私たちの暮らしの利便性が損なわれないように配慮し、私たちの使う自家用車、エアコン、冷蔵庫などのエネルギー利用効率の一層の向上を製造メーカーに求めています。しかしながら、最も大切なことは、これらを使う私たち国民一人一人が省エネルギーの大切さを深く認識し、消費するエネルギー量を減らす努力を重ねていくことです。

(2) 一方、エネルギーの供給側では、まず、地球温暖化問題に対応するため、化石燃料の中でも比較的COなどの排出が少ない天然ガスに切替えていくこと、そして、コジェネレーションなどエネルギーの有効利用や高効率化に関する技術開発、COの回収を実用化していくための研究開発などを進めています。また、発電の際にCOを排出しないものとして、今後特に導入が期待されている太陽光発電や風力発電といった新エネルギーを、次に述べるような特性に応じて積極的に利用できるよう、その開発と導入に全力を挙げています。

 ① 太陽光発電については、太陽電池の製造コストは、日本を中心に技術開発が進められた結果、大幅に下がってきています。これまで、日本は技術開発、設備導入のための補助金を交付するなどにより、太陽光発電の導入に積極的に取組んできています。現在では導入量が世界の約4割を占めるまでに至り、世界で最も実績を上げています。しかし、例えば100万kWの原子力発電所一基で得られる電力量を太陽光発電で生み出そうとすると、山手線の内側に匹敵する広い敷地面積が必要となるなどの現実もあります。
 ② また、風力発電については、技術革新による設置コストの低減、導入の際の補助や民間における活発な取組みなどにより、日本でも導入が進展してきています。しかし、安定した風が吹いていることなど、その導入に適する場所は限られ、物理的、社会的条件で設置可能な場所全てに設置したとして、その容量は約640万kWと推定されています。また太陽光発電と比べても相当広い敷地面積が必要となります。例えば100万kWの原子力発電所一基で得られる電力量を風力発電で生み出そうとすると、山手線の内側の約3.5倍の敷地面積が必要です。
 ③ 更に、現時点において国内に設置可能と考えられる太陽光発電及び風力発電の導入がすべて実現しても、これらの合計は現在の一次エネルギー供給の数%程度にしかなりません。しかも、これら太陽光や風力といった自然エネルギーは天候や地形などの自然条件に左右され、出力が不安定なことから、これらを大規模に導入して安定した電力供給を得ようとすると、それをバックアップする電源などが必要となります。従ってその実現には格段の経済性向上が必要になります。これらのことから、太陽光発電や風力発電については、当面はエネルギー消費地の近くに分散的に設置する電源として利用していくことが合理的です。

 このような中、日本は、新エネルギーが一次エネルギー供給に占める割合を、現在の約1%から2010年度に約3%まで高めることを目標にして、太陽光発電の規模を482万kWに、風力発電については300万kWにするため最大限の努力を行っています。

(3) 現在、日本の電力供給の3分の1を担う基幹エネルギーとなっている原子力発電は、ウラン資源が政情の安定した国々に分布していることなどから供給安定性に優れ、また、発電過程でCOを排出せず、地球温暖化問題への対応に優れているなどの特徴があります。
 しかし、ウラン資源もやはり有限で、可採年数は約60年と言われており、一度限りの利用では、いずれ他の化石燃料資源と変わらない道を歩むことになります。世界のエネルギー消費の急増が予測される中で、化石燃料資源の不確実性や地球温暖化問題を考慮すると、これに対処できる原子力発電に各国がどれだけ依存するかによってウラン需給が左右されるため、ウラン資源にもいつまで必要量を確保できるのかといった不確実性があります。

(4) 冒頭にお話ししたように化石燃料の利用に対する制約が強まりつつあるわけですから、日本としては、これに代わり得る将来の基幹エネルギーを開発しなければなりません。
 そのため、例えば、日本の近海に多く存在すると期待されるメタンハイドレートや、限りあるウラン資源を飛躍的に効率よく利用できる高速増殖炉の技術開発など、様々な研究開発を進めています。
 しかし、これらの開発に成功し、経済的に見合うものとなって、普及するまでに要する時間を現時点で見極めることは難しいのです。

(5) このように将来の基幹エネルギーに様々な不確実性がある中では、当面は現実的な対応策によって、この不確実性を減らすよう努力することがとても大事であることはご理解いただけると思います。

3.プルサーマルの意義

(1) 先ほど、ウラン資源にも不確実性があるとお話ししました。ただし、一度使った燃料のほとんどをリサイクルできるという点は、他の資源にはない原子力だけの特徴と言えます。使用済燃料中に含まれているウランとプルトニウムは、リサイクルしないのであれば単なる廃棄物に過ぎません。しかし、これらを回収して再び燃料に加工すれば、国産のエネルギー資源として利用することが可能です。
 原子力発電は、 使用済燃料がリサイクル可能であるという特徴を活かして、化石燃料に代わるエネルギーの一つとして、長期間にわたって安定して電力を供給できるようにすることが重要です。これによって、将来のエネルギー供給に関する不確実性を減らすことに貢献できます。

