米国原子力政策に関する調査の結果について

平成13年7月17日
文 部 科 学 省
原 子 力 課


1.目 的:

 ブッシュ政権により5月17日に発表された国家エネルギー政策(National Energy Policy: NEP)等を踏まえ、米国の原子力政策の動向を調査するとともに、今後の日米協力について調査する。

2.期 間: 6月25日(月)~6月29日(金)

3.出張者:

文部科学省 和田開発企画課長(前原子力課長)
岩崎核融合開発室核融合専門官(下記(3))
関根原子力課課長補佐(下記(1)(2))
小林核燃料サイクル研究開発課調査員(下記(1)(2))
核燃料サイクル開発機構 若林国際・核物質管理部長(下記(1)(2))
日本原子力研究所 岸本理事(下記(3))
狐崎那珂研究所炉心プラズマ研究部長(下記(3))
岩村将来型炉研究グループリーダー(下記(1)(2)) 他
その他、下記(1)においては、常磐井電中研研究参事が同行

4.訪問先:

(1)研究施設訪問

 ○アルゴンヌウェスト国立研究所(ANL-W) (於アイダホ州)

-NEPにおいて言及された乾式再処理技術(パイロプロセス)の研究開発を行っており、米国における核燃料サイクルに関する研究開発の動向を中心に調査。

(2)原子力政策関係者との会合(於ワシントンDC)

 ○米国原子力協会(NEI)モディーン氏

-NEIは米国の原子力発電事業者等約400の会員数を有する団体で、主に 産業界から見た米国の原子力を巡る状況等について調査。
 ○元DOEベンゲルスドルフ氏(コンサルタント)
 -米国の原子力政策全般について調査
 ○DOE原子力科学技術局マーカス次長
 -行政府におけるNEPを踏まえた原子力政策の検討状況等を調査。また、 今後の日米協力について意見交換。
 ○コリーン・ディーガン氏(マコースキー上院議員の政策スタッフ)
 -原子力を含むエネルギーの包括法であるマコースキー法案の審議状況、民 主党が主導権をとった上院における原子力を巡る状況等について調査。
 ○ペーター・ライオンズ氏(ドメニチ上院議員の政策スタッフ)
 -原子力推進派であるドメニチ上院議員の提出したドメニチ法案の審議状況、 上院における原子力を巡る状況等について調査。

(3)核融合関係者の会合(於ワシントンDC)

 ○ジョージ氏(ロフグレン議員スタッフ(ITER担当))

-ITER計画の進捗状況及び日本国内の現状について説明するとともに、核融合に関する米国議会の動向等について調査。
 ○DOEデッカー科学局局長代行他
-ITER計画の進捗状況及び日本国内の現状について説明し、日米間の核融合研究協力やITER計画への米国の早期復帰に関して意見交換。

5.調査結果概要(詳細は別添参照):

(1)研究施設訪問(ANL-W)

  • ANLより、FCF(Fuel Conditioning Facility)では、EBR-Ⅱの使用済み金属燃料が処理されていること(2001年度は約600kgを処理予定)、将来はPu回収もできると期待している旨紹介があった。
  • ANLは DOEへ下記の計画を提案中との紹介があった。
    ①FFTFを用いた先進核燃料サイクルデモンストレーションプログラム
    FFTFの炉心をMOX燃料から徐々に金属燃料に替えていき、金属燃料炉心に転換する。また、FFTFで照射した金属燃料をANL-WのFCFに輸送して再処理し、最終的に金属燃料リサイクルを実施する計画。
    ②AAA(Advanced Accelerator Application)計画への金属燃料利用
  • 日本側からFFTFに関しては、FR及び関連する燃料サイクルの実用化に向けて  の我が国の進め方の中で両国の協力を検討していきたいとの意向を示した。
  • 当方より、JNCのFBR実用化戦略調査研究(FS)の状況紹介、もんじゅ、常陽の協力の可能性について紹介。もんじゅの協力の可能性としては、①もんじゅ炉心の有効利用の検討(Pu, MA燃焼、FP核変換)、②FR運転保守技術高度化のための技術者の派遣(FFTFより)、③高燃焼度化のための照射データ蓄積、④プラント信頼性向上のための研究開発を示した。
     これに対しANL-W側は、原子炉、燃料、運転保守、照射等の各データの技術項目毎のデータベースの共同構築、常陽、もんじゅにおける金属燃料の照射について検討を進めたいとの意向を示した。

