研究開発課題評価委員会における
「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」の評価結果の概要

平成13年10月9日
研究開発課題評価委員会
(高速炉・燃料サイクル課題評価委員会)


 「高速増殖炉(FBR)サイクルの実用化戦略調査研究」は、安全性を大前提として、軽水炉サイクル及びその他の基幹電源と比肩する経済性を達成し、将来の社会の多様なニーズに対応できるよう開発戦略を提示するとともに、FBRサイクルを将来の主要なエネルギー供給源として確立する技術体系を整備するものである。
 本研究は、第1期では革新技術を採用した幅広い技術選択肢の検討評価を行い、実用化戦略を明確にする上で必要となる判断材料を整備し、有望な実用化候補概念を抽出する。その後の第2期では、工学試験も踏まえてFBRサイクル全体として整合を図り、実用化候補概念の絞り込み(複数)を行うとともに、このために必要な研究開発計画(ロードマップ)を提示することとしている。
 本評価においては、第1期の成果と第2期の研究開発計画等について評価を行った。

 本研究開発の目的・意義は、原子力長期計画でもその必要性が明示された研究課題であり、明確である。FBRサイクルの実用化は、日本のエネルギーセキュリティの確保にとって長期的で重要性の高いものであり、社会的、経済的ニーズがある。また、幅広く国内外の知見・技術を総結集して進めるべきものであることから、核燃料サイクル開発機構(以下、サイクル機構)がプロジェクトの主体となって進めていくことは適切であると考える。
 なお、このような長期的なプロジェクトの遂行にあたっては、世の中の動きに敏感であり、広い視野を持ち、柔軟な計画運営に心掛けるべきである。

 研究開発目標として、FBRサイクルの実用化のために考慮すべき視点として、持続的かつ恒久的エネルギー源を確保するための「資源有効利用性」、地球生態環境との一層の調和を図るための「環境負荷低減性」及び核物質の核兵器への転用疑惑を払拭するための「核拡散抵抗性」の三つが重要であるとしているのは適切である。「安全性」は原子力システムのみならず全ての工学システムが成立し、受容されるための大前提である。さらに我が国においてFBRサイクルが導入されうる必要条件としては、その「経済性」の克服が第一の要点としているのも適切である。これらの視点に、さらに「技術成立性」と「運転・保守補修性」を加えた7つの指標により、各概念の達成度の評価検討を行うことは適切であり、妥当である。また、FBRシステムの本来有する特徴をFBR燃料サイクルに整合させる基本概念は、研究開発の基軸の概念として適切であり、それに基づくFBRサイクルの設計要求仕様は、ブレークスルーすべき点が明確にされており、適切である。
 なお、現時点では適切と考えられる目標ではあるが、その見直しも随時行い、社会のニーズとの整合性が失われることのないように努力されたい。

 オールジャパンの研究実施体制における組織人員、人材の配置、研究グループ間の連携、委員会の活用及び運営等は適切であり、他機関との連携、協力も適切に行われている。
 なお、研究開発費も潤沢でない現状から、役割分担を明確にして効率的な研究の推進に努めるべきである。また、研究開発の進展に合わせて、より高い成果を目指した研究実施体制となることを期待する。

 第1期の成果については、公募も含めて抽出された多くの選択肢について設計研究と要素実験により検討がなされ、FBRシステムと燃料サイクルシステムについての知見がよく整理され、当初の計画通り十分な成果が得られたものと評価できる。FBRシステムについては、基幹電源システムの候補となる大型炉と中型炉のシステム概念を検討するとともに、分散電源への対応として小型炉概念を検討したのは妥当である。なお、ガス炉では炉心燃料に対する検討をもう1年続けることとしているが、拙速に絞り込みをするのではなく、あくまできちんとしたデータに基づいて評価していくという姿勢は正しいものと認める。
 燃料サイクルシステムについても、FBRシステムの検討と同様、幅広く技術の調査・分析を行い、有力な実用化候補概念の抽出検討を行っている。
 また、第1期における実用化候補概念の技術抽出に当たっては、比較評価により候補技術を安易に絞り込むことはせず、技術的な観点から実用化に向けての開発課題の解決法、開発工程等に大きな問題がないか等を評価し、開発目標の達成の見通しが乏しい技術のみを候補から外すことを基本方針としているのは適切である。
 なお、環境負荷評価ではいわゆる外部コストの評価(環境に与えるリスクのようにこれまでコストとして算入されていなかったものに対する経済性評価)も含めて、あり方を検討することが望ましい。また、成果の普及・公開が積極的に行われていることはよく理解するが、第1期の研究成果の普及により、これからのプロジェクトを国として進めていくことについての国民の理解促進のため、一層の努力を期待したい。

