今後のエネルギー政策について

報告書

 

平成13年7月

総合資源エネルギー調査会
総合部会/需給部会


目 次


はじめに

Ⅰ.我が国のエネルギーを巡る状況

1.エネルギー政策の基本目標(安定供給から安定供給・環境保全・効率化の同時達成へ)

(1)安定供給の確保
(2)環境保全の要請への対応
(3)効率化の要請への対応
(4)基本目標の同時達成の難しさ
2.最近の環境変化
(1)自由化・効率化の下での競争を通じたコスト意識の明確化
(2)需給両面における主体の多様化
(3)CO排出抑制の難しさの顕在化
(4)原子力を巡る現状
(5)アジア地域におけるエネルギー供給リスクの高まり

Ⅱ.我が国が直面している課題

1.我々の生活変化により伸び続けるエネルギー消費の合理化の必要性
2.新たな環境変化の下でのエネルギー供給源の多様化の必要性
3.アジア地域としてのエネルギー安定供給確保に向けた取組の必要性

Ⅲ.目指すべきエネルギー需給像(長期エネルギー需給見通し)及びそれを実現する対策

1.基準ケースの概要

(1)全体像
(2)需要面
(3)供給面
2.基本目標実現のための今後の具体的な対策
(1)総論
(2)各論
3.目標ケースの概要
(1)電源構成
(2)エネルギー需給の全体像

終わりに

(別紙)長期エネルギー需給見通し概要
参考1:基準ケース策定の考え方
参考2:現行省エネルギー対策及び今後の省エネルギー対策の概要
参考3:新エネルギー導入実績と目標
参考4:地球温暖化防止対策のためのエネルギー・環境関連税制について
参考5:原子力発電所を今後増設しないケースの概要


 はじめに

 エネルギーは、水や食料と並んで現代社会の基盤となる不可欠な要素の一つである。我が国のエネルギー消費は、戦後経済の発展に伴って急速に拡大し、戦後の1955年度に比べれば約9倍、石油危機直前の1970年度と比べても約1.8倍と大きく増加している。

 しかし、この間、エネルギーを巡る情勢は大きく変化をしてきた。一つは供給安定性についての不安の顕在化である。1973年に発生した第一次石油危機は、エネルギー供給の大部分を海外に頼る我が国のエネルギー供給構造がいかに脆弱であるかを強く感じさせることとなり、国のエネルギー政策もエネルギーの安定供給の側面に大きなウエイトがかけられることとなった。エネルギー源の多様化はそのもっとも重要な対策で、天然ガスは、1973年度には、一次エネルギー供給の約1%に過ぎなかったのが、現在は約13%にまで拡大しており、原子力は発電電力量の約34.5%を担うまでに成長している。
 エネルギー情勢の中でのもう一つの大きな変化は環境、特に地球温暖化問題への影響が1980年代後半から世界的に取り上げられるようになったことである。1997年には、COP3が京都で開催され、先進国の温室効果ガス削減目標が決められ、我が国は2008年から2012年の平均値で、1990年比6%の削減をすることとなっている。我が国の場合、排出する温室効果ガスの約8割がエネルギー起源の二酸化炭素であり、政府として、これを2010年度において90年度と同水準に抑制することとしていることから、省エネルギーと化石燃料への依存度を出来るだけ減らすこと等が必要である。

 このようにエネルギーは経済を支える基盤である一方で、エネルギー源の多様化などによって供給の安定化をはかること、エネルギー起源の二酸化炭素を抑制すること、という制約を満たすことがぜひとも必要となっている。
 我が国のエネルギー政策は、「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、エネルギーの安定供給を実現する」という基本目標を掲げているが、現状を見るとこの達成は決して容易なことではない。
 なぜなら、この3つの目標はしばしば矛盾するからで、例えば二酸化炭素の排出を抑制しようとすれば、エネルギー需要を抑えることが一番早道だと考えられるが、一方において経済が発展すればそれを支えるためにどうしてもエネルギー需要が増えてしまうのが過去の実績である。省エネルギーはその矛盾を解決する一番よい手段であるが、我が国のように過去に省エネルギーに大きな実績を上げた国では、更に省エネルギーを進めようとすると従来にないような非常な努力が必要となる。実際、我が国のGDP当たりのエネルギー消費は、石油危機の後10数年は低下したが、その後は停滞し、近年では、むしろ悪化の状態にあり、これを再び改善していく必要がある。
 また、地球温暖化問題への対策という面でみると、二酸化炭素を排出しない太陽光発電等の新エネルギーの拡大も重要だが、現状ではまだ値段が高く、その開発普及にはかなりのコストの負担等が必要である。一方、これまで原子力の発展は供給多様化だけでなく発電過程で二酸化炭素を出さないという意味でも基本目標の達成に大きな役割を果たしてきているが、近年ウラン加工施設臨界事故等の国民の信頼を損なう問題が発生し、発電所立地が長期化している。
 供給安定化の側面についても、エネルギー源の多様化は確かに進んできているが、エネルギーの輸入依存度は約81%と極めて高く、原油の輸入もその約85%を中東に頼っている状態であり、さらに、アジア諸国の経済成長に伴う中東からの原油輸入の増加ということを考えると、供給のリスクは依然として高いといわざるを得ない。

 このように、我が国のエネルギー事情は、基本目標の同時達成の実現にはまだまだ遠いというのが現状である。総合資源エネルギー調査会では、このような状況を深刻に認識し、昨年4月から1年以上をかけて基本目標の同時達成を実現するようなエネルギー需給像とそれを支える政策の方向について検討を行った。

 本報告書は、政府はもとより、広く国民一人一人のエネルギー問題への取組が進展していくことを強く期待しつつ、上記検討の結果をとりまとめたものである。


Ⅰ.我が国のエネルギーを巡る状況

1.エネルギー政策の基本目標(安定供給から安定供給・環境保全・効率  化の同時達成へ)

 (1) 安定供給の確保

 我が国のエネルギー問題を考えるに当たって、まず直面する課題は、国内にエネルギー資源をほとんど有しておらず、大部分を海外からの輸入に依存しているという我が国のエネルギーの供給構造の脆弱性である。我が国は、70年代の第1次・第2次石油危機の経験を経て、とりわけ安定供給の確保に多大な努力を行ってきた。具体的には、過去20~30年にわたって、省エネルギーの推進、石油代替エネルギーの導入、備蓄等による石油の安定供給の確保等を積極的に進めてきた。
 その結果、需要面では、石油危機後、産業を中心に省エネルギーが進展し、世界でも最も優れたエネルギー効率を実現してきている。また、エネルギー供給の多様化という観点では、我が国の一次エネルギー供給に占める石油の割合は、石油危機以降、約77%(73年度)から約52%(99年度)へと約25%低減する一方で、原子力、天然ガスの割合が大きく増加する等大きな成果が得られてきた。しかしながら、安定供給の確保という目標の重要性は、今後ともいささかも減じるところがない。

(2) 環境保全の要請への対応

 こうした安定供給確保という従来からの構造的課題に加えて、90年頃からは、環境保全、とりわけ地球温暖化問題が、国際的に大きな問題となってきている。地球温暖化問題は、化石エネルギーの燃焼等により発生するCO等の温室効果ガスが原因となって生ずるものと考えられており、今やエネルギー消費と一体不可分の問題として、それへの対応が厳しく求められるに至っている。

(3) 効率化の要請への対応

 エネルギーについては従来から効率的な供給が求められてきたが、さらに近年では、我が国産業の国際競争力強化の観点から、エネルギーコストの低減を図るべく、自由化、規制緩和等を通じた一層の効率の向上が求められている。

(4) 基本目標の同時達成の難しさ

 こうした状況の中、我が国のエネルギー政策は、「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、エネルギーの安定供給を実現する」という基本目標を実現することが必要となっている。
 ただし、これらの目標は、例えば、自由化等を通じたさらなる効率化が始まった中で、安価な石炭の使用が増え、CO排出量が増加する可能性があること、その一方で、CO排出量のより多い石炭は天然ガスに比べると供給安定性に優れている面があること、効率化の中で国産エネルギーであるがコストの高い水力や新エネルギーの導入が停滞する可能性があること、あるいは、エネルギー価格の低下が省エネルギーの意欲を鈍らせる可能性があること等、相互に矛盾する側面も有しており、エネルギーを巡る状況が以下に述べるとおりさらに大きく変化しつつある中で、これらの同時達成をどのように実現していくかが非常に難しい課題となっている。

