米国の京都議定書不支持等をめぐる最近の動き

平成13年4月17日
環境省 地球環境局


  1. 米国の京都議定書不支持等をめぐる最近の動き
  2. 川口環境大臣談話(3月29日)
  3. 森総理からブッシュ大統領への書簡の発出について(3月30日)
  4. 政府代表団の訪米について(評価と概要)(4月6日)
  5. 気候変動に関する川口大臣ステートメント(4月9日)
  6. 第151回国会 参議院 環境委員会「米国の京都議定書への対応に関する我が国の取組についての環境大臣報告」(4月10日)


1.米国の京都議定書不支持等をめぐる最近の動き

(1)米国の温暖化対策・京都議定書をめぐる発言等

大統領選挙期間中 ブッシュ大統領(候補)は、選挙公約で京都議定書には反対である旨表明。
3月2~4日 イタリアのG8環境大臣会合において、米環境保護庁のホイットマン長官は、ブッシュ政権は気候変動問題を重視しているが、現在政策のレビュー中である旨述べた。
3月13日付け ブッシュ大統領がヘーゲル上院議員宛ての書簡で、火力発電所の二酸化炭素の排出を規制する選挙公約を撤回する旨を記述。なお、中国、インドなどの途上国が参加していない不公平なもので、米国経済に悪影響を与える「京都議定書に反対」である旨記述。
3月29日 ブッシュ大統領がプレスカンファレンスで以下の趣旨の発言。
○我々はエネルギー危機に陥り、CO2排出量の上限は定めないこととした。
○我々は、他の同盟国とも温室効果ガス削減のために協力していく。
○私はアメリカ経済に打撃を与え、アメリカの労働者を傷めつける計画を受け入れることはできない。
3月29日 米独首脳会談後、共同声明を発表。
○両首脳は、気候変動問題に関して懸念を共有。その一方で、地球温暖化の防止の最善の方法を巡って意見の相違を確認。
○米政府は、京都議定書について、多くの国を免除するとともに、米国経済に重大な害を与えるものと判断し、これに反対する。
○両首脳は、他の手段の中から①技術②経済的動機③これら以外の革新的な取組、を生み出すことが必要と判断する。

(2)我が国からの具体的な働きかけ(ヘーゲル議員宛て手紙発出以降)

3月15日 川口環境大臣からホイットマン環境保護庁長官宛てに書簡を発出。
3月29日 川口環境大臣、河野外務大臣の談話を発表。
3月30日 森総理からブッシュ大統領宛てに書簡を発出。
4月3日 谷津農林水産大臣からアンベネマン農務長官に書簡発出。
4月4日 川口環境大臣の呼びかけにより、米国を含むアンブレラグループで電話会談。
河野外務大臣がパウエル国務長官との電話会談。
平沼経済産業大臣からエイブラハムエネルギー省長官へ書簡を発出。
与党・政府代表団を米国に派遣(~6日)。
4月9日 EUトロイカが来日し、川口環境大臣、河野外務大臣等と会談。
川口環境大臣がEUトロイカとの会談を受けてステートメントを発出
4月19日 川口環境大臣が非公式閣僚会合(ニューヨーク、20~21日)に参加するとともに、米国関係者への働きかけを行うため訪米。


2.米国の気候変動政策に関する環境大臣談話

平成13年3月29日

  1. 最近公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3次評価報告書にもあるように、地球温暖化問題は将来の問題ではなく、世界各国が協力して直ちに取り組むべき喫緊の課題であります。

  2. 今般、ホワイトハウス及び国務省の報道官による記者会見において、ブッシュ大統領が京都議定書に反対である旨の発言があったことについて、私は大変憂慮しています。地球規模での気候変動問題への取組において、京都議定書は現在唯一の選択肢であり、京都議定書を放棄することは、過去10年間にわたる我々の努力を大きく後退させることになります。私としては、ブッシュ政権が京都議定書の重要性を理解し、その発効に向けた第6回締約国会議の再開会合において、我が国を始めとする関係国との合意形成に積極的に参加することを心から希望するものであります。

