アジア太平洋地域における核不拡散強化のための国際会議
〜追加議定書普遍化に向けて〜
概要と評価

平成13年7月10日
科 学 原 子 力 課

1.会議の概要
(1)会議概要
 6月27日から28日にかけ、アジア太平洋地域15カ国の軍縮・核不拡散担当部署の高官を招き、我が国と国際原子力機関(IAEA)の共催により、東京(於:ホテルオークラ)で開催。27日午前中は公開セッションとして、下記(2)の各種講演等が行われ、その後、28日終日にかけて非公開の場での参加国全体による意見交換及びIAEAと各国の間での二者間協議が行われた。
 また、27日夜には、小島敏男外務大臣政務官主催のレセプションが行われるとともに、29日には、参加国より希望者を募り、東海村原子力施設の視察を行った。

(2)各種講演等
(イ)主催者・共催者による冒頭挨拶
 会議冒頭、小島政務官が、我が国政府を代表し、核不拡散に対する我が国の強いコミットメントに言及しつつ、IAEA保障措置の強化を通じ核不拡散の法的枠組みであるNPT(核不拡散条約)体制を維持・強化することが地域の信頼醸成を促進するとの考えを述べた。また、引き続き、共催者であるIAEAを代表して、ジグムント・ドマラツキー原子力安全担当事務次長より挨拶があり、追加議定書の意義に関する説明が行われた。
(ロ)基調講演・招待講演
 まず、明石康予防外交センター会長(元国連事務次長)より基調講演が行われ、冷戦終結が地域紛争の激化につながる危険性及び核資材の不法移転によるテロ拡大の可能性が指摘され、そのような状況下でもNPT体制が有効との認識が示された。また、核による地域の不安定化に対抗するためにはIAEA保障措置の強化に国連が一定の役割を果たすべきとの考えが示され、IAEA保障措置を通じた原子力活動に関する一層の透明性の確保と核軍縮への取り組みの重要性が指摘された。また、続いて、ローレンス・シャインマン米国モントレー研究所教授が招待講演を行い、安全保障の体系の変容、並びに国家主権及びIAEA保障措置の関係、更にはその歴史的経緯からに学ぶ追加議定書の意義に関する認識が示された。
(ハ)パネル・ディスカッション
 小島政務官、明石会長、シャインマン教授、浅田正彦京都大学法学部教授及びオーリー・ハイノネンIAEA保障措置実施A部長によりパネル・ディスカッションが行われた(モデレーターは阿部信泰在ウィーン国際機関日本政府代表部大使。)。浅田教授より、NPTは各国に負担を求めるものであり、また片務的な条約であるにもかかわらず、最も多くの国が締結している軍縮関連条約の一つであり、これが核拡散を最小限に止めてきた事実に鑑み、追加議定書についてもその正当性に対する支持が締結への国際的な圧力となろうと指摘するとともに、軍縮関連条約への締結の比率が低いアジア、アフリカに対しては、国家主権との関連、経費増等の問題意識への対応が必要との認識を示した。

(3)非公開セッション
(イ)参加各国からは、我が国の指導的役割に感謝の意が示され、IAEAの下で引き続きこのような試みがなされることを支持する発言が相次いだ。また、参加国の一部からは、具体的に追加議定書を締結した際の国内法整備、追加的な査察の実態、IAEAに提供する輸出入管理情報の詳細につき関心が示される等、活発な討議がなされた。参加国の多くは、追加議定書の重要性に対する理解を示し、その締結への高い関心を示した。更に、参加国からは、アジア・太平洋地域においては、例えばARFやASEANの場を利用したIAEA非加盟国に対する追加議定書普遍化のための働きかけが有効との指摘がなされた。
(ロ)その一方で、一部の国からは、政策決定者に追加議定書の意義を認識せしめることの重要性と困難性が指摘され、そのための努力が不十分との認識が示された。
(ハ)米からは、新政権の下、署名済みの追加議定書の早期発効に向け努力している旨の説明がなされ、参加国からは、核兵器国の追加議定書締結は追加議定書未締結国に対する良いメッセージになるとして、米の早期締結への期待が示された。

2.主たる成果
(1)今回の国際会議における講演や討議を通じて、アジア・太平洋地域にとって核拡散の防止が地域の安定にとり重要であり、そのためにIAEA保障措置の強化(追加議定書)が必要との認識の共有を図ることができた。
(2)今回の国際会議が、多くの国や地域にとってIAEA保障措置強化のための追加議定書締結の重要性(普遍化)を認識せしめる有効な機会となったとの点で参加国の意見が一致し、同様の会合が他の地域でも開催されることが望ましいとの考え方を広めることができた。
(3)なお、今回の国際会議は、追加議定書の締結を強制するものではなく、追加議定書未締約国が抱える困難を解決するために締約国がその経験を通じ助言するというユニークな試みであったが、このような試みは参加者の多くから支持を得た。

3.今後の対応
 本件会合に参加した多くの国から、このような会合への支持が示されたことにも鑑み、また既にIAEAが中南米やアフリカ地域で同様の会合の開催を検討していることもあり、核不拡散強化を国是とする我が国としては引き続きこれらの活動を支援していく考え。近い将来、それらの成果を踏まえ、我が国が主導して全地球規模の会合を開催することも検討したいとの立場。

(了)