(2)原子力政策関係者との会合

  • NEPの原子力部分については、産業界、国会議員、DOE、DOSなど様々な組織からのインプットがあった模様。内容については評価する一方、広範かつ包括的な内容であること、上院の勢力逆転等により、今後の具体的な施策の立案の難しさを指摘する声もあった。

  • DOEにおけるNEPを踏まえた実行施策については、現在検討が始まったところ。作成には2~3ヶ月を要する見込み。今後予算を含め具体的な検討を行うとのこと。

  • NEPにおいて再処理の重要性が指摘されたことについては、①資源の有効活用、②放射性廃棄物問題の最適化の2つの側面を有しているとのこと。長期間再処理を行っていない米国が重要性を認めたことを評価する一方、経済性についての疑問(産業界)や、すぐには明確な変化は現れないのではないかとの意見もあった。議会としては、再処理(パイロプロセス)の研究計画を承認することになるとの見通しもある一方、反原子力派は再処理に強く反対しており、不透明な部分もあるとのことであった。

  • 米国議会における原子力関連法案の審議状況については、上院エネルギー・天然資源委員会の委員長がビンガマン議員に交代し、エネルギー法案を包括的なものではなく短期的で小さな法案にしたいと考えており、見通しは不透明。

  • 来年度予算については(注:4月に発表された予算教書では、平和利用の原子力予算は大幅な減額要求であった。)、現在下院の審議を終了し、上院に送付されるところ。上院では、原子力推進派の議員による予算増額の動きが期待されるものの、上院の歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会の委員長であるリード議員(民主党)は予算増に対し厳しい姿勢をとっており、見通しは不透明。また、リード議員はユッカマウンテンでの計画に反対しており、今後の同計画の推進に大きな影響が予想されるとのこと。

  • 一般民衆の原子力に対する評価は少しずつ好転しつつある。また、政府においても許認可の更新を推奨するなど変化の兆しがある。民間においても既存発電所の寿命延長や、新型炉開発(例:エクセロン社によるガス炉開発)に興味を持っている。原子力を巡る状況はゆっくりではあるが好転しつつある。

(3)核融合関係者との会合

 ○ジョージ氏(ロフグレン議員スタッフ(ITER担当))

  • 下院で提出された「2001年核融合エネルギー法案」については、核融合予算の増額とDOEによる核燃焼プラズマ研究計画づくりを義務づけている。
  • 上院においても下院提出のものとほぼ同じ内容の(核融合エネルギー開発を促進する)法案が提出された。

  • 下院では民主党議員は再生可能エネルギー、科学研究(核融合を含む)に関   心を持っており、共和党議員は石油等化石エネルギーの導入に関心を持って   いる。大統領は石油に最も関心がある。上院は民主党のコントロール下にあ   る。
  • 政府部内でITER計画復帰の決定がなされるためには、トップダウン方式が重要であり、大統領の決定事項であろう
  • 米国の早期復帰を望んでいる旨伝えたところ、関係者に伝えるとの回答。

 ○エネルギー省

  • デッカー科学局長代行、ジョンソン科学局副局長、デービス核融合エネルギー科学部長等米国関係者は、米国がITERから脱退したのは、DOEとして不本意であった。当時の理由は2点で、①ITERに対して技術的な懸念があること。②いつ建設の決定が行われるのか不透明な状況にあることであった。
  • 今回の工学設計活動(EDA)等を通じてITERの技術的問題について解決され、建設時期についても目処がついたものと考える。しかし、国家エネルギー政策(NEP)に核融合開発関連部分が強調されるか否かは不透明な状況。
  • そのような状況から、ITERに復帰するか否かは大統領、副大統領の決断が重要。DOE長官等に直接ITER復帰の要請が行われるなら、米国復帰決定を早めるためには望ましいし、大統領に対してもITER参加国からの直接要請があれば、政府部内の検討を進めるのにはよいきっかけになる。

