IPCC第3次評価報告書について
環境省地球環境局研究調査室
1. 作成の経緯等
- 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、気候変動に関する最新の科学的知見をとりまとめた評価報告書を、これまでに2回発表しており、今回の第3次評価報告書については、2001年4月の公表に向けて、各作業部会で検討を行ってきた。
- 第1作業部会報告書は、気候変動の科学的知見をとりまとめたもので、本年 1月17日から20日にかけて上海で開催された第1作業部会会合において承認された。
- 第2作業部会報告書は、気候変化の影響に対する自然・人間システムの感受性、適応力、脆弱性についての評価をとりまとめたもので、本年2月13日から16日にかけて、ジュネーブで開催された第2作業部会会合において承認された。
- 第3作業部会報告書は、温暖化への対策についての評価をとりまとめたもので、本年2月28日から3月3日にかけて、ガーナ・アクラで開催された第3作業部会会合において承認された。
- また、これら3つの作業部会報告書は、本年4月4日から6日にかけて、ケニア・ナイロビで開催されたIPCC総会において最終的に承認された。
2. 第3作業部会報告書の概要
(1)気候変化の緩和への挑戦
- 気候変化の緩和は、開発、公平性、持続可能性に関連するような幅広い社会・経済政策とトレンドに影響を受け、また影響を与えている。気候変化の緩和は、より幅広い社会的な目的と相まった場合、持続可能な発展の促進に役立つ可能性がある。
- 21世紀中において石油、石炭、天然ガスの枯渇によって炭素排出量が制限されることはない。ただし、既存の石油及び天然ガスの埋蔵量は限定されているため、21世紀中にエネルギー構成の変化が起きる可能性がある。
(2)温室効果ガスの排出を制限または削減し、吸収を増大させる方策
- 技術面では大きな進展がみられており、これらを積み上げると全世界の排出レベルを2010〜2020年において2000年の水準以下にできる潜在的可能性がある。例えば、風力発電や効率的なハイブリッドエンジン車の市場参入、燃料電池技術の進歩、CO2の地下貯蔵実証試験等が実施されている。ただし、これらの削減を実施するためには、実施のためのコスト、支援策、研究・開発の促進が必要である。また、これら結論は、種々の仮定と相当程度の不確実性を含んでいる。
- 排出削減のためのオプションとしては、天然ガス、コージェネレーション、バイオマス燃料発電、ゴミ発電、原子力発電などが挙げられている。
- 森林、農耕地その他の陸上生態系システムは、大きな緩和ポテンシャルを有している。これは必ずしも永続的なものではないが、炭素ストックの保全及びCO2の吸収により、他の対策をさらに開発し、実施する時間的猶予が得られる。生物的な緩和オプションの可能性は、2050年までにおおむね100GtC(累積)規模と推定され、この期間での化石燃料による排出量予測値の10〜20%に相当する。このオプションは、適切に実施されれば、大気中のCO2削減に加え、生物多様性の保全、持続可能な土地管理、地方における雇用等の社会的・経済的・環境的な便益を併せ持つ可能性がある。一方、実施方法が不適切な場合、生物多様性の喪失、共同体の崩壊、地下水汚染等を引き起こす可能性もある。
- 大部分のモデルによると、既知の技術的オプションにより、例えば、おおむね100年後には大気中のCO2濃度を450、550ppmあるいはそれ以下で安定化できる可能性がある。ただし、その実施には関連する社会経済的及び制度的な変革が必要となる。
(3)緩和行動のコストと補足的便益
- ノーリグレット(後悔しない)方策(すなわち、気候変化の緩和を除く、エネルギーコストの削減等の利益が社会的なコストと等しいか上回るような方策)をどの程度活用できるかによって、温室効果ガス排出を、正味の社会的コストをかけずに制限することが可能である。
- 京都議定書実施の推計コストは、研究により、また地域により異なっており、京都メカニズムの活用等に関する仮定の置き方に大きく依存する。国際的エネルギー・経済モデルを用いた研究によると、次のようなGDPへの影響が示唆されている。
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[附属書II諸国(先進国)]
