藤家委員長の海外出張報告について

平成13年8月21日
内閣府原子力担当

1.出張先、期間
中華人民共和国(大連、北京、西安)
出張期間:平成13年7月28日〜8月4日

2.出張者
○藤家洋一 原子力委員会委員長
○廣田 司 内閣府 政策統括官(科学技術政策担当)付
 参事官(原子力担当)補佐 
○池田佳隆 日本原子力研究所 那珂研究所 主任研究員
○國富一彦 日本原子力研究所 大洗研究所 主任研究員
○永崎隆雄 核燃料サイクル開発機構 国際・核物質管理部 技術主幹

3.概要
(1) 大連宝原核設備有限公司訪問(7月28日 午後)
 先方対応者:劉世恒(LIU Shiheng) DHME常務副総経理 他
 同公司は、複数の工場、子会社、合資公司(大連日立宝原機械設備有限公司(DHME))からなる企業集団。3,000人あまりの職員を擁し、原子力発電所に必要な鋳鋼製品や燃料輸送容器(キャスク)を生産している。
 DHME社の機器工場、鋳造工場及び船積港を視察。

(2) 科学技術部訪問 (7月30日 午前)
石定農(SHI Dingnong) 高新技術発展産業化司 副司長 他との意見交換  (中国の"部"は日本の"省"に相当)
 特にITER(国際熱核融合実験炉)計画を含む核融合研究について、議論を行った。藤家委員長より、以下の通り発言。

  • 日本は40年以上にわたり核融合研究を続けてきている。
  • ITERのような巨大プロジェクトは一国で進めるにはリスクが大きく、国際協力で行われることは21世紀における一つの重要な方向。
  • 原子力委員会としては、これを推進していくことが適当であるとの決定を6月に行った。
    これに対して、先方より、以下の通り発言。
  • 過去ITERへの参加を部内で検討したことがあったが、残念ながら参加には至らなかった。
  • 将来のエネルギー源の一つとして関心を有してきている。ただし、現在の経済状況においては、費用負担を伴う参加は非現実的であると思う。

(3) 国家原子能機構訪問 (7月30日 午後)
張華祝(ZHANG Huazhu)・国家原子能機構主任 他との意見交換
 国家原子能機構は、中国における原子力の平和利用を所掌する中央の国家機関。日中の原子力政策につき議論。
(イ) 張主任より、以下の通り発言。

  • 中国では核不拡散体制及び関連条約の枠内にて原子力の平和利用を進めてきている。
  • 原子力の平和利用に関して、2005年までを規定した第十次5カ年計画では、原子力発電所が計画されているところであるが、具体的な基数等は未定。
  • 自国のエネルギー問題を解決するための手段の一つとして、今後とも原子力発電を着実に進めていきたい。
  • 核燃料を安全にリサイクルして、自国のエネルギー需要を満たそうとしている点で、日本とよく似ていると感じる。
(ロ) これに対して、藤家委員長より、日本の原子力平和利用に関して以下の通り発言。
  • 「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下、長計)を策定するに際して、最も大切だったことの一つは50年前の広島・長崎における被爆体験と原子力の平和利用を今後、融和させていくことができるのかとの問題。
  • 核兵器反対と原子力平和利用は共存することが可能であるとの結論になり、長計に結実した。この観点から、核不拡散体制を確固たるものとする上でIAEAの保障措置の強化が重要。中国においても、「追加議定書」の重要性を認識し、これを率先して締結して頂きたい。
  • 我が国の今回の長計は、理念提示・課題解決型であり、過去の長計と異なる性格を持っている。核燃料サイクルについては、ウラン資源の有効利用、環境負荷低減との観点から、核燃料サイクル政策を堅持している。廃棄物の問題では、自国から出た放射性廃棄物は自国で処分することを原則としている。
  • 高速炉や核融合(特にITER計画)についても、中国とどのような協力が可能か模索していきたい。
  • 原子力分野における協力の安定的な発展基盤である日中原子力協定に基づき、種々の対話・協力を引き続き行っていきたい。
  • 原子力損害賠償に関して、中国も関心を持っていただきたい。
(ハ) これに対して、張主任より、以下を応答。
  • 大まかに言って、中国には、核融合研究の基礎はあるものの、実用化にはまだ時間を要するが、人類のエネルギー問題を解決し得る可能性があり、引き続き研究を続けていく必要がある。
  • ITERについては、現在検討中である。日本との協力は今後考えていきたい。
  • 原子力委員会とも定期的に交流していきたい。

(4) 中国原子能科学研究院訪問(7月31日 午前)
 先方対応者:趙志祥(ZHAO Zhixiang) 中国原子能科学研究院長 他
中国核工業集団公司の付属機関。中国での原子力研究開発を担当する。タンデム加速器、建設中の高速実験炉を視察。

(5) 清華大学核能技術設計研究院訪問(7月31日 午後)
 先方対応者:張作義(ZHANG Zuoyi) 清華大学核能技術設計研究院長 他
 北京の郊外(中心部から45km)の南口鎮に所在。熱出力10MWの高温ガス炉が2000年12月に臨界に達した。日本原子力研究所は、1986年から高温ガス炉技術に関する情報交換を行っている。藤家委員長から、今後とも高温ガス炉についての情報交換を密接に行っていくことが相互の利益になり、積極的な情報交換、人材派遣などを進めていきたいとの発言があった。

(6) 中国核工業集団公司訪問 (8月1日 午前)
 李定凡(LI Dingfan)・総経理 他との意見交換 
 中国核工業集団公司は、中国における原子力関連の民間・企業部門であり、核燃料サイクル、原子力発電など原子力関連事業を行う一方で、各種研究機関も有している。  
藤家委員長より、ITERを含む核融合研究につき述べたところ、李総経理より以下の通り応答。ITERの進展には大変興味を持っている。しかし経済資源が限られている現状では、人材交流から始めたい。核融合研究を行っている西南物理研究所を、ぜひ訪問してほしい。
これに対して、藤家委員長より、核融合の専門家による対話につき検討してみたい、と述べた。

(7) 西安交通大学訪問(8月2日 午後)
 先方対応者:恵世恩(HUI Shi-en)能原・動力行程学院 学部長 他
 本年4月に設立105周年を迎えた中国有数の総合大学。原子力工学科(能原・動力行程学院の学科の一つ)をもち、原子力に関する研究を行っている。
 藤家委員長より、日本の長計の講演を行い、長計の理念を紹介した。また、当方専門家から核燃料サイクル開発機構及び日本原子力研究所の活動の現状と今後の展望を報告した。
 先方より、西安交通大学の概要説明があり、意見交換の後、大学の研究施設及び教育実習施設を視察。

以上