  3. また、今回の報道官の発言にもありますように、ブッシュ政権は現在、気候変動問題についての閣僚レベルの検討作業を進めているところであり、その結果を踏まえ、友好国、同盟国と協力しつつ、国際的なプロセスを通じて、気候変動問題の解決に向けた取組を行いたい意向であると理解しております。

  4. 私としては、京都議定書の2002年発効を目指して全力で取り組んでいく方針に変わりはなく、世界の温室効果ガスの排出量のうち、約4分の1を占める米国が、京都議定書の重要性を理解し、本年7月に開催される第6回締約国会議の再開会合の成功に向けて前向きに対応されるよう、あらゆる機会をとらえて、引き続き働きかけを行ってまいりたいと考えております。


3.気候変動枠組条約交渉に関する
森総理発ブッシュ米国大統領宛書簡の発出

平成13年3月30日

 日本時間3月29日未明(ワシントン時間28日)、米国ホワイトハウス及び国務省スポークスマンが、ブッシュ大統領は京都議定書を支持しないとの立場を表明したことにつき、日本時間30日、森総理よりブッシュ大統領に書簡を発出した(書簡は30日朝(ワシントン時間29日夕刻)、先方に転達した)。
 書簡の骨子は次のとおり。

  • 米国は京都議定書を支持しないとの立場を表明したが、こうした動きが気候変動交渉に与える影響を強く懸念している。
  • 米国が第6回締約国会議(COP6)再開会合(7月、於:ボン)に参加し、我が国と共に合意を模索することを希望する。
  • 地球温暖化という国際社会の重大な課題に対し、米国が強力なリーダーシップを発揮することを期待する。
  • 日米両国が引き続き京都議定書の発効をはじめとする地球環境問題に対して効果的に協力していくことを希望する。


4.政府代表団の訪米について(概要と評価)

平成13年4月6日
日本国政府代表団

概要
  1. 日本国政府代表団(荒木清寛外務副大臣(団長)、西川太一郎経済産業大臣政務官、熊谷市雄環境大臣政務官他)は、ブッシュ米大統領による京都議定書の不支持表明を受けて、米国政府高官や関係議員に対し、我が国の考えを直接伝達するべく、4月4日から6日の日程で急遽訪米した。なお、米国においては、自見庄三郎衆議院議員を団長とする与党代表団と行動をともにした。

  2. 政府代表団は、米政府高官として、5日にウイットマン米環境保護庁長官(エドソン国際経済担当次席大統領補佐官が同席)、6日にアーミテージ国務副長官と会談を行った。その他、オルバー下院議員(民主党)、ノレンバーグ下院議員(共和党)、センセンブレナー下院議員(共和党)と会談を行った。

会談の内容
  1. 政府関係者との両会談を通じて、代表団側より米国の京都議定書に対する不支持表明が気候変動に関する国際的な取り組みに与える影響を強く懸念していることを伝えた。また、現在、気候変動枠組み条約から10年かけて京都議定書の発効を目指している重要な局面にあり、京都議定書を放棄することは地球温暖化に対する国際的な努力を大きく後退させることとなることを訴えた。我が国は深刻な経済情勢の中でも、政府と民間が一体となって懸命に気候変動問題への取り組みを実施していることを主張し、米国に一層の努力を促した。そして、米国が引き続き京都議定書の発効に向けた交渉に参加して、我が国とともに積極的に合意を模索するよう強く希望する旨申し入れた。

  2. これに対して、米政府よりは、代表団の申入れをよく理解したとして、ブッシュ大統領にこれを伝えると述べた。また、ブッシュ大統領は、地球温暖化問題の重要性は十分に認識しているものの、京都議定書とは違う方法により取り組むべきと考えると述べた。米国の京都議定書に対する懸念としては、途上国が参加しないこと、米国経済に被害を与えること、現下の米国内のエネルギー危機に対処しなければならないことをあげた。

