(参考3)

A評価課題の研究概要について

<生体・環境影響基盤技術分野>
No.9 放射線に対する細胞内センサーと生体防御に関する研究(国立感染症研究所)(新規)
 遺伝情報を担うゲノムDNAの損傷は、放射線障害の中で最も深刻なものの一つである。本研究では、放射線照射によりゲノムDNAに損傷が起きたとき、DNA複製期の細胞がどのように損傷を感知して染色体分配機構を不活化し分裂を急停止させるのかという新しい生体防御メカニズムについて解析を行う。本研究により、放射線障害の予防と治療を目指した医学的研究や放射線の安全利用等の分野に発展に大きな貢献が期待できる。

No.13 マイクロSPECTを利用した機能画像の定量化と循環器疾患の実験的治療研究への応用(国立循環器病センター)(新規)
  アイソトープで目印をつけたごく微量の薬(放射性医薬品)を体内に投与すると、心臓や脳などの特定臓器や組織に取り込まれ、そこで放射線を出す。その放射線を特殊なカメラで測定し、コンピュータで画像を作成して病気の診断や治療に応用する検査法を核医学検査という。本研究では、従来は生体内での測定においては定性的評価の域を越えていなかったSPECT(シングル・フォトン・エミッション・コンピューター・トモグラフィー)診断法の高分解能化を図り、小動物体内での放射性薬剤分布や時間変化を正確に計測、解析することにより、心筋組織血流量およびカリウム・イオンポテンシャルの定量評価、脳神経細胞密度の分布画像の定量評価などを行って、生理機能の定量化を実現する。本技術により、身体各部の機能や代謝の異常を画像として表現でき、他の検査法よりも早期に身体の異常を発見することを可能とする。

No.31 放射標識DNAを利用した昆虫集団の同定法の開発(農業生物資源研究所)(継続)
昆虫は、地球上の全生物種の約半数を占める最大の生物資源と呼ばれ、既知の有用・有害種のほか、医療・生活素材や有用物質の生産など将来において利用可能な様々な特性をもつ多くの種を含む。しかし、昆虫では、近縁種間の違いや集団や系統間の違いを外見などで簡単に識別・同定できないことも多く、このことは有用昆虫の利用や害虫管理などにおいて一つの障害になっている。本研究では、放射標識DNAを用いた方法により、従来の外部形態等による方法に代わる、正確で簡便な昆虫の識別・同定法を開発する。

No.34 放射線障害からの回復を促進する遺伝子群の機能解析(日本原子力研究所)(継続)
放射線傷害を修復する能力が大変高い細菌、ディノコッカス・ラジオデュランスの修復遺伝子の機能解析を中心に、遺伝子産物間の相互作用及び遺伝子発現の制御機構を明らかにすることによって、高いDNA修復能がどのような機構によって起こるのかその全容を解明する。本研究を通じ、放射線による被爆事故に際して、遺伝子治療の可能性を提案することが出来る。

No.36 突然変異の誘発を促進する蛋白質の構造と機能に関する研究(国立医薬品食品衛生研究所)(継続) 
放射線はDNAに酸化損傷や切断を起こし,傷ついたDNAを鋳型にして複製(DNA合成)が起こると突然変異やがんが誘発される。本研究は、突然変異誘発の促進に関与する蛋白質の構造と機能を詳細に研究し、突然変異を抑制する手法の開発のための基礎的知見を得ることを目的とする。これまでの研究で、傷ついたDNAの複製に関わる新しい蛋白質DNAポリメラーゼを発見した。このポリメラーゼの仲間(YファミリーDNAポリメラーゼ)は,大腸菌からヒトまで広く存在する。現在、放射線医学総合研究所と連携しながら、その構造と機能の解明、活性の抑制手法の確立をめざして研究を進めている。