 第2期では、第1期で抽出された有望な実用化候補概念について、設計研究や要素技術の基礎的な試験等を実施し、そのデータに基づいて5つの開発目標と技術的成立性、運転・保守補修性に関する可能な限り客観的な判断根拠を整備し、FBRサイクル全体として最適化、実用化を念頭に置きつつ各候補概念の総合的な比較検討を行うとともに、FBRシステムと燃料サイクルシステムとの整合性のみならず、放射性廃棄物の処理処分との整合性も考えて、実用化候補の絞り込みを行うとしているのは適切である。また、第2期におけるチェックアンドレビュー等のマイルストーンの置き方も妥当である。
 FBRシステムの検討において、炉心燃料については、酸化物燃料と新型燃料との互換性に配慮しつつ設計研究を進めて炉心概念を具体化し、候補となるプラントシステムとの適合性及び燃料サイクル技術との整合性を明確にした形で、目標性能の達成見通しを示すとしていることは適切である。
 また、プラントシステムの検討においては、経済性や安全性を向上するために取入れた革新的な技術を成立させる上で鍵を握る分野や、設計研究のベースとなる設計・評価手法、設計基準類の整備に向けた優先課題を中心に取り組んでいくとしているのは適切である。これらの計画においては、「常陽」における照射試験や国際協力に基づく海外の施設の活用する計画としており適切である。なお「もんじゅ」の運転再開による運転データの取得そのものが高速炉の設計の検討とその進展にとって必要不可欠であることは述べるまでもない。
 また、小型炉については、原子力技術やシナリオを多様化していく可能性を与えるものとして考えられるが、ニーズや社会的受容性の面から、その位置付けを明確に分析することが望ましい。
 燃料サイクルシステムの検討においては、廃棄物発生量の少ないプロセス、Puを単離(元素単体の形で分離)しないシステム等、環境負荷低減性や核拡散抵抗性の向上を期待できる技術課題に着目して取り組んでいくとしているのは適切である。また低除染燃料サイクルでは、特に燃料製造における被ばく低減対策という新たな負担が生じるが、製造工程の簡素化、適切な遮蔽を設けた運転の自動化及び遠隔保守化等の技術開発により対処するとしているのは適切である。これらの計画においても、東海事業所の高レベル放射性物質研究施設(CPF)の改造、大洗工学センターの照射燃料試験施設や海外の施設を活用する計画としており、またリサイクル機器試験施設(RFTF)活用計画の取りまとめも2003年度を目標に行われようとしており、いずれも適切である。
 なお、各候補技術に柔軟性がどの程度あるかは、大きなシステムの開発においては極めて大切な視点であり、特に廃棄物への対応を今後考えていく上で重要ではあるが、最優先の開発目標は経済性のあるFBRサイクル像を提示することであり、環境負荷低減においてTRU燃焼とLLFPの核変換は、コスト及び社会的ニーズの兼ね合いを見ながら評価し、実用化を目指して長期的なスコープで段階的に進めるべきである。

 要素技術開発については、できるだけ定量的に、実験の成果等に基づいて成立性等を評価することが大切と考える。実験は波及効果まで考えて最適な計画を立て、実施することを希望する。また、本研究のような大きいプロジェクトでは、水素製造等のシナリオで示されているような、それから生まれるスピンオフにも期待したい。

 FBRサイクルの実用化候補の絞り込みを行っていくにあたって、検討対象から外すこととなった候補について、外した根拠を明確にするとともに、検討した内容はデータベースとして残し、いつでも復活できるように留意したことは評価できる。
 なお、実用化候補概念の絞り込みを行う際の判断材料として活用するとしている総合的な評価手法については、その積極的な開発が望まれる。評価指標についても、今後の絞り込みが客観的に進められるよう十分に配慮しておく必要がある。特に、環境負荷低減性や安全性等については、十分な検討と一般の人々に対する理解促進が必要である。

 FBRサイクルの実用化をもたらすためには技術的な問題のみならず、原子力の非技術問題にも適切に対処していく必要がある。原子力の専門家はこれまで以上に社会的受容性への配慮も心がけるべきである。
 今後の調査研究の努力に期待する。


【高速炉・燃料サイクル課題評価委員会審議経過】


 ○第1回  平成13年7月9日
        評価方法の決定、課題内容の説明・検討
 ○第2回  平成13年8月27日
        補足説明、質問への回答、評価内容の検討
 ○答 申  平成13年10月9日

【高速炉・燃料サイクル課題評価委員会構成員】

(委員長)
岡 芳明     東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設教授
(委 員)
井上  正    電力中央研究所狛江研究所金属燃料・乾式リサイクルプロジェクトリーダー
大杉 俊隆    日本原子力研究所エネルギーシステム研究部次長
小鍜治市造    関西電力(株)原燃サイクルグループチーフマネージャー原子燃料部長
近藤三津枝    ジャーナリスト
清水 雅彦    慶應義塾大学 常任理事
鈴木  潤    未来工学研究所R&D戦略研究グループリーダー
戸田 三朗    東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻教授
中村 雅美    日本経済新聞社編集委員
モリス・ブレン  駐日欧州委員会一等参事官(科学技術担当)
班目 春樹    東京大学大学院工学系研究科附属原子力工学研究施設教授
松井 恒雄    名古屋大学大学院工学研究科量子工学専攻教授
松本 史朗    埼玉大学工学部応用化学科教授
山田 明彦    東京電力(株)原子力研究所所長