アジア・太平洋地域における核不拡散強化のための国際会議

平成13年6月8日
外務省科学原子力課

1.本会議の位置づけ
  • 昨年開催されたNPT運用検討会議では、核不拡散・核軍縮を中心課題とした安全保障のあり方について議論が行われ、国際原子力機関(IAEA)が実施する保障措置の重要性が改めて指摘され、更に「追加議定書」の早期普遍化の必要性が指摘された。
  • わが国は、地域的にもグローバルにも核不拡散体制を確固たるものとする上で、国際原子力機関が実施する保障措置の強化が重要であると考える。特に多数の原子力施設を有する我が国が国際的に疑惑をもたれない為にも、IAEAの保障措置活動を一貫して支持してきている。その当面の具体的目標として、イラク及び北朝鮮の核開発疑惑等を契機として策定された「追加議定書」(未申告施設の核開発活動を検知する能力を高めるため、従来よりも強化された保障措置の実施が可能となるもの)の締結促進を重視しており、昨年9月のIAEA総会で行動計画を提案し、多数の加盟国の支持を得て決議として採択された。
  • わが国は、世界多数の国の締結促進を行動計画の目標として、アジア・太平洋地域における「追加議定書」締結促進に率先してイニシアチブを発揮することとした。今回の会議は、このような観点から、地域の関係各国からハイレベルの政策担当者を招き、さらにIAEA事務局幹部の参加も得て、IAEAと共催で国際会議を開催するものである。

2.「追加議定書」とは

  • 国際原子力機関(IAEA)の「追加議定書」とは、核不拡散条約(NPT)の締約国が、同条約により締結の義務を課されているIAEAとの二者間の協定(保障措置協定)に追加するものとして、IAEAとの間で締結する二者間の国際約束である(したがって、「追加議定書」は、IAEAとの間で同議定書の締結を行った国にのみ効力を有する)。
  • 「追加議定書」は、93年、イラクや北朝鮮の核疑惑に対し、従来のIAEAの保障措置が十分に機能しなかったことの反省に基づき、一層の保障措置の強化を図った議定書が、2年間の議論の後に97年にIAEAで採択された。これまでに、55カ国がIAEAとの「追加議定書」に署名、うち19カ国(日本を含む)で発効している。
  • モデル議定書に沿った「追加議定書」を締結した場合、その国において、IAEAは従来の保障措置協定よりも広範な保障措置を行う権限を与えられる。具体的には、未申告の施設や活動による核物質の兵器転用を検知するため、直前の通告による追加的な査察(いわゆる「抜き打ち」査察)、原子力活動確認のためのサンプリングといった、これまでの保障措置協定では認められていない活動を行うことができる。
  • 核兵器国については、いずれの核兵器国の場合においても署名はしているが未発効である。

*保障措置の意義
 保障措置とは、核不拡散に関する国際約束(不拡散条約)の履行として、平和利用を目的とした核物質が、核兵器など平和目的以外に使われていないことを確認することであり、IAEAが、原子力事業者の計量管理とその検査・確認を行うことをいう。具体的には、国がIAEAに行う計量管理報告、核物質の違法な持ち出しを防止するため、IAEAが行う封印の取付けや監視装置(カメラ等)の設置、IAEAによる立ち入り調査等の査察(核物質の測定、資料採取、分析等)の実施。

注)従来の保障措置と追加議定書との比較

  1. 従来の保障措置(申告された施設にある核物質の管理)
    • あらかじめIAEAと合意した核物質を取り扱う施設のみIAEAの査察が可能。
    • それ以外に疑いのある施設が生じたとしても、当該国の合意が無ければ、IA  EAの査察は不可。
    • IAEA査察は、あらかじめ合意された日程で実施。

  2. 追加議定書により強化された保障措置
    • 核物質を取り扱わない原子力活動や施設に関する情報提供の義務化。
    • あらかじめ合意した区域に対し、短時間の通告による査察が可能。
    • あらゆる場所での分析用サンプリングが可能。