 


 2.最近の環境変化
上記のようなエネルギーを取り巻く状況に、最近では次のような変化が生じてきている。

 (1) 自由化・効率化の下での競争を通じたコスト意識の明確化

 近年、石油・電力・都市ガス等のエネルギー産業の自由化・効率化が制度改革を通じて具体的に進展し、新規参入者も含めて競争を通じたコスト意識が明確化されつつある。このような新たな状況の下で、例えば、エネルギー源の選択に関しては、安価であるが、CO排出量が相対的に多い燃料である石炭について、これまで石油代替エネルギーとして導入が進められてきたことも相まって、その利用が進むことにより、地球温暖化問題に関する目標が十分に実現されないという可能性もあるものと考えられる。また、水力や新エネルギー等国産の非化石燃料よりも安価な輸入化石燃料へのシフトが起これば、安定供給に支障が生ずる可能性もあり得る。このように今後の政策においては、自由化等を通じたさらなる効率化が始まっていることを前提として、その中でも安定供給・環境保全が同時に達成されるような、具体的な政策を構築することが必要となっている。

 (2) 需給両面における主体の多様化

 我が国のエネルギー消費は、従来、鉄鋼、化学、セメント、紙パルプ等の製造業を中心に行われ、第1次石油危機が発生した73年度においては、消費全体の約66%を産業が占めていた。ところが、その後の2度の石油危機を経て、製造業では大幅な省エネルギーが実現されたのに対して、乗用車を含む家庭におけるエネルギー消費やサービス部門におけるエネルギー消費が、豊かさを求めるライフスタイルやIT化の進展等で、これまでほぼ一貫して増加してきており、今やエネルギーの消費主体は、従来の製造業中心の産業部門から、家庭やサービス部門にシフトしてきている(産業は全体の約49%に低下(99年度))。
 これは、単なるエネルギーの消費主体のシフトのみならず、主たる消費者が、限られた数の大企業から不特定多数の国民全体に広がったことを意味している。
 また、エネルギーの供給主体についても、自由化の進展とともに、従来の大規模エネルギー供給事業者に加えて、新規参入者の出現、分散型エネルギー源の導入等今までにない多様化が進みつつある。
 したがって、今後の政策対応においては、こうした多様な主体に対して政策を講じていくことが必要となっている。

 (3) CO排出抑制の難しさの顕在化

 90年頃から国際的に大きな課題として登場してきた地球温暖化問題は、97年12月にCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)が開催され、京都議定書として先進国の温室効果ガスの削減目標が合意されるに至り、エネルギーに対する新たな定量的な制約要因として、重大な影響を有するものとなった。我が国は、温室効果ガス全体を2008年から2012年の平均値で、90年に比べ▲6%削減(米▲7%、EU▲8%)することとなっているが、温室効果ガスの約8割を占めるエネルギー起源のCOについては、2010年度において90年度と同じ水準に抑制することを目標としている。
 しかし、現状を見ると、エネルギー起源のCO排出量は99年度において既に90年度に比べ約8.9%増加しており、今後2010年度に向けて当該増加分を削減し、90年度比横這いを達成するという困難な目標に挑むことが必要となっている。
 京都議定書については、米国の今後の動向が不透明なことを含め、国際的な議論が継続している状況にあるが、将来に向けた地球温暖化防止対策の重要性は変わっておらず、エネルギー政策においては、CO排出抑制に引き続き努力することが肝要である。

(4) 原子力を巡る現状

 我が国においては、石油危機以来の石油代替エネルギーの導入努力の中で、燃料供給及び価格の安定性を備えた原子力発電の利用を積極的に推進してきたところである。具体的には、これまで、原子力利用に伴うリスクを適切に管理するため、安全性、信頼性確保を大前提に管理・防災対策を行うとともに、立地地域の振興策、安全性等に関する国民の理解を得るための活動により原子力立地を推進してきた。この結果、現在、国内で51基の商業用原子炉が操業中であり、99年度において、発電電力量(一般電気事業用)の約34.5%を供給する主要な電源となっている。
 また、地球温暖化問題が顕在化する中で、発電過程でCOを発生しない原子力発電はCO排出量抑制の観点からも重要な役割を担うようになっている。
 他方で、原子力発電の今後の増設について見ると、現在4基が建設中であるなど進捗が見られる地点がある一方、従来2010年度までに運転開始する原子力発電所は16~20基とされていたものが、99年のウラン加工施設臨界事故等原子力に対する国民の信頼を損なう問題が発生したこと等を背景として、平成13年度供給計画によれば13基となっている。

 (5) アジア地域におけるエネルギー供給リスクの高まり

 アジア地域においては、近年の経済成長に伴ってエネルギーの消費量も大幅に増大しており、こうした傾向は今後とも継続していくものと考えられる。一方で、域内の石油生産の伸びは純化しており、域外、特に中東地域からの輸入原油への依存度が上昇しつつあり、アジア地域全体として、エネルギー供給のリスクが高まってきていると考えられる状況にある。我が国においても、原油輸入における中東依存度は石油危機時を上回る水準(約77.5%(73年度)→約84.6%(99年度))まで高まってきており、アジア地域全体の状況と考えあわせると、元来エネルギーの供給構造が脆弱な我が国にとって、安定供給に対する潜在的なリスクはますます高くなっていくことが懸念される。



Ⅱ.我が国が直面している課題

 こうしたエネルギーを取り巻く状況や近年の環境変化の中で、前述の基本目標を実現するためには、次のような課題に対して取り組んでいかなければならない。

1.我々の生活変化により伸び続けるエネルギー消費の合理化の必要性

 我が国のエネルギー消費の動向を見ると、製造業を中心とした産業のエネルギー消費が第1次石油危機以来ほぼ横這いにとどまっている一方で、豊かさを求めるライフスタイル等を背景に、99年度には、乗用車がその太宗を占める旅客については73年度の約2.7倍に、家庭については約2.2倍に、さらにはサービス部門を中心とする業務については約1.9倍になっており、これら部門のエネルギー消費は景気の動向にかかわらず、一貫して大きく伸長している。このため、今後、乗用車も含めた家庭やサービス部門を中心に、一層のエネルギー消費の合理化を図っていく必要がある。

 2.新たな環境変化の下でのエネルギー供給源の多様化の必要性

 2度の石油危機以来、我が国においては、石油代替エネルギーの導入を全力で進め、特に原子力発電の利用に積極的に取り組んできたことは先に述べたとおりである。その結果、原子力発電は、現在では我が国の主要な電源となっており、安全の確保を大前提とすべきことは言うまでもないが、その上で、原子力発電は、安定供給性から言っても、また、COを排出しないという特性からしても、今後ともその供給力の増加を目指して努力することが重要であることには変わりがないものと考えられる。
 しかし一方で、原子力発電の立地計画が従来よりも減少していること、加えて、自由化・効率化の中で、安価な燃料である石炭の利用が今後増大すると考えられることを踏まえれば、今後の政策対応としては、①CO排出のより少ない天然ガスの一層の利用拡大や②国産エネルギーでありCOも排出しない新エネルギーの可能な限りの導入等にも努力することが必要である。

 3.アジア地域としてのエネルギー安定供給確保に向けた取組の必要性

 アジア地域全体として輸入石油、特に中東への依存度が高まっていく中で、安定供給の確保を図るべく、例えば、域内の石油代替エネルギーの開発、省エネルギーへの取組等を進めるとともに、緊急時の対応としての石油備蓄の体制整備等が実現されることが期待される。こうした分野において経験を有する我が国が域内で可能な協力や支援を行っていくことは、我が国自身のエネルギー安定供給を強化していく観点からも極めて重要な課題となっている。