(2) 核燃料サイクルとは、原子力発電所から出る使用済燃料を再処理し、有用資源を回収し、再び燃料として利用することです。その出発点がプルサーマルです。これは、使用済燃料から回収したプルトニウムなどを、既存の原子力発電所(軽水炉)において再利用することです。新燃料としてウランしか含まない燃料を用いている現在の原子力発電所でも、発電中にウランの一部がプルトニウムに変化して燃えており、これによる発電量は全体の約3割になっています。これに対して、最初からプルトニウムを含んだ燃料(MOX燃料)も用いて発電するのがプルサーマルです。つまり、既にこれまでも原子力発電所でプルトニウムは燃えており、プルトニウムをエネルギー源として利用することは新しいことではないのです。
 プルサーマルの場合、原子炉中のプルトニウムの量は増加しますが、様々な研究に基づき、既存の設備でも適切に対応することにより、ウラン燃料の場合と同等の安全性を確保できることが分かっています。原子力安全委員会も、MOX燃料を原子炉の3分の1程度以内で用いる場合には、ウラン燃料の場合と同様の設計で対応可能であり、また、ウラン燃料の場合と同様の手法で安全評価し、安全性を確認できるとしています。
 このことはフランスなどで20年以上にもわたる安定した実績があることからも明らかです。また、日本でも新型転換炉「ふげん」において、既に22年間にわたってMOX燃料を利用してきており、プルトニウムを燃料に加工する技術、燃料の取扱技術、原子炉の特性を解析する技術など、世界に誇る実績があります。

(3) 燃やす前のウラン燃料の種類の違いなどにもよりますが、使用済燃料から回収されるウランやプルトニウムを使って、元の燃料の最大2割から4割程度に相当する新たな燃料に再び加工することができます。そしてそれをプルサーマルで利用することによって、エネルギーを新たに生み出すことができます。
 この使用済燃料を国産資源として活用するプルサーマルを関連技術も含めて実用規模で実施していれば、将来ウラン資源の供給が万一不安定になるようなことがあっても柔軟に対応できます。このことによって、原子力発電が、化石燃料に代わる基幹エネルギーの一つとして、より長期間にわたって安定して電力を供給していくことができます。
 将来、万一、原子力発電による電力の安定供給が困難な事態となった場合に、その時に化石燃料によるエネルギー供給が安定に維持され、しかも別の基幹エネルギーが開発され普及している状況となっているならば問題はありません。しかし、そのような状況になっていない場合、原子力発電の供給安定性を維持できないということは、より大きなリスクを国民に与えることになります。
 つまり、将来の基幹エネルギーを確保できる時期の見通しが不確実な現在、プルサーマルを行うことは、それを確保できるまでに、より多くの時間を与える「保険」ともなります。

(4) ただし、そのためには、必要な技術や経験は「人」を介して継承されていくものであることから、これまでに蓄積してきた使用済燃料のリサイクルに関する技術や経験を、「人」を含めて実用規模で維持し、安定な運転を確実なものとしつつ、継承していくことが重要です。
 このことはまた、将来の有力な選択肢の一つである高速増殖炉の実用化に向けた準備になるという意味もあります。
 なお、将来高速増殖炉が実用化されれば、天然ウランをエネルギー源として最大限に活用することができ、現在の原子力発電所で利用する場合に比べて飛躍的に多くのエネルギーを生み出すことが可能になります。これによって、ウラン資源の有限性を事実上克服できます。

(5) 使用済燃料の9割以上はエネルギー資源として再利用できるウランとプルトニウムです。残る数%は再利用できず放射能レベルも高い物質であり、これは廃棄物(高レベル放射性廃棄物)とせざるを得ません。
 使用済燃料を仮に再処理(リサイクル)しない場合には、再利用できるものを9割以上も含んだまま、使用済燃料全体を高レベル放射性廃棄物として処分することになります。
 一方、使用済燃料を再処理する場合には、ウランとプルトニウムを回収し、プルサーマルで利用することによって、再びエネルギーを生み出すことができます。またこの再処理の際に、再利用できない高レベル放射性廃棄物を分離することができ、これを処分することになります。つまりプルサーマルを行うことにより、同じ量のウラン資源からより多くのエネルギーを生み出しつつ、一方で、処分することになる高レベル放射性廃棄物の量を大幅に少なくすることができます。
 現在、私たちは、リサイクル社会の実現を目指しています。一般の家庭のゴミについて、新聞、ペットボトル、アルミ缶など再利用できる資源ゴミや、燃えるゴミ、燃えないゴミをそれぞれ分けて出しています。そのうち再利用できる物は大切な資源としてリサイクルされています。再利用できない物だけが処分されています。
 使用済燃料のリサイクルも同様です。一度使った物をそのまま廃棄物として捨てるのではなく、再利用できる部分と廃棄物にせざるを得ない部分に分別し、再び使える部分はすべて有効利用して資源の消費を減らすと共に、捨てる部分は性状に応じて、将来の地球への負担をより小さくする形で処分するということです。