6.所 感:

 NEPを踏まえた原子力の今後の取組については、議会、行政府ともに現在検討中であり、2~3ヶ月を要するものと思われる。今後の動向を注視する必要がある。

 核燃料サイクルについても、NEPにおける再処理の重要性の指摘を踏まえ、今後具体的な取組が検討されること、今月末には米国で唯一の高速炉であるFFTFの存続について判断がなされるなど、今後の動向を注視する必要がある。
 特に、ANLがDOEに提案している、FFTFの炉心燃料を金属燃料に交換し、ANL-Wの施設を用いてリサイクルする計画(先進核燃料サイクルデモンストレーションプログラム)については、核燃料サイクルの確立を目指す我が国としても支持しうるものであり、必要に応じて働きかけを行うことも重要と考えられる。

 核融合について、今次調査においても米国のITER計画への復帰を要請したが、引き続き高いレベルで働きかけを継続していくことが必要。



(別 添)

1.研究施設訪問(アルゴンヌウェスト国立研究所(ANL-W))

 6月25日、アイダホ州にあるANL-Wを訪問し、施設の視察を行うとともに、再処理技術に係る研究開発、今後の日米協力等について意見交換を行った。興味深い点は以下のとおり。(当方出席者 和田原子力課長、関根同課課長補佐、小林調査員(以上文科省)、若林JNC国際・核物質管理部長、岩村原研将来型炉研究グループリーダー、常磐井電中研研究参事)

○ANLより、FCF(Fuel Conditioning Facility)では、EBR-Ⅱの使用済み金属燃料が処理されていること(2001年度は約600kgを処理予定)、現在はPu回収を行っていないが、将来はPu回収試験ができると期待している旨紹介があった。
 
○TREAT(Transient REActor Test facility)の概要、現状、今後の計画の紹介があった。

  • TREATは過渡試験用としてユニークで多くの可能性を持つ装置。(中性子スペクトルを熱中性子から高速中性子まで変えることが可能、多種類の燃料の実験が可能、ナトリウムループの設置、計測装置類の充実等)
  • ANLとDOEはTREATの再スタートを準備中。原子炉の再スタートにはDOEの運転準備レビュー(ORR)に基づく承認が必要であるが、2003年US会計年度の間にORRを完了することができる予定。
  • プログラムのニーズが重要である。この点、JNCとANLの新型燃料の安全性に関する共同研究の提案は重要。

○EBR-II(金属燃料、ナトリウム冷却高速炉)閉鎖及び廃炉プロジェクトの概要につい て紹介があった。

  • 1994年に閉鎖されたEBR-Ⅱについては、2000年9月に一次系ナトリウムのドレインを開始し、2001年1月に完了した。炉容器は健全で、全く腐食等のないことが確認された。炉容器の底には、1cm程度のナトリウムが残っている。現在40℃以下に保たれている。一次系、2次系のドレインナトリウム総量は653トンであった。重量の70%はNaOHである。国際協力については、ナトリウム処理技術の情報交換をANLとカザフスタン、フランスで行っており、JNCとの協力も今後検討していく。

○原子力研究協力の可能性について討議を行った。

  • 先方より、ANLは DOEへ下記の計画を提案中との紹介があった。
    ①FFTFを用いた先進核燃料サイクルデモンストレーションプログラム
    FFTFの炉心をMOX燃料から徐々に金属燃料に替えていき、金属燃料炉心に転換する。また、FFTFで照射した金属燃料をANL-WのFCFに輸送して再処理し、最終的に金属燃料リサイクルを実施する計画。さらに、MA燃焼も行う計画がある。
    ②AAA(Advanced Accelerator Application)計画への金属燃料利用
  • 当方より、JNCのFBR実用化戦略調査研究(FS)の状況紹介、もんじゅ、常陽の協力の可能性について紹介した。もんじゅの協力の可能性としては、①もんじゅ炉心の有効利用の検討(Pu, MA燃焼、FP核変換等)、②FR運転保守技術高度化のための技術者の派遣(FFTFより)、③高燃焼度化のための照射データ蓄積、④プラント信頼性向上のための研究開発を示した。
  • 国際協力については、ANLより以下の考えが示された。
    ①FR技術の伝承については全世界的な国際的協力(枠組み)で行うのが良い。
    ②技術の項目(例、原子炉、燃料、運転保守、照射)毎にデータベースを構築するのが良い。ANLとしては、EBR-Ⅱを含めたこれまでの原子炉の設計のレヴューは是非行ないたい。
    ③廃炉技術のデータも重要で、将来は廃炉の容易さを考えた原子炉設計を行っていく必要がある。EBR-II廃炉の実証はデータベースとして貴重である。国際協力のテーマにもなる。
    ④もんじゅ、常陽はFR開発にとって重要であり協力していきたい。FFTFの新しい燃料サイクルプログラムとの関連を考慮する必要がある。
  • 日本側からFFTFに関しては、FR及び関連する燃料サイクルの実用化に向けての我が国の進め方の中で両国の協力を検討していきたいとの意向を示した。