Ⅲ.目指すべきエネルギー需給像(長期エネルギー需給見通し)及びそれを実現する対策

1.基準ケースの概要
 以上の課題について、今後の具体的な対応を考えるに当たっては、まずは現在の政策枠組みを維持した場合の2010年度におけるエネルギー需給の姿(長期エネルギー需給見通し(基準ケース))を定量的に明らかにし、それに基づいた検討を行うことが不可欠である(基準ケース策定の考え方については参考1参照)。具体的には、基準ケースは以下のとおりと見込まれる。なお、以下においては、基準ケースを98年6月策定の長期エネルギー需給見通しにおける対策ケース(以下、前回対策ケースと称する)と比較して、今後の状況を把握し、新たな対応を考えるための材料としている。

 (1) 全体像

 最終エネルギー消費は前回対策ケース(約400百万kl(原油換算、以下同じ))に比して若干増加(約409百万kl)するものと見込まれる。特に、民生・運輸乗用車部門については、引き続き需要が増加することが見込まれる。

 供給面では、発電用の燃料を中心として、前回対策ケースで想定したとおりには原子力等の非化石エネルギーの導入が進まず、むしろ安価な石炭が大幅に増加することが見込まれる。

 この結果、エネルギー起源のCOの排出量は、目標とする90年度の水準(約287百万t-C)まで低減せず、約307百万t-C(約20百万t-C超過、約6.9%増)となるものと見込まれる。


 (2) 需要面

各部門のエネルギー消費について概観すれば、以下のとおりである。

①産業部門
 経団連環境自主行動計画が達成されるとの前提で試算すると、前回対策ケースに比して▲5百万kl程度の減少(90年度比約2%の増加)となる。

②民生家庭部門
 トップランナー機器の普及、住宅のエネルギー効率改善等が進むこと等により、前回対策ケースに比してほぼ横ばい(90年度比約29%の増加)となる。

③民生業務部門
 トップランナー機器の普及等が進む一方、サービス部門が大きく伸張する等の産業構造の変化等を反映してエネルギー消費は大きく伸び、前回対策ケースに比して13百万kl程度の増加(90年度比約69%の増加)となる。

④運輸乗用車部門

 乗用車の機器効率改善が進み、また、重量化が従来ほどには進まなくなると見込まれる一方で、今後も乗用車保有台数、総走行距離の増加等が進むことから、前回対策ケースに比して3百万kl程度の増加(90年度比約32%の増加)となる。

⑤運輸貨物等部門
 営業用トラックのシェア拡大(自家用からの転換)、省エネ対策等により、前回対策ケースに比して▲2百万kl程度の減少(90年度比約6%の増加)となる。

 (3) 供給面

供給面における特徴を挙げれば、以下のとおりである。

①電源構成
 2010年度までに運転開始する予定の原子力発電所の基数が減少(16~20基→13基)する一方、石炭火力発電量が増加し、電力のCO排出原単位は前回対策ケースに比して十分に改善しない(約67g-c/kwh→約83g-c/kwh)ことが見込まれる。

②新エネルギー
 新エネルギー導入量は、878万klと試算され、前回対策ケースに比して▲10百万kl程度減少することが見込まれる。

③その他の供給構造
 自家発用燃料について、前回対策ケースに比して、安価な石炭、重油がより利用されることが見込まれるため、電気事業用以外の燃料についてもCO排出原単位は十分に改善しないことが見込まれる。

2.基本目標実現のための今後の具体的な対策

 (1) 総論

 前述のとおり、エネルギー政策においては、これまでも需給両面における各種の厳しい対策を講じてきており、基準ケースが推計のように実現されるためには、当然ながら引き続き同様の努力を続けていくことが不可欠である。例えば、省エネルギーについては、以下のような新たな対策を検討する前提として、経団連環境自主行動計画、トップランナー機器の普及等が確実に進展していくことが必要であり、供給面では、例えば石油危機以来、主要なエネルギー源として利用を進め、現に国民生活や経済活動を支える基盤となっている原子力や天然ガス(両者あわせて一次エネルギー供給の1/4強を占めている)については、今後ともその安定的な利用が図られなければならないことは言うまでもない。
 しかしながら、こうした従来からの対策を継続したとしても基本目標の達成に十分でないことは、「基準ケース」の内容から明らかである。したがって、以下に述べるような新たな対策を追加的に講じていくことが必要である。

 ①中心となる対策
上記の「基準ケース」を踏まえれば、エネルギー政策の基本目標の達成に向けて今後実施すべき政策としては、「省エネルギー」、「新エネルギー」及び「電力等の燃料転換等」に係る対策などが考えられる。

 ②対策の在り方
 まず、実施すべき対策は、「省エネルギー」である。国民経済上できる限り効用を変えない範囲での最大限の「省エネルギー」は、その分エネルギーの供給の削減を意味し、最も優れたエネルギーの安定供給確保策であるとともに、削減分については、CO等を発生させず、最も優れた環境対策でもある。さらに、過度にならない範囲での「省エネルギー」は、省エネルギー技術の開発や省エネルギー設備等への投資を通じ、新たな経済成長がもたらされることにもつながると考えられる。
 次に実施すべき対策は「新エネルギー」である。太陽光発電、風力発電、廃棄物発電等の「新エネルギー」は一般的にコストが高く、太陽、風力といった自然条件に左右される面もあるが、国産エネルギーであるとともに、基本的にはCOを発生させないという優れた環境特性を有している。
 さらに、これらの対策によってもエネルギー政策の基本目標が達成されない場合には、電力等の燃料転換等の対策を実施することが必要であると考えられる。ただし、例えば石炭が、化石燃料の中ではもっとも安定供給性に優れていることを踏まえれば、石炭の環境負荷が高いという理由だけで、石炭を過度に抑制するような政策をとることは適切ではない。
 上記の点については、エネルギーセキュリティWGにおいても、石炭の供給安定性には他のエネルギーに比して高い評価が与えられているので、その点に十分に留意していくことが必要である。
(詳細については、エネルギーセキュリティWG報告書を参照)

 (2) 各論

①省エネルギー
 98年6月策定の長期エネルギー需給見通しでは、経団連環境自主行動計画の実施、トップランナー方式の導入等の省エネルギー対策が策定されている。これらの現行対策(約5000万kl)については、家庭(乗用車を含まない)における年間総エネルギー消費をほぼゼロにする量に匹敵するものであり、まずはその効果が着実に発揮されるよう、引き続き対策の実施及び効果のフォローアップを行うことが必要である。さらに、一層の省エネルギーを実現するための追加対策の実施を図ることが必要であり、乗用車を含む家庭部門やサービス部門を含む民生業務部門への対策を中心とした、効用を変えない範囲での最大限の省エネルギー対策(約700万kl)を以下のとおり実施することが必要である。また、今後、乗用車を含む家庭等での省エネルギーの実現を図っていくためには、国民一人一人に日常的な努力が求められる。(なお、省エネルギー対策の概要については参考2参照)。

○産業部門
・高性能工業炉の導入(中小企業分)
・高性能レーザー/ボイラー(技術開発) 等 
これによる省エネルギー量は、約90万klと見込まれる。

○民生部門
・石油・ガス機器等のトップランナー機器の拡大
・給湯分野における高効率機器の加速的普及
・家庭/業務用エネルギーマネジメントシステムの普及
・高効率照明(技術開発) 等 
これによる省エネルギー量は、約510万klと見込まれる。

○運輸部門
・トップランナー基準適合車の加速的導入
・ハイブリッド自動車等車種の多様化等の推進 等
これによる省エネルギー量は、約100万klと見込まれる。

 上記の新たな省エネルギー対策(約700万kl)によるCO削減量は、約6百万t-Cと見込まれる。

 (詳細については、省エネルギー部会報告書を参照)

②新エネルギー
 官民におけるコスト低減努力や導入促進のための最大限の取組が行われることを前提に、2010年度において実現が可能と見込まれる目標量を1910万klと設定した。

 新エネルギーの対象範囲の拡大も検討され、バイオマス、雪氷冷熱が新たに新エネルギーの対象とされることとなっている。(上記目標量には、これらも含まれている。)
 この他、需要サイドの新エネルギーとして、クリーンエネルギー自動車348万台、天然ガスコージェネレーション464万kW(燃料電池によるものを含む)、燃料電池220万kWの導入が見込まれる。
(新エネルギー導入実績と目標については、参考3参照)