- 世界的な研究の大半において、排出量取引が行われない場合、2010年におけるGDPの損失をそれぞれの附属書 II地域で約0.2〜2%と予測している。排出量取引が自由に行われる場合、2010年における損失は、GDPの0.1〜1.1%と予測されている。これらの研究には、広範囲な仮定条件が含まれており、また、個別の国・地域においては、予測値の幅がさらに大きくなる可能性がある。
全地球規模のモデル研究によると、京都議定書の削減目標を達成するための国内での限界削減コストは、排出量取引なしの場合では約20〜600米ドル/tC、附属書B諸国間の排出量取引ありの場合、約15〜150米ドル/tCと報告されている。
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[経済移行国]
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大部分の国において、GDPへの影響は、無視できる程度から数%の増加までの幅がある。一部の国においては、エネルギー効率が劇的に向上し、また不況が継続するという仮定のもとで、割当量が推定排出量を上回る可能性がある。
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- 長期的な費用対効果の研究によると、安定化の濃度レベルが750ppmから550ppmまでの間はコストの上昇は緩やかであるが、550ppmから450ppmの間で大幅なコストの上昇が起きる。ただし、上記の研究においては、炭素吸収、CO2以外の温室効果ガス等の影響は考慮されていない。
(4)気候変化の緩和方策
- 温室効果ガスの緩和方策を成功裡に実施するには、多くの技術的、経済的、政治的、文化的、社会的、行動上、制度上の障害を克服する必要がある。
- 気候変化に対する各国の総合的政策手法に含まれる可能性のあるものには、排出・炭素・エネルギー税、取引可能または取引不可能な排出枠、助成の供与または廃止、デポジット制度、技術または実施基準、エネルギーミックス、製品の禁止、自主協定、政府の投融資、研究開発援助等がある。
- 気候政策をそれ以外の目的の国内政策と統合し、長期的な社会的・技術的変化の達成に向けた、幅広い移行戦略として再構築することによって、気候変化緩和の効果を増すことができる。
- 国際的な協調活動は、緩和コストの低減を助け、競争力に関する懸念、国際的な貿易ルールへの抵触の可能性、カーボンリーケージに対応する上で重要である。これには、京都議定書に基づく排出量取引(ET)、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)に加え、協調的な排出・炭素・エネルギー税、技術・製品基準、産業界との自主協定、資金や技術の直接的な移転等が含まれる。
- 本報告書は、排出緩和、技術開発、科学的な不確実性の低減などの行動を早期に実施することにより、温室効果ガスの大気濃度安定化へ向けてより柔軟な取組が可能となるという第2次評価報告書の結論を再確認している。
- 国際的な枠組みにおける環境上の有効性、気候政策の費用効率性、合意の公平性の3つは相互に密接に関連しており、枠組みの構築に当たっては、効率性と公平性の両方を向上させるように設計することが重要である。国際的な枠組みに関する共同体制の構築に関する文献によると、適切な努力分担とインセンティブの付与を通じて、気候変化に関する枠組みへの参加をより魅力あるものにするかという点を含め、これらの目的を達成するためのいくつかの戦略が提示されている。
(5)知識のギャップ
- 前回の評価に比べ、気候変化緩和の科学・技術・環境・経済・社会的側面において進歩がみられた。将来予測を強化し、不確実性を減少させるため、途上国も含め、さらなる研究が必要とされている。現在の知見と政策決定者のニーズのギャップを縮めるために優先的に取り組むべき課題は次のとおりである。
- 技術的・社会的な改革オプションの地域別、国別、部門別ポテンシャルのさらなる探求
- すべての国における気候変化の緩和に関係する経済的、社会的、制度的な問題
- 特に結果の比較可能性に留意した、緩和施策の潜在的可能性とそのコストの分析手法
気候緩和オプションの、開発、持続可能性、公平性の観点からの評価