第3回JNC原子力平和利用国際フォーラム
-原子力平和利用技術と国際貢献-
概要報告
特別講演
「新しい世紀における原子力平和利用の国際的取り組みについて」
下山 俊次 (日本原子力発電(株)最高顧問)
「原子力研究開発利用長期計画」の策定に際し、第6分科会は「新しい視点に立った国際的展開」という命題のもとに議論をまとめた。新しい国際展開を目指すためには、国際情勢を正しく把握した後に、進めなければならない。日本は核軍備の疑念を他の国から持たれることがあるが、日本が核武装の意志のないことを、国際的に行動と態度で示す必要がある。その大きな要素として、透明性の向上はきわめて重要である。
アジアにおける原子力利用の国際協力を考える際には、アジアの国々が極めて多様性を持っているということを認識しなければならない。アジア諸国との協力は、国が環境整備を行い、技術的協力は民間ベースで行うことにより進むと考える。日本が核兵器廃絶、核不拡散への取組みを真剣に行っていることを世界に積極的に発信していくことが重要である。
セッションⅠ
「新たなサイクル概念と核不拡散性」
座長:辻野 毅((財)核物質管理センター理事)
[基調講演]: | 野田 宏(JNC経営企画本部FBRサイクル開発推進部長)
小島 久雄(JNC同燃料サイクルシステムGL)
堀 敬一郎(JNC国際・核物質管理部保障措置GL)
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[パネル討論]: | Byong Whi LEE(韓国科学技術院名誉教授)
松井 一秋((財)エネルギ総合工学研究所プロジェクト試験研究部長) |
JNCによる基調講演では、高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究の概要とその中での核不拡散性の確保についての検討、さらに核燃料サイクルの核拡散抵抗性を評価するための試みが報告された。
小講演において、韓国の原子力の現状と計画および核不拡散の活動状況、米国のTOPS研究における核不拡散性の捉え方についての報告が行われた。
パネル討論では、核不拡散性と他の開発目標とのバランスを取ることが研究課題であるが、中性子経済に優れる高速増殖炉の特徴を低除染燃料の採用等で利用し、バランスのよいシステムを開発することの重要性が議論された。また、DUPICシステムの開発を含む将来炉に関する韓国の開発計画も議論がなされた。
パネル討論では、核拡散抵抗性評価について国際協力を進めるには、何をやるのか、何ができるのかを考え、国益やスタンスを明確にすべきであること。また核拡散抵抗性の評価については、研究開発や保障措置制度に評価結果を反映するために実際の設計データを用いて検討を実施すべきである、との意見が出された。会場からは、核拡散抵抗性に関して先進国以外も含む幅広い国々の間でコンセンサスを形成するために議論すべきであるといった意見、70年代に実施したINFCE研究以降、技術革新が進んだころから様々なシステムの核不拡散性についての検討の必要性、またIAEAが進めている核拡散抵抗性に関する国際的検討の内容が議論された。
イブニング・セッション
「国際的信頼醸成のための情報発信はどうあるべきか」
司会:水城 幾雄(JNC国際・核物質管理部次長)
話題提供者:吉田 文彦(朝日新聞社論説委員)
パネリスト:若手研究者等9名
討論は、セッションテーマを1)なぜ日本の原子力平和利用に誤解が生じるのか、2)核拡散を防ぐための技術開発は国際的信頼醸成にどこまで有効か、3)情報発信と世論について、といった観点から議論を行った。以下のような議論がなされた。
- 日本の核武装など思いもよらないという考え方が日本人の中では一般的であるが、他国は必ずしもそうは思っていない。日本人が核武装の可能性なしとする根拠として、広島、長崎の実体験に基づく心情論や非核3原則等の法的縛りをたびたび挙げるが、他国には、それらの根拠はほとんど説得力をもたない。
- 「疑う」、「怖がる」が人間の本質。そのためにNPTやCTBTなどの国際協定があるのだが、簡単に破られる可能性がある。しかし、2国間協定はNPTなどの多国間協定とは異なり破りにくい協定である。
- 核武装に関する日本の「意図」と「能力」について、能力はあると考えるのが妥当であろう。意図はない。しかし、意図がないことを他国に示すことは難しい。
- IAEAに協力して核物質の計量管理は非常に厳密にやっている。したがって、核兵器製造は物理的に不可能である。その状況が一般に知られていないことから誤解が生ずる。
- 日本が疑いを受けるのは北朝鮮や中国に隣接している状況と無関係ではない。
- 情報発信に関しては公開と機微情報のバランスを十分取る必要がある。発信者と受け手の立場を考慮して情報の質を適切に選ぶことが重要である。
- 核兵器を保有する利益と不利益を十分に考え、日本にとっては不利益であるという論理を確立して世界に示していくべきである。
セッションⅡ