No.38 放射線損傷の認識と修復機構の修復機構の解析とナノレベルでのビジュアル化システムの開発(放射線医学総合研究所)(継続)
 放射線損傷修復に関与する遺伝子とその産物の解析及び適応応答の機構解析を行うとともに、原研、理研、国立医薬品食品衛生研究所および国立感染症研究所と共同で、放射線損傷認識修復に関与する蛋白質と損傷DNAの相互作用を明らかにするため、ナノレベルでの可視化システムを開発している。こうした研究・技術開発は生物工学研究分野への貢献度が高く、またJCO臨界事故での被爆線量評価において本研究成果が貢献したように、国民生活の安全確保に直接役立つものである。

No.40 放射性核種の土壌生態圏における移行および動的解析モデルに関する研究(放射線医学総合研究所)(継続)
 環境中、特に人間の生活圏として特に重要な土壌生態圏に放出された放射性核種の中長期にわたる移行や存在形態変化の挙動を追い、土壌生態圏での蓄積現象のメカニズムの一端を明らかにすることを目的とする。これまで、放射性核種Tc-99の挙動について、チェルノブイリ原子炉周辺の森林土壌及び植物試料を用いた室内モデル実験を行うとともに、その結果をフィールドデータと比較し、本モデルがTc-99の環境挙動予測に適応できることを明らかにした。本課題で開発する放射性核種の動的解析モデルは、土壌生態圏に放出された有害重金属等の環境汚染物質の挙動予測にも有効である。

No.42 地表生態圏におけるC-14等長半減期放射性核種の移行に関する研究(日本原子力研究所)(継続)
人間の生活環境である地表生態圏におけるC-14等の長半減期放射性核種の移行・循環過程を実験的に明らかにし、放射性核種等の陸域挙動予測システムを構築する。これらの成果から、C-14 等の長半減期放射性核種について、被曝線量や将来挙動を予測できる。開発したシステムは有害重金属の環境挙動予測にも有用である。また、本研究は地球温暖化ガスである二酸化炭素に関連した地表における炭素循環解明にも役立つ。

<物質・材料基盤技術分野>
No.46 高熱伝導性同位体材料に関する研究(物質・材料研究機構)(新規)
これまで材料物性は元素が決まれば必然的に与えられるものと考えられてきた。本研究では、同位体レベルまで組成を制御した28Si12C、12Cダイヤモンド、11B化合物などを合成し、自然界の材料に比べ50%以上の高い熱伝導度を有する材料の開発をめざす。例えば、13Cを含まない12Cで合成された材料は14Cのような長寿命の放射性核種を生じない、また、11Bは自然界のBに比べHeを生成しにくいなどの利点がある。本研究で開発される材料は、低放射化性、耐照射性の原子力用半導体素子あるいは構造材料として適用できる。さらに、熱除去が容易になるため、数GHz以上の超高速マイクロプロセッサーに応用できる。また、28Siは核スピンを持たないため量子コンピュータ素子材料として期待できるなど、超高速情報通信の発展にも寄与する。

No.52 核融合炉の超強磁場下のための要素技術の開発(物質・材料研究機構)(継続)
本研究では、新しい強磁場超伝導材料である急熱急冷変態法によるNb3Al線材について、その長尺化、高安定化、大電流容量化およびコイル化のための要素技術を開発する。この材料が実用化されて核融合炉が強磁場化されると,プラズマの安定性を高めるとともに、装置全体をコンパクト化して建設単価を大幅に低減することができる。また,放射化生成物の量を低減できてクリーンなエネルギー供給に寄与することが期待できる。

No.65 アト秒パルスレーザーの発生と計測に関する研究(理化学研究所)(継続)
未踏の極短時間であるアト(10-18)秒領域の超短パルスレーザーを発生する技術、およびその発生・計測装置の開発を目的とする。原子・分子の内殻電子励起、自動電離、分子解離などはフェムト(10-15)秒からアト秒の極短時間に起こる超高速現象であり、アト秒パルスレーザーの実現によりそれらの直接的な観測が可能となる。その結果、超高速エレクトロニクスやナノデバイスに関わる固体材料・素子の特性および機能を解析することが可能となり、新しい材料・素材の創製にも発展する。