 上記の新エネルギー導入のための具体的対策としては、以下のような取組を行うことが必要である。

1)導入促進

  • 導入補助の拡充(住宅用高度太陽光/熱利用システム、クリーンエネルギー自動車等)
  • 電力分野における新たな市場拡大措置 
  • 地方公共団体、民間事業者が実施するモデル的な事業に対する支援
  • 公的部門等における新エネ設備・機器の率先的導入

2)技術開発

  • 基礎的・基盤的技術開発の推進(長期的な選択肢拡大)
  • 実用化技術開発の推進(コスト低減、性能・利便性向上等)
  • フィールドテストを通じた信頼性向上、標準化の推進

3)環境整備

  • 供給インフラ等の整備推進(系統連系対策の検討、クリーンエネルギー自動車燃料インフラの整備等の推進)
  • 供給ポテンシャルの発掘、顕在化(風況調査・データベース整備、熱需要調査等)

4)その他の取組

  • 普及啓発・広報
  • 他省庁と連携した政府一体としての取組
  • 税制・金融面での支援
  • 規制・制度面の環境整備

 また、電力分野における新たな市場拡大措置については、我が国の実情に即した新たな制度の導入に向けて早急に検討を開始することが望まれる。


 上記の新たな新エネルギー対策によるCO削減量は、約9百万t-Cと見込まれる。


  (詳細については、新エネルギー部会報告書を参照)

③燃料転換等
 上記省エネルギー・新エネルギー対策を行っても、エネルギー起源のCOを90年度と同じ水準に抑制するためには、さらに約5百万t-CのCO排出量削減のための対策が必要となってくる。
 このための対応としては、電力等の燃料転換等(新設電源の選択変更等)を実現することが必要であると考えられる。そのためには、助成措置、規制的措置、税制、自主的努力等の措置により、最も安価な燃料である石炭と他の燃料とのコスト差に影響を与えることが必要となるが、今回の検討では具体的な政策手段を特定するまでには至らなかった。したがって、今後、これを実現するための具体的対策について、その効果や経済的な影響等を検討した上で、最も適切な手法が選択されるべきである。その際には、エネルギー価格の動向等を含む国際的エネルギー状況、国内における経済情勢、温暖化を巡る国際的な交渉の状況等を考慮して検討を進めることが必要である。
 このうち、税制については、本調査会において、その効果、経済への影響等についてできる限り定量的に検討することを課題としてきたところであり、その検討結果については、参考4「地球温暖化防止対策のためのエネルギー・環境関連税制について」に明らかにされているとおりである。

④天然ガス
 天然ガスは、環境負荷が小さく、供給安定性の面からも比較的優れており、GTL(ガス・ツー・リキッド)、DME(ジ・メチル・エーテル)等新たな利用形態の可能性のある天然ガスの導入拡大を図るため、石油分科会天然ガス小委員会において、天然ガス価格の引き下げ、パイプライン等インフラ整備、新たな利用形態等、今後の課題や対応の在り方について重点的に検討されており、天然ガスの一層の利用拡大の方向性が示されている。
(詳細については、天然ガス小委員会報告書を参照)

⑤原子力
 我が国のエネルギー供給において大きな割合を占めている原子力については、安定供給や環境保全の観点から、引き続き積極的な導入促進が必要なエネルギー供給源であると考えられるが、そのためには、何よりその安全確保が大前提であることは言うまでもない。原子力の安全確保については、総合資源エネルギー調査会に「原子力安全・保安部会」を新たに設置し、各種課題について検討が行われており、原子力安全を支える基盤の現状と課題、対応の方向が示されている。また、今後原子力の技術基盤を充実していくことも重要であり、この点については、原子力部会において検討が行われ、今後必要となる対応策が示されている。
 (詳細については、原子力安全・保安部会報告書及び原子力部会報告書を参照)
 また、原子力発電の立地を進め、その供給力の増加を実現していくためには、原子力の安全性や必要性について立地地域をはじめ広く国民に十分な情報の提供を行っていくことが重要である。さらに、原子力を含む発電施設等の立地地域については、いわゆる「電源三法」に基づき、地元のニーズに応じて、公共施設の整備や、商工業、農林水産業等の振興、福祉対策事業等の支援が実施され、地域の振興に大きな役割を果たしてきたところであるが、政府は、今後とも、これらの施策の一層の充実を図ることにより、立地地域の振興に最大限の取組を行っていくことが必要である。こうした取組により、原子力について国民の理解を得るよう一層の努力を行っていくべきである。
 なお、原子力発電の設備利用率に関しては、現在の規制体系を前提とした場合にも85%まで改善が可能との評価もあり、同じベースロードである石炭火力を代替する場合には、最大2百万t-C程度のCO排出削減が期待できる。

 上記の各分野における対策とあわせて、横断的な視点から以下のような取組を行うことも必要である。

⑥エネルギー特別会計の歳出項目の見直し(エネルギー特別会計のグリ   ーン化)
 上記の省エネルギー対策、新エネルギー対策や2010年度以降も念頭に置いた技術開発の実施等CO排出削減に必要な対策を実施するためには、まずは既存の財源を十分に活用することが重要である。このため、エネルギー特別会計の歳出項目について見直しを行うこととする(エネルギー特別会計の歳出グリーン化)。

⑦技術開発
 エネルギーに関する技術開発については、2010年度以降の長期の視野を持った上で、現状からのブレークスルーを図るため、各部会での検討も踏まえ、かつ、内閣府総合科学技術会議における科学技術の戦略的重点化の議論も踏まえつつ、以下のような戦略的に重要な分野に集中して支援を行うことが必要である。

1)省エネルギー関連分野
技術開発を導入対策とともに一貫性をもったプログラムとしてまとめていくことが必要。
  • 高性能ボイラー/レーザー、高効率照明、クリーンエネルギー自動車の高性能化、発電効率の向上 等
2)新エネルギー関連分野
 コストの低減、利便性や性能面での向上に資する技術開発を推進することが必要。
  • 燃料電池、太陽光発電、バイオマス  等
3)天然ガス関連分野
  • メタンハイドレート、GTL(ガス・ツー・リキッド)、DME(ジ・メチル・エーテル) 等
4)原子力関連分野
  • 安全規制を効果的かつ効率的に実施するための技術、高レベル放射性廃棄物処分のための研究開発 等

(詳細については、省エネルギー部会報告書、新エネルギー部会報告書、天 然ガス小委員会報告書、原子力安全・保安部会報告書及び原子力部会報告 書を参照)

⑧国際的な取組
 上記のような国内のエネルギー需給バランスの問題と直接に関連するものではないが、アジア地域全体を視野においたエネルギー安定供給の強化に向けた取組も極めて重要である。具体的には、アジア諸国に対する石油備蓄体制整備等への協力、天然ガス等域内の石油代替エネルギーの開発・利用拡大への参画、省エネルギー・新エネルギー普及のための協力等の取組が考えられる。また、アジア全体として中東への依存度が高まっていく中で、我が国として中東産油国との協力関係強化に努力していくことも重要である。
(詳細については、エネルギーセキュリティWG報告書を参照)



3.目標ケースの概要

 「環境保全や効率化の要請に対応しつつ、エネルギーの安定供給を実現する」という基本目標を実現するエネルギー需給像を、長期エネルギー需給見通し(目標ケース)として明らかにするため、上記2.の具体的対策を講ずることを前提として、エネルギー需給像に関する定量的な推計を行った。
具体的には、前述の省エネルギー対策、新エネルギー対策をまず行った上で、燃料転換を実現するとの考え方に立って、燃料転換の中心となる電源構成の変化、さらにはエネルギー需給全体の姿について、以下のとおり推計を行った。

 (1) 電源構成

 発電設備容量については、平成13年度電力供給計画における設備容量があるが、供給計画で前提としている発電電力量に比して、省エネルギー対策を実施した場合の発電電力量は大きく低下するものと見込まれる。このため、今後実際に整備される設備については、A)平成13年度電力供給計画上の設備容量を上限とした上で、現実に進んでいる発電所建設プロセスを離れて、経済合理的に整備が行われる、B)供給計画どおりに整備される、という2つの場合を想定した。