「技術手段による原子力平和利用の透明性向上への取り組み」
座長: 武黒 一郎 電力中央研究所原燃サイクル部長
[基調講演]: | 岩永 雅之(JNC国際・核物質管理部部長)
橋本 裕(JNC大洗工学センター照射管理課技術主幹)
久保 稔(JNC広報部長)
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[パネル討論]: | John Olsen(米国SNL/CMSシニア技術スタッフ)
Michel Jamard(仏国COGEMA社 広報部長)
藤巻 和範(日本原燃㈱ 保障措置部長)
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JNCによる基調講演では、安全性、環境への負担及び不拡散の観点から、社会あるいは国際的に信頼を得るための透明性の向上が重要であること、遠隔監視、インターネット等の技術的革新が進む技術手段による透明性向上に対する基本的な考え方が紹介された。高速実験炉「常陽」で研究している遠隔監視システムの実演に続いて、JNCの情報公開活動の現状とインターネットを活用した映像情報を活用する今後の計画が報告された。
小講演では、米国の具体的なセンサーシステムの紹介があり、遠隔監視装置は不正なアクセスができないよう、またインターネットではハッカーからシステムを守ることが重要であること、仏国からは、コジェマ社のおける情報公開の現状、特に情報検索のし易さの重要性、透明性は外部だけでなく内部に対しても重要であることが強調された。国内からは六ヶ所再処理施設の保障措置に関して、IAEAや海外機関と協力し、核不拡散上の透明性を向上するための技術開発の努力が紹介された。
パネル討論では、仏国より、原子力産業自体が他の産業より厳しい目で見られているが、「隠すものは何もない」ことが基本であることの重要性が述べられた。米国からは、ウェブ・リンクを国際的なレベルで整備し、各国の情報を閲覧できる例が紹介された。国内からは、欧米に比べて我が国におけるリスク・コミュニケーションの検討が不足していること、技術的な観点からの透明性の向上には、常に日進月歩の技術の反映が重要であること、透明性向上の一方で核不拡散などの観点から公開できない情報と情報公開をいかにバランスを保っていくかの議論がなされた。
セッションⅢ
「余剰核兵器解体プルトニウム処分技術開発への国際協力」
座長: 鈴木 篤之(東京大学大学院教授)
基調講演: | 大和 愛司(JNC理事)
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パネル討論: | Evgeny Kudryavtsev (露国 原子力省核燃料サイクル部長)
Thomas Shea(IAEA保障措置局3国間イニシアティブ室長)
西野 文雄(政策研究院大学 教授)
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JNCによる基調講演では、JNCが進める協力の現況が報告された。本計画は振動充填法で製造したMOX燃料をロシアの高速炉BN-600に装荷しプルトニウムを燃焼させるもので、計画とおり進めば、フルMOX炉心で20年間運転する前提で、20トンのプルトニウムが処分できることになっている。計画はフェーズ0,1,2と段階的に行われることになっており、現在は準備段階(フェーズ0)であり、BFS-2での臨界実験、実際に兵器級プルトニウムを用いて製造した3体のMOX燃料の製造、BN-600での照射等がほぼ計画どおりに行われている。
米国は、サバンナリバーサイト他に3カ所の処分施設を置くこととしていること、米露両国の首脳が余剰兵器プルトニウム処分に関する二国間協定に署名したことが、昨年度の大きな成果として報告された他、国際協力の現状についての紹介がなされた。露国からは、BN-600オプション以外にVVER-1000等の利用も視野に入れた処分計画の全容、日本との協力に関する現状と期待等が述べられた。IAEAからは余剰兵器プルトニウム処分についての検認方策に関して米露と進めている協議について報告がなされた。また、日本から余剰兵器プルトニウム処分は基本的には米・ロが責任をもって解決すべき問題であること、国際協力の実状に照らして、20年という期間は長すぎること、国際監視の下で原子炉を用いてプルトニウムを有効利用する形で処分することは望ましい方策であること等の発言がなされた。
パネル討論では、BN-600の安全性評価に関して第三国の専門家の貢献に期待したいこと、透明性の確保には第三国の関与が重要であること、処分の期間を短縮するために第三国の炉を使う可能性等が議論された。プルトニウム処分に数十年かかるならトリウムサイクルを真剣に検討すべきとの意見や、BN-600の寿命延長に関して許認可上及び技術上の問題についての議論、また、プルトニウム処分を促進するためには、高速炉の活用が有効である等の発言がなされた。
以上