2.原子力政策関係者との会合

 6月27日、28日にかけて、ワシントンDCにおいて、NEI(米国原子力協会)モディーン氏、マコースキー上院議員の政策スタッフであるコリーン・ディーガン氏、ドメニチ上院議員の政策スタッフであるヒート・ライオンズ氏、DOE原子力科学技術局マーカス次長らと米国の原子力政策の動向等について意見交換を行った。(当方出席者 和田原子力課長、関根同課課長補佐、小林調査員(以上文科省)、若林JNC国際・核物質管理部長、岩村原研将来型炉研究グループリーダー、千原一等書記官、捧専門調査員(以上在米大)他)

(1)NEIモディーン氏(Director, Member Outreach, Policy, Planning & External Affairs)

 先方より、Vision 2020と称する以下のような原子力産業界のビジョンを提案している旨説明があり、その後、産業界から見た米国の原子力を巡る状況等について意見交換を行った。先方からの説明で興味深い点は以下のとおり。

 Vision 2020の概要:

  • 2020年までに原子力発電の電力供給に占める割合を、現在の20%から23%に増加。
  • このため、新規原子力発電として50,000MWを追加。さらに現行設備の効率及び性能を向上することにより、10,000MWの出力増加を達成。
  • この結果、他の再生可能エネルギーと合わせて、2020年には二酸化炭素を排出しない(non-emitting)電力生産の割合が、現在の29.3%から31.4%に増加。
  • 2020年には、原子力技術が、医療、食品安全、水管理、及び水素のようなクリーン燃料の生産にも広く使用されている。
  • 原子力産業は今後20年以上にわたり米国のエネルギーへの挑戦に貢献。

  • NEP(国家エネルギー政策)の原子力の部分については、NEIのロビー活動が直接影響を及ぼしている。NEIのVision2020はNEPに先行しており、その実現がNEPの実施に貢献するもの。産業界として原子力発電所の発注、建設を促進しており、議員の中にも原子力支持派が存在する。
  • NEIはエクセロン社のPBMR(ガス冷却ペブルベッド型モジュラー炉)導入の決定を支持している。エクセロン社は1年後に早期立地(early site)許可の申請を行い、さらに早期立地の許可がおりないうちに2002年にも運転認可の申請を行う。2005年にはNRCから許可を出してもらう予定。米国ではNRCが格納容器を不要とすることを受け入れる可能性はあるが、AP600の許認可の場合と同様に追加要求をしてくるかもしれない。従って建設コストに不確実性がある。
  • 原子力についての世論調査では、原子力を認める一般国民が増えている(2000年58%, 2001年64%)。また、原子力は地球温暖化問題の対策に貢献することも十分認識している。一般国民は決して反原子力ではない。
  • ユッカマウンテンの廃棄物処理場建設については、政府及び議会はまだ未決定であり、DOEは今年中に決定する予定。NEIとしてはユッカマウンテンでの廃棄物処分問題が前進することを望む。一方では高レベル廃棄物の処分問題の解決が発電所建設の前提となると、廃棄物管理コストの面で発注ができなくなる企業もある。ユッカマウンテインの問題で原子力導入が遅れると困るので2001年末までには決定する必要がある。
  • (NEPで再処理の重要性が指摘されたが、産業界ではどう考えているか質問したところ)25年前とは事情が異なり、再処理もオプションとして考えている。NEIはプルトニウムをMOXとして利用するために再処理をすることを検討しているが、再処理から取り出したプルトニウムに経済性があるかどうかは明確でない。また過去20年間の経験から天然ウランが不足するとは考えていない。NEIとしては、再処理政策の再検討がユッカマウンテンの問題に遅れを生じさせることも懸念している。
  • (NEPで示されている、稼働率の92%までの向上、運転期間の20年延長、サイト内での2~3基増設の可能性について質問したところ)運転サイクルを18ヶ月とすると稼働率は92%が上限である。既に上位3/4の原子力発電所では稼働率は90%を超えている。運転期間については20年の延長は可能である。例えばWH社の450MWeプラントでも2ヶ月前に運転期間の延長を決定している。ほとんどの発電所で運転期間の更新を申請する見込み。例外はミネソタ州で、廃棄物の問題が解決しないと更新できないことになっている。もともとサイト内には2~4基の原子炉を設置することを考えていたが、その多くは建設がキャンセルされた。その理由は、1970年代には電力需要が毎年7%増加すると想定していたが、実際はそうはならず1~2基程度の建設で終わっている。既存のサイトには送電線のアクセスも完備している。地元の住民は増設に賛成しているが、他の地方の人が反対している状況である。

