IPCC第3次評価報告書について

環境省地球環境局

1. 作成の経緯等

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、気候変動に関する最新の科学的知見をとりまとめた評価報告書を、これまでに2回発表しており、今回の第3次評価報告書については、本年(2001年)春の公表に向けて、各作業部会で検討を行ってきた。
第1作業部会報告書は、気候変動の科学的知見をとりまとめたもので、本年1月17日から20日にかけて上海で開催されたIPCC第1作業部会会合において承認された。
第2作業部会報告書は、気候変化の影響に対する自然・人間システムの感受性、適応力、脆弱性についての評価をとりまとめたもので、本年2月13日から16日にかけてジュネーブで開催されたIPCC第2作業部会会合において承認された。
第3作業部会報告書は、温暖化への対策・政治経済的側面についての評価をとりまとめたものであるが、第3作業部会総会(本年2月28日~3月3日、ガーナ・アクラ)において承認の予定。
また、これら3つの作業部会報告書は、本年4月にケニア・ナイロビで開催されるIPCC総会において最終的に承認される予定。

2. 第1作業部会報告書の概要

(1) これまでの観測結果
全球平均表面気温は、1861年以降、0.6±0.2℃上昇。
第2次評価報告書での評価より約0.15℃大きい
これは、1995年以降、高温が続いたため。
積雪面積、海氷面積の減少
20世紀における全球平均海面水位の上昇は、0.1~0.2m
第2次評価報告書では0.1~0.25m
エルニーニョ現象の頻発・長期化・強力化
変化が現れていないところもある
南極の海氷面積
熱帯・温帯低気圧の強度や頻度

(2) 気候に対する人為的影響

第2次評価報告書作成時以上に、過去50年間の温暖化の大部分が人間活動に起因しているという、新たな、かつより確実な証拠が得られた

(3) 将来予測(IPCC排出シナリオ特別報告書のSRESシナリオによる)

温室効果ガス
21世紀の終わりまでにCO2濃度540~970ppmに上昇することを予測
エアロゾル
人為的エアロゾルについては、増加・減少両方の可能性
気温
1990年から2100年までの全球平均表面気温の上昇は、1.4~5.8℃と予測(第2次評価報告書では1.0~3.5℃
第2次評価報告書からの違いの原因は、おもにSRESシナリオにおける将来の二酸化硫黄の排出の減少による、エアロゾル効果の低下。
ほとんどすべての陸地で、全球平均よりも急速に温暖化が進行。
降水量
全球平均の水蒸気と降水量は増加すると予測
異常気象現象
21世紀中に、最高気温及び最低気温の上昇、降水強度の増加、中緯度内陸部における夏期の渇水、熱帯サイクロンの強大化等が起きる可能性。
氷河と氷床
北半球の積雪と海氷範囲がさらに減少。
南極大陸西部の氷床の安定性が懸念されているが、21世紀中に、目立った海面上昇を引き起こすような氷床の消失が起きる可能性はきわめて小さい。
海面上昇
1990~2100年の海面上昇0.09~0.88mと推定。(第2次評価報告書では0.13m~0.94m、下方修正は改良モデルの採用のため)

3.第2作業部会報告書の概要
(1) 新たな見解

数々の証拠により、近年の地域的な気温の変化が多くの物理・生物システムに対して影響を及ぼしていることについての確信度は高い。
異常気象現象の変化による影響
最高気温の上昇、熱波等の増加
最低気温の上昇、寒波等の減少
豪雨の頻度の増加
夏季の干ばつの増加(中緯度大陸内陸部)
熱帯低気圧の強度、発生数の増加
気温の上昇により、あらゆる大きさの温暖化予測に対して、多くの開発途上国で正味の経済的損失が生じる。一方、先進国では、数℃の気温上昇で、経済的利益・損失両方が予測され、それ以上では損害の増加が予測される。
全球平均気温が数℃上昇するシナリオでは、世界GDPがプラスあるいはマイナス数%変化し、それ以上の温暖化では大きな損害を被る。それ以下の上昇であっても、利益を受けるより損害を被る人のほうが多いことが予測される。

(2) 自然・人間システムの影響と脆弱性
①水文・水資源

水ストレスを受ける人口は、現在の約17億人から、2025年には約50億人へと増加。
集中豪雨の増加による洪水の規模・頻度の増大。

②農業・食糧安全保障

熱帯では、一部の作物は気温が許容範囲の上限近くにあり、乾燥地帯の農業が支配的であることから、一般に気温のわずかな上昇でさえも生産量が減少する。
気温が数℃上昇した場合、全球的な食糧需要の増加に対する食糧供給の遅延が起こり、食料価格が上昇すると予測している。

③陸上・淡水生態系

植生モデル研究により、気候変化による生態系の深刻な崩壊が予測されている。

④沿岸域・海洋生態系

多くの沿岸域で、気候変化により、海水の氾濫の増加、浸食の加速化、湿地やマングローブの損失、淡水源への海水の侵入が起こることが予測される。
高緯度沿岸域では、より高い波浪エネルギーや、永久凍土の浸食に関連した追加的な影響があると予測される。
海面水温の上昇により、珊瑚礁へのストレスが増大し、病気が増加する。

⑤健康

熱波は、都市居住、特に老人や病人、空調設備のない人々の死亡率や罹病率に重大な影響を与える。
洪水の増加により、溺死、下痢や呼吸器疾患のリスクの増大、心的健康の悪化が引き起こされる。

⑥居住・エネルギー・産業

低地沿岸域の急速な都市化により、気候災害に曝される財産価値が増大する。2080年代までに海面水位が40cm上昇する場合、海面上昇がない場合に比べ、高潮により浸水を受ける年平均人口が、7500万~2億人増大。

⑦金融・保険サービス

大規模な異常気象による年あたりの経済損失は、1950年代の年間39億ドルから、1990年代の年間400億ドルへと増大(1999年USドル)。これらの損失に対する保険分配金は、同期間で無視できるレベルから年間92億ドルへと増加。

(3) 地域の脆弱性(アジア以外は省略)
アジア

開発途上国では人間システムの適応力は弱く、脆弱性は高い。先進国はより適応が可能で、脆弱性は低い。
高温、洪水、干ばつ、土壌浸食による農業生産性の減少は、乾燥、熱帯、温帯アジアの多くの国における食糧安全性を減少させる。北部地域では、農業は拡大し生産性が高まる。
乾燥、半乾燥アジアでは流出量や水利用可能性が減少する可能性があるが、北アジアでは増加する可能性がある。
一部地域では、生物媒介性疾病や熱ストレスへの曝露可能性の増大により、人間健康が危機に曝される。
海面水位の上昇と熱帯低気圧の強度の増大により、温帯及び熱帯アジアの沿岸低地に住む数千万の人々が移住することになる。降雨強度の増大は温帯及び熱帯アジアの洪水のリスクを増大させる。
土地利用、土地被覆の変化、人口増大により生物多様性への脅威が悪化する。
永久凍土地帯の南限が北へ移動することにより、インフラストラクチャーや産業に悪影響がでる。