ドイツの原子力コンセンサス合意書への署名について

平成13年6月19日
外務省科学原子力課

 報道によれば、6月11日、独連邦政府と電力会社首脳は、昨年6月の原子力コンセンサス合意書への最終署名を行った。とりあえず、以下の通り、合意の主な内容、これまでの経緯、今後注目すべき点につき取りまとめた。

1.コンセンサス合意の主な内容
(1)残存発電量
 運転中の原子炉は、各原子炉の総運転期間を(運転開始から)32年として算出した合計残存発電量である2,623TWhまで発電でき、その後、停止される。なお、ある原子力発電所から別の原子力発電所への残存発電量の転用が可能である(註)。

(当課註:その結果、旧型の原子力発電所を早期に廃炉し、その残存発電量を効率の良い最新型の原子力発電所に移すことが可能となるため、実際に脱原子力を達成する時期は、運転開始から32年より後となる。)

(2)使用済み燃料再処理
 使用済み燃料の再処理は2005年7月で終了する。この時点まで、英仏の再処理工場への使用済燃料輸送は認められ、その分の再処理は認められる。

(3)使用済み燃料貯蔵施設
 事業者は、できる限りすみやかに(遅くとも5年以内に)発電所サイト内、または近傍に(いわゆる分散型の)使用済燃料貯蔵施設を設置する義務を負う。再処理の終了及び分散型貯蔵施設の設置により、放射性廃棄物の輸送が最低限レベルまで削減され、各州の負担が公平になる。

(4)原子力発電所の新設
 原子力発電所の新設は行わない。

(5)バックエンド(使用済燃料の冷却・再処理、廃棄物の処理工程等)の保証
 連邦政府は、高い安全基準の維持及び原子力関連法令の遵守の下、残存運転期間における原子力発電所の妨害なき運転及びバックエンドを保証する。

2.コンセンサス合意までの経緯
(1)連立政権の樹立
 ドイツにおける1998年9月の総選挙の結果、社会民主党と90年連合・緑の党の連立政権が発足し、脱原子力政策を発表。

(2)コンセンサス協議
 連立政権は脱原子力を規定した原子力法改正法案の早期議会提出を目指していたが、電力業界等からの強い反発にあい撤回。99年1月以降、連邦政府と電力会社との間で、本件に関するコンセンサス協議が行われてきた。2000年6月14日、連邦政府(シュレーダー首相、ミュラー連邦経済大臣、トリッティン連邦環境大臣)及び電力会社代表との間で原子力発電所の運転期間を基本的に32年にすること等が合意された。

(3)その後、本年始めに放射性廃棄物の輸送が再開され、連邦環境省が近々法案化に関する案を示せるようになったことから、最終的な署名が行われたもの。

3. 今後注目すべき点

(1)本合意を具体化するためには、原子力法改正案を成立させることが必要。昨年の段階では、バイエルン州など南部の州(野党が多数派を占める州が多い。)は、州政府が任免する議員により構成される連邦参議院に同法案を諮らなければ憲法裁判所に提訴する意向を表明しており、今回の合意書への署名に対する南部諸州の反応が注目される。
(2)また、98年6月の欧州環境大臣会合においては、独は二酸化炭素排出の21%削減を表明しているが、この目標と脱原子力を以下に両立させるのかも重要なテーマ。特に、発電電力量の約3割を占める原子力の代替エネルギーについて、具体的な対応策(9月に連邦経済技術省がエネルギー報告書を公表する予定である由)をどのように打ち出していくかが注目される。

(3)また、使用済燃料については、中間貯蔵する方針が示されているが、最終処分の問題(特に、昨年6月の合意により探査が一時中止されたゴアレーベン放射性廃棄物処分場の今後の扱い)についても注目される。
(了)