原子力試験研究における研究評価の進め方について

平成13年5月15日
原 子 力 委 員 会
原子力試験研究検討会


 昭和62年6月、原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」において、我が国の原子力技術開発においては今後「基盤技術開発」を推進すべきとの考えが示された。この計画において、基盤技術は、我が国がこれまで原子力発電の早期実用化をめざして効率性を重視した研究開発を進めてきた結果、技術のブレークスルーや創造的技術の創出に必要な幅広い技術的基盤が十分に確立されていない状況にあるとの反省に基づき、今後重点的に開発を推進すべきものとして「中長期的なニーズを踏まえ、これに弾力的に対応し、かつ、新しい技術を創出し、ひいては原子力技術体系のブレークスルーを引き起こす可能性のある」技術と位置づけられている。また、この計画を踏まえ、原子力基盤技術開発の効率的推進方策として研究交流の促進、創造的人材の育成、新しい研究評価の導入等を図るため、原子力委員会は同年9月に基盤技術推進専門部会(以下「基盤部会」という。)を設置した。平成13年1月には、中央省庁等改革に伴い、基盤技術推進専門部会が廃止に至ったが、同年4月に原子力試験研究検討会(以下「検討会」という。)が設置された。
 原子力基盤技術に係る研究開発は昭和63年度から開始され、今日に至っている。また、原子力基盤技術の中で複数の研究機関のポテンシャルを結集して実施する必要があるものを原子力基盤クロスオーバー研究として平成元年度から開始した。
 これら原子力基盤技術開発に関する研究評価については、「原子力基盤技術の推進について」(昭和63年7月基盤部会)、「原子力基盤技術開発の研究評価について」(平成3年10月基盤部会)に基づき、基盤部会又は原子力基盤クロスオーバー研究推進委員会において厳正な評価を実施し、その結果を研究開発の効率的な推進、活性化等に反映させてきた。
 一方、平成9年8月に「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」が内閣総理大臣決定され、これに基づき、研究開発機関等で具体的な研究実施方法等が検討されているところである。
 以上のような経緯を踏まえ、基盤部会では「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」に沿って「原子力基盤技術開発の研究評価について」の見直しを行った。また、検討会において、「原子力基盤技術開発の研究評価について」を準用して別紙の成案をとりまとめた。今後、原子力試験研究の研究開発においては、別紙の要領に基づき研究評価を行うこととする。


[別紙]

原子力試験研究に係る研究評価実施要領


1.原子力試験研究に係る研究評価の基本的な考え方
 研究評価は、基本的には研究開発の一層効果的な推進を行うために行うものであるが、基盤技術開発における研究評価は具体的に以下の項目を目的として行う。
 ① 国際的な先導性の観点に立って、技術のブレークスルーや創造的技術の創出に繋がる優れた研究を創成し、実施する。
 ② 厳しい財政事情のもと、限られた財政資金の重点的、効率的配分を図る。
 ③ 研究者の創造性が十分発揮されるような、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境を実現する。
 ④ 国民に研究開発の実体を公開し、研究開発に対する国費の投入について、広く国民の支持と理解を得る。

 研究の推進の方向としては、原子力委員会が策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(平成12年11月原子力委員会)、「原子力基盤技術開発の新たな展開について」(平成5年4月基盤技術推進専門部会)原子力基盤クロスオーバー研究の今後の展開について」(平成10年3月基盤技術推進専門部会)等に沿って行われるべきものであり、研究評価も上記4項目の原則を維持しつつ、常に評価結果が基盤技術研究開発の推進にフィードバックされるよう努める。

2.評価の実施方法について
 (1) 評価対象
 本実施要領で対象とするのは国費で推進される研究課題のうち、原子力基盤技術に係る研究課題全てとする。これら研究課題は、それぞれの研究機関において、その研究機関の評価の考え方に沿って評価を受けることになるが、原子力試験研究検討会(以下「検討会」という。)においては基盤技術開発推進の方向性を含んだ視点で評価を実施するものとする。

  (2) ワーキンググループの設置と技術領域の区分
 原子力基盤技術は、数多くのテーマと広範な技術領域を有しているため、効率的な評価を実施するためには検討会の下に幾つかのワーキンググループを設けることが適当である。
 技術領域の区分の仕方には、現在基盤技術開発研究課題で行っている技術領域(4分野:物質・材料基盤技術、知的基盤技術、防災・安全基盤技術、生体・環境影響基盤技術)による分類、単独で実施する研究と原子力基盤クロスオーバー研究のような複数研究機関が連携・協力する研究等研究の性格による分類等、いくつかの方法が考えられる。
 基盤技術開発においては、この4技術領域のワーキンググループを設け、単独で実施する研究と原子力基盤クロスオーバー研究を併せて評価する。

 (3) 評価の時期
 研究評価は、原則として事前・事後の各時期に行うものとする。また、中間評価は、当該研究課題の研究期間・内容・性格等も考慮しつつ、必要に応じて実施する。
① 事前評価
 事前評価は、研究開発の方向性・目的・目標等の決定、着手すべき課題の決定、研究資金等の研究開発資源の配分の決定、期待される成果・波及効果の予測、研究開発計画・研究開発手法の妥当性の判断等を行うために実施する。
 事前評価については、次年度予算の概算要求を行う時期を勘案し、原則として当該研究課題を開始する前年度の4~6月に行う。

