(参考2)

各分野における研究評価の実施状況について

1.生体・環境影響基盤技術分野

1)課題評価に際して重点を置いた点
 生体・環境影響基盤技術分野では、8件の単独課題を継続実施し、11件の新規単独課題を開始すること、複数の研究機関が協力するクロスオーバー研究については、2つの研究分野で、12件の課題を継続することが適当と判断した。審査にあたっては、原子力試験研究の生物・環境分野に合致するかどうか、計画は十分に練れているか、あるいは計画通り進んでいるか、新規性、緊急性があるか等によって判断した。この分野は複数の研究分野を含んでいる。

(1) 放射線照射による研究。放射線照射による有用作物、あるいは有用昆虫などの作出に関わる新規技術開発を行う。この研究では効率の良い変異体の作出法、および、その選択法が試される。また、開発が緊急に求められている技術として、穀物などの害虫駆除に、オゾン層破壊のため近く使用できなくなる化学薬品にかわり、放射線、イオンビーム照射を使用する技術の開発を行う。一方、放射線照射により、内分泌錯乱作用や、ウイルス再活性化、発癌等が引き起こされるが、これらの機構を明らかにするための新規の研究を行う。これらの危険性を排除する為の方策を講じる上で必要だと考えられる。

(2) 放射性同位元素を用いる研究。放射性同位元素の医学的利用を目指したマイクロSPECTによる体内放射線薬物分布などの定量計測や生理機能の定量化、また、PETのための標識薬剤の新たな合成法は単なる放射性同位元素の実験ではなく、新たな技術開発である。また、RI標識DNAを用いての昆虫の種、系統、進化への網羅的アプローチは、昆虫における研究の基礎データーを与えるものとして評価される。

(3) DNA損傷と修復に関する研究。放射線による損傷がどのように細胞により認識されるか、細胞はそれにどのように反応しているか、また、どのような蛋白質がDNAの傷を見つけて修復しているか、その結果、遺伝情報は正しく維持されているかなどに関しての研究は、新規を含め複数の課題にわたっているが、これまでに多くの遺伝子の発見につながっている。また、修復蛋白質とDNAとの結合を可視化するという技術は、新規の試みで多くの情報が期待できる。

(4) 放射性核種の環境中での移行に関わる研究。土壌中での核種の移行、大気中での核種の拡散、植物内での核種の移行などに関わる研究を行う。これらのデーターは動的なモデルの作成には必須である。

2)AまたはB評価とした課題を実施することのメリット

 基礎研究分野はもちろん、農業、医学等における有益な技術の開発につながり、社会的な要請の強い課題では、具体的な解決策や解決に向かう方向性を提示する。また、核種の移行についての研究は、地表面、空中における各種の元素の動向を知る上で有効なデーターを提示する。


2.物質・材料基盤技術分野

1)課題評価に際して重点を置いた点
 物質・材料基盤技術分野では、6件の単独課題を継続実施し4件の新規単独課題を開始すること、複数の研究機関が協力するクロスオーバー研究については4つの研究分野で13件の課題を継続実施することが適当と判断した。審査にあたってはそれぞれの計画の詳細とともに、原子力の安全に寄与する新材料・新技術の開発研究として、あるいは放射線を高度に利用して物質の分析計測を行う基盤研究として、原子力試験研究にふさわしいかを判断した。

 原子力用新材料・新技術開発に関しては、放射線や腐食に強い材料の開発を金属やセラミックスのミクロ構造を複合的に制御して行う技術、材料を同位体レベルで高純度にし自然界を上まわる性能にする技術、強い磁場を用いる核融合炉用超伝導コイルの材料技術、再処理工程で放射性の有用金属を分離できる技術、高品位の水素と同位体を製造するための基礎技術、などの研究を行う。

 物質・材料等の分析・計測技術開発に関しては、ミクロの世界における非常に短い時間スケールで材料を調べるアト秒計測の基礎技術、微量の放射性物質を医学・環境診断に用いるマルチトレーサー技術、陽電子を制御して材料をナノスケールで調べる技術、特殊な中性子線や強いX線・イオンビームを用いる分析技術、などの研究を行う。

2)AまたはB評価とした課題を実施することのメリット
 放射線や腐食により強い材料を開発しまた再処理での放射性物質の回収を効率的にするなどにより、原子力プラントの寿命と安全性を向上することが可能となり、また放射線を制御して物質材料の狙った場所をナノスケールで分析する技術を開発することにより、材料評価、環境診断、医療応用などの新しい分野を開拓することが可能となる。


3.知的基盤技術分野

1)課題評価に際して重点を置いた点
 研究それ自身として国際的国内的に優れているのみならず、原子力研究として意味のある成果を出す可能性があるか(新規の場合)、または出しつつあるか(継続の場合)。とくに、この分野では、計算科学技術や知能システムを、原子力プラントの管理や安全性や長寿命化のためにどのように応用しようとしているのかを重点的に評価した。

2)中間評価課題の実施状況
 いずれも順調に進捗していると判断される。中には、成果の公表が必ずしも十分でないもの、目標の設定の具体性が不十分なもの、少数例の応用の検証に留まっているものなどがあり、後半の研究でカバーすることを期待する。また、クロスオーバー研究においては、単なる研究情報の交流に留まらず、問題の設定や結果の分析評価における共同作業をも推進するよう助言した。


4.防災・安全基盤技術分野

1)課題評価に際して重点をおいた点
 防災・安全基盤技術分野では、5件の新規課題と2件の継続課題について書類審査および実施担当者からのヒヤリングを実施し、4件の新規課題を開始すること、1件の継続課題を継続実施することが適当と判断した。審査に際しては、研究の内容が原子力防災に資する耐震・防災技術あるいは放射性廃棄物の処分などバックエンド対策に資する先端技術として原子力試験研究に相応しいものであるかに主眼を置いて判断した。
 原子力防災に資する耐震・防災技術としては、現用の照射済み核燃料等運搬船の耐衝撃防護構造要件が現状にそぐわない点があることから、現在の運航実体を反映した衝突シナリオを設定して、FEMシミュレーション解析や簡易法の適用により、より現実的かつ効率的な安全性評価基準の提案を目指す研究を開始する。また、すでに実施中の地震等により誘起される同時多発火災のリスク評価手法確立の研究を継続する。
 放射性廃棄物の処分などバックエンド対策に資する先端技術では、地層環境内の物質拡散現象を微視的数値解析手法により高精度に予測する研究、高選択性分離膜を用いて低レベル廃液に含まれるプルトニウムをはじめとする超ウラン元素等の効率的な回収システムの構築を目指す研究、およびイメージングプレートとGe検出器を組み合わせた簡便かつ確実なRI廃棄物クリアランス検認技術の確立を図る研究を開始する。

2)AまたはB評価の課題を実施するメリット
 照射済み核燃料等運搬船の耐衝撃安全性の評価や地震誘起による同時多発火災リスク評価の技術は、原子力防災の向上に直接反映されるものである。また、高選択性分離膜を用いた効率的な回収システム技術、イメージングプレートとGe検出器を組み合わせたRI廃棄物クリアランス検認技術などは、Pu等の除染、回収、環境放射能測定など、原子力分野での幅広い応用のほか、医療分野などへの波及効果が期待される。