(6) また、日本では、原子力基本法に則り、原子力の利用は厳に平和の目的に限って行っており、利用目的のない余剰のプルトニウムは持たない旨を国際的にも公表していることから、プルトニウムをウランと共に燃料として利用できるプルサーマルは、このような日本の政策とも合致するものです。

(7) なお、核燃料サイクル、特にプルサーマルの経済性については、次のように考えています。

核燃料サイクルを行う場合には、行わない場合に比べてコストがかかるのは事実です。しかし、資源をできる限り有効に活用するためリサイクルを進めるには、原子力に限らず、一定のコストがかかるものです。問題は、私たちの日常生活や経済活動の中でこれが吸収できるかということです。
ところで、政府の審議会(平成11年総合エネルギー調査会原子力部会)では、原子力発電の経済性について、他の発電方式に比べて遜色ないと試算しています。コストの中には、再処理や高レベル放射性廃棄物の処分などを含めて計算しています。
またMOX燃料は通常のウラン燃料に比べてコストが高いのではないかという質問を受けます。MOX燃料には、たしかにウラン燃料とは異なるコストが必要となりますが、他方、天然ウランを自然界から採掘し、これを製錬し、濃縮することなどのコストが不要になるという面もあります。

 もともと原子力発電は他の化石燃料による発電に比べて、発電コストに占める燃料費の割合が小さく(1割)、また、現在計画されているプルサーマルが進んだ場合でも、日本全体の原子力発電用燃料に占めるMOX燃料の比率は1割程度ですので、大まかに計算(0.1×0.1)していただければわかるように、原子力発電のコストに与える影響は小さいものとなります。


4.急がれるプルサーマルの実施

 これまで、核燃料サイクルのエネルギー政策上の必要性について述べてきましたが、その重要な出発点であるプルサーマルについては、その早期の実施が必要です。すなわち、

 日本では、以前から、使用済燃料から回収されるウランやプルトニウムを国産資源としてリサイクルする方針を採ってきています。このため、関連する技術開発を進めると共に、これを踏まえた商用再処理(リサイクル)工場を国内に建設することとし、完成するまでの間は、使用済燃料の一定量の再処理を英仏の再処理事業者に委託しています。現在、青森県に2005年の稼働を目指して商用再処理工場を建設中であり、このうち既に完成している使用済燃料受入・貯蔵施設には、再処理を行うために各原子力発電所から使用済燃料の搬入が開始されています。
 このような中で、仮に、日本がプルサーマルを実施しないこととした場合には、使用済燃料を再処理しないのに再処理工場内の受入・貯蔵施設に搬出する訳にはいきません。原子力発電所内の施設で貯蔵せざるを得なくなります。やがて貯蔵施設が満杯になると、原子炉から使用済燃料を取出して新しい燃料と交換しようとしても、その使用済燃料を貯蔵する場所がないため、燃料交換ができなくなります。つまり、日本の電力の3分の1、首都圏及び関西圏の電力の4割以上を賄っている原子力発電による電力の供給にも影響を与えかねません。

 また、これまで使用済燃料を搬出してきた海外の再処理工場では、再び燃料として利用することを前提に、プルトニウムなどの回収が行われています。すなわち、日本はプルトニウムを海外に保有していることになるのです。いずれの国にも、自国の保有するプルトニウムについては責任があり、具体的な利用の目途のないままこれを保有し続けることはできません。従って日本として、一日も早くこのプルトニウムを燃料として利用していくことが、国際社会における責務と言えます。


5.まとめ

(1) これまで述べてきたように、エネルギーに関する将来の様々な不確実性の例として、以下のことが挙げられます。

(2) エネルギー自給率が低い日本としては、独自の資源と言うべき知恵と技術を最大限に活用してできる限りの手段を講じることにより、将来のエネルギーの安定した供給の確保に取組んでいます。
 しかし、それでもなお、上に挙げたように将来のエネルギーに様々な不確実性があります。そのため、当面、現実的な対応策によって、この不確実性を減らすための努力を行うことが重要です。

(3) このような状況の中で、プルサーマルについて以下のことが言えます。

 使用済燃料はリサイクルすることによって、独自の国産資源となり得ること。
 プルサーマルを行うことにより、基幹エネルギーである原子力発電がより長期間にわたって安定して電力を供給していくことができること。
 これによって将来に向けてエネルギーの安定供給を続けることは、将来の基幹エネルギーの開発・普及までに多くの時間を与える保険ともなること。
 しかも、プルサーマルは、既存の原子力発電所で安全に実施できるものであり、国内外で実績のある確実な技術であること。
 将来のエネルギーを巡る様々な不確実性を減らすための方策は一つに限りません。しかし、ここでまとめたように、プルサーマルを実施することは、将来の不確実性を減らすために現実的な対応策であると考えます。
 また、当面、電力の安定的な供給を続けていくことなどのためには、プルサーマルを早期に実施することが必要です。
 皆様のご理解がいただければ幸いです。