No.68 金属系MCMの最適化と複合環境適応性の評価(日本原子力研究所)(継続)
 発電炉や商業再処理の高度化では、被覆管や硝酸機器等の放射線場・沸騰伝熱面で使用する圧力壁材の耐久性改善が長年の課題となっている。本研究では、その原因となる異常腐食が、低温プラズマ励起反応により生成する酸素原子等によるものであることを基礎的に解明した。また、新防食原理に基づいて耐食合金を開発し、実環境条件の模擬試験により有効性を確認した。開発技術は、電力の超高燃焼度被覆管や六ヶ所再処理施設の補修技術に反映されることとなった。

<知的基盤技術分野>
No.73 先端領域放射線標準の確立とその高度化に関する研究(産業技術総合研究所)(継続)
物の重さや長さに世界共通の標準があるように、光や放射線についても特性を明らかにするための共通の標準が必要である。その標準は放射線の種類により異なるが、放射光によるエネルギーの低い軟X線やエネルギーの高い硬X線など今まで標準の確立していない種類、エネルギー範囲の放射線の利用が注目されるにつれ、早急な標準の確立が求められている。本研究では、放射光軟X線領域の光子フルエンス(絶対強度)や硬X線照射線量等の計測技術を高度化して標準を設定する。原子炉材料の照射損傷量や放射能量の正確な評価には欠かせない高速中性子の標準についても設定する。また、それらの国際比較を行う。さらに巨大磁気共鳴現象を用いた放射線検出器の開発を行う。これらにより、軟X線利用の開発研究の促進や核融合炉材料など原子力関連材料の開発の定量化等が期待される。

No.77 マルチスケールモデリングによる物質・材料挙動の研究(日本原子力研究所)(継続)
原子炉の高経年化に関する材料、熱流動の基本的問題に対して、計算科学的手法による物質・材料の観察、解析手法の確立を目指す。材料では、照射による材料の硬化、粒界の割れ等の原因を探るため電子、原子レベルの手法を用いて、実験では観察困難な欠陥の運動をシミュレーションする。熱流動では、き裂や構造物周囲の気液等の混相流れ環境を高精度で予測するため、実験に依存しないミクロな解析手法の確立を目指す。

No.80 高密度マルチスケール計算技術の研究(産業技術総合研究所)(継続)
原子炉の高経年化(中性子脆化や残留応力による材料劣化)問題を科学計算的手法により機構解明する手法は、理論と実験にならぶ第3の研究手法として期待される。近年、高性能コンピュータの普及により高精度な計算を高速に実現することが可能となってきたが、この研究で対象とする材料の脆化や劣化の過程を計算科学的手法により機構解明するためには、より高速大容量な計算システムを必要とする。本研究ではPCを多数台用いて高密度に接続したクラスタコンピューティングと呼ばれる計算システムの構築技術とそれを利用した計算技術の開発を行っている。これまでに、256台規模を想定したシステムの構築と評価を行い大規模化への実証を行った。

<防災・安全基盤技術分野>
No.82 高選択性分離膜による放射性廃液処理と放射性廃棄物エミッションの低減化(産業技術総合研究所)(継続)
本研究は、長半減期核種などの保存上問題となる物質のみを放射性廃液中から選択的に分離するための実用的な材料・システムを開発することを目的としている。具体的には、キャリア輸送膜と呼ばれる極めて選択性が高くかつ希薄溶液からの目的成分の回収が可能な分離技術について研究開発を行う。本研究の成果は、放射性廃液の大幅な減容と安全性の向上に大きく貢献するのみならず、様々な工業分野においても画期的な精密分離プロセスとして利用されると期待される。