 ①推計の前提
 Aの前提は、以下のとおりである。

1)省エネルギー対策により発電電力量は平成13年度電力供給計画に比べ大きく低下するものと見込まれている。これが実現する場合には、現実に着工しているかどうかは問わず、純粋に経済合理的な対応が行われれば、電力供給計画上の設備容量に比し、より小さな設備容量になることが考えられるため、火力発電所については、供給計画上の設備容量を上限とした上で、新たに建設されるものは経済合理的に選択されるという仮定の下で推計を行った。

2)天然ガスの1kWh当たりの総発電コストが石炭より安価になる利用範囲を拡大させることにより、天然ガスへの燃料転換を促す効果が期待し得るような措置(天然ガスの総発電コストに比して石炭の総発電コストを相対的に+約0.3円/kWh上昇させる措置)を想定した。

Bの前提は、以下のとおりである。

 上記のAの前提は、既に着工していることを離れて、これらの設備等についても需要に応じて柔軟に変更が可能であるとしているため、現実には、これがそのまま実現できるものではない。そこで、設備容量が供給計画どおりに整備される一方で、発電電力量が供給計画より小さくなった場合を仮定して試算を行った。(この場合には、Aのような措置(天然ガスの総発電コストに比して石炭の総発電コストを相対的に+約0.3円/kWh上昇させる措置)を講じたとしてもその効果がなく、より大幅な措置が必要となると考えられる。)

 ②推計結果
 上記の前提の下で推計した電源構成は、以下のとおりと見込まれる。
 設備容量については、A、Bそれぞれの前提から得られる数値を一定の幅として記載している。
 Bの場合には、特段の措置なしには5百万t-C程度のCO削減の達成は困難であり、一定の措置により、発電電力量及びその構成がAの場合並になることが必要であるため、当該発電電力量及び構成をBの場合にも置くこととした。
注)
  1. 原子力発電の設備容量については、最近の実績と同程度の設備利用率(77%~83%)が達成されることを想定した場合、4186億kWhの発電電力量に対応する設備容量は、5755万kW~6185万kW(今後10基~13基程度の増設を行うことに対応)となると考えられる。
  2. なお、原子力発電の設備利用率に関しては、現在の規制体系を前提とした場合にも85%まで改善が可能との評価もあり、この場合には、最大2百万t-C程度のCO排出削減が期待できる。
  3. 一般水力及び地熱については、今後の地点発掘の進展等によっては増加する可能性がある。
  4. また、自家発自家消費の発電電力量については、基準ケースの1145億kWhに対し、本推計では1058億kWhとなっている。
※Bの場合の年度末設備容量(27229万kW)が各電源の合計値と一致しないのは、供給計画において未決定分(▲39万kW)があるためである。

 ③評価
 上記電源構成は、発電設備容量について異なる2つの前提を置いて推計を行ったものであるが、これらについては以下のとおり評価できる。
  • Aの場合のように一定の措置により各主体が純粋に経済合理的な対応を採るという前提は、そのまま実現するものではないが、仮に実現するとすれば、早期の対応が行われる場合には、経済モデル上の評価によれば、全体としては経済への影響が比較的小さな下で(2010年度までに年平均経済成長率は基準ケースとほぼ同様となり、2%程度と見込まれる)、一定のCO削減効果が見込まれ、エネルギー起源のCO排出量について、目標としている287百万t-Cを実現できることとなる。
    (電気事業者については、5百万t-Cを超えるCO削減効果が見込まれる。また、同程度の措置を電気事業者以外にも講ずることとした場合には、電気事業者におけるCO削減効果に加えて、産業を中心として、CO削減効果が期待され、最も幅広く措置を講じた場合には約1百万t-C、一般炭の利用に着目して措置を講じた場合には約0.1百万t-Cの削減が行われるものと推計される。)

  • より長期的な視野に立てば、仮に2010年度までは設備計画がAの前提ほどには動かすことが困難であり、措置の効果が縮小する場合であっても、より柔軟性が高い2010年度以降においては、少なくとも相当の効果が期待され得るものと評価できる。

  • 一方、Bの場合には、Aと同様の措置を講じたとしても、2010年度までに大きな燃料転換効果は見込まれず、CO排出量約5百万t-Cの削減を実現するためには、例えば、Aに比して相当に大幅な措置(例えば、大規模な助成措置、厳しい規制措置、非常に高率の税制等の各種の対策(あるいはそれらの組み合わせ))が必要になる。

 以上の結果から考えると、5百万t-CのCO削減を達成することは、いずれにせよ非常に難しい課題であると考えられる。

 なお、目標ケース検討の過程では、今後原子力発電所を増設しないケースについても審議の対象とし、一部の委員からはこのケースを重視すべきといった意見もあったが、経済に与える大きな影響等から、本部会としては、そうしたケースを選択することはできないとの結論に至った。(当該ケースの推計結果については参考5を参照)。 
また、今回の審議において原子力政策全体について詳細に検討すべきとの意見も一部の委員にあったが、今回は2010年度までのエネルギー政策を検討することが目的であったため、原子力発電所を増設しないケースを採り上げたが、それ以上の検討は必要はないものと判断した。


 (2) エネルギー需給の全体像
 上記の電源構成の推計も踏まえたエネルギー需給全体の定量的な姿は、別紙のとおりと見込まれる。(なお、本見通しにおける数値は一定の前提の下に推計されたものであり、ある程度の幅を持って理解すべきものである。)


 終わりに

 最後に、以下を政府及び広く国民に対するメッセージとし、本報告書を踏まえたエネルギー問題への一層の取組を求めることとしたい。

1.目標の厳しさの認識

 本見通し(目標ケース)の実現は、エネルギーの使用が一人一人のライフスタイルそのものに依存しているものであること等から、これまで述べてきたように容易なものではなく、大幅な省エネルギー、新エネルギー対策や燃料転換等の実行があって初めて実現し得るものである。また今回、目標ケースにおける家庭等における具体的なエネルギー消費像を物理的な形で描くことも試みた。まだ公表できるまでの成果をあげるには至っていないが、その検討過程からも本目標が極めて厳しいものであることがうかがわれる。したがって、政府・企業・国民それぞれが問題の困難さを認識し、目標を実現していくための真摯な努力を行うことが強く望まれる。

2.国民的な努力と負担の必要性

 また、目標実現に必要な省エネルギーや新エネルギー導入あるいは燃料転換等の取組を、助成措置、規制的措置、あるいは税制等、どういう方策によって対応するとしても、最終的には国民に相当の負担が生ずることになる点を看過すべきではない。エネルギー問題は国民すべてに関わる問題であり、安定供給の確保や環境保全等の利益は国民全員が享受するものである一方、そのための努力や負担も国民一人一人に求められるものである。この点について敢えて指摘し、国民各層の理解と協力を求めるものである。
 政府においては、エネルギー問題が国民すべてに関わる問題であることを踏まえて、国民一人一人に対して、絶えずエネルギーに関する正確な情報を提供することにより、国民の理解と協力を得られるよう努めることを要請する。

3.柔軟な対策の策定と実行

 本見通しの推計に当たっては、経団連環境自主行動計画が目標どおり達成されることや、トップランナー機器の普及等の省エネルギー対策や導入補助等の新エネルギー対策など国の意図している諸方策が所期の成果をあげることが前提となっている。一方において、エネルギー価格の動向等を含む国際的エネルギー状況、国内における経済情勢、温暖化を巡る国際的な交渉の状況など、エネルギーを取り巻く諸情勢には必ずしも確実とはいえない多くの要因が存在し、今回これらのすべてにわたって明確な見通しの策定ができたわけではない。したがって、今後の具体的対策の策定と実行に当たっては、これらエネルギーを巡る情勢の変化を鋭敏にとらえて、常に柔軟に見直しを行っていくことが必要である。

4.早急な対策への着手とさらなる検討

 一方で、エネルギー供給の設備整備等に極めて長期間を要する実態等を考えると、どういう対応によるかにかかわらず、効果を上げるのに非常に長い時間を要することになる。また、新たな対応をせず、現状のまま推移すれば、2010年度以降も視野に入れたより長期には、環境問題等がより深刻になることも懸念される。したがって、従来からの各種対策の確実な実施に加えて、ここで具体的に提示された省エネルギー対策や新エネルギー対策については、早急に実施に着手することが必要である。また、ここでの検討で十分に政策を具体化するには至らなかったものについては、さらなる検討が鋭意進められる必要がある。具体的には、新エネルギー対策のうち電力分野における新たな市場拡大措置については、導入に向けて早急に検討を開始することが望まれる。また、燃料転換等を実現する方策についても、上記のエネルギーを取り巻く諸情勢を考慮しつつ、今後さらに具体的政策手段を検討していくことが必要である。
 