  3. 代表団より、米国の今後の対応ぶりについては、我が国と十分協議してもらいたいと要請したのに対して、米国は、現在、米政権内で行われている気候変動政策の見直しについては、COP6再開会合までに作業を完了することを目指して努力しており、見直し作業完了後、具体案につき我が国をはじめとする友好国と必ず協議する考えであると述べた。また、米国はCOP6再開会合には必ず出席すると述べた。

評価
  1. 今回の訪米により、米国の京都議定書不支持の立場表明に対して我が国が強い懸念を有していることを、米政府高官を通じてブッシュ大統領に伝えることができたと考える。

  2. 政府としては、7月のCOP6再開会合において、米が京都議定書の発効を目指した交渉に積極的に参加するよう、今後とも関係国と連絡しつつ、引き続き米国への働きかけに全力を尽くす考えである。


(参考)

政府・与党代表団の訪米について

平成13年4月6日

 日本国政府・与党代表団は、4月4日から4月6日の日程で訪米し、米国政府要人及び米国国会議員と、ブッシュ大統領による京都議定書の不支持表明に関して、我が国の考えを伝えるとともに意見交換を行った。

与党側メンバー
 自見庄三郎(与党側団長)(自民党)
 大木浩(自民党)
 田端正広(公明党)
 松浪健四郎(保守党)

政府側メンバー
 荒木清寛外務副大臣(政府側団長)
 熊谷市雄環境大臣政務官
 西川太一郎経済産業大臣政務官
 朝海地球環境問題等担当大使
 大森農林水産省技術総括審議官
 長尾経済産業大臣官房審議官
 竹本環境大臣官房参事官 他

主な面談相手
 ウィットマン環境保護庁長官
 アーミテージ国務副長官
 エドソン国際経済担当次席大統領補佐官
 オルバー下院議員
 ノレンバーグ下院議員
 センセンブレナー下院議員


5.気候変動に関する川口環境大臣ステートメント

平成13年4月9日


 本日、私は、ラーションスウェーデン環境大臣並びにベルギー及び欧州委員会の代表と会談しました。会談は、友好的に生産的な意見交換が行うことができ、有意義でありました。会議では、まず私から、このたびEUが主要国を歴訪されるなど、国際交渉の進展に向け積極的に努力されていることに感謝しました。

 会談において、EU側と私は次の点で一致しました。第一に、米国の京都議定書に対する不支持について、日・EUが懸念を共有すること、第二に、IPCCの第3次評価報告書によれば気候変動は喫緊の課題であり、先進国が率先して行動する責任を有すること、第三に、京都議定書には、費用効果的な対策の実施を可能とし、経済的機会を創出する手法が既に盛り込まれていること、第四に、日・EUともに、10年に亘る国際社会の努力の成果である京都議定書の2002年までの発効を目指すことは変わりがないこと、第五に、日・EUともに、米国の参加が、実効ある議定書の実施を確保するとともに、地球規模の行動を今後強化していく上で極めて重要であり、米国に対する働きかけを引き続き行なうこと、第六に、日本とEUとの間で今後とも密接な連絡をとることであります。

 さらに、私から、我が国は、京都議定書の目標達成に必要な国内制度の構築のための準備を行っている旨述べました。また、米国の立場表明に関連して、我が国が以下の働きかけを行ったことをEU側に伝えました。

 まず、第一に、米国への直接の働きかけとして、森総理がブッシュ大統領に書簡を出すと共に、各閣僚レベルでも書簡や談話の発表などで米国への働きかけを行ったこと、第二に、先週には政府及び与党の代表団が訪米し、米政府及び国会議員に要請を行ったこと、第三に、先週、アンブレラグループの同僚と電話で会談し、今後もアンブレラグループとして協力することが重要であることで一致したこと、米国に対して、京都議定書が今後の議論のベースであること、レビューの結果に期待することを伝えたこと、第四に、日中韓の環境大臣が、第三回三カ国大臣会合を行い、昨日発表した共同コミュニケにおいて、米国政府が、京都議定書の早期発効のために、COP6再開会合の成功に向けて全ての締約国と積極的に協力することを希望する旨表明したことであります。