(2)コリーン・ディーガン氏(マコースキー上院議員の政策スタッフ(原子力担当)) 

 当方より、マコースキー法案の審議状況、2002年度予算案の審議状況、ガス炉の現状、米国における原子力政策等について質問したところ、得られた情報は以下の通り。

  • 上院エネルギー・天然資源委員会の委員長であるビンガマン議員は、マコースキー法案のような大がかりで包括的なエネルギー法案にはあまり関心が無く、短期的視点の小さな法案を指向しており、マコースキー法案についての今後の動向は不透明な状態。
  • 2002年度予算案については、予算教書で大幅な減額になった平和利用の原子力関連予算を増やすべく、マコースキー議員や委員会が補正予算の要求を考えているが、上院歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会の委員長であるハリー・リード議員は予算増に対し、厳しい姿勢をとっており、我々としても懸念している。
  • NEPは実用的なものというより、政治的なもの。これまで米国は長期間にわたって再処理がなされておらず、NEPで重要性が指摘されたことは米国にとって大きな前進であると認識。今後予算の獲得などにも影響してくるだろう。
  • ANL-Wによる先進的核燃料サイクルに関する計画については詳細は承知していない。FFTFについてはまだ何も決定されていないと理解。ワシントン州のヘイスティングがエイブラハムDOE長官にFFTFの見直し要請をしたものであるが、現在どのように進んでいるのかは承知していない。マコースキー議員は、FFTFは良いものと考えており、国立の研究所レベルで追加的なR&Dをやることは良いことと認識。
  • 一般市民の原子力に対する考え方が変わってきた。カリフォルニアでの電力不足により、一般市民の中にエネルギー資源の多様性という認識がでてきており、原子力はあまり悪いものではないのではないかと考え始めている。政府においても、許認可の更新を奨励するなど変化の兆しがある。民間では、エクセロン社は新型炉開発に興味を持っており、また多くの会社が許認可の更新に興味を持っている。静かに、ゆっくりではあるが、原子力を巡る状況は前に進んでいる。
  • 現時点でガス炉を推進しているのは、エクセロン社のみ。エクセロン社を追随する企業がでてくるかは不明。議員の中にもガス炉建設に興味を持っている人がいるが、外部者的な立場であり、当事者ではない。今後の動向を期待しながら見定めているという状況。

(3)ペーター・ライオンズ氏(ドメニチ上院議員の政策スタッフ(原子力担当))