② 中間評価
 中間評価は、研究開発の進捗状況の把握、研究開発の目的・目標の見直し、研究開発の進め方の見直し(継続、変更、中止等の決定)、研究資金等の研究開発資源の再配分の決定等を行うために実施する。
 中間評価については、原則として、5年以上の期間に亘り研究を実施するものを対象とし研究開始後3年度目の4月~6月に行う。

③ 事後評価
 事後評価は、研究開発の達成度、成功・不成功の原因の把握・分析、研究計画の妥当性のレビュー、研究開発成果の波及効果の把握・普及、新たな研究課題の検討への反映等を行うために実施する。
 事後評価については、原則として該当する研究開発が終了する年度の翌年度の10月~12月に行う。

④ 定期的な研究進捗状況の把握
 各研究課題について的確な中間評価、事後評価を実施するためには、毎事業年度の研究の進捗状況等を常に把握し、必要に応じレビューを加えることが出来ることが必要である。このため、被評価者は事業年度毎の事業報告書を作成する等、評価者が評価しやすいようにすることが重要である。

 (4) 評価の判断材料
 評価の判断材料としては、原則として研究計画、研究成果等を記載した書類と被評価者からのヒアリングの両方を用いる。また、この書類については、均一性を保つためにも統一された様式で行う。なお、この様式については、別添様式を参考に各ワーキンググループが当該領域の性格等を考慮して定める。
 また、評価は、1.の基本的な考え方に沿って行うとともに、原子力基盤技術の技術領域の選定の考え方を参考にして行う。

(参考)

<物質・材料基盤技術分野>
 原子炉等の安全に寄与する新材料の開発や物質・材料等の分析・計測技術の高度化を図るための基盤的技術(各種ビームの先端的利用等)の開発に関する研究
 レーザー等による環境浄化の方法なども含むが、RIや放射線の単なる利用・応用は除く。
<知的基盤技術分野>
 原子力施設の運転・保守等の安全性の向上に資する知能システム技 術及び計算科学技術の原子力分野への応用に関する研究
<防災・安全基盤技術分野>
 原子力防災に資する耐震・防災技術及び放射性廃棄物の地層処分等、バックエンド対策に資する先端的技術の開発に関する研究
<生体・環境影響基盤技術分野>
 放射線による突然変異の検出・解析、環境中の核種移行など、生体 ・環境への影響を解明するための先端的技術の開発に関する研究放射線による品種改良、食品等の保存、滅菌、新たな診断・治療法、環境モニタリングなどに関する研究も含むが、RIや放射線の単なる利用・
応用は除く。

 (5) 評価者の選任、体制、任期
 評価は、(2)で述べたように4つの技術領域に分けたワーキンググループにおいて実施することとする。各ワーキンググループは、5~10名の委員から構成し、その任期は2年間とし、再任に当たってはその必要性を十分検討するものとする。なお、検討会との連携を密に図るため、各ワーキンググループの委員(評価者)には検討会の委員を含むものとする。
 ワーキンググループの評価者の選任に当たっては、評価対象となる研究課題が含まれる技術領域及びこれに関連する分野に精通している等十分な評価能力を有し、かつ、公正な立場で評価を実施できる外部専門家(評価実施主体にも被評価主体にも属さない専門家)を評価者とすることを原則とし、必要に応じて、評価対象となる研究課題とは異なる研究開発分野の専門家、有識者を加える。

 (6) 評価手続き
 ワーキンググループでは、研究実施者(被評価者)が作成した自己評価結果、研究実施者が所属する研究機関が実施した評価結果、研究実施者からの意見聴取、毎事業年度の研究進捗状況報告書等に基づき評価を実施する。
 ワーキンググループでは委員の中から主査及び副主査を指名しておき、各研究課題毎に、各委員の評価結果を参考にして、主査(主査に事故等があった場合には副主査)が、ワーキンググループとしての評価結果をとりまとめ、検討会に報告する。
 検討会では、ワーキンググループからの報告に基づき、検討会としての評価結果をとりまとめる。

 (7) 評価結果の公開
 研究開発の実態について国民によく知ってもらい、その理解を得るとともに、評価の透明性・公正さを確保するため、機密の保持が必要な場合を除き、個人情報、知的財産権等に配慮しつつ、各ワーキンググループが検討会に報告した評価結果及び検討会が取りまとめた評価結果をインターネット等を利用して一般に公開する。

 (8) 評価結果の活用
 評価結果は研究開発資源の重点的・効率的配分、研究開発計画の見直し等に適切に反映し、研究活動の一層の活性化を図る。

 (9) 留意すべき事項
 評価に際しては、評価の客観性を保つとともに評価者と被評価者の間で十分なコミュニケーションを図ることが重要である。
 研究開発の評価を行うに際には、評価者・被評価者双方において、一連の評価業務に係る作業が必要となるが、評価は研究開発活動の効率化・活性化を図り、より優れた成果を上げていくためのものであり、評価に伴うこれらの作業負担が過重なものとなり、かえって研究開発活動に支障が生ずるようなことにならないよう、十分な注意を払う必要がある。
 また、評価結果の公開とは別に、国民の研究開発に対する理解を深めるため研究成果の積極的な公表を被評価者は進める必要がある。