 いずれにせよ、我が国は、各国と連携しながら米国への働きかけを引き続き行うとともに、COP6再開会合において各国の京都議定書の締結が可能となるような合意を得るべく積極的に交渉に参加していくこととしています。



6.第151回国会 参議院 環境委員会
米国の京都議定書への対応に関する我が国の取組についての環境大臣報告


 本日は、米国の京都議定書への対応に関する我が国の取組について、簡潔に御報告いたします。

 ブッシュ政権は、京都議定書を支持しないとの立場を表明していますが、気候変動問題への対応について引き続き、閣僚レベルでの検討作業を行っている段階であり、国際交渉への態度も決まっていない状況と聞いています。世界の二酸化炭素の約四分の一を排出する米国が参加しなければ、実効ある京都議定書の実施を確保するとともに、地球温暖化の防止を図ることは困難になり、また、将来の途上国の参加も困難になると考えられます。したがって、米国が京都議定書を締結することは、極めて重要であり、種々の機会をとらえて、米国が京都議定書の重要性を理解し、COP6再開会合の成功に向け前向きに対応するよう、働きかけを行っているところです。

 具体的には、先月三十日に、森総理からブッシュ大統領に対して書簡を発出し、京都議定書を支持しないとの立場の表明が気候変動交渉に与える影響を強く懸念していること、京都議定書の発効に向けた日米両国間の協力を希望することを伝えていただきました。

 また、私からは、ブッシュ大統領からヘーゲル議員らへの書簡が出された直後の三月十五日にホイットマン環境保護庁長官に対して、ブッシュ政権の中で、米国の交渉スタンスをより積極的なものとするためのイニシアティブをとることを希望するとの書簡を出すとともに、二十九日に「環境大臣談話」を発表し、米国がCOP6再開会合の成功に向けて前向きに対応するよう求めたところです。河野外務大臣も、同日、我が国とともに積極的に合意を模索することを強く希望するとの談話を発表しています。
 
 さらに、四月四日から、熊谷環境大臣政務官を与党・政府代表団の一員として米国に派遣しました。
 与党・政府代表団は、ホイットマン環境保護庁長官、アーミテージ国務副長官らと会談し、米国の立場の表明が国際的な取組に与える影響を強く懸念していることを伝え、米国が京都議定書の発効に向けた交渉に参加して、我が国とともに積極的に合意を模索するよう強く希望する旨を申し入れました。また、米国の今後の対応ぶりについて、我が国とも十分協議するよう要請いたしました。

 米国への働きかけについては、他の関係国との協力も重要です。四月七日から八日にかけて行なわれた第三回日中韓三カ国環境大臣会合においては、三大臣は、京都議定書を早期に発効させるためCOP6再開会合の成功が必要であり、米国政府が全ての締約国とともに積極的に取り組むことを強く希望する旨を記述した共同声明を発表しました。

 また、昨日、EU訪問団との会談においては、①米国の京都議定書に対する不支持表明について懸念を共有すること、②2002年までの京都議定書の発効を目指すことには変わりがないこと、③米国の参加が重要であり、米国に対する働きかけを引き続き行うことなどについて意見の一致を見ました。

 これまでのところ、我が国を始めとする各国からの強い働きかけにもかかわらず、ブッシュ政権の京都議定書への反対姿勢は変わっていませんが、我が国としては、今後も、あらゆる機会をとらえて、米国が京都議定書の発効に向けた交渉に前向きに参加するよう、引き続き強力に働きかけを行いたいと考えています。

 いずれにせよ、我が国としては、京都議定書の2002年までの発効を目指す方針には変わりなく、七月に予定されるCOP6再開会合において、各国が京都議定書を締結可能なものとするための合意を得るべく、引き続き積極的に交渉に参加することとしています。また、我が国自身が京都議定書を2002年までに締結できるよう、COP6再開会合での合意を踏まえ、関係省庁と連携しつつ締結に必要な国内制度の構築に全力で取り組んでまいります。

 吉川委員長を始め委員各位におかれましても、地球温暖化対策の一層の推進のため、今後とも御支援・御協力を賜りますようお願い申し上げます。