 当方より、ドメニチ法案の審議状況、ユッカマウンテンの状況、2002年度予算案の審議状況等について質問したところ、得られた情報は以下のとおり。

  • ドメニチ法案の今後の展開を予想することは大変難しい。マコースキー議員が上院のエネルギー・天然資源委員会委員長当時は、包括的な法案作成を目指しており、その過程でドメニチ法案も含まれていくはずであった。しかしながら、上院の勢力逆転により新委員長となったビンガマン議員は、包括的な法案ではなく、小さな法案にしたいという意向を持っており、今後個別法案が多数提出されるであろう。
  • ユッカマウンテンについては、強硬に反対している民主党のリード議員(現上院歳出委員会エネルギー・水資源開発小委員会委員長)は、廃棄物の問題が解決するまでは原子力の話を自分にしないでくれと言っている。また、上院の多数派院内総務であるダシュル議員は、、2週間ほど前、ネバダ州で、民主党が権限を握っている間はユッカマウンテンは進まないと述べている。
  • FY2002予算案の審議状況については、下院での審議は完了し、予算教書よりエネルギー・水資源関連全体で11億ドル増となっているが、非軍事利用の原子力関連予算は少ししか増えていない状況。
  • FFTFについてはこれまでRI製造等について議論がなされていたが、ここ2、3ヶ月の間でRI製造に加え核変換のテストベッドとしての利用について議論がなされている。ドメニチ議員は、加速器と高速炉を使った核変換に関心を有している。特に、両者のコンビネーションがベストと思っており、可能であるなら、FFTFを継続させたいと思っている。
  • パイロプロセスについては、ドメニチ法案でも取り上げているが、議会としては再処理の研究計画を承認することになるのではないか。しかし、反原子力派は再処理に強く反対しており、不透明な部分もある。
  • AAA計画について、米国は大変関心を有しているが、予算教書において来年度予算要求額が0となっており、一貫性がないのは事実。今後議会での議論、ドメニチ議員の働きかけ等により予算額は増加することになるだろう。

(4)DOE原子力科学技術局(NE局)マーカス次長

 ANL-Wの先進核燃料サイクルに関する計画の検討状況、2002年度予算の審議状況、日米の国際協力の可能性等について議論したところ、概要以下のとおり。

  • (FFTFの炉心を金属燃料に交換し、先進的な核燃料サイクルの研究開発を行おうというANL-Wの計画について、当方は大きな関心を有しており、その検討状況を質問したところ、マーカス次長は、)本件についてよく承知していない。まだ予備的検討の段階ではないか。FFTFの今後について決定がなされた後に詳細に検討することになろう。現時点では、ANL-Wの計画を十分には承知していない。FFTFについては、エネルギー長官が7月27日に方向性の決定を行う予定であり、それを受けて日本側にも連絡したい。(注:一部のNE局の出席者はANLの新しい提案を知っていた。)8月にNE局がどのように対応するか示せると思う。
  • (当方より、NEPにおいて「先進核燃料サイクルおよび原子力の次世代技術を開発するという観点から、燃料処理方法の研究・開発・実用を認めるよう、政策を再検討する」旨勧告されているが、具体的にどのように「政策を再検討」するのか質問したところ)現在、NEPにどう対応すべきか全省的に検討を行っているところ。2,3ヶ月以内に、NEPへのレスポンス、特にこの分野での対応について結果を出せるよう努力しており、同時に、ANL-Wからの提案を含めたすべてのオプションについて検討することになろう。
  • 2002年度予算の審議については、下院での方向性は決まり、今後上院での審議に移っていくところ。予算教書において原子力関連予算が減額になっている一つの理由は、予算教書の提出時点でNEPの作成が予想されており、関連の予算については大きく予算配分は行わないとの方針だったこと。原子力については、議会において関係議員より原子力関連予算増額に関する法律案が提出されるかもしれない。原子力に関する来年度予算が増額される可能性はあるが、現時点では不確定。
  • (当方より、GENⅣやI-NERIは予算減額の影響を受けるのか質問したところ)I-NERIは予算規模が比較的小さく、影響を受けていない。GENⅣは前年並みを確保。NERIは継続分しか確保されておらず、NEPを受けて増額を働きかける。I-NERIは予算規模は小さいが非常に成功しているプログラム。先般韓国とサインを行い、大きなセレモニーを行った。フランスも高いレベル(長官)でサインすることを決定した。
  • (今後の国際協力について、当方より安全審査が始まった「もんじゅ」の運転段階での技術協力を提案したのに対し、)今後、FFTFの方向性をも踏まえ、検討していきたい。また、I-NERIは自由度の高い枠組みであり、この枠組みを使って様々なプロジェクトをできないか検討していきたい。