参 考 1

基準ケース策定の考え方
 現在の政策枠組みを維持した場合の2010年度におけるエネルギー需給の姿(基準ケース)については、以下のような前提条件に基づいて推計を行った。

 1.マクロフレーム

1) 人口・世帯数
 国立社会保障・人口問題研究所「中位推計」(平成9年1月)及び世帯数推計(平成10年10月)を用いる。
2)労働力率
 総務庁労働統計から、女性の社会進出の進展等を考慮し経済産業省で試算。

3)為替水準
 過去5年程度の実績から経済産業省で試算。(110円/$)

4)国際エネルギー価格

原油価格はIEA長期見通しを参考に2010年度時点で30$/bbl(名目CIF)となる緩やかな価格上昇を仮定。LNG価格は原油価格連動と仮定。
石炭価格については、近年の実績から経済産業省で試算。

2.需要面
 現在、実施されている省エネルギー対策のうち、現時点で効果の検証が可能なもののみを基準ケースにおいて取り上げ、現時点では検証の材料に乏しい対策については、評価の対象から除外して試算。

 1)効果評価の対象とした対策

  • 経団連環境自主行動計画
    (省エネルギー部会において、(社)経済団体連合会等より「経団連環境自主行動計画」を実現するとの意図表明が改めて行われたことを踏まえ、同計画による目標が2010年度において達成されるものとの前提で評価。)
  • トップランナー基準
    (省エネルギー部会において審議された、省エネルギー法に基づくトップランナー方式による効率基準等に対する具体的評価を使用。)
  • 物流効率化、交通対策、テレワークの推進等
    (他省庁所管の個別対策等については、省エネルギー部会で示された進捗状況等を踏まえた評価を使用。)
     等

 2)今回評価を行わなかった対策
  • ライフスタイルの変更(冷暖房の適正な温度調整、自動車利用の自粛、駐車時のアイドリングストップ等:5百万kl)
  • 技術開発(高性能ボイラー、高効率照明、高性能リチウム電池搭載型の電気自動車等:2.9百万kl)

3.供給面
 1)国産エネルギー供給、エネルギー輸出
 過去10年程度の供給・導入実績から経済産業省で試算。

 2)電源構成
平成12年度電力供給計画を踏まえて、(財)電力中央研究所電源構成モデルにより発電設備構成を試算。さらに、KEOモデルにより稼働率・発電電力量を試算(ただし、非化石エネルギーについては3)、4)のとおり)。
総発電電力量中、自家発電(自家消費)の占める比率は、(財)電力中央研究所による試算値を使用。

 3)原子力発電、一般水力・地熱発電
原子力発電の稼働率については、近年の実績等から経済産業省で試算。(80%)
一般水力・地熱発電の発電電力量については、近年の実績等から経済産業省で試算。(電気事業者の発電電力量:840億kWh)

 4)新エネルギー
 新エネルギー導入量については、新エネルギー部会によって試算された現行の対策の枠組みのみが維持された場合の値(878万kl)を使用。





参 考 4

地球温暖化防止対策のためのエネルギー・環境関連税制について

 税制による地球温暖化防止対策の検討に当たっては、当該税制が国民生活や経済活動に重大な影響を与えるものであることに十分留意すべきである。具体的には、税制の効果、マクロ経済及び産業競争力に与える影響、公平性等の論点について、できる限り定量的な評価に基づき慎重な検討を行うことが必要である。

1.税制に関する論点
 (1) 効果
 最も重要な視点は、税制導入の結果、有意なCO削減効果があることである。
①価格効果 
 価格効果には、ⅰ)課税によるエネルギー価格の上昇により需要を抑制する効果と、ⅱ)課税による相対価格の変更により、CO排出割合の高い燃料から低い燃料へ転換する効果がある。
 需要抑制効果を狙う場合には、どの分野に課税すべきか慎重に検討すべきである。例えばガソリンに1l当たり10円(約16000円/t-C)の重税を課しても、有意な効果は認められない(2000年5月のガソリン小売価格は、前年同期比約10円上昇したが、販売量は約4724千kl→約4889千kl(+約3.5%増)と同月としては過去最高。)。
 これに対して、多様な燃料を利用し得る分野においては、税制によって燃料の転換が行われる可能性がある。ただし、転換効果を狙った税制を導入する場合には、代替が十分に実現するのには長期の期間を要することに留意する必要がある。
②財源効果
 財源効果を狙った課税については、既に電源開発促進税、石油税で年間約8510億円(平成11年度決算ベース)も課していることから、まずこれらを見直し、CO削減に必要な対策を実施し得るようにすべきである。(なお、石油への課税としては、その他に例えば揮発油税、軽油引取税等が年間約4.5兆円課されていることに留意する必要がある。)

 なお、経済的措置については、一般的特徴として、規制的措置などに比べ効果に不確実性があるため、想定したような目標達成が必ず実現できるとは限らないこともある点に留意する必要がある。

 (2) 公平性
 税制の導入は、各主体に新たな負担を課すものであるから、公平を期すことは極めて重要な視点である。単に、同一発熱量当たりの炭素含有量見合いで課税することが公平ではなく、例えば、石油税において、原油で2.04円/l(約2900円/t-C)、LNGで約0.72円/kg(約980円/t-C)等が既に課されていることに留意しつつ課税することが公平性を担保することになる。その際、エネルギーへの課税である以上、課税対象となるエネルギーの選択を含め、具体的な課税のあり方については、石油税等と同様、環境のみならず安定供給確保の観点も含め総合的に判断することが必要である。また、公平性という観点からは、より広範な主体に課税を行うということにも留意することが必要である。

 (3) 経済への影響
 制度によっては、我が国産業の国際競争力や経済全体に悪影響を及ぼす可能性があり得る。特に、現下の我が国の経済情勢に鑑み、海外の課税の状況との整合性に留意する必要がある。さらに、税収をCO削減対策にあてるという工夫もすべきである。

 (4) 対象にすべき範囲
 一般的には、化石燃料に課税することが考えられるが、COを発生させないナフサ等に課税しないのは当然のことであるとともに、例えば原料炭のように現時点で転換効果が望めないものについては、諸外国の例も参考にしつつ、現状では課税対象とはしないことが適当である。
また、対象にすべき範囲の検討に当たっては、課税規模とCO削減効果の関係にも留意することが必要である。

 (5) 自由化・効率化との関係
 税の基本的考え方は、環境対策の外部コストを内部化するものである。従って、平等かつ公平な条件の下で競争を促進し、自由化・効率化を達成する上で、税は、競争条件の整備措置と言うべきものである。

 (6) エネルギーの安定供給との関係(省エネ対策・新エネ対策との関係)
 税による転換効果を狙う場合、例えば石炭が化石燃料の中で最も環境負荷が高いからと言って、最も環境負荷の低い天然ガスに過度に依存するような措置を採ることは、石炭が化石燃料の中で最も安定供給に優れている点を考慮すれば、エネルギー全体の安定供給を確保する観点から望ましくない。
 従って、エネルギーの安定供給を確保しつつ、2010年度のエネルギー起源のCOを1990年度レベルで安定化させるという目標を達成するためには、まず国民経済上出来る限り効用を変えずに、可能な最大級の省エネ対策を行うとともに、国産エネルギーであり、かつ、COを発生させない新エネルギー等を可能な限り導入する対策を採るべきである。
 その上でまだ、上記の目標が達成できない場合に、税制についての検討がなされるべきである。