3.本会議の目的

  • 国際社会において現在求められている核不拡散体制の強化のためには、より多くの国が「追加議定書」を早期に締結することが重要である。しかしながら、「追加議定書」が発効しているのは、日本を含めて19カ国のみであるというのが現状である。本会議は、そうした現状を打開するため、既に「追加議定書」を率先して締結し、右に基づくIAEAの査察を経験している日本がイニシアチブをとり、アジア・太平洋地域での環境構築を図ることを目的とする。
  • 既に「追加議定書」を締結した国々の政策担当者が、その決定に至る経緯や論点を披露し、未締結国の今後の対応に参考材料を提供するとともに、地域の国々が積極的に締結するための環境を如何に整備していくかについて知恵を出し合い、認識の共有を図る。9月に予定されるIAEA総会に向け、アジア・太平洋地域での取り組みで実績を上げ、他の地域での取り組みを活性化させる。
  • この考え方は、昨年9月のIAEA総会において、日本が初めて提案したものであり、「追加議定書」の締結促進を、ノウハウの移転による締結のための環境整備という面からアプローチするというものであり、日本独自のユニークなアイデアとして、IAEAを始めとする国際社会からも注目されている。
  • 日本政府としては、本年IAEA総会で本会議が評価され、これを参考として他の地域でも同様の会議が開催されることにより、全世界的規模で締結を促進させる機運が生じることを期待し、必要な支援を行っていく考え。

4.これまでの流れ

1991年(平成3年)
1月湾岸戦争勃発(2月に武力行使停止)
→同年のIAEA現地査察の結果、核兵器開発疑惑が顕在化
 
1993年(平成5年)
3月北朝鮮、IAEAによる特別査察要求を受け、NPT脱退を通報
(但し6月には脱退を留保する旨通報)
 
12月IAEAは、保障措置制度強化に向けた検討を2年に亘り実施するとの「93+2計画」に着手
 
1997年(平成9年)
5月IAEA理事会にて、モデル追加議定書採択
 
1998年(平成10年)
12月日本、追加議定書に署名(1999年12月に批准発効)
 
2000年(平成12年)
5月NPT運用検討会議
→最終文書において、IAEA事務局長に対し、「追加議定書」締結促進のための方策を考慮すべきと勧告
 
9月IAEA総会にて、日本が本国際会議の開催を含む行動計画を決
議案として提出し、採択された。

5.会議の概要

・日 時:6月27日(水)〜28日(木)
・場 所:ホテル・オークラ 「オーチャード・ルーム」
・主 催:日本政府、国際原子力機関(IAEA)の共催
・招待国:日、米、豪、ニュージーランド、カナダ、中国、韓国、ベトナム、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、シンガポール、モンゴル、ミャンマー、カンボジアの16カ国及びIAEA
注)IAEAの地域区分に基づき、アジア・太平洋諸国を招聘。他の地域区分として
北アメリカ、ラテン・アメリカ、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、アフリカ、中東及び南アジアがある。

6.主要なゲストスピーカー
○明石康日本予防外交センター会長
 86年から91年、国連軍縮担当事務次長としてイラクの核疑惑を経験。92年から国連カンボジア暫定機構(UNTAC)事務総長特別代表、94年から旧ユーゴスラビア問題担当国連事務総長特別代表を歴任するなど、国際政治に大きく貢献。
○ジグムント・ドマラツキーIAEA原子力安全局担当事務次長
 カナダ出身。カナダ原子力公社、カナダ原子力委員会事務局長を経て96年より現職。各種原子力関連会議参加のため、訪日経験も多い。
○ローレンス・シャインマン米モントレー国際研究所核不拡散研究所長
 米国軍備管理軍縮庁(ACDA)次官補、IAEA事務局長特別補佐官等を歴任。25年に亘り、米国で不拡散政策に深く関わってきた核不拡散政策分野の権威。

7.その他
 本国際会議では、明石会長による基調演説、シャインマン所長による招待講演、パネル・ディスカッション(明石会長、シャインマン所長、浅田京大教授、IAEA関係者)、参加者による東海村地区の原子力施設視察等も行われる予定。

(了)