第3期クロスオーバー研究の進捗状況報告について
平 成 1 3 年 3 月 5 日
クロスオーバー研究交流委員会
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1.クロスオーバー研究とは
昭和62年6月に策定された原子力研究開発利用長期計画(以下「長期計画」という。)において、創造的科学技術の育成が基本目標の一つとして掲げられた。その中では基礎研究の充実、先導的プロジェクト等の効率的推進とともに、原子力技術の先進国として、既存の原子力技術にブレークスルーを引き起こし、基礎研究とプロジェクト開発を結びつける基盤技術開発の重点的推進を図ることが提言された。これを受け、昭和62年9月に原子力委員会基盤技術推進専門部会(以下「基盤部会」という。)が設置され、この下で原子力基盤技術の研究が推進されてきた。
このうちで、特に複数の研究機関のポテンシャルを結集し、研究機関間の積極的な交流で研究開発を推進する必要がある研究を原子力基盤クロスオーバー研究(以下「クロスオーバー研究」という。)と名付け、平成元年度から開始された。このクロスオーバー研究は第1期(平成5年度まで)、第2期(平成6年度〜10年度)を経て現在、第3期(平成11年度〜15年度)に入っている。
クロスオーバー研究は国立試験研究機関、特殊法人等が連携・協力した相乗効果で研究開発を効率的に推進し、開発された研究成果を産業や社会を含めた他分野に波及することを目的とした制度である。このような研究制度の下に各研究機関が連携をとり、同じ研究課題を効率的・効果的に推進するシステムを創設した。具体的には、基盤部会の下部組織である「研究推進会議」と、その下に設けられる5技術領域、8研究テーマ(原子力委員会により選定)のそれぞれに対応した8つの「研究交流委員会」から構成され、運営されている。
なお、平成12年度の進捗状況については、研究推進会議が基盤部会の廃止に伴い廃止されたことから、参加研究機関等による自主的会合であるクロスオーバー研究交流委員会が聴取したものである。
2.平成12年度の進捗状況について
(1)放射線障害修復研究
放射線突然変異の検出・解析やその変異誘発機構の解明を行い、放射線による傷害の修復・回復機構を明らかにすることを目的とする。具体的には、放射線による損傷部位のナノレベルでの検出からその修復及び突然変異を誘発する一連の過程を解析するとともに、シミュレーション計算に基づき放射線と生体高分子の基礎作用過程の理論的裏付けを行ない、最新のナノレベル画像システムなどを用いてDNAと修復に関与する因子の相互作用を確認する可視化システムの開発研究を行う。
平成12年度の研究成果
- 修復促進や変異抑制に関与する因子について検討し、DNA2本鎖切断端の再結合反応の促進法を見いだした。
- 正常株では放射線によって新しい遺伝子が誘導され修復反応が起こるが、誘導が起こらない放射線高感受性を持つ変異株を見いだし、その原因を明らかにした。
- 低エネルギー光子吸収によるDNA鎖の切断モデルを計算コードに組み込み、シミュレーション計算した。
- DNA損傷部位と突然変異誘発部位を原子力間顕微鏡によって可視化した。
(2)生体圏核種移行研究
土壌生態圏が放射性核種や重金属等に汚染された場合には、その環境影響を迅速に評価し、必要であれば環境修復等の適切な措置をとらねばならない。土壌生態圏における放射性核種等の挙動を明らかにする必要があるが、その物理的、化学的存在形態等様々な条件によって挙動が異なる。本研究では、土壌生態圏に放出された放射性核種濃度の時間的、空間的変化を予測できる動的解析モデルの開発を目指し、土壌生態圏に焦点を絞って、その中における放射性核種の挙動を対象としている。
平成12年度の研究成果
- 土壌/農作物系に対する放射性核種の動的解析モデルを開発した。
- トマトの核種取り込みの及ぼす非病原性菌の影響を解析した。
- 植物/微生物系における根圏微生物の安定性について検討した。
- 地上部への微量元素配分に及ぼす根圏温度の影響を明らかにした。
- 実環境試料を用い、放射線同位元素の存在形態と移行挙動を検討した。
- 採取した降水と降下塵を分析した。
(3)陽電子ビーム利用技術研究
高品位陽電子ビームを活用し、物質最表面の構造・状態、高温・応力などの極限環境での構造変化・欠陥挙動、材料表面の電子スピン構造などの物性研究に応用して、材料科学分野で新たな知見を得るための技術開発を行う。さらに、材料の機能と微視的構造との相関を明らかにする。
平成12年度の研究成果
- シングルパルス形成に関する技術の検討を行い、計測システムを整備した。
- スピン偏極低速用電子ビームのシミュレーションと装置設計を進めた。