2.検討の方向
 以上の論点を踏まえれば、以下について検討を行うことが適当である。

 (1) エネルギー特別会計の歳出グリーン化
 省エネルギー対策、新エネルギー対策や2010年度以降も念頭に置いた技術開発の実施等CO排出削減に必要な対策を実施するため、まずは既存の財源を十分に活用することが重要であり、エネルギー特別会計の歳出項目について見直しを行う(エネルギー特別会計の歳出グリーン化)。
 (2) エネルギー・環境関連税制の在り方
 エネルギー・環境関連税制について、助成措置、規制的措置等他の手段とともに、京都議定書を巡る国際的な交渉の状況、エネルギー価格の動向等を含む国際的エネルギー状況、国内における今後の経済情勢等を考慮して検討を進めることが必要である。
















参 考 5

原子力発電所を今後増設しないケースの概要


1.概要

 基準ケース及び目標ケースでは、10基~13基程度の原子力発電所の増設が前提となっているのに対して、原子力発電所の増設が今後ないと仮定して推計を行った。この場合、2010年度のエネルギー起源のCO排出量が基準ケースでは前述のとおり90年度に比して約20百万t-C超過すると見込まれるのに対して、超過分はより大きくなり、40百万t-C程度になるものと試算され、この分を削減する対策が必要となる。

2.前提

1)設備容量については、原子力発電所について、今後増設がないと仮定し、それ以外については目標ケースのAの場合と同様に、火力発電所については、供給計画上の設備容量を上限とした上で、新たに建設されるものは経済合理的に選択されると仮定した。

2)原子力発電所の増設がなくとも、エネルギー起源のCO排出量が全体として287百万t-Cを実現するよう、それに必要な負担を広く国民全体が負うものとの考え方に立って、エネルギー利用全般に措置を講ずることを想定。具体的には、まず目標ケースのAの場合のような措置(天然ガスの総発電コストに比して石炭の総発電コストを相対的に+約0.3円/kWh上昇させる措置)を講じた上で、目標達成に足りない場合には2009年度からより厳しい措置を講じることとした。

3.電源構成及びエネルギー需給の全体像

 上記前提のもとに推計をした電源構成及びエネルギー需給の全体像は以下のとおり。

4.評価

 今後、原子力発電所の増設が行われない場合に、エネルギー起源のCO排出量を抑制するためには、大幅なCO削減が必要となる。上記前提のように措置を講じていく場合には、2008年度時点で13百万t-C超のCO削減が必要(目標ケースのAの場合のような措置を2010年度まで講じた場合には、2010年度で17百万t-C程度のCO削減が必要)となり、これを実現する厳しい措置が不可欠となる。こうした措置を実施した結果、例えば、2010年度において、製造業の生産額が基準ケースに比して約19兆円と大幅に下落し(約▲4.2%減、特に、エネルギー多消費産業においては、エネルギー消費に伴う負担増が、大きいものでは総生産額の3%程度にもなり、利益を上回るような水準となる可能性あり)、さらに家計消費も基準ケースに比して約12兆円減少(約▲3.9%減、各家庭においては、毎月の消費額が約2万円減少する一方、エネルギーへの支出は約4千円増加)する等、経済に大きな影響を生じさせることとなる。経済成長率は、2008年度~2010年度はほぼゼロ成長となり(特に2009年度はマイナス成長(▲0.1%)となるが、戦後マイナス成長となったのは2回のみ)、この結果、基準ケースに比して2010年度まで年平均約▲0.4%下落し、2005年度~2010年度は▲0.7%下落する。また、雇用への影響は、基準ケースに比して▲3.3%程度(約228万人相当)となる。したがって、原子力発電所を増設しないとの仮定の下において、同時にCOの削減目標を達成するとした場合には、経済への大幅な影響を避けることはできないと考えられる。
 (仮に上記の厳しい措置を税制で行うと想定すると、税率は約 28000円/t-C、税収は年間約7兆円程度の大規模なものとなる。また、13百万t-CのCO削減を省エネルギーで対応しようとすれば、約 18百万klのエネルギー削減が必要となる。これは、家庭における全電力消費の8割程度、乗用車のエネルギー消費量の1/3程度に匹敵する。)
 さらに、試算の前提を、目標ケースのBの場合のように、設備容量が原子力発電所以外は供給計画どおりに整備されると仮定した場合には、2010年度における経済や国民生活への影響はさらに一層厳しくなる。

 なお、上記の推計については、いわゆる一般均衡モデルを用いて行っており、例えば、産業の海外への移転を定量的に捉えられないことや省エネルギー投資によるエネルギー使用の抑制に技術的限界が設けられていないこと等経済モデルとしての一定の制約が存在しており、現実にはCO削減のための対応が経済により大きな影響を与える可能性もあることに十分留意すべきである。

[参考文献](敬称略)

(多部門一般均衡モデル関係)





(別 添)

反対理由

総合部会委員 飯田 哲也

 これまでに開催されてきた総合部会の中で、審議すべき重大な論点が残されており、社会からの期待に十分に応えていないと思われる。以下、審議が不十分と思われる事項を具体的に列挙する。
【原子力政策の再検討】
 総合部会の一連の審議では、「原子力政策の再検討」が論点にすら乗せられなかった。これは、以下の2つの理由により、総合部会が積み残した最大の課題と考える。
 第1に、電力自由化の再検証などエネルギー市場の自由化の流れの中で、原子力は大きな不確定要素になることが避けられない。この2月に東京電力が新規電源の凍結を打ち出したことがその証左である。この時点で原子力の不確実性を考慮しない「見通し」を決定することは、大きな不確実性を内包することを意味し、今回の「見通し」も早晩見直しを余儀なくされる可能性がある。
 第2に、原子力に関する国民や地域からの「異議申し立て」に対して、総合部会としての社会的責任を十分に果たしていない。福島県知事による原子力政策の問い直し、刈羽村住民投票をはじめ、パブリックコメントや公聴会を見ても、1999年9月のJCO臨界事故を筆頭に、過去一連の原子力を巡る事故・不祥事に対して不安感・不信感を高めている国民の間には、核燃料サイクルを含めて直面する原子力政策を見直す声が圧倒的に多い。総合部会は、これに真摯に討議をもって応えるべきではなかったか。
【環境保全に資する経済的措置の検討】
 「環境保全に資する経済的措置の検討」については、第4回総合部会(2000年7月21日)で論点として提示されたにもかかわらず、総合部会でもエネルギー政策WGでも十分な審議がされたとは言い難い。「環境保全に資する経済的措置」は、当面するエネルギー政策の最大・最重要・緊急の課題であり、類型化、ポリシーミックス、導入可能性など、より具体的な政策措置が議論されるべきであった。
 【京都議定書を巡るエネルギー政策のあり方】
 日本の温暖化政策は、「エネルギー部門で1990年比0%」が前提条件となっており、このことが温暖化外交の手を縛る最大の要因となっている。これを上回る削減は容易ではないが、あくまでポリシーミックス(各種政策措置の組み合わせ)との相関にすぎない。総合部会での検討が唯一の「見通し」であれば、それ以外の可能性は排除されることになるため、仮にこの削減目標値の再検討が別の場の役割としても、少なくとも複数の目標削減量をポリシーミックスとの組み合わせで議論すべきではなかったか。
【前回の「長期エネルギー需給見通し」に対する検証が不十分であること】
 前回、京都会議後に策定された「1998年長期エネルギー需給見通し」からわずか2年で見直しに着手せざるを得なかった状況を踏まえれば、前回の「1998年見通し」で決定した対策の有効性、現実性、効果を見極め、大きな政策転換を必要とする要素を抽出しなければならない。とりわけ、今回の「見通し」でも与件としている経団連自主行動計画は大きな不確定要素であるが、総合部会ではこうした点は十分に検証されていない。
【「長期エネルギー需給見通し」の位置づけと「政府」の役割の見直しの必要性】
 「見通し」に対する呼称は議論になったが、そもそも「需給見通し」とは何かという共通の認識がみられない。現代的な認識に基づくならば、一つの数値に「計画」や「目標」の名前を冠して政府が提示することは、エネルギー政策における政府の役割から明らかに逸脱している。政府の役割は、法制度や税財政を含む大枠のルール形成と、民間企業が担うことのできない研究開発に限られるべきであろう。その意味からも、本来ならば「原発モラトリアム」を含む複数のシナリオの提示をすべきであった。
【試算への疑義と政策パッケージの必要性】
 これまでの審議経過において、「原発モラトリアムシナリオ」(試算2)が試みられたことは一定の評価をしたい。しかしながら、その試算2(特に経済的影響)にはさまざまな疑問が提示されているにも係わらず、その経済的影響を理由にして試算から外すべきではないと思われる。「原発モラトリアム」がGDPで見て基準ケース比▲2%程度の低下が生じるという結果は不自然であり、経済的効用を最大化する他の技術対策や経済的措置の取り方、さらには産業構造の変化など、他のモデルの適用を含む十分な精査が必要と思われる。