3.核融合関係者との会合

 6月29日(金)、ロフグレン下院議員スタッフのジョージ氏及びエネルギー省デッカー科学局長代行他とITER計画の進め方等について会合を行った。(当方出席者:和田原子力課長、岩崎専門官(以上文科省)、岸本理事、狐崎那珂研究所炉心プラズマ研究部長、衛藤ワシントン事務所長、小川那珂研究所所長付(以上日本原子力研究所)、森本参事官(在米大)


(1)ジョージ氏(ロフグレン議員スタッフ(ITER担当))

 当方よりITER計画の進捗状況と日本国内の現状について説明し、米国内のITER計画についての動向を質問したところ、得られた主な情報は以下の通り。

  • 下院で今年提出された「2001年核融合エネルギー法案」については、核融合予算の増額とDOEによる核燃焼プラズマ研究の計画づくりを義務づけている。また昨日上院においてもファインスタイン議員(カリフォルニア州選出)、グレッグ議員(アイダホ州選出)が中心となり、下院提出のものとほぼ同じ内容の(核融合エネルギー開発を推進する)法案が提出された。これらの法案が成立すれば、核融合研究を推進する体制が整い、ITER計画への復帰が議論されることとなるが、成立には少し時間がかかるものと考えている。
  • 現在、下院では民主党議員は再生可能エネルギー、科学研究(核融合を含む)に関心を持っており、共和党議員は石油、天然ガス等の化石エネルギーの導入、開発に関心を持っている。大統領も石油に最も関心がある。上院は民主党のコントロール下にある。
  • 政府部内でITER計画復帰の決定がなされるためにはトップダウン方式が重要であり、大統領の決断事項であろう。
  • 2002年の予算については、昨日下院を通過したが、核融合研究予算は前年と変わらず失望している。今後上記の両法案が通れば、核融合予算に好ましい影響を与えることを期待している。
これを受け当方よりITER計画の今後の予定を説明するとともに、米国の早期復帰を望んでいる旨伝えたところ、本日の情報を関係者に伝えるとの回答があった。

(2)エネルギー省

 デッカー科学局長代行、ジョンソン科学局副局長、デービス核融合エネルギー科学部長他に対して、当方よりITER計画の進捗状況及び日本国内の現状について説明し、議論を行ったが、先方の主要意見は以下の通り。

  • 米国がITERから脱退したのは、DOEとしては不本意であったが、当時議会側から示された主な理由としては、
    ①ITERに対して技術的な懸念があること
    ②いつ建設の決定が行われるのか極めて不透明な状況にあること
    であった。今回の工学設計活動(EDA)等を通じて、ITERの技術的問題については解決され、建設時期についても目途がついたものと考えている。
  • 国家エネルギー政策(NEP)については、今後DOE部内において実行計画が1-2か月かけて作成されることとなるが、核融合開発関連部分が強調されるか否かは不透明な状況である。エネルギー開発上、短期的に必要な技術と長期的に必要な技術に分類されることとなろうが、短期的に必要な技術に力点が置かれる可能性が強いのではないか。
  • ITERの公式政府間会合がまもなくスタートする見通しであるなら、それまでに米国としてはITER計画に復帰するか否かを判断する必要があると思うが、それには大統領、副大統領の決断が必要となる。また議会による判断も必要となるが、まず大統領の方針が決定されることが必要である。
  • DOE長官に直接ITER復帰の要請が行われるなら、決定を早めるためには望ましいことと考えており、大統領に対してもITER参加国から直接要請があるなら、政府部内の検討を進めるためにはよいきっかけになると考えている。
  • 米国としてはトカマク方式核融合研究は現在2つある装置を使って進めていくつもりであり、日本との研究協力も積極的に進めていきたい。
これを受けて当方より、日米間の核融合研究協力を促進させていく意志を伝えるとともに、特にITER計画への米国の早期復帰を強く要請した。