- 陽電子寿命・運動量相関測定系を整備し、高計数率での測定に成功した。
- 半導体や金属の測定を行い、材料評価への応用を推進した。
(4)マルチトレーサー研究
理化学研究所が開発したマルチトレーサー法は、生物学、医学、環境科学、化学、材料科学の研究に画期的なブレークスルーを与えた。このマルチトレーサー製造技術を高度化し「次世代マルチトレーサー技術」を開発する。特に、マルチトレーサーの自動分離装置、及びマルチトレーサーの動きを画像化するMT-GEI(複数核種同時ガンマ線イメージング装置:Multitracer γ-ray Emission Imaging)装置を創出する。
平成12年度の研究成果
- マルチトレーサーの供給を可能とした。
- 新規マルチトレーサーの生成量に関する基礎データを得た。
- 液体膜法、溶媒抽出法、イオン交換法による化学分離を検討した。
- 複数核種同時ガンマ線イメージング装置のプロトタイプを開発した。
(5)アト秒パルスレーザー研究
原子・分子の内殻電子励起、自動電離、分子解離などはフェムト秒(10-12s)からアト秒(10-15s)の極短時間に起こる超高速現象であり、それらの直接的な観測が実現されると素過程の解明のみならず、電子の高励起状態や高速緩和に関わる固体材料・構造物の特性変化、機能低下を解析することが可能となる。また、その能動的な制御は新材料・素材の創成に繋がるものと期待される。本研究では、アト秒パルスの発生および計測のための技術開発を行うとともに、超高速現象を把握するための先端計測技術を開発し、広範な分野での利用を推進することを目的とする。
平成12年度の研究成果
- 高調波発生用の励起光源を開発し、パルス幅計測を検討した。
- 電子線照射により、C60の破壊とSiクラスターの電子状態の解析を行った。
- 位相計測技術を開発し、光源の検討・準備を行った。
(6)原子力用材料研究
原子力プラントの高度化では、放射線作用と物理的・化学的な腐食・侵食作用を受ける複合環境間の傾斜ポテンシャル場で長期供用される圧力バウンダリー材料の開発が、最重要課題の一つとなっている。そのため、本研究では開発材、及び、その場解析等の開発手法について、ホットを含む実環境模擬条件における適応性を評価して、実用技術としての最適化を図り、実用化に必要な特性データを整備することを目的とする。
平成12年度の研究成果
- 金属系複合材料の耐食性を改善し、適応性評価試験を行った。
- セラミックス系複合材料の緻密化に成功した。
- 高温水複合環境モニタリング用の固体センサー作成条件を明らかにし、実用性を評価した。
- 高分子系複合材料を開発し、酸素透過性を評価した。
- 材料固体中の欠陥生成、界面構造評価を行うため、フェムト秒パルスレーザーによる超高速解析技術の適用を検討した。
(7)ソフト系科学技術
プラントの点検等の情報を、様々なセンサや多数の移動ロボットによって柔軟に収集するとともに、プラント状態をデジタル化し、情報場としてVR空間に保持し、プラントメンテナンスのための情報を、欲しい時に、欲しい場所で、欲しい人に、欲しい内容を、欲しい形で自由に利用可能にするための知能化技術の開発を行う。これを、人間と共存する次世代プラントの基盤とし、オンラインメンテナンスの拡大、保守の高度化・省力化さらにはプラントの安全性の向上、長寿命化を図る。
平成12年度の研究成果
- プラントの劣化予測を行うシステムを提案し、作業改善の手法を開発した。
- ロボット個体および群としての適応性実現のための基礎技術、応用事例を開発した。
- プラント保全情報場と運転員とのインターフェースシステムの基本設計を行った。
- 移動ロボットの自己位置推定アルゴリズムを3次元に拡張し、有用性を確認した。
(8)計算科学技術研究
原子炉の高経年化に関する原子力機器の健全性の問題に対して、並列計算機を用いた大規模数値シミュレーション等の計算科学的手法を積極的に活用し、ミクロからマクロのマルチスケールの観点から材料、熱・流動・構造、及びマルチスケール計算技術の研究を行う。原子力機器の経年変化に関連した照射材料及び熱・流動・構造の基本的問題の計算科学的手法による解明、ミクロ、メソ、マクロ領域に対応した数値シミュレーション及び数値モデリング手法の開発、マルチスケールに対応したクラスタコンピューティング高性能化技術開発の三領域の研究を実施する。
平成12年度の研究成果
- PWR蒸気発生器中の振動発生機構のモデル化を行い、熱流体コードを開発した。
- 材料欠陥発生の計算コードを開発しクリープ、亀裂成長の解析を行った。
- 結晶中における転移分裂過程の計算により、平衡状態への高速な収束を実現した。
- マルチスケール計算環境の構築を整備し、大容量データの分散保有における同時処理の可能性を検討した。