以上


反対理由

総合部会委員 中村 融

  1. 原子力について政策転換が必要で、危険性が言われていますが、発電効率が送電ロスを含めて30%程度では21世紀のシステムとしては許容できません。これらの観点から考えて、13基増設はその実現性が見込めない事も含め、決定したエネルギー政策の大きな欠陥です。国民は単に「危険だ」としてアレルギーを起こしているのではなく、よく理解して先を見通していることに事に思いを致して、このエネルギー政策の不十分さを指摘せざるを得ません。

  2. 「経団連環境自主行動計画」の評価は、環境省研究会の評価も含めて、その実現性は極めて疑わしくなってきています。「自主的行動計画」というフレームワークを含め政策の実効性を確保する方策が審議される必要がありました。私の提起したCASAのシナリオについての議論でも指摘があったように「政策実現の方途の在り方」が問われ、必要な審議が要請されます。

  3. こうしてこのエネルギー政策は、残念ながら生まれたその時から中心柱が崩れていると言わなくてはなりません。

  4. 原子力新増設と「経団連環境自主行動計画」の主な2本柱が崩れたので、炭素税(環境税)の実施が、その「二重の配当」を考慮して、適用の範疇と限界をよく考えながら、このエネルギー政策でのあやふやな記述を乗り越えて、どうしてもその実現が必要な政策課題となっています。この点についての是非とも改めての審議が要請されます。

  5. 以上から考えれば、多数の委員からの発言で指摘があったと私は思っているのですが、「短い期間(2年程度)でのレビューや見直し」が必要です。この必須の課題をきちんと位置づけていただけるようお願いしておきます。
      現在の取りまとめでは、これらの課題が果たされ得ないことが明かなので、現状での「2010年度エネルギー政策とりまとめ」に対して反対せざるを得ない事を明確に表明しておきます。
以上


総合部会検討経過

平成12年
 第1回:平成12年4月24日(月)
①総合部会の公開について(案)
②我が国のエネルギーを取り巻く情勢変化について
③総合部会及び各部会等の進め方について(案)

 第2回:平成12年6月2日(金)
有識者からの意見聴取・意見交換
  • 日本のエネルギーセキュリティに関わる国際的・地政学的動向
    (寺島実郎 三井物産戦略研究所所長)
  • 供給効率化と安定供給・環境保全
    (八田達夫 東京大学教授)
  • 原子力立地地域からのエネルギー政策への要請
    (河瀬一治 敦賀市長)

 第3回:平成12年6月23日(金)
①有識者からの意見聴取・意見交換
  • Global Energy Situation and Energy Security Policy(世界のエネルギー情勢とセキュリティ対策の在り方)
    (Amy M.Jaffe 米国ライス大学ジェームス・ベーカー三世公共政策研究所エネルギー研究部門長)
  • 分散型エネルギー技術とその開発課題
    (内山洋司 筑波大学教授)
②原子力部会からの報告聴取

 第4回:平成12年7月21日(金)
①新エネルギー部会からの報告聴取
②石油審議会開発部会基本政策小委員会からの報告聴取
③今後のエネルギー政策の検討のための論点整理(案)


総合部会及び需給部会合同部会検討経過

 第1回:平成13年3月6日(火)
①基準ケースについて(案)
②今後の政策検討の方向及び目標ケース策定の考え方等について(案)

 第2回:平成13年4月17日(火)14:30~16:00
委員及び有識者からの意見聴取・意見交換
  • 基調報告(我々のエネルギー政策の概念と範疇)
    (中村総合部会委員)
  • 2010年までにCO削減可能 2020年までにエネルギー消費社会から脱却
    (安藤多恵子 市民エネルギー研究所代表)
  • 日本における二酸化炭素排出削減の可能性
    (水谷洋一 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)気候変動防止戦略研究会座長)

 第3回:平成13年4月17日(火)16:15~18:15
各部会等からの報告
(省エネルギー部会、新エネルギー部会、原子力部会、エネルギーセキュリティWG、天然ガス小委員会)

 第4回:平成13年5月14日(月)
①目標ケースについて(案)
②総合資源エネルギー調査会地方会議について(案)

 第5回:平成13年5月29日(火)
①エネルギーセキュリティWGからの報告書(案)について
②今後のエネルギー政策に関するこれまでの審議状況について(案)

 第6回:平成13年6月28日(木)
①地方会議及びパブリックコメントにおける意見とそれに対する考え方について(案)
②今後のエネルギー政策について 報告書(案)について
③エネルギー関連技術開発への取り組みについて


エネルギー政策WG検討経過

平成12年
 第1回:平成12年9月25日(月)
①エネルギー政策WGを中心とした今後の検討について(案)
②新たなエネルギー需給シナリオ策定の考え方について(案)

 第2回:平成12年11月10日(金)
①地球温暖化防止対策のための経済的手法(エネルギー・環境関連税制/排出量取引制度)の定性的評価について
②有識者からの意見聴取・意見交換
  • 温暖化ガス排出量取引の取組について
    (荒木 鑑 東短デリバティブズ株式会社取締役)

 第3回:平成12年11月27日(月)
①有識者からの意見聴取・意見交換
  • “Advances in Energy Policy:New Opportunities for Japan”
    (Amory B. Lovins・ロッキーマウンテン研究所所長)
②COP6結果報告

平成13年
 第1回:平成13年2月23日(金)
①基準ケースについて(案)
②今後の政策検討の方向及び目標ケース策定の考え方等について(案)

 第2回:平成13年5月8日(火)
目標ケースについて(案)


地方会議検討経過


 実施会場:札幌会場(平成13年6月13日)
       仙台会場(平成13年6月15日)
       名古屋会場(平成13年6月18日)
       福岡会場(平成13年6月20日)
       大阪会場(平成13年6月21日)

 意見陳述人:合計26名
    札幌会場                                                              
      井坂紘一郎   美唄市長                                              
      橋  金作   北海道経済連合会理事(同環境エネルギー委員会副委員長)
              ㈱エコニクス代表取締役社長                            
      島田 昭吉   (社)北海道消費者協会専務理事                           
      落藤  澄   北海道大学名誉教授                                        
      杉山さかえ    特定非営利活動法人北海道グリーンファンド理事長            
                                                                         
    仙台会場                                                             
     松村 富廣    (社)みやぎ工業会会長                
           ㈱トーキン代表取締役相談役         
           (社)東北経済連合会評議会議長        
     熊谷 睦子    宮城県消費者団体連絡協議会会長                       
     齋藤 武雄    東北大学大学院教授                 
           日本太陽エネルギー学会会長         
     早川 篤雄    原発の安全性を求める福島県連絡会代表
     遠藤 正明    宮城県企画部長                                       
                                                                         
    名古屋会場                                                           
     太田 和子    愛知県生活学校連絡会会長                               
     架谷 昌信    名古屋大学教授
     上園 昌武    地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)理事
              (水谷洋一 CASA気候変動防止戦略研究会座長 代理)
     本間 義明    浜岡町長                                          
     小原 敏人    (社)中部経済連合会副会長                          
           日本ガイシ㈱代表取締役会長                                
                                                                         
   福岡会場                                                               
    松村 博久   鹿児島大学名誉教授                                       
    木村 京子  九電消費者株主の会事務局                                 
    酒井勇三郎    福岡市環境局長                                           
    原  正次    (社)九州・山口経済連合会常務理事
    野口 博子    (社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会九州支部長
                                                                         
    大阪会場                                                             
     豊田 陽介    気候ネットワーク                                       
     倉田  薫   池田市長                                               
      柴田  稔  関西経済連合会副会長
     角田 禮子   関西消費者連合会会長                                   
     濱川 圭弘    立命館大学理工学部教授                                 
     伴  金美    大阪大学大学院教授